事例報告② すかいらーくグループが目指す仕事と家庭の両立支援

講演者
匂坂 仁
株式会社すかいらーく人財本部人財企画グループディレクター
フォーラム名
第92回労働政策フォーラム「今後の企業の転勤のあり方について─仕事と家庭生活の両立の観点から─」(2017年6月29日)

すかいらーくグループは、ガストをはじめバーミヤンやジョナサン、夢庵といったブランドのレストランを国内外に展開しております。ブランドは20以上、店舗数は国内で3,000を上回り、海外を含めると3,100となります。フランチャイズは50店に満たず、ほとんどが直営のため、指揮命令系統が非常に通りやすい経営スタイルになっています。この3,000店を支えるために、食材購入から加工、店舗への物流、お客様へのご提供までの全てが一貫したマーチャンダイジングシステムで動いていますが、誰がこれらのシステムを動かしているかと言えば、全て「人の力」、すなわち従業員です。

正社員の雇用4区分を導入

グループ全体の正社員数は約6,000人、クルー(パート・アルバイト)は約9万4,000人と、合わせて約10万人の従業員を擁しています。

正社員については、①海外も含めた全国転勤のある「ナショナル」、②全国を8分割した圏内で転勤がある「ゾーン」、③通勤可能圏内で異動がある「エリア」、④異動がない「コミュニティー」という四つの雇用区分があります()。「コミュニティー」については、キャリアが長く、高い志と能力を持つ非正規の人たちを登用する社員区分です。例を挙げると、昼の時間帯を切り盛りするのは地域の主婦層のクルーが多く、地元のニーズをよく知っている人たちです。その中から「店長をやってみたい」と手を挙げる人たちが現れ、その結果、業績が上がった店舗もあります。こうした人たちをきちんと正社員に組み入れようと設けたのが「コミュニティー」です。

広域から狭域への変更は随時受付

雇用区分間の異動については、広域から狭域への場合、例えば親の介護などやむを得ない事情が発生した時は随時受け付けています。一方、それ以外の理由の異動は、広域から狭域、狭域から広域のどちらでも、毎年秋に本人の希望をヒアリングして人事面談を行い、能力面や人物面などを勘案・判断した上で区分変更を行っています。

ただし、女性の活躍が叫ばれている現在、こうした社員区分の制度だけではなかなか対応が難しいこともあるため、労働組合も一緒になって女性が働きやすい環境づくりを検討しています。

育児・介護の支援――法定を上回る制度を導入

まず、育児・介護のサポートに関して、育児中の短時間勤務制度の対象を、法令が「3歳になるまで」のところを「小学校3年生まで」の子を養育する者としました。子の看護休暇日数については、法令が「1年間で5日、2人以上は10日」のところ、当社では「1年間で10日、2人以上は20日」と大幅に上回っています。また、法定の年次有給休暇は3年目に失効してしまいますが、失効する有給休暇を「病気・育児・介護有給休暇」として3年目以降も積立が可能となる独自の有給休暇制度を実現しました。これにより、介護や子どもの看護あるいは自身の病気などにも十分対応できるようになっています。

柔軟な労働時間で育児社員のニーズにも

現在、フレックスやスーパーフレックスなど柔軟な労働時間を導入し、「働き方改革」を進めている企業も多いかと思います。しかしながら当社の場合、本部の事務系の機能を持っている部門は別として、店舗ではそういう訳にはいきません。なぜならば、「あのレストランは朝10時には必ず開いて、夜12時まで営業している」などとお客様から認知され、いわば「町の目印」になっているからです。このように、社会のインフラの一つとして食事を提供するのが当社の使命だと考えております。

こうした状況の下で、当社の業容に合わせた労働時間管理のあり方について検討を重ねてきました。その結果、現在は1カ月単位の変形労働時間制を採用しています。また、「8時間」「4時間」という従来の組み合わせの運用パターンに、「6時間」「10時間」「12時間」を追加しました。レストランやお店は週末が最も活況を呈する時ですので、どうしても長く働かざるを得ないことが出てきます。それならば、週末は10時間、場合によって12時間働いて、その分、平日の勤務を6時間などに短くする――。実は、こうした組み合わせは、特に子育てをする社員にとって使い勝手が良いものだと分かりました。平日、保育園に子どもを送った後に出社し、夕方のお迎えにも間に合う。かつ、遅刻・欠勤控除に引っかからないので、給与も賞与も満額受け取ることができます。休暇や短時間勤務制度だけでなく、こうした労働時間の選択肢をつくることも重要だと考えております。

深夜営業を大幅に縮小

その他の取り組みとしては、24時間営業を見直し、深夜営業の大幅縮小を図りました。約1,000店のうち、約750店を原則深夜2時閉店、朝7時開店としました。今の若い人は、夜中に外で遊んだり車を運転したりする人が少なくなっています。そのため駐車場を備えている郊外型レストランでは、夜中に来店するお客様がほとんどいない。それならば、営業時間を短くしても良いのではないかということで見直した次第です。

2002年に「インターバル12時間以上」を導入

「インターバル」については昨今その必要性が叫ばれていますが、当社では、2002年に「インターバル協定」を締結し、退勤から出勤までを「12時間以上」と定めています。なぜかと言えば、24時間営業の店舗では、インターバルを決めないと際限なく仕事をしてしまう可能性があるからです。それは絶対避けなければいけないということで、早い段階から当社では取り入れてきました。

休暇取得についても積極的に推進しており、「年2回の5連休」が定着した現在、目下「年2回の7連休」に挑戦しています。さらに、年の所定休日も108日から117日へと増やしました。

70歳まで雇用を延長

高齢者の活用が今後ますます重要になっていくなか、当社では、定年を65歳に延長するとともに、70歳まで雇用を延長することとしました。定年を延長すると給与が6~7割に下がる企業も多いかと思いますが、当社では職務等級制度に変更したため、同じ仕事であれば給与は下がりません。例えば、60歳で店長を務めた人が、61歳になった途端に能力が落ちるはずもなく、したがって当然給与も変わらない。雇用が延長されることで、年金受給までの生活が安定し、個人に合わせた「終労タイミング」を選択することができるようになります。

「価値ある豊かさの創造」のために

当社は自社の健康保険組合を持っていますので、このメリットを最大限に活かして従業員の健康管理を行っています。例えば、健康診断を受けていない人には罰則を設けることにしました。さらに重症者には、個別に電話をかけてきちんと通院しているかを確かめています。病院に行っていないと健保組合に請求書が届かないので、そこまで把握して動いています。本当に良い仕事をしてもらうためには、社員の健康管理は欠かせません。

こうした取り組みを続けてきた成果もあり、「くるみん」や「ホワイト500」という健康経営優良法人の認定も受けることができました。

当社のようなサービス業では、従業員の満足度が高まらない限り、お客様の満足度も高まらないと常々考えています。そのためには、従業員に対して環境をきちんと整えていくことが重要であり、それが経営理念である「価値ある豊かさの創造」につながるものと信じております。

プロフィール

匂坂 仁(さぎさか・ひとし)

株式会社すかいらーく人財本部人財企画グループディレクター

1988年6月株式会社すかいらーくに入社。店舗、工場、バイヤー、中国マッシュルーム農場、宅配事業、新事業開発を経て、2000年4月介護事業子会社に移籍。2009年4月に株式会社すかいらーくに帰任。現在、人財本部人財企画グループ・ディレクターとして、人事政策制度と教育研修を管掌。

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