パネルディスカッション
企業内キャリアコンサルティングの現在と未来

パネリスト
一之瀬 豊、原 和正、宮地 夕紀子
コメンテーター
高橋 浩
コーディネーター
下村 英雄
フォーラム名
第95回労働政策フォーラム「企業内キャリアコンサルティングの現在と未来」(2018年2月16日)名古屋開催

下村 パネルディスカッションでは、企業内のキャリアコンサルティングの効果、導入する際の秘訣について、それぞれ、教えていただければと思います。

一之瀬 キャリアコンサルティングが、クライアントにどんな効果をもたらしているかは、わからないところがあります。アンケートも検討しましたが、内省している時なら、クライアントの邪魔になってしまいます。当たり障りのないコメントしか書いてこないとも思い、アンケートはとっていません。効果があったかどうかは、自己判断しかないところが、悩みでもあり、課題でもあり、奥深いところだと思います。

制度導入については、先代の浅川が、当時の社長のトップダウンで立ち上げてくれたので、大変助かっています。現在では、組織内に浸透して、毎年、部下が研修でカウンセリングに1時間いくことが、普通になっています。これが、継続の効果と思っています。

 弊社では、相談窓口を2012年5月に設置したものの、任意来談でもあり、実績はゼロでした。こうしたなか、今回のセルフ・キャリアドックの取り組みの中で、研修と面談を組み合わせて、強制来談とすることで、キャリアについての話をする機会を導入できました。

これにより、今まで話したくても話せなかった社員は、キャリアについて考えるようになり、話をしやすくなったと思います。また、話していくうちに、気づきも出てきます。社内アンケートでも、キャリア面談は満足度が高い結果が出ましたので、企業内キャリアコンサルティングの導入は、良かったと思います。

導入に際して留意したことは、大きく2つあります。1つは、役員と組合員を巻き込んだことです。役員に関しては、グループ社内報の巻頭インタビューでセルフ・キャリアドックについて触れてもらいました。組合に対しては、この取り組みの内容について、説明して、組合の教宣活動の中でも周知してもらいました。社内周知という意味では、役員や組合を巻き込んだのが大きなポイントです。

もう一つは、キャリア面談についてです。弊社では、相談窓口と言いながらも、そのための専用の部屋はありません。強制来談に際しては、それぞれのクライアントの最寄りの職場に我々が出向いて、クライアントの負担を減らす工夫をしました。これをやると、本人達の負担は軽減されますが、こちら側が3名体制なので、1カ月半の中で60名近くに対応するので、大変でした。こうしたところが、人事として、工夫したところです。

下村 一之瀬様、原様からのお話を伺い、皆さんなりの受けとめ方があるかと思います。私なりには、キャリアについて話す雰囲気、意識、もしくは文化の醸成が、一つキーワードになるのではないかと思いました。

宮地さんからの、お話をお伺いしたいと思います。外部の専門家として、企業内キャリアコンサルティング導入の効果、課題、さらには、導入のコツ、秘訣について、どのようにお考えでしょうか。

宮地 効果の問題については、私のような社外の専門家の場合、仕事がなくなるのは、効果がなかったからだと思います。そういう意味では、ある程度、継続してやっていただいているということは、それなりの効果があるからだと考えています。

2年前に、キャリア支援担当の責任者から、フィードバックの一覧表をみせていただきました。そこには、私がこれまで面談してきた方の記録が残っていました。責任者からは、全社の平均的な退職率よりは、ずっと低くなっていると指摘していただきました。企業はこういうふうに成果をみていることがわかり、とても勉強になりました。

導入については、会社の規模、業態など、それぞれのやり方があるので、一律にこのパターンがいいとは言えません。社外支援を続けてきて言えることは、特定のやり方にあてはめるのが、一番乱暴なやり方ではないかということです。実際、現場では、どんなことが課題として持ち上がってきたのか。1つ1つ丁寧に洗い出していく。その上で、どう入っていくか。この部分は、すごく大事だと思っています。そういう意味では、秘訣と言われると、「ない」としかいえません。そんな答えになってしまいますが、それはそれで、大事なことかと思います。

下村 ありがとうございました。外部の専門家からの視点ということで、すこし角度の違ったご意見、お考えということになったのではないでしょうか。高橋さんはいかがですか。

高橋 面談に行くのが普通になってきたということは、キャリアコンサルタントと従業員の信頼関係ができてきたからだと思います。これが拡大して、従業員と会社の信頼関係まで広がっていくと、十分な成果、効果と言えるのではないかなと思います。

そういう意味では、会社に対する忠誠心、コミットメントというよりも、最近は、会社に対するエンゲージメント、つながり感。そういったことが、重視されるようになってきていると思います。信頼関係、信頼感が醸成されてきたのは、ある意味、いい効果ではないかと、感じた次第です。

下村 企業内キャリアコンサルティング導入の効果、課題については、さまざまなものがあると思います。企業内において、キャリアについて、皆さんで話す。もしくは、キャリアについて、気軽に問題提起し、情報共有し得る。そういう職場風土であるとか、最終的には職場文化まで行き着くと、一番効果が上がると言えるのではないか。三人のパネリストとコメンテーターのお話を聞いて、そう感じました。

導入のコツ、秘訣につきましては、宮地さんに「ない」と言われると、「なるほど」と思わざるを得ません。どこの企業においても、自分なりの環境でその都度、独自の工夫をされて導入をしている。そういう実態があると、改めて深く思った次第です。

少し時間がありますので、ご来場の皆様、ご質問、ご意見がありましたら、その場で挙手をお願いします。


質問者1 私はJCDAのCDAの資格を取りまして、経過措置で登録キャリアコンサルタントをしているものです。もともと、キャリアカウンセリングがあり、ラポールを形成し、そこから、キャリアコンサルティング、というイメージを持っていました。今回、国家資格のキャリアコンサルタントができたとき、いきなりコンサルタントという発想で、新しい資格は、これまでの資格とどのように整合性を保っていけばいいのか。この点で、少し悩んでいます。カウンセリングとコンサルティングについて、伺えればと思います。

下村 キャリアカウンセリングとキャリアコンサルティング、常にこうした会合では、概念上、どう違うのかという議論になります。一之瀬様のところでは、いかがですか。

一之瀬 伊藤忠商事の場合、組織名称は、いまだ、キャリアカウンセリング室と呼んでいます。コンサルティングと言ってしまうと、受け身になって、相談に来てくれないのではないかと懸念し、現在でも、カウンセリングで通しています。

カウンセラーは全員、国家資格登録を持っていて、キャリアコンサルタントですが、基本はカウンセリングと思っています。ただ、企業内カウンセラーなので、あなたの課題は何か、というのを見つけて持ち帰り、それに向けて、しっかり働いてほしいという面もあります。

高橋 あくまでも、私見ですが、名称としてのキャリアコンサルタント、あるいは、キャリアカウンセリング。基本的には名称の違いだけであって、本質的には同じと思っております。

ただ、我々の活躍の場が拡大していくと、役割や機能も変化、発展していきます。セルフ・キャリアドックでいうと、人材育成ビジョンを作るサポートをするのがキャリアコンサルタントの役割となります。そう考えていくと、今後、コンサルティングに近い役割も果たしていくことになります。そういう意味では、付加的にコンサルティングの側面が増えてくる、増えてきているのではないか。私個人は、そう思っております。

下村 キャリアコンサルティングについては、「キャリア」をとった普通のコンサルティングと同じような意味で、組織全体に介入、支援して、環境に対する支援を行う。この考え方を強調していると受け取られる場合もあります。しかしながら、海外の研究でも、今は、1対1のマンツーマンの個別支援のみをキャリアカウンセリングとは捉えていません。組織全体への介入であるとか、環境への支援であるとか。そうしたことも含めて、広くキャリアカウンセリングとして論じるようになっています。その意味では、キャリアカウンセリングとキャリアコンサルティングは、従来に比べると、言葉の垣根は随分低くなっていると認識しております。そんな形でよろしいでしょうか。ありがとうございました。


質問者2 静岡でキャリアコンサルタントをしているものです。10年ぐらい前に、産業カウンセラーやコンサルタントの資格を取得して、社内で企業内コンサルティングができないかと考えました。しかし、「社員が相談対応しても従業員は本音で話さない」との指摘もあり、結局、うまくいきませんでした。そこで質問ですが、一之瀬様や原様のところでは、企業内でキャリアコンサルティングを実施して、組織的な体制、仕組み、あるいは、ご経験というところで、お教えいただければと思います。よろしくお願いします。

 中日本高速では、キャリア相談窓口があり、人財開発チームが相談にあたっていますが、相談窓口は、必ず資格を持っていないといけないという決まりはございません。ただ、私自身、キャリアコンサルタントの資格を取るに至ったのは、業務の中で必要になってくると感じたからです。相談にあたる人財開発チームとしては、資格などの条件はありませんが、現状としては、リーダーと私が資格を持って、対応をしているところでございます。

一之瀬 相談にあたるのが社員でいいのかという話は、確かにあります。どうせ、人事部に話すのだろう。そう思っている社員もいます。そういうデメリットはありますが、そもそも、うちの社員は、自分からは相談に来ないタイプで、外部EAPと契約しても、3年間実績ゼロなので、打ち切りました。

弊社では、キャリアカウンセリング室の立ち上げ時に、仕組みをつくりました。節目研修では若手が中心となり、研修の後、研修の一環で相談にくるようにしています。アンケート結果はフィードバックして、研修チームと毎年1回やることも認められています。相談と研修の連携が、うまく軌道に乗っていると思っています。

 キャリア面談につきましては、先ほどご紹介したように、入社5年目6年目などの、若い社員については、我々のほうで対応しています。ただ、57歳、58歳の役職定年の方は、かなり年上ですから、外部講師に入ってもらい、キャリアコンサルティングをしています。研修講師が、そのまま面談に入るかたちです。若手に対しても、まず、我々が研修講師として顔をみせています。基本的には、面談でいきなり初対面ということはないので、研修の中で、多少なりとも、ラポール形成ができているのではないかと思っています。

下村 宮地さんのほうでは、今の論点について、どのようにお考えでしょうか。

宮地 本音を引き出さないといけない。このように、気負ってしまうと、とても難しいものになると思います。大事なのは、人と話をすること。その時間をとれるかどうかです。そういう意味では、面談は必須であるとか、体系的に面談のローラーをかける。こういったことは、一見、無駄なようにも見えますが、そういう場を設けることがとても大事です。

本音でしゃべっているかも気にかける必要はありますが、大事なのは、話をすること。その中で、相手が、私に見えないところでいいので、何か感じる、あるいは、気づきがある。それでいいのです。それぐらいの感覚で取り組むのもありなのではないかと思います。


質問者3 今、企業の中では、働き方の多様化、あるいは、働いている人の多様化が広がっています。社会インフラとして、キャリアコンサルティングが必要となってくるのは、育児休業者や高齢者、ここまでは入ってきますが、それ以外に、難病、LGBTなどもあります。あるいは、伊藤忠様のように海外赴任のケースもあるかもしれません。

企業内キャリアコンサルティングは、こうしたことに対して、どのように考え、どう包摂していくのか。周辺部の話になるかもしれませんが、影響は大きいと思います。取り組み事例、あるいは、考え方などありましたら、お教えいただければと思います。

下村 キャリアコンサルティングの発展的な論点にあたると思います。いわゆる、ダイバーシティー、LGBT、外国人の方、その他、企業内のマイノリティー、少数派と呼ばれている方に、企業内キャリアコンサルティングはどう対応するのか。

これからのキャリアコンサルティング、とくに企業内のキャリアコンサルティングにおいて求められてくる、一つの方向性ではないかと感じます。一之瀬さん、原さんのほうでは、そういった方面については、いかがでしょうか。

一之瀬 多様性については、具体的に手を打っているわけではありません。例えば、育休については、人事総務部の採用担当者、育児休暇担当が、復職するときに個人面接しています。こうした状況で、さらに、キャリアカウンセリング室に呼ぶのは、二度手間ということで、任意で相談に来てもらうようにしています。

LGBTについては、キャリアカウンセリング室でも検討して、社員証の裏に、さりげなくLGBTシールを張って、見えるようにぶら下げ、何か相談したいことがあれば、いらしてくださいというのが、無言でわかるようにしています。ただ、こちらから話しかけるのも変なので、待ちの姿勢です。

海外赴任については、行ってしまった駐在員への対応はできていません。もちろん、スカイプなどで何でもやりますと言っていますが、実績はほとんどありません。帰国時のカウンセリングも、やろうという案はあるのですが、戻ってきた人ってとても忙しく、それどことではありません。こちらも、受け身の状態です。人事としては、具体的な活動はしていませんが、来てくれたらいつでも丁寧に対応する。こういう姿勢で対応しています。

 弊社につきましても、多様性の問題につきましては、基本は、任意来談の中で対応しています。なお、セルフ・キャリアドックを今年度から始めたところですが、60人ぐらいの面談の中では、今のところ、そういった話は出ていません。

そういう相談に関しては、今後の課題として検討しておかなければならないと考えております。ただ、現状としては、積極的な対応はやっていない状況です。


下村 最後に、パネリストの皆様から、一言ずつお願いします。

宮地 私は基本的に来談者に対する相談業務をずっとやってきました。組織的な展開、あるいは、もっと中に入って介入するということも踏まえ、今後のキャリアコンサルティングを幅広く考えていく上で、発表者、登壇者の方々のお話につきましては、大変参考になりました。自分の職域を広げていく上でも、大変貴重な機会でした。ありがとうございました。

 私は、キャリアコンサルタントの資格を取ったばかりで、これからがスタートです。自己研鑽して、スキルを磨くとともに、キャリアコンサルタントのスキルを通じて、会社に貢献できればと思っています。キャリアコンサルタントとして、会社の組織、制度に反映できる役割を担っていきたいと思っております。

一之瀬 パネルディスカッションで、皆さんとこうして、貴重な場を経験、共有できたことで、自分の中でも、キャリアコンサルタントについて整理ができました。今後は、キャリアコンサルティング、セルフ・キャリアドックを受けるのが当たり前と思えるような、世の中にしていきたいと思っています。

高橋 今日はコメンテーターという形でかかわらせていただきました。改めて思ったことは、キャリアコンサルティングの効果は、どのように測るのかということです。効果は測れるものではないというご意見もありますが、逆に言えば、暗黙のうちに、効果を実感しているのかもしれません。それは何かを明らかにして、数字化していくこと。これは、研究者の役割なのではないかと、自覚した次第でございます。

下村 企業内のキャリアコンサルティングの現在と未来ということで、労働政策フォーラムを開催させていただきました。本日お集まりの皆様は、基本的には、キャリアコンサルティング、もしくはキャリアなどについて関心の高い方ばかりというふうに考えております。ぜひ、今日、皆様で話し合われたことにつきまして、職場に持ち帰っていただきまして、身の回りの方、もしくは、大勢の方に広めていただく活動をしていただければと思っている次第です。本日は、どうもありがとうございました。