事例報告1 「新卒応援ハローワーク」からみた学生・既卒者の就職問題
─行政の就職支援の取り組み:
第69回労働政策フォーラム

大学新卒者の就職問題を考える
(2013年9月10日)

田口 勝美
東京新卒応援ハローワーク室長

写真:田口氏

今年度「文部科学省学校基本調査」の速報によると、大学新卒者55万人のうち、非正規就業・無業・進学も就職もしていない人たちは11万5,000人にのぼります。つまり5人に1人が不安定な状態にいるわけです。若者の就職を何とかしなければいけない。行政に与えられた喫緊の課題です。

求人がないのかといえば、そうではありません。求人はあります。ただし、希望職種の偏り、相変わらずの大企業志向などにより、需要と供給がマッチングしないのです。景気の良い時代でさえ8万人ほどの未就職者が出ていました。

行政としてどう対策を打つのか。現場からの取り組みを紹介します。

全国57カ所で大卒者の就業支援

図表1 新卒応援ハローワークの業務

図表1画像

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最初に「新卒応援ハローワーク」の業務について説明します。

これは、大学4年生、短大であれば2年生、そして就職できないまま卒業した既卒者(おおむね既卒3年まで)を対象に就職をサポートするハローワークです。

全国57カ所にあり、2012年の利用者数は約65万人で、就職者数は約8万9,000人でした(図表1)。

ちなみに東京は新宿と八王子の2カ所にあり、利用者数は約6万5,000人、就職者数は1万1,000人でした。

サポートする内容としては、仕事探しの相談から始まって、全国各地の求人情報の提供、エントリーシート・履歴書など応募書類作成のアドバイス、面接指導・模擬面接、大学との連携、就職フェア・各種セミナーの開催などを行っています。

利用者の中には、「行きたい会社がない」、「何をやりたいのかよくわからない」ばかりか、仕事そのものをあまり理解していない学生も少なくありません。たとえば、営業は要らないものを無理やり売りつける仕事だと思っていたり、涼しいオフィスで1日中パソコンを打つのが事務の仕事だとイメージしていることもあります。

このように働くということの理解も含め、ジョブサポーターと呼ばれるハローワークの職員が1対1の担当制で支援しています。

「1人にしない」「諦めさせない」

私の所属する新宿の東京新卒応援ハローワークでは、約80人のジョブサポーターを配置しています(東京全体では150人)。当所のジョブサポーターは、次の4つの業務を主として担当するグループに所属します。

  1. 「1人にしない」「諦めさせない」をコンセプトにした個別の職業相談支援。
  2. 適性検査や面接力アップセミナー、マナー講座などの実施。
  3. 定期訪問による相談や就職ガイダンスなど大学との連携。
  4. 求人開拓や企業情報の収集、会社説明会・就職面接会の開催など企業との連携。

4グループのジョブサポーター全員が、1人につき30~70人の学生・既卒者を担当しており、各グループで得た情報をそれぞれ共有しながら、マッチングの効果を上げています。

「私は必要とされているのでしょうか?」

図表2 東京新卒応援ハローワーク 利用者の推移

図表2グラフ

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東京新卒応援ハローワーク利用者の推移をみると、例年、1~3月は新規の学生が増えます。卒業間際になっての駆け込み需要です。卒論が終わった、就活の仕方がわからない、友だちがみんな内定をもらって焦りだした、といった理由からこの時期に訪れます。

4月を過ぎると新4年生が対象ですが、大手有名企業は5月あたりまでに第1回の選考を終えます。6月頃になると、エントリーシートを出しまくっても面接までたどり着けない学生がボロボロになってやってきます。

数十社にエントリーシートを出したけれど、まったく音沙汰がない。「私は果たして社会に必要とされているのでしょうか?」と悲愴な面持ちで窓口に現れる学生もいます。ジョブサポーターは必ずそのとき「大丈夫、もう1人ではありません。一緒に頑張っていきましょう」と声をかけます。ずっと孤独に就活してきたけれど、もうそうではないとわかると、その場で泣いてしまう女子学生もいます(図表2)。

女性のほうが就職への危機意識高い

図表3 職業相談・個別支援

図表3グラフ

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10~11月頃もまた利用が多くなります。これは、公務員志望だった学生が方向転換する時期と、公務員試験のための模擬面接のオファーが増える時期が重なることも要因の1つです。

2013年4~6月期は前年同期比で学生の利用者が27%近く増えました。これは、ハローワークと大学との連携を拡大し、キャリアセンターから送り込まれる学生が増えてきている結果だと思われます。

年間を通じての延べ利用者数は2012年、前年度比で約33%増加し、就職件数は約48%増えました。1日約200人、年間約5万人の学生・既卒者が訪れています(図表3)。

学部別にみると、文系が79%と圧倒的に多いです。性別では女性が6割、男性が4割。おおむね女性は就職への危機意識が高く、相談も一生懸命です。一方で男性は、どこかビシッとしないところは否めません。

希望職種別では、事務が46%、営業が23%と多く、以下、専門・技術、販売、サービス、ITと続きます。

中小企業の求人は年間を通じてある

図表4 大卒求人の状況(平成24年度)

図表4グラフ

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2012年、東京都内のハローワークに提出された求人件数は約7,000件。8割が中小企業で、ほぼ年間を通じて求人が出ます。大手有名企業は12月~4月にかけて一斉に求人を出し、インターネット募集しますが、中小企業は通年なのが特徴です(図表4)。

岩脇研究員の報告にもあった通り、中小企業はなかなか定期採用ができません。そのため、欠員が出た、大企業の選考時期を避ける、採用計画のトップ判断が遅れた、などさまざまな要因から、あらゆる時期に求人が出ます。ぎりぎり3月になってもまだ新規求人が出されることもあります。

したがって学生には、大卒求人の月別受理件数推移のグラフを見せ「求人はまだまだ出るので、タイミングとあきらめないことが非常に大事」と説明しています。

2013年の大卒求人の出足(3月~7月の求人件数)は、前年度比11%増と、景気の上向きがやや反映しているようです。

学生にニーズの高い「マナー講座」

新卒応援ハローワークではセミナーにも力を入れています。

職業適性検査、職業興味調査、マナー講座、面接力UPセミナー(グループ面接やディスカッション)、面接会攻略講座、ジョブサポーター独自セミナー。これらを東京新卒(新宿)では年間244回実施し、延べ3,452人が参加しました(2012年)。

伊藤研究員から「過剰な適職診断は就職機会を狭める」との指摘がありましたが、職業適性を探るのはあくまでも参考の1つにとどめています。ただ、ハローワークに来る学生には、まず何から手をつけて良いか迷っている人が非常に多いのです。

セミナーの中でとくにニーズが高いのはマナー講座。8~10人を対象にジョブサポーターが4人ほどついて、言葉づかい、電話のかけ方、面接時の立ち居振る舞いについてアドバイスします。面接の立ち居振る舞いはビデオに撮って検証しています。

今の学生はスマホや携帯で電話をかけますから、家の電話でフォーマルな会話を交わした経験が少ないのです。なので、自分の名前も名乗らずにいきなり用件だけ言ったり、「ていうか」「マジで」などと平気で口走ってしまう。「○○大学○学部の○○と申します。御社の○○の資料を……」といった電話のかけ方は教えればできるようになります。

マナーが悪く第一印象で落とされてしまうのはもったいないし、残念です。そこをきちんと教えてあげれば、中身で勝負できることになります。

常駐窓口を設置して大学と連携

大学との連携にも注力しているところです。東京新卒応援ハローワークのジョブサポーターは、大学のキャリアセンターと協力し、常駐窓口を設置して、個別相談、ガイダンス、セミナーなどを週1~2回、実施しています。

定期的な連携の対象校は、昨年4月に10キャンパスでしたが、今年の7月には71キャンパスに増えました。

その支援をさらに拡充させようと、この10月に高田馬場分室がオープンしました。26人のジョブサポーターを40人に増員しています。

会社説明会で企業と学生が情報交換

求職者ニーズに応じた求人開拓やマッチング向上のため、東京23区を対象に求人取材を行っています。

また、中小企業を中心とした会社説明会を頻繁に実施しています。中小企業の方が新卒応援ハローワークに来て、学生・既卒者に企業説明をするわけです。会社説明会は社会人経験のない学生の応募への大きなきっかけになります。

人数としては20~30人が望ましく、50人を超えると学生からむしろ質問が出にくくなります。適度な人数であれば質問がどんどん出て、学生と企業の情報交換が活発になり、応募につながります。

9月はほぼ毎日のように、会社説明会を実施していました。会社説明会を設定すると、ジョブサポーターが学校やハローワークの窓口、担当支援の学生等に声かけをし、学生を集めます。

複数企業が一堂に会する合同面接会も数多く実施します。企業に説明会やミニ面接会などを開催してもらうほか、さまざまな目的(当ハローワークでのセミナー、面接練習)に利用できるブースや部屋を用意しています。

一緒に仕事をしたい人物かどうか

最後に、新卒応援ハローワークの相談窓口で感じることについてお話します。

採用にあたって企業が大学生に求めるもの、期待するものは、主体性、コミュニケーション能力、実行力、チームワーク、協調性などですが、これらをもっと具体的に言い換えるならば、次のようになります。

何よりもまず、一緒に仕事をしたいと感じさせる人物かどうか。

そして、給料以上の仕事をしてくれそうか。将来の活躍が期待できそうか。伸びしろがどれくらいあるか。素直さがあるか。

こうしたことを判断するために、面接の際に企業は学生の表情、熱意、やる気、社会人としてのマナー、あいさつのしかたなどをみるわけです。

対して、東京新卒応援ハローワークを初めて利用する学生・既卒者の最近の傾向として、次のようなことがあげられます。

  • 自己分析ができていないので、自己PRが難しい。
  • 業界研究、企業研究をほとんどしていない、あるいは浅い。
  • 志望動機がなかなか書けない。
  • あいさつ、言葉づかいなどの基本マナーが弱い。
  • 本人も親御さんも、人気企業や大手企業へのこだわりを捨てきれない。
  • 就活の期間が長いので、心労で疲れ切っている人もいる。

働くことのイメージを持てていない

なぜこうした学生・既卒者が増えているのでしょうか。

1つの背景として、同世代間のコミュニティ一辺倒で、あまり大人と話したことがないため、働くこと、社会人になることのリアルなイメージを持てていないこと。

また、テレビコマーシャルなどで知っている有名大手企業が対象のすべてと思い込み、5月~6月に軒並みネットエントリーし続け、反応がないと、「もう応募する会社がない、どうしたらいいんだ!」と慌てて駆け込んでくるわけです。

企業研究もしないまま、志望動機も曖昧なまま、エントリーシートを送り続けますから、不調に終わるのはある意味当然のことです。加えて、なぜ不調に終わるのか、その理由がみえずどんどん傷つき、不安、あせりが生じてきます。

就職した9割が「諦めないでよかった」

私たち新卒応援ハローワークは、そのような学生・既卒者を支援し、就職にまで結びつけます。

私たちの合い言葉は「1人にさせない、諦めさせない」です。これがキーワードであり、コンセプトにほかなりません。

とにかく諦めない。就活は個人戦ではなくチーム戦でないと勝てない。諦めなければ3カ月で就職させる自信があります。

新卒応援ハローワークは気持ちを一緒にしながら、就活支援を行っています。

就職に成功した学生・既卒者からもらう「スマイル・トゥギャザー」と題した後輩たちへのメッセージは、年間700通にのぼりますが、その8~9割が「諦めないでよかった」という感想なのです。