事例報告 損保ジャパン日本興亜のワークスタイルイノベーション

講演者
髙田 剛毅
損害保険ジャパン日本興亜株式会社人事部企画グループ特命課長
フォーラム名
第98回労働政策フォーラム「働き方改革とテレワーク」(2018年9月26日)

今後の損保事業への強い危機感が背景に

損保ジャパン日本興亜は、SOMPOホールディングスのメーンエンジンを担っており、名前のとおり損保事業を展開しています。社員数は約2万6,000人ですが、女性社員の比率が高く約60%を占めています。店舗は全国にあって、営業拠点は568カ所、保険金サービス拠点が288カ所。多様な人材が様々な場所で、様々な働き方をしています。

当社が働き方改革、ワークスタイルイノベーションに取り組んだ背景に、今後の損保事業に関して、強く危機感を抱いていることがあります。最近、台風や地震等の自然災害が立て続けに発生しています。そういった自然災害は損保ビジネスにおいて、収益を大変脅かすものですし、昨今のデジタルイノベーション、技術の進展により、競合相手が変化してくるかもしれません。また、場合によっては業態や業界が破壊されるディスラプションが起きてしまうのではないかという懸念も持っています。

企業体力の向上と社員の健康のために

先ほど、VUCAのお話がありました。私たちは、不安定で不確実なVUCAの時代をどう生き抜いていくのかという危機感に基づき、会社の体力を上げていくために多様な人材が活躍でき、生産性を上げていく取り組みを可能にするためにワークスタイルイノベーションに取り組み、時間と場所にとらわれない柔軟な働き方を実現していくことを目指しています。そして、そのキーソリューションとして、テレワークやシフト勤務を展開しています。また、当社では、お客様の安心・安全・健康に資する最高品質のサービスの提供をすることを経営理念に掲げています。それを提供する私たち社員自身が心と体の健康を確保するためにも、こうしたワークスタイルイノベーションが必要だと考え、取り組みをスタートしました。

もう一つ、ダイバーシティについても触れたいと思います。当社では早くからダイバーシティを推進してきました。多様な事情を抱えた社員が活き活きと活躍できる環境づくりをするには、ワークスタイルイノベーションが必要になります。女性だけでなく、いろいろな事情を抱える人が、どのように多様な働き方を実現するのか。これを実現することが、企業の体力を上げていくことだと考えています。当社にとって、ダイバーシティとワークスタイルイノベーションの推進、企業体力の向上は、全てが一体の取り組みだと捉えています。

利用しやすい制度とインフラを整備

今日のテーマである、当社のテレワークの制度・推進等についてお話します。

まず制度の対象者は全社員で、育児や介護等の条件は一切設けていません。働く場所に関しても、在宅勤務に限らずサテライトオフィスやカフェ等、ある程度のセキュリティが確保できれば、場所を問わずに働ける制度になっています。上司の承認を得る必要は当然ありますが、1カ月の上限回数は設けていませんし、午前のみ、午後のみといった一部利用も可能です。午後のみなどと言わず、すき間時間を有効活用できるような柔軟な利用ができるように設計しています。

制度を整えるだけでは推進することが難しいため、インフラの整備も並行して行っています。先ほどから話題になっているように、テレワークを進めていくうえでセキュリティの確保は欠かせません。当社でもこの点に力を入れており、社内と同じようなセキュリティネットワークが構築できるということで、全社員にシンクライアント端末を配備しています。さらに、真に時間と場所にとらわれない働き方を実現するモバイルワークを加速していく観点から、もともとマネジメント層のみに展開していたBYOD(私有スマホの業務利用)を拡大したり、営業外勤社員向けにiPhone、スマートフォンを配備するといった形でのインフラ面を整備して、いつでもどこでも仕事ができる環境づくりを進めてきました。

社内風土の醸成と意識改革も推進

制度やインフラを整えても、社員に「やってみよう」という気持ちが起きなければ、テレワークの取得は進みません。そこで、風土の醸成・意識改革もあわせて進めてきています。具体的には、各職場のマネージャーに、ワークスタイルイノベーションに関わる目標を立てさせ、自らそれを率先垂範することをトップのメッセージとして発信しています。

部下からすれば、上司から「やってみなさい」と勧められれば、「この制度を実際に利用してもいいんだ」という気持ちになると思います。こういった進め方をしないと、職場全体に取得しやすい雰囲気が広まりませんし、上司が実際にやってみてからマネジメントするやり方が非常に重要だったと思っています。今、お話した制度、インフラ、風土醸成は、全て並行して整備を進めていくことが大切だと考えています。

性善説でテレワークの歩みを進める

当社のテレワークの歩みについても、簡単にお話したいと思います。取り組みは、2012年からスタートしています。当時は、介護や育児、病気、怪我などの事情がある社員向けに展開していました。しかし、先ほどお話したような危機感もあり、働き方改革、ワークスタイルイノベーションを進めていくなかで、2014年に本社部門でテレワークのトライアルを実施しました。ここで出てきた課題を整理したうえで社員の生の声を聞き、今後の推進の方向性について、性善説に基づいて広く緩く展開していくのか、性悪説に基づいて狭く固く運用していくのかを慎重に検討のうえ、性善説に立って環境づくりをしていくことにしました。そして2015年からは、ワークスタイルイノベーションということで、全社員を対象に自由に運用できるテレワークを展開することになりました。

ハード・ソフト両面での支援を展開

この歩みは現在に至るまで続いていて、ハード面では2016年に営業社員へのiPhoneの貸与やBYODの拡大を実施。2015年と2018年は、特に育児や介護で時短勤務をしている社員を対象に、自宅用の追加のPCの配備も行いました。2017年には、社内のサテライトオフィスを拡充し、場所を次々に提供して、いろいろな場所で働ける環境づくりも進めています。

一方、ソフト面の取り組みとしては、まず2015年にワークスタイルイノベーションコンテストを実施しました。2017年以降は、コンテストの流れを引き継ぐ「Ji-Tanフェス」というものを展開しています。これは社員同士が、「現場でどういった取り組みがなされ、どんな効果を出しているかを見たうえで、それは自分たちも真似できるものなのか」といったような意見を出し合って共有していくことを、定量面・定性面から評価していくもの。それにより、意識の醸成を図っていくことを進めています。

課題を克服しながら取り組みを前に進める

こうしたハード・ソフト両面での支援を進めてきた結果、勤怠管理システム上からテレワークを申請してきている利用者は約3,200人。そのほか、BYODやiPhoneを使ってモバイルワークをしている社員を含めると、1万人以上がテレワークを利用していることになります。

実際に利用した社員の声を聞いてみると、8割以上が「生産性が向上した」「非常に良かった」というアンケート結果が出ています。より詳しく見ると、「企画、分析等の集中して行いたい業務に非常に効果的」「出社時間、移動時間が大幅に削減できることで効率化につながる」「ワーク・ライフ・バランスの充実につながる」といった声が聞かれました。

その半面、アンケートには「ペーパーレスを推進しないと持ち帰りの業務ができない」「自宅ではなかなか家族の理解を得られない」「場所の確保ができない」などといった課題も寄せられてきています。まだ課題は多く、こういった声の一つひとつを踏まえつつ、徐々に克服しながら前に進めているのが実態です()。

課題については、「パソコンが重いので軽量化できないか」「起動したときの立ち上げの速度が遅い」など、インフラ面に関する声も出ています。社内と同等の環境を整備できるよう問題を克服しながら、テレワークをさらに推進していきたいと思っています。

図 テレワークの利用実績・今後の取り組み

導入の効果(実施者からのアンケートより)
今後の取組み→さらなる生産性向上・多様な人材の活躍推進へ

参照:配布資料7ページ(PDF:1.48MB)

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