報告 生涯を通じたより良い働き方に向けて:日本──OECDの概要と評価・提言(日本語版)

私からは「生涯を通じた良い働き方に向けて」をテーマにお話しします。実は、これまでも同じテーマで、8カ国で提言を行ってきました。日本での提言は9カ国目となります。

まず、日本がどのような課題に直面しているかを見たうえで、「なぜ、高齢者に働いてもらうことが必要なのか」という点について、考えてみたいと思います。

課題の一つ目は労働力人口の減少です。労働力人口の推計によると、1990年代前半までは右肩上がりに増加しているのですが、1990年代後半から横ばいとなっています。さらに将来、年齢・性別の労働力率が2017年と変わらなかった場合、労働力人口は2017年から2030年までの間に800万人、2050年までの間に2,000万人減少するでしょう。

より現実的な仮定として、年齢・性別の労働市場への参入率と退出率を固定した場合、労働力人口は2030年までに450万人減少します。この場合、労働力率が変わらないとの前提による推計の減少幅よりもさらに350万人少なくなります。

仮に政府が労働者に対し、退職年齢を遅らせる政策を取った場合、どうなるかを見てみましょう。男性が1.1年、女性が0.7年、それぞれ退職年齢を遅らせた場合、労働力人口の減少をさらに240万人前後に抑制することができます。

女性の労働参加率を高めることが必要

ここで、OECD加盟国における55~74歳層の労働力率に着目してみましょう。男性高齢者の場合、すでに高い労働力を達成しており、雇用をさらに促進することは難しい状況ですが、アイスランド、チリ、韓国などに比べるとまだ低く、若干改善する余地が残っていることがわかります。一方、女性労働者の場合は、労働力を高める余地がかなり残っています(図表1)。

図表1 男性高齢者の雇用をさらに促進することは難しいものの女性高齢者に対してはその余地が残っている

グラフ:55-74歳層の労働力率, 2017と2030(上段:男性、下段:女性)

資料出所:OECD (2018), 生涯を通じたより良い働き方に向けて:日本, Paris: OECD Publishing.

25~54歳層の労働力、つまり働き盛りの年齢層における労働力を見ると、女性の場合、78%に過ぎません。ところが、他のOECD諸国の場合、90%を超えている場合が多い。したがって、日本においては、若い段階から女性の労働参加率を高めていく必要があります。しかし、女性の場合、働き続けるために様々な障壁が多いため、これをどのように払拭していくかを検討する必要があります。

二つ目の課題として、高齢期における就業状態の急激な悪化が挙げられます。図表2の年齢別の非正規雇用比率を見ると、男性の場合、55~59歳層においては約11%だったものが、60~64歳層では約50%まで上昇しています。一方、女性については、若い段階から非正規雇用比率が上昇しています。これは、結婚や出産を機に仕事を辞めざるを得ず、復帰後も非正規の仕事にしか就けないことを示しています。

図表2のフルタイムで働く男性の年齢別の収入を見ると、25~29歳層の収入を100とした場合、55~54歳層までは上昇しているのですが、60~64歳層になると、55~59歳層の6割程度にまで落ち込みます。これは60歳以降、就業形態が正規から非正規に変わったことによるものです。他のOECD加盟国を見ても、確かに高齢期の低下は見られますが、激しい落差は日本独特のものです。このような現状を見ると、高齢者を労働力として長く活用しようにも、モチベーションが上がらないという状況にあることがわかります。

図表2 定年後に就業状態は急激に悪化

グラフ:年齢別非正規雇用比率(%), 2017(左)グラフ:年齢別男性のフルタイム収入, 2016(右)

資料出所(左):OECD (2018), 生涯を通じたより良い働き方に向けて:日本, Paris: OECD Publishing.
資料出所(右):OECD Earnings and Wages Database.

日本人は高齢期におけるスキルの活用が不十分

三つ目の課題として、高齢期におけるスキルの活用が不十分という点が挙げられます。60歳以降、責任ある立場から外れることで、本当はできるのに、やらせない仕事が増えてきます。例えば、「指導・監督」については、OECD加盟国に比べて、高い水準にあるのですが、55~59歳層をピークに急激に低下します。「計画立案」に関しては、30~34歳層と55~59歳層を比べても大きな変化はないのですが、60~65歳層になるとやはり急激に低下しています。

そこで、今度は高齢期において、高齢者がどのようなスキルを活用しているかを見てみましょう。図表3のうち、Aは、OECD加盟国での仕事におけるスキルの活用度合いを55~65歳層、25~54歳層でそれぞれ示したものです。ICT、問題解決能力とも高齢者のスキルの活用は他の加盟国に比べて、低いことがおわかりいただけると思います。若い人に比べて、高齢者のICTのスキルが低いのはやむを得ない部分もあるのですが、問題は、日本の場合、他の加盟国と比べて、若年層との差があまりに大きく開いていることです。高齢期にも活躍するためには、若い時から能力を蓄積する必要があります。

保有する技能を常に最先端の状態に保つことも重要です。その点、日本の場合、遅れが見られます。せっかく技能を保有していても、それを継続的に更新する機会が与えられていません。

図表3のうち、Bは、年齢層別に仕事に関連する訓練への参加割合を見たものです。日本の場合、高齢者はあまり訓練を受けていないことがわかります。他の加盟国を見ると、例えば、デンマークでは、若年期における訓練への参加割合も高いのですが、高齢期であっても約6割が訓練を受けています。

図表3 高齢者のスキルの活用は後れを取っており、訓練機会も不十分

グラフ上段:A. 仕事におけるスキルの活用55~65歳層と25~54歳層(インデックス)(左)ICT,(右)問題解決能力
グラフ下段:B. 年齢層別の仕事に関連する訓練への参加割合

資料出所:OECD (2018), 生涯を通じたより良い働き方に向けて:日本, Paris: OECD Publishing.

これらからわかるように日本では、スキルの活用があまりできておらず、その結果、生産性も上がらず、仕事の満足度も高まらないという問題が生じています。OECDが仕事の満足度に与える職場要因と賃金の限界効果を分析したところ、もちろん、「人間関係」や「賃金」も影響を与えているのですが、最も影響が大きかったのは「スキル活用」であることがわかりました。

仕事を長く続けるうえでは、仕事の質を高く維持することも極めて重要です。すなわち、生産性を高くすることが求められるのですが、そのためには、生産性に見合った賃金を支給することも必要です。若年期から質の高い仕事を続けていれば燃え尽きることもなく、健康状態も良好のまま、長期にわたって労働市場にとどまることができるのです。

OECDの調査では、日本人は仕事において、かなりのストレスにさらされていることがわかっています。その理由の一つが、長時間労働です。日本人の場合、他のOECD加盟国に比べて、長時間労働が多くなっています。週60時間以上働く雇用者の割合を見ると、25~54歳層の男性の場合、14%が長時間労働にさらされています。それ以外の年齢層を見ても、他のOECD加盟国よりも高い割合となっています。一方、女性の場合は、長時間労働は少ないのですが、これは非正規雇用に甘んじている者が多いからです。

別の分析では、長時間労働はメンタルヘルスに悪影響を与えることがわかっています。特に男性の場合、この状況が顕著です。また、仕事と家庭の両立がうまくいっていない場合、メンタルヘルスに悪影響を与えることもわかっており、改善を進めていく必要があります。

提言1:インセンティブの改善

ここからは政策提言を行います。一つ目は「良質な仕事に高齢者を留めるためのインセンティブの改善」についてです。これを実現するためには、まず、定年年齢を徐々に引き上げ、長期的には廃止を検討することです。仮に再雇用年齢を70歳まで引き上げた場合、現状では、60歳から10年間、非正規の業務に甘んじることになります。しかし、定年を廃止してしまえば、雇用慣行のなかで年齢という側面を排除することができるようになります。

さらに、今後、高齢者雇用に関する法律の改正にあたっては、働き方改革が適切に実施されるようモニタリングすることも求められます。長時間労働を是正するための労働時間規制のフォローアップもその一つですが、高度プロフェッショナル制度がどのように実施されるかも厳密に監視する必要があります。そのうえで、さらなる改革が必要かどうかも考えなければいけません。

正規雇用者と非正規雇用者の労働市場の分断に対処することも重要です。特に女性の場合、若年期から非正規雇用に就くことを余儀なくされる者が多いことに対処する必要があります。

国家レベルで、より良い職場慣行を促進するために労使及び政府による三者協議会を設置することも提言します。そのなかで、特にエイジ・マネジメントや賃金制度の見直しについて協議する必要があります。

提言2:スキルと雇用可能性の改善

二つ目は「スキルと雇用可能性の改善」についてです。企業に対し、中堅・高齢者の訓練ニーズの把握を行うよう促すべきです。各人の勤務評定に応じて、どのような訓練が必要なのかを面談に際し把握する必要があります。

また、労働者は仕事のなかで、様々なスキルや経験を身に付けているはずです。しかし、現状ではそれを認定する仕組みが十分に整備されていません。資格制度を通してこれらを認定する仕組みを整備していくことが重要です。

ハローワークの相談員が、求職者の雇用可能性を診断する際の助けとなる、統計的なプロファイリング・ツールを構築することも求められます。相談員は専門職として働いているものの、必ずしもその能力は均一ではありません。そこで、復職に向けて、どのようなサービスが、どれだけの期間・頻度で必要となるかを体系的に診断するためのツールを構築することで、相談員を支援することも大切です。

定年退職時に従業員が要請した場合には、ジョブ・カードの作成を企業に義務づけるべきです。これにより、スキルや経験の認定が可能になり、高齢者がより自分に合った仕事へと移行することが容易になります。

提言3:仕事の質の改善

三つ目は、「高齢期になっても働き続けるための仕事の質の改善」です。まず、長時間労働を是正するための労働時間規制の見直しについて、それがうまくいっているかどうかフォローアップする必要があります。具体的には、企業が労働時間に関する慣行をどのように変更させるか政府が注視するべきです。

ストレスチェックをよりよく運用するため、結果のフォローアップにおいて、企業、産業医、精神科医等の医療専門家との連携を強化することも必要です。労働者がどのようなリスクに直面しているかを把握し、それに対処するためのアクションプランを作成することが求められています。

さらには企業、労働者に対し、休暇等の権利の行使を促し、意識を高めることも重要です。例えば、労働者が高齢の両親を介護しなければならない場合において、介護休暇を取得する権利を行使できるよう十分に周知しなければなりません。

ワーク・ライフ・バランスの改善も重要です。これを実現するためには、あらゆる年齢層において、労働時間設定を柔軟にする必要があります。

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