基調報告:我が国の高齢者雇用の現状と今後について:
第53回労働政策フォーラム

高齢者雇用のこれから ―更なる戦力化を目指して―
(2011年6月3日)

土田浩史(厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部高齢者雇用対策課長)


土田浩史(厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部高齢者雇用対策課長)

私からは、わが国の高齢者雇用の現状と今後についてご説明いたします。最初にマクロ的な話をした後、高年齢労働者の就業意欲や現在の高年齢者雇用対策の状況、今後の施策の方向性について説明したいと思います。

まず、わが国の人口高齢化の状況についてです。図1にありますように、わが国の人口は2004年にピークを迎え、約1億2,780万人となっています。なお、この数字は2005年国勢調査からのものですが、実は今年2月に2010年国勢調査の速報結果がすでに公表されており、それによればピークは2010年10月の1億2,805万人で、実は、ピークは2004年ではなかったことがわかっています。いずれにしても、今後、わが国の人口は減少局面に入っていくと考えられています。

図1 我が国人口・高齢化率の推移

○人口は2004年にピークを迎え、減少局面に入っている。2055年には9000万人を割り込み、高齢化率は40%を超えると推計されている。

資料出所:

2005年までは総務省統計局「国勢調査」、2009年は総務省統計局「人口推計」

2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2006年12月推計)中位推計」

2055年には、1億人を割って約9,000万人になると予測されています。直近の状況は、2009年で約1億2,750万人が、2025年には約1億1,500万人になるとみられていますから、これらから2025年までに約1,200万人の人口が減っていくと見込まれます。

日本はすでに超高齢化社会に

このうち高年齢者については、65歳以上人口は2009年で2,900万人ですが、総人口は減っていくにもかかわらず、2025年に760万人あまり増えて3,667万人になると推計されます。

総人口に占める65歳以上人口の割合である高齢化率は、2009年で22.7%だったのが2025年には約31.8%にまで上昇すると見込まれています。23%を超えると超高齢社会と言われるのですが、おそらくすでに日本は超高齢社会に入っていると考えられます。

一方、働き盛りの世代(15~64歳)ですが、2009年で約8,100万人だったのが、2025年には約6,700万人と約1,400万人減少します。若い世代(14歳以下)は、2009年で約1,700万人だったのが2025年には1,115万人になると予測されており、供給側となってくれる若い世代も、570万人あまり減少すると見込まれています。

避けたい労働力人口の減少率の拡大

次は、団塊の世代の高齢化の状況です(図2)。いわゆる2007年問題ということで一時期、話題になっていましたが、団塊の世代も2014年には65歳を迎え、事実上引退する方が増えてくると思われます。さらに2019年になると、団塊の世代もいよいよ70歳を迎えるという状況になっていきます。

図2 団塊の世代の高齢化

資料出所:

2009年は総務省統計局「人口推計」

2014年、2019年は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2006年12月推計)中位推計」

労働力人口の推移の見込み――2つのシナリオを図3でみていきますと、これも2005年国勢調査の数字ですが、総人口は2006年には1億2,700万人あまりとなっていますが、それに占める労働力人口の割合は52.1%です。これが、とくに何も施策を講じないでこのまま推移していった場合は、2017年に総人口が1億2,446万人で、労働力人口が6,217万人になると推計されています。総人口の減少率2.6%に比べ、労働力人口は6.6%減ということになり、総人口の減少率よりも労働力人口の減少率の方が大きくなってしまいます。

図3 労働力人口推移の見込み~2つのシナリオ~

図3 労働力人口推移の見込み~二つのシナリオ~:
○ 現状のまま推移した場合、総人口の減少率よりも労働力人口の減少率の方が高くなる。このため、若者、女性、高齢者など全ての人が意欲と能力に応じて働くことのできる環境を整えることが必要。図3 労働力人口推移の見込み~二つのシナリオ~

資料出所:

総人口については、2006年は総務省統計局「人口推計」、2017年、2030年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2006年12月推計)による。

労働力人口については、2006年は総務省統計局「労働力調査」、2017年、2030年はJILPT「2007年度需給推計研究会」における推計結果。

(注1)「労働市場への参加が進むケース」とは、各種施策を講じることにより、より多くの者が働くことが可能となったと仮定したケース

(注2)2017年、2030年における総人口及び労働力人口の推計横の割合については、2006年における総人口又は労働力人口と比較したもの。

このようなことは日本社会全体の活力という面からも避けたほうがいいと考えています。このため、高年齢者、女性、若年者などすべての人が、意欲と能力に応じてしっかり働くことができる環境を整える、そういった施策を講じる必要があり、それによって労働力人口を全体で約340万人増加させたいと考えています。何も施策を講じなければ、図のなかで青い字で示したように総人口で440万人も減少してしまうことから、これを何とか100万人程度の減少に抑えたいと考えています。

年齢にかかわりなく働きたい

図4 高年齢者の高い就業意欲

資料出所:内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2008)

(注) 60歳以上の男女を対象とした調査(n=3,293)

次に、高年齢者の就業意欲の状況等について見ていきたいと思います。図4は、内閣府が2008年に実施した意識調査で、60歳以上の男女を対象に行い、何歳ぐらいまで働きたいかを尋ねました。それによると、9割以上が65歳以上まで働きたいと答えています。

図5は、労働政策研究・研修機構で実施した調査(2009年)で、就業についての引退・引退時期についてどう考えているかを聞いています。65歳以上まで働きたいという人の割合は、男性で6割以上にのぼり、女性でもその割合は4割以上に達しているという結果が出ています。また、すべての年齢階級で、「年齢にかかわりなくいつまでも」働きたいと考える人の割合がもっとも高くなっています。

図5 就業についての引退及び引退時期

図5 就業についての引退及び引退時期:○ 就業についての引退時期をみると、65歳以上まで働きたい人の割合が男性で6割程度以上、女性で4割程度以上を占めている。また、「既に仕事を辞めている」を除き、男女ともに、すべての年齢階級で
「年齢に関わりなくいつまでも働きたい」の割合が最も高い。図5 就業についての引退及び引退時期

資料出所:(独)労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用・就業に関する調査」(2009)

同じ労働政策研究・研修機構の調査で高齢者の主な就業理由をみていくと(図6)、「経済上の理由」がもっとも割合が高く、その割合は年齢が上がるにつれて低くなっています。一方、年齢が上がるにつれて、「生きがい、社会参加のため」といった割合が高くなっていることがわかります。

図6 主な就業理由

資料出所:(独)労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用・就業に関する調査」(2009)

高い60歳以降の就業率と就業意欲

年齢階級別の男女別の就業率の推移については(図7)、1970年では、まだ第一次産業の構成比率が高かったり、自営業者が多かったりということで、高年齢者の就業率も高くなっています。それが、産業構造の変化等により、雇用労働者が増えるに従って就業率が下がっていき、2000年で6割を切っています。

図7 年齢階級別・男女計就業率推移

資料出所:総務省統計局「労働力調査」

図8 各国の高齢者労働力率(50 歳以上年齢階級別,2008年)

図8 各国の高齢者労働力率(50歳以上年齢階級別,2008年)

資料出所:(独)労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2010 」

60歳台前半層の就業率をみると、2005年には52%になっています。後でまた説明しますが、2006年に高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの雇用確保が義務化されました。2007年、2008年と就業率が上がっているのは、この法律の成果ではないかと思っています。

次に、高齢者労働力率の国際比較です(図8)。各国とも、50歳台の層は当然のように高い労働力率となっていますが、60歳以上になると圧倒的に日本が高くなっています。日本は、男性では60歳台前半で76%になっていまして、アメリカは60%を切っています。日本に続くのはスウェーデンとなっています。

女性では、50歳台では各国に比べ、日本はそれほど高いという状況にはなっていませんが、60歳台以降については各国と比較しても遜色なく、就業率も就業意欲も高いのではないかとみています。

60歳台の雇用の確保を

こういったマクロの状況あるいは高年齢者の就業意欲の状況に応じて、現在、厚生労働省としては図9にある三本柱の対策をとっています。

図9 高年齢者雇用対策施策体系

まず一点目が、「60歳台の雇用の確保」です。高年齢者雇用安定法に基づき、65歳までの段階的な定年引上げや継続雇用制度の導入を、2006年4月の法改正によって義務化しております。図10では、厚生年金の支給開始年齢が引上げられ、2013年4月に「定額部分」の65歳引上げが完了します。一方、2013年4月には、「報酬比例部分」の引上げが開始され、2025年には65歳引上げが完了します。これに対応して、60歳台前半の雇用を確保するため、高年齢者雇用安定法を改正したものです。

図10 厚生年金の支給開始年齢の引上げ

○年金制度改革により厚生年金の支給開始年齢が段階的に引上げ

図10 厚生年金の支給開始年齢の引上げ

図11はこの高年齢者雇用安定法のスキームを表しており、年金の支給開始年齢に合わせて徐々に雇用確保措置の義務の年齢が上がっていくことを示しています。

図11  改正高年齢者雇用安定法による高年齢者雇用確保措置の義務付け

図9の60歳台の雇用確保に戻りますが、さらに、できるだけ年齢にかかわりなく働ける社会をめざすことの第一歩として、「70歳まで働ける企業」も奨励しています。これは法律に基づくものではありませんが、助成金による支援やキャンペーン事業を行って、このような企業を普及・促進しています。

ほとんどの企業が雇用確保措置を実施

高年齢者雇用確保措置の実施状況ですが(図12)、高年齢者の雇用確保措置の中身としては、 (1)定年の引上げ (2)継続雇用制度の導入 (3)定年の定めの廃止――という3つの選択肢があります。これらの措置の実施状況をみると、現在、96.6%の企業で雇用確保措置が実施されています。

図12 高年齢者雇用安定法に基づく企業の取組状況

このうち、希望者全員が65歳まで働けるという企業の割合は46.2%です。これらの企業は、65歳以上の定年制を定めているか、希望者全員が65歳まで働けるような継続雇用制度を採用しているか、あるいは定年の定めがない、という企業です。

70歳まで働ける企業の割合は、17.1%です。これらの企業は、70歳以上の定年を定めているか、70歳までの継続雇用制度を採用しているか、あるいは定年の定めがないという企業です。

基準非該当離職者の割合ですが、これは、 (2)の継続雇用制度の導入の中で、労使で話し合った場合には、労使協定でその継続雇用制度の対象となる人について基準を定めることができることになっており、基準に該当しない人を継続雇用制度の対象外とすることが可能になっていることに伴って、その対象外となって離職した人の割合です。

その割合は2%で、実態としては、本人が希望すればほぼ全員が継続雇用されているということが言えますが、制度的にはまだ、こういった形で継続雇用制度の対象から外される方も存在します。

再就職や多様な就業、社会参加も促進

図13 募集・採用時の年齢制限の是正

三本柱の二点目が「高年齢者等の再就職促進」です。これについては、雇用対策法という雇用対策の基本となる法律を改正し、2007年から募集・採用における年齢制限の禁止を義務化しています。図13では、雇用対策法により、基本的に年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならないということで年齢差別の禁止が義務化されており、企業において、緑色の枠内にあるような対応がなされていることを示しています。

三本柱の最後として、シルバー人材センター事業などによる「多様な就業・社会参加の促進」についての施策を行っています(図14)。

図14 シルバー人材センター事業の概要

65歳までの希望者全員が働ける施策を

今後どういった高年齢者の雇用対策を講じていくのかについて、昨年、閣議決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」の中で、国民すべてが意欲と能力に応じ、労働市場やさまざまな社会活動に参加できる社会、「出番」と「居場所」を実現し、成長力を高めていくということを基本として、若者・女性・高齢者・障がい者の就業率の向上に取り組んでいくという方針を定めました。

具体的な工程表の中で、65歳まで希望者全員の雇用が確保されるような施策のあり方について検討することになっており、2013年度までにその検討結果を踏まえ、所要の措置を講じるように要請されています。

昨年、この閣議決定の後に、厚生労働省の雇用政策研究会でも同様の内容の提言がなされており、現在は、昨年11月から「今後の高年齢者雇用に関する研究会」を開催し、検討をして頂いています。研究会では、希望者全員の65歳までの雇用確保をどうやって行っていくか、年齢にかかわりなく働ける社会のための環境整備をどう行っていくかなどを中心に検討していただいており、6月中には報告書を取りまとめていただきたいと考えています。この報告書に基づき、今後、審議会等で議論し、適切な対策を講じていきたいと考えています。