事例3<髙島屋>高齢者戦力化への取り組み:
第53回労働政策フォーラム

高齢者雇用のこれから —更なる戦力化を目指して—
(2011年6月3日)

中川荘一郎(人事部人事政策担当次長)


中川荘一郎(人事部人事政策担当次長)

髙島屋の会社概要ですが、創業が1831年で、今年で180周年を迎えております。そのため、今さまざまなキャンペーン等の取り組みをしています。営業収益は、連結で約8,700億円で、前年と比べ微減に済みましたが、ここ2、3年は非常に厳しい状況が続いております。従業員の状況は、単体の数字ですが、社員数が約5,400人で、1年ごとに有期契約をしている社員が約5,200人おります。今日のテーマである60歳以降の再雇用者は、この中の約1,200人が該当します。

年々高まる再雇用職員の比率

まずは弊社の要員構成を見ておいてほしいのですが、図1のなかで左側に書いてあるのが、弊社の雇用管理区分の名称です。弊社の雇用管理の特徴は、仕事の内容と働き方をベースに、各社員区分の役割を細分化し、ある程度限定するところです。一番上の「フルキャスト」がいわゆる正社員で、4月時点で全体のちょうど50%を占めています。

図1 要員構成(分社店舗含む計)

図1

このなかで、年々比率が高まってきているのが、定年後の再雇用の職員で、雇用区分は2つあるのですが、2つあわせて11%強となっています。高年齢者雇用安定法が改正された2006年には、この比率はまだ2%程度でしたが、毎年2%ぐらいずつ割合が高まっています。

図のなかで、「キャスト」がついている雇用管理区分は、いわゆる社員と同じようなフルタイムで働く層で、「クルー」とついているのが、いわゆる時間給で働く層、いわゆるパート社員になります。パート社員の方からも再雇用しておりますので、その割合は非常に高くなっています。

必要に迫られて制度を導入

弊社の経営理念は「いつも、人から。」です。この理念を1991年に策定して以来、人をベースに、人に対してさまざまな投資をすることがすべての利益の源泉であるとの考え方のもとで取り組みを行っています。今日お話する人事の施策についても、基本的には人に対するさまざまな取り組みの一環となっています。

弊社は再雇用制度を導入しましたが、弊社の場合は、社会的環境や企業内の環境等を踏まえ、ある意味必要にかられて導入したと言えます。再雇用制度を導入したのは平成13年(2001年)で、いまから10年前。制度導入の検討を始めたのはその3年ほど前です。

制度をゼロベースで見直し

当時は景気が悪く、株価も低迷し、例えば厚生年金や健康保険の財政も悪化するなか、企業として存続していかなければならないと同時に、従業員のさまざまな不安を払拭していく必要があるだろうということで、総合福祉関連をすべてゼロベースで見直すことにしました。そこで1998年に、労使で総合福祉委員会を立ち上げました。

委員会での議論の大きな柱は「退職後の生活」「介護」「健康」の3つでした。この頃は介護保険について議論され始め、また、国の年金も支給開始年齢が引き上げられることになりました。企業年金の財政も非常に危うい状況にありました。こうした背景の中で「退職後の生活」の不安を払拭するために検討されてきたのが、この再雇用制度だった訳です。

有期契約労働者も対象に

再雇用制度は「ゴールデンエイジプラン」という名称で、60歳以降の再雇用を入れた制度ということだけではなく、50歳の段階から65歳までを見据え、さまざまなことをサポートする制度ということで導入しました。ですので、働く側としては、年金支給開始年齢が上がっていく中で働く場を確保してもらえるようになった。会社としても、定年退職数が増える時期でしたので、円滑な世代交代をするために必要なことでした。

その後、さまざま課題はありましたが、高年齢者雇用安定法の改正もありましたので、課題も含めて2006年に制度を改正し、それまで正社員だけを対象としていた制度を有期契約の方々も含めたものにしました。2009年にも制度を再構築しましたが、制度改正の前にはいわゆるリーマン・ショックが起き、会社の業績も非常に厳しくなるなかで、髙島屋では基本的には雇用を守っていくことが経営としての責務であるという認識のもとで制度を改正し、今に至っています。

3つの柱でコース設定

髙島屋の再雇用制度には3つの柱があります。百貨店の中には実は幅広い仕事があるのですが、その1つはやはり売るということ。販売や外回り営業に長けているプロセールスの雇用が大きな柱と言えます。2つめは、専門知識が必要な部分で、専門人材の雇用。最後が、働き方の多様化と個々のキャリアをとらえた雇用で、ここはとくに技術や技能ではなく、今までのキャリアを生かしながら雇用していくものです。この3つの柱をもとに再雇用のコース設定をしています。

50代の働き方で処遇が決定

2001年に導入した当初の制度では、コースは5つ設定されていました(図2)。

図2 平成13 年導入の再雇用制度の内容

図2

1つは、よく売ることができる社員の「スーパーセールスコース」。手に職がある社員の「技術・技能キャリアコース」。専門知識があって、会社から残ってほしいとお願いして会社の方から任用する「専門嘱託員コース」。グループ会社でそのまま再雇用されるのが「グループ内再就職支援コース」。そして、だいたい9割以上が該当したのが「ワークシェアコース」でした。この時は、50歳から60歳までの現役時代の働き方、就いている仕事の内容等によって、60歳以降のコースが決まる仕組みでした。

それから2回、制度改正を行いましたが、このワークシェアコースでは、いろいろな仕事に就いてもらうのですが給料は一律に同じ金額ということで、再雇用者のモチベーションや配置の面で課題が多かったところがありました。

それを踏まえ、2006年にこのワークシェアコースを、有期社員も含めて、より経験を生かせる「キャリアコース」と企業運営をサポートする「サポートコース」に分けることにしました。

軸足を働き方にシフト

2009年にはさらに、コース設定の軸足を仕事の内容から働き方にシフトさせ、「キャリアコース」は基本的にフルタイムで働いてもらうものとし、「シェアードコース」については、短時間で働いてもらうものと整理し、基本的にはこのシェアードコースをレギュラーなコースとして運営をしていくようにしました(図3)。

図4には、コースごとにその概要が書かれています。フルタイムの普通の方々が再雇用される部分が「キャリアのレギュラーコース」です。「シェアードのアドバンスコース」は、これは週5日勤務を週4日勤務にするか、または1日の労働時間を6時間にすることで、8割相当の労働時間で働くことを選べるコースとなっています。

図3 髙島屋の再雇用コースの変遷

図3

図4 現在の再雇用コースの概要

図4

「シェアードのレギュラーコース」が、1週間で22.5時間勤務のコースです。週5日で4.5時間働くパターンと、週3日で7.5時間働くパターンがあります。これを二人分組み合わせると、おおよそ一人の労働時間がカバーできるということで、少しワークシェア的な観点を取り入れています。このコースでは、社会保険が非適用の働き方になっていますので、年金の減額や支給停止等の影響はうけません。

半期に一度考課を実施

再雇用をするにあたっては、基準を設けています。労使で協定していますが、基本的には現役時代から(基準をクリアするという)目標を持てるような明確な基準を設定しています。具体的には、通常の勤務者と同様に業務遂行が可能であることと、定年前の2回の人事考課(年1回)の評定が、コースごとに設定された基準を上回ることとしました(図5)。

図5 再雇用基準について

図5

再雇用後も、モチベーションを維持してもらうために、半期に一度考課を実施して成果を測り、賞与に反映させています。翌年には、その年2回の考課結果を用いて、翌年の雇用契約をする際の給与の昇給に反映させます。

2009年の改正時には新たに、再雇用後のコース転換制度を導入しました。弊社では2005年に人事制度を改正し、いわゆるパート社員からフルタイムの契約社員、契約社員から社員に優先採用するという転換制度を取り入れています。しかし、再雇用後の5年間については、コースの転換は認めていませんでした。そこで60歳以前に希望の雇用管理区分になれなかった人でも、再雇用後は、60歳以降の頑張り次第でコース転換を実現できるようにしました。

早くから定年後を考える

60歳以降の社員のモチベーションも大事なのですが、実はむしろ大事なのは、それに至るまでと考えています。そこで、髙島屋では、個々の社員が定年後どうしていくのか、早い段階から考えるきっかけを与えるため、さまざまな手段を講じています(図6)。

図6 人材育成とキャリア・ライフプラン支援

図6

弊社は職能資格等級制度で人事運営していますが、その中で昇格のタイミングでアセスメントを実施しています。また、年齢を軸として30歳、40歳、50歳、55歳というタイミングでのカウンセリングやセミナーを実施し、進路支援や転職支援も含めて自分の将来について考えてもらっています。

最終的に55歳のセミナーを受けて、その段階で転職をするのか、再雇用を目指して頑張っていくのかを検討を行い、59歳6カ月までに決めてもらっています。

申し漏れましたが、再雇用制度では、先ほど説明した「スーパーセールス」、「技術・技能キャリア」、「専門嘱託員」のコースでは、職場と本人の希望が合えば、65歳を超えても雇用される仕組みとなっており、実際に何人かは65歳以降も継続して働いています。