事例報告 多様な力を企業の成長に

講演者
酒井 大介
SCSK株式会社人事グループ人事企画部長
フォーラム名
第97回労働政策フォーラム「仕事と家庭の両立支援のあり方を考える」(2018年5月29日)

当社は、2011年に住商情報システムとCSKが経営統合した会社です。システムインテグレーターと言われる業界で、システム開発から、ITインフラ構築、BPOなど、ビジネスに必要な全てのITサービスを提供しています。従業員数は連結で約1万2,000人、単体で7,300人(うち5,900人がIT人材)。当社のような業態は労働集約型のビジネスになりますので、何よりも人が財産です。社員全員の成長が企業の成長につながるという思いを込めて、「人を大切にする」ことを経営理念に掲げています。

当社では、合併以降、「働き方改革」の一環として残業削減や有休取得奨励に積極的に取り組み、総労働時間の短縮を図ってきました。その上で、両立支援制度の整備と利用しやすい環境づくり、さらに女性を中心としたキャリア形成支援という流れで施策を展開しています。

「働き方改革」で社員の意識改革を

「働き方改革」のなかで、「スマートワーク・チャレンジ20」という取り組みがあります。これは、「有給休暇取得日数20日(100%取得)」と「平均月残業時間20時間(未満)」を目標に掲げるもので、2017年度の実績はそれぞれ、18.8日と16.4時間でした。従来は、「夜遅くまでいる社員」や「休まない社員」を「良い社員」とするような風潮がありましたが、この取り組みを実践するなかで、効率的に成果を上げる社員を評価するという価値観に変わりつつあり、社員の意識改革が図れてきていると感じています。

「どこでもWORK」でフルタイム復帰が5倍に

当社はサテライトオフィスを郊外に設けており、全社員を対象に、自宅またはサテライトオフィスでの勤務(リモートワーク)を月8回まで認めています。育児や介護等の理由がある場合は、回数の制限はありません。リモートワークの活用と併せ、フレックスアドレス制を導入した「フレキシブルオフィス」の整備と、紙を前提としない「ペーパーダイエット」にも取り組んでいます。

こうした「どこでもWORK」の取り組み効果として、育児・介護のためにリモートワークを実施した社員が3倍に増え、またリモートワークを活用して時短からフルタイム勤務に移った社員が5倍に増えました()。そして育児からの職場復帰率が96.5%にまで改善しています。

健康管理にインセンティブ支給

「働き方改革」では、社員の健康意識を醸成するため、「健康わくわくマイレージ」という取り組みを実施しています。「毎日朝食」「週2日の休肝日」「毎日8,000~1万歩」といった、推奨される日々の行動習慣と、健康診断の結果をポイント化し、年間で獲得したポイントに応じてインセンティブを支給するというものです。役員については、彼らの健康リスクは経営リスクと直結しますので、健康管理が行き届いていない場合は賞与が減額されるなど、やや厳しい内容となっています。

育休の分割取得で男性も育児参画を

育児をしながら安心して働ける職場環境をつくるため、柔軟な勤務形態を取り入れ、様々な休暇・休業制度を整備しています。例えばフレックスタイム制は、コアタイムなしのスーパーフレックスで、全社員が利用可能です。また5分単位で短縮可能な短時間勤務もあり、申請回数に制限を設けていません。

休暇・休業制度については、マタニティ休暇(10日)や配偶者出産休暇(3日)のほか、育児休業、子の看護休暇(年5日)、両立支援休暇(年5日)、さらに育児・介護等を理由とした積立年次有給休暇(上限50日)などを整えています。育児休業については、小学校就学前の子を対象に、通算3年、6回までの分割取得が可能となっていますので、男性の育児参画を促進できるものと考えています。

手厚い支援で早期復職・フルタイム化を

当社では、育休復帰とフルタイム復帰はなるべく早いほうが望ましいと考えているため、経済的な支援制度を用意しています。まず、保育料が高額な3歳までの間、保育料の50%を補助する「復職支援金制度」があります。費用の半額を補助することで、早期復職へのインセンティブになるような制度設計にしました。また、フルタイム勤務を可能とするための転居費用を補助する制度もあります。実家に近いほうが親のサポートが得られやすく、安心できるという面もあろうかと思いますので、社員が実家近くに転居する場合、あるいは親が自宅近くに転居する場合にも補助が適用されます。このほか、ベビーシッターなどの育児支援サービスを利用して所定勤務時間を超えて勤務した場合、利用料金の50%を補助する「育児費用補助制度」も整えています。

両立には上司の意識変革も必要

女性のキャリア形成支援については、「出産・育児期の支援」と「女性社員の活躍支援」に分けてご説明します。出産・育児期の支援には、「職場復帰支援プログラム」のほかに、保育園入園のための情報提供を目的とした「保活セミナー」や、子育ての悩みを共有するような場としての「子育てカフェ」などがあります。「職場復帰支援プログラム」のポイントは、本人と上司任せにせず、人事も交えた三者が緊密にコミュニケーションをとることで、本人のキャリアをきちんと考えていく場を設けるということです。具体的に、産休前に本人・上司・人事の三者で面談し、復帰後のキャリアについて話し合います。復帰後は本人と上司が、両立を実践する上での上司の期待や本人の意欲を共有し、必要であれば人事がサポートに回ります。さらに、本人には両立の心構えを持ってもらうためのセミナーを、上司には両立する社員をどのように育成・支援するかという内容のセミナーを開催しています。こうしたプロセスを通じて、上司の意識を変えていくことがポイントの一つと言えます。

女性の離職率が大幅低下、ライン職登用も上昇

女性のライン職を積極的に登用していくため、当社では女性社員を対象に階層別の育成プログラムを実施しています。すでに課長になった人には部長、さらにその上の経営層へと、経営人材の育成プログラムとなっています。新任課長向けには、主に実務スキル面のリーダーシップやマネジメント教育を中心に行い、課長職の候補者層に対しては、意識を変えていくためのマインド醸成に重点を置いています。そして若手女性社員には、ロールモデルとの情報交換会や外部講師を招いたキャリア関連セミナーなど、自身のキャリアを促していくような内容になっています。

この取り組みを2013年度から始めたところ、女性のライン職の登用数が2012年の13人から少しずつ増え、2018年度現在で82人になりました。


これまで取り組んできた両立支援とキャリア形成支援の効果として、女性の(入社10年後の)離職率が、70%(2006年度)から30%へと大幅に低下し、ライン職の女性比率も2%(2012年度)から約9%に上昇しました。また育児休業からの復職率は95%以上を維持しており、短時間勤務制度の利用割合は72.8%となっています。このように、取り組みの開始前より大分増えてきていますが、まだ過渡期にありますので、これからもできることを一つひとつ取り組んでいきたいと思っています。

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