事例報告 大和ハウス工業株式会社の高齢者雇用の取り組み
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- 菊岡 大輔
- 大和ハウス工業株式会社人事部長
- フォーラム名
- 第101回労働政策フォーラム「高齢者の多様な就労のあり方─OECD高齢者就労レビューの報告を踏まえ─」(2019年1月23日)
当社では、シニア社員が生涯にわたり、活躍できるよう、これまで段階的に制度を拡充してきました。そのなかでも特に大きな出来事だったのが、2013年の「65歳定年制」の導入と、2015年の「アクティブ・エイジング制度」の導入の二つでした。
まず、2013年の「65歳定年制」の導入についてご説明します。制度導入以前は、定年が60歳で、それ以降は65歳まで嘱託として再雇用していました。定年年齢を引き上げた背景として、一つは改正高年齢者雇用安定法への対応もありましたが、それ以上に、経験豊富なシニア社員を戦力として囲い込み、モチベーションを高い水準で維持したまま活躍してもらいたいという思いがありました。さらに当社の場合、終身型の企業年金制度を導入しているのですが、退職給付費用が増大していたことから、企業年金の「支え手」としてできるだけ長く働いてもらいたいという事情もありました。
65歳定年制を導入する以前は、4割以上の社員が定年を機に会社を去っていたのですが、導入から5年経った現在、ほぼ全員が会社に残るようになりました。
65歳定年制導入後の処遇については、図表1、2をご覧ください。制度の変更が社員にもたらすメリットとして最も大きいのは「65歳までの雇用が保障される」という点だと思います。
賞与については、従前の嘱託再雇用制度のもとでは、個人査定の結果にかかわらず、固定で年間2カ月分を支給していましたが、65歳定年制導入を機に、一般社員同様、組織業績と個人査定により変動する仕組みとしました。この変更は、シニア社員のモチベーション維持という点で大きくプラスに働いています。
賃金制度の変更により、以前は60歳以前の5~6割だった年収水準は、役職定年前の6~7割の水準にまで上がりました。
先ほど、Keese氏からは、日本の企業では「60歳以降、賃金が大きく低下してしまう点が問題ではないか」とのお話がありましたが、その点については、当社でもまだ十分ではないと認識しております。
図表1 「65歳定年制」の制度内容(1)
「不安定な雇用」から「安定的な雇用」へ
従前の「嘱託再雇用」 | 「65歳定年制」 | |
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雇用形態 | 60歳で定年後、1年更新の嘱託として再雇用(更新条件あり) | 期間の定めのない職員として処遇 |
異動 | 無い | 原則として、無い |
退職金 | 60歳定年退職時に支給(3月末定年→4月支給) |
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企業年金 | 有期雇用社員の規定にて積立 | 引き続き、職員の規定にて積立(約3倍の水準差) |
図表2 「65歳定年制」の制度内容(2)
「能力や実績が反映される処遇」、「やれば報われる制度」へ
従前の「嘱託再雇用」 | 「65歳定年制」 | |
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基本給 | 60歳到達時の「資格級」と「毎年の査定」により変動(59歳までとは別テーブル) |
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手当 | 原則、対象外 | 職員対象の手当が復活(住宅手当、単身赴任帰省旅費、職種毎のインセンティブ給 等) |
賞与 | 年間2ケ月の固定 | 一般社員と同様に、組織業績および個人査定により変動(支給率は3分の2程度) |
年収水準 | 定年前の5~6割 |
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シニア社員に期待される役割を明示
2014年には65歳定年制を改正し、役職定年後のシニア社員の役割を①理事コース、②メンターコース、③生涯現役コース(プレイヤーコース)──の3コースに分け、各人に期待される役割を明確にしました。このうち、①の理事コースは、60歳以前に部門長クラスの役職に就いていた者です。60歳到達時も役職定年の対象外となり、引き続き、部門長のポジションに残ることができ、年収も変わりません。②のメンターコースは、これまでの経験を活かして、若い社員の指導や、経営上のアドバイスを行うことが期待されるコースです。③の生涯現役コースは、プレイヤーとしての役割を期待されるコースとなります。
さらに2019年4月から「シニアマネージャーコース」が新設されました。これにより、60歳以前に課長クラスの役職に就いていた者が、60歳以降も課長のポジションに残ることができるようになりました。
役職定年後の再配置先を決定するにあたっては、60歳に到達する年度において、じっくり時間をかけて、人事部が各人の希望を聞き、本人の適性を見極めた上で、慎重に行っています。
65歳定年後の再雇用制度
2015年に65歳定年後の再雇用制度である「アクティブ・エイジング制度」を導入しました。2013年に定年を65歳に引き上げた際、「65歳以降も活躍したい」という意欲的な社員が多数いたため、彼らが引き続き活躍できる仕組みを検討した結果、導入に至りました。
この制度では、雇用上限年齢を定めておりません。再雇用の条件として、「本人の意欲があり、かつ、会社から必要とされている」ことを定めておりますが、あまり高いハードルではないので、これまで再雇用を希望した人のなかで会社側からお断りしたことは一例もありません。
処遇については、月20万円としております。「随分少なくなるんだな」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、当社の企業年金は、会社に残っている場合でも65歳以降支給となるので、それと合わせれば60歳から64歳までの収入と比べても遜色のない水準となっています。
65歳以降の勤務日数は、「地域や家庭とのつながりも増やして欲しい」との思いから、あえて週4日としておりますが、本人の希望に応じて、ある程度柔軟に設定できる仕組みとしております。
シニア活用の施策を進めることで、人件費は増えるのですが、当社では、それを「コスト」と捉えるのではなく、「投資」と考えております。シニア社員が投資に見合った活躍をしてくれることで、会社の成長につながることを期待しているので、今後も引き続き、取り組みを充実させていきたいと思います。