フランス 正・非とも雇用の安定が焦点
経済成長は派遣に有利に働く:
第51回労働政策フォーラム
非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―
(2011年2月25日)

フランソワ・ミション氏(国立科学研究センター上席研究員)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

フランソワ・ミション氏(国立科学研究センター上席研究員)

1 「非正規雇用」の定義、その産業、職種上の特徴など

(1)非正規雇用の様々なタイプの法律的な定義

フランスでは、「非正規雇用」(「非典型雇用」あるいは「特殊形態雇用」とも呼ばれる)は、労働法の下で、標準的な雇用関係、すなわち無期契約による常勤の雇用と違うことを強調する時に用いられる。それは、非正規契約に対しては何の規制もないことを意味するのではなく、非正規契約はコモンロー以外の特別なルールで規制されることを意味する。

1.テンポラリー雇用

データとしては、テンポラリー雇用に関するものとして、派遣労働、見習い契約、その他の有期契約がある。これらに加えて、パートタイム契約(無期契約と有期契約がある)に関わるものがある(表1)。

表 1 非正規雇用の割合(%),2008年

表 1 非正規雇用の割合(%),2008年/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

注:フランス本土、世帯人口、15 歳以上(12 月31 日現在)の就業者。

(1)支援付き雇用を含む。
(2)支援付き労働契約のない賃金労働者、公共部門の研修公務員と正規公務員を含む。

資料出所:INSEE, 継続雇用統計

欧州のデータは、派遣契約と有期契約を区分していないが、フランスのデータはこれらを区分する。派遣契約は、その他に比べて、極めて具体的な法規の適用を受ける。それらは、派遣労働の社会的リスクから労働者を保護すると同時に、人材派遣会社および派遣労働者との間の不公正な競争から労働者を保護する目的で規制されている。

有期契約には、通常の契約の他に、さまざまな規則が含まれる。これらは政府の雇用政策が変わることで、出現したり消滅したりする。不完全雇用対策の一部として用いられ、若年層や新規参入者が対象となることが多い。こうした規則に基づく援助付きの雇用契約を結んでいる人が120万人いる(表2)。これらには、多くの伝統的なテンポラリー契約も含まれる。これらの多くは高い季節性を持つセクターで用いられる。

表2 援助付き雇用契約          (単位:千人)

表2 援助付き雇用契約/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

* 季節調整済み
** 地方政府、公共部門、非営利団体

資料出所: ASP ; DARES ; DGEPF ; INSEE

見習い契約は、有期で援助付きの場合があるとしても、有期契約と援助付き契約とは区別される。

2.パートタイム雇用

週労働時間が法定時間(あるいは協定時間)より短い被用者がパートタイム労働者とされる。パートには、無期契約と有期契約がある。テンポラリー契約の相当の部分がパートタイム労働者である(有期契約の21.1%、無期契約の15.4%)。

パートについては3つのポイントを付記したい。まず、テンポラリー契約とパートタイム契約は一部重複する(表3)。非正規雇用の数は、テンポラリー雇用とパートタイム雇用の合計にはならない。一方でテンポラリー契約と常勤契約との間には明確な違いがあり、テンポラリー契約とパートタイム契約との間にも明確な違いがある。

表3 さまざまな雇用形態に占めるパートタイム労働者の割合(%),2008年

表3 さまざまな雇用形態に占めるパートタイム労働者の割合(%),2008年/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所: INSEE, 継続雇用統計

最後に、パートは、いくつかの特別な法規によって(労働時間、社会保障などの面で)保護されている。それにもかかわらず、パートは主に女性で占められている(女性被用者のうち29.0%がパートで、男性は5.1%)。また、パートは主に非自発的である。そのために、パートが極めて差別的な待遇を受けており、キャリア、社会保障などの面で、極めて不均等な処遇に甘んじている。それが、標準契約に基づくものであっても、パートが非正規雇用、あるいは不完全雇用とみなされる理由である。

3.その他の非正規雇用関係

公的な統計データは、法律や集団協約の規制を受ける契約しか対象に含めない。しかし、非正規雇用は、それらに限定されない。そのため、統計データは、非正規雇用を巡る複雑な現実の概略を示すに過ぎない。

それが明らかに不法であっても、法律で規制されない雇用関係が一部にある事実を排除できない。一方、不安定な雇用形態を示唆しない非正規契約も多くある。一般に想定される雇用の不安定性と雇用契約の間の厳密な関係は、実証されていない。数十年にわたって減少してきた独立自営業者も、再び増加している。新たな自営業者は、被用者の従属に匹敵する従属関係にある場合、偽装自営業者とみなされる。

4.最終評価

被用者の4分の1が不確実で不安定な地位にあると見られている[Rouxel,2009]。この評価には、無期契約だが非自発的なパート、さらに無期契約だが翌年には職を失うことを恐れている人が考慮されている。一方、一部の研究は、非正規が組織的に長い勤務時間を強いられている事実はないと示唆しており、非正規と不確実性が必ず結びつくものではないように見える。ただし、2008年の金融危機で観察されたように、無期契約が必ず雇用の安定をもたらすものでもない。

(2)非正規が多く働く産業、職種はどこか――属性別の分布は

非正規の雇用関係は、それぞれ異なる使用目的がある。典型的な派遣労働者の姿として、若い、ブルーカラー、未熟練、自動車・建設・食料品業界で働くといった特徴がある。有期契約は、女性で占められており、ホワイトカラー、未熟練、サービス業が多い。パートの雇用形態は、サービス業に多く、そのほとんどが女性で占められている。これは新しい現象ではない。

1.産業と職種

派遣労働は、いくつかの製造業と建設業に著しい集中がみられる。そのため大部分がブルーカラーに集中し、未熟練のブルーカラーの38.4%が派遣労働者である。

有期契約は、主にサービス・セクター、なかでもとくに個人向けサービス(健康、教育)で多くみられる。公共セクターでもテンポラリー雇用が増えている。フランスでは、中央・地方や医療・保健関係の公共セクターで、特別な手続きで雇われた人々が含まれる。この地位は、解雇に対する極めて強い保護を受けており、非常に有利な社会保障が付与されている。しかし、公的セクターにも、労働契約も雇用保護がまったくない非正規の人々が含まれる。

パートタイム労働は、個人向けサービス、教育、健康、社会活動、サービス・セクターの管理部門など、主にサービス分野と全般的に女性被用者が主体となる分野に集中している。

2.非正規労働者の社会人口学的分布

1)テンポラリー雇用

非正規雇用が新しい労働者グループで増加しているといっても、その分布は極めて不均衡である。女性、若者、未熟練者(ブルーカラーまたはホワイトカラー)が大半を占める。彼らは雇用関係の変化と労働市場の構造化に主要な役割を果たしている。

本稿で無期契約と定義する常用雇用に比べて、自営業グループ、派遣労働、見習い契約は女性の割合は小さく、有期契約で女性の割合がより高いのは明白である。

年齢分布をみると、年配者は正規雇用に就く比率が高い。非正規雇用に就く若者の比率は上昇している。また、テンポラリー雇用は低い教育レベルと初期教育終了後の間もない年代に結びつき、テンポラリー雇用を強いられるリスクは高い。

2)パートタイム労働

パートの80%を女性が占めている。サービス・セクターでは85%近くが女性パートで、製造業でも75%以上を占める。さらに、パートタイム労働は全般的に若く、その特徴はとくに週の労働時間が短いパートにそれが言える。

(3)過去10―15年間の各タイプ別にどう変化したか


表4 テンポラリー雇用の増加率(全就労者に占める変化率)

表4 テンポラリー雇用の増加率(全就労者に占める変化率)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所: INSEE, 継続雇用統計

1985年から2005年にかけて、テンポラリー雇用は急激に増加した(表4)。なかでも派遣労働の増え方が顕著で、総雇用に占める比率は4倍になった。しかし、他のテンポラリー雇用形態、たとえば援助付き雇用や見習い契約は低いレベルに留まっている。絶対的なレベルが低い場合、高い増加率にそれほど大きな意味はないが、重要な点は、非正規雇用の労働移動の比率が全体よりもかなり高いことである。

パートが全被用者に占める割合は1982年から2005年にかけて2倍に上昇した。とはいえ、その動向には一貫性がなく、上昇が停滞した年や減少に転じた年もあった(常勤者に対して週35時間労働制が実施された年など)。

2 非正規雇用が増加し、正規雇用が減少したか

長期的に非正規雇用の増加は避けられないように見える。その理由はよく知られている。今日、熾烈な国際競争の中で、雇用の柔軟性が不可欠になっていることに異議を唱える者はいない。しかしそれは同時に労働者保護の面で重大な結果をもたらす。フランスでは1990年代以降、非正規契約が主に雇用の柔軟性の向上に寄与してきており、雇用の不安定性の問題について激しい議論がなされている。

(1)非正規雇用が増加している理由

非正規雇用が増加していることについて、5つのキーポイントがあげられる。1.労働市場の均衡の変化 2.雇用ルールの硬直性 3.企業の柔軟性を高めようとする雇用政策の有害な影響 4.同じ柔軟性をもたらすさまざまな非正規契約の相補・代替性 5.非正規被用者の意欲――である。

1.労働市場の変化

労働市場の変化については、議論の必要がないほど自明である。1960年代、20年以上の労働不足の時代を経て、労働市場の均衡が完全に反転した。経済成長が減速して、若年労働層(戦後ベビーブーム世代)が労働市場に殺到し、女性の労働参加の急激な増加がみられた。労働力過剰は顕著になり、経済成長は高い失業率を吸収するほど高まることはなかった。

ここで重要な点は、変容した労働市場が、雇用主と被用者の力関係の均衡状態を変え、高度成長期に獲得した社会福祉レベルを維持する被用者の力、さまざまな保護と利点を有するコモンロー上の契約である無期(正規)雇用を守る力を小さくした。正規被用者の自己防衛力はますます弱体化し、この防衛力は、一部の雇用分野に限定されるようになっている。組合組織率が低く、社会福祉を巡る闘争が激しくない大部分の職場では、こうした契約は無力化している。これらの職場では非正規雇用が増加し、常用契約の内部者と、不安定な雇用関係のワナに掛かった新規参入の外部者(非正規雇用)の格差が現実のものとなっている。

それが1970年代から2000年代にかけての状況だった。今日、状況は不確かながら変わりつつある。ひとつは、労働供給はそれほど潤沢ではなくなってきている。ベビーブーマー世代は定年に到達しつつあり、労働時間は短縮され、地方によっては、再び労働力不足が出現している。他方、08年の経済危機で、再び労働力過剰が生まれており、失業率が上昇している。内部者と外部者の格差は再び変化している。危機は非常に深いため、正規雇用の内部者の立場も同様に弱体化している。

はっきりとした将来の姿を描くのは難しい。正規雇用の時代が終わったわけではないが、常用雇用の職場は狭まり、非正規雇用の職場が拡大する新たな段階に入ったとみてよい。

2.雇用ルールの硬直性

フランスの雇用規則は、EU各国に比べて、硬直的すぎるといわれている。同様の議論は国内でも繰り返される。今日、政界多数派が喚起した問題は重要で、法規を完全に変える必要がある硬直的な社会なのだろう。とくに雇用問題に関して、個人のイニシアチブを制限し、雇用創出を阻害している労働法規を変える必要がある。

問題のひとつは雇用契約の性格で、それはコモンロー契約(無期の常勤契約)に含まれる一連の規則、とくに解雇に関する規則の性格と複雑性である。Cahuc and Kramarz[2004]によれば、フランスの正式な解雇手続きは非常に複雑で費用がかかり、それが無期契約を減少させる理由になっていると考えられる。

これが、2000年に施行され、主に05年以降、実施されている新たな雇用政策を正当化する主要な考え方である。雇用契約のコモンロー上の規則を変更しようとするさまざまな試み(正規、非正規を問わず新たな唯一の雇用契約で、規則の複雑性を縮小しようとする試み)あるいは週35時間労働制に反対する新たな労働時間政策がそれらの新たな雇用政策である。

3.雇用政策の有害な影響

1980年代始めの学会の議論で、雇用の柔軟性が関心を持たれるようになった際、柔軟性の確保は必ずしも雇用の不安定、雇用創出源の交代、雇用削減につながるものではないということが強調された。

80年代から90年代には、労働時間の削減が雇用を保護し、新規雇用を創出するための雇用政策の中心に据えられるようになった。それらの政策が、労働時間短縮とワークシェアリングを促進した。その他に労働時間を削減した要因として、内部柔軟性の強化(フレックスタイム制、組織の柔軟化など)があった。

しかし、雇用政策はこれまでも今も、いわゆる「援助付き雇用」がベースとなっていた。コスト面の恩典を与えられた雇用が奨励され、こうした援助付き雇用は、雇用主の社会保障負担金を大幅に削減した。これらの雇用は、一部の明確に定義された未熟練で低賃金の労働者グループ(とくに若年層)に向けられ、30年来、政策変更によって新たな援助付き雇用が生み出され、古い制度に追加されるか代替されてきた。失業者を職に就かせるため、援助付き雇用は大きく多様化し、数が増えた。しかしこれらは、常用雇用ではなく、雇用政策は新しい種類のテンポラリー契約を奨励するものとなった。

4.非正規契約の補完と代替――セクター慣行

非正規雇用の統計的分布から、さまざまな非正規契約の間に紳士協定があるのが分かる。企業が経済変動に対処するために使う主要なツールは、「残業」と「テンポラリー契約」であることを確認した。ここで重要なポイントは、有期契約と派遣契約には幾分かの代替性が観察され、その一方で派遣契約と残業はしばしば同時に用いられ、補完的な関係がみられることである。

派遣労働は主に長期欠勤や業務繁忙時(想定内と想定外のもの)の対処に用いられる。業務の季節性よりもこれらの理由の方が多い。

サービス・セクターでは、派遣労働はテンポラリー契約と激しく競合していることが明らかにされている。しかし、製造業セクターの一部、とくに自動車製造業や建設業では、派遣労働が重要な位置を占めるだけでなく、大部分が永続的である。そのような永続性には2つの側面がある。まず、派遣労働のレベルが高く、安定している(大手自動車メーカーの下請け企業の総労働力の約20%)。次に、同一人物が長い期間、同一の派遣先と人材派遣会社に留まっている。

最後に、非正規雇用は法律に制限を受けない、雇用に柔軟性を与えるためのツールとして使用されており、広範な雇用契約を含んでいる。

5.非正規雇用は自発的か非自発的か

雇用の柔軟性の問題は、個人の選択の問題というより、企業の人材方針に関わるものと考えられている。企業の側の柔軟性に関して議論され、個人の生活やワークライフ・バランスの問題として議論されることはめったにない。

実際問題として、パートタイム労働(あるいはテンポラリー雇用)を選んだ真の理由・動機と常勤雇用の不足や高失業率への対応とを分けて考えることは不可能である。

このような観点から、いくつかのポイントが浮かび上がる。

仮に個人が、非正規雇用に自発的に応募したと回答したとしても、それが仕事内容の問題であり、個人の能力あるいは雇用主の採用方針の問題であることが明らかになる。

2006年の調査でみると、派遣労働者の54%が、人材派遣会社を通じると早く仕事を見つけられるので、派遣労働者の道を選んでいる。パートタイムは女性に集中する傾向がある。ただし、雇用主が提案するパートは、女性パートの半分を占め、未熟練、短時間労働、個人生活に不向きな勤務時間の仕事に集中している。

1990年代の終わりまで、ほぼすべての人が無期の常勤の仕事を望んでいたとの調査結果がある[Cance,2002]。しかし、2006年には、無期雇用は全体のわずか27% だった[Givord,2006]。援助付き雇用が正規雇用を促進した形跡は余りない。1年後、テンポラリー雇用から正規雇用に移行できたケースは8人中1人だった[Fendrich and Remy,2009]。Di Paolaand Moullet[2003] は、新たに労働市場に参入する若年層は、テンポラリー雇用が短期間に終わる場合のみ、正規雇用へのつなぎになりうるという見解を示した。それが長期化した場合、テンポラリー雇用はワナとなり、脱出がより困難になる傾向がある。パートタイムの労働時間が長くなれば、パートタイム雇用から常勤雇用への移行も容易になる傾向が観察される。

(2)非正規雇用が正規雇用に移行する傾向は強まっているか

1.非正規雇用の不安定性はどうか

ここではテンポラリー契約だけを検討する。パートタイム契約は、無期契約であれば、検討する問題は起こらない。

テンポラリー被用者の地位に関してはいくつかの想起すべきポイントがある。まず、雇用法規はテンポラリー契約の期間を制限している。最長は更新期間を含めて9カ月から24カ月である。表向き、テンポラリー契約は永続的に更新することはできない。

一方で、雇用主が被用者に常用雇用の申し出をすることは何の障害もない。常用契約の方がテンポラリー契約より硬直性が低い場合がある。コモンローの下で常用契約には必ず試用期間が定められる。この期間は、通知なしに従業員を解雇できる。一方、テンポラリー契約は、契約期間が終わる前に解雇するのは困難である。

しかし、表向きの規則と実際の企業行動には大きな隔たりがある。著者が知る限り、無期契約の平均勤続期間についての情報はない。ただし、いくつかのポイントはよく知られている。派遣社員の派遣期間は極めて短い(2008年の平均は1.9カ月)。一部の企業やセクターに占める派遣労働者の比率は相当に高く、多くの場合、同じ人物が長年、継続して雇用されている。自動車産業の場合、無期契約は若い派遣社員からの選抜の結果として発生したもの以外にはない。

2.正規被用者の抵抗

非常用雇用者の高い流入比率は、流出比率と均衡がとれている。その結果、非常用雇用者は今でも少数派にとどまっている。一方、正規被用者は、過去に確保した自らの地位を守っているようにみえる。非正規被用者は(量的にいえば)依然、労働力のストックのごく狭いエリアに留まっているが、労働力のフロー面では柔軟性のニーズに応える極めて重要な機能を担っている。

重要な論点は、常用雇用者が抵抗姿勢を示すか、また、どのくらい抵抗できるかである。この問題は今回の危機の前には激しく議論されていた。

これらの議論は、1990年代と2000年代の労働市場の変化は、非正規による正規の代替ではなく、両者の間の架け橋を強化するものだったことを強調している。

しかし、新規採用が完全にストップし、非正規だけでなく正社員の解雇も行われるようになった今回の経済危機によって上述の議論が行われなくなった。

3.今日――いくつかの疑問

雇用変動の先行指標としてみられることが多かった派遣社員の動向を取り上げる。1990年代から2000年代初頭にかけて、労働市場での存在感を高めようとした人材派遣会社の努力は実を結んだようにみえる。いくつかの新しいタイプの派遣労働者(年配、高スキルの管理職、女性、サービス業従事者の増大)の台頭で、伝統的なタイプの派遣労働者(若年で未熟練の男子、製造業セクターのブルーカラー)の活動は不活発だった。2000年代の初め、このような長期的傾向がストップした。この間、急速に経済が拡大し、雇用が創出された。1950年代以降、もっとも雇用が創出された時代といってよい。伝統的な派遣労働の使用者(製造業)でも労働需要が回復した。

しかし、経済危機は派遣労働に直ちに影響し、派遣事業が導入されて以来、最悪の落ち込みをもたらした。今日、派遣労働市場は回復の兆しをみせている。しかし、これは伝統的な派遣先(製造業)が再び復活することを意味しない。派遣労働がすべての労働市場に幅広く分散される傾向は止めようがない。フランス経済は、ゆっくりとした成長軌道に乗ると予想される。今後の労働市場は、非正規雇用、その中でもテンポラリー雇用、とりわけ派遣労働に有利に働くだろう。

3 均等な処遇の実際の状況

フランスでは、公的には法律は均等な処遇を保証している。これはとくに有期雇用、派遣雇用を問わず、テンポラリー雇用について適用される。テンポラリー契約には、1972年の派遣労働に関する最初の法律に保護される均等な処遇の規定が存在する。パートタイム労働に関しては、労働時間とそれに関連する事項など特定の規定を除いて、均等な処遇自体が法律で規定されている訳ではない。その理由は、パートタイム労働の契約には無期も有期もあって、均等な処遇は契約上の問題になるからである。いずれにしても、公的に均等な処遇の義務を負うということは、それを保障しない場合、裁判所の判決で、雇用主に罰則が適用され、投獄される可能性もあるということである。

しかし、現実は異なる。とくに組合が存在しない場合、違法な慣行が横行していることは良く知られている。それは法律に違反してもよいということではないが、中小企業で、それがよく起こる。ここでの要点は、構造上の問題である。均等な処遇には同種の他の仕事と比べて「その他の条件が等しければ」という前提があるが、非正規雇用は主に低賃金、過酷な労働条件であり、資格を要しない仕事に用いられるため、非正規雇用における均等な処遇は、押し並べて、低賃金と過酷な労働条件と特別なスキルの欠如に結びつく。

(1)テンポラリー雇用

1.週労働時間、有給休暇、労働条件

労働時間と労働条件に関しては、法規制はテンポラリー雇用も正規雇用も同じである。派遣労働の場合、均等な処遇は派遣先のスタッフとの比較で評価される。均等な処遇が定められているにもかかわらず、全般にテンポラリー被用者の労働条件はよくない。彼らの労働条件は週ごとに変わるなど不安定であり、労働時間の予測も難しい。

2.基本賃金および手当

テンポラリー被用者には常用被用者と同一の基本賃金と賞与が与えられなければならない。派遣労働者の場合は、派遣先の従業員との比較で平等性が評価される。彼らは、仕事の種類によって同じ手当(危険手当、食事手当など)を受けられる。もちろん、テンポラリー被用者は、企業内に留まる期間が短いため、年功加俸を受けることは稀である。しかし彼らは、特別な不安定手当(法律は賃金の10%だが集団協約でそれより高く設定できる)の恩典を受けられる。また、年次休暇の買い取りを求めることもできる。

3.スキル開発と企業内の昇進の機会

有期契約社員は、無期契約社員と同様に訓練を受ける権利が付与され、それよりも有利な点もある。例えば、彼らが危険な職場に配属される場合、同じ安全強化訓練を受けることができる。しかし、これまで不安定なキャリアの道を辿った人々は正規社員よりも少ない訓練しか受けていないという事実が確認されている[Perez et Thomas,2005] 。

フランスの雇用主は、賃金額の1.5%を職業訓練にあてる社会負担金を拠出する義務を負っている。派遣労働者の場合これが2%になる。そこから、訓練に関しては派遣労働者が恵まれていると推論できるかもしれない。しかし、派遣労働者はそれほど十分な職業訓練を受けていないという観察報告もなされている。Erhel,Lefevre etMichon[2009] は、05年に、被用者全体のうち9.4%が過去3カ月のうちに職業訓練を受けていると答えているが、派遣労働者の場合、この比率が5.5%だったと指摘している。

4.社会保険、失業保険、福祉政策

すべての被用者は、法律が定める基本的な健康保険、失業給付、退職給与制度の恩恵を受ける。しかし、フランスでは、これらの標準的な恩典に、集団協約による補完的なプログラムが付加されるのが普通である。これらの補完的プログラムは常に、非正規にも正社員にも平等に適用される訳ではない。完全に享受するには、ある程度の勤続期間が必要になる社会福祉項目も多い。

5.労働組合への加入

すべての被用者は、雇用契約の種類を問わず、企業内の組合と企業内部での代表選出について同一の権利を有している。代表選出制は企業規模によって異なり、派遣社員は人材派遣会社の労働組合に加入する権利を有し、どの代表選出制が派遣先で機能しているかを見極め、派遣先の労働力に加えられる。

フランスは他の先進国と比べて組合組織率がもっとも低位である(就業者の8%以下、民間セクターだけだと7%)。にもかかわらず、集団協約によるカバー率はもっとも高い(全就業者の80%以上)。派遣労働者がパラドックスをさらに強めている。派遣労働者で、組合に加入しているのは1%であるが、集団協定の活動はきわめて活発である。

組合は最近まで派遣労働者の組合加入と動員に積極的ではなかった。しかし、現在は変化の兆しがみえている。その理由として、1.テンポラリー被用者が同じ企業で働く期間が長期化している 2.組合は正社員という伝統的な採用方式を取るのが以前より困難になると考えるようになった 3.組合の将来は非正規被用者にかかっていることを組合は理解し始めた――などがあげられる。

(2)パートタイム労働

パートは、勤務時間に比例して、常勤者が持つ権利を享受できる。彼らの労働条件は、標準的な労働条件に劣っていないようにみえるが、パート集団は均一ではなく、同じパートタイム労働者のグループでも働き方には差がある。

1.労働時間:週労働時間、残業、有給休暇

パートタイム労働者の年次休暇は常勤者と変わらない。時間的制約という点では、パートは常勤者よりも良好な状態にあるとみてよいだろう。しかし、勤務時間を増やしたいパート、テンポラリー契約のパート、家庭の事情で今の職種を選んだパート、常勤の仕事が見つからないために今の職種を選んだパートなどおかれた状況はさまざまである。

2.基本賃金、手当

スキルレベルに差がない、同じ会社に勤めるパートタイマーの賃金率は常勤者と同じでなければならない。パートの勤続年数は、常勤者と同じように評価される。しかしここでも、均等な処遇の問題よりも、深刻な構造上の問題が発生している。

3.スキル開発の機会、内部昇進の機会

定例的な訓練を受けるのはパート全体で28%、常勤者全体で38%である[Bel,2008]。無期契約のパートの状況はさらに悪い。これには、この雇用形態をとりがちな企業および経済セクターが関係している。前者については、訓練コースを受けるのが極めて難しい家庭での責任を抱え、訓練を犠牲にしても勤務時間を長くしてより高い収入をもたらしたいと思う女性が多く、後者については、訓練の利用率が低い小企業とサービス・セクターが多いことを意味する。

4.労働組合への加入

公的にはパートはすべての面で常勤者と厳密に同じ条件でなければならないため、組合加入と企業内部での代表選出への参加の権利も同じである。しかし、パートは圧倒的に女性、ホワイトカラー、サービス業、小企業に集中している。これらの特徴は、低い組織率、低い代表選出制に密接に結びついている。ここでも構造上の問題が浮上する。

4 結論――社会問題、政治問題としての非正規雇用

長い間、非正規雇用は、社会、政治問題でも主要な論点とされてきた。伝統的な見方は、さまざまな形態をとる非正規雇用の地位を不安定、脆弱性、危険性に結び付けてきた。雇用の柔軟性と雇用の不安定性は一体ではないと説得するあらゆる努力にもかかわらず、柔軟性と不安定性が一体として論じられることがある(欧州の雇用政策であるフレキシキシュリティ〈flexicurity :雇用安定を伴った雇用柔軟性〉)[Schmid,2009] 。

フランスでは未だ労働組合が、雇用の柔軟性と雇用の不安定性は一体であるとして非難している。組合は常に、非正規雇用は組合を弱める手段であり、正社員に対する保護を毀損する方向に働くと考えてきた。そのため、長期にわたり、正社員の地位を守り、被用者の地位の多様化を拒絶することが主要な目標となってきた。

07年に、フランス政府は、労働市場のプロセスに一連の変更をもたらそうと試みた。その1つは、雇用契約関連の規則を完全に再構築しようとするものだった。一言でいうと、さまざまな種類の雇用契約を一本化しようというものである。08年1月の多産業集団協約は、明示的にその変更を拒否した。

08年の経済危機発生によって、正規契約は、法規則の存在にもかかわらず、もはや保護されるものではなくなった。フランス企業社会の主要な議論のテーマは雇用契約から、再び失業率、労働市場管理の効率性、失業手当給付金の問題に移った。それは、雇用の不安定性の問題が議論されなくなったということではない。反対に、雇用の不安定性の問題は、労働市場を巡る問題の主要な論点の1つと考えられている。

しかし、その一方で、正規契約の硬直性こそが、雇用創出の重大な障害であるという主張も相変わらずある。従って、現在の状況は、1.ソーシャル・パートナーによる雇用契約の構成の改変論議の復活 2.雇用主と国家機関が声を揃える労働コモンローの硬直性に対する批判の高まり――としてまとめられる。それは今後も、非正規契約が雇用の柔軟性を提供する手段として残ることを意味する。