<基調報告>
被災地域の現状と雇用政策:
第59回労働政策フォーラム

震災から1年、被災地域の復興と労働政策を考える
(2012年3月19日)

藤澤勝博 厚生労働省職業安定局雇用政策課長

藤澤勝博 厚生労働省職業安定局雇用政策課長

現在の雇用情勢

私からは、政府が行っております雇用対策の概況、その前提としての被災地域の現状把握の状況をお話します。初めに、図表1の「現在の雇用情勢」をみていきます。完全失業率と有効求人倍率をグラフにしてあります。リーマン・ショック以降、求人倍率は回復期に入り上昇を続ける一方、完全失業率は低下を続けています。求人倍率が23年の2月、3月ごろ少し横ばいになっていますが、そのあたりを東日本大震災の影響とみております。その後また再び、順調に回復してきているという状況にございます。

津波による臨海部の産業への影響については、岩手県、宮城県、福島県の臨海部の市町村で震災前に働いていた方が約84万人、事業所数では8万8,000所ほどありました。3県の臨海部の産業別就業者割合は、岩手県では農業や漁業が盛んで、宮城県では卸売・小売業で働いている方が多く、福島県では製造業のウエイトが高い状況です。

図表1 現在の雇用情勢 一部に持ち直しの動きが見られるものの、依然として厳しい状況にある

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図表1 現在の雇用情勢 一部に持ち直しの動きが見られるものの、依然として厳しい状況にある

(注)平成23年3月~8月の完全失業率、完全失業者数は岩手県、宮城県及び福島県を除いた結果であり、また、9月以降は一部調査区を除いた全国の調査結果であるため、単純比較はできない。

資料出所:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」

※シャドー部分は景気後退期、直近の景気の谷は暫定的に設定。

被災3県の求人・求職状況

図表2は、「震災による雇用の状況(月次)」という表です。過去1年近くのハローワークでの求人、求職あるいは就職の状況をご覧いただきたいと思います。左上が有効求人数です。震災で3月には減少しましたが、その後ずっと増加を続け、1月には11万1,000件ほどの求人を有効求人としてハローワークにちょうだいしています。新規求人もずっと増加を続けていまして、1月には4万5,000件をちょうだいしています。一方、求職者ですが、4月に新規求職者が大幅に増加しましたが、その後、ほぼ減少傾向をたどり、1月には3万人を切りました。有効求職者は1月に14万3,082人と、前月より少し減少していますが、それでも非常に高い水準になっています。

図表2 震災による雇用の状況(月次)

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図表2 震災による雇用の状況(月次)

参考)

○雇用保険離職票等交付件数被災3県計23万654件(3月12日~2月19日)(前年比1.4倍)

○雇用創出基金事業による計画状況被災3県計32,000人

注)

上記数値は全て被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の合計。

数値の斜字体は季節調整値。雇用保険の数値は自発的失業や定年退職、その他特例対象分も含む。

一方、図表2の右上は、ハローワーク経由で就職した方の就職件数です。ほぼ毎月1万を超える方がハローワーク経由で就職しています。昨年12月、今年1月でみると、前年よりも3割弱増加しています。また、雇用保険の受給者については、一番下の受給者実人員をご覧下さい。これまで被災地では雇用保険の延長給付を2回ほどにわたり実施してきました。今年1月の段階で、延長給付も含めて雇用保険を受給して仕事を探している方が6万2,528人で、前年比103.8%のほぼ倍増となっています。

図表3では男女別に求職者あるいは就職件数などについて表にしてあります。左上の有効求職者数の1月のところをご覧いただきたいと思います。3県あわせて男性が5万9,830人、女性が6万9,531人です。前年比でみますと、男性がマイナス0.3に対して女性が13.6で、女性の求職者の方のほうが多く、伸び率でも高くなっています。

図表3 震災による雇用の状況(月次)

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図表3 震災による雇用の状況(月次)

注)

上記数値は全て被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の合計。全て原数値である。

雇用保険の数値は自発的失業や定年退職、その他特例対象分も含む。

復旧関係の求人が増加

図表4図表5では、3県の産業別新規求人数を昨年5月と今年1月で比較しています。図表4の5月の段階では、求人は増加しており、増えているところは建設業あるいは、公務、その他などです。いわゆる復旧関係の求人や、雇用創出基金事業の求人をハローワークにいただいて、求人が増加している状況です。図表5をご覧いただきますと、今年1月においても、建設業は引き続き増加をしており、それ以外の産業でも求人が増加しています。

求職理由別新規求職者数については、離職者のうち事業主都合、いわゆる倒産や解雇により離職してハローワークにいらっしゃった方が3県とも非常に増加しています。今年に入るとマイナスに転じ、事業主都合で離職した方は減少しています。以上が、ハローワークにおける求人・求職状況の概略です。

図表4 岩手県、宮城県、福島県の産業別新規求人数(5月)

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図表4 岩手県、宮城県、福島県の産業別新規求人数(5月)

(注)数値は原数値である。パートタイム含む。主要産業、「農,林,漁業」および「公務、その他」について記載。

資料出所:厚生労働省「職業安定業務統計」

図表5 岩手県、宮城県、福島県の産業別新規求人数(1月)

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図表5 岩手県、宮城県、福島県の産業別新規求人数(1月))

(注)数値は原数値である。パートタイム含む。主要産業、「農,林,漁業」および「公務、その他」について記載。

資料出所:厚生労働省「職業安定業務統計」

雇用のミスマッチ

続いて、3県の求人・求職のミスマッチの状況についてご説明します。岩手県の釜石、宮古ハローワーク管内においては、生産工程・労務の職業には、男性の求職者が非常に多いものの、求人は半分程にとどまります。食料品製造の職業では、女性の求職者が非常に多い半面、求人はほとんどありません。

宮城県の石巻や気仙沼管内においても、食料品製造の職業において、求人よりも求職者が多く、特に女性の求職者が多くなっています。他方、建設と土木の職業では、求人が多く、求職者は少ない状況にあります。

福島県の平と相双管内においても、同じように建設と土木の職業では求人が多い状況にあります。先ほど就職件数は増加していると申し上げましたが、正社員とそれ以外でみますと、それ以外の方が多い状況にあります。正社員の就職件数につきましては、平成22年と23年を比較しますと、23年のほうが多くなっています。以上が、震災による雇用状況の概況です。

震災に対する雇用対策の経緯

次に、東日本大震災にかかる雇用対策の状況についてご説明します。昨年3月、被災者等就労支援・雇用創出推進会議を立ち上げました。厚生労働副大臣を座長とし、厚労省だけではなくて、関係する各省が連携して雇用対策に対応することで設置しました。これまで何度も会議を開催し、対策の取りまとめをしてきました。

主なところでは、4月5日に当面の緊急総合対策として「日本はひとつ」しごとプロジェクト・フェーズ1を取りまとめました。同月27日には、補正予算、法律改正による施策としてフェーズ2を取りまとめました。10月25日には、第3次補正予算により対応するフェーズ3を取りまとめて、現在取り組んでいるところです。

震災直後は、企業の方に雇用調整助成金を活用いただいて雇用の維持をお願いし、失業された方には当座の生活の安定として、雇用保険の延長給付などを実施してきました。その後、一次補正でもありましたが、いわゆるつなぎ雇用ということで、雇用の場を確保するという方向性も加味し、フェーズ3では、本格的な雇用の場をつくる方向に現在少しずつ転換をして取り組んでいるところです。狭い意味の雇用対策ではなく、復旧・復興事業や産業政策によって、地域経済の再生・復興も含め、政府全体でこれまで取り組んできているところです。

「日本はひとつ」しごとプロジェクトの実績

図表6は、進捗状況をまとめたものです。ハローワークの就職支援では、4月から12月までに被災3県で11万人以上の就職支援を実施してきました。また、雇用創出基金事業では、4月から2月まで被災3県で3万人近くの雇用の場を確保しました。雇用保険については、休業中や一時離職中でも受給できる特例を実施しました。震災により離職した方の給付日数を最大120日、被災3県の沿岸地域ではさらに90日延長しました。

職業訓練については、建設関係で求人が求職より多いことを踏まえ、介護、情報通信などの職業訓練コースに加え、建設機械の運転技能を習得する特別訓練コースを設定し、職業訓練の機動的拡充・実施をすすめています。

図表6 「日本はひとつ」しごとプロジェクトの実績

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図表6 「日本はひとつ」しごとプロジェクトの実績

更なる雇用支援を

最後は、現在取り組んでいる雇用対策の概略です。第一は産業政策の推進で、地域経済の再生・復興のために、産業政策の実施によって雇用創出を図るものです。2点目は、ハローワークの就職支援で、雇用保険の給付の終了される方などを中心に、ハローワークで一人ひとり丁寧に対応し、就職に結びつけていく対応をしています。3点目が職業訓練の機動的な拡充・実施です。介護や情報通信の訓練コースのほかに、建設関係の運転技能を習得する特別訓練コースも設定し、現在、訓練を実施しています。4点目は、つなぎ雇用から本格的な安定雇用で、昨年の3次補正で被災地雇用復興総合プログラムを策定しました。被災地の強みである農林水産業、水産加工業あるいは医療・福祉業などへの産業支援策と一体となった雇用面での支援を行う事業です。また、女性の活用など雇用モデルの創造のための事業を現在実施し、雇用の確保・創出に結びつけています。