事例報告2 三陸鉄道の雇用維持の取り組み

講演者
望月 正彦
三陸鉄道株式会社代表取締役社長
フォーラム名
第85回労働政策フォーラム「地域における雇用機会と就業支援」(2016年5月11日)仙台開催
三陸鉄道の運行区間を表した地図

5年前の東日本大震災で、三陸鉄道は甚大な被害を受けましたが、多くの皆様からご支援・ご協力をいただき、2年前の4月に全線で運行を再開しました。

三陸鉄道は、岩手県の陸中海岸を縦貫する路線を持つ、第三セクター方式の鉄道会社です。国鉄改革で廃止対象となった3路線と新線区間を合わせ、1984年4月に開業しました。運行区間は、北リアス線(宮古~久慈駅)が71.0km、南リアス線(盛~釜石駅)が36.6kmです。

沿線の人口減少で赤字に

開業から10年間は黒字でしたが、それ以後は赤字が続いています。理由は、過疎化が進み、人口減少が始まったからです。沿線の人口は、30年前に比べると8割以下になり、高校生は半分以下に減ってしまいました。また道路が整備され、マイカーの普及が進んだことも要因の一つです。ただ、子どもや高齢者にとっては、三陸鉄道は貴重な「生活の足」です。また、震災前は、利用客の1割が観光客でした。観光客が来ると、宿泊して食事をし、土産を買って帰るので地域が潤います。このように、三陸鉄道は、地域の活性化や観光振興にも貢献してきました。

震災後の雇用対策-全員の雇用確保へ

そうした中で、東日本大震災が発生しました。駅や線路は流され、甚大な被害を受けました。被害が少なかったところを中心に3月中に部分運行を再開しましたが、社員の雇用維持もおぼつかない状況でした。では社員を解雇するかとなると、全線運行を再開する時に要員不足になります。それから、1984年の開業時に大量に採用した社員が数年後に定年に達するという状況だったので、解雇せず維持する方針を決めました。

運転士などの余剰人員の一部は、関係会社(いわて銀河鉄道)に1年間限定で派遣することにしました。また、運転士などに、旅程管理者(ガイド)等の資格を取得させて、運転以外の業務も担当させることにしました。一方、人員が余っているにもかかわらず、社員は計画的に採用しました。2011年4月に運転士1人を採用し、その後も毎年1~2人ずつ採って、今年は3人入社しました。そのうちの2人はUターンです。震災後に11人採用しましたが、まだ1人も辞めていません。

なお、3年後には宮古-釜石間の山田線を引き受けることが決まっており、そうなると、さらに40人ぐらいを採用しなければならないと思っています。今の厳しい雇用状況の中で、少しずつ採用をしていきたいと考えているところです。

「震災学習列車」で被災地を知る

「震災学習列車」のガイドをする運転士
(三陸鉄道提供)

4年前から「震災学習列車」を運行しています。修学旅行生などに、列車を貸し切りで乗ってもらい、被災地について学習してもらうのが狙いです。これまでに3万人以上の児童・生徒が乗車しました。先ほど、運転士にガイドの資格を取得させているとご紹介しましたが、「震災学習列車」のガイドは当社の運転士が務めています。修学旅行生は、被災地を訪れ、実際に自分の目で見て肌で感じることができるので、非常にリアリティがあり、毎年ご好評をいただいています。

2014年に全線運行を再開

三陸鉄道が全線運行を再開したのは、2014年4月でした。その記念列車の乗員には、震災の年に採用した新人運転士と採用1年目の車掌の二人を指名しました。二人とも運転士として、今では一人で運転しています。こうした活躍の場を新人に与えると、みんな張り切って良い効果が生まれます。

社員が辞めない理由

三陸鉄道の社員が辞めない理由を私なりに考えてみました。給料は決して高くありません。むしろ安いです。また、一人何役もこなさなければなりません。大きな鉄道会社では、運転士は運転だけ、車掌は車掌だけというように自分の仕事が決まっています。ところが三鉄では、運転士もやる、3両編成になれば車掌もやる、車両の検査もやることがあります。さらに、当社には32年前に採用された50歳代の社員が多く、なかなか昇進できません。

強い使命感

こうしたデメリットがある中でも、新入社員が辞めない理由は、一つは、全国から多くのご支援や応援をいただいているので、使命感が強いのではないかと考えています。

風通しの良い職場づくり

二つ目は、意見や提案をしやすい企業風土、風通しの良い職場づくりに努めているからだと思います。私は全社員と面談するのですが、そこで聞かれた若い人たちの意見や要望は、幹部にフィードバックして共有しています。

資格取得を奨励

三つ目は、会社が社員の資格取得を奨励していることが挙げられます。気象予報士の試験に合格した社員もいますし、クレーン操作の試験に挑戦する社員もいます。このように、自分のやりたいことを会社が後押しして、自己実現や達成感を味わうことができるのも魅力の一つだと思います。

地域への愛着

四つ目は、やはり、地域社会や住民への愛着があり、一体感が強いからでしょう。採用する時、必ず「なぜ地元の企業に残りたいか」と尋ねていますが、採用した人は「宮古が好きだから」とか「沿岸部が好きだから」ということを言います。地域とのつながりを大事にしているので、当社の社員には地域の消防団員になっている者が多くいます。

若い人のモチベーション向上

取材を受けることがモチベーションの
向上につながる(三陸鉄道提供)

そして最後に付け加えるならば、三陸鉄道はメディアから取り上げられることが多く、先ほどの記念列車の運転士のように、若い社員をマスコミの前面に立てることで、モチベーションが高まるのではないかと、このように考えています。


当社のコーポレートスローガンは、「笑顔をつなぐ、ずっと…。」です。お客様の笑顔をつなぐためには、当然、社員も笑顔でなければならないので、社員が生き生きと活躍できるような環境をつくることが非常に重要です。三陸鉄道は、これからも、地域の笑顔をつなぎ、そして全国からたくさんのお客様に来ていただいて、地域に笑顔を咲かせたいと願っています。

プロフィール

望月 正彦(もちづき・まさひこ)

三陸鉄道株式会社代表取締役社長

1974年4月岩手県職員採用。1999年4月岩手県企画振興部新幹線並行在来線対策監。2002年4月岩手県商工労働観光部企業立地推進課長。2003年7月岩手県久慈市助役。2006年4月岩手県企画振興部地域企画室長。2008年4月岩手県盛岡地方振興局長。2010年3月同上退任。同年6月三陸鉄道株式会社代表取締役社長。

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