基調講演② キャリアコンサルタント登録制度創設の狙い──課題と展望

講演者
伊藤 正史
厚生労働省職業能力開発局キャリア形成支援課長
フォーラム名
第89回労働政策フォーラム「新時代のキャリアコンサルタント─その使命と責務─」(2017年2月3日)

キャリアに関わる施策をより確実に、安定的・効果的に運営するための基盤的仕組みが、キャリアコンサルタント登録制度をはじめとした諸制度です。概ね平成13(2001)年度以降、民間の試験機関、養成機関等にご協力をいただき、「標準キャリア・コンサルタント」の計画的な養成と活用促進・普及に努めてきました。その実践の積み重ねに加え、社会的要請によってキャリアコンサルタント(国家資格)登録制度が創設されました。

昨年4月から施行されたキャリアコンサルタント登録制度では、キャリアコンサルタントは名称独占の国家資格となり、職業選択、能力開発等に関する相談・助言を行う専門家として位置づけられ、守秘義務等のルールも整備されています。

昨年末時点のキャリアコンサルタント登録者数は、約2万2,000人。旧制度下でのキャリアコンサルタントの「延べ養成数」が約5万4,000人で、まだ旧制度における標準キャリア・コンサルタント等で未登録の方も一定数残っています。周知の協力をお願いしたいと思います。

職業能力開発施策の流れ

従来のキャリアコンサルティングは、労働市場のインフラの一つと位置づけられていましたが、これに加え、労働市場政策、人材育成政策のハブ、中核の役割を担うものとイメージいただければと思います。平成13年の法改正で、職業生活設計、言い換えれば、キャリアデザインが、職業能力開発促進法、また、雇用対策法に明確に位置づけられました。ここが能開法制の大きな転換点です。その後の様々な施策の進捗、成果を踏まえ、平成27(2015)年改正で、キャリアコンサルタント登録制度の創設や、ジョブ・カードの法制化等がなされた、という大きな流れです。

「キャリア」を労働市場政策上の概念と捉えるなら、①時間軸を包含していること②労働者の主体性に着目していること③個人と企業などの組織にブリッジをかけられる概念であること──の3点がポイントです。キャリア(形成)という、明確に時間軸を包含した概念を政策目的として設定することにより、労働市場政策をより中長期的な観点から推進し、マクロの政策効果の向上を期すことが可能となりました。2点目の労働者の主体性への着目、言い換えれば、労働者の心理、価値観へのアプローチにより、一人ひとりの労働者のエンカレッジ、また、より積極的な行動促進に着目した政策展開が可能になりました。また、個人に着目してキャリア支援を進めることは、今日の経済・社会環境の下、企業の人材育成にも資するものです。つまり、キャリア政策を進めることは、企業をはじめとする組織にとっても大いに意義があることだと認識しています。

登録制度創設の意義

キャリアコンサルタント登録制度を創設した意義は、3点あります。1点目は、キャリアコンサルティングを利用される人々が安心して積極的に活用できる環境の整備です。キャリアコンサルタント登録制度はキャリアコンサルタントの方々のためという以上に、ユーザーオリエンテッドな制度なのです。2点目は、国家資格となったことで、能力習得の目標が明確に設定され、量質両面でのより計画的な養成が容易になりました。また、キャリアコンサルタントを国家資格制度として創設することで、他の法令に基づく人材育成や労働市場政策との紐付けがより容易になったと言えます。

キャリアコンサルタント資格を目指す上で、厚生労働大臣認定の養成講習を修了、または職業相談その他の実務経験年数をクリアし、登録試験機関が行う試験に合格し、指定登録機関に登録をすることで、初めて名称独占のキャリアコンサルタントを名乗ることができます。旧「標準キャリア・コンサルタント」資格取得者は、経過措置として、改めてこの試験を受けなくても登録が可能です。この経過措置期間はまだ4年余りありますので、ぜひ積極的に登録していただきたいと思います。

能開法改正で新設された3条の3では、「労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする」という理念規定が設けられました。この理念の実現を担保するための具体的な仕組みとして、キャリアコンサルタント登録制度が創設をされたものとご理解いただければと思います。

各企業・職場での普及が重要に

キャリコン登録制度をどうやって展開をしていくのかを考える上で、企業、職場ごとのキャリアコンサルティングの普及が大変重要な課題となります。そうした観点から、今年度から2年計画で、労働者にそれぞれの職場で定期的にキャリアコンサルティングを受けられる機会を提供する「セルフ・キャリアドック」導入のための取り組みを進めています。ほとんど全ての労働者が企業、職場に所属しており、職場、企業がキャリア実現の場そのものであることから、このような仕組みを導入することが労働者個々人のキャリア形成を促すとともに、企業の人材育成上も極めて有意義だと考えています。

平成27年10月に衣替えした新ジョブ・カードも、キャリア形成のためのツールとして、キャリア形成促進助成金の活用などと相まって、企業をはじめとする訓練機関以外の機関でも普及が進んできました。専門実践教育訓練給付制度についても、この受講の要件として、キャリアコンサルティングが組み込まれています。キャリアコンサルティングと学びの両輪、こうした施策もより一層効果的に進めたいと思います。

人材育成施策の中核に

一昨年の産業競争力会議で、文科大臣・厚労大臣が共同でプレゼンした「未来を支える人材力強化パッケージ」でも、「セルフ・キャリアドック」は政策の柱として盛り込まれています。昨年11月の働き方実現会議での大臣プレゼン資料でも、人材育成の充実ということで、企業における教育訓練の実施拡大、個人のキャリアアップへの強力な支援を掲げ、企業のキャリア支援の取り組みを促すための「グッドキャリア企業アワード」の創設や、「教育訓練給付」の拡充などが盛り込まれています。ここでも、キャリアコンサルティング施策が「ハブ」として位置づけられています。

今後、キャリアコンサルタントの国家資格取得者や技能士などの専門職、職能集団の形成と、そのなかで切磋琢磨できる環境をどのように形作っていくかも、キャリアコンサルタントの質の拡充という観点から、大変重要だと思います。

キャリコン像の明確化と養成を

キャリアコンサルタントは、キャリアに関わる社会的課題を解決する専門家です。しかし、キャリアコンサルタント国家資格を取ったからと言って、あらゆる領域、あらゆる対象者のキャリア上、キャリア形成上の課題を解決できるとは思っていません。

国家資格というプラットフォームの上に、2階、3階として、何を建てていくかが大変重要だと思います。そういった意味では、現在の働き方改革の文脈のなかで、例えば非正規雇用の若者や子育て中の女性、あるいは病気を抱えていたり、生活困窮者などの人々に対し、具体的にどのようにアプローチできるのか、そのためのキャリアコンサルタント像の明確化と養成が大変重要な課題だと思います。

登録制度と他制度を有機的に結びつける必要

今後の課題として、キャリアコンサルタント国家資格という公的制度と他の制度を有機的に結びつける作業も進める必要があります。そのため、一つには、まず、それぞれの支援の効果を上げるためのリソースとして、キャリアコンサルタントを活用していくという観点で、キャリアコンサルタントの出番をそれぞれの施設や制度のなかで増やしていくというアプローチ。2点目は、それぞれの施策を目的に叶った対象者に提供するため、専門家であるキャリアコンサルタントの総合的な判断によって、施策と対象者を的確に結びつけること。3点目は、キャリアコンサルティングの活用そのものに関わる各種助成金、給付金による支援です。キャリア形成促進助成金による、それぞれの企業におけるキャリアコンサルティング導入支援の仕組みはすでにあります。今後、専門実践教育訓練の教育訓練給付の対象に、厚生労働大臣認定のキャリアコンサルタント養成講習で一定の要件を満たすものも含めることを検討しています。今後も、多面的にキャリアコンサルタント登録制度と他の政策を結びつける作業を進めていきたいと思います。

プロフィール

伊藤 正史(いとう・まさし)

厚生労働省職業能力開発局キャリア形成支援課長

1984年労働省(当時)入省。職業安定局若年者雇用対策室長、首席職業指導官、職業能力開発局キャリア形成支援室長、能力評価課長など、主に若者雇用対策、キャリア形成・人材育成政策に関わる職務に携わる。2015年10月の組織改革によるキャリア形成支援課発足と同時に現職。

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