<講演2>高校生の現実を踏まえたキャリア教育・
労働法教育とキャリア支援センター:第54回労働政策フォーラム

若者問題への接近:
若者政策のフォローアップと新たな展開
(2011年7月9日)

吉田美穂(神奈川県立田奈高等学校教諭)/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)


吉田美穂(神奈川県立田奈高等学校教諭)

私からは、前半で田奈高校の実践する取り組みについてご報告し、後半では、その支援を支える条件を考えていきたいと思います。

クリエイティブ・スクールとして

神奈川県立田奈高校は、横浜市北部の住宅地にある全日制の普通科高校です。卒業生の進路は非常に多様です。この3月に卒業した204人のうち、進学したのは101人、就職したのは30人です。あとは就職活動をしたけれども内定が得られなかったり、専門学校に行きたいけれどお金がないのでアルバイトをして貯める、あるいはそういったことも準備できないままの卒業などとなっています。根本には学力の問題も大きくあります。

田奈高校は神奈川県教育委員会からクリエイティブ・スクールに指定されています。クリエイティブ・スクールとはどういった学校なのかというと、まず入試段階で学力検査を行っていません。入学後は30人クラスで、さらに英語と数学はその半分の15人で授業を行うなどの学習支援に力を入れています。また、指定される以前から、対話を重視した生徒指導を行っており、特に最近は教育相談コーディネーターを中心に教育相談体制に力を入れてきています。

生徒が抱える様々な課題

生徒が抱える課題については、まず学力面で課題を抱えている生徒が多くなっていて、このことは自己肯定感の低さにもつながっています。また、自分の感情をうまくコントロールして、人との関係を円滑につくり上げていく力が弱いことも課題です。

こうした背景には、家庭の厳しい経済状況や不安定な家族関係がある場合も少なくないと思っています。現在は無償化になりましたが、2009年までの授業料免除率をみると、本校は県内有数の高さです。加えて、母子家庭が非常に多いなどの特徴もあります。

こういう状況にあっても、生徒たちは将来を考えていかねばなりません。先ほど今春の卒業生の進路を報告しましたが、進学するかどうかは、学力面よりもむしろ家庭の経済力で差がでています。「進学する費用がない。でも、就職も厳しい」。そういうなかで、進路を切り開くことが難しくなっています。

では本校では、どのような取り組みをしているのか。1つの具体例として、アルバイトからの教育実践のお話をしたいと思います。

多くの生徒がアルバイトに従事

図表1 「生徒の現実を踏まえる」とは?
具体例◆アルバイトからの教育実践

・アルバイト経験率68.8% (1年生2月) 76.1% (3年生2月)
・平均週3.2日 時給847円 平均月収4.2万円

・アルバイトを始めた理由

図表1 「生徒の現実を踏まえる」とは?/

本校の生徒の多くはアルバイトに従事しており、経験率は1年生で68.8%、2年生で76.1%です。働いている生徒は平均週 3.2日働き、平均月収は4.2万円になっています。アルバイトを始めた理由を聞きますと、一番はやはり「お金が欲しかった」と答えます。でも、図表1のように、「家族から働くようにいわれた」生徒も2割弱います。「お金が欲しかった」と答えた生徒も、掘り下げて聞いていくと、「お小遣いをもらっていない」とか「高校生なんだから、もう自分でそのぐらいは稼ぎなさい」という事情が非常に多いように感じています。

図表2はアルバイト先をみたものです。コンビニ、スーパー、飲食店などがほとんどで、職種に非常に偏りがあります。アルバイト代を何に使っているのかを聞いたところ(図表3)、一番多いのはもちろん「遊ぶお金」です。これはかなりの生徒が選びますが、要は親からもっともお金をもらいにくい項目を選択する感じで、かなりの生徒が「カラオケ」とか「服・小物」などを選びます。

ほかにも、「お昼ご飯」を自分のアルバイト代で買っている生徒が3割います。これはお弁当を持ってくる子もいるので、買う子の多くは自分で買っているのだと思います。それから、「家に入れる」生徒も2割弱います。なかには、学校に納めるお金も自分で出している生徒もいます。「携帯電話代」も、未成年なので契約は親だと思いますが、半分以上の生徒が自分で出しています。高校生になったのだから自分にかかわるお金は自分で出すという雰囲気でアルバイト代を使っているようにも思われます。「貯金」が意外と多く、なかには進学費用を頑張って貯めようと考えている生徒もいます。

図表2 アルバイト先

図表2  アルバイト先/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

アルバイトで困ること

生徒がアルバイトをしているなかで困ったことに直面する場合もあります。「アルバイトをして困ったことはありますか」と聞くと、7割ぐらいが「ある」と答えます(図表4)。内容としては「体力的にきつい」「バイト先の人間関係」「お客さんへの対応」が多いのですが、なかには「シフトに勝手に入れられる」とか、逆に「シフトに入れてもらえない」といった回答も多く、思うように働けていない状況が見て取れます。

それから、レジのお金が最終的に合わないと、その日のアルバイトが割り勘で払うといったことも10%ぐらいの生徒がそういう経験があると答えています。非常におかしいことですが、多く聞きます。また、「遅刻すると罰金を取られる」こともあります。賃金についても聞いていますが、278人中20人が最低賃金以下でした。このように厳しい状況がアルバイトにはあるのですが、この状態をそのまま放っておくことはできないと思っています。

図表3 アルバイト代の使途

図表3 アルバイト代の使途/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

図表4 アルバイトから労働法を考える

・守られない最低賃金(20人/278人)
・罰金・賠償
・やめさせてもらえない

図表4 アルバイトから労働法を考える/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

アルバイトから労働法を

卒業後もアルバイトを続けて生きていかざるをえない生徒は多くいます。そういうなか、法律違反のまま気づかずに「そんなもんなんだ」と諦めて生きていくというのではとても困る。生徒は労働者としての側面を持っています。そして、卒業後のことも考えると、結果的に高校時代から既に非正規雇用への移行が始まっている状況があるわけです。そのことを踏まえて、彼らに身を守る情報も伝えていかなければならないし、働くことについてアルバイトの現実を踏まえながら一緒に考えていく必要があると考えています。

直面する問題を教材化

私自身は社会科の教員なので、政治経済の授業のなかで簡単なフリーターに関わるアルバイトクイズをつくってやってみたりしていますが、生徒の反応は非常にいい。例えば、自分のアルバイト代が、実は最低賃金以下などと気づくと、「ええ、何で?」といった感じで、真剣な目をします。そこで、「バイト先で『最低賃金以下だと思うので、上げてください』と言ってごらん」というと、実際、言ってみた生徒が、「先生、上がった上がった」といって喜んで来たり、逆に何か言いくるめられて挫折して帰ってきたりします。反応はさまざまですが、そういうなかで教室内でもいろいろな声が飛び交って、そのなかから「レジが合わないとお金を払わされるんだけど、いいのかな?」とか「それって、何とかなんないのかな」とかいう話になったりすることもあります。

生徒自身が今まさに直面していることを教材化しているので、関心も強く非常に反応がよいので、現在、本校では総合的な学習の時間で行うキャリア教育にこういったアルバイトクイズなども組み込み、すべての生徒に提供できるプログラムにしています。

キャリア教育3つの視点

このように、田奈高校では生徒の現実を踏まえて、キャリア教育を一つひとつ積み上げてきました。結果としてそこには、3つの視点があると考えています。

1つ目は、「地域・体験」です。 本校では1年生全員を地域の事業所に体験学習に出し、地域の大人たちに出会ってもらっています。そのなかで、大人への信頼感を育んだり、仕事の中でちょっと褒められる体験から自分への自信を育んだりすることにつなげていきたいと考えています。生徒が従事するアルバイトは、みてきたように業種や場所が限られています。いろいろな仕事の場を知る機会を与える意味で、地域での体験は大きなポイントの1つだと思っています。

2つ目は「リスク回避」で、お話した労働法教育などもこれに相当します。いざという時に「相談できる場所ってあるんだな」「相談したときにちゃんと大人は答えて一緒に考えてくれるんだな」といったことを是非、伝えていきたい。生徒たちに感覚として持ってもらいたいと考えています。

生活面の基本的サポートも

それから、3つ目は「生活」です。エピソードは山のようにありますが、率直にいって、睡眠とか食事といった生活の基本的な部分でサポートを必要とする生徒がたくさんいるということです。

例えば、こんな感じです。ある生徒が授業をサボって廊下にいるので、「どうしたの?」というと、「気持ち悪い」とのことでした。そこで、「きのう寝た?」と。ここがポイントで、まず「きのう寝た?」から聞くのです。すると「寝た」と。ならば、「ご飯は食べた?」と。ここで「……」。無言なので、「朝ご飯は?」と聞くと「食べていない」。もっと聞いていくと、夜ご飯も食べていない。父子家庭で、お父さんが非常に遅く帰ってきて、何もなかったから食べないで寝て、朝も何もなかったから食べないで来たという。それで1時間目の体育をやって、その後、気持ち悪くなってしまったわけです。そこで、「それはきっと血糖値とかが落ち過ぎて気持ちが悪いんだよ。何か甘いもの、飲み物でも買ってすぐ飲みなさい」って話して聞かせました。

図表5 田奈高校のキャリア教育の展開

図表5 田奈高校のキャリア教育の展開/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

これは一例ですが、要はそういうところからサポートしていかないと、日々、学校生活が続けられないような状況があったりするわけです。

それから、自分の感情を上手にコントロールできずにストレスを溜めてしまい、それを人が受けとめられないような形で爆発させてしまうとか、カップル間でもトラブルがたくさんあったりするので、ストレス・マネジメントやデートDVなどのプログラムも入れています。そういうことを主に総合的な学習時間のところでやりながら、進路説明会や年3回行う三者面談の場でキャリア教育を展開しています(図表5)。

卒業・中退―敷居高い公的支援機関

このように、生徒の現実を踏まえながらキャリア教育を組んでいるわけですが、実際問題として、卒業時に就職できずに卒業していく生徒は、少なくありません。この生徒たちのその後をどう支えられるのか。

本校には、卒業後あるいは中退後、学校に結構たくさんの生徒が遊びに来ます。改めて考えてみると、本校で過ごした時間は、彼らの人生のなかでそれなりに受けとめてもらえた時期であり、学校の先生は信頼できる数少ない大人なのかも知れません。赤ちゃんを抱きながらとか、夜勤明けにとか、いろいろな卒業生・中退生が遊びに来てくれます。そして、やっぱりいろいろな相談…というか悩みを漏らしていくのです。

「中退したけど、やっぱり高卒認定取りたいんだけど、どうすればいいかな?」とか「今の仕事きつくて辞めたいんだけど、どうしようかな?」というような感じです。大体、当時の担任あたりが聞き役になりますが、そこで彼らに情報提供して、公的な支援機関に行くかと思うと、私たちの感覚としては、「多分行けないだろう」「あまり行かないだろう」と思います。つまり、初めての場所で知らない大人がいるようなところに、すぐに行けるようにはならない子たちが多いと思うのです。

そこで、卒業生や中退生の相談にも応じられるキャリア支援センターを学校内につくって、そこを経由して生徒を公的な相談機関につなげていけないかと思い立ちました。学校が実施してきたパーソナル・サポートを公的なパーソナル・サポートにつなげるイメージです。学校の教員はじめ、この後にお話される横浜市子ども青少年局青少年育成課の皆様、よこはま若者サポートステーションの皆様にも協力していただき、相談しながら一緒に進めています(図表6)。

図表6 田奈高校キャリア支援センター

図表6 田奈高校キャリア支援センター/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

センターの具体的展開

キャリア支援センターには、週1回、よこはま若者サポートステーションの分室である「生活・しごと∞わかもの相談室」からスタッフが2人、来てくれています。昼休みと放課後、生徒が集まる図書館に常駐してコミュニケーションをとったり、そこから相談を受けたりするわけです。そのうえで、時間をとった個別相談が必要という場合は、5、6時間目に別室で相談を受けていきます。また、今後は、担任経由の個別相談も、増えてくると考えています。担任は生徒の事情をかなり把握していて、背景に関わる情報も持っているので、進路や将来に不安を感じる生徒について、担任からスタッフに「ちょっとお願いします」という形でつなげて一緒に考えてもらう。そして、卒業後も継続するサポートにつなげていこうとしています。

また、キャリア・カウンセラーやコンサルタントもこれとは別に来校して、別途、いろいろな相談を受けています。

実務経験で保育士資格を

横浜市のこども青少年局青少年育成課とは、「保育士」と「介護職」についてのプログラムを一緒に協力して行っています。

本校の生徒にとって、保育士という職業は具体的な将来の夢の1つです。保育士は、高校卒業後、専門学校や短大で2年間のカリキュラムを経て国家試験を受けるルートが一般的です。でも、本校では、この2年間の学費が出せない生徒がかなりいて、彼らは夢を諦めねばならなかった。これでは、彼らの将来の選択肢が限られ過ぎてしまいます。幸い、国家試験の受験資格には「認定園等での2年間の実務経験」というのがありますので、横浜市の認定保育園で2年間、アルバイトができるようサポートしてもらう方向で相談しています。

具体的には、今の3年生のうち、「保育士になりたいけど学費が出せない」生徒に、 今年の夏休み中に1週間ほど保育園でアルバイトをさせてもらって指導もしてもらうなかで、本当に働き続けられるかなどを考えたうえで、秋に改めてアルバイト登録をして、卒業後にアルバイトを続けていくようなルートを作ってもらいました。

介護職をめざすルートも

もう1つ、介護職のサポートもこの夏からスタートします。介護職は、今までは比較的就職しやすいと言われてきた分野ですが、不況のなかで既に職業訓練などを受けた有資格の中高年もたくさん参入してきて、高卒者の入職が厳しくなるとの情報もあります。また、対人援助職に加えて重労働でもあるのでマッチングも重要で、 夢だけで続けられる職種でもありません。

そこで、横浜市と湘南医療福祉専門学校とその系列のケアハウスに協力してもらい、 次のようなプログラムを用意しました。夏休み中にまず研修を3日間受ける。そのうえで、秋から休日にアルバイトとして実際にケアハウスで働くことを通して、自分の適性とか向き不向き、仕事への理解などを深めていき、そのまま介護職として続けたいと思えば、卒業後の就職をめざす。もしも「ちょっと違ったかな」と思ったら、アルバイトを続けながら別の道を探すというものです。

いずれも研修的な意味合いがあるプログラムに、 アルバイトを組み合わせることが大きなポイントです。先ほどお話しましたように、生徒のなかにはアルバイトで生計を担っている子もいます。そういうなかで、 いくら教育的な意味合いがあるからといって、アルバイトを辞めて無償の訓練や体験に時間を使うのは厳しいのが現実ですし、モチベーションもなかなか上がらないでしょう。また、仕事となれば、職場の方としても「アルバイト代を払っているのだから」と指導もしやすく、生徒も、「本格的なスキルアップをめざそう」と言う気持ちが湧くのではないかと、期待しています。

学力下位校に資源の集中投入を

本校では、以上のような形で支援・連携を進めてきていますが、 こうしたことを成功させるためには、条件が2つあると思っています。

ひとつ目は、「資源の確保」です。本校では教員が生徒に対し、普段から支援的に接しています。それは非常に重要なことで、そこがあるからつないでいくことができるのですが、対話的に生徒と接しながら支援する環境づくりには、一定の教員数が内部資源として必要なのです。そして、もちろん、さまざまなプログラムの展開には、連携してもらえる外部資源が必要です。そういう意味で、「資源の確保」という客観的な条件が非常に重要だと思います。

そしてこうした資源の上に成り立つふたつ目の条件が、「支援を中心とした学校組織文化の構築」です。

図表7 子ども・若者を自立まで支えていくためには…

図表7 子ども・若者を自立まで支えていくためには…/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

条件1の「資源の確保」を端的にいうと、学力下位校に集中した資源の投入をして欲しいということになります。現在、教員の数は定数法で「生徒の数で教員何人」と決まっているので、非常に余裕のある学校と大変な状況を抱えた生徒が多く入学する学校とで、 教員の人数に基本的には差はありません。ですが、現実には大変な学校の教員は、やはり相当しんどいものを抱えながらやっているわけです。学力下位校は、親が経済的に厳しいことが多く、本人の学力も結果として低い。そういう学校では中退者がたくさん出るし、進路未決定者も多い。だから、こういう学校に力を入れていく、あるいはこういう学校で生徒を支えることが社会を支えることになると思うのです。

目の前に生徒がいます。その子が自立していくためには、まずベースとして衣食住や健康が必要ですし、心理的・情緒的な安定も欠かせません。そのうえで学力の保障があり、そして就労して社会のなかで生きていくことができる。子どもが社会に参加していくまでを支えるセクションということでいえば、本来は、まず家庭が子どもの衣食住や心理的・情緒的安定を支えている前提があり、そのうえで学校が学力保障をする。そして、就労は労働行政とか産業界でバックアップするのだと思います。そして、もしも家庭の支えが足りなかったら、そこは福祉でサポートするのだと思うわけです(図表7)。

ですが、現実に、今目の前にいる健康とか衣食住とか心理的・情緒的な部分が十分支えられていない子はどうするのか。目の前にそういうものが足りない生徒がいて、学校にきている。学力保障をしてあげようと思うけど、それ以前にまずは学習に気持ちが向かう状況をつくらなければならない。それを、学校の教員がしなければならないわけです。

支援する学校組織文化を支える

ここで条件2の「支援を中心とした学校組織文化の構築」という話になってきます。

子どもが厳しい状況を抱えるなかで、「あなたは準備できていないなら、学校は無理だよね」といってしまう方法もあるとは思います。けれど、本校では今、一生懸命これを引き受けて実践しようとしています。ただ、本来は他のセクションが支える部分を学校が全部抱えるのは、やはりとても大変です。ですから、学力下位校を是非、社会と行政が支えて欲しい。授業時間以外の負担を配慮して、その分、教員数を多くして欲しいと思います。

本校は「クリエイティブ・スクール」ということで、定数に加えて8人程の加配があります。これがなかったら、お話してきた支援はやっていけません。この加配によって、連携を担う教員の授業持ち時間を若干減らすことで、教育相談体制をつくり、キャリア教育のプログラムをつくり、キャリア支援センターを動かすなどの連携が成り立っているのです。そういうことのうえに、初めて支援を中心とした学校組織文化ができていくと思うのです。

適格者主義が大きな壁に

本校は今、一人ひとりを支えながら中退率を大きく下げてきています。では、それがどの高校でもできるのかと考えたときに、「適格者主義」が大きな壁になると思います。 本校にはあまりありませんが、多くの都道府県の先生方と話していると、やはり高校は適格者主義が強いと感じます。これは、支援を中心とする学校組織文化とは対立するものです。

公立高校であっても、都道府県によっては定員内不合格をまだ出しているところがあります。席が空いていても、「あなたはウチの高校に入るだけの準備ができていないから入れませんよ」ということをやっているのです。また、学力下位校を中心に、入学後、ある程度の人数に「お引き取りいただく」のは当然だというところもあります。表向きは絶対に言いませんが、 一定の層を問題なく辞めさせて秩序ある学校空間をつくることは、 多くの学校で実際になされていることです。そこには地域からのプレッシャーもあります。例えば妊娠した生徒がでたら、そのまま学校へ通い続けるのを許容しない学校の方が多いと思います。でも、そこを変えないと支援にはつながらない。

まず、学校内に資源を確保して、学校外の資源と連携する。そして、適格者主義を超えて、支援を中心に据えた学校組織文化をつくり出していかないと、現実的には支援は進んでいかないと思います。