パネルディスカッション 若者と向き合うキャリアガイダンス

パネリスト
久冨木 未希子
ハローワーク池袋 学生支援コーナージョブサポーター
中道 明弘
あいち労働総合支援フロア相談員
本間 啓二
日本体育大学体育学部教授
コーディネーター
室山 晴美
労働政策研究・研修機構統括研究員
フォーラム名
第78回労働政策フォーラム「若者と向き合うキャリアガイダンス─ツールの活用・実践の現場から─」(2015年3月19日)

検査で示された適性と希望がかけ離れた場合の対応

室山 パネルディスカションでは、参加者の皆様から事前にいただいている質問事項を取り上げて議論したいと思います。はじめに、「検査結果やツールによって実際に示された適性と、受検者本人の希望がかけ離れている場合にどのようにしたらよいのか」という質問を取り上げます。これに関連して、結果について納得してもらうための、上手な声のかけ方を教えて欲しいという要望もありました。

中道 一般職業適性検査(GATB)を使うことが多いのですが、その人の能力がはっきり得点や評価段階で出てしまうので、質問のようなケースが非常に多いと感じています。どのように伝えるかはとても難しいです。適性というのは1つではなく、興味や性格、価値観、身体面などいろいろあるので、能力検査の結果だけで考えないで欲しいと伝えます。「好きこそ物の上手なれ」という言葉もあります。仕事にどの程度熱意があるのかというのは、非常に大事なことです。

久冨木 私の場合は「キャリア・インサイト」を使っているので、受検者自身が選択しているところが、一般職業適性検査とは違うと思います。気持ちが反映されるため、希望と適性が大きくかけ離れた結果は、それほどみたことはないです。ただ、もし結果が離れていたとしても、そう考えていることを肯定するところから入って、話した内容や、それによってご本人が気づいた内容について、納得していくことだと思います。結果が出たときに、本人がどう思うかというところをキャリアカウンセリングに結びつけていくのが重要だと思います。

本間 確かに一般職業適性検査などでは、本人の考えていることとずれることがあります。いつも注意するのは、結果がその人を反映しているかどうかです。検査に真剣に取り組んでいない場合などでは、自分の能力を適正に表現していないことになります。検査をする前の動機付けが重要です。必ず検査の実施状況を把握して、プロフィールの信憑性を確認しています。

職業理解を深めるための方策

室山 検査項目がきちんと理解されているかどうかも、重要なチェックポイントです。受検者が質問内容を正確に理解しないで答えている場合には正しい結果は得られません。職業理解もその点で大事だと思いますが、いかがですか。

久冨木 Aさんの事例(事例報告①参照)で紹介したように、やはり高校生や中学生では職業に関する理解はほとんどないと考えた方が良いと思います。対話することで、どの職種に興味があるのか、何をする人だと思っているのかというように、一つひとつ掘り下げていったほうが、本人たちの職業理解がより深まります。検査結果には必ず、カウンセリングやガイダンスが必要になると思います。

中道 職業理解については、ハローワークインターネットサービスを活用しています。その職業はどんな仕事なのか、その仕事に就くにはどうしたらよいかなど、職業理解に役立ちます。

本間 大学のキャリア教育プログラムでも、ハローワークインターネットサービスを活用しています。また、東京都産業労働局の「TOKYOはたらくネット」など、いろいろな労働問題の解決法とか、具体的なアルバイトのトラブルの問題を細かく取り上げているサイトもあるので、そういうものを知っていることが大事だと思います。職業の世界は、刻々と変化するので、情報が古くなる出版物よりも適切なウェブブサイトの情報を使うことをお勧めします。

室山 職業を理解していないために、自分で思ったイメージだけでこの仕事に就きたいと思っている場合もあると思います。ですから、職業についての理解を深めるとともに、テストなどを使って適性を調べるというプロセスの両方が重要だと思います。

適職と現実の就職の結びつけ方

 適性検査やツールでは具体的な職業名が適職として表示されますが、それが必ずしも実際の求人に結びつくとは限りません。次の質問は、このような場合に、「検査結果での適職をどのようにして具体的な職業案内に落とし込むのか」ということです。とくに専門職のような仕事が示された場合には、現実の就職と結びつけるのが非常に難しいと思います。

中道 そのようなケースは少なくありません。星の衛星のように、星そのものでなく、周りでもいいのではないかというイメージでいます。実際に、歌手になりたいという人がいて、自分でも能力的に無理だというのはわかっている。だったら、好きなところの周りで働いてみるのがよいのではとアドバイスしたところ、芸能事務所のマネジャーになった例があります。中には小説家になりたいという人もいました。この方には、本屋さんで自分が感銘を受けた本を感想付きで店頭に並べてみたらどうかとアドバイスしました。

久冨木 「○○的役割」というものに着眼して考えるように勧めています。たとえば、「イラストレーターになりたい」というケースの場合、「その可能性はないよ」と狭めるのも1つの方法論ですが、イラストレーター的役割というのを考えるようアドバイスしています。描いたものを、何らかの形で世の中に認めてほしいとか、役立てたいという思いがあるのであれば、幅広く考えることで解決する可能性もあります。パッケージデザインをする会社に就職したり、ウェブデザインを担当したり、公共デザインを担当したり、社内報や社内で配るチラシ作りなどにも広げて考えることができれば、思いをあきらめる必要はありません。

本間 このような検査は、あくまでも個人の自己理解、職業適性の理解を深めるためのツールであって、マッチングのためのツールではありません。「あなたとうまくマッチする職業はこれです」と表示されるのは、あくまで職業分野の代表として書いてあるのです。その職業を選ぶということではなく、そういう世界の仕事を探してみようということで、自分の志向性を知ることです。「自分は小さいころから、これが好きだった。だから、こういう世界で仕事をしたい」という気持ちを大事にしなければいけないと思います。何かやりたいことがあれば、検査結果をやりたい仕事に向けて解釈することが、コンサルタントの役割だろうと思います。

 どこかの職業に入職したときに、自分の個性を生かせる部分は必ずある。そのかわり、生かせない部分もあります。どんなに自分にぴったりした職業に入っても、不得意なところもあるし、興味のない仕事もやらなければいけない。そのときに、自分のプロフィールがちゃんとわかっていれば、自分で対応することができるわけです。

 検査結果を正しく理解していれば、職場では、今は業務として与えられていないけれども、自分がやりたい仕事がどこにあるということがわかります。どの仕事に就いても、自己概念を明確にすることで、自分の個性を今の職場でどう発揮させることができるのかさえわかれば、そうむやみに早期離職しなくてもすむようになるのではないかと思います。

解釈や説明で心掛けていること

室山 最後に、皆さんがツールを使うときに、解釈や返し方、説明として心掛けていることを教えてください。

久冨木 有効なやり方について、まだ模索中の状態です。若年者は無限の可能性があるので、可能性を決めつけてしまわないよう、常に新鮮な気持ちで話を聞き、良いところを返していく作業に徹しています。Aさんの事例でも触れましたが、特徴的なところや違和感を持ったところ、ご本人がいいと思うところ、気になっているところを深く掘り下げて聞きます。そのときに、率直に話ができる空間をつくることには気をつけています。ちゃんと話を聞けたときが、本人の理解が深まる瞬間だと思います。

本間 カウンセラーやコンサルタントが勝手に解釈して、それを突きつけるような使い方はよくありません。検査結果のプロフィールを真ん中に置き、まずは本人がそれをどう受け入れるか。自分がそれをどう捉えるかということから、本人主導で始めていくことが重要です。本人がうまく解釈できなければ、ヒントを与えていくような形です。自分の思っている自己概念と、検査結果が一致しているかどうかというところを確認しながら進めます。カウンセラーは最初にプロフィールの解釈をするのですが、それを伝えるのではなく、本人がそう解釈ができるように支援していくことが大切です。一番大事なのは、本人が自分で、自分の職業的志向性についてしっかりと理解することです。

検査を集団実施した後のフォロー

室山 検査を実施したら、結果についてきちんと説明することが大切です。やむを得ず集団で実施して、その結果を紙だけで返すような場合であれば、質問の機会の確保などのフォローが必要です。集団実施でのフォローについては、どのように取り組んでいますか。

中道 私どもは学校で、学年単位でやりますので、集団実施が非常に多いです。先生には、「生徒から質問があったときは、直接電話して質問して欲しい」と必ず伝えています。生徒と直接話せる状態は確保していきたいと思います。

久冨木 集団実施をするとしたら、中学生にレディネス・テストを実施する場面ですが、その際に評価結果を解説するときには「あくまでも、今、あなたが考えていることです」と断りを入れるようにしています。経験のない中学生が今現在考えていることであって、これから高校や大学に行き、さまざまな経験をすることで、考えや価値観は変化していきます。

本間 大切なのは、やはり十分な説明をするということです。検査の前に、検査はどういうもので構造がどうなっているのか、また、それによって何がわかり、どのように使うことができるのかなどについて、事前に説明しておくことが重要です。不信感を持てば、検査結果はゆがみます。

室山 本日は3人の報告者の方々から、それぞれのご経験に基づく貴重なお話をしていただきました。若い方への就職支援や相談を考えるときに、広い意味での意識啓発や自己理解、職業理解に向けて、検査やツールの役割を、参加者の皆様それぞれがご自分の問題として考えていただければ大変ありがたいと思います。

プロフィール ※報告順

久冨木 未希子(くぶき・みきこ)

ハローワーク池袋 学生支援コーナージョブサポーター

2014年より現職。電機メーカーでの採用教育部門で8年経験後、団体で職業相談に5年携わる。電機メーカーでは、事業部の採用・教育担当として、採用計画立案・選考会実施、階層別教育・新人導入教育・海外研修の企画推進・事業部内教育運営・資格取得推進等を担当。区の就職支援センターでは、職業相談、就労支援セミナー運営・講師、企業面接会の企画・実施、子育てママのキャリア相談会を担当。現在はハローワーク池袋において学卒ジョブサポーターとして、主に中高生の職業相談、進路ガイダンス、企業定着面談、求人受理などを担当。

中道 明弘(なかみち・あきひろ)

あいち労働総合支援フロア相談員(公益財団法人愛知県労働協会事業課職業相談グループ課長補佐)

1986年財団法人愛知県労働協会入職。管理部門の担当を経て、2004年から適性検査を利用した職業相談、進路指導相談、雇用管理相談業務に従事する。2010年からは、あいち労働総合支援フロアの相談員として相談業務に携わる。現在は、主に大学等のキャリア教育の支援を目的とし、大学に出向いて適性検査の結果の見方や職業講話を実施。県内の市等が主催する就労支援セミナーの講師も務める。2級キャリア・コンサルティング技能士。

本間 啓二(ほんま・けいじ)

日本体育大学体育学部教授

1973年から2000年3月まで都立高等学校体育教員として勤め、現在は日本体育大学体育学部教授。主な社会的活動は、日本キャリア教育学会常任理事・キャリアカウンセラー資格認定委員長、キャリア・コンサルティング技能検定専門委員、厚生労働省「キャリア教育プログラム開発に関する検討会」座長、キャリア研究会会長などがあり、「職業レディネス・テスト」、「VRTカード」の研究開発に携わる。著書に『教員採用試験面接ノート』一橋書店(1999)、『キャリア・デザイン概論』雇用問題研究会(2006)、『職業適性論』雇用問題研究会(2014)他。

室山 晴美(むろやま・はるみ)

JILPT統括研究員

1991年より現在までJILPTにて、職業適性に関わる研究を担当。「VPI職業興味検査」、「職業レディネス・テスト」、「キャリア・インサイト」、「VRTカード」等の適性検査・ガイダンスツールの研究開発に携わる。最近の主な研究成果は、『キャリア形成支援における適性評価の意義と方法』(2012)、『キャリア・インサイト統合版』(2014)、『大学・短期大学・高等専門学校・専門学校におけるキャリアガイダンスと就職支援の方法―就職課・キャリアセンターに対する調査結果―』(2014)など。