調査報告 JILPT調査から見る改正労働契約法への対応及び有期契約労働者の処遇見直しの動向

私どもで調査した内容から、改正労働契約法への対応と有期労働契約者の処遇の見直しの動向を紹介したいと思います[注]

6割が何らかの形で無期契約に

この4月から最も注目される無期転換ルールへの対応ですが、調査では回答企業の同ルールへの対応をフルタイムとパートタイムに分けて見ています(図表1)。それによると、「通算5年を超えないように運用していく企業」はフルタイムで8.5%、パートタイムも8%です。一方、「通算5年を超える有期労働者から無期転換していく企業」と「5年を超える前に無期転換していく企業」「雇入れ段階から無期転換にしていく企業」を合計すると、何らかの形で無期契約にしていく企業がフルタイムは62.9%、パートタイムもほぼ同じ割合で58.9%に上っており、5年を超えないようにしていく割合を大きく上回っています。ただ、この調査の実施時期は今から1年半ぐらい前で3割程度が方針未定でした。この層がどう動くかが注目されるところです。

この対応状況を業種別・規模別に見たものが図表2、3です。フルタイム、パートタイムとも傾向はほぼ同じ。何らかの形で無期転換にしていく割合が高い業種は「医療・福祉」と「生活関連サービス業、娯楽業」です。逆に5年を超えないようにしていく割合が高いのは「教育、学習支援業」や「不動産業、物品賃貸業」「情報通信業」になっています。

人手不足業種で高い正社員転換割合

次に、無期契約への転換方法を見ます(図表4)。一番多かった転換方法は、「有期契約当時の業務、責任、労働条件のまま、契約だけ無期転換させる」で、フルタイムが37.3%、パートタイムは50.6%。次に続くのが、「正社員に転換する」でフルタイム30.8%、パートタイム14.2%でした。正社員転換していく割合が高かった点が、注目されるところです。

もう一つ注目すべきは、「上記以外の既存の無期契約区分に転換する」と「上記以外の新たな無期契約区分に転換する」割合です。この二つはいわゆる多様な正社員に該当するところですが、両方合わせてもフルタイムで12.3%、パートも10.2%とともに1割程度でした。この結果を見る限り、多様な正社員という形での活用はまだあまり進んでいない感じです。

これについても業種と規模別に見ると、フルタイムを正社員転換する割合は、「情報通信業」が非常に高く、次いで「建設業」「宿泊業、飲食サービス業」です。現在、人手不足が深刻化している業種は、正社員に転換する割合が高いことがうかがえます。規模別では、小規模企業ほど正社員転換する割合が高くなっています(図表5)。

他方、パートタイムの転換方法を見ると、責務や責任、労働条件を有期契約当時のまま無期転換させる割合が高かったのは、「金融、保険業」や「不動産業、物品賃貸業」でした。そしてもう一つ、先ほどいわゆる多様な正社員の活用がまだそれほど進んでいないのではないかという話をしましたが、既存・新設を問わず無期契約区分(多様な正社員等)を活用する割合が、規模が大きくなるほど高まる傾向にあることがわかります(図表6)。

[注]「改正労働契約法への対応及び有期契約労働者の処遇見直しの動向」については、ビジネス・レーバー・トレンド2017年6月号で既報のため、本報告は未掲載部分を抜粋してまとめた。

プロフィール

荻野 登(おぎの・のぼる)

JILPT労働政策研究所副所長

1982年日本労働協会(現、労働政策研究・研修機構)採用。出版放送課、新聞課、研究交流課等に配属、1994~1997年在米デトロイト日本国総領事館専門調査員(出向)、2000年日本労働研究機構広報部新聞課長(「週刊労働ニュース」編集長)、2003年独立行政法人労働政策研究・研修機構調査部主任調査員(「ビジネス・レーバー・トレンド」編集担当)、2008年調査・解析部次長、2011年調査・解析部長(政策課題担当)、2016年主席統括調査員、2017年4月現職。

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