英国 米国に次いで規制は緩いが、非正規雇用の割合は高くない:
第51回労働政策フォーラム

非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―
(2011年2月25日)

ゲイリー・スレーター氏(ブラッドフォード大学上級講師)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

ゲイリー・スレーター氏(ブラッドフォード大学上級講師)

1 はじめに

英国では、非正規雇用は一般に明確な周期パターンを示す。非正規雇用に関心を持つようになったのは、深刻な不況を背景に、学会や政府が、雇用主が戦略的に従業員を「中核」と「周辺」に分けるようになったと指摘しはじめられた1980年代である。その後、21世紀の最初の10年は、雇用が力強く拡大する中、関心は、非正規雇用が何をもたらすかのほか、その保護と平等な処遇に移った。さらに2008年の金融危機以降、不況から回復を見せ始めるなか、非正規雇用が再び増加する兆候がみられる。

しかし、周期パターンは2つの重要な論点を示唆する。まず、英国では、非正規雇用が構造的な拡大へ移行する証拠はない。第二に非正規雇用が持つ周期パターンから、2008~9年の不況から回復するにつれて、非正規雇用が一時的に増加する可能性が高い。

2 非正規雇用の定義

非正規雇用を定義するには、「正規」雇用とは何かを確認する必要がある。英国の正規雇用とは企業との雇用契約に基づく永続的で常勤の雇用形態を指す。従って、「非正規雇用」とはこれから外れる雇用形態を捉えることとなり、テンポラリー雇用、パートタイム労働、自営業者などを指すことになる。これらの非正規雇用の就業形態は相互に排他的ではない。パートタイム労働が、正社員でも、テンポラリー雇用でも、自営業者でもある場合がある。また、テンポラリー雇用と自営業者のカテゴリーは極めて多様性に富み、その中に多くの契約形態を包含する(有期契約、派遣労働、日雇い、季節雇用など)。

英国では、ほぼ例外なく欧州連合(EU)加盟国としての義務に基づくものも含め、過去10年間に非正規雇用を規制する法律がいくつか導入されている。それにもかかわらず、このような多様性が生まれる理由のひとつとして、英国の雇用制度は寛容的なまま維持されてきたことがある。英国は、米国に次いで、先進工業国の中で、正規と非正規に対する雇用保護法制がもっとも緩い国である。雇用主は非正規雇用の使用について弁明する必要はない。また、派遣社員の雇用に対する制限も現在のところ何もないため、非正規労働者の立場を弱くしている。

規制が緩いにも関わらず、英国では非正規雇用は高い割合を示しているわけではない。雇用者は、非正規雇用契約を用いるまでもなく、正社員の雇用にも高い柔軟性があるため、非正規だけが低賃金というわけではない。

現在は、EU指令に従って、パートタイム労働契約と有期雇用契約はフルタイムの正社員と同じ処遇を受ける権利を有するし、有期契約社員は解雇や整理解雇から保護される権利を放棄できない。また、労働党内閣は1999年に全国最低賃金法を導入し、さらに全労働者に対し不当解雇に対する保護に必要な期間を1年間に短縮した。ただし整理解雇手当ては今でも2年勤務後でなければ適用されない。こうした法改正にもかかわらず、個人の権利を確保するための労働者や組合代表の機能や雇用規則を実施するための国家的インフラストラクチャが限定されているとTUC(英国労働組合会議)は主張している。

非正規雇用は幅広い契約形態を対象としており、「雇用者」と「就業者」の区別を定めた法律の複雑さから、均一に正式な保護がなされている訳ではなく、正規・非正規の区分にぴたりと対応していない。これらの定義から外れる雇用カテゴリーは、基本的な健康と安全に関する保護以外の保護を享受できない自営業者である(一部は労働者としての資格を満たすので混乱をきたす)。

こうした英国雇用法の複雑性は、乱用の被害をもっとも受けやすいテンポラリー雇用の場合、とくに重要な意味を持つ。有期契約のテンポラリー雇用は正社員の地位への道につながることが多いといえるが、派遣社員と日雇いの雇用契約は、雇用保護が弱く、賃金が低いことが多い。

問題は「自営業」でも起きる。TUCは、雇用者が労働者に「偽装」自営業のステータスを受け入れるよう強制するケースが多発している証拠を提示している。これは、被雇用者に自身が設立した有限会社の取締役に就任させ、その会社を通じたサービスを顧客が外注するという形で行われる。彼らは顧客から経済的に独立しておらず、自分の仕事に対する裁量権はない。ある調査によれば、低学歴、短い在職歴という共通点が多く、平均年齢も高まっている。

3 非正規雇用のパターン

英国経済は過去30年間、3度の大きな不況を経験し、高い変動性を示してきた。高い変動性が長期にわたる産業空洞化をさらに悪化させた。弱い競争力と不安定な生産が相対的にも絶対的にも製造業の雇用を減らす結果となった。それに対して、サービス業の生産量と雇用は増加している。1990年代以降の雇用増加の原動力は金融と事業向けサービスのセクターだった。流通、ケータリング、ホテル業、その他サービスも一定の寄与をしたが、1997年以降、行政、健康・教育などの公共部門が、それよりずっと大きな貢献をした。また、この10年の不動産ブームを反映して、08年まで建設業界の雇用も着実に伸びていた。

非正規雇用が拡大したのには、このような背景があった。主要な動向を図1に示した。動向は明確である。近年の不況と回復の遅れによってパートタイム労働が着実に増加し、テンポラリー雇用には何らの構造的傾向はみられず(ただし周期的な変動がみられる)、自営業者は比較的安定的に推移している。とはいえ、性別では、パートタイム労働に占める男性比率の上昇傾向が示唆される。英国では、緩慢ながら、正規雇用からパートタイム労働を主体とした非正規雇用への移行が進展しているという図式がみえる。

図1 被用者および自営業者の形態別比率の推移(1992-2010年)図1 被用者および自営業者の形態別比率の推移(1992-2010年)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所:イギリス統計局データの著者による分析

(1)テンポラリー雇用

テンポラリー雇用の動きは極めて周期的である。テンポラリー雇用の雇用者数は1997年に約170万人(全雇用数の約7%)でピークに達した。これ以降、減少傾向は2009年から反転し、企業業績が不安定化する中で、とくに有期契約、日雇い、派遣労働者で上昇パターンが繰り返されつつある。

テンポラリー雇用のタイプ別の分類は、政府の労働力調査(LFS)に基づいている。同調査は、被雇用者の仕事が臨時的である理由を、有期契約、派遣労働、日雇い、季節労働、その他の理由のいずれかとして特定している(図2)。テンポラリー雇用の減少は、有期契約労働者の減少が主な理由である。一方、派遣労働は引き続き増加しており、08年の金融危機以降、その傾向が顕著となっている。

図2 テンポラリー被用者数の形態別推移(1992-2010年)図1 被用者および自営業者の形態別比率の推移(1992-2010年)/労働政策フォーラム開催報告(2011/2/25)「非正規雇用の国際比較―欧米諸国の最近の動向―」

資料出所:複数年の労働力調査データにもとづく著者の分析

もっとも目を引くのは、1980年代に始まる公的セクター、とりわけ医療・教育での短期有期契約の増加である。民間セクターでは、1980年代初頭以降、低いベースから始まったとはいえ、テンポラリー雇用がほとんどのセクターで増加した。またかつて「終身雇用」という特徴を持っていた銀行や金融などの産業でもテンポラリー雇用が初めて根付いた。

産業ごとのテンポラリー雇用の割合をみると、その構成は、周期的であると同時に構造的な傾向を示す。周期的な傾向としては、これらの被用者に占める製造業のシェアが1990年代半ばの景気回復を受けて急激に増加している。長期的動向としては、近年の総雇用数の増加を牽引した主要セクターである銀行、金融、保険サービスのシェアが小幅とはいえ着実に拡大している。行政、教育、医療のシェアの拡大は、とくに2000年以降、財政支出の拡大を受けてテンポラリー雇用が増加したことを反映している。

職種別にテンポラリー雇用をみると、高い技術を要するプロフェッショナルな仕事と低い技術でよい初歩的な仕事の両方に偏っている。これは、多くのプロフェッショナルなテンポラリー雇用は公共部門(看護士、教師、ソーシャル・ワーカー)に集中し、清掃人、店舗の棚の補充係、ガードマンといった初歩的な仕事は幅広い産業に分散している。個人向けサービス業務もテンポラリー雇用に依存する割合が高い。業務は公共、民間を問わず、低賃金、低生産性セクターに幅広く分散し、1990年代以降に増加傾向にある。この仕事には、准看護師、保育、介護、授業助手、旅行・レジャー関係接客、ヘアドレッサー、美容師、家政婦などが含まれる。

テンポラリー雇用には若年者が多く、30歳以下の派遣労働や季節的労働者、日雇いの比率が高い。また非白人の割合も高く、派遣労働者は最近の移民、特にEU新規加盟国から来た人たちが占める割合が高い。またテンポラリー雇用の労働者はパートタイムの割合が高くなる傾向がある。パートの割合は、常勤労働者が24%であるのに対して、派遣労働者が30%、有期被雇用者が37%、季節的労働と日雇いが83%、その他のテンポラリー雇用が55%となっている。

英国の職場では過去10年間、テンポラリー雇用の労働者の雇用状況に大幅な変化はみられなかった。2004年、30%の職場がテンポラリー雇用者を抱えており、1998年の同種の調査結果の32%からそれほど変わっていない。派遣会社の使用は有期契約ほどには普及していない。全職場の17%が何らかの派遣サービスを利用しているが、この数字は1998年から変化していない。

(2)パートタイム労働

パートタイム労働の増加傾向は長期にわたっている。パートタイム労働の定義は一般に週30時間以下の勤務時間の労働と定義されている。1971年には、パートタイムで働く労働者は6人に1人だったが、2009年までに、4人に1人に上昇した。パートタイム労働は性別が偏ったままで、男性は13%にとどまるが、女性は43%で、パートタイム労働者に占める女子の割合は75%に達する。2004年までに83%の職場でパートタイムが雇用されており、30%の職場で、パートタイムが多数を占めている。パートタイムは圧倒的に女性で占められ、ほとんどの場合、給料は低く、高いスキルを求められず、雇用は不安定となる。そのうえ、パートタイムの約半分が、週労働時間16時間未満の「中途半端な」仕事に就いている。

産業別にみると、卸・小売り、ホテル、ケータリングで割合が高く、労働力の半分近くをパートタイムが占める。公共セクターでは、地域奉仕、健康、教育の分野がもっともパートタイム比率が高い。

職業別にみると、事務職、個人向けサービス、初歩的業務にパートタイム労働が集中している。女性労働者が圧倒的部分を占めるとはいえ、性別分布は職業によって大きく変わる。

男性の場合、販売、顧客サービス、初歩的業務(簡単な小売り業務、清掃、警備業務など)に集中している。女性パートタイム労働者の職業パターンはやや異なり、販売や初歩的業務の他に、事務職、対個人サービスへの集中がみられる。これらの職業とその関連産業の継続的成長が、英国労働市場全体でのパートタイム労働比率の緩慢だが継続的な増加を支えている。

(3)自営業者

自営業者の絶対数は比較的変化が少ない。業種別分布をみると、建設と銀行、金融と保険が全体のほぼ半分を占める。農業と漁業でも、自営業者が占める割合が、被雇用者を大きく上回っている。

自営業者の職業別分布は、専門的職業に高度に集中している。これは建設業や経営職と専門職では熟練したスキルを要する仕事の割合が高いことを反映している。それは、銀行および金融業、行政、健康、教育における自営業の比率の高さが影響している。また、プラントやプロセスのオペレーターの仕事の比率が高く、タクシー運転手や貨物用自動車運転手の多くが自営業の形をとっている。

(4)さまざまな動向

これらの動向について、政府の委託を受けて作成されたRajan et al.(1997)のレポートがある。同レポートは、非正規被雇用者の増加は、雇用主側にとってのコスト削減、労働者側にとっての柔軟性という双方にとってのメリットに起因していると指摘する。その意味では、非正規雇用の活用の高まりは、技術や顧客ニーズ、労働者の要求の急激な変化に対応する企業経営の大きな流れの一環といってよい。本質的に需要と供給の問題である。労働組合の立場からは、 非正規雇用の増加は、 とくに派遣社員と自営業者を用いることで雇用主が労働コストと使用者責任を免れるのを許す労働法制の欠陥の問題と分けることはできない。

この問題は、(労働条件が劣悪になりがちな)小企業が雇用吸収に果たす役割の重要性が高まり、それに伴って、民間も公共部門もますます下請けを使う割合が大きくなり、企業のサプライ・チェーンが長くなることで悪化しているといわれる。下請け業者は、しばしば非正規雇用労働者、とくに派遣や「偽装」請負の自営業者の活用を考える。

4 正社員への移行

英国ではどの程度、非正規雇用が正社員への橋渡しの機能を果たしているだろうか。これに答えるには、検討すべき問題が数多くある。まず、雇用主が非正規雇用契約を「スクリーニング」装置として用いている証拠があるかどうかを検討する。次に、労働者は自ら望んで非正規雇用を選んでいるかなど、労働者が非正規雇用の状況にある理由を検討し、最後に、非正規雇用から正規雇用への移行度合いを検討する。

(1)スクリーニング装置としての非正規雇用契約

英国の雇用主は正社員を選別するための装置として、非正規雇用者を使用していることを、これまで行われた幅広い研究は示唆している。White et al.(2004)の調査は、日雇い、テンポラリー雇用契約、派遣契約が永続雇用契約のつなぎとして用いられる場合があるとの結論を導いている。Grimshaw et al.(2001) は、非正規雇用契約を用いる雇用主についてケース・スタディを行い、すべての雇用主が試用労働者に派遣契約を用いていると報告している。Forde(2001)は、英国で2分野の職業紹介会社8社について調査を行い、そのうちの7社が正式に「臨時社員から正社員へのスキーム」を有していることが分かった。

このケース・スタディの結果は、全国調査の結論、とくにテンポラリー雇用契約に関する結論にも反映されている。しかし、この機能の量的な有意性は限定的なようにみえる。2004年の「職場における雇用関係の調査」(WERS2004)では、有期雇用の契約社員を使用する組織の16%(全組織の4%に相当)が、永続雇用契約のスクリーニング手段として有期雇用契約を用いているとされている。有期雇用契約を用いる企業が4番目に重要な理由としてあげた理由だった(それより重要な理由としてあげられた3つの理由は、一時的な労働需要を満たすため、長期休暇をカバーするため、特別なスキルを確保するためだった)(Kersley et al.,2005)。

(2) 非正規雇用は被雇用者自らの意志に基づくものか?

LFSは1992年以降、被雇用者がテンポラリー雇用あるいはパートタイム労働の仕事を受け入れる理由に関するデータを提示してきた。まず、テンポラリー雇用に関して、自分は正社員ではないと申告した回答者に、テンポラリー雇用の仕事を引き受けた理由のオプションとして、正社員の口を見つけられなかったから(しばしば「非自発的臨時被雇用者」と呼ばれる)と、正社員を望まないから(通常「自発的臨時被雇用者」と呼ばれる)の2つを聞いた。

その結果、非自発的な臨時労働者の比率は、1990年から1991年にかけての不況時の雇用の純増の相当部分がテンポラリー雇用の増加で説明される事実を反映して、1995年をピークとした明確な周期パターンを示している。正社員の職を見つけられないテンポラリー労働者と正社員の地位を望まないテンポラリー労働者の比率の差は1990年代後半に労働市場がタイトになるにつれて縮まっている。2000年から07年の期間は、経済状況が比較的堅調だったことから、非自発的テンポラリー労働者の比率は約25%で極めて安定的に推移する一方、自発的テンポラリー労働者の比率は一貫して高止まりした(約30%)。07年以降、経済不況が深まる中で、非自発的労働者の比率が急激に上昇し、36%にまで達した。

このようなパターンは、性別内訳でも観察される。男性は女性よりも、正社員の口がみつからないためテンポラリー労働者の身分にとどまっていると回答する傾向がある一方、女性は男性よりも正社員の地位を望まないためテンポラリー労働者の身分にとどまっていると回答する傾向がみられる。最新のLFSデータ(2010年8―9月)でその比率をみると、男性の42%が正社員の口を見つけられず(女性は34%)、20%が正社員の地位を望んでいない(女性は26%)。90年代からこれまでを通じて、自発的と分類される男性の臨時労働者の比率は3分の1に満たない。一方、女性の場合、対応する数値が40%を超えたことはこれまでにない。ここから導かれる結論は、テンポラリー労働者の大半はこの勤務形態を自ら積極的に選んでいないということだろう。

ただし、非自発的パートタイム労働の比率が低いからといって、労働者がパートタイム労働を「選んでいる」という証拠には必ずしもならない。英国では、他の多くの欧州諸国と比べて、母親の就業に対する政策面の支援が少ないので、女性は職業選択の制約を受けがちである。職場復帰する女性は、選択の余地が狭められているため、パートタイムを選択することが多いとTomlinson et al. (2008)は主張している。

自営業者を選んだこの期間のもっとも一般的な理由は、独立性の確保(31%)、職業の性格(22%)、追加収入(13%)、機会の発生(13%)となっており、男性の「非自発的な」自営業者の比率は、女性よりも著しく高いが、男性の場合、依然「積極的な」理由が大半を占めている。しかし、労働市場の緩和期であれば、事情はまったく違っていた可能性がある。実際、近年、労働者が常勤の勤務先を失った後、「やむを得なく」自営(とパートタイム)の道を選んでいる例が増えていることを示す証拠がみられるようになっている(Personnel Today,2010)。

(3)正社員への移行の頻度

自発的にではなく非正規雇用の道を選んだ人々が正社員の地位にどの程度の割合で移行できたかを検討するための系統的で一般化できるデータはない。

しかし、British Household Panel Survey(BHPS)のデータを用いて、テンポラリー雇用を終えた後の労働者の行方を詳細に観察したところ、男性の71%、女性の73%が同じ雇用主の下で他の仕事に就いている。新たな仕事が非正規雇用のままのケースもあるが、季節的労働や日雇いのうち、男性28%、女性34%が正社員の地位に移行している。移行前の季節的・日雇い雇用の平均期間は男性で18カ月、女性で26カ月だった。有期雇用契約の労働者の場合、男性の38%、女性の36%が正社員の地位に移行するというさらに良好な結果が観察されている。正社員に移行する前の有期雇用契約の平均期間は、男性が3年、女性が3.5年だった。

Forde and Slater (2002,2005) は、1990年代のテンポラリー雇用からの流出に関するLFSのデータを分析している。同調査のパネル要素を用いて、12カ月間のテンポラリー雇用からの移行を調査している。予想された通り、過去1年間、雇用(テンポラリー雇用と正社員のいずれか)にとどまる比率は1992年の78%から1997年には84%に着実に上昇しており、それに対応して失業に移行する比率は低下している。それでも、1999年までには、数年にわたった労働市場の回復にもかかわらず、1年後も雇用されていたテンポラリー雇用労働者のうち、半分は臨時雇用の状態にとどまるという状況に変化はなかった。1990年代を通して、テンポラリー雇用の労働者が有職のままとどまる傾向は強まったが、テンポラリー雇用のままにとどまる可能性も同様に高まった。

Forde and Slater (2002)はさらに、LFSパネルを用いて雇用、失業、非労働力への年間の移行率を分析して、自営業者、パートタイム労働、さまざまなテンポラリー雇用形態の間の雇用安定性の違いをみた。すると、フルタイムの正社員がもっとも高い1年後継続雇用率を示しており、自営業者がそれに僅差で続いている。有期雇用契約とパートタイム雇用契約の労働者も1年後雇用にとどまっている可能性は極めて高い。派遣労働者は失業に移行する者が多く、雇用率はほとんどの他の形態のテンポラリー雇用よりもかなり低いことを示しているが、この結果は驚きに値しない。

というのも、派遣会社は、顧客企業の需要に直ちに応えるために、「台帳」上、常に余剰人員を抱えるので、多くの人員を不完全雇用の状態に置くからである(Forde,2001)。複数の人材派遣会社に登録することで不完全雇用の機会は小さくなるが、派遣先の不足によるリストからの削除に結びつきやすく、派遣会社の仕事を不完全で不安定なものにする。余剰労働のストックを抱えながら変動する顧客企業の需要に対応しようとすれば、失業への移行を促進する結果を生む可能性がある。

パートタイムの正社員の雇用維持率は、日雇いと派遣に次いで2番目に低い。しかし、その多くは失業に移行するのではなく、完全に労働市場を去る。この事実は、英国におけるパートタイム労働に占める女性の比率の高さ、それに前述した手頃な保育施設の不足による仕事と家事の両立の困難さと整合がとれている(Gregory and Connolly,2008)。

Taylor(2004)は、自営業者からの移行についてさらに詳しく論述している。1991年から2001年の期間のBHPSのデータを用いた分析の結果、1年後に男性自営業者の87%が自営業にとどまり(女性は77%)、9%が雇用され(女性は14%)、2%が失業し(女性は1%)、2%が就職活動を停止している(女性は9%)ことが分かった。

5 非正規労働者に対する平等な待遇

「悪い雇用」とは、低賃金、疾病手当金がない、(国民年金の他に)年金がない、あるいは昇進機会のある内部労働市場に組み入れられていない、のうちの少なくとも1つの特徴を有する雇用と定義してよいだろう。McGovern et al. (2004)による、非正規雇用に関する全国的なデータを用いた調査では、英国の被雇用者の4分の1以上(28.9%)が低賃金で、3分の1超が年金を受けられず(36.7%)、同程度が疾病手当を受ける権利を持たず(36.1%)、半数(51.1%)が昇進の階段を昇る機会が与えられない職業に就いている。この特徴に当てはまる「悪い雇用」に従事していない英国の労働者は4人に1人(27.9%)にとどまっている。正社員に比べると、非正規雇用は「悪い雇用」に当てはまるケースが多くなる。

テンポラリー雇用(パートタイムとフルタイムの両方)がもっとも「悪い」雇用の特徴を持つ率が高く、パートタイムは全般に対応するフルタイムの仕事よりも「悪い」。テンポラリー雇用と有期雇用は、フルタイムの正規雇用との比較で、疾病手当と個人年金の面でとくに見劣りする。かといって、それは必ずしも「悪い」雇用の特徴が非正規雇用の専売特許であることを意味しない。事実、英国では正規雇用の多くでもこの面で見劣りする。

(1)賃金

非正規雇用は低賃金を余儀なくされると広く想定されているが、そのような証拠は存在するだろうか。LFSにもとづいてForde et al. (2008)が作成したテンポラリー雇用に関する比較可能なデータがある。全体的に、どの形態のテンポラリー雇用も正社員より賃金が著しく低い。たとえば、正社員と派遣労働者の時間当たり賃金の差の平均は1時間当たり3.67ポンド(32%の格差)である。有期雇用契約を除いて、賃金格差は明確に統計的に有意である。

しかし、絶対的な賃金差に注目するだけでは十分でない。賃金格差の原因の一部は、資格、年齢、経験年数、業種など、テンポラリー雇用と正社員の特徴の違いに起因する。これらを考慮した分析結果によると、正社員との格差は縮小しているが、派遣労働の平均時間当たり賃金の格差は10%のままである(男性は12%、女性は6%)。それに対し、(法律で平等な待遇が義務づけられた)有期雇用では大きな賃金面の不利益はみられず、男性派遣労働者は、季節的労働者や日雇いよりも大きな賃金面の不利益を被っている。

男性パートに対する女性パートの不利益は11%で非常に安定している。女性の場合、フルタイムの雇用に対するパートタイムの雇用の不利益は非常に小さいが、ここでは英国では女性の賃金は、差異の調整を施した後でも平均して男性に比べ11%低い事実を忘れてはならない。

Manning and Petrongolo (2008)は、女性パートの賃金面の不利益が1970年代半ば以降、増加していることを示したが、女性パートの特徴に帰しうる部分は賃金格差の差の半分でしかないことを実証した。残りは、パートタイムの職が低賃金の職業に集中していることに起因する。

自営業者に関しては、Parker(2004)が自営業者の所得格差は、正規被雇用者の場合よりも大きいとの結論に達した。自営業者の所得分布は上の層と下の層に偏っている。前述したように、職業的にも業種的にも二極化している自営業者のパターンを考慮すると、この現象は驚くに値しない。

(2)訓練

正規と非正規が受ける訓練のレベルと能力開発の機会には大きな差があることを示す広範なエビデンスがある。たとえば、Booth et al. (2002) は、男性被雇用者が業務に関連した訓練を受ける可能性は、他の要因を調整した後で、正社員よりも、有期雇用契約で12%低く(女性の場合7%低く)、季節労働者や超短期労働者で20%低い(女性の場合15%低い)ことを検証している。有期雇用と正社員の間では訓練の集中度に差がみられないが、季節労働者や日雇いの労働者の場合、訓練が行われたとしても、その集中度は正社員より著しく低い。

訓練の面で臨時被雇用者が受ける不利益は、Arulampalam and Booth(1998)も確認している。パートタイム労働についても調査し、男性パートが業務関連の訓練を受けるチャンスはフルタイムよりも7%低く、女性パートが業務関連の訓練を受けるチャンスは女性のフルタイム労働者よりも9%低いと報告している。今後、非正規雇用が増加すれば、スキルの再生産が損なわれる危険がある。

6 結論

英国では、非正規雇用が構造的に増加する傾向が明確に現れている訳ではない。英国のパートタイム労働は40年間にわたって徐々に増加している。最近の不況を受けて(男性についても)パートタイムが増えている証拠がいくつかあるとはいえ、この雇用形態は大部分が女性の予備軍で占められる。これは雇用主側の戦略による訳ではなく、比較的安価な保育の機会が限られる中で女性の労働市場への参加率が上昇していることがこの傾向を後押ししている。

前述したように、直接的な賃金差別だけでなく、職種の分離が、パートタイム雇用に伴う不利益の多くの部分を説明しているとはいえ、EU指令を受けた平等待遇を義務づける規則が導入されれば、劣悪な労働条件の問題はある程度改善されるだろう。

自営業についても、英国でこの形態についての強い傾向はやはり見いだせない。最大の変化はパートタイム自営業者の増加だが、それは、依然、全体のごくわずかな部分にとどまっている。

さらに、自営業者は依然として伝統的な職業や業種に集中している。近年、テンポラリー雇用は多様化が進んでいる。この種の雇用は、(日雇い、有期、派遣など)本来的にさまざまな形態をとりやすいことがその一因である。有期雇用契約(派遣労働もある程度)を牽引してきたのはこれまでは主に公共セクターだった。ここでも、民間セクターの雇用主の戦略に劇的な変化があった訳ではないことが分かる。ただし、テンポラリー雇用セクターの中では派遣労働者の使用が増えており、本稿でも説明しているように、中でも移民労働者の雇用が増えていることを示すエビデンスがある。

同様に、官民両セクターの先行き不安を反映して構造的な動きではなく周期的な動きとして、過去2年間にテンポラリー雇用が増加したことを示すデータがいくつかある。

英国では非正規雇用はしばしば劣悪な労働条件に置かれることを強調した。企業の側が雇用の柔軟性と費用節約を求める一方で、労働者が置かれた状況は悪化しており、両者の間で高まる緊張が規制を巡る議論を呼び起こす。右派政権の誕生と、景気回復後に労働市場に加わる圧力の高まりを背景に議論が再浮上している。