事例報告1 みやぎの産業復興の現状と雇用対策

みやぎの産業の現状について、製造品出荷額の推移を見てみると、2011年は震災の影響で落ち込みましたが、2013年には震災前の水準を超え、2014年は過去最高の3兆9,722億円となっています。2010年と2014年の上位6分類を見ると、「食料品」は1位から3位に後退しましたが、「輸送用機械」が6位から4位に上がり、その出荷額も倍以上に伸びています。この要因は、2011年にセントラル自動車が大衡工場で自動車製造を稼動したことが大きく、それ以降も、宮城県に立地する自動車関連の企業が増えていることです。現在、東北地域での完成車の生産台数は50万台前後で推移しています。

宮城県としては、企業誘致と取引拡大の二つを重点的に進めています。企業を誘致することで、雇用の場を確保できますし、地元企業との取引も拡大します。地道な取り組みを続けることで、東北の自動車産業の裾野が広がり、ひいては東北の復興にもつながるのではないかと期待し、努力しているところです。

水産加工業の支援体制を拡充・強化

一方、水産加工業については、復興がなかなか難しい状況です。前述のとおり、食料品の製造品出荷額は2010年(5,732億円)から2014年(4,944億円)にかけて減少しており、その中でも、水産加工の落ち込み(2,582億円→1,721億円)が大きくなっています。沿岸部の復興には水産加工業の再生と持続的発展が不可欠ですので、水産加工業をものづくり産業として捉え直し、今年度から支援体制を拡充・強化して重点的に取り組んでいくこととしています。

沿岸3地域にサポートセンターを設置

宮城県の今年2月の有効求人倍率は1.33倍で、人手不足の状況が続いています。ただし、保安(8.69倍)、建設(8.57倍)、土木関連(3.80倍)の業種の倍率が非常に高い一方、生産工程の職業は1.61倍、事務的職業は0.39倍と低く、ミスマッチが生じています。また、地域によっても差が出ており、仙台や石巻、気仙沼の有効求人倍率は高いですが、それ以外の地域では1倍を切るところもあり、職種や地域によって求人倍率のばらつきが大きいと感じています。

こうしたミスマッチの解消のため、気仙沼、石巻、塩釜の沿岸3地域に就職支援のためのサポートセンターを設置し、職業相談から職業紹介までの就職支援をきめ細かに実施しています。

若者の職場定着の向上を目指す

県内の新規高卒者の就職状況は、震災の復興需要やアベノミクスの経済効果なども相まって良好な状況ですが、定着率が低いことが課題になっていました。

そこで、状況を把握するため、アンケート調査を2013年度に実施しました。県内の約1,700事業所と、2010~2012年度に採用された新規高卒者を対象に、職場定着の状況や課題、職場に対する意見などについて調査したものです。

それによると、高卒者全体の離職率は26.9%で、49人以下の事業所が39.3%と突出しており、事業所の規模が小さいほど離職率が高くなるという傾向が見られました。業種別では、「飲食店・宿泊業」が44.8%と最も高く、次いで、「その他のサービス業」(労働者派遣会社、警備会社等)、「医療・福祉」の順になっています。

新入社員研修の受講状況を尋ねたところ、49人以下の事業所では4分の1が「研修を受講していない」と回答しており、50人以上の事業所と比べて大きな差が見られました。また、「退職したいと思ったことはあるか」の設問には、半数以上が「よくある」または「たまにある」と答えており、「退職したいと悩んだ内容」については、「職場の人間関係」を挙げる人が一番多くなっています。

こうした調査結果を受けて、小規模事業所を対象に、職場定着の推進事業を2014年度から実施していますが、今年度から「若者等人材確保・定着支援事業」という名称に改め、外部委託により様々な支援を実施しているところです。例えば、企業向けのメニューでは、企業の魅力発信や、従業員の処遇改善の方法などをテーマにしたセミナーの開催、訪問による職場定着のアドバイスなどを行っています。また従業員に対しては、事業者に代わって新人社員向けのセミナーを実施していますが、この中で、異業種間の同じ立場の仲間による交流会も開いています。互いの悩みを共有して解決の手助けとなることを期待して、職場定着の向上につなげていこうとしています。

UIJターンの就職支援

次に、UIJターンの就職支援の取り組みをご説明します。宮城県の取り組みは古く、1990年に「ふるさと宮城人材ネットワーク事業」を立ち上げ、宮城県の東京事務所とハローワーク仙台内に情報センターを設置して、就職支援を行っていました。震災後は、県外に移転した方々の帰還支援も行っています。そして昨年度、「みやぎ移住サポートセンター」を開設し、雇用や暮らしの情報を一元化して情報を発信し、移住を促すための様々な取り組みを展開しています(図1)。就職支援については、県内企業の求人情報の提供や職業相談、セミナーの開催、職業紹介のほか、インターネット回線を活用した企業との面接などを行っています。

図1 UIJターン就職支援

支援内容を図示化したもの

参考:配布資料12ページ(PDF:2.5MB)

プロフェッショナル人材の地方環流を

宮城県では、地方創生の取り組みの一環として、「プロフェッショナル人材戦略拠点事業」を昨年度から実施しています。地域に眠る未活用の技術やノウハウ、自然など様々な潜在的可能性のある資源を積極的に掘り起こし、企業の事業革新につなげていくためには、企業の成長戦略を具現化していく「プロフェッショナル人材」が必要です。そうした人材を地方に還流させるための戦略拠点を都道府県単位で整備していくというものです(図2)。

図2 宮城県プロフェッショナル人材戦略拠点事業の概要

支援内容を図示化したもの

参考:配布資料15ページ(PDF:2.5MB)

各拠点に配置された「プロフェッショナル人材戦略マネージャー」は、地域企業の経営者に対し、新事業や販路開拓など「攻めの経営」への転換を促したり、「プロフェッショナル人材」の採用をサポートします。その際には、地域金融機関や民間人材ビジネス事業者などの関係機関と連携し、ネットワークを形成していきます。この事業は緒に就いたばかりですので、今年度、注力していきたいと考えています。

最後に、県の施策としてはやはり企業誘致が重要だと考えています。誘致企業による雇用も含め、地元企業の取引拡大により雇用が創出されますので、そうしたところにきちんと就職できるような支援をしていきたいと思っています。震災から5年が経ちましたが、復興は道半ばと思っていますので、今後も皆様のご支援をよろしくお願いします。

プロフィール

髙橋 裕喜(たかはし・ひろゆき)

宮城県経済商工観光部次長

1984年4月宮城県採用。2006年4月石巻土木事務所次長(総括担当)。2008年4月総務部市町村課副参事兼課長補佐(総括担当)。2010年4月経済商工観光部自動車産業振興室長。2013年4月経済商工観光部産業立地推進課長。2015年4月経済商工観光部参事兼産業立地推進課長。2016年4月から現職。

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