事例報告2:介護人材を掘り起こし・育て・送り出し・支える~介護福祉士養成校として、地域資源として~
介護職の安定的な採用・確保に向けて
第62回労働政策フォーラム(2012年9月19日)

<事例報告2>介護人材を掘り起こし・育て・送り出し・支える
~介護福祉士養成校として、地域資源として~

白井孝子 東京福祉専門学校ケアワーク学部介護福祉士科教務主任

写真:白井教務主任

私は福祉の専門学校の現場で学生たちを教えています。今日は、学生たちを教えているなかで、介護現場で働きたいと思って入ってきた学生に現実を知らせたり夢を与えながら、どういうふうに育て、送り出しているのか。そして、送り出した学生たちをどのように支えているのかを報告したいと思います。


介護福祉士資格の取得要件

本校の取り組みの紹介に入る前に、介護福祉士の登録者数の推移をみていきます。介護福祉士になるには、3年間の実務を経て国家試験を受験する道と、養成施設で経験を積む道があります。現状は、図表1のように国家試験で取得する人が多い状況です。本校も今のところは、入学後2~3年の各タイプのクラスで学ぶことにより、国家試験を受けずに介護福祉士の資格を取得できます。今後については、実務ルートの場合はどこかの段階で研修という形での学びを経験してから国家試験を受けることになります。そして、養成校ルートには国家試験の受験を義務づけることで、資格の取得要件を統一する形に変わってきます(図表2)。なお、学びの内容については、医療的ケアの専門的なことも少し加えていくことになります。

図表1 介護福祉士の登録者数の推移(厚生労働省HPより)
※図をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表1

図表2 介護福祉士取得方法(今後)

図2

こうした状況のなかで、今はよく「養成校の学生さんって学校を卒業しても何もできないね。夜勤もさせられない」といわれることがあります。しかし、3年間の実務経験のある人と比べること自体、間違っているわけです。ですから、そうしたことを言われる度に、「基本を学んで『さあ、これから』という卒業生と、3年の経験がある人を同じ目で見てもらっては困る。その後の伸び幅とか基本概念の理解度あたりも見ていただきたい」と答えています。

図表3 介護福祉養成校の現状

図3

平成21年度からの( )内は離職者訓練制度(介護福祉士養成コース)介護雇用プログラム入学者 但し平成23年度介護雇用プログラムの計上なし。

充足率【 】は職業訓練制度等による入学者数を加算した充足率

 出所:厚生労働省社会援護局

減少傾向にある充足率

介護福祉士養成校の充足率は減少傾向にあります。図表3にある通り、2006年には71.8%だった充足率が、一番低い09年では43.4%まで減っているのです。これは何故なのか。介護現場に3Kのイメージがあるなどの世間の評判もあるかも知れませんが、私は大学が全入時代に入った影響も大きいと考えています。高校の先生が進路指導を行う際、まず勧めるのは大学です。本校も最盛期は1学年160人の学生がいましたが、そういう時期は終わった感があるのが正直なところです。とはいえ、超高齢化社会を迎えて、やはり入ってくる人たちに、高い専門性や豊かな発想性も含めた育成をしていくことが養成校の使命だと思っています。

福祉士をめざす人への支援

さて、ここからは本校の取り組みを紹介します。本校は福祉の総合養成校として、いろいろな専門職の人材を育てています。学部は ①ケアワーク ②ソーシャルワーク ③リハビリテーション ④チャイルドケアワーク――の4つで構成しており、それぞれ目標資格を定めています。1989年の開校以来、約1万3,500人の卒業生を送り出しています。

なかでも、ケアワーク学部で介護福祉士をめざす人材への支援については、高校生と進路担当教員向けに進学ガイダンスや高校訪問に加え、高校への出前授業で福祉の楽しさを伝えるように心掛けています。また、福祉現場の現状を知ってもらう各種資料を用意したり、施設等で卒業生が活躍している場面を映像に収めてきて観てもらったりすることで、現場の楽しさを感じてもらう試みも行っています。また、介護現場で働くことに不安を覚える保護者も多いので、体験入学に保護者も来てもらったり、施設見学に一緒に行くこともしています。

それから近年の社会情勢を反映して、就学資金などで悩みを抱える学生や、年齢の高い人のなかには、自ら働いて学費を稼ぎながら学びたいと考える人もいます。そういった人のために、昼間は施設で働き、夜は学校に行くような働き方を容認してくれる施設と連携した「ワーク&スタディ制度」を設けています。学校には実習とかさまざまな学校行事があり、休まねばならない場面がでてきます。例えば、実習期間は長いときで1カ月間、仕事を休むことになります。それでも採っていただけるように施設と連携を図っています。

対話の時間を多く取る

図表4 介護福祉士をめざす人材支援

図表4

本校の介護福祉士の養成課程は3学科があり(図表4)、入ってくる学生像は多様です。介護福祉士科は高校生が多くを占めています。3年制で学生生活もしながら比較的ゆとりを持って介護について学んでいきたい人が対象です。やはり、高校生には、少し時間をかけて施設や現場を見て欲しいと考えています。学校を出て働き始めてから、「こんなはずじゃなかった」ということがないように、3年間で実習も含め、いろいろな形で外に出るようにしています。

学生たちが現場に行くと、いろいろな現場があるので、本当に揺れ動いて帰ってきます。そこで私たちがしっかり支えてあげないと、「福祉の現場ってこんなものか」と思われても困ります。例えば、先ほどの飯塚さんのお話にあったように「こんなはずじゃなかった」「教科書にないことばかりだった」などといって戻ってきたら、そういった意見をそのまま放置しないで、「そうだね。じゃあ、それを変えていくのがあなたたちだから、どうすれば変わるのかな」というように対話の時間を多く取りながら育成することがとても大切だと思っています。

職場との連携に関しては、人材支援の視点で学生を支援する目的で2009年度から「介護福祉養成実習施設指導者特別研修」を行い、実習先の介護福祉士が介護福祉養成校から来た学生へのスーパービジョンや支援の仕方を学ぶ場を提供しています。

実施後3年間で大きく変わったのは、施設に行った学生たちが「こう言われてしまった」とか「泣いてしまった」などといったことが減り、「こういうことがあったのですが、施設の指導者から指導されて、こういうこともあるということがわかりました」などの変化がみられるようになりました。

それから今は心と体の不安を訴える学生も非常に多くなっています。高校の先生からよく聞くのは、「○○さんはとても優しいので福祉の仕事が合うと思います」といって勧めてくるのですが、介護福祉士の仕事は「人対人」なので、心も体もしっかりとしていないと折れてしまうことも少なくありません。本校で学ぶ間に、現場で頑張る姿も見せるようにして、心と体のケアや支援もしっかりできるようなシステムも組んでいます。

社会人向け養成課程に工夫

一方、介護福祉士実践科は2年制で午後も少しフリーにしてあります。3分の2が社会人で、とくにママさんが多い。母親が子供を保育園に預けて、保育園に行っている間に介護福祉士の勉強をするわけです。シングルマザーもいますが、そうでない人もいます。この人達は将来、自分が職業を持ちたいと考えています。

図表5 学び

図5

夜間課程は3年制ですが、昼間働いて夜学ぶのはなかなかできることではありません。お金をなるべく確保するために、例えば、朝7時の早番から入って4時まで働き、その後で学校に来て6時から9時半ごろまで勉強するといったサイクルを長期間安定的にこなさねばなりません。このため、高校生よりも働くことへの意識が少し高い社会人が多くなっています。

社会人も学びについて不安を抱いています。例えば、社会人で一番年齢が高かったのは68歳の人でしたが、「記憶力がないので、大丈夫でしょうか」と話されていました。そこで、本校では、「学校なので半期に一度試験をします」ということではなく、まだ記憶が新しい短い単位で試験を繰り返したり、「わからないことがあったら後送りにするのではなく、その時にしっかりやりましょう」といったシステムを採っています(図表5)。

求人と卒業生のマッチングに尽力

就職状況ですが、まず図表6は全国の介護福祉士養成校における卒業生の進路で、一般的には社会福祉施設に就職する学生が多いのが現状です。訪問介護事業所に行く人も少なくありませんが、こちらは訪問介護事業所を自分たちで立ち上げる卒業生も多くいます。

図表6 就職状況

■介護福祉士養成校(全国)における卒業生の進路

図6

介護福祉士養成施設協会資料より

本校では、就職のカギを握るのはマッチングだと考えています。実際、卒業生がどういった働き方をしたいかなどが問題になってきます。例えば、母親たちの場合、子供がいるので夜勤ができない人が多いわけです。でも、生活の安定のためにどうしても正職員になりたいといった希望を出されることが少なくありません。この場合、求人票だけで探してもなかなかうまくいきません。そこでキャリアセンターや私たちが求人施設に「夜勤を条件に含めた介護福祉士を募集されていますが、実はこういう人がいます。将来的にはできるかも知れませんが、今は夜勤が難しいのです。まずはデイサービスで採用していただけないでしょうか」といったような個別対応をしながら、就職につなげています。

最後に、本校が地域支援として行っている再就職の委託事業を紹介します。本校がある東京都江戸川区は人口が約67万人います。高齢化率は18.1%ですが、区内の訪問介護事業所は119もあります。区では、この訪問介護事業所で働く人が大きく不足しているため、養成校と区が協力して「ブラッシュアップ研修」を実施しています。受講料は無料。40人の定員で、働いてもらうための知識を再度、身につけてもらうことをしています。

ただ、残念ながら、現状は参加者が毎回多くて20人ぐらいで、これが江戸川区の就職に結びついたかというと非常に疑問なところです。それは、やはり受講者の年齢層が高いことと施設の働く部分が見えないことがネックになっていました。それでこれからは、ただ知識を得るだけではなく、学校のキャリアセンターや施設にも行って現場を見ることを心掛けるようにしています。