事例③ 臨床心理学・カウンセリング心理学の立場から感じること

キャリア領域における医療を含む支援には、図(キャリア領域における医療を含む支援のグラデーションモデル)のようなグラデーションがあると思います。上部のラインより上は医療行為になってくるため、医師免許を持たない臨床心理士やキャリアコンサルタント等が踏み越えるわけにはいかない領域です。他方、それより下の「専門的対人支援行為」でまとめた部分には、臨床心理士やカウンセラー、キャリアコンサルタントとしての仕事があると考えています。

図 キャリア領域における医療を含む支援のグラデーションモデル

参照:配布資料2ページ(PDF:380KB)

そしてここには、精神的健康度や介入のスタンス、支援ニーズなどの多側面でのグラデーションがあり、この部分に共通するのは、鶏と卵の「そっ啄同時」という共通テーマあるいは課題があるだろうということです。「そっ啄同時」をするには、支援者が支援される側の気づきを促し、その気づきに基づいて問題解決を進めていくプロセスを手伝っていくわけですが、このグラデーションによってそのプロセスを進めていくときの主導権の持ち方が少しずつ変わっていると考えています。

やってはいけない正論を振りかざす関わり方

治療あるいは症状のコントロールが大事になってきます。「治る」ことが必ずしも叶わない疾患や障害もありますので、まずはその人の人生において、その卵の殻を破ることが大事なのだろうか、場合によっては、卵のなかにとどまることも一つの人生であり、なかにとどまりながらその人なりの人生を生きていくことを支援していくようなことも念頭に置きながら関わっていくわけです。

それに対して、もう少し健康度が高まってくると、そこにとどまりながらもまずは支援される側である雛の方からかえろうとするタイミングが起こるのを積極的に待ちつつ関わっていきます。さらに、より健康度が高い企業に勤務する人へのキャリアコンサルティングでは、もう少し、支援者側にイニシアチブが来ます。ただし、その際にやってはいけないのが、正論を振りかざしていくような関わり方だと思います。

できないことはやらない

こうしたグラデーションのなかで考えていくと、キャリアコンサルタントのトレーニングは、専門家間の共同や相互リファーのなかで、「できないことはやらない」原則のもとに行われているように認識しています。それは、「自分はキャリアの専門家なので、パーソナル、メンタルヘルスの問題は別の専門家にリファーして、自分が扱うべきではない」ということです。ただ、その一方で、自分のできることだけをするという考え方では、「これはキャリアの問題でないから、他に行ってください」といったようなスタンスになってしまい、対人支援職が本来果たすべき大事な機能・役割までをも軽視することになる懸念もあります。

プロフィール

永作 稔(ながさく・みのる)

駿河台大学心理学部准教授

筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。博士(心理学)。宇都宮市公立中学校SC、筑波大学キャリア支援室専任講師などを経て2009年駿河台大学心理学部に着任し、2011年より現職。インターンシップなどのキャリア教育科目のほか、同大大学院にて臨床心理士の養成課程も担当している。専門領域はキャリア発達とカウンセリング、特に自律的動機の発達促進について研究している。主な研究業績として、「カウンセラーに求められる基本的態度①~③」[共著:分担執筆](JILPT『新時代のキャリアコンサルティング─キャリア理論・カウンセリング理論の現在と未来』、2016年)、「心理学を活かしたキャリア教育教材の開発と実践」(進路指導、2015年)などがある。臨床心理士、厚生労働省職業能力開発専門調査員。

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