パネルディスカッション:第54回労働政策フォーラム
若者問題への接近:若者政策のフォローアップと新たな展開
(2011年7月9日)

写真:パネルディスカッション:若者問題への接近:若者政策のフォローアップと新たな展開/労働政策フォーラム(2011年7月9日開催)

パネリスト

宮崎隆志
北海道大学大学院教育学研究院教授
吉田美穂
神奈川県立田奈高等学校教諭
関口昌幸
横浜市こども青少年局青少年部青少年育成課担当係長
堀 有喜衣
JILPT副主任研究員

コメンテーター

宮本みち子
放送大学教養学部教授/日本学術会議連携会員

コーディネーター

小杉礼子
JILPT統括研究員/日本学術会議連携会員

小杉

では、パネルディスカッションに入ります。 その前に4本の報告を復習しますと、宮崎さんからは、高校中退者側の意識に添った形で中退者の実態や中退後の状況について詳しく話してもらいました。彼らの視点に立ったときに、今の政策支援が届いているか、今のあり方でいいのかどうか、大きな疑問が投げかけられました。

吉田さんからは、さまざまな課題を抱えた高校生が集中する高校でどれだけ積極的な支援が行われているか、好事例が紹介されました。ただ、それができている背景として、田奈高校はそれができるだけの特別な高校であり、実際には、そうした支援を高校がすべてやらされるというのはかなり負担が重く、社会的な支えがなければできないという実態もわかりました。

小杉礼子 JILPT統括研究員/日本学術会議連携会員:労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

関口さんからは、自治体がやればここまでできるんだということがわかりました。最後の堀さんからは、関口さんの話のなかに出てきた「中間的な働き方」に焦点を置いたときに、どういった展開の可能性があるかについて、海外の状況をあわせながら話がありました。

さて、ここからの議論では、まず、日本学術会議の社会変動と若者分科会の委員長でもある宮本みち子さんから、4つの報告についてコメントをいただき、それを皮切りに議論を始めたいと思います。

報告へのコメント

宮本みち子 放送大学教養学部教授/日本学術会議連携会員:労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

宮本

このテーマでフォーラムを開催してから3年目となりますが、労働市場が流動化し不安定化し厳しくなるなか、もっとも困難を抱えている若者は誰なのかということを、1年目から終始追究をしてきました。

宮崎報告では、若者のなかでもっとも困難を抱えて労働市場に入っていけない代表的グループとして、高校中退者を対象に取り上げました。ただ、中退者の問題が突然浮上してきたわけではありません。工業化時代の枠組みがもはや機能不全に陥っており、グローバル経済競争が激化するなか、労働力の選別化が進んでいる。この選別化の中で、労働市場に参入することの困難な層が生まれています。したがって、本日の4人の報告は、この労働市場への参入困難な若者層に対して、それぞれの角度からアプローチをしながら、一体何ができるのかを報告したものだと思っています。

この10年間の重点は、労働市場に不完全にしか入れない若者たち、なかでも年長フリーターなど、学卒後かなりの年月を経た者を支援していました。それが現場での取り組みや政策対応の進展のなかで、もっと早期に発見して適切な支援をしなければいけないという流れになっています。今日の報告の対象は10代の若者であり、まさに、今日の課題に接近する内容でした。

若者問題には3つの共通性

これまでの若者支援は、とりわけ困難度の高い若者に対しては限界があり、就職対策だけでは対応できないということが各報告者から具体的な形で提起されました。もっとも不利な条件を抱えている若者の問題を整理すると、共通性が3点あると感じました。

1点目は、すでに学校段階でつまづき、出口(卒業)のところで就職が決まらない。アルバイトとしてしか、社会に出ていけない若者に共通して言えることは、社会関係を喪失していることです。そのため、極めて限られた情報しか入らないのです。

2つ目は、人間発達機会の喪失。人間発達において、非常に重要な年齢期にある若者たちが、職業教育訓練を含めて、その機会を失っている。これは学校教育の段階ですでに始まっており、高校生の段階よりも早期にこうした状態が始まっていることは、この間の調査等ではっきりとしています。若者たちに発達の機会をどうやって保障していくべきでしょうか。

3つ目は貧困という問題です。高卒での就職がますます困難になっている状況のなかで、進学という選択をする者が多くなっているのに、経済的事情からそれができない人たちがいる。

これらの点から、こうした若者たちの問題というのは、単に就職という問題ではなく、社会生活上孤立化し、社会の周辺に追いやられていく問題だと言えます。そのため、国の方でも、社会的排除に対する取り組みが始まり、内閣府に社会的包摂推進室が設置されるところまできました。

ここで、私の方から4人の報告者に質問させてください。宮崎さんに対しては、高卒や中退就職者に必要とされる教育・訓練を従来の学校教育制度の枠組みでは、もはやできないという段階に来ているなかで、それをどう構想していくのか。吉田さんに関しては、田奈高校は普通科高校であり、制度的には、職業に特化した教育をしないという前提であるにもかかわらず報告のような取り組みを実施しているということは、まさに教育改革を提起していることではないかと思いますが、普通高校の限界を突破して「教育訓練」「生活費」「学校教育」この三者をつなげる方策としてどういうものが考えられるか、もう一度伺えればと思います。

関口さんに関しては、横浜市こども青少年局では、豊富な民間のNPOなどとの連携体制づくりに熱心に取り組んでこられたわけですが、そういう連携体制をつくる上で、行政にできることは何で、何が要になっているのか、日頃の苦労を含めて教えてください。

堀さんの報告は、社会的企業の実態について国内外の先進事例を調査した貴重な報告でしたが、もう一度確認したいのは、社会的企業とは一体何を指しているのかということです。報告では、教育訓練を提供するという面が濃厚に出ていましたが、就労機会の提供はどの程度行われているのか、このあたりを伺いたいと思います。

生きることと結びついた学び

小杉

今の質問に対して、順番に答えをいただきたいと思います。宮崎さん、いかがですか。

宮崎

学校の枠を超えた取り組みの例を紹介します。例えば福祉領域ですが、釧路のNPO「ネットワークサロン」がやっている生活保護世帯の子どもたちを中心にした学習保障の取り組みはもう全国的に有名ですが、「Zuとスクラム」という若者たちの学習の場が生まれてきています。こうした事例をみると、自分たちで学びの場をつくり上げていくとともに、そこで学んで高校に進んだ子どもたちが今度は次の中学生の学びをサポートしていくという、従来にはない縦の世代間循環が起きています。

宮崎隆志 北海道大学大学院教育学研究院教授/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

なおかつ、そこに地域の大人や大学の先生も入って、異質な他者が多様に合流する。縦横さまざまなつながりの中で学びの場がつくられていっているということが、むしろ福祉の場から出てきています。

もう1つ、札幌に「札幌VO」というNPOがあります。そこは、広く言えばフリースクールの一種ですが、スクールという形式にこだわること自体に疑問を投げかけています。例えば、フェアトレードで購入してきた物を、区民センターなどさまざまな人たちが出会う場で販売するのですが、それを通して、今までひきこもっていたり、不登校だったり、あるいは発達障害を持っている若者が、他者の視点で自分自身を見ることができるようになる。その経験を積むことによって、自分の抱えている課題を少しずつですが解決していっています。ここではスクール的な学びというのはあまり重視されません。つまり、学校の外側で新しい教育機能が生まれているということが現にあるのだろうと思います。

こういった機能をどう分析するかですが、労働や福祉の場で生まれている教育機能自体に、従来の学校が見失ってしまったものがおそらくあるのだと思います。だとすると、それは、宮本先生がおっしゃった発達の機会として非常に価値がある。

昨年、北アイルランドに行きましたが、Training for Successというプログラムが展開されていました。このプログラムは16歳~18歳までの若者たちが対象で、日本の専門学校のような継続教育の学校にもなじめなくて辞めてしまった子どもたちは、このプログラムで学習や職業訓練を受けています。ここに対しては政府教育資金が出されていて、無償でトレーニングを受けることができます。こうしたプログラムを広い意味で教育的な枠組みの中に包摂させる取り組みは、日本でも考えられるのではないかと考えています。

小杉

そこで教えられている内容は、学校教育や職業訓練からもかなり離れているような気がするのですが、何をめざしているのですか。

宮崎

北アイルランドの事例では、運営組織によって相当違いはあるものの、例えば料理をつくるというプログラムを行っているところでは、1と2分の1カップの材料を使って4人前つくるとしたら、1と2分の1×4という計算をしなければなりません。つまり、分数の計算が必要になってくる。英語のスペルから読み書き、算数など、実際の生活場面で必要な基礎的な力量が問われてくる。あるいは、野外実習を行ったあとには、成果をプレゼンするのですが、一見、学校的に見えますが実は、就職の際に自分のキャリアを語る場合の練習になっています。

学びがワークプレイスと直結していて、そういう意味づけが個々の学習者に理解できるような工夫がされています。

小杉

ワークプレイスにつながる学びということですが、先ほどの札幌や釧路の例もそのようなものとして位置づけられますか。

宮崎

そうですね。(普通の学校とは)学習の動機自体が全然違ってくる。従来は、学んでから働くという段階論だったとすると、自分が生きること、成長していくことと、学ぶという活動が切り離されずに位置づけられていると言えると思います。

一段上のアルバイト経験で

小杉

吉田さんに対しての質問は、普通教育の学校の限界を問うというような話だったと思いますが。

吉田美穂 神奈川県立田奈高等学校教諭/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

吉田

教育改革の流れで考えてみると、職業科と普通科の間のものとして総合学科がつくられてきています。総合学科では、職業につながる科目を選択して単位を取っていくこともできる。実際のところ、総合学科に衣替えしたかつての「学力下位」の学校ってたくさんあります。

総合学科と田奈のような普通科の違いが何かを考えてみると、田奈の良さは、クラスという子どもたちが生活していくときのベースがあるということ。クラスというのは、意外と、さまざまな困難を抱えている子どもにとっては重要だと思っています。例えば、多くの総合学科では、1週間に1度しか担任の先生に会わないことは普通ですが、それでは、困難を抱えている子供たちを支え切れない。

教員が倍になれば、普通科でも、同時に職業訓練をやるようなことも考えられますが、現実的ではありません。通常、高校生がしているアルバイトはかなり限られた職種です。そこで私たちは横浜市と協力して、保育士や介護職の現場でアルバイトさせて、職業訓練につなげるプログラムを始めました。将来的には、保育士や介護職に限らず、さまざまな職業能力を開発できるようなアルバイトを、学校を通して子どもたちに紹介していけないだろうかと考えています。

小杉

アルバイトって訓練になりますか。

吉田

アルバイトの中身によりますが、生徒たちはいろいろ学んでいると思っています。例えば、あいさつをすることの大事さ。目上の人との話し方がわかったという生徒もいます。

ただ、一生生きていくという意味での、磨かれていく職業的な能力は、今の高校生がつけるアルバイトの職種では、なかなか身に付かない。ですので、保育士をめざす生徒が保育園で、介護をやってみようかなと思う子が介護の現場でアルバイトをさせてもらう。多少なりとも専門的な能力を磨けるような場所を、アルバイト先として紹介できたらいいと思っています。

小杉

アルバイト先のほうがかなり高校生に理解があり、教育プログラム的な設計をしてくれているのですか。

吉田

そうしてもらえればいいなと思っています。地元の中小企業に話を聞くと、中小なので求人票を出す余裕はないが、人手は欲しいということを聞きます。こうした話とも、どうつなげていけるか。

小杉

外国では、若者の職業訓練のための雇用機会が特別に設計され、高校に通いながらそういう訓練を受けるという仕組みがある場合もある。そんなイメージに近いですか。

吉田

訓練の機会を用意してくれる企業に対する公的な支援があればものすごくやりやすいですね。

若者支援者の人材育成を

小杉

次に関口さん、お願いいたします。

関口

横浜には、非常に多様なNPOのほか、法人化されていない市民団体があります。そうした団体・法人に、主に補助事業という形で若者支援のための施設を運営してもらい、様々なプログラムを提供してもらっています。若者支援は政策的に新しい分野なので、条例や法律であまり縛られていませんから、同じ地域ユースプラザとか若者サポートステーションという名称の施設でも、運営する団体によって、提供されるプログラムや場の雰囲気はかなり異なります。

関口昌幸 横浜市こども青少年局青少年部青少年育成課担当係長 /労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

横浜市の地域ユースプラザは今、3カ所あります。ある地域ユースプラザの「若者の居場所事業」は、当事者とスタッフ以外は、部屋の中に第三者を入れないルールで運営している。一方、別の地域ユースプラザは、オープンにして、だれでもどうぞ来てくださいという形で運営している。

そうした、運営団体・法人の考え方の違いをどこまで行政として許容しつつ、公的サービスとしての共通のベースをどうつくっていくかが大事なことだと思っています。そのためには、施設や団体間の連絡・連携会議をこまめに開き、各団体間の情報交換や調整の場を行政として積極的に創り出していく。そのなかで、各団体の切磋琢磨によって若者にとってより良い公的サービスが生み出されていくことが望ましいのではないかと考えています。

それともう1点。行政の役割として若者支援の人材育成が大事だと思っています。特に、この分野の支援者の職業人としてのキャリア形成、身分保障をどうしていくのかは重要な課題です。

民間で青少年育成や若者支援に携わるスタッフは、その多くが極めて不安定で厳しい労働条件の中で働いています。例えば、寿町という横浜の簡易宿泊街で、子どもの居場所づくりや若者の支援活動をしているあるスタッフは、私と同じ年齢ですが、信じられないくらい給料が低い。それでも朝から夜中まで街の子供たちや若者たちと20年以上ずっとつき合い続けている。

ただ、それが「仕事」である以上、普通は、 熱意と自分の身を削るような働き方だけでは、絶対に続かないですよね。そういう超人的な努力によらなくても、しっかりとした身分保障があり、給与がもらえ、家族を形成できるような社会制度をどのように創っていけばいいのか、自治体でも考えていかなければならないと思います。

小杉

そうしたワーキングプア状態ですが、資格制度で何とかなるとお考えですか。

関口

青少年や若者に対するサービスが必要だという認識を、まず社会的に広げていきながら、社会全体として青少年や若者を育成していこう、自立支援していこう、という土壌をつくった上での資格制度だと思っています。欧州で資格制度が成り立っているのは、そういう社会的な土壌があるからだと思います。

一方で、これからの若者支援団体には社会企業家的なセンスも必要で、自分たちでも経済的に自活ができるような取り組みをして行く必要もあると思います。例えば、横浜のK2インターナショナルという団体は、若者自立塾や、南部地域ユースプラザを運営しながら、若者たちの就労の場として、お好み焼き屋や食堂も経営し、支援を受ける若者たちもスタッフも共に自活して生きていける仕組みをつくっている。

このように行政からの補助や委託事業と完全に民間の採算ベースで成り立っている事業とを上手く結びつけながら、支援するスタッフと支援される若者が共に生き生きと働き、暮らして行ける仕組みを創る試みはこれからますます重要になると思います。

小杉

今の話は堀さんに対する質問と重なる部分が多いですが。

堀 有喜衣 JILPT副主任研究員 /労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

今回のインタビュー調査でも、食べ物屋をやりながら就労機会を創出しているケースがある程度出てきましたが、やはり、経営基盤は非常に脆弱でした。報告の政策提言でも述べましたが、法律的な認証を進めていくことが、やはり政策的に重要だと思います。経営ももっとやりやすくなりますし、認証された機関できちっと働くということで、若者支援をする人たちを専門職としても認証していくことができる。そこで身に付いたスキルが、一般の労働市場に出ていったとしても認められるような、一般市場との接続も意識した認証の仕組みをつくっていくことが、重要だと思います。

小杉

いま話があった認証とは、2つの種類を言っているのですよね。

そうです。組織としての認証と、それから人材としての認証。専門職として認めて、ちゃんとスキルを認定するという意味です。

小杉

組織として認証すると、なぜ持続可能性が高くなるのですか。

きちんとした経営体であることがだれの目にも明らかになれば、資金も借りやすくなりますし、公共からの信頼も高まり、サービスを受注しやすくなる。サービスの質が高いと認められれば、仮にサービスを入札にかけられても、それなりの金額として認められる方向になる。

教育制度改革が1つの道

小杉

宮本さん、今の皆さんの答えをお聞きになって、さらに突っ込んで、お聞きしたいことなどございますか。

宮本

では、1点だけ。宮崎さんと吉田さんの回答にかかわりますが、やはり重要なことは、そういった支援を制度化しない限りは長続きもしないし、社会的にも認められないということです。ですから、学校教育自体が問われるわけで、学校教育に適応できない人や学校教育の発達基準ではうまく成果を上げることのできない人など、特段のエンパワーメントの必要な人を今の普通高校の教育でできるのかということ。

諸外国ではすでに、学校と実社会をゆるやかに結ぶ教育を導入して、学校教育でドロップアウトしそうな人に対して、学校教育のあり方自体を変えて、学校の卒業資格を与えながら、同時に職場で訓練をしている。

デンマークで見てきた生産学校では、学校にうまく適応できない10代の若者に対して、個々の状況に応じて実習中心の教育活動をする、通常の学校教育に代わる人間発達保障の仕組みがありました。フィンランドのワークショップも、実習を中心として、生活基礎訓練も含め現実社会への準備を図る仕組みです。

高校教育になじめない人をそのまま普通高校に置いておいたら、今の労働市場には入っていけない。学校教育の改革が必要です。1つの解は、訓練生制度のようなものを導入し、座学と職業教育や職場実習と生活基礎教育を多様な形で組み合わせることで、しかも生活費の支援も同時にやるというようなことではないでしょうか。

小杉

ほかの国の制度を、そのまま日本に取り入れるというのは絶対無理だと思いますが、日本で起きていることの実態に根ざした形でその考え方を入れるという方向性がなければ落ち着いていかないと思います。そういう意味で、今、宮崎さん、吉田さんのおっしゃってくれた日本での実態というのは大変価値のあることです。宮崎さん、吉田さん、コメントがあれば、どうぞ。

吉田

おそらく、デンマークやフィンランドの機関では、一人の子の全体をコーディネートする人がいるわけですよね。このコーディネーターが、「この子にはこういう学びのほうがいい」など考えると思うのですが、日本では、その子をトータルにサポートする人がいない。それがないと絶対にうまくいかないだろうと思いました。

小杉

今、それは普通科の学級担任がやらざるを得ない状況ですか。

吉田

そうですね。そういう部分はあると思います。子どもって、教育とかいろんな部分で支えられなければなりませんが、つなげて支える部分がとても弱く、結局、目の前に子供がいるから教員がやらざるを得ないという面がある。

宮崎

働く場での学習についてですが、その場合、働く場自体の教育力が問われると思います。釧路の場合、そこは苦労していて、実習的な取り組みである「まじくる」という事業があるのですが、働く文化自体が急速に変わりつつある中、人が育つような働き方って何なのかということを受け入れ企業と一緒になって考えていくということが就労先の開拓にあたっても必要になっています。

さらに、人が育つとか発達するってどういうことなのかという問い返しも必要になっている。札幌VOの例では、人が発達するとか一人前になるといったときに、 学校的な発達観があまりに支配し過ぎてるんじゃないか、発達概念自体をもう一度拡張するなり問い返さないとまずいのではないかという指摘が含まれています。

会場からの質問に答えて

都市再生との連動も

小杉

ここでフロアの皆さんから質問をいくつかお受けしたいと思います。

質問者A

何度か、中間的労働市場という言葉が出てきました。この言葉についてもう少し具体的に教えてください。普通の労働市場とどう違うのでしょうか。

質問者B

高校生などの若年層が貧困を伴っている場合、生活保護等の制度の設計上、金を稼ぐことがしにくい面があると思いますが。

質問者C

私が講師を務めている埼玉の訓練機関では、率直に言って、訓練の成果が就労につながっていません。職業教育と産業政策は極めて具体的でないといけないと思いますが、見解はいかがですか。

質問者D

都市部の小学校では、3、4年生を境目にして地域の公立中学校に進まない恵まれた家庭層の子が多い一方、公立では厳しい条件の子が集中する学校も見られます。高校以前の段階では、どのようにこの問題を取り扱っていったらいいでしょうか。

また、教員配置のサイクルを見ると、学力底辺校にとどまる教員は非常に少なく、学力上位の学校にも異動する。上位校に異動すると、この問題に途端に関心が薄くなったりする現実の中で、制度改革を声高に叫んでも、あまり意味がないのでは。

質問者E

吉田先生から、普通科というのはクラスというベースがあり、それが学生をつなぎとめているという話がありましたが、安定して人間関係をつくって学校の中で頑張っていこうという輪をつくっていくために、教員は何ができるでしょうか。

質問者F

田奈高校はモデル校として、報告のような取り組みが行われているのですか。それとも、問題意識のある校長先生の方針にのっとって、先生方が一致団結してこのようなすばらしい事例をつくっているのですか。

小杉

6つの質問をいただきました。最後の2つは吉田先生から、中間的労働市場については、堀さんと関口さんからお答えください。

生活保護との関係は宮本先生。関口さん、横浜市のほうで訓練の出口について産業政策と連携しているようなことがありますか。中学生段階での対応については教育論として、宮崎さんのほうからお願いします。

吉田

普通科でも、人間関係でつまずいて退学していく生徒はもちろんいると思います。田奈の例ですが、もちろん担任と生徒のコミュニケーションは非常に重要ですが、それだけで生徒を支えているわけではなく、実は教育相談がかなり重要です。

例えば、ある子が人間関係のトラブルを起こしてしんどい状況にある、というような情報は、田奈では担任だけでなく学年ごとの教育相談コーディネーターが把握していきますし、そのベースには、私たち教員が、「気になる生徒」について職員室で日々、情報交換し続けているということがあります。その中で、カウンセリングにつなげるなど特別な対応をしたほうがいい案件については、生徒指導の担当なども一緒に動いて対応していきます。

田奈はモデル校ですかという質問がありましたが、モデル校ではありません。もともと生徒との対話を大事にするという特色があり、先生間でよく話し合うという環境ももともとありました。そういう状況を踏まえて、管理職のほうからの提案もうけて、文部科学省の研究開発学校に手を挙げたり、神奈川の支援教育の研究に取り組んだりしています。

宮崎

低年齢の子どもたちへの対応ですが、小学校3、4年以前の段階で、もう二極化しているというのはおっしゃるとおり。早期離学への対処の問題は、高校中退段階ではもう遅いとも言えます。家族形成なり家庭教育の段階から早期に対応しなければならない。イギリスでは、ハイリスクの家族に対する支援、例えばSure Startプログラムのように、Early School Leaving問題の中で一貫して取り組まれています。

中間的労働市場というのは、ここでは、一般就労でもなく福祉的就労でもないという形で定義しています。

普通の労働市場では仕事が先にあり、人がそこに配分されていくのが一般的な考え方ですが、 人が先にいて、その人ができる仕事、やりたい仕事は何か、どんな働き方ができるのかを考えて仕事をつくっていくのが中間的労働市場のよい点です。

関口

中間的労働市場にはおそらく2つの側面があって、1つは、一般就労に移行するための給付金つき職業訓練の側面。もう1つは、最終的な就職先として、そこで働き続けていく。たとえ困難を抱えていたとしても自分のペースで生きがいを持って働き続けられるような場ですが、現実社会の中にそういう場を普遍的な仕組みとして成り立たせていくのは非常に難しい。

だからこそ私は、その事を、今の大都市全体をどのように再生して行くのかというダイナミックな文脈において考える必要があると思います。例えば少子高齢化と人口減少が進む横浜の郊外の街にある社会福祉法人では、障害者が周辺の農地を利用し農業をやりながら、 そこでとれた食材を使って美味しい豆腐やパンをつくり販売し、また商店街の空き店舗を活用し喫茶店や食堂、居酒屋などを営んでいる。農と食を基軸に、障がい者が住民と一緒に地域に様々な事業を興し、新たな就労の場を生み出し、その売り上げだけで1億円を突破している。  このような取り組みを、地域社会の活性化やまち興しに繋げ、その繋がりを自治体として都市全体の再生に結びつけるようプロモーションする。

こうしたダイナミックな都市再生の過程のなかでしか、「中間的な就労」の場は、横浜のような大都市ではリアリティを持たないと考えています。

小杉

この議論を通じて、事実をきちんと共有することができたのではないかと思います。そしてその先にある政策とは、かなり大きな、グランドデザインと言ってもいいようなものであることも非常によくわかりました。これでパネルを終えて、宮本みち子先生からに3年間にわたるフォーラムのまとめをしていただきます。時間があれば、先ほどの生活保護との関係にも触れていただければと思います。

総括報告

宮本みち子(放送大学教授)

宮本

 2000年代になり、若者問題を総合的に考えたとき、時代は、積極的雇用政策への転換と、社会的包摂政策のセットへと次第に変わってきているのではないかと思います。 積極的雇用政策というのは、北欧諸国に典型的に見られるように、人々が働けるための総合的な支援に重点を置く政策のあり方ですが、職業教育・訓練、カウンセリング、求職者支援など、さまざまなことをやりながら、すべての人が労働市場に参加できることを重視する政策のあり方です。

同時に、労働を通した福祉の実現、ワークフェア政策にシフトしているわけで、国によってニュアンスや強弱は違いますが、労働を通した福祉の実現に力点が置かれ、働ける人はすべてが働く社会がモデルとして掲げられている。他の先進国に比べ、日本でのこの検討はかなり後になりましたが、まさにこの数年間、その模索がおこなわれてきた。

総括報告/宮本みち子(放送大学教授):労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

このような時代において、競争的な労働市場に入ることに困難を感じている若者問題をどうとらえるかですが、労働市場への参加あるいは雇用を通しての自立という以前に、社会参加を保障するためにはどうしたらいいかという問題の立て方こそ妥当ではないかと思います。

その条件として、その時々の所得保障が必要です。貧困と密接に絡んで社会に参加できない若者の問題をまずは解決しなければならない。それから、社会関係。社会への参加を保障するには、若者が社会関係をきちんと結べるような環境を整えていくことだと思います。千葉大学の広井良典さんは、参加を支えるためには、短期的な保障ではなく長期資源の保障が必要だと述べていますが、重要な指摘です。

そこで、労働市場への参加に困難を抱えている人々に対して、必要な点を整理してみます。第一に、早期からの総合支援が必要です。宮崎さんが言われたように、例えばイギリスでは、就労に困難を抱えている若者支援政策は、やがて、0~4歳の幼児期の確かな出発プログラム(Sure Start Programme)と接続したという流れにも表れているように、幼少時から自立するまでの一貫した環境の整備があってはじめて機能します。長いスパンでの総合政策の議論が必要な段階に来ています。

第2は、教育から就労への移行に関してで、田奈高校の取り組みも参考にすると、学校教育と就労との関係では、多様で見通しが立つ経路を開発する必要があると感じます。

日本の学校教育制度では、進学校、非進学校にかかわりなく、学校教育が終わったら次に就労という段階に入ると想定されています。しかし、労働市場で困難を感じている多くの若者は、学校にいる間に、社会へ出るための特段の配慮や支援を必要としています。そこで、教育と雇用の境界線をもっと柔軟にとらえ直す必要があります。

非進学校の7割以上の生徒が、生活に追われてアルバイトをし、多くがアルバイトを継続しながら卒業していくという実態からみて、学校教育と働くことの統合を検討すべきではないかと思います。学校教育を受けながら、実社会で働くことを学び、経済的にも支援を受ける、教育・労働・経済保障の3セットの仕組みをつくる必要があると思います。

第3は、選別的労働市場に代わる包摂的労働市場をつくっていかない限り、労働市場から排除される人々を救済することはできないということです。同時に、資本主義的労働市場に代わる中間的労働市場が必要です。そこでNPOなどの民間の力が発揮されることが期待されます。この活動は新しい都市づくりと連動することにもなります。

今、日々刻々と状況は変わっています。例えば、キャリア教育は、今年の4月から小学校~大学教育まで本格的に導入されることになりました。子ども・若者育成支援推進法に基づく体制づくりは全国で行われています。求職者支援制度、つまり雇用保険に入っていない人たちに対する経済給付つきの職業訓練制度は、2011年10月から本格的に開始されます。この制度を今日議論してきたような若者たちのために有効に活用し、教育・訓練機会を保障して、すべての若者に仕事に就くチャンスを与えられる必要がある。これらの進捗状況を注視しながら実態を把握し、政策を評価し、提言を続けていくことが今後も重要になるのではないかと思います。

〈プロフィール〉※50音順

小杉礼子(こすぎ・れいこ)

労働政策研究・研修機構統括研究員/日本学術会議連携会員

東京大学文学部社会学科卒業。1978年職業研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員。2006年3月より現職。博士(教育学)。兼職として、労働政策審議会臨時委員、社会保障審議会児童部会臨時委員などを務める。労働政策研究・研修機構で、「学校から職業への移行」、「若年者のキャリア形成・職業能力開発」に関する調査研究を担当。主な編著書に『若者と初期キャリア−「非典型」からの出発のために』(剄草書房、2010年)、『若者の働きかた』(ミネルヴァ書房、2009年)などがある。

関口昌幸(せきぐち・よしゆき)

横浜市こども青少年局青少年部青少年育成課担当係長

1988年横浜市入庁。横浜市の政策情報誌である調査季報や市民生活白書の編集発行に携わる。2002年以降は都市経営局にて全市の総合的な政策立案を担当し、市民協働や人口減少社会をテーマにした政策指針や長期ビジョンの作成に関与。06年に「こども青少年局」の発足と同時に、同局の企画調整課に異動。ひきこもりや無業など困難を抱える若者たちの実態調査を行うと共に、若者自立支援策を構築するための研究会の運営を担当。08年より現職にて、困難を抱える子ども・若者を育成支援するための事業を展開している。

堀有喜衣(ほり・ゆきえ)

労働政策研究・研修機構副主任研究員

2002年より労働政策研究・研修機構研究員。08年より現職。専攻は教育社会学。担当テーマは「学校から職業への移行」。就職氷河期世代に属し、これまで同世代についての研究を進めてきた。近年の主な成果として、『フリーターに滞留する若者たち』(編著、勁草書房、2007年)、『人材育成としてのインターンシップ』(共編著、労働新聞社、2006年)などがある。

宮崎隆志(みやざき・たかし)

北海道大学大学院教育学研究院教授

1986年北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程中退。博士(教育学)。86年北海道大学助手、同助教授を経て2007年より現職。専門分野は社会教育学(学習論・社会教育労働論・コミュニティ教育論など)。主な著書(編著・共著)・論文に『協働の子育てと学童保育』(かもがわ出版、2010年)、『都市公民館の再生』(北樹出版、2002年)などがある。

宮本みち子(みやもと・みちこ)

放送大学教養学部教授/日本学術会議連携会員

千葉大学教育学部教授を経て現職。労働政策審議会委員、中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会委員、内閣府若者の包括的自立支援検討会座長等を歴任。主な著書・論文に「若年層の貧困化と社会的排除」(『新たなる排除にどう立ち向かうか』所収(森田洋司監修、学文社、2009年))、「若者の貧困をみる視点」(『貧困研究』第2号所収(明石書店、2009年))などがある。

吉田美穂(よしだ・みほ)

神奈川県立田奈高等学校教諭

1988年筑波大学第2学群比較文化学類卒業。90年より現在まで神奈川県立高等学校教諭として勤務。2003年より教育の傍ら研究にも従事する。09年中央大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(教育学)。09年より中央大学文学部兼任講師。専門は教育社会学(教員文化、学校組織文化、多文化教育)。内閣府「子ども・若者支援地域協議会の運営方策に関する検討会議」委員を務めるなど、困難を抱える高校現場での実践を踏まえて、支援教育・労働法教育・キャリア教育についても発信する。