事例報告 テクノロジーの力を使って働き方を変えていく

講演者
松林 大輔
一般社団法人at Will Work 代表理事
株式会社ストリートスマート代表取締役
フォーラム名
第93回労働政策フォーラム「子育て世帯の働き方を考える─行政、企業、家庭をつなぐ─」(2017年10月3日)

私はストリートスマートという会社とat Will Workという社団法人を経営しています。at Will Workは、働き方を選択できる社会づくりを目指して設立された法人で、働き方改革を支援する活動を積極的に展開しています。例えば年1回、政治家や起業家などを招き、これからの働き方について考えるカンファレンスを開催し、毎回600人から1,000人近くが参加しています。

ストリートスマートは、ITを活用して最新のクラウドツールの導入サポートや、そのトレーニング事業を手がける会社です。グーグル社が出しているクラウドツールの研修は、その多くを弊社が実施しており、設立からの8年間で、1,500社を超える企業を支援してきました。

これからのワークスタイルをリードする

当社のミッションは、一人ひとりが活躍し、仕事を歓びに変えられる人を一人でも多く増やしていくこと──。社員はもちろん、関わっている企業やお客様も含め、一人ひとりが活躍できるような社会づくりを目指してサービスを展開しています。ビジョンは「これからのワークスタイルをリードする」ということで、我々もいろいろな働き方に挑戦し、企業様とも連携しながら進めています。

働きやすい環境の追求で退職者はゼロ

当社の社員は約30人です。そのうちの7割が女性で、海外(タイ)拠点で働く社員も女性です。1歳から5歳くらいまでの小さな子どもを育児している女性が多いこともあり、在宅ワークやリモートワークを導入しています。オフィスへの出勤義務はなく、例えば喫茶店などで仕事をする場合の必要経費は、全額会社が支給します。また、子どもが急に体調を崩して仕事ができないこともありますので、会社に事前申請することなく休むことができる「フレキシブルデー」を運用しています。月3日を上限に取得でき、それを超える場合は上長に申請することにしています。そして、10日以上の長期休暇を年3回以上取得するという取り組みも行っています。

創業から8年、社員を雇用してから6年が経ちましたが、これまで一人も辞めていません。大企業と比べて福利厚生などの制度面でカバーできる範囲は限られていますが、その代わりに柔軟性を高め、働くメンバー全員が働きやすい職場・環境づくりを徹底的に追求してきた成果だと思っています。

いろいろな映像を社内で共有

前述のとおり、当社では場所を選ばない働き方を推奨しており、週1回の朝礼はテレビ会議で行っています。画面中央は東京オフィスが映り、その下には別の場所から参加する社員たちが映し出されます。それぞれ、例えば「大阪オフィス」「自宅」「カフェ」「海外」など、どの場所にいるのかも表示されます。会議は録画し、終了後にインターネット上で共有できる仕組みになっていますので、都合が悪ければ会議に参加する義務はなく、後から動画を確認すれば良いことにしています。

インターネット上でのテクノロジーの中でも、映像の活用は非常にインパクトがあります。例えば、社外研修の様子や、面接・面談も(許諾を得て)動画に撮って共有することで、その場に出席できなかったメンバーたちにも教育の機会を提供できたり、面接評価にも加わってもらえたりする。また、当社は企業にIT研修のサービスを提供していますが、その教材やマニュアルを社内で作成する際の指示などは、音声を動画で送ったり手書きのメモを映像にして共有しています。個別の打合せもテレビ会議を使うこともありますので、社内ミーティング等への参加や議事録作成は特に強制していません。最近は顧客企業に対し、映像化した提案書を作成するサポートもしており、さらに生産性を向上させていくための取り組みに挑戦しています。

クラウドワークの導入には注意が必要

当社は、企業が働き方改革を推進できるよう様々なお手伝いをしております。例えば、テレワークだけでなくサテライトオフィスの場所をつくって働ける環境を整えたり、アウトソーソングの仕組みをつくるといったサポートも手がけています。

そうしたなかで実際に直面した課題をご紹介しますと、IT、特にクラウドサービスを導入する時は、十分注意しないと労働時間が延びる可能性が高まります。何故ならば、いつでもどこでも働けるから──。良く言えば「柔軟性が高まる」のですが、慎重に導入しなければ労働時間だけが延びてしまいます。深夜にチャットが飛び交ったりするのを防ぐためにも、例えば夜の時間帯は上長がメッセージを送るのを禁止するというルールをつくるなど、従業員の心理的負担を減らす取り組みをしていくことが重要だと思います。

なかには、何のためにITを導入して改革するのかが不明瞭なまま「ITを活用しなければいけないから使うように」と現場に押し付けるケースもありますが、大抵は失敗に終わります。日常業務に追われて忙しい現場にとっては、ITの仕組みを入れて覚えるのが大変なんです。企業によってはテレワークを推進したいというところもあるでしょうし、育児中の女性社員が多いので労働時間を減らしたいという思いのある企業もあるでしょう。そうした個々の事情やニーズにどのようにつなげていくのかが重要です。

もう一つの問題は定着化です。「先進的な取り組みを導入したのに運用されない」というのが、手段が目的化してしまった典型的な例です。そうならないためにも、経営層から現場まで各役割に応じた定着化のプロセスを事前に決めておくことが重要でしょう。

文化の浸透と社内制度の見直しを

当社はテクノロジーの活用を本業としています。たとえ女性が働きやすい環境をつくろうと思っても、やはり文化がないと浸透しませんので、風土を醸成していくことが肝要です。そして文化だけでは補えない部分が多々ありますので、社内制度を見直していく。大企業になるほど、制度もセットでつくらないと運用が難しい局面も出てくると思います。

リモートワークについては、「労務管理はどうするのか」「仕事をサボるんじゃないか」という声がよく聞かれます。ただ、当社がこれまでいろいろな企業様と一緒に取り組んできた中では、サボるというケースは非常に少なかったと認識しています。というのは、人間は仕事を任せられると不思議とサボらずに、逆にもっと任せてほしいと思う側面があるようです。

昔の組織はヒエラルキー型組織で、これから目指すべきは「ホラクラシー型」の組織です。ヒエラルキー型の意思決定は上へ上へと上げていく仕組みですが、ホラクラシー型は権限を委譲し、それぞれの現場に意思決定させることで自走する組織を保ちます。なかなか難しいことかもしれませんが、権限を委譲するためには信頼することが必要です。同時に、柔軟性や主体性を強化していく──。そして何よりも、多様な環境の土台には「カルチャー」が必要であり、そうした文化をつくっていくというトップや会社のメッセージが非常に大切だと思います。

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