議事録:第11回JIL労働政策フォーラム
欧州は若年失業・無業とどう戦ってきたか
―わが国の若年政策へのインプリケーション―
(2003年1月22日) 


目次


講師プロフィール

(所属はフォーラム開催当時)

F. Siebern-Thomas(フランク・S・トーマス)

European Commission, Employment and Social Affairs DG, Unit A1, Employment Analysis。2000年にエコノミストとして欧州委員会の現部門に入職。

Hans-Ake Antonsson(ハンス・オケイ・アントンソン)

Development Director, National Board for Youth Affairs, Sweden。1993年雇用政策担当、97年国際担当のDirectorを経て現職。

D. H. Whittaker(D・ヒュー・ウィッタカー)

同志社大学マネージメントスクール教授。英国ケンブリッジ大学東洋学部助教授をへて現職。主な著書にSmall Firms in the Japanese Economy (Cambridge University Press, 1977)など。産業社会学専攻。

中村 正子

厚生労働省職業安定局業務指導課課長補佐。1990年労働省(現厚生労働省)に入職。OECD(経済協力開発機構)事務局などを経て現職。

小杉 礼子

日本労働研究主任研究員。主な編著書に『自由の代償――フリーター』(日本労働研究機構、2002年)など。教育社会学専攻


はじめに(小杉礼子・日本労働研究機構主任研究員)

欧州の水準に近づいた日本の若年失業率

まず、今日のフォーラムのねらいについてお話しします。

失業率の各国比較の図(図表1)(PDF:15KB)をご覧ください。ヨーロッパの失業率は、最近はひどく下がっていますが、ここ20年ぐらいの期間で見ますと、日本よりもずっと高い水準で推移してきております。1970年代に大きな上昇があり、その後、80年代後半にいったん下がって、90年にまた上がる。それが90年代後半から大きく各国とも下がってくる。こういう大きな変更を示しております。

これを日本と比べますと、日本の若年者、24歳以下の失業率は、ヨーロッパに比べてずっと低い水準で来ました。それが90年代に入ってから上昇を続けまして、今ではヨーロッパの水準とあまり変わらないところに位置するようになった状況です。

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欧州ではどのような対策がとられてきたのか

今回のフォーラムのねらいは、端的に言えば、日本よりも早くから若年失業を繰り返し経験してきたヨーロッパで、どのような対策がとられてきたのかを教えていただき、日本の議論の中でどれほど使える部分があるのか考えたいということです。

特に90年代後半は、EUとして、若年失業問題の対応が進んできた時期です。1997年、ルクセンブルグの雇用サミットでEUの雇用指針が示されました。失業対策に大きなウエートを持った指針ですが、中でも若年者に対しては具体的な提案がなされています。1つ例を挙げますと、加盟国は2002年末までに若者の失業者に対して、失業6カ月以内の期間に、例えば訓練とか職業指導など何らかの対応をとる。そういう政策が具体的に示されています。

加盟各国は毎年、この指針に沿ってどんな政策をとったのか、その効果はどうだったのかを報告します。そして、EUの理事会は出された報告を吟味して、新たな勧告という形で各国に提供する。このようにEUでは各国の雇用政策について比較検討を行い、政策の評価を繰り返してきております。

それでは、EUではどういう対策をよいと考えているのか。そういう点まで教えていただけるのではないかということで、今回、EUで各国の政策の分析を実際に担当されているトーマスさんにお越しいただきました。これが今日のねらいの第1点目です。

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若者の失業をどうとらえるか

第2点目は、より本質的な問題として、EUから学びたいことがあるという点です。それは、こうした指針の背景にある若者の失業をどう考えるかというとらえ方についてです。90年代初めから欧州のグリーンペーパー、ホワイトペーパーなどに繰り返し出てくるのが、仕事というものについての考え方です。そこでは、仕事というのは単にお金を稼ぐ手段ではなく、「社会と個人をつなぐ」、つまり、「仕事を通じて人を社会に統合していくものである」という考え方が一貫して示されております。

仕事というものに対してそういうとらえ方をしたとき、若者の失業というのは、単に、今仕事がないという以上の問題を持ってきます。つまり、若者が仕事につけないということは、「社会の中から排除される」、「社会の中に自分の位置づけを得られない」という意味を持ってくる。そして、社会の中の構成員となっていくプロセスを奪われるという事態になるわけです。

そうなると、単に、「仕事を探しても得られない」という状態だけではなくて、「無業」という状態、「仕事がない」という状態自体がやはり大きな問題になってくる。労働市場に参加しないインアクティブな状態というのが、若者の問題の中で重要な対策をとらなくてはいけない対象となってくるわけです。とりわけ、在学もしていなければ、就業もしていない若者たちが、政策の対象としてかなり意識されているのではないかということが読み取れます。

日本の今の若者の状態を考えますと、失業率は10%程度で、「そこそこヨーロッパ並みになってきたな」というレベルに見えるかもしれません。しかし、そういう「自立に向かってのステップ」というところではどうなのかというとらえ方をしますと、例えば、学卒時点で高卒者の10%が就業も進学もしていない無業状態ですし、大卒者になりますと、統計上では20%以上がそういう状況にあります。

あるいは日本の場合、パートタイムやアルバイト労働は「スキル形成のない、キャリアにつながらない労働」と切り離されて考えられますけれども、そういう労働につく若者が、24歳以下では2割を占めています。

さらに言えば、社会的な接触さえ絶ってしまっている「引きこもり」という状態の青年が60万人から80万人もいるといわれます。こういう若者の全体像を、失業という問題だけではなくて、「社会への自立プロセスの中での問題」という形で包括的にとらえる必要があるのではないか。ヨーロッパの対策では、「若い時期が将来にわたってどういう意味を持つのか」ということに対して、言うなれば社会哲学のようなものがあり、それを背景に一貫したぶれないものを持っているのではないか。その辺のところもぜひ今回のフォーラムの中で知りたいと思っています。

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スウェーデンとイギリスの取り組み

若者の自立を進める政策として非常に注目されているのがスウェーデンだと思います。スウェーデンでは、若者の失業や雇用というよりも、若者対策、あるいは青年政策という意味で、全体として若者の状態をとらえる対応をしております。その国家レベルの実務担当者であるアントンソン氏に今日は来ていただいております。スウェーデンでの若者への取り組みを広い視野から、さらに、その中の特に雇用に対する対策について具体的なところを教えていただきたいと思っております。

さらに、今日はイギリスについても取り上げたいと思います。イギリスでの若者支援の政策は最近いろいろな本で取り上げられ、ニューディール政策という名前がかなり知られたものになっています。それについて、「現在何をやっているか」だけではなく、「ここ20年にわたる政策の起伏の中で、それがどういう位置づけにあるのか」、さらに「その限界は何か」ということを含めて、日本とイギリスの両方をよく知っているウィッタカー氏からお話をいただきたいと思います。特に日本の若者についても、ウィッタカー氏は教えていますのでよく知っていらっしゃいます。そういう意味では、日本へのインプリケーションというまとめもしてくださるのではないかと思います。

最後に、厚生労働省で若年者雇用対策を中心に担当されている中村さんから、日本の現在の若者の状態と対応策についてお話しいただきたいと思います。

一連の発表が終わった後で、国際比較という点から、若者に対して有効な対策は何かということを議論したいと思います。

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欧州における若年者雇用の経験
(フランク・S・トーマス,欧州委員会雇用社会問題局エコノミスト)

「これだったらうまくいく」という対策はない

私はEUの雇用社会問題DGで仕事をしております。担当している部署では、「欧州における雇用」という年次報告書を作成しています。毎年12月に発行されるもので、その労働市場情勢報告の中に青年、若者の状況も含まれております。

まず申し上げておきたいことがありますが、私自身は青年の雇用政策について、EU各国のお話をできる立場にはありません。したがって、個々の国の具体的なご質問にはお答えすることができないかもしれないということです。2つ目の点ですが、一連の政策で、「これだったらうまくいく」というものはありません。「これだったら非常によい」、あるいは、「若者のための労働市場が達成できる」というものはないということです。
以上を前提にした上で、欧州の青年労働市場について広い見方をしてみたいと思います。もちろん、個々の国の状況はかなり異なりますし、政策も違う。教育制度もかなりそれぞれの国で違います。このことは後でディスカッションできるかもしれません。私といたしましては、非常に幅広い形で、そして一般的な見方、トレンドという形で、雇用に関連したEUの政策をご紹介したいと思います。話の中では、若者の状況が各労働市場でどのようになっているかということもカバーできるかと思います。

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もし25歳に若返ることができたとしても・・・

さきほどのご紹介の中にもありましたが、欧州では近年、若者の失業問題にかなりうまく取り組んできました。そこで、まず指摘したい疑問点があります。欧州の今の実状はどうかということですが、(EU雇用社会問題担当の)アンナ・ディアマントプル委員長は報告書(『欧州における雇用2002』)の前文で次のように言っております。「この報告書は、ヨーロッパにとって非常に困難な時期に発表された。なぜならば、雇用や経済のパフォーマンスに関して、全世界的に見通しが深刻で不透明な状況に直面しているからである」。
しかしながら、今日は以前と比べてずっと不確実な状況にうまく対応できるような準備が整っていきています。そして、共通通貨、ユーロも成功裏に導入され、EUレベルでの政策のコーディネーションも、雇用戦略に関してとられています。これは朗報だと思います。雇用のパフォーマンスに関して、欧州の労働市場はよい状況だと思います。不確実さはありますが、過去に比べると状況はよくなっている、対応しやすくなっているということが言えるかと思います。

次に、リチャード・フリーマン氏の発言(1999年)を紹介しましょう。彼は青年の雇用に関するOECDの本で、以下のように書いています。「もしあなたがだれかに、25歳に若返ることができる青春の泉、不老長寿の薬を与えよう、と言われたら、多分それを欲しがるだろう。もっと健康になるし、徹夜でパーティーもでき、次の朝も全く問題がない。そして、髪の毛も薄くならない。お腹も出てこない。ただ、1つだけデメリットがある。若くなると、労働市場の展望だけは悪いものになってしまう」。こういうことを言っているわけです。

ここから始め、この20年、30年を振り返ってみたいと思います。今日の若い人々の労働市場は、ヨーロッパでも日本でも同じだと思いますが、過去よりも状況は悪くなってきています。しかし、ある程度よい進展もありますので、それをさらに伸ばし構築しなくてはいけません。

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EU各国のグループ分け

今日は5つのパートに分けてお話ししたいと思います。それは、「ヨーロッパの若者の事実」、「青年労働市場」、「EUレベルの雇用政策」、「一部のEU諸国の青年雇用政策」、それから「若者の政治レベルでの参加」です。

特に、今回は主催者から「EUといっても地域によってどのように状況が違うか」ということにも触れてほしいという依頼を受けましたので、次のように分けてみました。まず、「大陸諸国」でドイツ、フランスが入っております。「地中海諸国」はイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャです。「アングロサクソン諸国」が英国、アイルランド。「北欧」が、デンマーク、スウェーデン、フィンランド。そして、これも重要ですが、まもなく拡大される中に含まれる東欧などの新規加盟国があります。こういったグループ分けは、後ほどのディスカッションのために覚えておきたいと思います。ただし、それぞれのグループにおいても、特定で固有のこれと決まった労働、雇用市場があるわけではなく、もっと複雑な状況があります。

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欧州の若者の現状と労働市場

(1)労働力人口の減少と教育水準の向上

まず、幾つかのデータを見てみます。最初に人口動態ですが、日欧でそれほど大きな差はありません。ヨーロッパでも高齢化が進んでいます。そして、若い人々の割合が、これから数十年の間に下がっていきます。
それから、職業訓練、教育に関してですが、ヨーロッパではアップスキルのトレンドがどんどん続いていきます。これは、より多くの人々が高等教育、大学教育を受け、高いスキルを持つようになるということです。同時に、教育からの「脱落率」もそのまま高く推移します。20?25%の人々が、基礎的で正式な資格なしにとどります。

一方、一般教育と職業訓練、この2つのバランスの問題があります。後でまたお話ししたいと思います。

それから、学校から職場への移行の過程ですが、過去に比べて、いろいろな移行の仕方が出てきております。ファミリーライフを持つのも遅れてきています。
こういった中で、若者にとって労働市場の状況が困難になってきております。全労働者に占める若者の割合は1988年の20%から2000年には14%に下がっています(図表2)(PDF:16KB)。このように、労働力と就労年齢人口はこれから数年間下がっていきます。

次のグラフ(図表3)(PDF:16KB)は教育達成水準ですが、ヨーロッパ各国ではここ数年間、改善しています。若い世代では、ハイスキルの人々のほうがロースキルの人々よりも割合が多くなりました。

労働市場のトレンド、一般的な雇用情勢といたしましては、1996年から2000年の間に1,200万の新規の仕事が創設されました。そして、800万より多くの人々が労働市場に参加しました。雇用率は全体で64%、女性で55%です。しかしながら、青年と高齢者は低目で40%くらいです。失業率は全体で7.4%。青年では14.9%です。これも減少はしております。

若者の雇用情勢について注目すべきは「教育の参加率が高まってきたけれども、特にパートタイム労働の参加率も高まってきている」ということです。パートタイム雇用とは、1週間で40%未満の労働です。20?25時間ぐらい、場合によっては、20時間未満というのも入ります。

また、職業訓練の継続やキャリア展望へのアクセスが、ばらついてきているということもあります。

さきほど、日本の青年の状況について紹介がありましたけれども、ちょっと意外でした。と言うのは、日欧の状況が非常に似ているということです。日本の若者の失業率は約10%ということですが、2000年、2001年のヨーロッパで若者の失業率は15%でした。したがって、かなりヨーロッパのほうが高目だと思います。にもかかわらず、ヨーロッパにはプラスの面があります。政治的なレベルにおきまして、より高齢の労働者にフォーカスが当てられるようになったのです。
ヨーロッパの観点から言うと少し意外な面もありますが、統計を見ますと、ヨーロッパはある程度よい兆しがあっても、客観的には日本よりも悪い状況にあると思います。今日でも、まだEU15カ国で300万以上の人々が失業しています。27カ国だと450万以上です。ほとんどの国におきまして、ただしドイツは例外ですが、青年の失業率はほかの年齢群と比べて高目です。

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(2)若者と高齢者の雇用はトレードオフの関係にあるか

ヨーロッパで青年の失業率は2001年以来増大してきましたが、これは経済的な情勢が悪くなってきた中でのことです。EUと米国、日本の雇用率を示した図をご覧ください(図表4)(PDF:15KB)。下の線がEUですが、近年は上昇、増加してきています。ただ、日本やアメリカとの格差はまだかなり大きく残っております。

雇用率を年齢群で分けて見ますと、重要な差が認められます(図表5)(PDF:11KB)。ヨーロッパはアメリカに立ちおくれています。若者であっても、高齢者であってもそうです。また、ヨーロッパでは高齢者の雇用率が低く、このため高齢者の政策に重きが置かれているわけです。EUでは2010年に高齢者の雇用率を50%にするというターゲットを設定しています。そして、定年退職の年齢を平均で5年引き上げる。若い人々に関しては、このような雇用率のターゲットは設定されておりません。

それでは、青年と高齢者の雇用率はトレードオフの関係にあるのでしょうか。若い人々の雇用率が高まったと同時に、実は高齢者の雇用率も上がってきたというのが近年の状況ですので、トレードオフの関係にないということがわかりました。ただし、国によってパターンが違うということもわかります(図表6)(PDF:14KB)。若者も高齢者も雇用率が低い国、例えばフランスやイタリアといった国もありますし、反対にデンマークや英国では若者も高齢者も雇用率が高いのです。

そして、スウェーデンの場合、日本もそうですが、若者の雇用率は比較的低く、高齢者は高い。逆に、ドイツやオーストリア、特にオランダでは若い人が高く、相対的に高齢者は低い。したがって、こういった国々である程度、高齢者と青年の雇用率がトレードオフの関係にあるようです。

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(3)パート労働の増加

全体の失業率を見ますと(図表7)(PDF:16KB)、EUはまだアメリカや日本よりも高いわけです。しかし、以前より伸び率は下がってきました。

特に若者はどうかということですが、この図は若い人が何歳で労働市場に参加するかを示しております(図表8)(PDF:12KB)。大体19歳~20歳で、欧州の若者の半分が労働市場に参加しています。ただし、やはり国によって大きな違いがあります。職業訓練の強い仕組みを持った国、例えば、ドイツやオランダ、英国では19歳の半分ぐらいが労働市場に参加します。東欧などではもっとずっと後になってからです。

近年の傾向といたしまして、若い人々の労働市場への参加率が上がるとともに、パートタイム労働への参加率も上がってきました(図表9)(PDF:12KB)。2001年では、働いている青年のかなりの部分がパートタイム労働に就いています。これは単に、教育も受けなくてはいけないが、同時に働かなくてはいけない状況があるというのが1つの理由です。やはり国によって大きな格差があります。オランダでは非常にパートタイム労働が多い。人口全体でも多いのですが、雇用されている若い人の60%がパートタイム労働です。そのうちの半分は、学校にも行かなくてはいけないという理由で、パートタイム労働に就いています。ドイツでは、このシェアは低くなります。これはシステムが違うということでありますので、また後でお話しいたします。

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(4)労働参加率は教育訓練の充実した国で高い

次に若者の参加率を加盟国別に見ていただきたいと思います(図表10)(PDF:12KB)。ごらんのように、国によって3分の1から3分の2という形でばらついております。参加率が最も高いのはオランダです。それから、イギリス、スカンジナビア諸国、ドイツ、オーストリアなどが続いています。

次の図(図表11)(PDF:12KB)では、ある程度興味深い関係が見られます。つまり、労働市場への参加率が、キャリアの見通しや、「どのくらい企業内に社内訓練があるか」ということと関係してくるということです。この図には将来の加盟国も入っていますが、非常に顕著な違いが加盟国との間に見られます。つまり、スカンジナビア諸国やオランダなど労働参加率が高い国々では、企業内訓練も多く提供されていることがわかります。

その次の図(図表12)(PDF:12KB)は青少年の失業率を見たものですが、全体の失業率との比較図になっています。初めにも申し上げましたように、若年の失業率が全体より高いというのは、すべてのEU加盟国で見られる状況です。ドイツでは両者が接近しているかもしれませんが、ほかの国よりも高い水準になっています。

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(5)若者の失業率は再び上昇

では、若年者の失業率について最近の進展、トレンドの変化を見ていきましょう(図表13)(PDF:17KB)。2001年度を見てください。1996年あたりから若年の失業率はかなり減ってきておりましたが、2001年以降、若年の失業率が再び増大しています。特に若い男性の失業率がまた増え始めました。

この背景には、近年、最も雇用をつくり出してきた産業部門であるサービス部門やICTなどの分野で雇用が減った、あるいは伸び率が鈍化したことがあると言えます。つまり、雇用が減った、成長が鈍ったということが、若い人の失業率の伸びにつながったことがわかります。

この図(図表14)(PDF:12KB)はEU加盟国における失業率を比較したものです。1つ注意を喚起したいのですが、それは日本とヨーロッパの状況は似ているということです。EU加盟国を見ていきますと、非常に多様性に富んでいます。例えば、オーストリアやオランダなどでは若年の失業率は6%ですが、25%強というギリシャやイタリアといった国もあります。また、ほとんどの国で、女性のほうが男性より若年失業率が高い。特にスキルの低い女性や障害のある人、EU外から来た人などの失業率が高いのです。

これは、若年人口に占める失業比率、つまり、その年齢群における失業者の占める比率です(図表15)(PDF:12KB)。労働人口全体ではなく、ある年齢群(15?24歳)における比率です。教育制度の違いも考慮されていますが、ごらんのように、イタリア、ギリシャ、フィンランドなどで若年の失業率が高いことがわかります。

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EUレベルの若年雇用対策

(1)雇用指針の採択

次は、EU全体の話になります。1990年代におきまして、政策協調が進められました。雇用政策で欧州全体の協調が進められたわけです。その背景には、欧州連合の条約の変更が90年代半ばに起こり、その中で、具体的な形の雇用に関する条項が含まれたことがあります。そこでは雇用が共通の懸念の対象となりました。ですから、加盟国の合意が取りつけられまして、雇用問題に関しては一緒にやることになりました。これは初めてEUレベルで雇用問題に関する法律の根拠ができたということです。

雇用政策は非常に国の責任であり続けております。しかし、欧州レベルで条約、条項ができました。これは97年のルクセンブルグサミットで、欧州の雇用戦略という形で同定されたものです。これには、毎年モニタリングするというプロセスが含まれます。そして、雇用政策について欧州全体で協調しよう、調整しようということで、いわゆる雇用指針が採択されました。指針の中では、一般的な目標が雇用政策に関して採択されておりまして、すべての国々にそれが適用されます。

第2の段階といたしまして、加盟国はこれらの政策指針に関して、「国の行動計画」という形で対応しなければいけません。その中で、具体的な政策アプローチやプライオリティーについて書かなければならなくなっています。

第3には、こうした国の計画は欧州委員会に提出され、そこで評価が行われます。そして、欧州委員会は「共同雇用レポート」という評価報告書を書きます。そこでは、いわゆる勧告を伴うことがあります。勧告は具体的に一定の加盟国に出されます。例えば、「このところはあまりうまくやってないからこうしてほしい」という勧告が盛り込まれるわけです。

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(2)失業後半年以内に再就職のチャンスを

欧州の雇用戦略で最初から非常に傾注しているのが、若年者の雇用についてです。最初の2つの指針は特に若年者に傾注したものです。指針の1には、例えば、「どのような失業者にも新しいスタートが提供されなければいけない」ということが書かれています。そして、失業後6カ月以内、特に若年者の場合にはチャンスが与えられなければならない。ここには予防という概念が入っております。第2の指針は、「各国は積極的な措置をとらなくてはいけない」というものです。教育、訓練、研修などの措置を、少なくとも長期失業者の2割に提供せよと書いてあります。そのほかの指針では、教育制度の改善などを要請しております。特に若い人の教育の改善です。
2000年のEU理事会では、新しい戦略づくりとして、「リスボン戦略」がうたわれました。その趣旨は中期戦略でありまして、欧州の社会モデルを近代化しようとしております。それによってヨーロッパが地域経済に移行できるようにする。そこで幾つかの目標を定めまして、雇用のターゲットも決められました。そのほかの目標としましては、中退などで学校に行っていないような若い人たちを2010年までに半減しようということがうたわれております。
最近、この雇用戦略に関して中期評価が行われております。その中で、「加盟国に政策の影響が出たのか」ということがわかっております。また、「とくにどの加盟国で若い人に影響があったか」ということも検討されております。

もう1つの手段といたしまして、これは雇用問題が対象ですが、ヨーロピアン・ストラクチャー・ファンド(ESF)があります。加盟国が協力しながら資金を拠出するものです。政策のイニシアチブの中で、特に若者向けにやろうということになっております。例えば、基金の4分の3くらいのお金が若い人向けに充てられます。

ヨーロピアン・エンプロイメント・サービス(EURES)というネットワークもあります。ここでハーモニーをとり、異なった加盟国の教育の結果を考慮した上で、特に若い人を助け、仕事を見つけてあげます。また、ほかの加盟国でも雇用が見つかるように支援します。

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ドイツの特異性

最後に、一定のEU諸国の雇用政策について触れたいと思います。先ほど申し上げましたようにあまり具体的に細かく言うことはできませんが、2つの国に触れたいと思います。

特に注目していただきたいのはドイツのケースです。しばしば、ドイツは特定の例であると考えられております。職業訓練や研修の状況はヨーロッパの各国でばらばらですが、ドイツは非常に特別です。つまり、アプレンティスシップという徒弟制度のようなものがあるわけです。若い人たちの約7割は、学校を卒業した後に、こういったアプレンティスという徒弟になり、そこで仕事関連の訓練を受けます。3年ぐらいの契約で訓練生になり、職業訓練を受け、経験を積む。学校教育も並行して行われ、3年間ぐらいは学校にも行けます。そこで、よく認められたプロフェッションの資格を得ることができれば、プロとしての資格認定につながります。
ほかにもオーストリアやオランダなど同様なシステムを持つ国がありますが、そこでも仕事ベース、あるいは学校ベースで、非常に強力な形で職業訓練の側面に力が注がれています。

逆に極端な違う例として、日本のように一般教育に力を入れ、労働市場に入ってから職業訓練が行われる国もあります。南ヨーロッパ諸国などは日本と似ているかもしれません。

先ほど申し上げましたように、若い人の雇用政策に1つの解決策、処方せんはありません。「何をすべきか」というのは、一様には言えないのです。例えばドイツの場合、非常に特別な仕組みになっておりますので、それなりの影響が出てくるわけです。これは、若年者の政策にも影響が出てきます。つまり、ドイツでは社会パートナー、雇用者や企業などの側に依存しております。こういった制度のもとでは、若い人の雇用政策は、第一の段階として、雇用者、使用者を説得する必要があるのです。使用者をとにかく説得して、「若い人を雇って訓練させる必要がある」ということをわかってもらわなくてはなりません。具体的な、短期的な雇用のニーズだけではなく、さらに若い人を育成する必要性を企業に訴えるということもあります。

それからドイツの場合には、東ドイツという状況があります。旧東ドイツの使用者側のベースでは、教育があまり十分ではありません。そこで、徒弟制度で若い人をちゃんと訓練することに関して、やはり補完が必要です。つまり、補助金を若い人の雇用に与えるなどの措置が旧東ドイツでは必要です。

また、ドイツの場合にもう1つ出てくるのが、税金を使用者に課すという話です。つまり、「若い人に訓練をしないような会社には増税する」というものです。

それは「訓練は経済全体に対してメリットがある」ということであり、短期的な制約によって社内訓練をしない、制度に貢献しないような会社に関しては、もっとほかの形で社会にお金を出すべきだということで、税金の話が出てくるのです。

フランスの場合ですが、雇用戦略に関して中期評価が行われており、そこで具体的なプログラムがうたわれています。それは若い人へのサービス、若い人向けの雇用というプログラムです。若い人を助けるため、労働市場に参入できるようにする。特に新しいサービス部門、そこには文化活動やスポーツなども含まれますが、そういう部門での雇用です。それから、若い人にチャンスを与えて、必要であれば自営業にもなれるようにするというものです。

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国によって異なる背景

さらに詳しくは今日話しませんけれども、こうしたアプローチは、ほんとうに国によって違います。いろいろな国によって、違った教育制度があり、仕事に移行する仕組みも違う。徒弟制度もあれば、一般教育、普通教育、職業訓練校の制度、あるいは教育水準の違いもあります。労働人口に関しても、全体として経済の状況に関しても、各国によってばらつきがあります。

こうしたいろいろな要因が、すべて若年者の失業統計に反映されているのです。例えば、オランダは近年、経済がとてもよく、若い人のパートの労働比率が高いわけです。幾つかの国に関しましては、教育制度に依存しています。先ほどドイツの例について述べましたが、ドイツでは、若い人の失業率と全体の失業率との関係が比較的同じで、似ています。近年、改善が見られましたが非常に小さなものであり、それは、やはりドイツ経済がよくなかったからだと言えます。ドイツはEUの中でも徒弟制度など特異の制度を持っており、非常にこの制度の機能に依存しています。つまり、制度の短期、長期の改革をどうするかということでも、必ずしも長期と短期で同じようにはいかない。こうしたことから、ドイツでは改善がおそかったということです。

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EUへの若者の提言

EUレベルでは、若い人たちのために政策をつくるのではなく、彼ら自身の貢献もあるということで、いろいろなイニシアチブがあります。例えば、ヨーロッパの若者のコンベンションがあり、将来の改革、特にEUに対する提言をします。その中で、条約などをヨーロッパ全体に提言したりするわけです。

この中では、若い人たちが、みずからのプライオリティーは何かということをうたっており、次のような結果が出ております。「より強い社会志向のヨーロッパ、ソーシャルヨーロッパをつくれ」、あるいは、「労働市場のアクセスを容易にせよ」といったことが書いてあります。さらに、「EUとしてより強い戦略をとれ」、「長期の失業対策をとれ」などいろいろなことが書いてあります。

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引き続き若者の雇用問題の検討を

最後になりますけれども、次のような引用をしてみたいと思います。2000年のハノーバー万博のときに出されたものに関することです。そのとき、若い人の雇用に関する会議も開かれました。そのときに、「幾つか重要な中身を見るべきだ」という指摘がなされました。そこには、いろいろな要素があるということ。例えば、経済の状況、あるいは、パートの労働、労働と学業との連携、経験と教育の絆などであり、セーフティーネットをちゃんとリスクのある人に準備すること、あるいは、よい情報、ガイダンスを与えること、そして、効果的な制度、プロセスが必要であることがうたわれております。

多様性があるということが、欧州の労働市場の特徴であり、特に若年労働市場はそうです。また、近年の経済、雇用の実情にもばらつきがある。それから、学校から職場への移行、教育制度に関しましても国によっていろいろあるわけであります。この重要な要素は、各国にとって非常に意味があり続けることでしょう。

これはとても重要なテーマでありますし、次の万博が日本の愛知で開かれると聞いておりますので、ぜひこのテーマを検討し続けていただきたい。そして、その間にどうなったのか、ヨーロッパの若い人の状況がどう改善されたのかも、ぜひ愛知博までにご検討いただければ幸いです。

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スウェーデンの青年政策と青年雇用計画
(ハンス・オケイ・アントンソン スウェーデン国家青年問題委員会開発部長)


私からは、スウェーデンでいかに青年政策のシステムを導入しようとしているか、また、スウェーデンにおける政策、青年のための労働市場プログラム、計画についてご紹介します。青年政策に焦点を当てることで、労働市場、青年が成人へと移行していくプロセスを考えることができます。

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スウェーデンの青年政策のあゆみ

青年政策、青年の問題の動きを少し振り返ってみたいと思います。それは1940年代、50年代から始まって、青年団体に対して補助金が出るようになり、地方自治体、または国のレベルで「青年クラブ」ができ、60年代になって「国家青年会議」が設置されました。1985年には国連国際青年年があり、この時期には初の青年大臣が任命されました。その直前に、Not for Saleという委員会が設置され、政策文書が出されました。これには青年の問題、彼らが成人へと成長していくプロセスの問題が取り上げられています。そして、94年に初の青年政策法案が国会に提出され、青年政策に関する勧告指針が提出されました。

そして、89年に新たな法案が出されました。政府から国会に提出され、これが今日に至っておりますが、今日はこの内容を少しご紹介したいと思います。この法案にはどのような政策が盛り込まれていたのかをご紹介したいのですが、まずはスウェーデンのコンテクストを考えることも重要だと思います。

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若者はできるだけ自立を

スウェーデンには、いろいろな大衆運動がありますし、協会や団体、強力な労働組合が活動しています。そして、かなり適切と思われる福祉制度があります。こういった中で、個人個人のレベルでは、できるだけ若い人を自立させたいという考え方があります。家族からの自立を促進し、励行したい。社会的に自立できるようにしたい。

まず国家があって、地域があり、地方自治体があるわけですが、スウェーデンには約289の地方自治体があります。それを各省が監督し、国の機関が管理をしている状況です。政府の機関は直接、政策を扱っています。これは青年政策だけではなくて、労働市場であるとか、社会福祉等々に関しても同じです。ただし、もう1つの点といたしまして、自治が進んでいることがあります。地方自治体による自治が強い。例えば、各地方自治体が市民に関する責任を持っていて、その市民の中で自立できていない人をサポートする。したがって、社会福祉制度になりますと、これは地方自治体の制度になるわけです。また、「公共の管理」ということで、細かい規制から目標、目的の設定、フォローアップのシステムへと移行している傾向があります。

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成人への移行の長期化と高失業率

90年代の青年の傾向に目を向けてみますと、成人への移行期が長期化してきました。教育資格を取ることへの要求が強まってきた。学校から職場への移行期が延長してきた傾向も認められますし、青年グループの社会的な格差が広まってきました。そして、失業率がかなり高まってきた。スウェーデンでは6?7%から始まり、91年から92年の1年間に15%から20%まで高まりました。また、出産年齢の高齢化が進み、出生率が低下してきました。

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国家青年政策の全体像

政策制度、システムについて見ますと、国のレベルと地方のレベルがあります。それぞれ教育政策、労働市場政策、文化・余暇政策、社会政策、そして住宅政策があります。これらが青年政策の主要な柱となっています((図表16)(PDF:44KB)

青年政策につきましては、水平方向で扱っています。つまり、国家レベルでは政策の調整と分析を行い、地方レベルではこれを支援して、フォローアップする。私の勤めている国家青年問題委員会では、若い人々の情報や知識を集め、フォローアップのコーディネートをしています。そして、政策の分析をします。補助金の配分、ヨーロッパでの交流なども行います。

一方、垂直的部門の政策もあります。例えば、NGO(非政府機関)や青年交流などへの支援です。

我々は教育省に属しておりますが、そこには青年大臣がおります。去年の10月に選挙があり、今の大臣はレイナ・ハレングレンさんという27歳の女性です。青少年庁、国家青年問題委員会は社会の各部門の代表で構成されています。

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3つの主要目標

国家青年政策の管理・フォローアップのシステムについて、3つの主要な目標が国会で決定されております。また、政府が32の個別目標を決めています。国家機関が毎年、結果のフォローアップを行い、すぐれた実践例を各分野において提示する。4年ごとに詳細な分析が行われ、より突っ込んで政策の問題を検討しております。そして、地方レベルの積極的フォローアップを支援しております。

国会が決めた3つの主要目標は次のとおりです。まず、「自立的な生活を若者は実現すべきであり、そのためによい環境を整備する」ということ。そして、「役割と参加がすべての分野で必要であり、若者が真に重要な役割を果たし、参加する機会を得られるようにする」ということ。3つ目が、「青年、若者を資源としてとらえ、その献身、創造力、批評的思考が活用されるようにする」ということです。すなわち、「若者は社会にとっての問題ではなく、資源になるべきである」というのが主要な点であります。これは政策決定において、とても重要なポイントになると思います。

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32の個別目標

32の個別目標は、それぞれの部門、セクターで設定されています。15の国家機関がこのシステムをフォローアップしていて、青少年庁、国家青年問題委員会が毎年政府に報告しております。

政府の決めた目標の例として、2001年から03年までの期間中に、「後期中等教育課程を正規に卒業する生徒数の増加を図る」とか、「各年齢層の少なくとも50%が、おそくとも25歳に達するまでに高等教育を受け始めるようにする」という目標が設定されています。また、「25歳未満の失業青年のうち、定職、教育、訓練、または何らかの形の就職指向型ないし創造的な活動を提供される者の割合を高める」というのもあります。

若者の「自立」に関する目標の例としましては、「15歳から18歳の若者のうち、夏季に少なくとも3週間ほど職業実習の機会を与えられる者の割合を高める」、「さまざまな企業形態に前向きの姿勢を示し、企業の業務内容等について知識を持つ若者の数を増加させる」という目標も設定されました。

次に、「参加」に関してですが、「学校で重要な役割を果たすことができると感じる生徒の数を増やす」、「若者と意思決定者の対話のための適当なメカニズムを整備し、これを備えた地方自治体を増やす」、「NGOで活動する若者の割合を高める」という目標が設定されています。

このほか、「青年男女によって設立される企業の割合が高まるようにする」、「各種政府委員会等の委員に占める青年男女の割合が高まるようにする」、さらに地方レベルでも「青年男女が意思決定機関のメンバーに占める割合を高める」という目標が設けられました。

このような個別目標を国家に対して、要求として出しているわけです。各地方自治体に対しては、勧告という形で出しています。

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地方レベルでの積極的フォローアップ

青年政策の重要な問題といたしましては、「資源の監督をすることができるか、あるいは、統計の収集だけなのか」という点があります。

もう1つ、とても重要なのは、政府の制度内でコーディネーション、調整を図ることです。地方レベルのみならず、中央政府レベルでも調整が必要です。水平的な政策のスペースは限られているからです。また、地方の政策への影響も問題の1つです。

地方レベルの積極的フォローアップを各プロジェクトで推進することが必要です。そして、「青年政策開発」への直接支援、地方自治体協力への支援を行う。地方レベルでは「青年政策行動計画」を設定する。これらは水平方向の政策です。このほか、青年がその地方の議会等に参加するようにする。国の政策にもかかわりを持つ。NGOに対しても、公の資金を拠出する等々のテーマがあります。

我々が行う地方自治体へのサポートとしては、「知識ベースの青年政策策定を支援する」ことがあります。また、「地方自治体が使うことのできるツールを提供する」、例えば、電子アンケートを直接青少年に行うこと、地方自治体との対話を促進するためのウェブ・コミュニティを持つことなどです。インタラクティブなコミュニケーションも図ります。グッドプラクティスの紹介等もしています。

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IT技術の習得を支援

労働市場行政に関しては、中央レベル、国のレベルの責任として計画を実施し、失業している個人を支援することになっております。もう1つの役割としては、求人と求職活動をしている人々のマッチングをする、あっせんサービスを行うことがあります。日本でもそうだと思いますが、政府の職業紹介センターが地方レベルにありまして、日々の作業はそちらのほうで行っております。

1984年に青年計画法が制定され、研修に関するプログラムなどが導入されました。97年以降は、一部で非常に具体的な若者向けの計画が実施されております。1つは、「コンピューター・ワークショップ/活動センター」です。これはIT開発促進のため、新しいテクノロジーの使い方を習得するためのものです。

それから、地方自治体の青年プログラムがあります。地方自治体が責任を持つもので、「18歳から20歳の人々で、学校から落第したような人々」を対象にしています。そして、教育を受けていない人に対して、地方自治体レベルで何らかの職業訓練を提供します。

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発達保証プログラム

「発達保証」プログラムというのもあります。これは20歳から24歳が対象です。職業紹介センターで90日仕事が見つからなかったら、国、職業紹介センター、そして、地方自治体が責任を持って、フルタイムのプログラムをそういった人々に提供するものです。最大で12カ月続けることになっています。

個人ごとの個別プログラムとなっておりますので、地方自治体と職業紹介センター、当事者の若者自身という三者で話し合いを持ちます。あくまでも失業している若者が中心です。そして、個人のカウンセリングを行い、その人がどのようなステップをとっていくかという行動計画を立てます。書式にして、「自分自身が何になりたいか」、「何を習得したいか」という計画を立てるわけです。そこに研修や教育などを盛り込む。

これはプログラムと呼ぶよりも、若者に対するサポート活動、支援活動の一環としてとらえるべきだと思います。主として対象となるのは、教育水準の低い人、あるいは、落第してしまったような若い人たちです。また、ヨーロッパ以外の地域からの移民で、スウェーデンに来てまもなく、言語上の問題があるような人々です。

この制度は非常に成功裏に機能しております。個人ベースのやり方がうまくいっています。保証のタイミング、カウンセリング、個人別の行動計画、これらを促進するような環境の整備、職業紹介センター、自治体、地方の企業、産業界、機関が相互合意のもとに進めていくのが成功のかぎとなります。

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個人ベースで青年のサポートを

スウェーデンからのメッセージとして、「労働市場プログラムは、より青年政策中心型の活動プログラムへと移ってきた」ということがいえます。そして、より個人ベースのカウンセリングに重きが置かれるようになってきました。プランニングもしかりです。若者自身から計画が出てくる。若者が大きな影響力を持ち、このプロセスに参加するわけです。政策決定者としても、このようなフォローアップシステムを通じて、15歳から25歳の若者の状況についてより理解が深まると考えております。

もっと重要なのは、地方とのパートナーシップが推進され、それによって青年がサポートされるようになってきたということです。

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コメント・(ヒュー・ウィッタカー同志社大学教授)

イギリスの政策はスウェーデンと違うか

一般に、イギリスの仕組みは、スウェーデンと非常に違う政策をとっていると思われているようです。それゆえに、スウェーデンとイギリスが今回選ばれたのではないかと思います。しかし私は、アントンソンさんの話を聞いて、実際、共通項があると思いました。少なくとも「進化の方向づけ」、「政策の進展」という点ではイギリスとも似ていて、幾つか重要な共通項が見出されたと思いました。

イギリスでは青年政策といったものを策定してまいりました。青年のためのサービス局があり、そこでは中央省庁がまとまって若年者問題を扱っております。その中で調整を行い、ローカルのレベルでも、よりよいサービスを若い人のために提供しようとしております。こういった方向がイギリスにあるわけで、スウェーデンとかなり似ていると思いました。

今日のフォーラムの目的は、「何か歴史から学べることはないか」、「イギリスやスウェーデンのような教訓から学ぶことはあるか」ということかと思います。そして、ヨーロッパで25年ぐらいかかり解決策を見つけた若年者の失業問題を、日本は賢ければ、もっと短い間に解決できてしまうのではないかということだと思います。

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サッチャー政権の「革命」

それでは、歴史的なアプローチからお話しいたしましょう。「青年に関する政策がいかにして進展してきたか」、「雇用問題の支援がどう進んできたのか」というイギリスの歴史についてお話しします。

まず、サッチャー政権の認識です。80年代にサッチャー氏が導入した変革には、実際、革命的なものがあったと思います。しかし、それは日本のマスコミが認識するもの、つまり、規制緩和や自由市場という今日本政府が魅力を感じるようなものかというと、より複雑な性格があるものだと思います。もう一種類の革命が重要な形でこの20年の間に実現したと思うのです。今日は、この革命の枠組みの中での青年政策について話をしていきたいと思います。

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産業界の混乱と複数世代の失業

世界で初めてイギリスは工業化しました。世界で最初に「脱工業化」が進んだのもイギリスではないでしょうか。このような変革は、1960年代から始まり、70年代に強化されました。サッチャー政権ができたのは79年ですけれども、彼女は決意を持ってインフレと闘おうとしました。そして金利を引き上げました。また、3年以内にイギリス製造業の雇用の4分の1が消えました。日本で製造業の雇用の4分の1が3年間で消えたらどうなるでしょうか。そこでどんな混乱が起こったか、ご想像いただけると思います。

失業率は急速に上昇しました。失業率のみならず、そのうち人々が労働市場から消えたわけです。公式には失業ではないけれども、働かず「無業」の人の数が拡大しました。特に高齢者、北部の都市で、こうした失業、あるいは「無業」の人の数が増えました。後者は公式の失業率に入る人の2倍ほどいる。ある北部都市における高齢者では、60%以上の経済活動不参加者がいるのです。

このような混乱は大きな影響を若者にもたらしました。学校でも、学校から職場への移行でも、伝統的なパターンが変わってしまいました。親が失業する。それが家族の生活、家庭にも影響をもたらし、若い人たちの雇用への考え方が変わる。こうして、複数の世代にわたる失業が起こってしまったのです。

『ビリー・エリオット』、日本では『リトル・ダンサー』という題の映画をごらんになったでしょうか。80年代の炭鉱の町の家族を表現したこの映画を見れば、そこにどんな苦しみがあったのかをよくご理解いただけるかと思います。

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失業率の上昇と高学歴化

まず最初に起こったことは何か。それは、若い人たちがみずから代替の道を模索したということでしょうか。つまり、多くの人たちが学校に長くいるようになったのです。「まず、高校を卒業しよう」、「Aレベルを達成しよう」、「大学に行こう」という形で高学歴化していきました。

日本の場合には、高等教育に行く人の数が60年代急速に増えました。英国の場合、これが80年代になって、やっと高等教育進学率が増えたのです。しかし、80年代後半、高等教育で学ぶ人の比率が増えていき、高学歴化が急速に進みました。そして、いまだにこの比率は上昇しています。

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事業手当計画の導入

英国政府は、この動向に加わりました。人々を学校で学ばせ続けようと、教育制度に介在し続けさせようと、カリキュラム強化を図ってきました。そうすれば、仕事の見通しもよくなるだろうと考えて力を入れてきたのです。

しかし、当初、1982年から83年の間ですけれども、それは主な政府の対応ではありませんでした。サッチャー政権で失業は増えたので、そちらの対策をとらざるを得ませんでした。そこで彼女がやったことの一つに事業手当計画の導入があります。これにより、起業文化を育成しようと試みました。事業手当計画というのは、人々がみずから起業するために手当を出すということです。

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教育と訓練で雇用可能性を高める

これも政府にとっては魅力的な考え方でした。しかし、政府の主な対応は、ほかにありました。学習と訓練に力を入れたのです。若い人たちに仕事がなければ、まず訓練し、雇用可能性を高めることにより、仕事を得やすくしようというわけです。

そうすれば、同時に英国病にも対応できる。英国病とは、「競争力が失われる」という意味で言われていました。「競争力がない」という問題は、スキルがない、技能がない、教育が弱いから起きるのだと言われました。この意味の英国病については100年以上にわたって英国でも審議されてきましたが、1983年に政府の政策の中心として初めて取り上げられました。そして、雇用省は1983年、若者の教育スキームを立法化しました。これはとても重要な法律と認識されました。青少年訓練計画法案というのも出されました。こうした青少年訓練、技能の改善、英国病への対応が、政府の傾注した課題でした。

この発表の後、いろいろな研究がなされ、技能レベルについて、ほかの国とイギリスとの比較が行われました。特にアメリカと比較され、ドイツ、日本との比較も行われました。そして、常に英国のほうが、ほかの国よりも技能、訓練で遅れているという結果が出されたのです。特に1980年代半ばの比較が行われています。

また、イギリスでは、非常に断片的、ばらばらの基準で、技能、訓練を提供していることが指摘されました。

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国家職業資格制度(NVQ)

そこで、政府として新しい種類の職業訓練の柱をつくることになり、NVQ(国家職業資格制度)ができました。まず、国家職業資格審議会(NCVQ)が設立され、そこで、NVQができたわけです。

NVQの趣旨ですが、「職場における経験」ということに力を入れております。つまり、教室ではなく、職場での経験が重視されます。だれかが働いている。そうすると、この新しい資格NVQに向けて働くわけであります。そして、使用者側、会社側等はNVQをありとあらゆる種類の分野で設立することを求められ、何十というNVQが設立されました。若い人は、職場でこの資格に向けて仕事をすることが期待されます。失業したとしても、資格は維持できる。その技能をほかの職場に移行する。そして、新しい資格に向けてさらに努力し続けるという考え方がありました。

(図表17)(PDF:8KB)はNVQの仕組みです。このような階段、はしごになっています。若い人は、まず、はしごに上らないといけません。そして、職業資格の階段をどんどん上に上がっていきます。NVQの仕組みをつくった人たちは、これを「従来の学術資格と同等のはしごにする必要がある」と考えました。つまり、その2つを比較して、横に並べたわけです。そして、中間のもの(GNVQ)も最終的に設けました。ですから、3つの仕組みのキャリアがある「はしご」になっています。

つまり、どちらかのはしごを上り始めますと、もっともっと雇用の可能性が高まる。そして、英国全体の競争力も上がる。学術資格と職業資格の間にもし差があるとしたら、資格の共通化によって、イギリスにおける今までの社会階級の差をなくすことにもなる。さらに、参加した若者は社会的に排除されなくなる。こういったビジョンのもとでシステムづくり、枠組みづくりが行われてきました。

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失業手当より仕事を

このようなはしごの仕組みはつくりました。そして、資格認定制度もできました。しかし、まず、そこに乗せてあげなければなりません。教育の学術資格のはしごに乗っている人の数はどんどん増え、多くの人が学校へ行くようになりました。しかし、多くの人たちは、職業の資格のはしごを上ろうとしない。また、中退率も高いわけです。
転職した場合には、持っている資格が新しい職場で、もはや適用されないことがわかったりもするわけです。人によっては、それで士気をくじかれてしまう。そこに問題がまだありました。

NVQでは、参加率が非常に低いものもありました。若い人の中では、全く参加したがらない人もいました。そこで、最終的に政府としてはニンジン療法ではなく、アメからムチへと移し、若い人に「就業への邪魔ものをなくそう」と、96年に保守党政権のもとで、求職給付制度が導入されました。言いかえますと、失業手当をもらうよりも、むしろ仕事をしようというほうに若い人を追い込む政策です。

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「参加しない」という選択肢はない

次の労働党政権になりますと、EUの考え方に従いまして、新しいニューディール政策が若年者向けに導入されました。それは、6カ月以上失業している25万人の若年者を職場に復帰させようということです。

当初、4カ月間の期間が設けられました。それはコンサルテーションを受ける期間で、個人アドバイザーと相談ができ、そこで仕事を探そうと試みます。4カ月間でもだめですと、4つの選択肢が提示されます。「補助金を与えられ、雇用に6カ月間つく」というのが1つの道です。2つ目は「フルタイムで学校教育などの訓練を受ける」。3つ目が「ボランティアの仕事を6カ月間やる」、4つ目が「環境タスクフォースに参加して、6カ月間環境の仕事をする」です。

もう1つの選択肢も提供されました。それは自分で起業する、ビジネスを始めるということです。しかし、どの選択肢にしても、「参加しない」という選択肢はないということを政府は打ち出したわけです。

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NEETと呼ばれる人たち

しかし、この給付を受けない、あるいは、こうしたものに申し込みをしない、参加しなくてもよいと考えるような人たちがいました。この制度を一定期間利用した後で病気になり、また最初からやり直すというように、制度を悪用する人も出てきました。

訓練が真の就職に結びつくとは考えない人もいました。あるいは、低い賃金にあまり魅力を感じず、非公式、インフォーマルな経済から得られるお金のほうがいいと考える人、または、経験上、使用者、雇用者をよくないと考え、彼らの下で働くのが嫌だと思う人もいたようです。つまり、いろいろな理由がありました。人によっては、新しいニューディール政策に参加しない、しようともしない、あるいは、それをずっとやろうとしないのです。

どの国でも、一定の比率の若い人は仕事をせず、訓練を受けていない、あるいは、学校にも行っていません。イギリス政府はこういった人をNEET(not in employment, education ,or training)と呼んでいます。つまり、就労も就学もせず、訓練も受けていない者をそう呼んでいます。イギリスでその比率は9%と推定されています。しかし、都市部によっては15%以上、NEETのカテゴリーの若者がいるところもあります。

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コネクションズ・サービスの導入

ニューディール政策は、多くの人のところに到達しなかったようです。多くの人たちには、複数の障害、ハンディキャップがあるように思われました。これは、単に「仕事をせよ」と奨励するだけではありません。住宅問題がある人もいます。麻薬問題、薬物問題の人もいたでしょう。あるいは、未婚で子供を抱えているとか、ありとあらゆる問題に対応しなくてはなりません。単に奨励をして、カウンセリングを受けさせ、個人的なアドバイスを受けさせて、仕事を求めるようにするだけでは、多くの人にとって問題解決にならないのです。こうしたことを認識した上で、政府は、この2年間にコネクションズ・サービスという新たなサービスを導入しました。

このサービスでは、個人アドバイザーというものが入っています。この個人アドバイザーが広い範囲の仕事をやります。住宅問題、健康・福祉問題、教育、雇用などいろいろな問題を扱います。サービスの対象年齢は13歳から19歳の若年者層です。つまり、早期介入、若いうちに介入することが大事だと認められています。18歳ぐらいでNEETであり、何もやっていない。それ以降ではもう遅過ぎるとしばしば認識されます。

コネクションズ・サービスでは、役所から役所へとたらい回しにされないように、1カ所で全部解決策が提供できるようにしています。1カ所に行けば、何らかの解決が得られる。そこでは、この分野のいろいろな関係者がチームワークを組んで参加しています。

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中央の政策から地方自治体レベルへ

これまでの話は中産階級の人からNEETへ、そして高等教育と雇用から、住宅問題、医療、そして福祉の問題まででした。これらの問題は地域、地方自治体、市町村の政策の役割が大きいです。中央の政策は、地方自治体レベルにおいて実際に実施されるわけです。こういった一連の政策、変化は、日本で注目されている自由主義、規制緩和と反対に、経済・社会で政府の介入が高まったことを意味し、「もう一つ」のイギリスの革命になっています。この革命は、日本が学ぶことがあると思います。

地域、ローカルなレベルでの政策調整が大事です。地方においては47のユニットがつくられ、そこでコネクションズ・サービスをやっています。また、47の地域、地区別に学習・技能審議会があります。この審議会では、地元においてどういう形で、16歳から19歳の人に教育や訓練が提供されているかを監督します。47の各地区には企業とのリンクもあります。訓練などは企業内で行う。地方におけるこうした一連の政策の重要性はますます高まっています。

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日本への提言

日本にとっての意味合いについて、簡単に触れてみたいと思います。

まず大事なことは、学校から職場への移行の道、これにはさまざまな移行がありますが、この道自体が変わったということです。年をとった政治家たちが言うように、「私が若いころは、こうやって18歳のときに、もう就職できたんだ。18歳になったら、もはや政府の支援など要らない。(今の若者は)ただ怠惰なだけじゃないか」ということでは、十分ではありません。
また、「若い人が悪い」という言い方は単純すぎると思います。そういった言い方は、クリエイティブではありません。やはり「変化」を認識すべきです。この「変化」はヨーロッパ諸国でも起こりましたし、日本でも起こっているのです。

第2点ですが、若い人のニーズが多様になりました。人によっては資源もある、親からのアドバイスも得られるでしょう。例えば、みずからの複雑な道でも何とかやっていける立場にあります。しかし、そのような資源、財源が得られない若者もいます。このため、さまざまな政策が必要です。こうした多様なニーズを認識していくべきです。

第3点は、「1つで何にでも当てはまる」といった中央政府の策は、必ずしも多くの地方の若者のニーズに合わないということです。特異な、具体的なニーズがあると思います。地域別、ローカルなイニシアチブを育成していくべきです。それには、ヨーロッパ全体で共通の経験があると思います。

第4点ですが、雇用は雇用、福祉は福祉、住宅は住宅というように垣根を設け、各省庁や部門ごとに障壁を設けることは非生産的です。政策を成功裏に導入し、若い人の移行を助けていこうとするためには、それではだめです。分野間、省庁間での協力、調整が必要です。これは、日本での難しい課題だと思います。しかし、実現しなければなりません。それは中央の政府だけではなく、地方自治体等でも重要です。

5つ目は、政策作成者は「若い人が何を考えるべきかを知っている」だけではだめだということです。我々が「考えるべきだ」と思っていることを、若者は考えていないかもしれない。いろいろな形で若い人の声を聞くことが不可欠です。そのためには調査・研究をする。そして若い人の考え方に触れ、それを理解しようと努めることです。さまざまな場を通じてそれをやる必要があります。こういったことはヨーロッパの中央でもやっていますし、各国でも、ローカルでもやっています。簡単ではありませんが、こういったことは重要です。

最後に、私はイギリスの教訓を引くだけではなく、スウェーデンの3つ目の目標を教訓として引用したいと思います。「若者を問題として見るのではなく、資源として見るほうがより有益である」。最終的に日本の将来は、若者にかかっています。あと40?50年後、日本の指導者になるのは若者です。ですから、若い人たちに力を与える方法を考えていく。それには、スウェーデンで聞いたようなやり方がとても重要になると思います。

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コメント(中村正子・厚生労働省職業安定局業務指導課課長補佐)

私は現在、厚生労働省職業安定局業務指導課におりまして、若年者雇用対策を担当しております。若年者雇用対策といいますのは、特に何歳という方々をターゲットにしてというものではないのですが、新規学卒者と言われる、卒業してこれから新規に入職する方々、それからおおむね20歳代の方々を若年ととらえ、こうした方々への雇用対策を担当しております。

若干蛇足になりますけれども、私は今のポストにつく直前までは、3年ぐらい前に設立されたのですが、東京の六本木にある学生職業総合支援センターという大学生や専門学校生向けのハローワークで、その立ち上げと実際の業務の運営をやっておりました。そこで、実際に多くの若者と言われる方々、あるいは、こうした若者を採用したいという企業の方々などにも接しておりましたので、本日はそういう、どちらかというと実務に根差した形でお話しできればと考えております。

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日本の若年者の雇用・失業情勢

(1)新規学卒労働市場の変化

最初に日本の若年者の雇用・失業情勢について若干触れさせていただきます。それから現在の厚生労働省の若年者雇用対策について概要をご説明し、最後に、若干個人的な感想が入ったりするかもしれませんが、若年者雇用問題の今後の方向や課題に触れたいと考えております。

まず、若年者の雇用・失業情勢ですけれども、若年者といいますと、どちらかというとこれまでは新規学卒者と言われる方々がメーンにとらえられてきたと思います。
特に日本におきましては、例えば1950年代から60年代は、産業構造が大きく変化した時代です。農村地帯から都市部など非農村地帯への労働人口の移動だとか、あるいは地域間の労働力の移動という、産業構造が発展した地域での労働需要のニーズにこたえたのが、特にその時代ですと中卒者を中心とした新規学卒者の地域間移動だったわけです。これに職業安定機関、ハローワークなどが大いに貢献した時代がありました。

それから高校の進学率も徐々に高まってまいりまして、60年代以降ぐらいからは新規学卒者というと、主に高校生の就職ととらえられるようになってきました。高校について若干触れますと、職業安定法におきまして、(1)学校がみずからの業務として職業紹介を一部分担して行う場合、(2)職業紹介をすべてみずからの業務として行う場合、(3)全く行わず職業安定機関に行わせる場合、というように大きく分けると3つあります。最初の「一部分担」というところが現在ですと、全高校の3分の2ぐらいを占めており、「みずからの業務として行う」、これは届け出をしてという形になりますけれども、全体の3分の1ぐらいというのが現在の状況です。いずれにしましても、こういう形で、高校が自分の生徒に関して、教育の一環として職業紹介を行うというのが主な形態となっています。
こうしたことに基づいて、企業のほうもそれぞれの学校に求人を申し込み、学校のほうが適当な生徒を推薦、紹介するというシステムで過去、行われてきたわけです。これは、求人が一定量あったときには、企業にとっても学校にとっても、あるいは生徒にとっても非常に効果的、効率的なマッチングの仕組みとして機能してきたわけですが、こういった就職環境あるいは就職のシステムが最近変化してきています。

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(2)新規学卒無業者の増加

新規学卒者、特に高校生の就職状況についての推移を示したグラフをごらんください(図表18)(PDF:11KB)。直近ですと平成4年(1992年)ぐらいが最も求人が多いピークになっています。このときで求人が年度末で168万人分ぐらい、高校生向けにあったわけですが、それ以降は激減しておりまして、昨年度の3月ですと24万人という数字になっています。ですから、求人倍率も、過去には3倍を超していたのが、今では1.26倍という非常に低い数値になっています。
これに伴い、内定率も徐々に下がってきておりまして、昨年度ですと過去最悪の89.7%という低い数値になっているというのが新規学卒者、特に高校生の就職の状況です。

これにより、学校でのマッチングというのも非常に低下していまして、学校を経由しないで就職する人が増えております。また、(図表19)(PDF:14KB) を見ますと、就職も進学もしない、いわゆる無業者と言われる方々が非常に近年増えてきています。高校で見ますと、無業者の割合は昨年度で10%を超し、数にすると13万8,000人ぐらいになります。もちろん、この中には留学したり、家事の手伝いをしたりしている方もいらっしゃるので、もちろんみんなが無業というわけではありませんが、いわゆる無業者という方が13万8,000人もいるのです。就職者が約22万5,000人ですので、かなり就職者の数にも近くなる、接近しつつあるというような状況にあります。あわせて、大学につきましても無業者割合が20%を超え、数にすると12万人ぐらいになっているという状況が最近、見てとれます。

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(3)目立つ自発的離職者

このように、新規学卒者の就職状況あるいは労働市場が著しく変化したということで、日本においては最近、特に若者の失業問題がクローズアップされるようになってきております。具体的に若者の雇用・失業情勢についてですけれども、その次の(図表20)(PDF:10KB)は昭和50年(1975年)ぐらいからの年齢別の失業率の推移です。昭和50年代には、15?24歳層の失業率は3%ぐらいだったのが、近年においては10%を超すような月もあります。もちろん全体の失業率が上がってきているということもありますが、かなりの割合で失業する若年者が増えてきている。そして若年者に関しては、自発的か非自発的かという離職理由について、どちらかというと自発的離職者と言われる方々が多い傾向があります。ですので、一般に中高年の方々が、例えば会社の倒産や事業の縮小で非自発的にやめざるを得ないという状況とは違って、若年者はみずから進んでやめている状況にあることが見てとれます。

これとあわせまして、よく言われますのは、「高い早期離職率」です(図表21)(PDF:13KB)。上のグラフが新規高卒者、下が新規大卒者の入職後3年以内の離職率です。これは、雇用保険の該当する年齢層のデータから算出しておりますので、必ずしも卒業後3年というわけではありません。しかしながら、都内の大学の就職指導担当者の方々が卒業生のフォローアップ調査をされたことがあるのですが、その結果でも3年以内に、ここの数字にありますように3割ぐらいが実際にやめていましたので、おおむね信頼できる数字ではないかと思います。大学生では3年以内に3割強の方々が離職している。高校生については、就職して3年以内に5割近くが離職している。このような状況があります。

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(4)フリーターの増加

これは小杉さんのほうがむしろご専門かと思いますが、失業者と同様に、一方でいわゆるフリーターと言われる方々の増加という傾向があります(図表22)(PDF:22KB)。上のグラフがフリーターの方の数の推移(推計)ですけれども、フリーターの定義を「アルバイト、パートである雇用者(男性の場合は継続就業年数が1年から5年未満の者、女性は未婚で仕事を主にしている者)、または現在無業で、家事も通学もしておらずアルバイト、パートを希望する者」といった方々としております。

2000年には193万人のフリーターが存在しています。しかし、例えば5年以上フリーターを続けているような方が網羅されていないというところもありますので、そういう意味では、今ではもう200万人を超すような数字になっているのではないかと思います。このように、フリーターと言われる方が徐々に増えてきている現状があります。

フリーターと言われる方々の学歴ですけれども、やはり高校卒業の方が非常に多く、次いで専門学校や短大を中退した方といったように、学歴にも非常に偏りが出てきていると考えています。このようなフリーターの方々について、全体の6割ぐらいが実際、定職につくことを希望しているという調査結果もありまして、そういう意味では、フリーターの方々への就職支援も大きな問題になってきているかと思います。

ただ一方で、フリーターに関しては離脱が非常に困難になってきているという調査もあります。いったんフリーターになると、そのフリーター期間が長期化すれば長期化するほど正社員になることが困難になってきている。こういった問題がだんだん深刻化しているという現状もあります。

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問題の背景

(1)産業構造の変化

ざっとデータでご説明しましたけれども、こうした問題の背景はいろいろとありますが、1つは経済産業構造の変化が挙げられるかと思います。先ほど「求人数が減少している」と申しましたけれども、新規高卒者の求人について見ますと、近年の傾向として製造業、あるいは事務系の仕事が非常に減ってきています。これに変わってサービスの仕事が増えてきている。具体的には理・美容業であったり、飲食店の接客の仕事だったり、そのような仕事が新規高卒者に関しては非常に増えてきている。一方で、企業の職種が複雑化、高度化してきていますので、高校生の新規就職者を求めるよりも、むしろ大卒者の方にシフトしてきている傾向もあります。あるいは、今すぐ人が欲しい、短期間だけ人が欲しいという企業のニーズが非常に高まってきていますので、中途採用やアルバイト、派遣などにシフトしているというように、産業経済構造の変化に対応した求人の変化が、1つ背景としてあるかと思います。

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(2)多様化する新規学卒者の進路選択

2つ目として、新規学卒者の進路選択が非常に多様化しているということも言えるかと思います。ご存じのように、進学率が非常に上昇しておりますし、最近ですと、むしろ高校生に関しましては、「就職するよりも進学するほうが楽である」というような認識もあります。一方で大学のほうも少子化ということで、入学が以前に比べると若干容易になってきているところがありますので、「就職できないから進学を選択する」という方々もどんどん増えてきている。それから、「無業でもいい」とか「フリーターでもいい」という選択も増えてきている。このように、多様化していることが2つ目にあるかと思います。

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(3)職業意識の変化

3つ目としては、よく挙げられますけれども、職業意識の変化です。例えば、「働くことや職業に関する理解、認識が不足している」とか、「基礎的な素養、あいさつやマナーがどうもなっていないのではないか」ということがよくいわれます。一方で、フリーターに関して非常に肯定的な認識を持っているということや、あるいはやりたいことに非常にこだわるという仕事選びの基準の変化など、若者の側の変化も背景にあるかと思います。

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(4)社会環境の変化

最後に、社会環境の変化です。生活がいろいろと変化している中で、例えば実際の仕事に触れる、社会とのかかわりを持つ経験をする機会が非常に減少しています。これが職業意識の変化と結びついているところがあるのではないかと思います。
それから家庭などの経済的な豊かさや価値観が多様化している。例えば、卒業時には、以前であれば経済的理由なども含めて就職せざるを得ない状況もあったと思いますが、最近ですと「就職できなければ、しばらくは家庭にとどまってアルバイトをしていればいい」ということができるような余裕ができてきている。あるいは、そういうことでも特に後ろめたくはなく、悪いことでもないという価値観がかなり一般化しているという変化も背景にあるのではないかと考えられます。

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雇用対策の3つの柱

次に、どういう施策を厚生労働省で行っているかということですが、大きく分けて3つの柱があります。1つが新卒者、あるいは卒業時に就職できなかった未就職卒業者に対する支援です。それから、フリーターや若年失業者の早期の就職支援。3つ目として、若年者に対する職業意識の形成支援といったものです。これらが、私どもの雇用対策の大きな柱になっています。

具体的には、こういう施策に関して、厚生労働省(国)から各都道府県に設置してある労働局に指示をします。実際にこのような事業、業務をサービスするのが、ハローワークといわれる公共職業安定所です。労働局の段階ですと、例えば地方自治体との連携ですとか、あるいは学校との連携が必要な場合には教育委員会など横との連携を図る形になります。公共職業安定所においては、実際に管轄内にある学校との連携という形で施策を展開するスキームになっています。

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新卒者に対する支援

まず新卒者に対する支援ですが、大きく分けて大卒者と高卒者とに分けて施策を行っています。大学の新卒者に関しましては、全国に学生職業総合支援センターや学生職業センターといわれる学生専門のハローワークを都道府県に1カ所ずつ設置しております。ここでは、例えばウェブサイトを使っての求人情報の提供ですとか、あるいは実際センターに来た方への個別のカウンセリング、いろいろな就職ガイダンスやセミナーといったことを行いながら就職を支援しています。

高校と中学の新卒者の方々に関しては、高校の場合、学校が主体となって行っていることがありますので、学校と連携しながら、求人を開拓したり、職業紹介を行ったりします。あとインターネットでの求人情報の提供ですとか、企業を知ってもらうということでは、ハローワークのほうがいろいろ企業とのコネクションがありますので、企業に出向いて実際の職場を見てもらう機会などを提供したり、来年度からになりますが、生徒に対する職業講習ということで、就職希望の方々に対するガイダンスを強化していくことにしております。

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未就職卒業者に対する支援

2番目の未就職卒業者に対する支援ですが、卒業後の早期就職に関しても学校と連携しながらになります。ジョブサポーターというのを全国に100名ほど配置することにしておりまして、この方々が中心となって求人開拓ですとか、あるいは就職が決まらない生徒に対して個別に相談をして、個々の支援方針をつくって就職の支援をしていくような支援を、時限的になりますが行うことにしております。職業講習だとか職業訓練に関しても、特に未就職者という方に着目した形で実施しております。

高校との連携につきましては、高校の進路指導の方々が実質的に生徒の職業紹介などを行っているわけですけれども、新任の方などですと、労働市場や産業の変化、あるいは仕事の内容などについて、あまり知識や実務経験がない方が多いということがあります。こうした方々向けの研修を私どもで実施することにしております。セミナーを開催したり、あるいはハローワークに実際おこしいただいて実地の研修を行います。このようにして高校とも連携しながら就職支援を行っていくこととしております。

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フリーターなどに対する就職支援

2つ目の大きな柱としまして、フリーターなどに対する就職支援ですが、これはヤングワークプラザと言われるような、特に若年失業者の方々を対象にしたハローワークを全国5カ所に設置しまして、個別の就職支援を行っております。

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トライアル雇用制度

それから、若年者トライアル雇用による常用雇用の促進があります。いわゆるOJTを通じて職業経験を積んで職業能力を高めてもらうことは、非常に若年者にとって効果的でありますし、ほかでは得られない機会です。このトライアル雇用制度という形は、企業の方に3カ月程度、試行的に若年者の方を雇っていただき、その間、私どものほうから奨励金を支給します。それで、3カ月後、その若年者と企業の方がお互い気に入って、「雇い入れてみよう」、「続けて働きたい」という気持ちになれば常用雇用に移行してもらうというシステムで、昨年度から実施しております。今年度の11月末で約2万6,000人の方々が実際に、このトライアル雇用を開始されています。終了された方のうち、この時点ですと大体4人に3人が常用雇用に移行しておりまして、そういう意味では、実務経験のない若年者を常用雇用に結びつけるということでは、一定の効果がある施策ではないかと思っております。

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若年失業者に対する職業訓練

3つ目が、若年失業者に対する職業訓練ということで、来年度から実施する形になります。これまで職業訓練といいますと、どうしても離職者訓練と言われるような、ある程度、職務経験がある方の再就職を支援することを中心に行ってきたわけですが、そういう経験が乏しい若年者向けの職業訓練を特別に行おうとしております。

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ジュニア・インターンシップで職業意識の形成を支援

大きな柱の3点目といたしまして、若年者に対する職業意識の形成支援があります。職業意識の形成とは、単に働くことだけではなくて、自分の適性や能力、興味、あるいはその職業、産業の実態を踏まえて、自分の将来のキャリア形成に関する意識を高めてもらうという意味で使っております。そういうことに関する高校生に対する支援で、特に力を入れているのがジュニア・インターンシップです。職場見学と言われるような、実際の就業体験を通じた職業意識の形成の支援です。それから来年度からは保護者の方にも、こういう意識を高めてもらおうということでセミナーを行う予定です。以上、今現在行っている、あるいは行おうとしていることをざっとお話ししたところです。

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今後の課題

(1)失業やフリーター化の予防

最後に、若干、今後の課題について4点ばかり触れたいと思います。
施策の方向、重点化していくべき方向としては、1つが失業やフリーター化の予防ということです。失業者になる以前に、例えば職業意識の形成の支援を強化していく。あるいは学校との連携を図りながら、就職支援を強化していく。それから学校のみならず地域における取り組みの支援を行っていくことで予防を図る。そういうことが1つの方向であると思います。再チャレンジできる社会システムをつくることも、一方で非常に重要ですが、卒業後何らかの仕事につき、職業経験を積まないと、そこからのリカバリーが非常に難しい。そういう現実を見ると、卒業後、何らかの形で就業できるようにすることを重点化していく方向にあるかと思います。

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(2)定着率の向上

次に、それと若干重複しますが、定着率の向上です。若年者、特に若年新卒者をなぜ雇わないかというと、早期離職が多いからです。企業側にするとコストがかかり過ぎてもったいない。これが大まかな企業の方の声です。そういう意味では、定着率を向上させて、悪循環をある程度改善していかないと、今後なかなか若年者に関しての採用意欲は高まらないのではないかと思います。少し中長期的な課題になりますけれども、こういったことが2つ目の課題として挙げられるかと思います。

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(3)必要とする人に支援の周知を

3点目ですが、失業者あるいはフリーターになってしまった方の早期就職支援につきましては、職業訓練やトライアル雇用を強化していくこととしておりますけれども、1つ課題となっているのは、「どういう方々が実際、施策に乗ってくださるか」ということです。いろんな施策を講じても、最も支援を必要とする人にその支援が実際に届いているかどうか。我々も調査をしているわけではありませんが、その施策に乗れる能力あるいは情報のある人だけが対象になっていて、本来、施策の対象になるべき人に、なかなかその支援が届いていないことが課題としてあるかと思います。今後は、その周知ですとか情報をどうやって伝達するのかということが課題であると思います。

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(4)社会が連携して次世代を担う人材の育成を

最後に、4点目の課題として、ちょっと大きな話ですが、社会問題としての若年者雇用問題のとらえ方についてです。

若年の失業といいますと、どちらかというと「危機感がない」ととらえられている感があります。例えば若年者の個人的な問題、「働く気がない」とか、「あいさつもできない」というように若年者バッシングのようなことをおっしゃる方も依然多くいらっしゃいます。あるいは、施策を行った効果が直ちに定量的に出るわけではありませんので、そういうところで(これらの施策が若年者にとって)効果がないのではないかということもいわれます。また、日本の場合ですと、家庭や保護者が生活支援装置として働いていますので、なかなか貧困とか失業という危機感が顕在化せず、若年者問題が社会的な問題であるととらえられていないところがあると思います。

もちろん若年者自身の努力も必要ですが、先ほどのお話にもありましたように、「次世代を担う人材の育成」という認識で、例えば企業にとっても若年者は必要な人材でありますし、我々社会にとっても必要という認識のもとで、地域あるいは行政においても連携を図っていく必要があるのではないかということを、最後に課題として考えているところです。

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討論

小杉

海外から来られた3人のパネリストに対して、日本の立場から「ぜひ、もう少し聞きたい」ということを、代表して中村さんから質問をしていただけますか。

中村

まず、3人の方への感想を述べますと、若年者の問題に関するとらえ方が大きく違う、特に、統合を図るとか、若年者を中心に置いてとらえているところが非常に違うということと、「横断的な若年者政策」が非常に日本においては、まだ取り組みが足りないところがありますので勉強になりました。

それでは、それぞれの方に質問をさせていただきます。

まずEUの説明の中で、個別の施策についてはあまり触れないというお話がありましたけれども、日本の場合、イタリアに近いような若者のとらえ方があるのではないでしょうか。例えば、「家族で失業している人を保護する」というところがあるのではないか。EU全体として、「家族」や「世帯」を単位とした対策、あるいは「個」を単位とした施策という傾向があれば教えていただきたいというのが、EUの方への質問です。

スウェーデンに関しては、これは施策を理解する上での質問になります。「自立」に関するとらえ方で、例えば大学に行く際の費用をだれが負担しているのかとか、大学を卒業した後、実際、自立すべきなのかどうか。文化の違いが政策展開の違いにもあるのではないかと思います。自立した「個」からなる社会という表現がありましたけれども、どういうことが自立していることになるのかお話を伺いたい。

それから、イギリスに関しては、アメとムチというような印象を受けました。その施策に対象として乗らなかった方々に対してはどういう手だてが講じられているのかに関して、簡単にお話をお伺いできればと思います。

小杉

まずEUのトーマスさんから、家族という切り口で伺いたいと思います。多分、国によって大きく家族のかかわり方が違う、自立ということとも非常に関係あると思いますけれども、世帯を対象とした施策をしている国があるかどうか、あるいは対策が個に集中しているような国もあると思います。家族に関して、どのように国によって扱い方が違うか、お話しいただければと思います。

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対策は「世帯単位」か「個人単位」か

トーマス

とても難しい質問です。私が答える立場にあるかどうかもわかりませんし、満足できるお答えができるかどうか。

いずれにしても、日本はイタリアと似ているという指摘に驚きました。確かにイタリアなど南ヨーロッパの諸国は、ヨーロッパのなかでは家族の支援がある、つまり伝統的に家族が一番頑張るというか、役割は大きい。そして、個人の自立という考え方がスカンジナビアとは違います。イタリアでは、普通教育を受けている間は家族と一緒に家に住む、つまり自立して学校に行くことは、まずありません。しかし、若者の雇用に関してイタリアは、私が知る限り、非常に日本と違います。イタリア、特に南部地域では、70%の若者が失業しています。そういった状況が維持可能でしょうか。

もう1つ、家族、世帯の役割と、それに対してどういう政策をとるか。1つの事実として挙げられることは、EU各国の個人の状況、世帯の状況は大きく違います。より若い個人の失業が南ヨーロッパでは高いかもしれない。しかし、労働市場から排除されている、家族の人がだれも職についていないような比率を見ますと、イギリスやドイツのほうがむしろ高いことが知られています。これはEUの研究ではありませんが、例えば失業率の消費や所得への影響を見ますと、ドイツとイギリスのほうが南ヨーロッパよりずっと深刻です。なぜか。これは家族の支援があるかないかです。そういった意味で、共通の特徴があるのかもしれない。つまり、南ヨーロッパ、地中海諸国と日本の共通項があるのかもしれません。

もう1つの質問として、EUではどのような政策措置をとっているのか、特に個人向けなのか、それとも世帯向けなのかということです。雇用戦略に関して、政策を策定し、実施することは加盟各国の責任です。ですから、EUの役割としては指針をつくること、あるいはそのプロセスをモニターすることに限られます。しかし、具体的な施策を加盟各国に提言する立場にはありません。

それから、雇用政策の協調はEU全体で行われており、変革、あるいは条約などの変更もあります。

しかし、最近の取り組みとして、例えば社会的な排除問題、あるいは社会的にいかに参加させるかという課題が出ています。そこで加盟国間の政策協調を図ろうとしています。

同じような考え方として基準作りがあります。例えばあまりうまくいっていない国などの事例を見ることが行われています。「この仕事のない世代をどうするのか」という問題の解決の役割も担い得ます。具体的に、「仕事のない世代を減らせ」という指針があるかどうかはわかりません。

確かに「社会的な排除をなくすべきだ」ということには力を入れています。なぜかといいますと、一般的な目的としては社会への参加でありまして、各国が具体的にどういう政策をとるか、そのときには個人に向けた政策をとるのか、世帯向けの政策をとるのか。これは各国がやることであって、EUとして処方せんを決めることではありません。私の印象としては、ヨーロッパでは一般に世帯向けではなくて個人向け政策だと思います。しかし、世帯で仕事がない、社会的排除は問題です。

小杉

続きまして、アントンソンさんへの質問、今の家族とちょうど対照になるわけですけれども、自立ということでもう少しわかりやすく具体的な事例をお教えください。

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若者に自立の機会を

アントンソン

若年者が18歳になったら自立する権利を持っているということです。また社会としてもそれを期待し、それが可能と考えています。また同時に、もちろん社会が教育の機会を与えなくてはいけません。そして、仕事や住宅を持つ機会を与え、そしてしっかりとした福祉制度を導入して若年者を支援しなくてはいけません。家族から切り離そうとしているわけではありません。我々の若年政策の場合にはあくまでも個人としての若者に焦点を当てています。個人個人としてとらえているわけです。その人が「個人として何をやりたいか」、こういったとらえ方をします。どのような夢を持っているのか。自分の人生をどうしたいと考えているのか。自分の将来に関してどういう考えを持っているのか。こういった観点からとらえています。

わが国におきましても、多くの若い人が家族の支援を受けていて、自分の道がわからない、大人になる過程がわからないという人もいますし、世帯、家族、あるいは個人レベルで問題があって、十分に教育を受けていないとか、あるいは短期的にも職を得ていないというようなこともあります。若年政策といった場合、その持っている意味は、「彼らの将来のために社会の責任として若者に対して手段を与えなくてはいけない」ということです。

今まさに、人口動態を見てもスウェーデンでそういった状況があります。数年後には若い人が不足します。高齢化がどんどん進み労働市場から多くの人が引退していって、十分に若者が労働市場に参画しないというのが1つ。

もう1つは、まだ数字で示すものはありませんが、高失業の状態が続いていきます。その理由としては、適切な教育を必ずしもみんなが受けられないので、適切な職につけない人が出てくるということがあるかもしれません。

使用者、オフィスだとか、事務所だとか、工場だとか、会社、企業においてもやらなくてはいけないことがあります。若い人々が何を求めているのかに耳を傾け、仕事の組織の仕方だとか、そして、若者にとって会社の中の環境はどうなのかということも考えなくてはいけません。これから若い人が少なくなるから職場環境の整備といったことに焦点を当てるのです。

そして、政策立案サイドから言いますと、職場の状況に目を向け、若い人の声を聞くことはよい政策だと思っています。若者はいろいろないい新しいアイデアを持っているし、いろいろな新しい展開がある。若い人にいいことはその会社にとってもいいはずだ、長期的にはよくなるはずだという考え方があります。

我々としては、かなりこのような社会を強化しています。社会が個人に対して何をできるか。また同時に、この家庭、世帯のための社会福祉システムというのがあります。

小杉

日本の場合、高等教育へ進学する比率は非常に高いですが、その高等教育は70%までが民間セクターが持っているわけで、家庭が高等教育の経費の大半を分担するやり方をとっています。社会が高等教育、教育について責任を持つとなると、スウェーデンの場合は学校にかかる経費は非常に少ない、あるいはかからないということでしょうか。

アントンソン

そのとおりです。かかりません。

小杉

最後に、ウィッタカーさんへの質問です。

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アメとムチ、どちらが効果的か

中村

実際アメを与えても、あるいはムチを与えても全く対象に乗ってこない、あるいはアメを与えたときにうまく乗ってくる人、あるいはムチを与えたときに乗ってくる人とか、いろいろあると思うんです。1つは、その施策からこぼれてしまう人というのはどういう方がいらっしゃるか。加えて言えば、どちらのほうが効果的、ムチを振るうほうがもう少し緩やかな施策をするより効果的なのかという2つあわせてお伺いできればと思います。

ウィッタカー

アメの甘いところは何かというと約束をしてあげることです。もし若い人たちが、はしごにまず足をかけることができれば、それが仕事への道につながる。所得、社会参加、そして地位、ありとあらゆるいいことへのきっかけの一歩となります。つまり、魅力あるものということで、多くの人がそれに引きつけられるでしょう。しかし、その約束はすべての人にとって現実的かどうかはまた別な話です。しかし、これは非常に強いメッセージとして発信できるでしょう。

ムチというのは何か。もしこの階段に乗らないと政府からの支援が切られてしまう。おっしゃったとおり、人によってはそれにもこたえない。アメであろうとムチであろうとどっちにもこたえない人が確かにいると思います。ある人たちは落ちこぼれるといいますか、そういった形の教育、訓練すら受けることができない、あるいは雇用からも外れているわけです。日本では違うかもしれません。こうした人たちは日本では違った種類の人かもしれない。

もちろんボランティア部門、自主部門でこういった人を支援しているNGOとか民間機関もいるでしょう。そして、いろんな努力が行われて、先ほど紹介したイギリスのコネクションズ・サービスでは、ボランティア部門にこういった人を紹介したり、協力したりしています。しかし、いろいろなやり方があります。コネクションズ・サービスでもいろいろなやり方があります。例えば政府による雇用可能性を高める戦略もありまして、それと競争力をくっつける。そして、イギリスのスキル向上プログラムとつなげるというやり方もあります。
それがボランティア部門の気風に触れますと、こういった人とはもう既にボランティア部門のほうが非常にやっていますから、文化、風土の違いがもとでNGO部門と政府の政策がぶつかることがあります。コネクションというのは政府がやっているプログラムですが、それを各地元でやろうとすると衝突が出てくる。ですから、コネクションという政府部門の役割にもっと柔軟性を持たせる必要がある。そして、より効果的に自主部門、ボランティア部門と協力する必要がある。そして、ボランティア部門がやってきたものを破壊する方向に機能させてはなりません。

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家族に依存せず、社会全体の問題としてとらえる

ウィッタカー

しかし、集団によりましては、いわゆる無業者の比率が15%以上になっているところがあります。特に少数民族の出身の人などがこういった状態、無業状態になっています。あるいは一定の社会経済的な背景を持つ人などがそういった状態になっています。そこで協調した政策対応が行われていまして、今、地域レベルでそれが伸びてきています。例えば先ほど言った委員会を通して技能向上のための施設・制度を紹介する。また、あるグループの人たちのビジネス、起業などを支援したりするということです。そういった形のいろんなパッケージアプローチをとり始めつつあるわけです。

しかし、これは容易な問題ではなく、解決も難しいと思います。特に先ほど言ったように、複数の障壁があります。人々はいろんな家庭から来る。だれも働いたことがない。あるいは単身家庭、親が1人しかいないとか、あるいは暴力の問題がある。麻薬、薬物問題を抱えているとか、いろんな事情があります。ある意味でこの状況を悪化させているのは、政府の政策が最初にあったからかもしれません。つまり英国政府の政策自身が原因となってこういう状況が出たのかもしれない。

その後、こうした被害を今、修復しようという努力も行われています。複雑な問題として、一言、家族の問題に触れてみたいと思います。経済が今変わりつつある日本で家族がその問題を随分吸収しているとします。日本の失業若年労働者の問題は、EUほど深刻ではないという指摘も日本ではされています。あるいは政府の失業給付を受けている人の数は少ないということがあります。実際、この重みというか、負担は家族が吸収してきました。しかし、このような状況は持続可能なオプションかどうかという問題です。これはまた別の話だと思います。

私の印象を申しますと、家族に依存してこのようなプレッシャーを吸収させ続けるような社会である国は、出生率が低い少子化の国になります。これに複雑な問題もあるでしょう。家族に圧力をかけ過ぎる国というのは女性にも圧力をかけ過ぎる、プレッシャーが高過ぎる、そういう傾向が見られます。それが原因となって結婚しない、あるいは子供を産まないという決定につながります。ですから、社会的な持続可能性があるかどうかという課題が出てきます。

そこで、スウェーデンの考え方があります。つまりこの問題を見る際に、これは「家族が今度、面倒を見てくれるから政策は無用」という考え方ではありません。もっとこれを建設的に全体として解決しようと考えているのがスウェーデン式のやり方で、社会の持続可能性という問題としてとらえます。そして、単に若い人たちが仕事をするとか、そういう問題に限らないで見る。つまりどういった環境条件において、若い人たちが家族をつくるか、結婚して家族を持つか、そして、自分の目標を達成するかというように、社会全体の問題として見ることが重要だと思います。

トーマス

2つあります。外部の調査研究を引用しましたが、実は我々の雇用社会問題DGで行った社会状況報告におきましても、この無業の世帯、そして貧困に関して報告されています。

2つ目の点ですが、この家族支援、家族からの支援の問題に関してですが、家族から支援があるからといって不平を言う必要はないと思います、もしそれが伝統的なやり方であるならば。ただ、若い人に不利な状況になってきたときに家族支援を強要してはいけません。

1つ例を思いつきましたのは旧東ドイツの問題です。東ドイツでは、ほかの国と比べて、若者の労働市場への統合を見習い制度に大きく依存していたわけです。大学教育ではなくて。そして、今では、ドイツの東部におきまして、失業率、特に若者の失業率が非常に高くなっています。また同時に、我々EUはもっと流動性を高めることを求めています。それによって労働市場の改善がある程度できます。

ドイツの南西部の人々が東部に出向いてリクルートします。何十人もの若い旧東ドイツの若者に仕事をオファーして、時として社宅も提供したりしています。そして、勤めてもらうわけです。このような移動性を考慮することになりますと、今度は家族支援ができなくなる。矛盾があるわけです。どうしても家族にとどまれなくなりますから逆の方向になる。こういった仕事のあるところへ出向いていく動きもあるわけです。

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質疑応答

質問者1

主に中村さんにお伺いします。先ほど主な若年者雇用対策をご紹介いただきました。とてもすばらしいもので、おそらく、とても効果を上げるべく策定されておられるかと思います。その効果というのは、とどのつまりは失業者を減らすということになると思いますが、細やかに、どのように一連の施策を評価しようとしているのかということにお考えがあれば、お聞かせいただきたいのですが。

中村

何をもって効果をはかるかということですね。政策評価ということは、私どももで現在、取り組んでいるところです。ただ非常に難しいところがあります。例えばこういうガイダンスやセミナーをやったからといって、その分、翌年、失業率が改善するかというと、なかなかそうはいきません。あるいはセミナーに来た人が実際それで就職しても、それだけの効果とはなかなか言えないところがあります。実際どういうところで効果を評価すればいいのか我々も非常に悩んでいるところです。

実際、現在の政策評価で行っておりますのは、むしろ参加者数ですとか、あるいは先ほど申し上げましたトライアル雇用ですとどれだけ常用雇用へ移行したかとか、そういうようなところでの数値的なもので見る評価を基準としています。

あと、定量的なものとしては、例えば学校と連携して、こういう業務を行った場合に、生徒のほうからのコメントであったりとか、先生あるいは教育委員会からの、今後その施策を続けたいかどうかというような意向であったりとか、そういうようなところでもある程度評価はしています。

質問者2

ウィッタカーさんにお聞きします。国家職業資格制度(NVQ)の話がありましたが、実際、どの程度効果があったかということを、もしわかればお聞きしたいと思っています。

ウィッタカー

政府の包括的な政策によって、ほんとうに人々の技能レベルは上がったのか。そして、階段を上っていったのか。
政府は目標を定めました。それぞれのグループ、階層ごとにその目標を定めて、一定の比率がこういうNVQのレベルに到達してほしいという具体的な目標を、国のレベル、地域レベルで定めました。地域と国などの担当局がその作業をして、どこの技能レベルにあるのかという監査をするわけです。そして、どういった形で技能水準を引き上げるか、それを実際にどのようにして事業者のニーズと合わせるかという包括的なプログラムの中で、その一部がNVQであったという理解をしていただきたいと思います。

NVQは成功したのかどうか、効果があったのか。統計によりますと、ほとんどの地域で技能水準は上がっています。これは職業技能、あるいは学術レベルも上がったということです。しかし、かなりの批判も出ています。国家職業資格制度自体に対する批判もあります。多くの産業特異的なNVQについては、ごく少数の人しか参加していないという批判です。一部に関しては非常に費用がかさんで、参加者がとても少ないという批判もあります。有効性、効果はどうだったかということを問われ、コスト、対費用効果を見ると必ずしも難しい、うまくいっていないという議論が出てきます。この制度のポリシーを懐疑的に扱っている本(『教育は重要か』)も最近発表されました。

質問者3

スウェーデンのアントンソンさんにお聞きします。24歳までの最長12カ月のフルタイムプログラムが提供されているということですが、その後、この人たちがどのように仕事に定着しているのかという実態を教えていただきたい。2番目に、いろんな雇用政策を地域に移している、地域分権が随分スウェーデンでは進んでいると思います。労働市場というのは、国の経済政策と関連しているわけで、地域で雇用創出や能力開発をしている場合でも、国の経済政策と結びついていないといけないと思います。地域の労働政策、雇用政策と国の雇用政策が具体的にどうやって青年の雇用をめぐって連携しているのか教えていただきたい。

アントンソン

「発達保証」プログラムは「活動保証」へと進展し、25歳以上の人々も対象となってきました。ただ、このシステムの背景にある考え方は同じです。生涯教育・学習、経験を積むということ。そして、高齢者であってもみずから習得したいスキルを身につけるということです。

発達保証は補完的な措置です。単独のプログラムというよりも、ほかのプログラムを補完するという位置づけです。したがって、これに参加するのは同じ人たちです。ウィッタカー先生がおっしゃっているような英国の人たちと同じような、すなわち教育レベルの低い人、社会的な背景が不利な人たちで、例えば移民であったり、あるいはヨーロッパ以外の出身の人、主としてアフリカ・中東地域出身の人たちです。そういった人たちがこういった手段を通じてスキル、技能を身につけ、労働市場に接することができるわけです。

ねらいとしましては、たとえ労働市場からかなりまだ離れたところにいても、1回離れても、また戻る可能性が与えられるということです。このような背景の人たちであっても70%の人たちが直接、職についています。あるいはその他の種類の教育、研修を受けるべく進んでいます。したがって、これはかなり効果が出ていると思います。また、こういった人たちの場合、何らかのより社会的な考え方、支援が必要です。そして、さらにこういった道を進んでいかなくてはいけません。

我々の見解としては、いい方法だと思います。国の当局と地方のレベルがうまく協力できていると思います。各プレーヤーが共同できていると思います。そういった意味では、EUの加盟国として、地域レベルにおきましても、労働組合、使用者、教育機関等と合意が得られていると思います。EU地域としての政策面でも、ある程度合意ができていると思います。そして、各レベルでお互いにフィットしているということだと思います。

発表でも申し上げましたように、政策自体は国が立案・策定します。ただ、実際の作業となりますと、これはかなり地域レベルで行います。そして、何らかの形の合意を各関係者間で得ているわけです。いかにこの政策を発展させて利用するかということに関して、合意のもとに進めております。

それから、この地方自治体の部分というのは自主的なものです。あくまでも国と自治体の間で契約を結んで、どのレベルでどのような活動をしたいかを決めているわけです。

小杉

効果的なまとめを途中でウィッタカーさんからしていただきましたので、最後に簡単な補足だけさせていただきたいと思います。

「EUのこれまでの経験から、簡単に導入できるような政策はあるのか」という非常に素朴な質問に対しての回答は、「単純なものはない」ということでした。つまり、個々の政策で、ある国に効果のあがったことがそのままほかの国に当てはまらない。それはイギリスとスウェーデンの方がそれぞれの歴史を振り返って発表されたように、若者の置かれている状況はそれぞれの社会と文化の中に置かれているわけで、単純にどこかの国の効果のあったものを持ってきても、そのままではうまくいかない。その背景を十分理解しながら評価しなければならないということだと思います。

日本の場合、これまでの企業と学校とのつながりとか、社会装置でうまくいっていた部分が崩れている。そういう考え方で取り組む必要があるのではないかと思いました。

さらに、もう1つ、大事なことは教育との関係です。どこの国の場合でも、教育との関係が非常に大きなポイントでした。非常に有名なドイツの例で、職業教育、職場での教育は非常に効果が上がっているという話がありました。あるいは教育段階の13歳、あるいはその教育段階で職場を体験するスウェーデンの例というように、教育段階でどのような職業との接点を持たせるか、これは国による違いがあると思います。それをどういうふうに日本に取り込んでいくかということが、これからの課題だと思っています。ただ、そこで大事なのは連携です。日本の場合は今のところ、省庁が別々に動いていると思います。

スウェーデンの例のように、省庁横断的な形で若者問題を考える必要性に関してですが、現在、若者の問題が非常に個別化しているからこそ、特に焦点を置かなければならない若者がいます。例えば、特定の若者が非常に困難な状況にあるとか、それぞれの社会文脈の中で特定のハンディキャップを負っている層が出てきている。彼らを全体的な存在と認識して、それに対して効果的に対応していくとなると、これは省庁で分断してというのではなくて、包括的な対応策が必要になってきます。その場合、中心になってくるのが地域、市町村というレベルではないかと思います。1人の個人がどこでどういう状況に置かれるか、それをトータルでとらえるのはローカルのレベルです。このローカルのレベルというのがこれからの日本の中で大きなポイントになってくるのではないか。そういう印象を持ちました。

3番目には、若者自体の参加という問題です。これはEUでも述べられておりましたし、スウェーデンでも、若者をコストではなくて資源としてとらえ、そして、どんどん発言を求めて、彼らが政策に参加する、そういう対象として若者を見ています。若者をこの政策の中にどのように取り込んでいけるか、それが重要な視点だと思いました。そのためには、これまでの行政組織とは違う、例えば若者との連携をとっているNPOなどの組織とうまく連携していくといった方向性も日本では必要だという印象を持ちました。

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