事例報告3 若者自立支援の現場から:
第49回労働政策フォーラム

変化する若者へ向きあうキャリア・ガイダンス
(2010年10月21日)

高崎大介/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

大阪市若者自立支援事業コネクションズおおさか所長 高崎 大介

大阪市若者自立支援事業コネクションズおおさか新しいウィンドウは2008年7月に大阪市の事業としてスタートしました。設立から2年3カ月経った現在、登録者は700人を越えています。新大阪にある相談室には毎日40人ほどが足を運んでくださいます。そのうち8割弱が若者、2割強が保護者です。そういった方々に相談事業や社会参加体験プログラムを行い、参加者が集団の中で話し合ったり、支援者がアドバイスをしたり、あるいは見守るといったことを行っています。

所内ではキャリアカウンセラーをはじめ、臨床心理士、精神保健福祉士、社会福祉士など専門職のスタッフが毎日のように個別のケースについて話し合っています。各スタッフがそれぞれの守備範囲を理解したうえで、連携しています。その中で大事なことは支援について共通の見通しを立てて、支援を受ける若者ともそれを共有しながらプログラムを進めていくことです。

親御さんとの連携も必要なので、保護者相談やセミナーを毎週開催しています。若者がひきこもって外に出られない場合は、パンフレット(以下写真)を本人に届けてもらうなどするためです。

さらに学校と連携して、「キャリア出前セミナー」を開催しています。いったん学校を卒業したり退学すると社会との接点が持てないまま5年、10年と過ぎてしまうケースも多いことから、私たちが在学中に足を運び、顔を見せることで、コネクションズおおさかのような支援機関があることを頭の片隅にでも置いてもらうという意味があります。

最近必要だと感じるのは「働き続ける」ための支援です。私たちの支援を受けて就職された方でも、やめようかどうか毎日ギリギリのところで仕事を続ける方もたくさんいます。そういった方が居場所を求めて、コネクションズに足を運ぶケースも多くみられます。ジムやカルチャーセンターが居場所になる場合もありますが、話を聞いてくれる大人がいると、話せる時間が1つの居場所になるのではないかと感じています。

一歩を踏み出せない若者たち

これまで出会ってきた若者たちには、ニート、フリーター、ひきこもりも大勢いました。実はフリーターから、ニート、ひきこもりへの段階はつながっており、気がついたら、ひきこもっていたというケースはよく見られます。例えば、アルバイトでつなぎながら生活しているフリーター状態の若者が、次のバイトが見つからずに立ち止まってしまい、やがて「ニート」と呼ばれる状態になってしまう場合があります。職を探そうにもハローワークや面接に行くには交通費が必要なので、そのうちお金がなくなって、家から出なくなります。その状態が半年以上続くと、外に出て働こうにも一歩が踏み出せなくなってしまう。これはある若者が言っていた言葉ですが、踏み出せずにいる状態が続くと、「一歩が地球と月の距離ぐらいに感じられる」そうです。

そうなると、一歩を踏み出すために第三者の力を借りる必要が出てきます。そのための支援は、私たちの事業もそうですが、コストではなく、社会的な投資と考えるべきだと思います。私自身、若者が働き続けることで大阪が元気になればと考えながら、事業に関わっています。

就職を阻む様々な要因

若者の就職を阻む要因は本当に人それぞれです。若者に動き出せなくなった理由を聞いてみても、「何となく」とか「いつの間にか」といった要領を得ない答えが返ってくることが多く、何かの出来事がきっかけでというのはむしろ少数派です。「気がついたらそうなっていた」という答えのほうが圧倒的に多く、つかみどころがないからこそ、この問題は非常にやっかいなのではないかと感じています。

ただ、支援者としての立場からみると、就職を阻んでいる直接的な要因として、今までのご報告にもあったとおり、1つは社会経験の不足があると思います。そしてもう1つはコミュニケーション能力の問題です。彼らは自分が思っていることや感じていることを言葉にしたり、書いたりすることが非常に苦手です。

例えば、最近、事業で出会った若者を職場体験の受け入れ先に連れて行く途中、私がフリスクを取り出したところ、彼は「それは何ですか」という。彼は6年間ほど家に引きこもっていたので、それがどういう商品なのかまったく知らなかったのです。彼は駅で切符を買うにも非常に苦労しています。社会と距離ができてしまったがために、私たちの想像が及ばない困難を抱えているのです。

若者が必要とする支援ですが、一言で言ってしまうと、「居場所の提供」だと思います。私たちのような支援事業を行っている人たちがいう意味での「居場所」よりは、もう少し広い意味で、自分を認めてもらえる場所であったり、話を聞いてくれる場所が必要です。

その居場所ですが、職場と家以外にも1つ以上あると、若者の精神的安定にもつながることに気付きました。何かの事情で居場所を失っても、他に居場所がいくつもあれば動じることはありません。精神的にギリギリで仕事を続けている若者にとっては、家と職場以外に居場所がないため、自分の不安定な部分を一緒にケアしてくれる大人の存在が必要だと感じます。

最後に支援の事例を2つお話します。一人目は20代の男性で、大学を卒業後、しばらくフリーターを続けてから、徐々にニート状態に流れてしまって、動きだせずにいました。彼は自己肯定感が著しく欠如していて、自分の状態を正当化するための理論武装をしている。たとえば、何かに失敗すると、その理由を無数に並べることができます。

それを切り崩すためには、色々な体験を通じて、自信を積み重ねていくことが重要ではないかと思い、実際、さまざまな職場に連れていきました。

ある職場で、喫茶店のオーナーが仕事時間中、合間を見つけてはタバコを吸っている姿をみて、彼は「社会人が仕事をさぼっていいのか」と衝撃を受けていました。彼は朝9時から5時まで休まず完璧にこなすのが仕事だと思っていたからです。

また別の職場では、彼が映画上映のイベントの手伝いを体験する機会がありました。会場が寒かったので、彼は気を利かせて、お客さんに毛布を手渡したところ、非常に喜ばれました。帰り際にもそのお客さんに「毛布を貸してもらったおかげで楽しく映画を観られました」と声をかけてもらい、それが彼にとって大きな自信となりました。

彼が一番変わったのは、地域のイベントに参加した時です。顔見知りの参加者同士が会話をする輪にどうしても入っていけなかったのですが、悔しい思いをした彼は、その後、自分から動き出して、人が変わったかのようにアルバイトを始め、今も続けています。

大阪市若者自立支援事業「コネクションズおおさか」/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

ネットワークによる支援

もう一人は関係機関とのネットワークの中でつながったケースです。30代の男性で、10年間ほどニート状態が続いていました。途中何度も面接を受けたのですが、1つも受からず精神的にも非常にしんどい状態になってしまいました。彼はメンタル面で自分に何か問題があるんじゃないかと考えて、医療機関を受診したり、精神障がい者福祉手帳の取得を考えたりもしました。

彼はそれまでジョブカフェやハローワークの方々からの支援も受けていましたが、どうしても仕事が決まらない。そこで、私たちと彼らの三者がこの男性の支援に向けて、話し合う場を設けました。その時は、正直、私たち自身も苦しみました。

しかし、たくさんの大人が一緒に暗中模索して、試行錯誤したことは、もしかしたら、彼にとって支えになったかもしれません。

支援のネットワークは若者を支えるためにあるのはもちろんですが、私たち支援者自身のためにもあるのだと思っています。ネットワークがなければ、支援者の一人が倒れてしまうことだってありえます。1つの支援機関でできることは非常に限られています。

自分たちの守備範囲を踏まえたうえで、ここまではできる、ここから先は私たちではできないけれど、他にできるかもしれない支援機関を知っているので紹介できるかもしれない、といった具合に、個人的に紹介できる先をどれだけ知っているかということも支援の力につながるのではないでしょうか。

以上、私たちの取り組みを簡単にご紹介してきました。気付かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、高校生向け、大学生向けの支援と私たちの支援は互いにつながっているのではないでしょうか。