パネル報告1 企業内キャリアコンサルティングの導入と効果

講演者
一之瀬 豊
伊藤忠商事株式会社人事・総務部キャリアカウンセリング室長
フォーラム名
第95回労働政策フォーラム「企業内キャリアコンサルティングの現在と未来」(2018年2月16日)名古屋開催

伊藤忠商事の一之瀬豊と申します。冒頭、弊社のキャリアカウンセリング室、初代室長の浅川正健からお話がございました。現在、私が5代目の室長をつとめております。

今日は、伊藤忠商事において、どのようにキャリアコンサルティングを行い、何が課題かをお話します。

人材育成・配置は各事業部門で

弊社は、大企業といわれていますが、カンパニー制を引いています。繊維カンパニー、機械カンパニーといったカンパニーが7つあります。人事部の採用チームが配属するのは、各カンパニーまでです。できるだけ、学生の希望を優先して配属を決めますが、繊維カンパニーの内定を受けた社員は、基本的にずっと繊維カンパニーで仕事をします。カンパニーを超えての異動というのは、あまりありません。

人材育成についても、会社としての方針はありますが、繊維部門でどう人材育成・配置していくかということは、繊維カンパニー任せとなります。それぞれのカンパニーは400人程度です。そう思えば、新入社員は、400人規模の会社に入ったともいえます。さらに、課は10人程の単位で独立性が高いので、ひとりの社員からみると、10人ぐらいの組織で働いているというのが、実感かと思います。

定期的に上司とキャリアビジョン面談

人事・総務部では、キャリアビジョンシートをつくり、毎年1回、上司が部員と面談するキャリアビジョン面談の仕組みをつくりました。キャリアビジョン面談をすることで、社員それぞれが考えているキャリアと、上司の考えている部下育成のキャリアプランとすり合わせをして、働きがいを感じてどんどん活躍できる仕組みをつくりました。

面談を重視しているので、キャリアビジョンシートにキャリアビジョン面談を実施したかどうかのチェック項目を入れました。現場によっては、1時間近く、キャリアビジョン面談をする上司もいれば、仕事が忙しいことから、短時間で済ませてしまうところもあります。

キャリアコンサルティングを研修の一環に組み込む

弊社では、集合研修の一環として、2007年より、個別にキャリアカウンセリングを実施しています。節目研修として、入社1年目、4年目、8年目の社員が対象です。これは、先ほどからお話に出ている、セルフ・キャリアドック、そのものです。

この制度の良さは、キャリアカウンセリングを研修の一環に組み込み、集合研修の後、ひとり1時間のキャリアコンサルティングを実施することです。上司も承認の上、個別にメールを送り、呼び込みをしています。仕事が忙しくても、「研修だから行ってきます」と社員がいえる形にしています。

もちろん、キャリアコンサルティングを受けたくないという社員もいます。しかし、来たら来たで、職場では言えない愚痴を全部吐き出して、すっきりして帰っていきます。ほとんどの人が初対面なので、何でも話せる信頼関係を構築するには、1時間位かかります。これを続けていくことが、とても重要です。

入社前のイメージと現実のギャップに悩む

キャリアカウンセリング室では、キャリアコンサルタントの有資格社員が複数で対応しています。相談内容としては、入社前に描いていたイメージと現実の配属先とのギャップに悩んでの相談が、少なからずあります。

総合商社なので、海外営業を希望している社員が、非営業部門に配属されると、現実と折り合いをつけることができず、悶々と苦悩するケースがあります。そういう人には、例えば、今はなぜ、経理の担当なのか。経理では自分の夢を実現できないのか。そんな話をしながら、社員ひとりひとりとじっくり向き合いながら、カウンセリングをしています。

キャリアカウンセリングの成果

キャリアカウンセリングは、社員が抱える課題や悩みの傾向を組織長研修にフィードバックして、職場でのコミュニケーション向上につなげています。

また、社内カンパニー制を引いているため、事業部門を超えた異動はありませんが、カウンセリングで、「どうしても他の事業で活躍したい」という強い希望が相次ぎ、一度は保留になった社内公募制を実現することにもつながりました。同じように、朝型勤務についても、トップダウンでトライアル的にスタートしたものの、現場で高い評価を得たことから、本格稼働に踏み切りました。

定期的なキャリアコンサルティングで個人も会社も変わる

キャリアカウンセリング室を立ち上げても、なかなか相談には来てくれません。現状、まだ、困っている人が相談に行くというイメージがあります。だからこそ、研修の一環として社員を呼び込み、キャリアカウンセリングを行うことが必要なのです。つまり、セルフ・キャリアドックを実施することです。悩んでいるけれど、「まあ、いいや」と思っている社員が、研修の位置づけで、キャリアカウンセリングにいき、話をする。これは、本人にとっても、会社にとっても、大きな利点があります。定期的にキャリアコンサルティングをすることで、個人も会社も変わります。

これからは、皆さんと一緒に頑張り、「まだ、セルフ・キャリアドックやキャリアコンサルティングを受けてないの」。こんなことが言える、世の中にしていきたいと思います。

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