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講演者
阿部 彩
首都大学東京都市教養学部人文・社会系教授
子ども・若者貧困研究センター長
フォーラム名
第84回労働政策フォーラム「シングルマザーの就業と経済的自立」(2016年3月16日)

日本では、男性の貧困は比較的マスコミにも取り上げられやすいのですが、女性の貧困、しかも母子世帯の貧困となると、新規性がなく昔から貧困だということで、ニュースでも取り上げられることが少ないテーマでした。ですので、いま一度、この問題について考えてみるのは非常に良い機会だと思います。

まず、貧困率が全般的に悪化している中で、母子世帯の問題に取り組まなければいけないということを再認識するため、幾つかのデータを見てみたいと思います。図1は、女性の年齢層別の貧困率について、1985年から2012年の約30年間の動きを示したもので、母子世帯だけではなく全ての女性を含めています。その中でも、若い層が一番大きく伸びており、また、子育てをしている年齢層でも貧困率が上昇しています。図2は、ひとり親世帯の再分配前(額面所得:生活保護や児童扶養手当等を含む)と再分配後の貧困率を表したもので、2006年、2009年、2012年の数値を挙げています。このグラフを見ても分かるように、再分配前の貧困率が依然として悪化している、つまり、ひとり親世帯の母親が稼ぐことができる状況がどんどん悪化しているという基本的な問題があります。また、再分配後の数値を見ても、それほど大きく貧困率が下がっているわけではありません。下がる度合いが他の国に比べても少ないことが、日本の母子世帯の貧困率が非常に高いことの要因で、それはずっと変わっていません。むしろ長い目で見たら、悪化している面もあります。

では、こうした状況で何を考えていかなければならないのかと言うと、一つが就労の問題です。二つ目が養育費の問題、そして三つ目が社会保障制度の問題です。この三つをセットで考えない限り、現在のひとり親世帯の状況を改善させることは難しいのではないかと考えています。

図1 女性の年齢層別 貧困率の変化

参考:配布資料3ページ(PDF:241KB)


図2 ひとり親世帯の再分配前/再分配後の貧困率

参考:配布資料4ページ(PDF:241KB)

各報告へのコメント

離婚した直後は、人生が大きく狂ってしまったという局面にありますし、子どもにとっても通常より多くのケアが必要な時だと思いますので、そうした時期に、すぐに職業訓練を受けて就職の準備をするのはなかなか難しいと思われます。やはり、経済的自立に至るまでには、その前に、キャリア自律や心の癒しの時間が必要だと思いますが、その支援についてはどのようなメニューが用意されているのでしょうか。つまり、心に傷を負って精神的に問題を抱えていたり、子どもが不登校であったりする中でも、働かなければいけないという一番辛い時期を乗り越えるために、どういった支援があればよいのか伺いたいと思います。

次に、「支援のバリア」についてお聞きしたいと思います。一方に支援したい人がいて、もう一方に支援を受けたい人がいるけれど、必ずしも二つのニーズがマッチするわけではないと思います。そのような時、どういったところにミスマッチがあるのか、具体的にお話を伺えればと思いました。

最後に、一番大きな問題になりますが、周さんは、就業で経済的自立が可能な国の例としてスウェーデンを挙げておられますが、やはり日本では難しいと考えるべきなのか。また、その他の二つの支援の柱である、養育費と社会保障制度の問題については、日本でまだできることはあるのではないか、ということも伺いたいと思います。

プロフィール

阿部 彩(あべ・あや)

首都大学東京都市教養学部人文・社会系教授
「子ども・若者貧困研究センター」センター長

マサチューセッツ工科大学卒。タフツ大学フレッチャー外交法律大学院修士・博士号取得。国際連合、海外経済協力基金を経て、1999年より国立社会保障・人口問題研究所に勤務。2010年より社会保障応用分析部長。2015年4月より現職。専門は、貧困、社会的排除、社会保障、生活保護。社会保障審議会生活保護基準部会委員(2011年~)、男女共同参画会議環境・影響評価委員会(2009~2011年)など。著書に、『子どもの貧困─日本の不公平を考える』(岩波書店、2008年)、『弱者の居場所がない社会』(講談社、2011年)、『子どもの貧困Ⅱ─解決策を考える』(岩波書店、2014年)、『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、2008年)にて日経経済図書文化賞受賞。

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