事例報告 女性活躍と男性の家庭参加に関する取り組みについて

講演者
塩入 徹弥
大成建設株式会社管理本部人事部部長
フォーラム名
第97回労働政策フォーラム「仕事と家庭の両立支援のあり方を考える」(2018年5月29日)

当社は、今年創業146年を迎えました。そうした古くからあり、また社員の85%を男性が占めるなど、男性の仕事の代名詞的な存在である建設業を営む当社が、なぜ女性の活躍推進に取り組むようになったのか。それは、国内建設市場が年々縮小するなど当社を取り巻く環境が非常に厳しくなるなかで、会社の持続的発展のためには様々な施策に取り組む必要があり、その一つとして選ばれたのが女性活躍推進でした。何故なら社内に優秀な女性が多数いたにもかかわらず、その力を十分活かし切れていなかったからです。

女性の積極採用と職域拡大

女性活躍推進に関する具体的な取り組みが始まった2007年から、総合職を始めとした基幹職採用を本格化し、それ以降の新卒採用に占める女性の割合は約2割となっています。また職域も拡大し、現場の施工管理をする女性社員は当初10人程でしたが、現在は180人を超えています。営業職については当時一人もいませんでしたが、今は20人を超えました。また一般職から基幹職への登用も積極的に進め、現在女性社員の約4割が基幹職となっています。

当社の女性活躍推進に対する基本的な考え方は、まずは女性管理職の増加です。そのために辞めずに働き続けるための両立支援と、能力開発支援に取り組んできました。その結果、現在は結婚や出産を理由に退職する人はほとんどいなくなりました。

男性を巻き込んだ取り組み──男性の育児支援を

ただ両立支援に対しては、当初子育て支援が主であったので女性のための取り組みという雰囲気がありました。そこで、女性が活躍するための施策を展開していくためには、多数を占める男性を巻き込んだ取り組みが必要と考え、2010年から男性の育児支援に乗り出しました。幸い、それよりも前の2006年に、現場の施工管理をしている若い男性社員から育休取得の第1号が出ました。その後、体験者の事例を積極的に展開し、子育てに悩む父親同士の意見交換や父性の重要性を学ぶ「父親セミナー」も開催しました。また男性の育休取得者同士による子育て奮闘話や、取得によるメリットなどを語り合う「パパ座談会」なども開催しています。こうした取り組みを続けてきた結果、毎年3~4人の育休取得者が出てきました。平均取得期間は約3カ月で、なかには2回取得した人もいました。

介護との両立支援も

また、若い男性だけでなく中高年の男性も巻き込む必要があると考え、仕事と介護の両立支援にも2010年から取り組んでいます(図1)。毎年、介護セミナーを開催していますが、図のグラフのとおり、参加人数とともに男性の比率も年々高まっている状況です。

家庭への働きかけ──パートナーの理解と協力が不可欠

既婚女性が会社で活躍するためには、両立して働くことに対するパートナーの理解や協力が不可欠です。そこで、家庭に対する働きかけとして、パートナーと一緒に参加して、両立について考えるセミナーを2012年から毎年開催しています。セミナーでは、女性が社会で働くことの意義や、正社員で働き続けた場合と一旦退職してパートやアルバイトで働いた場合の収入差について学び、その後、家庭での役割を洗い出し、夫婦の分担についても話し合う機会を提供しています。

男性育休100%取得を目指して

その両立支援セミナーに夫婦(どちらも当社社員)で参加し、妻が育休後フルタイムでの職場復帰を希望していたため、しばらくは自分が子どもの面倒をみようと短時間勤務を選択し、育児に積極的に取り組むようになった男性社員の例もあります。ただ、男性の育児支援は基本的には自主性に任せていたので、それほど大幅に取得者の数が増えてきたわけではありませんでした。そこで2016年、「男性の育休取得100%」を目指す取り組みをスタートしました。

まず、「男性社員の育休取得率向上を『働き方改革』の一つと認識し、会社全体で取り組んでいく」という社長メッセージを全社員に送りました。また、育休取得のメリットや上司からの働きかけの事例など、取得に関する情報をニュースレターの形にして配信しました。また、申請手続きも簡素化し、上司と本人が合意していれば、取得後の届出も認める運用に変えました。初年度は100%達成とはならず、93.8%という数字でしたが、ここまで上げるために様々な取り組みを実践してきました(図2)。なかでも、各本部や支店のトップ宛てに、全社部門別の取得状況一覧表を定期的に送付する取り組みは効果が大きいと感じています。

一方、取得できなかったケースについて、その理由や要望を把握するためにアンケートを実施したところ、取得の期限をもう少し延ばしてほしいという声がありました。当社の場合、育休は2歳までの2年間取得できますが、子どもが生まれてから1年以内に開始しなければならないという条件がネックとなり、繁忙期と重なり取得できなかったケースが多くありました。このため、取得開始を1年以内から2年以内に延長する制度へと今年の夏(2018年7月)に変更することが決まっています。

現在2年目に入り、男性の育休取得100%の早期達成と、2020年までに平均取得日数を14日以上にするという目標を掲げています。取得日数については、初年度の平均は5.7日でしたが、現在はさらに2日程長くなってきました。

女性活躍推進に関する現状数値が順調に推移

取得者にアンケートをとったところ、ほぼ100%が「取得して良かった」と答えています。その大きな理由は、家族から感謝されたことで休むことの大切さがよく分かったというものです。また仕事についても、業務の見える化や優先付け、属人化の排除など、普段は忙しくて気づかなかったことを育休がきっかけで考えるようになったと言います。また、上司からは「部下のワーク・ライフ・バランスに配慮したいと思っていたところ、会社の制度が後押ししてくれたので良かった」という意見が出てきました。

こうした取り組みも影響していると思いますが、女性の管理職数と技術者の割合を増やすという女性活躍推進に関する会社の目標値に対し、現状の数値は今のところ順調に推移しています。特に女性管理職数は、今年、目標値を一挙に上回る状況になりました。

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