研究報告 近年の大都市の若者の職業キャリア──第4回『若者ワークスタイル調査』より

本日は、昨年報告書としてまとめた「第4回若者ワークスタイル調査」結果について、幾つかポイントを絞ってお話ししたいと思います。この調査は2001年の第1回から5年おきに実施し、第4回調査は2016年に実施しました。したがって、第1回から第4回までの15年間で何が変わったのかということが分かるわけで、このデータに基づいてお話しします。

調査対象は、東京都に住んでいる若者です。東京都ほど若者の高学歴化が進んでいる都道府県はありません。都内の高校生の進学率が高いということと、地方から東京に移ってきた大卒者が多いため、大卒比率が非常に高いのが東京という土地柄です。年齢幅は調査によって若干異なりますが、25~29歳は共通していますので、同じ年齢層で比較しました。

大卒の正社員就職が増加

図表1は対象者が卒業した時の求人倍率です。例えば、第3回調査(2011年)の高卒対象者が高校を卒業したのは2000~2004年頃ですが、高卒就職が一番悪かった時期なので、求人倍率も1.31倍と低くなっています。

男性の25~29歳層について、各調査時点におけるそれまでの職業キャリアの変化を学歴別に示したものが図表2になります。このうち「大卒等」に着目すると、2001年から2016年までを通して「正社員定着」と「転職・一時他形態」を合わせた割合、つまり正社員として位置づけられる人たちが増えています。このように、大卒の就職状況は当初より改善していると同時に、安定した就業を継続できる環境が広がっていることが分かります。

高卒も景気回復時に正社員へ

一方、高卒については、大卒との正社員比率の差が相当あり、高学歴化による学歴間格差が広がっていることが見てとれます。ここで注目したいのが、2011年調査の高卒です。前述のとおり、高校卒業時に就職氷河期を経験しているので、卒業後に正社員として就職した人や、正社員のなかで転職した人の割合は低くなっていますが、「他形態から正社員」の割合が非常に高い。これは、卒業当初は非正規や無業だったけれど、その後、正社員になっている人たちです。経済状況が悪い時期に卒業した人たちが、その後の景気の良い時に正社員に吸収されたということが言えます。もちろんそこには、「3年以内の既卒者は新卒扱い」という政策の後押しとその効果もあったと思われます。

同じように2016年調査の大卒を見ると、「他形態から正社員」の割合が前回調査より多くなっています。実は、この層にはリーマン・ショックの時期に大学を卒業した人たちが含まれており、景気の状況によって回復する傾向が確かにある、ということが分かります。

女性のほうが大きい学歴間格差

女性のデータを見ると(図表3)、大卒者については男性大卒と同じように、正社員で就職して定着、または正社員のなかで転職する割合が増えています。一方、高卒女性はかなり低く、男性と比べ、女性のほうが学歴間格差が大きいと言えます。また女性の場合は、最初は正社員だったけれど20代後半には非正規になっている「正社員から非典型」が目立ちます。ある意味、非典型を選択するという面もあるでしょうが、そうしたチャンスしかないという可能性もあります。

中退者の男女のデータを比べてみると、男性は「他形態から正社員」がかなり多いのに対し、女性の中退者はずっと非正規の不安定な仕事にしか就けない「非典型一貫」が大半を占めています。このように、男女間のジェンダー格差がかなり存在していることが分かります。

フリーターに「ステップアップ」型を新設

私たちは、2000年代初頭に手がけたフリーターの調査を通じ、「夢追求型」「モラトリアム型」「やむを得ず型」というフリーターの3類型を打ち出しました。フリーター経験者は年々減って、25~29歳層のうちフリーター経験のある人は2006年の45.7%をピークに減少し、2016年調査では34.4%となっています。フリーター経験者の学歴構成の変化を見ると、大学・大学院卒の割合が急増し、フリーターの高学歴化が進んでいることが分かります。東京都という要因もありますが、全国的にも広がっていると考えられます。

フリーター3類型については、2016年調査のデータを分析し、新たに「ステップアップ型」というタイプを設けました。

「やむを得ず型」の増加

前回(2011年)調査と比べると、男女ともに増えているのが、「やむを得ず型」と「ステップアップ型」で、減っているのが「モラトリアム型」です(図表4)。「モラトリアム型」とは、やりたいことをこれから探すというタイプですが、こういう人が減って、本当は正社員になりたいけれど、なれない「やむを得ず型」が増えている。

「ステップアップ型」とは、就きたい仕事のために勉強したり修業したり、何らかの過程を経ようという人たちです。かつては「夢追求型」に含めていましたが、やや特徴が違うのではないかということで、別枠を立てました。特に典型的なのが、留学層です。帰国後なかなか仕事に就けない時期の一定期間にフリーターをしている人や、やりたい仕事がアルバイトからでないと就けないというような、将来をある程度設計したフリーターで、特に高学歴者が多いのが特徴です。

社会階層的要因が背景に

そうした新しいタイプのフリーターがいる一方、第1回調査時から指摘してきたことは、実家が豊かでないと思う人は、学卒直後に正社員で就職していない割合が高い、ということです。若者が非正規職に就く背景には、一定の社会階層的要因があることが、今回の調査でも確認されました。

フリーターから正社員になろうとした人のうち、正社員になった人の割合を見ると(図表5左)、「やむを得ず型」が43.3%と一番低い。また、フリーターの継続期間が長い人ほど、正社員になろうとしても難しいことが図表5右のグラフからも見てとれます。比較的高学歴で、将来設計があるような「ステップアップ型」とは対照的に、「やむを得ず型」は何らかの困難を抱え、正社員就職が難しいタイプと言えるでしょう。

「長時間労働」が離職理由のトップ

今回の2016年調査では、離職理由をテーマの一つに挙げています。第1回の2001年調査でも同じような形で、最初の仕事を辞めた理由について尋ねており、二つの調査結果を比べたものが図表6になります。そこから分かったことは、2001年調査の離職理由には、「仕事が合わない」というような、仕事内容に関わる要素が多かったのに対し、今回は明らかに労働時間問題がトップに上がっている。男女とも「労働時間(残業を含む)が長い」が一番の理由であるところに、この15年間の変化を読み解くことができると思います。

最後に、学卒直後に正社員として勤務している人と、転職して他社で正社員になった人の、現職への評価(職場への「気持ち」)を比べると、2001年段階では大きな違いがなかった可能性が高いのですが、2016年には転職した人のほうがやりがいや仕事への適合感を持つ人が多いということが確認されています。

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