事例報告 味の素流『働き方改革』──働きがいと生産性向上への取り組み

講演者
古賀 吉晃
味の素株式会社人事部労政グループ兼グローバル人事部
フォーラム名
第98回労働政策フォーラム「働き方改革とテレワーク」(2018年9月26日)

社会課題との接点が持てる働き方を

当社は、1908年に池田菊苗博士が発見した「うま味」を創業者である鈴木三郎助が事業化したことでスタートしました。「うま味」を通じて戦時中の栄養不足という社会課題を解決することで、結果として事業価値に繋げるといった考えが当社のビジネスモデルのベースになっています。この考えを具現化したのが、CSV(Creating Shared Value)の味の素版であるASVです。社会課題を解決することによって、経済価値、当社の事業価値につなげるといったビジネスモデルを大切にしています。

当社は2013年から働き方改革を進めていますが、それは「国が推進しているから」とか「何となくやったほうが良さそうだから」始めたのではなく、ASVを実現し続ける組織を作るにあたって、働き方改革が必要な手段であったために取り組みを開始しました。例えば、当社の商品は、夕方にスーパー等で手にとっていただくことが多いですが、こういった商品を開発している従業員が朝から晩まで働いていては、実際にスーパーでどういう購買行動が行われているか分かりませんよね。より社会課題との接点が持てる働き方をする必要があるわけです。

マネジメント改革とワークスタイル改革の両輪で

当社では、働き方改革のありたい姿として二つ掲げています。一つは、どんなライフステージであっても、働きがいと生きがいの両立を図れること。これはどちらかと言うと従業員目線です。そしてもう一つは、会社目線で、多様な人財が活躍して生産性の高い働き方を実現すること。この二つのありたい姿の実現に向けて、経営主導のマネジメント改革と従業員が自ら取り組むワークスタイル改革との両輪で進めています。

働き方改革に限らずですが、今の当たり前を変えることは会社も従業員もパワーが要りますし、ストレスも感じます。しかし、まずはやってみる(実際に制度を使ってみる、働き方を変えてみる)ことを大切に進めてきました。

所定労働時間を20分短縮

では、ワークスタイル改革について三つ、お話します。一つ目は所定労働時間の短縮です。働き方改革を進めていく結果、残業代が減り手取りが減ることは、従業員にとっては嬉しいことではありません。働き方改革は、会社と従業員自身がともに成長をしていく取り組みであり、会社のコスト削減の取り組みではありません。そこで所定労働時間を短縮することで、従業員の月給は担保されたまま安心して働き方改革に取り組むこととしました。経営自身も働き方改革で生み出された原資は人財に還元することを明言しています。

ちなみに、工場にはパートタイム労働者がいますが、こちらは時給を上げる対応をしています。所定労働時間の短縮は1日20分。これは年間の総労働で見て、大体80時間です。就業時間が今と全く変わらなければ、80時間分の残業代を全員に追加払いすることになるので会社もコミットしますし、従業員自身も80時間減っても月給が変わらないからこそ、皆でチャレンジしようとなりました。

「どこでもオフィス」の推進や終業時刻の前倒しも

二つ目は、「どこでもオフィス」の推進です。これは俗に言うテレワークで、週1回、会社に来れば、後はどこで働いてもいいという制度です。時間も、朝5時から夜22時の深夜の割増賃金にかからない時間帯であれば、どの時間帯で働いても構わないことになっています。

三つ目は終業時刻の前倒しです。2016年まで当社の始終業時刻は8時45分~17時20分でした。所定労働時間を20分短縮する際、普通に考えたら終業時刻を17時に設定しそうなところを、あえて8時15分~16時30分の始終業時刻に設定しました。終業時刻は17時という案も社内で出ましたが、今までより20分早く帰れるようになったとしても、生活の変化や、変わって良かったと実感できないと考えました。しかし、16時30分に退社することができれば、1日を朝・昼・夜の生活から、朝・昼・「夕」・夜といった生活にできるのではないかと思ったわけです。今まで多くの人は、朝に出社して、何となく6時、7時ぐらいまで働いて、8時過ぎぐらいに帰宅するイメージでした。しかし、会社を出る時間が4時半とか5時になると、夕方にもう一つ、自己研鑽、家事、育児、趣味、社外の方と接点を持つ等の新たな時間と生活が生まれます。そういった多様な暮らし方ができれば、従業員が社会との接点をより持つようになり、働きがいにも繋がっていくと考えました。実際、働きがいと会社の成長には相関関係があると証明されていますので、こうした取り組みは、働きがいといった実感値でも捉えていくようにしています。ちなみに、始業は8時15分ですが、コアタイムがないフレックス制度を導入しているため、全員が8時15分に出社しなければいけないということではありません。

工場でもモバイルワークを実施

当社は製造業ですので工場を持っていますが、最近、工場でも「どこでもオフィス」をトライアルしています。「チームで働いているし、現場は工場で動いているので、リモートワークは工場には馴染まない」といった議論もありましたが、仕事の進め方を工夫することなどで実現させています。

一例を挙げると、のように日勤班長と日勤Aさんがまず、在宅勤務で事務作業をします。彼らは仕事に集中できるので、その分、効率的になります。すると、日勤帯の効率が上がった分、本来朝8時過ぎまで働かなくてはならない夜間勤務の人が、1時間早く7時過ぎに帰れるようになります。通常、当社の夜勤は22時ぐらいからスタートして朝8時過ぎに終わるのですが、その時間帯は電車が混んでいるので7時過ぎに帰れないかといったことに、まずはチャレンジしてみたわけです。そして最後に、交替勤務で現場のオペレーションに入る人も、例えば課の目標や事務作業、データ分析等の業務の一部を在宅でやってみる。すると、その分は工場で誰かが作業しなくてはならないので、それを日勤のBさんに任せる。それだけではBさんの仕事が溢れてしまうので、その分は日勤の班長さんが行うようにします。

要は、日勤の班長さんとAさんが在宅で効率的にできたところに仕事が行くことによって、交替勤務者もモバイルワークをやってみることができたということです。こうしたことを今はトライアルで行なっています。当社工場の平均年齢も40歳代前半ですので、今後、介護等の必要が生じたりしても、柔軟な勤務ができる体制があることは強い組織につながるといった観点でも進めています。

図 事例紹介・川崎事業所の取り組み

目的:マルチスキル・人事制度を活用し働き方の幅を更に広げる!

参照:配布資料11ページ(PDF:2.09MB)

改革はまず始めてみることが大事

最後に成果と課題をご説明します。1人当たりの平均総実労働時間は、マネージャー層、スタッフ層とも右肩下がりで減ってきていて、2018年度に1,800時間を目指しているところです。2017年の4~10月には16時~18時までに業務を終える従業員が75%になっており、ここが先ほどお話した朝・昼・夕・夜のような働き方ができ始めているのではないかと思うところです。

テレワークの利用者については、2016年を100としたときに、2017年は全体で37%増加しました。利用者の属性を見ると、「子どものいる家庭」は9%増で実はあまり増えていません。それよりも「シニア再雇用」(140%増)や「障がい者」(71%増)が大きく増えたことで、全体を押し上げています。過去、テレワーク利用者へのアンケートを行ったことがありますが、在宅勤務をして良かった理由としての主な回答は、「通勤が楽になった」と「今までより生産性が上がった」の二つです。これは裏を返すと、会社というのは「通勤は大変だし、生産性も上がらない」場所とも言えます。そこで今、本社を中心に「フリーアドレス」と「ペーパーレス」を進めており、より質的な働き方改革をしていこうというステージに来ています。

「働き方改革」を進めるにあたって、やらない理由を挙げるのは簡単です。しかし、それではいつまで経っても前に進みません。そこでまず、スモールでいいのでやってみる、すると、少し前進しますが、新たな課題に出会えます。しかし、その課題を解決することで、また働き方改革は少し前進する。「働き方改革」には課題はつきものですが、それでも、まずはやってみるということが、大切なのではないかと感じています。

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