ドイツ 規制緩和の波とともに、非典型雇用が大幅に拡大:
第51回労働政策フォーラム

非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―
(2011年2月25日)

ハルトムート・ザイフェルト氏(ハンスベックラー財団経済社会研究所顧問)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

ハルトムート・ザイフェルト氏(ハンスベックラー財団経済社会研究所顧問)

1 論点

非典型または非正規の雇用は新しい現象ではない。しかし、2003、04年の「労働市場の近代化に関する法律」(以下「ハルツ法」と言う)の可決以来、これらの雇用は学術的及び政治的議論の対象となってきた。ハルツ法では、非典型雇用の利用を促進し、全体としての雇用水準を引き上げることを目的に、派遣雇用、有期・僅少雇用に対する規制が緩和された。これは、1980年代半ばの雇用促進法に始まった漸次的な規制緩和プロセスの継続である。2001年にはパートタイム・有期雇用法で、すでにパートタイム労働拡大への道が開かれていた。この規制緩和の波を考えれば、非典型雇用の割合が近年大幅に増えているのも全雇用の3分の1以上を占めるのも驚きではない。しかし、こうした形態の雇用の拡大は、規制緩和のプロセスの間はほとんど無視され、今になって不安定リスクの増大という形で表れつつある新たな問題を投げかけている。

2  標準雇用と非典型雇用の諸形態

非典型雇用はふつう、いわゆる標準雇用と対照して非該当者として定義される(Muckenberger 1985)多様な雇用形態が含まれている。標準雇用は次の特徴をもつ。 1) 生計を立てるに十分な収入を伴うフルタイム雇用 2)常用雇用契約  3)社会保障制度への統合(とくに失業保険、医療保険、年金保険) 4)就業関係と雇用関係が同一  5)被雇用者は雇用者の指示に従う。

表1 非典型雇用形態

表1 非典型雇用形態/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

(注) 1) 各4月,  2) 400ユーロ基準のミニジョブ,  3) 各6月末

資料出所: 連邦統計局(Federal Office of Statistics)F 1, Row 4. 1. 1., 各年版及び https://www-ec.destatis.de/csp/shop/sfg/bpm. html.cms.cBroker.cls?cmspath=struktur,sfgsuchergebnis.csp;

非典型の雇用形態は、上記の基準のうち少なくとも1つが標準雇用形態から逸脱している。ただし、報酬ベースで仕事をする個人ないし自由業(フリーランサー)、就労体験のための「1ユーロ職」、インターンシップなどは含まれない。

非典型雇用の代表的な形態であるパートタイム労働(僅少雇用以外)は、週当たりの規定労働時間が正規契約水準より少なく、収入もその分少ない。

僅少雇用は、報酬が一定水準に満たないという意味で定義されるパートタイム労働の一変型である。2003年及び04年に導入されたハルツ法では、いわゆる「ミニジョブ」と「ミディジョブ」という2つのカテゴリーに区別している。月額報酬が400ユーロ以下と800ユーロ以下という制限が適用され、合計で30%の社会保険料と税金を雇用主だけが負担する。

有期雇用は、1980年代半ば以降、契約期間の上限が順次2年まで延長された。金属加工業界では、労働協約により最長期間が4年まで延長された。

派遣労働は、ハルツ法により広範な規制緩和が行われ、派遣期間の上限、雇用契約と雇用期間の同期化の禁止、及び再採用の禁止が撤廃された。その代わりに「同一労働同一賃金」の原則が導入されたが、これには労働協約による逸脱が認められている。

また、弁護士、医師など従来の自由業のカテゴリーに代わるものとして、自営業の概念が導入された。これは03年ハルツ法で導入された、いわゆる私企業(Ich-AG) ないし家族企業(Familien-AG)の創業助成金により促進された。一般的な雇用と自営業(擬似自営業)との境目はかなり流動的な場合もあるため、この2つを区別するのは必ずしも容易ではない。

ただし、上記の雇用形態の特徴が組み合わさった形で表れる場合もある(例えば派遣労働者やパートタイム労働者が同時に有期雇用契約も結んでいるケース)。

さらにこれらの各雇用形態間の境界線は必ずしも明確ではない。例えば、パートタイムには、雇用契約に定める労働時間が週35時間未満ならパートタイム雇用とみなされるが、連邦統計局の基準は週21時間以下の労働をパートタイム労働と定義している。ただし、この基準は明らかに低すぎるうえ、国際的な慣習にも沿っていない。OECDでは長年にわたり、週の労働時間が35時間未満の場合をパートタイム労働と定義していたが、数年前にこれを週30時間以下に引き下げた(OECD 2009)。どこで線引きをするかによって、非典型就業者の割合が異なる。

3 推移と拡大の理由

(1)推移と範囲

1990年代の初め以降、あらゆる形態の非典型雇用が増加傾向にある。ただし、増加のペースと当初の水準はそれぞれ異なる。

他のEU加盟国と同様に、もっとも広まっている形態は、就業者総数の4分の1以上を占めるパートタイム労働である。これは女性就業者数の増加と密接に関連しており、パートの80%以上を女性が占める。自発的にパートタイム労働を選ぶ人もいるが、適切な選択肢が与えられればもっと長時間働きたいと望んでいる人もいる。

就業者全体の約20%は「僅少雇用」(ミニジョブ)のカテゴリーに入る。この形態の雇用はハルツ法の修正法直後(報酬の上限が325ユーロから400ユーロに引き上げられ、労働時間の制限が廃止された)に著しく増加し、その後、高水準のまま横ばいとなった。ただし、専業のミニジョブと、僅少雇用以外の就業者の副業としてのミニジョブとは明確に区別する必要がある。

社会政策の面では前者の問題が明らかに大きい。とはいえ、数としては専業の方が圧倒的に多く、ほぼ70%を占める。ただし、ミニジョブだけにしか従事していない人は就業者全体の14%にとどまり、それ以外はフルタイムまたはパートタイム雇用と併用している。約70万人が就業し、全体の約2%にとどまるミディジョブの重要性は、ミニジョブに比べると相対的に低い。

有期雇用は、1980年代半ばからの規制緩和にもかかわらず、約10%しか増加していない。ただし、ここで重要なのは、有期雇用の就業者が常用雇用へ移行できるかという問題である。

派遣労働が労働市場に占める割合は依然、比較的低い水準にとどまっており、数的には非典型雇用の中でもっとも重要度が低い。ただし長期的に見れば、ハルツ法による規制緩和以降、力強い拡大を見せており、過去10年間で倍増したことで、一般市民の関心は高まった。しかし、2008年からの経済危機とともに08年5月から09年2月の間に、派遣労働者数は82万人から55万人まで落ち込んだ。ただし、09年半ばから経済が回復し始めるにつれて派遣労働者の数は急増し、10年秋には、その割合がほぼ3%(90万人以上)という記録的なレベルに達した。経済危機の間に、派遣労働は非常に柔軟な雇用形態だということに多くの企業が気づいた。派遣労働者は作業工程にすばやく統合できると同時に、すばやく切り捨てることもでき、解雇手当も必要ない。このことは、派遣労働が景気の影響を極端に受けやすく、景気が回復し始めたときに、まず上向きになる雇用形態の1つであることを示している。

パートタイム労働と有期雇用など、複数のカテゴリーに重複して算入されている可能性もあるが、非典型雇用の形態が労働力全体に占める割合は37%にまで拡大した(Brehmer/Seifert 2008)。連邦統計局のデータでは使われている定義が異なるため、非典型就業者の割合は1990年代初頭には20%しかなかったが、08年の時点で22% となっている(Wingerter 2009)。正規雇用が標準という認識は弱まり、非典型形態がますます「一般的な例外」になりつつある。05年から08年にかけて就業者総数が増加したのは、主に非典型形態の増大、とくに僅少雇用(ミニジョブ)と派遣労働の広まりによるものである。

こうした推移を考えると、しばしば標準雇用の「危機」「崩壊」とまで言われる雇用システムの変化は、むしろ「雇用形態の複数化または細分化」と呼ぶ方がふさわしい。景気循環や全体的な雇用傾向がどうあろうと、標準雇用がなくなることはないとしても、非典型雇用の形態はさらに増加すると予想できる。どのような種類の福祉国家であっても、当初からEU加盟国では、ドイツも例外なく、非典型雇用形態の拡大がみられる。

(2)構造的側面

こうしたさまざまな非典型雇用形態の就業者は、性別、年齢、資格水準、部門や地域、特に旧東側と旧西側の違いといった通常の基準によって異なる。これらの要因は、労働市場における中核と周辺、言い換えれば「インサイダー」と「アウトサイダー」の区分を強める。派遣労働を除くすべての形態は、多かれ少なかれ女性が多数を占める。この意味で非典型雇用には明らかな性別による偏りがあるが、議論において軽視されることが多い。女性の過半数(57%)が非典型雇用で働いていることを考えれば、確かに「新たな常態」という見方ができ、労働市場の性別格差を示すものでもある。働く女性の割合が増えていること(約70%)は、非典型雇用、とくにパートタイム雇用と有期雇用の拡大と密接に関係している。

技能水準の面では、公認の職業訓練を受けていない人の方が非典型雇用の割合が高い。年齢に関しては、非典型雇用はすべての年齢層に見られるが、パートタイムベースで始まる有期雇用契約者には若年(15~24歳)の割合が目立って多い。また、EU諸国以外の外国人は、ドイツ国民より非典型雇用の割合が高い。

非典型雇用は、さまざまな経済分野に分布している。パートタイム労働はとくにサービス業で多い(42%)。短期契約は、医療・福祉サービス、教育、行政など、景気循環の影響を受けない分野で主に利用されている。とくに目を引くのは、新規採用者の短期契約の割合が、2001年の32%から09年には47%にまで大幅に増加していることである。

僅少雇用も状況は似ている。この形態が主に見られるのは小売業(13.2%)、ホテル・ケータリング業(9.0%)、ビル清掃業(7.2%)で、全体の約30%は社会保障費の納付義務のある職についている人が副業として従事している。また、このカテゴリーには多数の学生、年金受給者も含まれ、数量化するのは難しいが、おそらく僅少雇用全体の4分の1ほどを占めると思われる。この割合が比較的高いことは、僅少就業者のほぼ4分の1が6カ月しか仕事を続けていない理由でもある。ただし、就業継続期間が3年半以上に及ぶ人も全体の4分の1前後いる。

対照的に派遣労働は、主に製造業に見られるが、サービス業界でも重要性が増しつつある。派遣就業者の大半(71%)は男性で、主に金属加工や電気業界で働いている。雇用継続期間は延びたが、04年ハルツ法で短期契約の禁止が撤廃されたためと思われる。3カ月以上雇用された派遣労働者は、1999年には全体の38%しかいなかったが、10年後には56%に達した。逆に言えば、派遣労働者の44%は3カ月未満しか雇用されていないことになる。この意味では、派遣労働は依然、比較的短期の雇用形態と言える。

(3)拡大の理由

ドイツでは、非典型雇用の拡大の理由を説明しようとする理論的な試みは比較的少ない。非典型雇用形態のもつ不均質性にもかかわらず、何か共通の特徴を見つけようと試みれば、これらの雇用形態はいずれも、標準雇用よりも労働力を柔軟に配置できる範囲を広げるものだと言える。このことは、パートタイム労働およびミニジョブに関して、企業側に言えることだが、労働者の側にも同じことが言える。

非定型雇用のそれぞれの形態の拡大には特定の要因があることから、すべての非定型雇用形態の拡大理由を説明できる理論的アプローチを見つけるのは不可能だ。

ただし、詳細は雇用形態によって異なるが、非典型雇用の拡大は需要と供給の両方の視点から説明できる。主にハルツ法による諸改革により、需給双方の規制上の枠組みが変わり、非典型雇用の拡大を後押ししたとはいえる。

こうした拡大を説明しようとする最初の理論的アプローチは、労働市場の需要サイドを出発点として、人材理論と取引コスト理論の視点からなされた(Nienhuser 2007; Sesselmeier 2007;Neubaumer/Tretter 2008)。需要が変動する時期には、非典型雇用形態の利用(とくに派遣労働と短期労働)によって労働・解雇コストを削減し、かつ人的資源配置の柔軟性を増すことができるという主張である。また、経済危機下で、訓練に相当額の投資を要する中核労働者を解雇せずにすみ、外部利益を創出することができる。需要が減ったときに中核労働者を解雇すれば、企業はその投資を回収することができないうえ、こうした労働者は勤続年数が長いため解雇手当も高くなる。さらに、需要が回復したときに彼らを再雇用できる保証はなく、そうなれば多額の採用・訓練コストの支出を強いられるだろう。

失業率が高水準にとどまっていることにより、失業者に低賃金の仕事を受け入れるよう求める圧力が高まった。その一因には、失業手当の受給期間を短縮し、受給条件を厳しくしたハルツ法の影響があり、失業者は以前よりかなり労働条件の悪い仕事でも甘受せざるを得なくなっている。

さらに、取引コスト理論に基づく考え方によれば、分業が広まったことで、とくにサービス業の単純労働にかかわる訓練コストが下がり、それによって新規採用者にかかるコストが低下した。また、解雇される者の勤続期間によって手当額が決まるため、勤続期間が短いほどコストは低くなる。この意味では、中核労働力のほかに、柔軟性のある短期契約で採用する第二のカテゴリーの就業者を持つことは、企業にとって有利になりうる。さまざまな形で労働時間が短縮されたことで、需要が急減した場合でも企業は中核労働力を保持し、同時に派遣労働を大幅に減らすことができるようになった現状が、現在の危機には如実に表れている。

これまでに起こった変化は、派遣労働の推移を見たときにとくに明白である。ハルツ法に基づく派遣労働の規制緩和により、企業にとって派遣労働者を受け入れることの魅力が増した。短期契約、同期化、再採用の禁止が撤廃されたのである。経済危機の経験が示す通り、景気循環の上下に伴う商品やサービスの需要変動に直面したときに、企業はこの手段を利用して労働力を迅速に、かつ解雇コストなしで切り捨てることができる。規制緩和以来、派遣労働の機能が変化したと言える。派遣労働はもともと、主に病欠や休暇、休職などによる短期的な労働力不足を埋め合わせるために用いられていたが、今では試用と採用の目的で、また新規採用や中核労働者の入れ替えを避けるための柔軟な手段として利用される例が増えている(Seifert/Brehmer 2008)。

短期雇用契約の利用においても、経済危機の間に、この雇用形態も別の機能を負うようになった。若年層の半数以上が、デュアルシステムのもとでの職業訓練を終えた後、最初は短期契約ベースでしか受け入れてもらえない。企業内では、しばしば労使間の交渉ですべての訓練生を受け入れることが合意されるが、最初は短期契約ベースでの雇用という条件がつく。この状況と、少なくとも短期契約ベースでの若年者の雇用を確保しようという社会的パートナーによる取り組みの一例は、化学業界で締結された合意に見られる。鉱業・化学・エネルギー労組(IG・BCE)と経営側は、「雇用への架け橋」と銘打った、訓練生の受け入れ確保を目的とした資金提供に合意した。化学業界の全1,900社が2,500万ユーロに及ぶ資金を寄付し、この資金を、養成訓練を修了した訓練生を厳しい経済情勢にもかかわらず受け入れる企業の支援に用いるというものである。訓練生1人につき毎月1,000ユーロを上限とする助成金が、最長1年間支給される。2010年と11年には、これによって各年1,000人以上の訓練生が職を得ることになる。これらの短期契約は、失業の回避とともに、常用雇用契約に転換できるようにするための時間稼ぎを目的としたものである。

短期雇用が利用されるその他の理由として、出産休暇や育児休暇による欠員の一時的な補充がある。こうした事由は、女性の雇用参加が増えるなかで重要性を増している。また、学術研究機関や大学で、予算やプロジェクト資金の時間的な制約を理由に短期雇用契約が結ばれることも多い。このため、ドイツの大学では教員の4分の3が有期契約による雇用である。

パートタイム労働の場合、主な要因は供給サイドに関係する。ただし、この要因はミニジョブについても働く。子供ができた後、労働時間を短くしたいとパートタイム労働を選ぶのは主に女性である。パートであれば、以前より減るにしても収入を得ることができ、年金受給資格も保持できる。この意味では、ドイツには終日ケアを提供する保育施設や学校が十分にないことが大きな問題かもしれない。現在の性別役割分担を考えれば、女性は仕事から一切身を引くことを望まないなら、パートに切り替えるしか選択肢がない場合も多い。

ミニジョブは、税金と社会保険料の扱いが独特であるため、特殊な役割を担っている。雇用者が30%を納めることになっており、うち2%が税金、13%が法定健康保険、15%が法定年金保険に振り分けられる。これによってミニジョブは、企業にとってコストの点で魅力的なものになっている。 就業者自身は税も社会保険料も払う必要がないので、 雇用者側は、 安い税込み賃金を支払えばそれが就業者にとって事実上の実質賃金となるため、その分の労働コストを節減できるのである。

4 均等処遇の実状

(1)非典型雇用形態は不安定か?

非典型雇用の増加は、社会的リスクの増加につながる。こうしたリスクは就労生活を送っている間と、それを終えた後に生じる。政治的・学術的な議論で、非典型雇用は不安定雇用と同義とみなされることがよくある。

ここでは、不安定に関して同時に生じうる、いくつかの側面を提示する。

○ 生計を維持できる収入:通常は国際的に平均賃金の3分の2と定義されるが、個人所得と世帯所得を明確に区別する必要がある。

○ 社会保障制度、とくに年金保険への加入

○ 雇用安定性(単に職場が一定であるだけでなく、雇用の継続性という意味で)

○ 雇用可能性(個人が生涯にわたって構造的変化に適応する能力)

各種データに基づいた実証分析の多くは、非典型雇用を標準雇用に劣るものとして分類しているが、非典型雇用のすべての形態を不安定とみなせるわけではないことも示されている。しかし、不安定リスクは標準雇用にもまったくないわけではないにしても、非典型雇用の方が標準雇用に比べてかなり高くなる。

賃金に関しては、非典型雇用の個々の特徴を検証した場合、どの形態においても標準雇用より条件が悪い。格差は標準雇用と非典型雇用の間だけでなく、非典型雇用の各形態の間にも見られる。賃金格差が特に甚だしいのは僅少雇用と、それよりは程度は低いものの派遣労働だが、有期雇用やパートタイム労働も標準雇用と同等の水準ではない。

僅少雇用就業者の著しい賃金格差は、おそらくこの雇用形態の間接的な助成と関係があると思われる。個々の世帯の背景を考えれば、こうした状況は生計上の問題を生み、就労生活中やその後に貧困のリスクを生じさせる可能性がある。就業者全体のうち130万人(ほぼ4%)が、所得が少ないために公的給付金を受け取っている。

雇用安定性に関しても大きな違いがある。大半は雇用期間が3カ月未満である派遣労働は標準雇用に比べてとくに不安定とされており、有期雇用も標準雇用より変動性が高い。パートタイム雇用については最近の研究(Brehmer/Seifert 2008)で、他のどの形態に比べても雇用安定性が高いことが確認されている。その要因は、パートタイム労働があるからこそ女性が家庭を持ちながら仕事を続けることが可能になっている現状にあるとされている。

非典型雇用による就業者は、企業内で行われる再訓練の利用機会に関しても不利である(Baltes/Hense 2006,Reinkowski/Sauermann 2008)。就労者自身で内外労働市場での雇用可能性を高められる範囲は限られている。差別待遇のリスクは、有期契約による就業者より労働時間の短い就業者の方が大きい。上述の不安定リスクは累積的な場合があるため、この種の差別は本人が率先して機会を求めることで埋め合わせられる可能性は低い。このように複数の不利益が重なることで、失業期間を挟みながら非典型雇用を転々とするという一種の悪循環に陥る危険がある。そうなれば、長期にわたって少なからぬ社会的リスクを被ることになる。

(2)再規制の兆候

パートタイム及び雇用促進立法による法規制では、すべての雇用形態に対して所得と労働条件の面での同等処遇が義務づけられている。しかし、実際はこれとはかなり異なる。正規就業者に比べると、非典型雇用の就業者はたいてい所得や企業内訓練の機会の面で不利となるリスクが大きく、全般的な状況も安定しない。このような社会的リスクと、これらの雇用形態の増加を受け、労働組合では、標準雇用と同等の資格を与える新たな規制を求めている。23%の企業では、交渉を通じて派遣労働者に中核労働力と同等の賃金を確保することに成功している(Seifert/Brehmer 2008)。ただし、これは基本給だけに適用され、特別手当やボーナスなどは除外されるため、実質的な所得は異なる場合もある。

2010年秋、金属労組(IGメタル)は鉄鋼業で最初の重要な勝利を収めた。この業界の全企業の派遣労働者が、中核労働者と同じ報酬を受け取れるようになった。この協約は昨年10月に発効し、2012年末まで施行される。この協約が適用されるのは派遣労働者が比較的少ない分野のみである。

2010年末の時点で、政府が派遣労働者の最低賃金を導入するかどうかの決定はまだなされていない。今年5月にはEU新規加盟国の労働者に完全な移動の自由が与えられることから、連邦議会に議席を持つ政党の大半はこの法律の制定を支持している。

5  常用雇用への移行のシナリオ

非典型雇用が、上層に移動が機能する範囲は限られている。転職を伴う場合、非典型雇用から正規雇用に移行するケースは、フルタイムの仕事から変わるケースに比べてかなりまれである。短期契約就業者や派遣労働者が職を失った場合、そのまま失業にいたる場合を別とすれば、また同じような不安定な雇用形態で就業する者が圧倒的に多い(Gensicke et al. 2010)。別の研究によれば、09年に短期契約就業者のうち常用雇用に移行できた人は全体の45%である(Hohendanner 2010)。経済危機が起こる前のこの数字は52%だった。

表2 失業からの移行(%)

表2 失業からの移行(%)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所:Mobilitätsstudie Infratest/WSI 2008.

再就職の際に正規雇用に就いた人のうち、過去にパートタイム労働や僅少雇用(400ユーロ職)で就業していた人の割合はごく少ない。こうした就労者の大半が正規雇用への移行を望んでいないことに関係があるだろう。非典型就業者の中で、正規雇用に移行する人の割合がもっとも高いのは元派遣労働者の17%で、正規雇用に戻る割合が突出して高い(41%)のは、フルタイム雇用だった人である。

雇用契約の終了後に失業に至るリスクも、雇用形態間で違いがある(表2)。新しい仕事が見つからない人の割合は、正規雇用だった人では37%だが、派遣労働者では50%、短期契約就業者では45%である。この調査結果が驚きなのは、派遣労働者は正規雇用より失業給付Ⅰ(通常の失業)の受給権が少ないため、次の仕事を見つけなければならないという社会的圧力がはるかに大きいからだ(Gensicke et al.2010)。臨時派遣労働者にとっては、この雇用形態から正規雇用に移行するのは難しい。

規制緩和された労働市場では、低賃金層を抜け出して上層へ移動するのはますます難しい。柔軟性が増したからといって、移動性も増すとは限らないのは明らかだ。明らかでないのは、移動性を制約する要因は何かという点である。労働市場研究の分野では、この疑問への答えは今のところ見つかっていない。

6 長期的な影響

非典型雇用形態は、社会保障の面で重大な長期的問題を生じさせる。その影響は労働市場にとどまらず、就労を終えた後の個人の生活にまで及び、社会保障、なかでも年金に大きく影響する。社会的リスクの累積は、非典型雇用の就業者は標準雇用の就業者に比べて、低賃金でしか働けない可能性が高く、したがって社会的移転給付の上積み受給を受ける場合が多いことを意味する。また、雇用リスクが高く雇用期間が短いため、失業した際には失業給付II(長期失業者、生活困窮者など)しか請求できないことが多い(給付Ⅰは制限的で、至近の実質所得に対する補償率分=子供がいない場合は60%、いる場合は67%=が支給される。給付IIは無制限だが、補償率はより低い)。また、派遣労働者と正規就業者との差がとくに著しい。給付IIを受ける人は、派遣労働者はおよそ2人に1人だが、正規就業者では7人に1人しかいない。この差の主な理由は、社会保険の対象となっていた雇用の期間が足りないためである。

長期的に問題となるのは、非典型就業者が年金制度に十分に取り込まれていないことである。パートタイム労働の期間が長い、あるいはミニジョブでしか就労したことがないために保険料納付額が少ないと、生計を維持するには不十分な年金給付しか受けられない。雇用の種類がたびたび変わった場合、高齢になってからの貧困のリスクが高まる。適切な措置が取られなければ、必要となる上積み移転給付金が公的予算の相当な負担になり、保険料基盤が徐々に崩壊するリスクが生まれることになる。

7 今後の見通し

非典型雇用形態は一貫して標準雇用よりも高い不安定リスクを示す。しかも、一般通念と異なり、こうした雇用が雇用全体に与える影響は僅かだとみなされる場合があり、その結果、規制緩和措置の最終的な評価はあいまいになる。

この結論を踏まえれば、非典型雇用形態に将来どのように対処すべきか、という問題が浮かび上がる。引き続き市場メカニズムを信じ、規制緩和によって非典型なこうした形態を促進すべきなのか? たとえば現連立政権は、ミニジョブについては現状の400ユーロの上限の引き上げと動態化、有期雇用契約については2年の継続期間上限の更なる自由化と、同一就業者との有期契約更新を容認している。

あるいは厳格な政治的規制を課すべきなのか? 後者の選択肢には、上述の社会的リスクを(再)規制によって軽減あるいは除去することが必要になるだろう。ただし、非典型雇用の形態は多様であるため、措置は相当に細分化しなければならず、規制手段に新たな複雑性が生じることになる。

しかし、以下に述べる全般的な規制と立案原則は、これまで分析した不安定リスクの軽減に役立つであろう。これには、同一賃金の原則を実現し、それによって非典型雇用と標準雇用の同一労働間の大幅な賃金格差を埋めることが含まれる。さらに、市場メカニズムが正しく働くとすれば、非典型雇用に伴う相対的に高い雇用リスクの結果としてのリスクプレミアムを期待することもできよう。

ドイツは、法定最低賃金のない数少ないEU加盟国の1つである。労働協約に基づく賃金を適用し、それが当該の業界では一般的拘束力を持つと定めることはできるが、現実にはそのような例はほとんどない。非典型就業者の圧倒的多数が「貧困賃金」、つまり平均賃金の3分の2に満たない額しか受け取っていない。一般的な法定最低賃金を導入すれば、非典型就業者が自らの受け取る賃金で生計を立てられる見通しが向上するだろう。

企業内再訓練を受ける法定または労働協約による一般的な権利が認められれば、雇用見通しが改善されるだけでなく、労働市場の機能も高まると思われる。長期的に見れば、労働市場が深刻な機能不全に陥る現実的なリスクがある。人口動態が変化し、技術的・組織的な領域で進歩が続き、サービス経済への転換が見られる現状は、職業再訓練を必要とする労働力の割合が増えることを意味する。しかし、非典型雇用形態の拡大は、こうした生涯学習の必要性に応えるものではない。これらの雇用形態は、知識ベース社会の発展の助けとはならないのである。

とくに有期労働者と派遣労働者に見られる雇用不安定性の高さを考えれば、不平等なリスク負担を是正するため、一部のEU加盟国に見られる一種の不安定プレミアムを導入することは妥当と考えられる。

今後の改革における3つ目の共通分野は年金関連である。現行制度に適合すると思われる選択肢の1つは、一般課税を財源とする要素、現行の個人が就労期間中に納める保険料を基盤とする要素、そして任意の追加保険の3つの部分からなる解決策への移行である。ただし、この3つ目の追加保険は純粋に個人の意思によるもので、相応の所得水準が必要である。対象がより広範で、かつ従来の制度にとらわれない解決策は、過去の雇用要件に依存せず、一般課税を財源とする最低高齢者年金を導入することである。このような制度の導入については、すでに何年も前から議論されているが、その重要性はますます高まっている。

上述の改革案と組み合わせられると考えられるアプローチの1つに、「フレクシキュリティ」(柔軟性と安全性の両立)という、労働市場規制に関する議論の方向性を変えつつある概念がある。これがめざすのは、柔軟性の拡大を求める企業側の要望と、社会保障の向上を望む就業者側の要望との両立を、これまで柔軟化と規制緩和だけに頼って行われてきた以上に向上させることである。柔軟性と社会保障を統合するこの試みがオランダとデンマークなどのEU加盟国で実施に移されたのを受けて、EU委員会でもこの概念を公式に欧州における雇用政策の一環とすることを表明している。