事例報告 メンター制度導入とその効果──同制度で離職率を改善

当社は、航空宇宙機器や油圧機器などの設計・加工・組立を事業内容としています。近年では、MRJの開発にもかかわっています。本社は三重県北部の東員町にあり、三重県、愛知県、広島県に計6カ所事業所を持っています。

設立は1961年、従業員は420人です。飛行機の構造組み立てはライン作業ではなく手作業なので、人手が多く必要となることから、中小企業にしては少し従業員数が多めとなっています。

社員が定着しないと生産性が上がらない

メンター制度を導入することになった背景を説明する前に、そもそも当社で何が問題だったのかについて述べたいと思います。当社にとってあるべき姿とは、生産性の高い社員の定着と定義しています。当社には「産業機械」と「航空機」という二つの事業部があるのですが、売上規模では航空機事業が8割を占めています。そしてその航空機の売上に対するコストは、ほぼ人件費です。こういうこともあり、生産性の高い社員が定着しないと、当社は利益を上げることができないのです。

では現状がどうだったのかというと、新卒者の1年以内離職率は、2010年~14年の平均で約17%、そして3年以内離職率の平均が48%と、約半数の方が、残念ながら3年以内に退職してしまうという状況でした。早期離職に伴って売上、利益が伸びず、社内の負荷が上昇するという状況が起きていたのです。

そこで、まず、なぜ退職するのか、その理由を調べてみると、航空機だからかもしれないのですが、仕事に対するプレッシャーやストレスが非常に多かった。そこで、これに対するケアをどうにかしようということで、メンター制度を取り入れることになりました。

教育側の納得感にも配慮した制度に

社内では実際にはメンター制度とは呼ばずに、「教育担当制度」と呼んでいます(シート1)。2015年に導入しました。新入社員に対して、年齢が近い先輩社員が教育担当になり、仕事やプライベートなどの相談に応じるという非常にスタンダードな内容になっています。

ただ、この内容だけを制度として導入してもなかなか効果は出ないだろうと考え、工夫を施しました。工夫のポイントが、現場の理解と教育側の社員の納得感です。メンター制度というのは、教育側の社員がキーマンになりますが、この社員が納得して動かないとうまくいきません。

管理職も巻き込んで気づきを増やす

具体的に行った工夫とは、まず、仕事中にコーヒーなどを飲みながら面談することにしました(オフサイトミーティング)。まずは話しやすい環境をつくる必要があるということで、あえて勤務時間内としました。このコーヒー代は会社が出しています。

次に、新入社員、教育担当者、課長が、教育担当記録を記入し、共有しています。メインになるのは新入社員と教育担当者ですが、あえて管理職を巻き込みます。巻き込むことによって、気づく機会を増やす。そして、管理職は教育担当者に対して、「よく頑張っているね」「よく育ててくれているね」と褒める。

三つ目は、教育担当者への手当をあえて手渡しすること。当社も、給与はもちろん振り込みですが、この教育担当手当に関しては、あえて、毎月初めに総務で封筒に入れて、それを課長に渡して、課長から教育担当者に渡すようにしています。手当の重みを感じてもらうのと、教育意識を維持させたいという思いからです。

四つ目は、新入社員に対して、入社時に説明すること。そして最後が、導入時には全事業所を回って、全社員へ直接説明することです。当然、制度開始について通達をつくって、アナウンスだけで終えるということもできましたが、「現場の理解」を大事にしました。メンター制度は時間内に行うので、どうしても職場を離れることになります。職場の人手は減ることになりますので、現場にきちんと理解してもらう必要があります。当社では、総務が6カ所の事業所全て回って、直接説明しました。

その結果、1年以内退職率は0%になりました。3年以内離職率も減少傾向になっています。

意識面での効果を測るために、新入社員と教育担当の社員にアンケートをとって、どんな効果を感じるか尋ねてみました。すると、新入社員では人間関係の向上、職場環境への適応といった効果が多く挙がりました。教育担当者では、教育意識の向上などにも効果があることが分かりました。アンケートではまた、メンター制度をやってみて必要な制度だと思ったかどうか尋ねましたが、全員が「はい」(必要だ)と答えました。

2年目以降は効果が薄れる

導入から3年経って、やはり課題が見えてきました。一つは、2年目以降は効果が薄れるということ。2年目、3年目となってくると、やはり退職する社員が出てきました。二つ目は、中途採用社員にはほぼ効果がないということでした。

なぜなのか、分析してみました。心理学やモチベーション理論で有名なマズローの欲求5段階説というものがあります。欲求は5段階のピラミッド型になっていて、生存→安全→所属→承認→自己実現と、下から上に欲求を満たしていく。

これを仕事に当てはめると、まず、皆さんが欲求として持っているのは給与などです。それをある程度満たせば、今度は休日、残業時間の欲求を満たしたくなる。これがある程度満たされると、ようやくここで人間関係とか職場適応などを満たしたくなる(シート2)。

給与や環境を同時に整備することが必要

メンター制度がどこの欲求にアプローチしたものかというと、所属というところを効果範囲としていると分析できます。つまり、下の段階の欲求である給与や勤務時間を満足させないと、結局は離職につながる。

新卒者の1年目では、給与がいいのかどうかや、休みが多いか少ないかについては自分のなかで基準がはっきりしていない。しかし、2年目になると、経験や知人・友人から情報を得て、自分の基準がはっきりしてくる。そして、現状と照らし合わせて足りなければ他社に移ろうとする。中途採用の社員は、既に他の会社で働いているので、基準を持っています。自分の持つ基準と合わなければすぐ退職していく。

メンター制度は、やはり精神的欲求、いわゆる所属とか承認とか、こういう段階へのアプローチにとどまるのだと思います。効果的な取り組みにしていくには、いわゆる物理的欲求を満たせるように、給与水準や労働環境、そして持続的な経営なども含めて、総合的に仕掛ける必要があると言えます。

最後になりますが、メンター制度を導入したことで離職率を低下させることができました。しかし、課題もあります。これからは総合的に様々な仕掛けを改善しながら行うことが今後の課題です。われわれに何ができるのかを考え、今後もチャレンジしていきたいと思います。

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