事例報告① キャリアガイダンスツールの有用性と現状

講演者
久冨木 未希子
ハローワーク池袋 学生支援コーナージョブサポーター
フォーラム名
第78回労働政策フォーラム「若者と向き合うキャリアガイダンス─ツールの活用・実践の現場から─」(2015年3月19日)

ハローワーク池袋がキャリアガイダンスツールを使用するのは、中学生のキャリア教育と高校生の就職支援の現場です。本日は、高校生の就職支援を中心にお話します。

高校生の就職活動スケジュール

高校生の就職活動は、進路担当の先生の指導のもと、学校を通じて応募、選考に臨みます。原則1人1社ずつの応募で、スケジュールに関しても選考解禁日(9月16日)のルールが厳格に遵守されています。ハローワーク池袋では、年内の内定を目標に学校と連携しながら取り組んでいます。

最初は学校の要望に応じて、集団に対して職業講話を実施します。その後、進路担当の先生の手助けをする意味で、時間の経過とともに生徒に対する個別対応へと、支援方法をシフトさせます。個別支援が必要な理由は、家庭の事情などによる急な進路変更や成績・出席日数不良による卒業認定の遅れなど、個別的な問題を抱えた高校生の存在で、多くは年が明けてからの支援となります。3月に卒業が決まっているため、おのずと短期決戦型になります。つまり、早期に自己と職業への理解を深め、理解した内容をできるだけ就職活動に直結させる必要性があります。

現在、ハローワーク池袋では、個々の適性や価値観の共通認識を行うために、キャリアガイダンスツールの「キャリア・インサイト」を使う機会が増えています。行動特性や仕事への価値観もプロフィールとなってパソコンの画面上に表示される、便利なツールです。

キャリア・インサイトの利点と留意点

「キャリア・インサイト」の利点は大きく3つあります。まず、相談者の気持ちや価値観をグラフや表で可視化でき、結果を対応者と共有することができること。また、若年者など相談者が未熟な場合、自分を表現する言葉に乏しいため、「キャリア・インサイト」の利用が、適切に自己を表現する言葉を引き出すための一助となっています。そして、相談者自身の納得のいく意思決定が重要であり、それを支援するための助けになっていることです。

その一方で、「キャリア・インサイト」を高校生に実施する際には、注意している点もあります。彼らの多くはアルバイトも未経験で、仕事をするということに対して未熟なイメージしか持っていません。たとえば、「販売職に就きたい」といっても、平日休みの会社が多いことを知らないため、土日は休みたいという者もいます。職種に関しての理解も不足しています。

そこで「キャリア・インサイト」の評価結果を単に示すだけでなく、高校生の彼らと一緒に評価結果を紐解くキャリアカウンセリングが必須だと、日ごろから感じ、実践しています。

能力評価と職業興味評価の活用事例

ある高校3年生を例にとって、「キャリア・インサイト」の結果をどのように活かしているかを紹介します。Aさんは、家庭の経済的事情により進学から就職に進路変更したため、来所しました。経済的事情の変化による進路変更は、ハローワーク池袋での典型的な個別支援事例です。当初、彼女は事務職を希望していました。ちなみに、その理由は、「無難だから」とか「国語が好きだから」という拙い回答でした。初回は就職に対する心構えなどを伝えて会話ができる関係性をつくり、2回目の面談時に「キャリア・インサイト」を実施しました。では、彼女と一緒に「キャリア・インサイト」の評価結果を紐解いていったポイントを報告させていただきます。

能力の評価は、「自分の意見や考えを説明する」や「人に品物を売る」「交渉する」などの項目について、自信の「ある」「なし」を5段階でつけていくものです。この結果が最終的に8つの能力(「リーダーシップ」「アート&クリエイト」など)として現されます。彼女の能力評価の優位な順番をみると、1位から3位が「ボランティア&サポート」「リサーチ&アナライズ」「アート&クリエイト」で、どれも80%以上の自信がある能力となっていました。ただ、彼女はアルバイト経験もまったくなく、仕事に対する苦手意識がほとんどないので、若干高めに出ているかもしれません。

職業興味評価では、1位が「芸術的興味領域」で、「社会的興味領域」「現実的興味領域」と続きます。能力評価と興味評価にはそれぞれに解説がつけられており、「いろいろな人とコミュニケーションをとるような仕事」など、プロフィールを分析して自己理解を補う具体的なイメージが示されます。この結果を基に「経験したことがありますか」とか、「過去の行動や経験で気がついたことはありますか」などと質問することで、一緒に客観的に分析していき、その中で彼女自身が自分の適性、趣味嗜好を具体的に認識します。彼女の場合、人を助けることに喜びを感じ、手先が器用で、細かいものづくりが好きなことがわかりました。

成功体験の掘り起こしが働く目的への気づきに

能力評価や興味評価の結果に基づいて「キャリア・インサイト」が提示する職業のマッチングリストも活用します。興味がある職種とその理由を尋ねることで職種の理解不足を補いつつ、自己理解につなげます。

仕事に対する価値観についても、「達成感」「仕事の内容」「社会への貢献」「休日・休暇」などの項目をあげて、どのくらい重視するかを聞いています。Aさんは、初回の面談時に、何のために働きますかと聞いたところ、「経済的に豊かになるため」「家族のため」「自分のスキルを磨くため」と回答していました。ところが、「キャリア・インサイト」でみた重視する価値観は、まったく違っていて、1位が「職場の対人関係」、2位は「達成感」、これに「社会への奉仕や貢献」が続きました。「職場の対人関係」や「達成感」を重視するのは一般的な傾向なので、3番目の「社会への奉仕や貢献」に着目して、その理由を改めて聞いてみました。すると、文化祭で中心的な役割を果たしたり、ボランティア活動で周囲に感謝された経験がありました。このように成功体験の掘り起こしが、自信や働く目的への気づきにつながります。

行動特性について聞く設問もあります。たとえば、個人プレーとチームプレーのどちらを選択するかなどに答えて、行動パターンにどのような特性があるかを示すものです。Aさんの行動特性の評価は、ちょっと極端なものでした。個人プレーに対してチームプレーが99%以上、自由人に対して組織人が96%以上という結果になりました。

そこで、チームプレーに関して何か思い当たることがあるかを尋ねたところ、「1人でやって行き詰まった経験があるので、できればみんなでやりたい」ということでした。よく聞くと、たった1回の経験をもとにして引き出した回答なのです。このように極端な結果とか、違和感を持ったところについては、そのまま受け取るのではなく、参考程度にみておくように伝えます。

「キャリア・インサイト」実施後のAさんの変化について紹介すると、希望職種については「無難だから事務職」と言っていたのが、得意なものづくり、サービスへと変化しました。働く目的に関しても、人間関係重視ややりがい、人のため、社会のためというのが、プラスアルファで加わりました。Aさんの就職活動は、開始から40日間という短いものでしたが、つい先日、内定を獲得しました。希望どおりの細かい手作業のものづくりの仕事でした。


キャリア・インサイト 能力評価のプロフィール(画面はAさんの事例ではなくイメージです)

キャリア・インサイト 興味領域のプロフィール(画面はAさんの事例ではなくイメージです)

キャリア・インサイト ECコースの価値観評価のプロフィール(画面はAさんの事例ではなくイメージです)