事例2<前川製作所>動と静の融合:第53回労働政策フォーラム
高齢者雇用のこれから —更なる戦力化を目指して—
(2011年6月3日)


加茂田信則(株式会社前川製作所顧問)

今日は、高齢者の更なる戦力化というテーマで、前川製作所における高齢者の役割、働きというものがどういう状況になっているか、また、どのように苦労しているかについて、話ができればと思っています。今、前川製作所では、年齢別構成で20代が急に減っています。この点がポイントだと思っております。

もともと定年制というのが普及したのは1955年、昭和30年ころではないかと記憶しています。当時は55歳定年で、男性の平均寿命が60歳強でした。ところが、現在はかなり寿命が延びており、80歳近くになっている。そういうことからすると、定年は70歳とか75歳でもいいのではないかと言えると思います。元気で健康で働く老人がたくさんいるというのは望ましい状態、ありたい姿ではないかと考えています。

「静の世代」が増加

前川製作所では、20代、30代、40代を「動の世代」、50代、60代、70代を「静の世代」あるいは「成熟の世代」と言っています。ここのところの人員構成を見ると、20代の人数が非常に落ち込んでおり、将来は、動の世代が60%、静の世代が40%というような状況があり得ると考えています。

ということは、前川製作所ではこの静の世代の人たちがいかに頑張るか、いかに付加価値を上げるかが、会社の業績にも反映してくることになります。健康で、経験豊かで、得意分野を持った高齢者が大いに期待され、重用される時代に入っていると言えます。

40代までの知識や経験を活かして

前川製作所では、今までやってきた事業というのは、できることならば40代までで全部消化していきたいと考えています。50代、60代、70代というのは新しい仕事をやっていきたい。その新しい仕事というのは、やはり20代、30代、40代で培った経験、知識、勘などの持ち味を生かした事業だと思います。

では、静の世代がどういう機能を果たしていきたいかというと、前川製作所が社会に生かされて生きる場所、市場やお客さん、そういう場所を広げて深めていく。これが静の世代の仕事になってくると考えています。もう1つは、動の世代が冒険しても大丈夫なように、リスクヘッジというか、その支えをしていくということが静の世代の役割になってくると考えます。

そういうわけで、現在の静の世代の重要な課題は、その得意や持ち味を動の世代、20代、30代、40代の間に仕事を通して、体験と工夫を重ねて、いかに培うかになります。なお、それを十分生かすような動と静の関係ということを考えて、年代を超えた、広がりと深まりを実現していくような企業活動の構造を構築していかなければなりません。

「動」と「静」の強みを

昭和51年(1976年)の4月に前川製作所では、55歳をこう考えるという、『定年制と人間観』という小冊子を全社員に配りました。この中に書かれている内容は以下のとおりです。「『動と静』を用いて組織の質を高める」というタイトルで、「動は変化を好み、革新を尊び、成長をめざす。いっぽうの静は安定のイメージがあり、伝統を尊重し、成熟を大切にする。それぞれは人間や企業で生きていく、生きつづけていくために必要なものであり、優劣を論じるべきものではない」。こういう考え方が根底にあります。

人間には動と静という、2つの重要な価値があると。一企業においても然りであり、だからこそ前川製作所は、変化や革新、成長への志向が弱くなりがちな静の世代の人たちを安易にやめさせようとはしない。それが定年ゼロとか言われているわけですが、むしろ歴史や伝統の価値をよく認識し、人間的にも安定・成熟した静の人たちの強みを存分に発揮させる生涯現役の共同体をつくろうとしているのです。

やはり、動の30年をただ延長すれば、静の30年が成立するというわけではないのだということを、われわれは認識しようとしています。そうであれば、動は静に押さえつけられて、いつまでたっても浮かばない。動という活動も静という活動も両方、企業が生き続けていく上で必要だという考え方で進めています。

動にできることは静がやるべきではなく、動にできないことを静が手助けし、問題を解決する。そのためには、動と全く違う世界で静は存在価値を発揮しなければならない、こういうことになりますが、将来、50代以降の静の人たちが相当多くなっていくとすれば、動がやっているより、さらに広い活動の場をつくっていくとか、さらに深い活動の深みをつくっていかなければならない。動がある程度冒険しても大丈夫なような状況をつくっていくのが静の役割であり、それが相まって会社が発展をしていく。いわゆる生き続けていくことができると考えています。

仕事を続ける3つの条件

今、前川製作所では定年ゼロと言っていますが、実態はどうかというと、仕事を続けられるのには条件があります。1つ目の条件は、健康でやる気があること。2つ目は、自分に合った、自分らしい、やっていきたい、続けていきたいという仕事がはっきりしていること。3つ目は、一緒に働く職場の人たち、関係する人たちも一緒にやっていこうという、理解と支援が整っているか。あの人がいてくれたほうがいいというような関係が整っているか。これらの3つの条件を定年までに整えるのが、われわれが考えている仕事です。

静の世代のありたい姿として、われわれは今どう考えているかというと、50代になったときに自分に合った自分らしい、自分にしかできない独特な世界が見えてきて、周囲からも評価されるというもの。われわれは20代、30代、40代の動の時代と静の時代で構成されており、個人で見れば最終的には静の時代に自分の世界を完成させて、充実した人生を送ることができるかどうかを個人には問うている。そして、そのために動の時代の30年に何をやったかが重要になるのです。