事例報告 一人ひとりが輝き、会社も個人も成長し続ける企業へ
~『育児』『介護』と向き合う取組~

講演者
梶原 織梨江
日本生命保険相互会社人材開発部輝き推進室室長
フォーラム名
第97回労働政策フォーラム「仕事と家庭の両立支援のあり方を考える」(2018年5月29日)

当社は約7万人の従業員を擁する生命保険会社で、女性が従業員の約9割を占めています。10年前の2008年、「輝き推進室」というダイバーシティを推進する部署が設置されました。当初は女性の就業継続を目的に両立支援制度を充実させ、その後は女性のキャリア形成に取り組んできました。本日は、女性活躍推進を経営戦略と位置づけ、男性や管理職の意識改革に取り組んできた内容についてご紹介させていただきます。


当社の育児両立支援制度については、例えば育児休業は最長2歳半まで、短時間勤務は小学1年生の8月末までというように、法を大きく上回るものではありません。育児における各段階での壁を乗り越えるための必要最低限の形になっており、むしろ育児休業から早期復帰へ、また短時間からフルタイム復帰を支援しているのが現状です。

こうした制度と併せて、産休前・育休中・復帰後の段階別セミナーを開催し、その時々に必要な情報や会社からのメッセージを伝えています。職場復帰前には、パートナーを招いたセミナーを開き、家事・育児の分担などを話し合う機会も提供しています。

男性の育休取得が5年連続100%

ただ、このような女性を対象とした支援だけではどうしても限界があります。やはり女性を取り巻く男性が、女性の働き方を理解し、意識や風土、行動を変えていく必要があるとして、2013年に「男性の育児休業取得率100%」を目標に掲げました。現在、6年目に入りましたが、これまで5年連続で100%を達成し、累計で1,400人を超える男性が育児休業を取得しました。これは男性従業員の2割弱(17%)に相当します。30歳代の取得者が多いので、彼らが管理職になる頃には会社の風土がさらに変わっていくものと信じ、取り組みを続けています。

取り組みのポイント
──トップのコミットメント、人事の徹底フォロー、職場のムード作り

「男性育休100%」の具体的な取り組みポイントは3点あります。一つ目はトップのコミットメントです。なぜ男性が育児休業を取得しなければならないのかを、経営トップからメッセージを発信する。その時に考えたのは取得期間についてです。一部の男性が長期育休を取得しただけでは風土は変わらないと考え、期間の長短にかかわらず全員取得することに主眼を置きました。実際、平均取得期間は1週間となっています。会社としても最初の7日間は男女とも有給扱いとし、全員取得に向けて旗を振っているところです。

二つ目は、人事部門が徹底的にフォローすること。年度初めに従業員は各種休暇の取得計画を提出します。同時に、人事部で育休取得の対象者リストを作成し、本人が実際に取得するまでの間、所属長へ徹底フォローします。また申請手続きをウェブ入力にするなど、簡素化にも努めました。

そして三つ目がムード作りです。当事者だけでなく職場でも共有できるように、育休取得者の体験談をイントラで紹介したり、所属長のコメントも掲載しています。体験談には、子どもと1日24時間過ごした喜びや苦労が綴られており、妻に対する見方が変わったという人もいました。

また「イクメンハンドブック」という冊子を作成し、育児に関する情報も提供しています。取得時期については特に定めていませんので、産後の産褥期に取得して妻や子どもの世話をしようという人や、共働きの場合は、妻が仕事復帰する時期に合わせ、保育園の「ならし保育」を担当したり、あるいは子どもの乳離れを手伝うために「卒乳」の時期を選ぶ人など、いろいろなパターンがあります。こうした様々な男性従業員の体験談や育児の情報が社内で共有され、男性の育児休業に対する理解が徐々に浸透しているところです。

取り組み効果──コミュニケーションの活発化も

「男性育休100%」の取得推進の効果としては、取得者のうち「会社が旗を振っているので取得した」という人が7割でしたが、育休が終わった後は「次も機会があれば取得したい」という人が8割に増えていました。「たかが1週間、されど1週間」とよく言うのですが、育休をきっかけに、積極的に家事や育児に関わったり、妻にもっと配慮する気持ちが出てくるなど、家庭における本人の意識が少しずつ変わってきているように見受けられます。

仕事の面では、「早く帰宅しようと思うようになった」「夜の会合が減った」という声や、「この機会に業務プロセスを見直した」という人、または「女性の部下や後輩の個人的な事情に対して配慮するようになった」など、コミュニケーションが活発化したという声も聞かれています。

そうしたなかで、課題も見えてきました。育児というものは、体験する人や体験する時期が限られますので、子どもがいない人や既に育て上げてしまった人には、どうしても他人事になってしまいます。こうした課題を抱えながらも、引き続き「男性育休100%」の取得推進を続け、風土を変えていこうと思っています。

「介護と向き合う全員行動」を策定

介護は育児と異なり、誰もが経験する可能性がある問題です。近年「介護離職」が社会問題になっていますが、2015年に従業員を対象に実態調査をしたところ、50歳代の2割弱が介護に関与しており、40~50歳代の6、7割が「近々介護に関わりそうだ」と答えていました。

「育児は明るい話題なので職場で話しやすいが、介護はなかなか話しにくい」という声も聞こえたので、2016年に「介護に向き合う全員行動」という取り組みを始めました。当事者だけでなく、職場の全員が介護への理解を通じて「お互い様意識」を醸成することが目的です。

主な取り組みとして、身体介助の実技などを取り入れた介護体験セミナーを全従業員対象に開いたり、人事データベースに介護申告欄を新設し、上司もそれを共有して面談を行う、または介護を抱えている部下や同僚がいた場合、職場で何ができるのかを話し合うミーティングを職場単位で開いたりしています。

介護は育児と違い、突発的に起き、いつまで続くのか見通しが立てにくいという、介護特有の問題があります。前出の3年前の実態調査では、約半数が「介護について職場で相談できる雰囲気がない」と答えていましたが、いろいろなセミナーや施策を講じてきた結果、少しずつですが、介護に対する職場の「お互い様意識」が高まり、仕事と介護の両立に対する不安も和らいでいるというアンケート結果が得られました。

「ニッセイ版イクボス」──管理職の意識改革を

育児や介護と仕事を両立している人が増えていくなかで、特に重要なカギは何かと言うと、管理職の意識だと考えています。「イクボス」と言うと、育児をしている部下を応援する上司のようなイメージがありましたので、改めて「ニッセイ版イクボス」として図のように定義づけました。四つの「イクジ」を「イクボス」が取り組むテーマに掲げ、それぞれ皆でコミットしていこうと取り組んでいるところです()。

また「働き方改革」にも関連するところですが、平日の夕方、早く帰宅して家事や育児、介護に関わる人もいれば、学び直しや自己研鑽に時間を使いたいという人もいる。会社ではいろいろな講座を設けており、「イクボス」が職場の風土を変えるような様々な仕組みづくりを考えているところです。

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