基調報告:第66回労働政策フォーラム
震災から2年、復興を支える被災者の雇用を考える
(2013年3月13日)

基調報告 被災地の雇用対策について

本多 則惠  厚生労働省職業安定局雇用政策課長

写真:本多則惠氏

私からは被災地の雇用対策についてご説明します。

被災地の雇用の現状を象徴する言葉は「ミスマッチ」ではないでしょうか。

震災直後の一時期、被災地では、多数の離職者が発生し、求職者が急増しました。ハローワークの前に長い行列ができていたこともありました。

しかし、現在は、復興需要の増大で求人が増加し、全般的には被災地の雇用情勢は改善しています。

平成25年(2013年)1月の有効求人倍率をみると、宮城県は1.25倍と全国1位、福島県は1.23倍で2位、岩手も1.00倍で8位といずれも全国平均の0.85倍を上回っています。

公共職業安定所別にみると、沿岸部の安定所の求人倍率は県平均よりも高い傾向にあります。求人倍率は求人と求職者のバランスを表したもので、求職者にとっては仕事がみつかりやすいかどうかの指標になります。ただ、求人が増えても数値は改善しますが、求職者が減ることでも改善しますので、求人倍率が高くなったからといって、必ずしも被災地の産業や経済活動が順調に復興しているとは限らないことに注意が必要です。

求職者の動向

図1 求職者の動向 (1)求職者数等

図1 表「生産年齢人口の推移」

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次に求職者の動向をみます。働き手の母集団になる生産年齢人口(15~64歳までの人口)をみると、沿岸部では震災前と比べて5%から10%弱減少しています(図1)。

実際に働いている方の数ですが、労働力調査では市町村単位での集計が難しいため、ここでは雇用保険の被保険者数でみます。ハローワークの釜石所管内では、被保険者の数は震災前の平成23年(2011年)1月に比べて1.6%減少しています。他の地域の沿岸部でも減少しており、気仙沼所管内では11.6%減です(図2)。沿岸部では震災前の水準まで企業の経済活動が回復していないことがうかがえます。

図2 求職者の動向 (1)求職者数等

図2 表(1)「雇用保険の被保険者数」 表(2)「有効求職者数」

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一方、内陸部を含めた県全体の被保険者数は、岩手県は2.2%増、宮城県は2.5%増となっていますので、おそらく沿岸部から内陸部に移転して就職した方も一定程度存在するものと思われます。

有効求職者数は、県全体でみても、沿岸部でみても、被災前の水準を相当程度下回っています。岩手は13.9%減、宮城は18.3%減、福島は21.3%減となっています。

被災地では求人が増加しており、人手不足となっている企業の話を聞きますが、一方では、減少しているとはいえ、依然求職活動を続けている方が一定数いらっしゃいます。

図3 求職者の動向 (2)求職者の性別・年齢構成

図3「岩手・宮城・福島の3県について、平成23年1月と25年1月を比較した表」

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求職者の性別・年齢別構成については、震災前に比べ女性の割合が少し高くなっているものの、大きな変化はありません(図3)。

さまざまな就職への考え方

求職者の就職についての意向をみると、「いい仕事があれば就職したい」という方もいれば、「生活のために今すぐにも職に就く必要がある」という方もおり、さまざまです。

昨年10月末に雇用保険の延長給付の受給が終了した方を対象に就職状況を聞いた調査では、求職活動をしている方のうち、56%は「生計維持のための収入を得る者が他にいる」あるいは「当面生計維持できるだけの蓄えや年金がある」といった理由で「就職は3カ月以上先でもかまわない」と回答しています。

一方で、3カ月以内の就職を希望している方が約4割、2,414人います。その中でも「生計維持のための収入を得る者が他にいない」が約半分の1,248人もいて、こういう方々に就職していただくことが優先課題だと考えます。

避難者については、県内の他の地域や他県に避難した方を対象にした調査によると、避難者の3分の1は避難先での定住を希望しています。

求職者に対し、被災地で求職する際に重視するポイントを聞いたところ、仕事内容、業種、雇用形態、勤務地、通勤手段、通勤時間、資格など人によって重視する点は異なっており、こうした点が求人の内容と合わないため、求人の量があるにもかかわらず就職に結びついていない面があります。

求人確保とミスマッチ解消を

こうした状況を解消するための対策が、1つは求人の確保、もう1つがミスマッチの解消です。求人の確保については、震災等緊急雇用対応事業による当面の雇用の場の創出により、被災3県で合わせて約5万7,000人が就職しています。一方、事業復興型雇用創出事業による本格的な雇用の場の創出では3県計で約1万人が就職しました。

ミスマッチの解消策では、ハローワークを通じて個々の求職者に対し、きめ細かな相談を実施しています。具体的には求職者ごとに担当者を決めて、相談に対応するほか、就職面接会や事業所見学会などを開催しています。こうした取り組みにより、震災以降、ハローワークを通じて27万件の就職が決まりました。

多様な業種で求人が増加

業種別の求人をみると、多様な業種で求人が増加しています。求人が求職を上回り、人手不足になっている業種は、建築、建設、食料品製造、看護・保健師、社会福祉専門職などです。一方、事務職は求職者、特に女性の求職者が非常に多いのにもかかわらず、求人は限られているため、求人倍率は0.2倍台と大変狭き門になっており、事務職にこだわっているとなかなか就職できないのが現状です。

被災地では、求人が増加していても非正規雇用の求人が大多数なのではないかとの指摘もあります。確かに全国的に求人に占める非正規雇用求人の割合は高いのですが、被災地では正社員の求人も着実に増加しています。被災3県を個別にみると、宮城県や福島県では正社員の求人倍率が高くなっており、必ずしも非正規雇用だけで求人が膨らんでいるとの指摘は当たらないと思います。

業種や個人が抱える課題も

建設業、水産加工業では、求人が増えても人手が充足できないとの指摘もあります。この点については、建設業では、資格や経験を必要とする求人が多い傾向にあるため、求職者に対しては短期集中型の訓練を実施する一方で、求人企業側にも要件の緩和をお願いしています。たとえば、資格と経験の両方が必要な場合は、資格は訓練で取得してもらうとして、経験は採用後に積んでもらうように企業に頼んでいます。

水産加工業では、独特の問題があります。以前に水産加工業で働いていた経験がある人は、職場の働きやすさも重視しながら、じっくりと求職活動を続けている場合も少なくありません。この場合でも、求人企業と求職者の双方に働きかけてミスマッチを解消することが重要だと思います。

被災地の求職者の中には、震災前に勤めていた事業所の復旧や再開を待っている方もいます。また、就職した方でも「通勤場所が遠くなった」、「家族の介護をしている」などさまざまな負担を抱えており、こうした課題については、雇用面から対処すると同時に、事業用地のかさ上げや通勤しやすい地域での災害公営住宅の整備、宅地の造成などを進める、道路網を整備するといった対策も必要です。こうした対策の着実な推進が避難者の沿岸部への帰還を促進する上でも不可欠ではないでしょうか。

被災地のニーズを踏まえた対応

図4 雇用保険被保険者数の推移

図4「岩手・宮城・福島の3県について、平成23年1月、24年1月と25年1月を比較した表」

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ここでご紹介したいのが、図4で示した被保険者数の動きです。震災前の平成23年1月と直近の平成25年1月を比較すると、水産加工業が盛んだった宮古、釜石などの沿岸部では、特に水産加工業を含む食料品製造業の被保険者数が3割から5割も減少した状態に留まっており、雇用の規模がかなり縮小しています。

次に、建設業の人手不足の状況についてですが、被災3県で建設事業所と建設関係職種への就労を希望する求職者を対象に実施したヒアリング調査の結果をみると、建設事業所の約9割が「労働力が不足又は非常に不足している」と回答しています。職種別では、「技術者・施工管理者」で約8割、「技能職種労働者」で約6割と、資格を要する職種の不足が目立っています。

一方、求職者側に就職に至っていない理由を聞いたところ、「賃金」「勤務地が遠い・通えない」「資格不足」「経験不足」などがネックとなっていることがわかりました。

以上のような状況に対して、厚生労働省では、被災地のニーズを踏まえつつ、機動的に各種の対応を取るよう努めてきました。対策のメニューは多岐にわたっていますが、今日はその中から、規模の大きい雇用創出基金事業についてお話した後、ハローワークの取り組みについてご紹介します。

雇用創出基金事業を展開

基金事業は大きく分けて2種類あり、1つ目が、「震災等緊急雇用対応事業」で、震災で仕事を失った方の当面の雇用の場を確保することを目的としており、名称のとおり、緊急的な性格のものです。

2つ目は、継続性のある雇用の創出を目的とした「雇用復興推進事業」です。この事業には「事業復興型雇用創出事業」と「生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業」の2つがあります。

震災等緊急雇用対応事業

「震災等緊急雇用対応事業」は、厚生労働省が交付した交付金で各都道府県に基金を造成し、その基金で求職者を雇用する仕組みです。この雇用については(1)県や県から基金の補助を受けた市町村が直接事業を実施し、求職者を雇用する場合、(2)県、市町村が民間企業やNPOに事業を委託して、その委託先が求職者を雇用する場合――の2通りがあります。

この事業の実施要件は、事業費の2分の1以上が新規に雇用された失業者の人件費であること、雇用期間が1年以内であることです。ただし、被災した方については、1年を超えても複数回雇用を更新することが可能になっています。

震災等緊急雇用対応事業の予算額は、23年度は1次補正で500億円、3次補正で2,000億円、24年度は500億円と合計で3,000億円となっています。

同事業の実施期限は当初平成24年度末までとしていましたが、最近1年延長し平成25年度末までということになりました。平成25年度中に開始した事業については、平成26年度まで実施できます。

同事業の実施により、平成25年1月末現在で、岩手県で約1万4,000人、宮城県で約1万7,000人、福島県で約2万6,000人が雇用されました。

同事業の事業例をみると、仮設住宅の見守りや子育て支援など様々な事業が展開されています。

事業復興型雇用創出事業

次に「事業復興型雇用創出事業」についてご説明します。これは、将来的に被災地の雇用創出の中核となることが期待される事業で被災者を雇用する場合に、産業政策と一体となって、雇用面からの支援を行うことを目的としており、「産業政策と雇用対策の連携」がポイントとなっています。国や地方自治体の補助金・融資を利用している企業が、被災者を雇い入れた場合、雇い入れから3年間、1人あたり225万円まで助成します。平成24年度中に2万1,000人分を超える申請がありました。

事業復興型雇用創出事業は、当初の予定では平成24年度末までに開始した事業が対象でしたが、沿岸地域などの復興が遅れていることを踏まえて、平成24年度の補正予算で、終了期限を延長し、平成25年度末までに開始した事業まで対象とすることにしました。

生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業

一方、「生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業」は、被災地で安定的な雇用を創出するため、生涯現役で年齢に関わりなく働き続けられる全員参加型・世代継承型の先導的な雇用復興を支援することを目的に創設されました。高年齢者から若者への技能伝承、女性・障がい者などの積極的な活用、地域に根差した働き方など、雇用面でのモデル性があり、将来的な事業の自立による雇用創出が期待される事業を民間企業やNPOに委託して実施しています。

同事業の実施期限は平成24年度末となっています。期限までに事業を開始すれば、3年間支援を受けることが可能です。これまでに1,885人が雇用されました。

事業の予算規模は先ほどの事業復興型と生涯現役型を合わせて、1,510億円です。

ハローワークでのきめ細かい支援も

厚生労働省では、基金事業以外にも東日本大震災関連の雇用対策を実施していますが、その中心的な役割を果たしているのがハローワークです。求人開拓や、求職者ごとに担当者を置いた支援など、極力きめ細やかな支援ができるよう心がけています。就職が決まらない求職者に対しては、窓口での相談により、就職に至らない要因を把握した上で、たとえば、職業選択の段階での助言、応募書類の書き方の添削、面接の受け方の指導といった支援も実施しています。

特定の職種を希望する求職者に対しては、ハローワークの全国ネットワークを活用して、広域的な職業紹介も実施しています。仮設住宅にお住まいの方には、現地に出向いて出張相談も行っています。

こうした取り組みの結果、ハローワークの紹介による就職件数は、平成23年4月から平成25年1月の累計で、約27万件に達しています。

さらに震災後、雇用保険の延長給付も数次にわたり拡充しました。また、雇用調整助成金による雇用維持の取り組みも支援してきました。

また、企業での雇用以外にも、被災地では農林業、漁業も重要な産業であることから、これらの事業に従事する方々への合同面接会など様々な支援を実施し、平成23年度は約2,600件の実績をあげました。

最後に平成25年度の予算案に盛り込んでいる「福島避難者帰還等就職支援事業」をご紹介します。これは福島県の避難解除区域等に帰還した方々の雇用を促進することを目的としています。たとえば、自治体や経済団体で構成される協議会に委託し、就職支援セミナーを開催したり、労働局に専門の相談員を配置して、雇用創出につながる助成金の活用方法の提案やアドバイスの実施、さらに避難者が多い山形県などのハローワークに福島就職支援コーナーを設置することなどを予定しています。