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「子育て世帯の働き方を考える」というテーマについて、若干整理をさせていただきます。政府は2016年、「一億総活躍社会」という標語で、少子化に伴う若年人口の減少や高齢化に伴う諸問題に関する政策提言をしました。少子高齢化問題に本格的に取り組むという大きな流れは評価すべきことですが、「一億総活躍」への一種の反発とも言える動きもありました。とりわけ女性が活躍できる社会を実現するためには大改革が必要であるにもかかわらず、その道筋が見えてこないという、ある種の不信が存在することも事実であります。これまで性役割分業を徹底することによって成長してきた社会の原理を転換し、男性と同じように女性を働かせようとしているのではないかという批判や反発は、現在も残っているでしょう。また、恵まれた一部の女性の社会参画の推進の背後には、不安定雇用のまま取り残されている大勢の女性がいるのではないかという危惧もあります。

男女雇用機会均等法が制定された1985年当時は、「働き方改革」という問題意識もなく、男性並みの長時間のハードな働き方をする女性以外は生き延びることができませんでした。しかし90年代以降、労働市場は大きく多様化し、非正規雇用で働く女性が急増する時代に突入しました。2000年代以降も働く女性は増えましたが、安定雇用でなく不安定雇用で働く女性や男性も増えた結果、結婚できない女性、つまり「共働き化」という路線に乗れないまま中年期に至る女性たちが増えてきた。これも非常に深刻なジレンマであると言えます。

世帯の様相は極めて多様でありますが、共通して言えることは、大黒柱の男性(夫)が一家を支えられる家庭というものが、次第に少なくなってきているということです。方働き家庭の貧困もあれば、シングル女性の貧困、ひとり親世帯の貧困という問題もあり、これらは子どもの貧困問題とも密接につながっています。また共働き世帯は常に忙しく、余裕のない日々を送らざるをえないような状況があります。

さらに私たちが直面している問題は育児だけでなく、親の介護や家族や自身の病気を抱えながら働くといったケアや健康の問題が極めて大きくなっていることです。かつて専業主婦がそのほとんどを担っていたケアをどのように再分配しながら生計を成り立たせていくのか──。様々なジレンマに対して、ある程度時間をかけながら全体としてバランスのとれた参加型社会に移行していくものと思われますが、その際、多様なライフスタイルに応じつつ、共働き世帯だけを前提としない多様性のある社会づくりを目指していくことが重要です。