米国 多種多様な非典型雇用 中間層が薄い労働市場:
第51回労働政策フォーラム

非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―
(2011年2月25日)

アーベル・ヴァレンズエラJr.氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

アーベル・ヴァレンズエラJr.氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)

はじめに

米国における非典型雇用を調べた研究は、人材派遣、パートタイム、コンティンジェント(臨時)、柔軟、不安定、短期、インフォーマル(非公式)労働、日雇い、オンコールなど多種多様な言葉に彩られている。とりあえず非典型雇用を「賃金または給与がフルタイムのそれとは違い(Polivka 1996)、臨時という形を取り、本人の仕事ぶりや景気動向に関係なく継続されない可能性が高いと従業員が認識している(Edwards & Grobar 2002)」すべての非標準的な労働という理解に立って、米国の状況を報告する。

官民の双方が、パートタイム、派遣、その他非典型雇用の活用を進めることで、柔軟性の向上とコスト削減を図ろうとしている。労働者の中には、これらの就労形態を好む人々もいるだろう(例、学生や子育て中の母親)。しかし、労働市場が厳しくなると、他に選択の余地がないため、非典型雇用に就く人が大半を占めることになる。非典型就労には雇用の保障がない、賃金が低い、福利厚生がない、労働災害にさらされる危険性が高いなど、利点を打ち消すだけの欠点がある。結果的に、その増加が典型労働者と、移民、マイノリティーの人種、女性が多い非典型労働者との格差を拡大する要因となる。

米国における非典型雇用の増加には、経済再編やいくつかの関連したプロセスが関わっている。また、過去30年間、史上最多の移民が流入したことも、コンティンジェント労働やその他の非典型雇用の労働形態の拡大をもたらした。これに加え、グローバリゼーションや地域経済の再編が進んだことで、日雇い労働者のようにパートタイムで働き、求められるスキルが低く、柔軟な労働力に対する需要が高い独自の労働市場が形成された。

経済再編は、2つの大きな変化に集約することができる。1つは、成長産業と衰退産業に二分させた。もう1つは産業構造の変化により、新たな就労形態の仕事(パートタイム、派遣労働者、コンサルタント、在宅労働者、日雇い労働者)が増えたことである。

こうした変化の結果、労働市場が上層と下層で厚く、中間層で薄くなっている砂時計型に変わった。上層の職業は高収入で、安定性が高く、確固とした昇進構造が確立されており、医療保険、法定給付金、定年退職金などの福利厚生が充実している。一方、下層の職業は不安定で、離職率が高く、低収入で、労働組合がない場合は福利厚生もないに等しい。

1 非典型雇用の形態

(1)コンティンジェント雇用(contingent employment

1.定義と形態

1989年、米国労働統計局(BLS)は、コンティンジェント雇用の定義を「個人が長期雇用に係る明示的または暗黙の契約を締結していない仕事」とした。

コンティンジェント雇用形態は、大量生産型企業で標準の中核的雇用関係が安定している労働(単一事業主で無期限のフルタイム雇用)から、不安定な労働(自営、パートタイム、派遣、下請)に変化する主要プロセスのなかで説明されている。コスト削減を図ろうとする事業主は、人材派遣業者や請負会社などの仲介業者をますます利用しており、オンコール労働者や独立請負人などの代替人材派遣形態にますます頼るようになっている。このような、「使い捨て」または「オン・デマンド雇用」のテンポラリー労働者の増加に伴い、コンティンジェント労働者と呼ばれる新たなカテゴリーが出現した。この用語は85年に作られたが、これ以降、パートタイム、人材派遣業、従業員リース(employee leasing)、自営、アウトソーシング、ビジネスサービス部門の雇用、在宅勤務を含む広範な雇用慣行に適用されている。

BLSは、コンティンジェント雇用の広範なカテゴリーのなかに、「代替的労働形態における労働者」も追加した。これは、独立請負人、オンコール労働者、派遣労働者、請負会社からの供給された労働者、日雇い労働者である。こうした労働者は、明示的または暗黙の契約を締結している場合と締結していない場合があるので、非正規形態または代替的労働形態の労働者は、2つの別個のカテゴリーに入るが、必ずしも相互排他的ではない。

BLSは、コンティンジェント労働者の状況と人数をより適切に評価するため、95年、97年、99年の人口動態補足調査から労働者数のデータを収集した。その結果、各非正規労働形態間の重要な相違点、労働者の特性、および非正規労働形態と伝統的労働形態間の相違点を初めて浮き彫りにした(表1)。

表1 アメリカにおける非正規雇用およびコンティンジェント雇用

表1 アメリカにおける非正規雇用およびコンティンジェント雇用/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所:
A:1999年2月のBLSコンティンジェント労働補遣のGAOデータ分析(2000年)
B:2005年2月のBLSコンティンジェント労働補遣のGAOデータ分析(2006年)

2.コンティジェント雇用を選択する理由

Houseman(1996)は、事業主がコンティンジェント労働者を雇用する主な理由は、作業量の継続的な変動に対処するため、一時的な欠員を埋めるため、従業員のパートタイム就業の要求に応じるため、常用雇用する労働者の選別を行うため、賃金および福利厚生費を削減するため―などであることを明らかにした。その他にも、手当を回避し、労災の補償費を削減し、組合組織化を防止し、簡単に一時解雇できることなどの理由で、使用することもある。このように、容易かつ柔軟に雇用できることが、コンティンジェント労働者をより魅力的にしている。

労働者もまたさまざまな理由でコンティンジェント労働に参加している。学校、家族などを理由としてフレキシブルなスケジュールを選好し、柔軟性を確保するために選び、追加収入を得るためにフルタイムまたはパートタイムの雇用を補完している者もいる。

(2)パートタイム雇用

1.パートタイム雇用の位置づけ

かつて、パートタイム労働の多くはフルタイムの安定雇用への通過儀礼だった。しかし、ここ数十年間のパートタイム労働の永続性と増加により、フルタイムへの転換がますます難しくなっている。通常、テンポラリー労働者とみなされている労働力の4分の1のうち、パートタイマーが80%を占めており、非正規労働の中でもっとも一般的な形態である。米国のパートタイム労働の歴史は長い。1950年代半ばは、労働力の12%だったが、90年代初期には18%に増加。さらに20世紀後半になると、労働力全体のかなりの部分を占めるようになった。

BLSは「パートタイム・スケジュール」で労働する者を、非経済的理由(法定休日または宗教上の休日、休暇、一時的な病気、悪天候、労働争議、または、正規のフルタイム時間が週35時間未満の職務を含む)でパートタイム労働を行っている通常のフルタイム労働者を除く、通常週35時間未満の労働を行っている者としている。BLSのデータを用いた図1は、関連するデータの収集を開始した1957年以降、非自発的雇用および自発的雇用を含むパートタイム雇用の推移を示している。

図1 米国のパートタイム雇用:自発及び非自発 1957-現在

図1 米国のパートタイム雇用:自発及び非自発 1957-現在/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所:労働統計局(BLS)

多くの米国人はパートタイム労働の経験がある。中学・高校や大学の学生がパートタイム職に就いていることもある。実際に、70年頃までパートタイムの増加傾向は自発的パートタイム雇用の拡大によって推進された。その理由として、パートタイムを望んでいる若い女性(母親)とベビーブーム世代のティーンエージャーが労働力に流れ込んだことがあげられる。

企業は、フルタイム労働者数を削減することで、パートタイム労働力と低賃金を増大させ、福利厚生を削減することができるほか、多くの企業で、医療保障を排除し、雇用の柔軟性レベルを拡大することができる。パートタイム労働は、景気後退時に増加する傾向があり、より多くの者が「非自発的に」こうした職を奪い合う。つまり、労働者はフルタイム雇用の確保を大いに好むが、理想とは言いがたいが収入を生み出す労働形態で妥協する。パートタイム労働者の約4分の1は非自発的パートタイム労働を行っており、そのほとんどがフルタイムの仕事を見つけられないことを理由としている。

2.パート=コンティジェント労働ではない

パートタイム雇用は本質的にコンティンジェント労働とはみなされない。理由として、パートタイム労働の大半が正規であり安定していることがあげられる。「1995年2月時点の25歳以上パートタイム労働者の平均在職年数は6.8年だった」(Polivka1996)という事実から明らかである。労働時間や福利厚生は制限されていても、パートタイム雇用は長きにわたり、多くの労働者にとって継続的で安定した仕事であった。

(3)人材派遣

派遣雇用は、派遣先企業のニーズによりフルタイム労働にもパートタイム労働にもなり、正規パートタイム雇用よりも予測不可能である。ただし、派遣労働者は、伝統的労働者と同様にフルタイムで雇用されることが多く、時間給である。

人材派遣会社は、労働者の取り扱い、給与支払い問題への対応、労災保険の支払い等に係るリスクからの解放を請負う業務を行っている。人材派遣会社を利用している企業は、被用者を評価することが可能となり、結果として労働者の再雇用もしくは契約終了、また労働者の増員・削減ができる。

一方、労働者にとっては必ずしもフレキシブルで有益というわけではない。労働者は、斡旋された仕事を拒否する権利を有するものの、雇用機会を拒否できる経済的状況ではない可能性がある。ラテン系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人および不法滞在者はとくに弱い立場であるため、人材派遣会社はこの低収入層に目をつけ始めた。人材派遣会社は、都市における非正規雇用の求人を埋めるための豊富な労働源を見つけ、1960年代以降、20倍の雇用拡大を図った。

人材派遣会社は主として労働者にほぼ最低賃金の現場労働を割当てている。人材派遣会社は、軽作業や工場労働、荷物の積み下ろし、倉庫労働を含め、ホワイトカラー、ピンクカラー(女性のコールセンター業務など)、ブルーカラーの職種まで、多様化している。

人材派遣会社は、この20年間に都市部で急増しており、低所得層の多い地域に引き寄せられている。その理由は、廉価かつフレキシブルで容易に利用可能な大量の労働供給である。また、ホームレス施設や福祉事務所など、低賃金労働者を確保できる場所の近くに会社を設置する。多くの人材派遣会社は、特定の階層、技能、社会的背景、民族集団から労働者を採用するという明確な理由をもって、対象地域に設置されている。

また、人材派遣会社は多様で、大規模な全国企業のフランチャイズ事務所、地方のより小規模な民間営利事務所、さらに、ホームレスまたは移民の権利支援組織によって運営される非営利組織がある。それぞれの規模、目的、場所は、労働者に向けてさまざまな組織的慣行や待遇を行っていることを示唆している。

人材派遣会社発祥の地シカゴでは、競争が激化しており、利益幅の圧縮やコスト削減圧力の要因となっている(Peck & Theodore 2001)。その結果、賃金は極めて低く、ホームレス労働者の圧倒的多数(82%)の時間給は5.50ドル以下で、定期的に労働している者の所得も年間9000ドル以下である(Theodore 2000)。

(4)短期雇用およびオンコール(呼び出し)雇用

Kalleberg(2000)によれば、短期雇用は、労働者と企業間の有期契約を含み、またオンコールに基づく雇用関係もこれに含めることができる。この形態は、直接的な雇用関係に基づいている。短期雇用またはオンコール雇用形態は、主に季節的雇用、またはプロジェクト完遂を目的として実施されるものである。オンコール雇用は代理教師からケータリング、ベビーシッター、看護に及ぶ。こうした雇用でも、人材派遣会社が広範な産業に労働とサービスを提供していることもあり、会社が直接募集せず、労働仲介業者に移行していくことが容易に想像される。

(5)独立請負人

独立請負人は、提供するサービスが臨時であり、仕事を依頼する雇用主・依頼者の要求レベルに応じて業務を変更しなければならないため、コンティンジェント労働者とみなすことができる。ただし、ほとんどの独立請負人は企業家の性格を有し、自営で、代替的労働形態を維持しているとみなされている。したがって、「コンティンジェント労働者とは対照的に、代替的形態を有する者は、現行の雇用に係る明示的もしくは暗黙の契約を締結している場合と、締結していない場合がある」(Copeland,Frostin,Ostuw&Yakoboski 1999)。独立請負人は、コンティンジェント労働形態やその他の代替的労働形態の労働者に比べ5万ドル以上の家族収入を得ている可能性が高く、かつ、大学院の学位を有している可能性が高い。

日雇い労働者のようなインフォーマル労働者は、「独立請負人」に誤分類されることが多い。これは公正かつ十分な賃金、雇用の確保、安全保護に係る労働者の権利を否定する誤った分類である。このことは、コンティンジェント雇用の流動的定義、雇用の不安定さを利用しようとする事業主の意欲、労働者の脆弱性、「独立請負人」を明確に定義しようとする一貫した政策の欠如に関連している。

「独立請負人」で労働者の保護の確立を求める者は、真の独立請負人と契約社員とを区別するための「被用者」(employee)の定義に関心を寄せている。基本的に社員とは「事業主が仕事の指示または管理を行い、賃金に関する詳細な申告と社会保険料負担の義務を有する者」である。納税義務は事業主が社員を誤分類するもう1つのインセンティブである。事業主の38%は、補償保険や福利厚生費を回避するために「独立請負人に誤分類している」と推定される(Kalleberg 2000)。

(6)日雇い労働雇用

日雇い労働はおそらく、もっとも不安定なコンティンジェント雇用形態である。

Valenzuela(2003)によれば、「日雇い労働の正式な定義はないが、労働の危険度・不快さ、手当やその他の一般的な職場における福利厚生の欠如、毎日の求職によって区別されるテンポラリー雇用の1種を示唆する際に使用される」。この労働形態は、不法滞在のラテン系アメリカ男性が多くを占め、人材派遣会社が、日雇い労働の仕事斡旋所としてスラム街に進出し、主に建設(労働)や塗装といった現場の重労働において、日雇い労働者とクライアントをマッチングさせている(Valenzuela 2003)。具体的にいえば、日雇い労働は、男性および若干の女性が街角、空き地、ホームセンターの駐車場、レンタルトラック店などに集合し、日雇い労働を求める産業である。不法滞在者であることや、教育水準の低さ、米国に移住して日が浅いことなどから、極めて立場が弱く、低賃金、賃金不払い、虐待、現場での置き去り、その他さまざまな形で搾取を受けている。

この種の労働者は、週に1日か2日の仕事しか得られず、賃金は1時間あたり8~10ドルである。若干の調査を除き、この労働市場についてはほとんど把握されていない。調査が難しい理由として、日雇い労働者が自由に出入りすることと、連邦機関が日雇い労働を十分に定義していないために正確な数がわからないこと、滞在許可のないラテン系アメリカ人が多いことなどがある。

日雇い労働者の全国調査(Valenzuela et. al. 2006)は、いつくかの重要な事実を認識している。例えば、任意の1日あたり、約11万7,600人が日雇い仕事を探しているか、日雇い労働者として雇用されている。日雇い労働力は、圧倒的に男性で(女性は2%)、大部分がメキシコや中米の移民である。日雇い労働者の半数以上(59%)がメキシコ生まれで、14%がグァテマラ、8%がホンジュラス生まれである。

事業主による日雇い労働者の権利の侵害および基本的労働基準の侵害は、日常茶飯事である。賃金不払いは、日雇い労働者が経験するもっとも一般的な虐待である。日雇い労働者のほぼ半数が、調査対象となる2カ月前に完遂した労働に対して、事業主から賃金の支払いを完全に拒否されている。同様に、日雇い労働者の48%が事業主から同期間の労働に対して不十分な額の賃金しか受け取っていない。

米国全土で急増している数百のインフォーマルな仕事斡旋所以外に、コミュニティー組織、地方自治体、宗教奉仕活動組織、などのステークホルダーによって、賃金不払い、虐待、危険な労働条件を抑制するために、全国64カ所に日雇い労働者センターまたは正規の仕事斡旋所が設置されている。労働者センターは、一般に、正規の日雇い労働の仕事斡旋所付近にあり、野放し状態の仕事斡旋所の代替的サービスを提供している。

日雇い労働者センターの主な目的は、日雇い労働市場に介入して、求職と求人を統制するルールを確立することである。

(7)インフォーマル雇用

インフォーマル経済またはインフォーマル雇用は、闇経済(black economy)、地下セクター(underground sector)、影の経済(shadow economy)、隠れた経済(hidden economy)などの名前で呼ばれることが多い。インフォーマル雇用は公式雇用の枠を越えた賃金労働で、税金、社会保障、労働法上の理由から、雇用者が州政府に未登録のまま、隠れて行っている。インフォーマルな賃金労働には、合法的であっても、個人への支払金を然るべき機関に申告していない活動も含まれる。また、売春や、違法な商品の製造・販売、薬物の密売などの違法行為もインフォーマル雇用である。

従って、インフォーマル雇用は「直接税・間接税の脱税」「生活保護を受けている公式失業者を雇い、社会保障制度を悪用した行為」「社会保険料の雇用者負担、最低賃金法、または職場の安全やその他の基準の適用を、帳簿外の労働者を雇う、小規模企業や自営業者に最低賃金以下の報酬で仕事を委託するといった方法を使って回避する」(Williams and Windebank,1998: 4)という3種類の活動に分類される。

こうした仕事に手を染める人は失業者、貧困層、女性、移民、低所得者が住む地域の少数民族といわれている。

在留資格のない移民は必要な書類がないため、フォーマルな雇用の機会から締め出され、インフォーマル雇用に従事する以外に収入を得る手段がない。その結果、もっとも目に触れる機会の多いタイプのインフォーマル経済活動への参加者は、適切な文書を持たない移民ばかりになっている。09年の調査では、不法に米国に滞在している移民は推定1,200万人、その約半数がメキシコ出身で、その半数弱がカリフォルニア州に住んでいるという結果が発表された。

確かにこれらの移民の多くが明らかにインフォーマル雇用に従事していたものの、季節労働者やコンティンジェント労働などの周辺的なフォーマル雇用に就いている移民も多かった。

また、インフォーマル労働市場は、定職がある労働者が就くような良好な仕事と、失業者が従事する劣悪な仕事という2つの市場にセグメント化されている。従って、すでに定職に就いている場合、彼らは比較的賃金が高い労働に従事していることを示唆している。例としては、普段は建設業界で働いているが、そのスキルを見込んだ近所の人に依頼され、家の修理や改築工事を「週末のアルバイト」として請け負っている人などがいる。

貧困層に占める女性の割合の増加は、女性が福祉制度の改革などの第一受益者であり、貧困層の最多数を占めていることによる。女性が従事するインフォーマル雇用は一般に、搾取的な色合いが非常に濃い仕事で、薄給である確率が高い。女性がインフォーマル雇用に参加するときは、家庭での役割や家事の負担でやむを得ないケースが大半を占める。

2  コンティンジェントおよび代替的な雇用形態への転換

グローバリゼーション、技術の進歩、現在の不景気、コンティンジェントおよび代替的労働形態の制度化を介した労働市場の規制撤廃の流れによって、最近は非典型雇用がますます増加している。技術革新が国内外との通信を容易にし、人件費が安いため、効率性や経済的利益が期待できる場所に労働やサービスを外注(アウトソーシング)できるようになった。

労働力の再配置またはアウトソーシングのプロセスが、雇用者を「従来の時間的・空間的制約から解放した」と言われている。

Kalleberg は、サービス業の重要性が高まるにつれ、子育てや掃除など、従来は家庭内で行っていた活動を民間企業が請け負う傾向が強まったとも論じている。こうしたサービスは現在、人材派遣業者や雇用あっせん所を通して提供されているほか、インフォーマル労働力の重要な部分を占める日雇い労働者によっても提供されている。

3  典型雇用への転身のシナリオ

経営者が非典型労働者の雇用に使った主要戦略は、非典型労働者の一部だけを正社員に昇格させたことである。この戦略の実施方法は、筆者が聞き取り調査を行った3つの機関でそれぞれ異なっていた。例えば、ホテル業界では全従業員が正社員だった時代に戻る可能性はきわめて低いとしている。また、人材派遣業者と下請け業者に依存する形態は、その経営戦略に奥深く埋め込まれている。それでも、筆者がインタビューした人事担当者は派遣社員が、やるべき仕事をこなしているか確認する役割の下級管理職か監督者として正社員に転身した例を2、3あげた。この人事担当者によると、「労働者を観察することは、企業にとっても、労働者にとっても有益なこと。私たちは労働者をチェックして、労働者は企業をチェックし、双方が気に入らなかったら、そこで関係を終わらせればいい。この手続きにかかるコストは最小限で済む。職業訓練費が無駄になることもないし、解雇手当を支払う必要もない」という。

これまで派遣社員から正社員になった数は非常に少ない。また、経営陣が予約、施設整備、用地管理、調理など、正社員が就いている仕事を外部に委託する機会を狙っているとすると、この数字が変わる可能性が高い。実際、この大手ホテルチェーンの経営陣はこうした職務の派遣社員採用を増やす方向にあるという。

電機メーカーも、ホテルチェーンと一部同じ理由により、正社員を派遣社員に転換する方向に向かっていた。しかし、彼らの職種はホテルほど多様性がないため、正社員以外の従業員が全体に占める割合はホテルより大きかった。例えば、組み立てラインの仕事の大半は派遣労働者が担っており、その期間は1カ月から数カ月間まで、経営状態やマーケットシェアによって違っていた。インタビューした管理者は、さらに積極的に、この方向に進まざるを得ない現状を説明した。「選択の余地はない。消費者が家電製品の買い控えを始めたら、商売に影響を与えます。生産量が減れば、正社員を雇用し続けることができなくなる。そうすれば損失が重なり、倒産の憂き目にあう。だから自分たちのニーズを満たすために、人材派遣会社への依存度が高くなっている」。

インタビューした百貨店は、ブランドと評判をより安心して任せられるパート社員への依存度が高かった。例えば、「主要な休暇やイベントの期間は、パート社員に就労時間を増やしてもらい、労働力需要を満たすことができる」「派遣社員の問題は、社員(店員)のように、商売にとって不可欠な商品知識を持っていないこと」だと語る。ただし、パートタイムからフルタイムへの転換は戦略としてあまり重要視されていないが、消費行動が回復したら、パート社員から正社員への転換が起きる可能性はあると示唆した。

「全米日雇い労働調査」(Valenzuelaet. al. 2006)のデータは、日雇い労働者が臨時の仕事よりも正社員を希望していることを明確に示している。データを見ると全体の75%超が、賃金が現在の日雇い労働より安くても、安定した仕事に移りたいと答えており、正社員を希望する人が圧倒的に多かった。

筆者が行ったインタビューによると、典型雇用と非典型雇用の間の移動は流動的に行われていた。例えば百貨店のマネージャーは、消費者が買い物を控える停滞期には、正社員をパート社員に変える下向きの動きになるという。ただし、パート社員から正社員への移行は比較的容易であり、より多くの正社員を確保せよという指令があったという。

これは、生産量が循環的に変動するため、派遣社員から正社員へ、正社員から派遣社員への移行が容易ではない電機メーカーのシナリオとは対照的である。電機メーカーの経営陣は大幅なコスト削減が可能になる正社員から派遣社員への移行を除いて、この種の移動を抑制している。自社製品への需要が正常なレベルまで回復したとしても、正社員を増やす可能性は低いという。また、企業の法的責任が問われないシステムが、派遣労働者を使い続ける強力な動機付けとなっている。

4 同種の職務に従事する人との均等待遇

非典型雇用に関する文献レビューやインタビューを実施した結果、非典型労働者は、同じ企業または組織の同じ職場で「同種の」職務に従事している場合でも、典型従業員と異なる待遇を受けていることを示す圧倒的なデータが得られた。例えば、電機メーカーやホテルの派遣社員は、フルタイム従業員もしくは正社員と似たような仕事をこなし、職務の難易度や範囲も同程度の場合でも、異なる待遇を受けていた。資格を取得し、権限や責任が増せば、賃金格差は縮まる傾向にあるが、「家族」の一員と見なされないため、賃金面での格差や、有給休暇、週の労働時間調整、職業訓練の機会、数々の福利厚生といった特権に差がある。

おそらく唯一の例外は、昇進および正社員への昇格の機会だろう。インタビューの回答者らは一様に、派遣またはパートタイム労働者の能力が高く、勤務態度がまじめならば昇進の可能性はあるという。ある回答者によると、「経営陣は常に派遣社員の中に有能な人材がいないか目を光らせている。有能な人材を見つけたら、調査を行い、機会があれば正社員に昇格させるし、監督者として抜擢することもある」という。こうした事例が定期的に発生するのかについては、ホテル会社の担当者だけが、発生すると回答した。電機メーカーと小売業の回答者は、正社員への昇格または昇進できる可能性はあるが、それほど頻繁には起きていないと答えている。また、この種の動きを促進する方針も戦略も存在しない。

一方、ホテルの担当者は、経営陣から有能な派遣社員を特定し、正社員に昇格させるようにという指令を受けている。ホテルのマネージャーは派遣労働のことを「人材選別装置」と捉え、派遣労働者が、自分の価値を証明できたら正社員に昇格できる可能性がある「公式な試用期間」と考えていた。

5 非典型労働者の組織化

大部分がパートタイムである非典型労働者は労働組合内で別枠の地位(2流の地位)に追いやられている。若年労働者を含む最近採用された社員が、従前より高額な保険料の支払いを求められ、古参組合員と異なる給与体系や人事考課・査定昇給基準が適用されるといった多層な制度に移行しつつある。

労働組合以外にも、非典型労働者の一部が組織化を進めている。伝統的な労働組合の手法をいくつか駆使しながらも、明らかにこれまでの労働者組織とは一線を画す活動を展開している。例えば、日雇い労働者らが自ら組織化して運動を行い、よりよい労働条件の獲得に成功している。とくに違法な労働者を不利な立場に追い込む労働市場の再編、雇用者が日常的に労働者の権利を侵害している業界など、さまざまな問題が交差する極めて難しい状況下で、彼らは「労働者センター」と呼ばれる組織のもとで団結している。

労働者センターは、日雇い労働者やその他の非典型従業員が職場で受けた不当な扱いに包括的に対応する組織として誕生した。紹介する事例は、日雇い労働に関する研究を通して、個人的によく知るようになったものである。

日雇い労働者のための労働者センターが登場したのは比較的最近であり、ほとんどのセンターが過去10年以内に設立された。米国全体では現在、15州に65カ所の労働者センターがある。こうしたセンターの大半は地方自治体が出資し、地域の組織や教会のグループが運営に当たっている。より高度な施設は、日雇い労働者の職業人生を向上させることを第一の目的に、雇用あっせん所を運営し、労働者の権利を守る活動(賃上げ要求の提出、労働安全衛生法に関する訓練の要求)を調整し、各種サービス(英語を母国語としない人のための英語コース、市民社会におけるリーダーシップ)を提供し、地域のイベントを主宰している。

さらに、労働者の権利の擁護団体、労働者センター、地域の調整機関の同盟である全米日雇い労働者ネットワーク(NDLON:www.ndlon.org)の取り組みを通じて、日雇い労働者らは問題の解決に自ら取り組むようになっている。

NDLONの活動は重要な成果を生み出している。このネットワークの非凡な点は、非常に広い範囲を網羅していること、また労働市場の中で労働組合がこれまで避けてきた部分である住宅建築に携わる労働者の組織化に成功したことである。NDLONが成功した理由は、自らを強力な全国ネットワークとして組織化したこと、労働運動と重要な連携を確立したこと、国家や地域レベルの公共政策に影響を及ぼしたことなどにある。大手・中小業者を含めた建設支出は数十億ドルに達し、建設に携わる労働者は数百万人にのぼる。米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)、レイバラーズ(Laborers)、その他の提携労働組合はNDLONの力を借りて、住宅建設業界の労働者たちに組織化の方法を教えることにした。NDLONが組織化された労働力ならではの保護措置と利点を持って労働運動の本流に入って行ったことだろう。

結論:社会・政治問題としての非典型雇用

非典型雇用に関しては、例えば、連邦政府による男女同一賃金法(EqualPay Act)では、同じ仕事をしている男女に同一の賃金を支払うことを義務付けた厳格な規則があるものの、パートタイム労働者と派遣労働者には適用されない。また家族介護休暇法(FMLA)に規定された福利厚生の提供を望まない多くの企業は、派遣社員、契約社員、パートタイム労働者(同法では週の労働時間25時間以下の労働者と定義されている)の数を増やし、正社員の人数を50人未満に抑えれば、同法の適用を免除される。

そのため、08年12月に民主党のケネディ上院議員とマロニー上院議員が、企業や組織の従業員に労働時間の短縮や勤務時間の変更を請求する権利を与えるために、「勤労者世帯フレキシビリティ法案(Working Family Flexibility Act)」を提出した。もしこの法案が可決されれば、州政府や連邦政府の監視機関は、賃金や労働時間の分野で、いくつかの労働・雇用に関する法律の内容の明確化を迫られるだろう。この法案は、1.求められる労働時間、2.求められる出勤回数、3.求められる勤務場所に関連する要求である限り、従業員が雇用主に対し、雇用契約条件の変更を求めることを認めており、こうした要求について雇用主が果たすべき義務をいくつか明記している。