事例報告3:第62回労働政策フォーラム
介護職の安定的な採用・確保に向けて
(2012年9月19日)

<事例報告3>地域における事業者、学校、人材の地道な関係づくり

鈴木隆夫 埼玉県社会福祉協議会福祉人材センター副センター長

写真:鈴木副センター長

今日は、マッチングの立場からの事例発表ということで、私たちが受託している福祉・介護マッチング機能強化事業などのセンター機能の概観と、求職者や事業所に寄り添いながら学校や事業所などと一緒に行っている取り組みの状況について報告したいと思います。

福祉版ハローワークの役割を担う

まず、センターの機能の概観についてお話します。社会福祉協議会は社会福祉法に位置づけられた地域福祉を推進する民間の福祉団体で、社会福祉従事者の方々への研修とかボランティア活動の推進などを行っています。人材センターも同じく社会福祉法のなかで規定されていて、都道府県知事から指定を受けている1セクション、1事業と捉えてください。人材センターの事業は、福祉施設の事業所から求人情報の登録を受け付けるとともに、福祉・介護分野への就職を希望する求職者を結びつけます。採用、就職を支援する形で、いわば福祉版ハローワークと考えれば一番わかりやすいと思います。

実際、本来業務も両者を結びつける合同面接会とか研修会、セミナーなどの開催、窓口での相談対応などをすべて結びつけて、最終的には無料職業紹介事業として両者のマッチングを行うものでした。そのマッチング機能をさらに強化するため、現在では、福祉・介護マッチング機能強化事業を受託している流れになっています。

福祉・介護マッチング機能強化事業として受けている部分は図表1の赤で囲った部分です。キャリア支援専門員を配置して求人事業所のニーズを的確に把握しながら、その一方で求職者の適性なども見極めたうえで、就職、採用に結びつけていく。さらに、この事業の中には、就職後のフォローや定着支援も含まれています。

図表1 埼玉県社会福祉協議会 福祉人材センター(福祉・介護マッチング機能強化事業)

図表1

前身の福祉・介護人材マッチング支援事業を受託した2009年11月から昨年度までの実績は図表2の通りです。09年度当時の採用人数は705人でしたが、2011年度の採用人数は1,516人と2倍強の実績を上げることができています。また、主な活動指標としては、先ほどお話したキャリア支援専門員を中心とした職員・相談員などの活動実績を載せています。例えば各事業所への訪問は年間570回を数えます。

図表2 2011年度実績

図表2

介護職員の養成・確保も

今回は介護職員の安定的な確保といった大きなテーマがありましたので、介護職員の養成確保の括りで、埼玉県高齢介護課から受託した2つの事業についても触れておきたいと思います(図表3)。

図表3 介護職員の養成確保

図表3

まず、介護職員養成確保事業です。この事業は、介護資格を持たない失業者が介護現場で働きたいとの希望を有する人を、介護保険施設が介護職として雇用した場合に、6カ月間の人件費を委託費として支給するものです。対象者にはその間、介護職としての基礎知識と技術を現地で実習しながら、訪問介護員養成研修2級課程の受講支援を事業所に行ってもらうことが条件となります。昨年度は185人の雇用がこの事業によって発生しました。

また、今年度からは新たに介護現場を離れている潜在的な有資格者を対象とした介護人材定着推進事業も受託しています。こちらは、対象者と雇用契約を結んだ事業所に対し、私ども県社協と委託契約を結んで3カ月間の人件費相当分を委託費として支給します。この間の職場内研修は当然、事業所が行うわけですが、しばらく現場から離れていたことで不安を持つ方もいるので、本会が実施する介護技術に関する職場外研修を受講させることで就労後の定着を進める仕組みになっています。

「三密着」にこだわる

今年度の事業の実施体制などについても少し触れておきたいと思います。私たち埼玉県の福祉人材センターは、事業の基本方針として、「求職者、求人事業所、地域に密着(この3つに密着することを「三密着」と称する)し、福祉人材の確保、定着を図るための取り組みを推進していく」ことを掲げています。この三密着にこだわって活動していくほか、「高校生を含む学生の就職支援を強化する」ことと「事業所等関係機関・団体との協働による福祉啓発を推進する」ことも併せて、3つの方針を掲げています。

では、実際に求職者、事業所、地域への三密着にこだわった就職・採用支援をどうやっているか。過去を振り返ってみると、2009年度以前は、求人・求職者とも福祉人材センターの所在地から県南地域が中心でした。先述の福祉・介護マッチング支援事業を受託して、キャリア支援専門員(当時6人)を配置し、県内を地区割りしてそれぞれが担当地区を持って事業所などに足しげく訪問活動を展開したところ、求職者、事業者双方、「近いところに就職したいし、近くに住んでいる人を採用したい」といった声が非常に多く聞こえてきて、地域密着の必要性を強く感じました。同時に、求職者と事業所それぞれのニーズについて、今まで以上に両者に寄り添った支援が必要ではないかと、三密着の発想が生まれてきたわけです。

キャリア支援専門員を中心とした個別支援

そういった経緯も踏まえて、今日のフォーラムのテーマに近い今年度の主立った事業は図表4の4点があげられます。

図表4 求職者、事業所、地域への“3密着”
にこだわった就職・採用支援

図表4

まず、サテライト相談室の開設です。これは、先ほどの県南地域に限られている状況で利用状況に非常に格差があるなかで、2011年度は川越と熊谷にサテライトを立ち上げました。

2つ目は、この事業自体の肝でもあるキャリア支援専門員を中心とした個別支援で、求職者への対応と事業者への対応を分けています。

求職者の特徴としては、個別支援が必要なのは中高年層の人が多い現状があります。若目の年齢層の人は、比較的専門員や窓口の相談員があまり手をかけなくても就職に結びつきやすいケースが多くあります。他方、中高年層の方は、「就職に有利らしいと聞いたのでヘルパー2級の資格を取りました」とか「介護の基礎研修の課程を受講しました」という人が非常に多い。しかし、こういう人の多くは未経験者で、福祉職の職場を探していてもすごく不安を感じていたりしています。そこでキャリアカウンセリングや模擬面接などの対応も必要に応じて行っています。

専門員からよく聞く話で、「不景気が長く続いているなかで、いろんなところに面接を受けましたが全然採用にならなくて、やむなく福祉へ、という感じの人が非常に多い」と聞きます。そういう人に関しては、「なぜ介護職なのか。なぜ福祉なのか」福祉以外の選択肢も含めて、専門員が一緒になって話し合い、結果的に他業種に就職した人もいます。逆に、専門員の方が事業者に何度も何度も話を持っていき、「この人は介護の経験はないけれど、人物は凄くいい人だから会ってみて欲しい」ということで同行訪問などして就職に結びつき、最終的にフロアリーダーになった人もいると聞いています。

他方、事業所への支援のひとつとしては、求職者が集まらない場合のことがあげられます。これは、その施設がどうこうという以前に、地域性の問題もあります。条件的には他の事業所と変わらない内容で求人票を出しても、一向に職員募集に人が来ないという事業所があります。

また、東京に隣接しているようなところも、人材が全部東京に流れていく悩みがあります。こうした事業所に聞くと、「集まらない以上は人材派遣に頼むしかない」と話していました。そういう事業所もかなりあると聞いております。

そういうときにセンターとしてどういうことができるかといえば、正直、期待に応えられないケースも多々あります。ただ、例えば人材派遣に頼らざるを得ないような東京と隣接する地区でも、その事業所の通勤圏内に住む人で、なるべく事業所が求めている条件に近い人をピックアップして、そういう人たちにメールや電話、専門員が一人ひとり会って話をして、そのなかで順次紹介している状況があります。また、こうした取り組みをしていると、実際に現場を知らない人も非常に多いわけです。そこで、そういった人たちに、障がい者の事業所や高齢者施設などの現場を見る機会を提供するバスツアーも実施しています。

事業所に関しては、うまく行かなければ、他の人をリストアップして同じように全員と面談して売り込んで…といったことを繰り返し行っています。そういう流れのなかで、人材センターの取り組み自体を別の事業も含めて紹介する機会にもなりますし、身近な存在として意識してもらえる関係づくりもできるし、理解も深まると思っています。結局、求職者、事業所双方とも、やはり一人ひとり、1カ所1カ所、顔を合わせて関係性を築くことが重要だと考えています。

地域や学校とも密接な連携を

3つ目の地域密着型就労支援事業もサテライトと同じような意味合いで、浦和の人材センターの本所に拠点を構えているだけでは、求職者の掘り起こしに限りがあるため、新規開拓に向けて県内各地のハローワークを年間に数十回の頻度で尋ねたり、相談会も毎月のように実施しています。

そのほか4点目として、「福祉の仕事」学校教育連携もあります。福祉系の養成校とは連絡会議をもって情報交換を行っていますが、高校へのアプローチは昨年から取り組みを始めたところです。内容は高校生向けの福祉の仕事ガイダンスや施設見学、進路指導の先生方と施設の先生方の懇談会などの開催です。今年の参加は高校23校、施設29所です。実数として少ないと感じるかも知れませんが、参加高校は昨年より増えているうえ、参加されている学校、施設からは非常に好評をいただいています。

高校生に関しては、即就職に結びつくということは、正直、あまり期待はしていません。高校の段階で、福祉の仕事の理解をもう少し深めたうえで、将来の進学とか就職につながるような流れをつくっていきたいという意味で事業を立ち上げているものです。

中高年や未経験者へのさらなる支援も

事業の基本方針が継続されることを前提に、今後の事業展開に向けた課題をお話します。現在、求職登録者が大きく減少しており、人材センターの有効求人倍率が3月は1.81だったのが8月には3.39に跳ね上がっています。これから、工夫を凝らしながら求職者を増やす取り組みをしていかねばならないと思っています。

そのなかでは、なかなか就職に結びついていない中高年や有資格未経験者を、どうにかして就職に結び付けていくための事業展開も考えていきたいと思いますし、対象職種、対象地域を一層特化した形での取り組みも考えています。例えば、中高年層に限った就職面接会をしてみるとかパートに絞った就職面接会をやってみるとか、それぞれの地域のなかの要望に合わせてやっていきたいと考えています。

最後に、関係機関等との連携強化では、就業支援機関も当然ですし学校、養成校、高校、経営者協議会とか老人福祉施設協議会などとも、一層力を合わせて進んでいかなければいけない厳しい状況がきていると認識しています。そういう意味でも、これまでの方針を踏襲し、求職者、事業所とも顔を合わせた関係性を築きながらマッチング制度をより高めていきたいと考えています。