<事例報告> 岩手県の復興に向けた雇用対策の取り組み
―取り組みからみえてきたもの―:第59回労働政策フォーラム

震災から1年、被災地域の復興と労働政策を考える
(2012年3月19日)

<事例報告> 岩手県の復興に向けた雇用対策の取り組み―取り組みからみえてきたもの―

津軽石 昭彦 岩手県商工労働観光部雇用対策・労働室特命参事兼雇用対策課長

震災後の岩手県の雇用情勢

津軽石 昭彦 岩手県前商工労働観光部雇用対策・労働室特命参事兼雇用対策課長

私からは、岩手県における雇用対策の取り組みの現状と課題について、若干個人的な見解も含めてお話します。

震災後の岩手県の雇用情勢についてご説明します。簡単に申し上げますと、復興需要あるいは生産の回復により、数字的にはかなり改善傾向を示しています。とはいえ、先ほどの先生方からのご指摘のように、雇用のミスマッチが生じています。今後は、安定的な雇用創出がカギになってきます。沿岸部では現在、瓦礫もかなり片づきましたが、復興というのには少し遠い印象を受けます。

有効求人倍率は、かなり改善傾向を示しています。岩手県はずっと全国よりも下でしたけれども、24年1月は0.75倍と、11年ぶりに、全国平均(0.73倍)を若干上回りました。

また、震災失業者の数はピーク時、約1万3,000人が失業したのではないかと推計しています(図表1)。震災後の有効求職者数は、23年5月がもっとも求職者の多い時期で4万6,000人程いました。リーマン・ショック前の平常時と比べると、約1万3,000人多いことがわかります。それが12月時点では約6,000人まで減り、24年1月は約5,000人まで改善しています。つまり、あと5,000人の求職者を減らしていくと、ほぼ正常値であるピンクのラインに戻っていくことになります。本県では現在、この5,000人の方の就職に全力で取り組んでいます。

図表1 震災失業者の状況はどうか―ピーク時1万3千人がH23.12月には6千人に改善―

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図表1 震災失業者の状況はどうか―ピーク時1万3千人がH23.12月には6千人に改善―

この数を地域別にみると、沿岸部の大船渡、宮古、釜石、それぞれ1,400人、800人、1,000人となります(図表2)。被害の大きかった沿岸部では、約3,000人の雇用を生み出すことで、雇用が平常時に戻るのではないかと考えています。

図表2 地域別の有効求職者数の推移―沿岸全体で約3,000人の雇用創出が必要―

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図表2 地域別の有効求職者数の推移―沿岸全体で約3,000人の雇用創出が必要―創出が必要―

求職者にアンケート調査

今年の1月、沿岸部の4カ所のハローワークで求職者にアンケート調査を実施しました。回答者の半分以上が女性で、年齢的には35歳以上の中高年者が7割を占めました。回答者の9割近くの方が今のところで働きたいと答えています。つまり、中高年の方で、いろいろな家族の事情を抱え、できれば地元に残り、このまま同じ場所で働きたいという方が圧倒的に多いということです。

次は、希望する業種の状況です(図表3)。青線が男性、赤線が女性、緑の線が全体です。全体を通して、製造業に対する希望がもっとも多いことがわかります。製造業では、食品加工業が産業的に大きいウエイトを占めています。その意味では、沿岸部の水産加工業の再建を加速化させていくことが重要です。

図表3 希望業種の状況(求職者調査(H24.1)から)

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図表3 希望業種の状況(求職者調査(H24.1)から)

希望する雇用形態は、全体では正社員で働きたいという方が半数以上を占めています(図表4)。男性では7割近くが正社員希望です。一方、女性は、半分以上がパートで働くことを希望しています。女性に関しては、パート志向の方が多いのですが、全体でみると、やはり長期安定的な正社員を創出していくことが、今後の大きな課題であると考えています。

図表4 希望する雇用形態(求職者調査(H24.1)から)

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図表4 希望する雇用形態(求職者調査(H24.1)から)

ミスマッチの要因

ミスマッチと一言でいいますが、今回は、これまでとは異なります。これまでの不況による失業、例えばリーマン・ショックであれば製造業、輸出産業に従事する方の失業が圧倒的に多く、年齢的にも大体30代が多かったと思います。ところが今回は、広いエリアであらゆる年代層、あらゆる職種の方が失業しています。従って、ミスマッチも非常に多様化しているというのが大きい違いです。

就職しない理由は、「希望に合う求人がないから」が半分以上を占めます(図表5)。それから去年11月の第1回調査で1割近くあった「前の会社の再開を待っているから」は、かなり減っています。若干ですが、事業所の復興が少しずつ進んでいるものと考えられます。

図表5 ミスマッチの要因(求職者調査(H24.1)から)

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図表5 ミスマッチの要因(求職者調査(H24.1)から)

ミスマッチの理由として、もっとも多いのが職務内容、つまり仕事の内容です。男女別にみていきますと、男性の場合、もっとも多いのが職務内容で、2番目に多いのは給与額、三番目は雇用形態です。男性は、給料が高く、正社員を希望する方が多くいます。他方、女性の方は少し違います。もっとも多いのは職務内容ですが、その次が通勤時間、勤務時間と続きます。ご家庭を抱えていることから、男性とは若干違うところがあると考えられます。ミスマッチにはさまざまな要因がありますが、その解消のためには、ひとつは大きく雇用を増やしていくことです。ふたつめには、マッチングの確率を高める、マッチングの機会を増加させることが重要です。つまり、就職面接会や実習を伴った職業訓練を数多く実施することが重要になると思います。そういった取り組みが今後、大きく求められてくると思います。

就職活動の状況

では、実際の就職活動はどうなっているのでしょうか。実際の就職活動は、ある意味、非常に低調な状況にあります。図表6は、震災後の就職に向けた面接の回数です。面接回数ゼロが6割近くを占め、失業しているけれども面接を受けていない方が圧倒的に多くいます。背景として、雇用保険の要因も確かにありますが、個々にお話を聞いてみますと、それ以外の要因も浮かび上がります。ひとつは家族を抱えて十分に養えるような仕事がなかなか見つからないことがあげられます。あるいは、家族に介護を要する高齢者がいて、なかなか働きに出かけられない。あるいは最愛の家族を失い、メンタル面での立ち直りができてない。そういうさまざまな要因が複雑に絡み合い、まだ仕事に向き合えないという方がいらっしゃいます。とはいえ、雇用保険もだんだんと切れてまいります。特に就職が難しいと言われる中高年の方への就職活動の支援が重要ではないかと考えています。

図表6 就職活動の状況(求職者調査(H24.1)から)

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図表6 就職活動の状況(求職者調査(H24.1)から)

一方、女性の場合は、パート希望者が多く、春先から夏にかけて水産加工場が少しずつ復旧してくると関係者から聞いています。おそらく、パート志向の女性の方は、企業が復活してくると、だんだんと吸収されると思います。残るのは、やはり元正社員であった中高年男性です。その意味では、彼らをこれから違う業種に転職できるようにする、あるいは違う仕事、違う会社でも働けるようにする。そういうフォローが重要になってくると思います。

2012年度の取り組み

今回の震災で、岩手県の内陸部は比較的被害が少なくてすみました。その意味では、まず内陸部が、沿岸部、さらに県全体を牽引していくことが必要です。そのうえで、沿岸部においては雇用保険切れに向けた短期の雇用、また産業施策と連携した中長期の安定的な雇用の双方を創出していき、先ほど申し上げた、中高年の方に対するきめ細かい就業支援も並行して進めていく必要があります。

雇用創出と就業支援で言えば、24年度は緊急雇用創出事業などを利用し、正社員化による中長期の雇用と雇用保険切れに備えた短期雇用で、あわせて約1万7,800人の雇用創出を図ります。沿岸部では、マッチングの機会を増やすため、面接会を重点的に開催し、併せて、人材育成・就職支援につなげる求職者や企業向けのセミナーも開催します。

また、現在、市町村で進めているものとして、被災の少なかった内陸部の北上市が、沿岸部の大船渡市に対して、緊急雇用創出事業を使い仮設住宅の支援サービスを行っています。この枠組みを使い、被災地の方を雇っていろいろなサービスを実施します。被災地の自治体は今、大変な人手不足です。その意味では、内陸の市役所が沿岸部の市役所を支援しながら、なおかつ被災者の方を雇用する。具体的には、団地内の集会所を運営したり、コールセンターをつくったり、いろいろな掲示板をつくったりする仕事をしています。こういった取り組みを今後も進めていきます。

被災地に長期安定雇用を

それから、長期安定雇用で申し上げますと、国の第3次補正によりまして、事業復興型雇用創出事業がスタートしました。これは、経済産業省と農林水産省などのハード事業において、補助を受けた民間企業等が新たに人を雇う場合、自治体が人件費の一部を助成するものです。仮設の水産加工場では既に新たな雇用が生み出されています。そういった方々への雇用支援ということで、従業員1人あたり、3年間で総額225万円を支援するものです。ハードと雇用政策をパッケージで実施するのが、この事業の特徴です。

それから就業支援で申し上げますと、内閣府のパーソナル・サポート事業があります。被災者のなかには、失業が長引く人もいます。メンタル面も含めて複合的な悩みを抱えている方もすくなくありません。そういう方々には、従来の縦割りを越えた寄り添い型の支援を推進しています。24年度から、大船渡、釜石、宮古、久慈の沿岸部4カ所に支援拠点を設け、県とハローワークと力をあわせて実施していきます。

今後の雇用政策の課題

今後の自治体の雇用政策を考える場合に、もともと岩手県、東北地方全体にある程度、共通していることですが、高齢化・少子化が非常に進んでいます。こうした中、今回の大震災が発生しました。人口の流出あるいは地域の持続性について、われわれは今、非常に危機感を持っています。雇用政策が、産業振興あるいは社会保障、地域づくりと連携しながら多面的な機能を果たしていくということが今後、重要ではないかと考えます。人々が安心して被災地に住み続けるためには、中間所得層をいかに多く維持できるかが、これからの課題です。

被災地で起きていることは、もしかしたら、何十年後の日本全体の課題が一気に起きているのではないかとも思います。その意味では、被災地の復興は、日本のこれからの将来を考える上で、重要な示唆を持つと考えます。