議事録:第10回旧・JIL労働政策フォーラム
今後の外国人労働者の受け入れをどうするか
~厚生労働省「外国人雇用問題研究会報告書」をもとに~
(2002年12月12日) 


目次


講師プロフィール

中村 二朗 (なかむら・じろう)

 東京都立大学経済学部教授・「外国人雇用問題研究会」委員。主な著書に『計量経済学』(有斐閣、2000年、共著)等。労働経済学専攻。
 

梶田 孝道 (かじた・たかみち)

 一橋大学大学院社会学研究課教授。主な編書にシリーズ『国際社会』全7巻(東京大学出版会、2002、共編)等。 専門は外国人労働問題。
 

勝田 智明 (かつだ・ともあき)

 厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長。1982年厚生省に入職。2001年厚生労働省大臣官房国際課海外情報官を経て、2002年7月より現職。
 

橋本 哲英 (はしもと・てつひで)

 ハローワーク浜松所長。1962年焼津公共職業安定所に入職。97年静岡県職業安定課主管等を経て、2000年4月より現職。
 

斎藤 邦彦 (さいとう・くにひこ)

 日本労働研究機構理事長。1961年労働省に入職。92年職業安定局長、94年労働事務次官。96年より現職。
 

はじめに(日本労働研究機構理事長 斎藤邦彦)

 きょうは、JILの労働政策フォーラム第10回で、外国人雇用問題をテーマに取り上げました。
 ご承知のように、日本の外国人労働者に対する対応というのは、専門的、技術的労働者は受け入れるけれども、いわゆる単純労働者は受け入れない、こういうことが原理原則のようになっています。昭和63年の第6次雇用対策基本計画の中にそれを書いて、その雇用対策基本計画が閣議決定され、いわば日本の国の基本的な方向はそういうことだということになりました。その基本的な考え方はずっと変わりませんが、その時々の経済情勢ですとか、周囲の取り巻く環境に応じて少しずつ文言の変化はあります。いずれにしても、基本的には、単純に申し上げれば、そういうことになりました。
 ところが、現在、我が国で就労している「外国人労働者」は大体70万人ぐらいかと思いますが、そのうち不法就労者が大体二十数万人。それから、日系ブラジル人とか日系ペルー人とか、いわゆる「日系人」が、やはり同じぐらい、二十数万人。残りの二十万人が、その他の、留学生のアルバイトの方だとか、そういう部類になっていると思います。こういう中で、一体、今のままの制度でいいのだろうか。特に、これから少子・高齢化時代を迎えるに当たって、我が国の経済の活力を維持するためにもこのままでいいのだろうか。さらに言えば、経済のグローバル化が進展する中でも、日本のこういう態度は適切なのだろうか。これは、日本自身にとってもいいのだろうか、と、いろいろな指摘がなされてきました。
 今年の7月に、厚生労働省が開催し外国人雇用問題研究会が報告書をまとめました。この報告書は、いろいろな課題とか、問題について論点の整理をしていますし、あわせて国際的な労働移動の観点から、諸外国の制度の比較等も行っています。この研究会報告書は、これを素材にして各方面でいろいろな議論が行われることを期待するというような性格のものだと考えております。
 今回のフォーラム開催は、このような外国人労働の問題について、今の時期に少し議論をしておこうという趣旨で企画したものです。経済情勢が非常に悪く、また、雇用失業情勢も非常に厳しい中で、外国人労働者の受け入れ問題を議論するとは何事だというお話も一方の議論としてあるかもしれません。確かに、非常に経済が好調で人手不足倒産が言われた80年代後半に、外国人労働者の受け入れ問題がやかましく議論になったということを思い起こせば、そういうことも成り立つかもしれません。ただ、今のような時期にこそこの問題を考えておくことが必要だろうと思います。
 また、この問題ではこれまで非常に多角的な観点からいろいろな議論が行われてきましたし、これからも行われるだろうと思います。議論の論点を整理するだけでも、非常に大変です。
 本日は、限られた時間で、すべての論点について網羅して議論をするというわけにはいきません。このようないろいろな問題も考えなければいけないのかということをご理解いただければ会議の趣旨は達したと思います。この会議で一定の考え方を整理するつもりもありません。そういう意味で、フランクな気持ちでお聞きいただければと思います。
 最初に、都立大学の中村先生に基調報告をお願いします。中村先生はこの外国人雇用問題研究会の委員を務められて、この報告書の作成に当たってご活躍をされた方だと伺っています。それから、パネリストの方から、コメントやご意見を伺います。その後、議論を続けるという感じで進めます。
 

目次へ

基調報告(都立大学教授 中村二朗)

 

労働力の減少を外国人労働者で補おう

 これから、外国人労働者問題を考える際の前提のようなものをお話します。今、お話がありましたように、外国人労働を考える上ではさまざまな視点があります。そのさまざまな視点の中で議論のための共通の土俵をつくっていくことは至難な技でもありますし、あえて共通の土俵をつくる必要もないかもしれません。ただ、こういう限られた時間で議論をするので、狭い範囲での共通の土俵、ある程度、議論をするための環境整備のような形で、外国人労働者を考える場合の問題点、あるいは論点等を簡単に整理したいと思います。
 12月の最初のころに、日本経済新聞に外国人労働に関する記事が載っていました(12月1日朝刊7ページ 『労働力「過剰」から「過少」へ』)。外国人労働の今後を考えるうえで、非常におもしろい内容になっています。最初に、日本経団連の奥田会長がこういうコメントをしているという紹介があります。奥田会長は、最近、外国人労働者を入れようと提唱しています。
 どういうふうに書かれているかといいますと、「日本の就業人口は2025年には現在よりも610万人も減り、このままでは社会保障に伴う国民負担の増加と需要の減少で経済成長率の低下が避けられない。そこで、就業者の減少を外国人で補い、税や社会保障のコストを負担してもらおうということを述べている」ということでした。日本経団連で幾つか試算をやっているようで、2025年までの間、実質成長率を0.5%押し上げ、消費税率の引き上げも10%までに抑えられると、同じところに書かれています。つまり、外国人労働者を国内の労働者が減った分だけ補てんすれば、成長率の低下がかなり抑制でき、それに伴って、社会保障の負担なども軽減されますというような話が紹介されているわけです。610万人、2025年に減っているかどうか。私はもっと減ると思っていますが、これからかなり労働力が減少していくことは確かです。それに対して、かなり大量の外国人労働者を入れることによってマイナス面を補おうという議論が出てきているわけです。
 もう一つ、同じ記事の中に、今度は企業の方ですが、とてもおもしろいことが書いてあります。繊維関係の大手、帝人では中期的な戦略として海外のグループ工場の従業員を日本へ受け入れることを検討しています。国内工場では高い技能を要する仕事が多いが、比較的容易な業務もあり、国内従業員5人のうち1人の仕事が海外工場の従業員にこなせるということです。そういうわけで、海外の従業員をできるだけ日本に持ってきて日本で仕事をしてもらうことを今、中期的に考えているということです。今働いている日本人を外国人に置きかえる、急場しのぎのコスト削減ではない。「これからは労働力急減の時代に備え、国境を越えた労働力の移動を視野に入れる」と、この会社の幹部の方はお話しになっています。つまり、今や日本だけで労働者をどう配置していくか、育てていくかということを考えただけではもう時代遅れだと。中長期的には、外国の方も含めて雇用戦略を今後練っていかなくてはいけないということが指摘されていました。
 この2つの紹介というのは、ある意味で非常におもしろい話を含んでいます。1つは、日本経団連の奥田会長の話で言うと、610万人の労働力が減っていく。610万人かどうかはわかりませんが、今後25年、あるいは50年間で急速に労働力人口が減っていくことだけは確かです。そうしますとここで指摘されているように、600万、つまり、何百万人というオーダーで外国人労働者を入れてもいいという議論が、公然と財界の方々から出てきている。当然、今までも外国人労働者をある意味では受け入れてきました。特に、技能の高い方とか、技術者の方は、基本的には無条件で受け入れてきたわけです。そういう中で、何百万人という話になりますと、当然、技能の高い方ばかりではなくて低い方、特に単純労働者と言われる方も、この中にはかなり含まれることになります。ですから、基本的に単純労働者までを含めて、かなり大幅に労働力を受け入れましょうという提唱でもあるわけです。
 一方、もう一つの例として、企業の雇用戦略の話ですが、ここでも要するに、この文脈の中では、日本人のやっている仕事の5人のうち1人ぐらいの分は、つまり、非常に容易な仕事は、単純労働の外国人の方でもかなりこなせるということです。そういうようなところに、外国人の方をつけていくという記事ですが、これはとても示唆に富んだ発言です。つまり、今まで外国人労働者というのは質の高い(高い技術・技能をもった)労働者は入れ、単純労働者は、基本的に受け入れていないわけです。実際には、先ほどの話にあったように、たくさんの日系人の方や不法就労者が単純労働者として働いています。
 

外国人単純労働者が焦点

 今の日本の入管制度からすると、基本的に、非常に技能の高い、あるいは高度な技術を持った方は無条件に入れ、単純労働者に対しては基本的に入れないという方針をとっています。そういうことに対して、この記事は、その中間を考えましょうということです。つまり、二分法で、技能が非常に高い、あるいは技能が全くないという話ではなくて、その中間の部分を考えて、いろいろな形で外国人労働者を使っていかないと、もはや、雇用戦略が環境に対応できなくなる。要するに、国際競争力がどんどん落ちてしまうということをこの文章は指摘しているのではないでしょうか。
 そうしますと、今まで、単純労働者はだめだけれども高技能、あるいは技術者はいいという話と大分違ってくるわけです。今まであいまいだった単純労働者の定義に対して、もっとしっかりとしたものをつくる必要性に迫られていると理解することも可能になってくるわけです。
 外国人労働者にはさまざまな質があります。今もお話ししたように、その中で本日は、基本的に単純労働者のほうにできるだけ焦点を当ててお話しするつもりですが、単純労働者だけを議論するということはできません。ですから、単純労働者といいながらも、常にその背後にはほかの質の労働者も考えながらお話をすることになります。
 もし、外国人労働者の受け入れがこれから急速に増えてくるならば、その中でかなりの部分が、いわゆる単純労働者、技能のそれほど高くない人たちということになる。そうすると、その人たちをどう処遇するか、どう受け入れるかということが大きな問題になります。政策的には、そういう単純労働者と定義されている方々は今のところ「入ってこない」、「入れない」となっています。ですから、政策の見直しの議論においても、単純労働者に焦点を当てることになるかと思います。
 

外国人単純労働者の受け入れに慎重な6つの理由

 単純労働者の受け入れに対しては、今まで非常に慎重でした。私のレジュメの最初に、「これまでの考え方」として外国人雇用問題研究会の報告書にも書いてある、行政側の基本的な立場を書いておきました。その括弧の中にあるように、単純労働者というのは、日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼす。したがって、十分に慎重に考えなさい。したがって、今のところ、受け入れないというスタンスをとっているわけです。
 その理由としては、いろいろあるかと思いますが、行政の報告書などに書かれている公式な理由は次の6点かと思います。報告書にも、こういう形で整理されています。
 1番目が、他の労働者の就業機会を減少させるおそれがある。
 2番目は、労働市場の二重構造化を生じさせる。二重構造化というのは、自国民と外国人で別の労働市場ができてしまうことで、それによって、労働市場の機能が著しく阻害される可能性があるということだと思います。
 3番目は、雇用管理の改善や労働生産性の向上の取り組みを阻害し、ひいては産業構造の転換等の遅れをもたらすおそれがあること。今は、産業構造を急速に変えていかなければいけないという議論もされているわけです。その中で、生産性の低い部分が、当然、人件費が低いわけですが、そういうところで外国人労働者を雇ってしまうと産業構造の転換を遅らせてしまうという議論です。
 4番目は、景気変動に伴い失業問題が発生しやすいこと。後で、浜松のハローワークの方からいろいろ事例を紹介していただけると思いますが、基本的には外国人の方が、そういう意味では、労働市場の中でマイナス面の影響を一番受けやすい。失業問題が顕在化するのではないかという懸念が生じるということです。
 5番目は、新たな社会的費用の負担を生じさせること。これは当然、異なった文化、そして日本に基盤を置かない方々を受け入れるわけですから、それなりの整備をしなければいけない。そうすると当然、費用が発生します。そういう費用をどうするかという問題が当然、出てきますということです。
 6番目は、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいということが予想されるということです。

 

「外国人労働者の受け入れに慎重な理由」はおかしい

 大体、こういう6点から、「基本的に単純労働者は受け入れないほうがいい」、あるいは「もっと慎重に議論しましょう」ということで、今まで先送りされてきたわけです。ただ、この6点に現実の妥当性があるかどうかは報告書においては議論されていません。私の専門は労働経済学ですが、経済学者に言わせると、この6点はかなりおかしいということが、昔からよく言われていました。
 例えば、一番目の他の労働者の就業機会を減少させるおそれがあると言っても、基本的に労働力が不足する中で受け入れるということであるならば、他の労働者の就業機会を減少させないわけです。ですから、どういう条件のときに受け入れたらどういう効果があるかということを考えると、必ずしも一概にこういうことは言えないという話になります。
 2番目の労働市場の二重構造化もこれは極めて政策的な問題で、二重構造化が生じないように、いかに受け入れのルールをつくるかという問題になるわけで、そういうルールが絶対につくれないということだったならば、こういう話が出てきます。
 3番目は、いろいろな産業構造の転換の遅れをもたらすということですが、これも、果たして、生産性の低いところが外国人労働者を入れたからといって、いつまで持ちこたえられるのかということは甚だ疑問です。どのくらい遅らせる効果があるのか実証的に確かめてみなければわからない。
 4番目も、失業問題が発生しやすいといいますが、どの程度発生するのか、あるいは、本当に発生するのかというのは、今のところわからない問題です。むしろ日本人よりも、母国に帰れるという選択肢を持っていますから、そういう意味では逆に、失業問題が発生しない可能性も当然出てくるわけです。日本人のさまざまなタイプの労働者との置きかえの関係とか競合の関係、さまざまなことを考えて話をしないと、なかなか本当にそうなのかどうかはわからない。
 5番目の新たな社会的費用の負担を生じさせるということですが、これも要するに、費用が発生しても、それ以上の便益が発生すれば、こういう議論はあまり反対する理由とはなりません。
 6番目も、いろいろなことがあるでしょうが、こういうことについては必ずしも、どういう影響があるのか事前にはなかなかわからない部分があります。
 このように、我々経済学者から見ると、この6つの単純労働者を入れない理由というのが果たして本当にそうなのかどうか非常に疑問とする部分があります。ただ、「この6点に対して、こういう問題が発生するおそれがあるので、単純労働者はできるだけ入れないでおこうという立場がとられていた」ということになるかと思います。
 今、少しずつお話ししたように、こういう6点の受け入れなかった理由だった問題が、どのぐらい、これから先、変わっていくのか、変わっていかないのか。そもそも現状として、こういう問題がどのぐらい発生しているのかということは、実は今まであまり実証的に分析されてきませんでした。レジュメにも書いておきましたが、もし、こういう理由で、受け入れに慎重になっていたとするならば、本当にこういうことがあるのかどうか。その効果がどのぐらいの大きさなのかが、今後、単純労働者の受け入れ問題を考える際に大きな意味を持つのではないでしょうか。
 これ以外にも、当然、単純労働者を受け入れない理由、あるいは受け入れない方がいいということに対してさまざまな意見があるとは思います。これはあくまでも、行政の受け入れないための理由を、6点整理したものです。
 

50年後には働くことが可能な年齢の人が43%減少する

 今まで受け入れてこなかった理由として、そういういろいろな要因が考えられていました。では、今度、いよいよ受け入れの見直しということになると、どういう見直しの必要性が生じているかということを簡単に整理しておきたいと思います。
 基本的には、先ほど、お話がありましたように、労働力不足への対応ということです。先ほど紹介しましたように、日本経団連の奥田会長も、これから先、20年間ぐらいで、大体600万人ぐらい日本人の労働力が減ってしまう。その間に、生産性の上昇とか、さまざまな形で労働者が減った分を補うような措置がとられればよいのですが、もしそうではないとすると日本経済自体が縮小均衡に向かってしまう。そういうようなことに対して、できるだけ外から労働力を持ってきましょうというのが最近の外国人労働の受け入れに対する1つの要因ということになるかと思います。特に、単純労働者に対しては、かなりその要因が大きいということになるかと思います。
 どのぐらい労働力が減少するのかというと、先ほど、25年間で610万人という話がありましたが、実際には人口で考えてみると、もっと大きな減少が予想されています。今年春先に出た人口問題研究所の人口の将来予測では、一番悲観的、楽観的、中ぐらいという形の3つの推計を出しています。その中の一番悲観的な低位推計ですと、大体50年後には、15歳から64歳層、大体、働くことが可能な方々の年齢層ということですが、現在のその年齢層の半分近い43%減少してしまうのです。これはあくまで人口ベースです。それほど悲観的でもない、要するに中ぐらいの形で推計した中位推計でも、21%、2割方減ってしまいます。そういう意味では、かなり大きな量の労働力が減ってしまうおそれがあるということです。
 

労働力はもっと悲劇的な数字

 さらに、いろいろな機関でどのぐらいの人が労働市場に出てくるかという予測が出されていますが、大体、役所でやっているほうが楽観的で、厚生労働省とか経済産業省の予想は、非常に楽観的です。人口がこのぐらい減ったとしても、今働いていない人に、もっと働いてもらおう、特に女性や高齢者に頑張って働いてもらおうという議論があります。そうすれば、大体、これからも2%前後の成長が可能ではないかという議論も当然あります。
 ただ、ここで少し考えていただきたいのは、これは外国人労働に関することだけではないのですが、人口だけでこれだけ減るということです。果たして、女性とか高齢者の方々にできるだけ労働市場に出てきて働いてもらったとしても、本当に足りるのだろうか。当然、奥田会長などが610万人と言ったのは、たくさんの皆さんに労働市場に出てきてもらって、頑張って働いてもらうという前提があるはずです。
 ところが一方で、日本経済は、産業構造を急速に変えていかなければならないわけです。そうすると、新たな技能を身につけるためなど、さまざまな形で労働市場から一時、離脱する方々が出てくる可能性があります。国際比較をしてみると、日本の男性というのは極めて労働力率が高い。30歳から40歳層ぐらいで比較すると、日本の男性は大体95%ぐらいで労働市場にほとんど出ずっぱりです。ほかの先進国でも男性のほうが、当然、労働市場にたくさん出ていますが、この94、95%という数字は、他の先進国にはありません。他の先進国は、2、3ポイント、あるいはもうちょっと低い、90%前後。中には80%台のところもあります。つまり、産業構造がどんどん高度になっていく。必要な技術がどんどん変わっていく。今までは企業内で技能形成されていたわけですが、だんだん企業内での技能育成が難しくなると、一回、働くことを中断して、例えば大学へ行くなどというような形で技能の再教育を受ける必要が、当然、出てきます。そうしないとおそらく、産業構造の高度化に対応できない。産業構造の急速な変換を円滑にしたいのならば、男子の労働力率が今と同じような形で推移することは、あまり考えられません。当然、労働時間なども短縮していきます。そういうことを考えると、もっと悲劇的な数字を予想しようと思えば予想できる。そういう意味では、これから今、1.3台の出生率が、1.7とか1.8というふうに復活していくならばともかく、そうで限り、かなり悲劇的だろうと考えられます。
 

外国人労働者受け入れ問題の見直しが必要

 このように労働力の長期的な減少が考えられる中で、当然、外国人労働者、特に単純労働者の受け入れ問題が浮上してくるわけです。そういうことに対応して、いろいろな見直しの議論が出てくるわけです。それ以外にも幾つかこの問題が浮上する要因がありまして、先ほど、理事長から話があったように、実際に今現在、70万人ほどの労働力、外国人労働者が働いています。その中で、いわゆる専門的、技術的労働者として入ってきた方は14%です。ですから8割から9割の方々は、基本的には単純な仕事についている。実際問題としては日系人の方を中心として、比較的、技能の低いような仕事で、もう既に働いているわけです。
 今はまだ、労働力が減少している時期ではありません。こういう不況の中でも、これだけの外国人労働者が何らかの形で働いている。つまり、それだけの需要が、現在も既に備わっているわけです。そういう状況のもとで、外国人労働者、特に単純労働者を今後どう受け入れていくか、きちんとしたルールをつくる。受け入れないならば受け入れないでいいわけですが、きちんとしたルールをつくる必要性が出てくるということになるかと思います。
 それ以外の見直しの要因としては、産業構造を高度化させなければいけないところに、外国人労働者を入れると、逆に高度化が阻害されてしまうという話がありました。確かに一部の産業においては、そういうことが起こるかもしれません。ただ、産業構造を高度化するといいましても、これから三次産業、要するにサービス産業のウェートは上がっていくはずです。特に、労働需要を考えると、非常に対人サービス的なものの需要が拡大していくことが十分に考えられるわけです。あるいは非貿易財。つまり、海外から輸入できないような商品をつくっている3K的な職場は、当然、今後もある程度は必要なわけです。そういう意味では、単純労働に関する需要は、おそらく、なくなっていかない。
 それ以外にも、国際化の問題とか、さまざまな問題があります。例えば、先ほどの産業構造の話に絡めて言えば、産業構造を急速に変えていくときに、さまざまな摩擦が生じる可能性があります。要するに、生産性の低い産業から高い産業に人を移すという話になるわけです。簡単に移せるわけではありません。特に、日本人がうまく産業間を円滑に移るためには、その間の摩擦回避的な対策が必要となります。そういう意味でも、ある程度、バッファーとしての労働力が、今後、常に必要となる。そういうところを女性とか高齢者に埋めてもらえるかどうかも大きな問題になるかと思います。いまある状況、あるいはこれからの変化みたいなものが、単純労働者を中心とする外国人労働力受け入れの見直し議論に通じていると考えることができます。
 

受け入れ方法を議論する前提

 これからいかに、外国人労働者の問題を見直していくかということになるわけです。そこで、そういう議論をするときの幾つかの前提条件みたいなものが、当然、出てくるかと思います。
 それは、どういうようなことかというと、基本的にどの程度、受け入れるのかという話が一番大きな問題となってきます。先ほどの日本経団連の話だと610万人、それを全部受け入れるかどうかは別として、数百万人のオーダーで受け入れていくという話ですが、そのときにどのぐらいの数を入れるのかによって、かかるコストも違いますし、いろいろな問題も違ってきます。
 ただし、そのときに問題となるのは量と質です。単純労働者だけ大量に受け入れるのか、それともある程度、中間的な人たちも受け入れるのかとか、さまざまな問題が出てきます。ですから、どの程度の人たちをどのぐらい入れていくのかという議論が必要になってくる。
 次は、受け入れのコストの問題です。先ほど、コストがかかるから受け入れないという話があることを紹介しました。当然、コストはどう考えてもかかるわけですが、そのコストをだれが負担するのかという話になります。外国人労働者を入れたことによる受益者が負担するのか、それとも受け入れることによって日本経済全体がプラスになるとしたならば、何らかの形で全体で負担するのか。あるいは政府が負担するとした場合に、それは中央政府か地方政府かなど、さまざまな問題があるわけです。ですから、便益の発生とコストの負担ということを、どういうふうにうまくルールづくりをしていくかということも大きな問題になるかと思います。
 それ以外にも、どのような受け入れ環境を整備するか、また、だれがそういう整備をするかということも出てきます。今まで受け入れてきた先進各国を見ると、かなり受け入れ状況も違っている。どういう受け入れの環境整備が最も我が国にとって望ましいのか。これは、当然、受け入れる量と質にも依存します。そういうことをある程度考えなければいけない。
 もう一つは、これはある意味では非常に大事な話かと思いますが、恒常的受け入れか、短期的受け入れかということです。言い換えると、受け入れる量をコントロールできるのかどうかという話になります。つまり、水道の蛇口を開けたり閉めたりすることができるのか。一たん開けてしまったらなかなか閉められないのか、あるいは、一たん開けてもまたすぐに閉めることができるのかどうか。どのぐらいコントロールできるのかということを、踏まえて外国人労働者の受け入れ問題を考えなければいけないと思います。
 そういう前提を踏まえた上で、今後の単純労働者の受け入れをどうするか慎重に考えなければいけないと思います。ここで少し考えておかなければいけないことが幾つかあります。
 

外国人労働者以外で労働力不足に対応可能か?

 先ほど、これまで受け入れに慎重であった理由はどの程度、現実に妥当性があるかという話をしましたが、それ以外にも、見直しの必要性等を考えた場合に、幾つか論点が浮かび上がってきます。論点2としては、外国人導入以外の対応策で回避可能かどうか。これは、ある意味では重要な話になってくるわけです。外国人労働者は受け入れないほうが、おそらく、コストがかからないという意味では、いろいろな意味で我々は楽をできるわけです。ただ、受け入れざるを得ないとしたならば、どのぐらい受け入れるべきかという議論になってくるわけです。そうすると、この回避策というもので対応できるのかどうかということが、当然、論点になってきます。
 先ほど、610万人、日本人の労働者が減少するという日本経団連の試算例を引きましたが、かなり悲観的なものから楽観的なものまであります。どのぐらい労働力が減ってしまうのか。それに対する対応策もいろいろなところから出ています。今までは労働力が減少しても2%成長ぐらいだったならば、他の手段を用いて何とかなるという論調が強かったと思います。
 ただ、先ほどの労働力減少のところで、人口予測に関連してお話ししたように、今後、かなり大幅な労働力の減少がありそうです。さらに、産業構造を急速に変えていかなければいけないというのならば、なかなか難しい問題が出てくるのではないか。そうすると今まで大丈夫だと言っていた者に対して、かなり真剣に、慎重に、本当に大丈夫なのかということを議論する必要があるのではないかということが論点2です。
 

受け入れ目的と手段の整合性

 論点の3番目は、受け入れ目的と受け入れ手段の整合性を確保することは可能かということです。要するに、なぜ受け入れるのか、どういう目的で受け入れるのかということがあるわけです。その受け入れ目的に応じて、当然、どのようなタイプの人をどれだけ受け入れるべきかという話も出てきます。あるいは受け入れの場合、その量をコントロール可能かどうかという話も、当然、出てくるわけです。そうすると、そういう目的と手段の整合性を確保することは可能かどうかということです。
 これは、私よりも梶田さんたちのほうが専門家だと思いますが、現状の外国人の受け入れというのは、基本的に、政策的に意図したものと大分違った形で、いろいろなタイプの方が入ってきています。そういうことに対して新たなルールをつくるといったときに、本当に、目的と手段の整合性を確保できるのかどうか、かなり慎重に議論しなければならないと思います。
 

単純労働の定義

 論点の4番目は、日本経団連の試算と、それから、帝人の例で出ましたように、これからただ単に単純か、あるいは高度な技能を持った人と二分法で分けられるのかどうかということです。企業は外国人労働者をいろいろな形で使いたいと考えている。つまり、長期的な雇用戦略の中でいろいろなタイプの外国人の方を位置付けようとしている。そうすると、「単純労働」というものがそもそも何なのかというのが非常に難しくなってきます。何をもって単純労働と見なすのか。研修制度では半年とか1年間研修するとある程度、技能が育つという話をしているわけです。そうすると、単純労働で入ってきても、1年、あるいは何年かいると、単純労働ではなくなる可能性があるわけです。ですから、単純労働というのを我々はどう定義したらいいのだろうかという問題が出てきます。
 ですから、これからの外国人労働を単純労働者の受け入れの是非などというように、「単純労働」とのみくくってはいけないということにもなるかと思います。これが4番目の論点です。
 

受け入れの問題点を回避する方法

 次に、論点の5番目です。最初に外国人労働者、とりわけ単純労働者を受け入れない、受け入れることに対して慎重になる理由を6点ほど挙げました。これらに、果たして現実妥当性があるかどうかということは議論しなければいけないわけですが、当然、6点のうち何点かはかなりの影響力を持つこともあるかと思います。そういうことは慎重に見きわめた上で、では、そういう問題点が仮に出たとするならば、それを回避するような受け入れのルールは、どういうものかということを検討せざるを得ないことになるかと思います。
 これは、受け入れの問題点を回避するといってもいろいろな方法があります。制度をつくるのはとても難しいわけですが、一たんつくってしまった制度が非常に硬直的なものでは困るわけで、環境変化に対するある程度の柔軟性がその制度に要請されます。そういうような柔軟性を持ったルールをつくるということで問題点を回避することも、当然、可能になってきます。あるいは逆に、非常にがちがちなルールをつくって、その枠内でしか入れないことで問題点を回避する方法も、当然、とることができます。
 ですから、どういう形でいろいろな問題点を回避するか、あるいはできるだけその影響を少なくするかということが、仮にルールをつくるとしたならば、重要な問題となってきます。
 

すべての受け入れ方法に共通の前提

 いろいろ考えなければいけないことがあるわけですが、今お話した環境変化に対する柔軟性も一つの重要な要素です。ただ、それ以外にも、ルールの公平性と効率性というのは、非常に大事になります。最初の6点の問題点の中で最後の問題、送り出し国との関係も出てきます。つまり、送出国に対しても、ある程度、公平なルールでなくてはいけない。つまり、外国人労働で動くのは人です。物ではありません。ですから、公平性というのは国内だけではなく、国際的な公平性も、当然、求められます。ルールの公平性と効率性というのを常に考えざるを得ない。
 2番目が柔軟性ですが、3番目は送出国との整合性の保持ということが大きな問題になってくる。要するに日本が、仮に、何百万人も外国人労働者を受け入れた場合に、周辺国にどういう影響を及ぼすかということも、考えざるを得ません。そういう意味で、送り出し国との整合性をいかに維持していくかということも非常に大事になります。
 それから、これは言わずもがなですが、国内労働市場の市場機能をいかに保持していくかです。先ほどの入れない理由のうちの、例えば市場が分断化されてしまい、それによって労働市場の市場機能が著しくゆがめられるということが起こったならば、やっぱり市場に問題が起こると思います。そういうことをいかに回避し、市場機能を維持しながら入れることも、ルールをつくるときの前提になると思います。
 それから、最後に、これは受け入れ方法について当てはまる事柄というよりも、例外の部分をどうするかという問題です。外国人労働といったときに、我々はさも当然のように、日系人の方々を外国人に分類してしまいますが、本来、受け入れの趣旨から言うと外国人ではないわけです。日本国籍を持っている方と、同等な処遇をするという形で日系人の方々を入れているわけです。いろいろなルールをつくったとしても、そこから漏れる部分がかなり多いとそのルールが「ざる」になってしまう。
 ですから、ルールで網をかける部分を、いかに確保するかということも、非常に重要な問題になってくると思います。日系人の方々に対して、外国人労働者という枠組みの中で考えていくのか、あるいは全く別なものとして考えていくのか。その辺の議論もどこかでしないと、ルールがちゃんと機能しないということも出てくるかと思います。こういうことを考えながら、単純労働者を含めた、外国人労働者の受け入れの是非、あるいは問題点等を、これから議論していきたいと思います。
 

目次へ

コメント(一橋大学教授 梶田孝道)

「報告書」について、議論の前提

 外国人雇用問題研究会の報告書が7月に出まして、私もそれを拝見いたしました。また、今日その委員の一人でいらっしゃいます中村先生の報告をお聞きしまして、私自身は今の報告、あるいは報告書に対して、基本的に反対というわけではありません。しかし、外国人労働者受け入れのためにはどういったことが必要なのかということについて現状の問題を理解しようとしてきた立場から、コメントさせていただきたいと思います。
 私自身は政策立案を専門としているわけではなく、社会学者の立場で現状把握を追ってきた者です。外国人を正式に受け入れる場合には、先ほど中村先生がお話しになりましたような現状があるわけですけれども、それを基礎にして既に生じている問題というものに着目するのが一番早いのではないかと私個人としては思っています。
 報告書の中に、いろいろな国々の制度や運用等々について書いてあります。(私自身もこれまで質の問題とか、量の問題などを勉強してきました。)それらを学ぶ必要があるのはもちろんですが、ただ、日本の現状との隔たりは大きく、直接に参考になるわけではありません。また、そこに最大の問題点があるかどうかということについては、若干疑問を持っています。もう少し違うところに問題があるのではないかということです。
 

バックドア、サイドドアからの受け入れ

 中村先生は仮に云々という形でお話になりましたが、今、数百万人という大幅な受け入れを実際に日本は行っているわけではありませんから、それも当然だと思います。けれども、私自身は、日本もまた、現在、公式、あるいは非公式に外国人を受け入れていると認識しております。これは、よく言われるバックドアとかサイドドアからの受け入れも含めてということです。こういった実績とか現状について考えておくことが、今後の受け入れ方法に非常に参考になるのではないかと考えています。想定される外国人労働者の問題も、規模の大きさはもちろん違いますけれども、既に日本社会の中に存在していると私は思っています。
 ですから、こうした問題への取り組みを考慮しつつ、仮定上の議論をするのではなくて、できるだけ現状に即した議論をするのがいいのではないかと思っています。そういう意味で、先ほどの中村先生の議論の方向とは、ちょうど逆のほうからお話しします。
 

外国人雇用の4分類

 皆さんと認識が同じかどうかわかりませんけれども、私は4つぐらいの分野で考えておくのが適当だろうと思っております。
 1つは、いわゆる「人文知識・国際業務」、あるいは「技術」というカテゴリーで入ってきている人たちです。つまり、知識や技術を持った人たちということです。これが1つのレベルです。これは、既に公式に受け入れているレベルです。
 もう一つは、いわゆる「日系人」というレベルです。この人たちの多くは、皆さんご承知のように、自動車とか電子部品等々の製造部門で、いわゆる単純労働として働いているということです。
 それから、3番目は、「研修生」とか「技能実習生」というカテゴリーで入ってきている人たちです。この人たちのすべてとは言いませんけれども、かなりの部分が農林漁業とか、あるいは既製服製造であるとか、あるいはブロイラー産業であるといったような業界の、いわゆる単純労働で働いているということです。
 それから、4番目は、いわゆる「非合法就労者」と言われている人たちで、これは、先に申し上げたカテゴリーとも重なり合うわけですけれども、さまざまな人たちが存在するということです。
それぞれ、外国人需要はさまざまで、業界の違い、企業規模の違い、それから賃金の違い、そういったものがあるということです。これはこれから受け入れる場合でも、当然、予見しなければいけないことだと思います。
 

社会学的にみた現状

失業と無関係、「3K労働」に集中

 それから、社会学的な現実から出発しますと、あらゆる国の外国人の受け入れはいわゆる業界の需要に基づいて行われてきたということを念頭に置かざるを得ません。それをいけないと言っているわけではなく、事実を言っているわけです。
 言いかえますと、本国人の労働者がつきたがらない、あるいは本国人労働者が集まりにくい分野で起こってきているということです。そういう意味では、失業とは直接関係ない、少なくとも当初は失業とは関係のない形で起こってきているということです。つまり、高失業の場合でも起こり得るということです。
 これは、ピオーリという経済学者が言っていることですが、どういった分野に集中するかというと、これは日本の現状を示していると思いますけれども、いわゆる3K労働の分野ということです。これは、合理化等々によって克服できないわけではないけれども、克服は難しい場合が多いということです。
 それから、2番目は、社会的な威信が低い分野。最も低い分野。これは社会階層とか社会階級とか、そういった問題がある限り、根本的に克服することができない分野です。常に、最も低い分野に位置する人たちはいるということです。
 それから、3番目は、フレキシブルな労働力への需要が大きい分野。つまり、自動車産業のように、あるいはコンピューター産業のように需要の変動が非常に大きい分野ということです。こういうところでは、いわゆる正規の労働以外の、いわゆる非典型的な労働が非常に多くなっているということです。日系人しかり、あるいはアメリカのIT技術者しかりということです。
 それから4番目は、社会制度上、労働者の声が反映しにくい分野です。俗に言う労働組合の力が弱い分野ということです。
こういったところに、事実上、外国人が入ってきていると思います。さっきも言いましたように、失業している人の中でも、社会的な威信の低い職、あるいは3K労働を選ぶことを嫌う人たちが実は多いということがあるかと思います。
 ですから、外国人労働者が、もし本国労働者と競合するとしたら、それはそういった、例えば高齢者であるとか、例えばパートタイマーの女性の人たちであるとか、そういった不安定な労働力だろうと思います。今日の日本においても、こうした分野で事実上の外国人労働者の受け入れが行われていると私は思います。それから、将来においても、正規に受け入れられるようになったとしても、それは良い悪いは別としてですけれども、このような分野で拡大するだろうと私は思います。
 

「移民」としての受け入れと「非移民」としての受け入れ

 今日は、お話にはなりませんでしたけれども、移民の受け入れについて報告書では次のように述べられています「移民」としての受け入れと「非移民」としての受け入れがある。アメリカなどが典型的ですけれども、両方のチャンネルを持っているということです。西欧諸国の場合はすべて「非移民」として受け入れてきたということです。これが戦後、受け入れが行われ、事実上破綻し、定住化に向かい移民化し、その一部は国民となっているということです。ですから、政策の破綻も含めて西欧諸国に学べということなのかなと私は報告書を読んで理解したのですけれども、もしそうだとするとこれは責任ある議論とは言えないと思いました。
 西欧諸国において、外国人の定住化というのは、政策の意図せざる結果として起こったというのが常識だろうと思います。例えばフランスでは70年代終わりに本気で外国人労働者たちを強制帰国させようと思っていました。ドイツも外国人労働者を帰国させることができると思っていたということです。それがフランスの憲法とか、ドイツの基本法とか、そういったものの制約があって破綻したということです。その結果として家族呼び寄せが権利として認められ、国際的に広がっていったということです。これがヨーロッパの帰結ということです。今日の日本も、そういう、いわば人権レジュームの中にあると私は理解しています。
 

第二世代以降の誕生

 もう一つ、先ほど議論されなかった問題ですけれども、私は非常に重要な問題だと思っているものがあります。それは時間という問題です。外国人労働者の受け入れは、しばしば一時的な受け入れとして始まったけれども、定住化に結びつく、あるいは家族の呼び寄せに結びつく。第二世代が誕生する。こういうケースは結構多いということです。それをコントロールすることは、実は非常に難しいわけですけれども、そういうケースは多いということです。
 ただ、いわゆる外国人にしろ、移民にしろ、第一世代と第二世代以降とでは極めて違った行動様式をとります。要するに働く動機も違うし、仕事観も違います。外国人がつきたがらない仕事につくのは、基本的には第一世代だけです。西ヨーロッパの場合もそうです。現在、第二世代、第三世代になっていますけれども、第二世代、第三世代の人たちが、第一世代のついた仕事につきたがらないという現実があります。つまり第二世代は3K労働に従事しないということです。その時点で、また、3K労働ないしは社会的威信の低い労働が大量に発生するということです。これも、実証されていることですけれども、第二世代以降は生活様式が本国人と基本的に似てきます。ですから、出生率も本国人並みに下がるということです。したがって期待される人口を移民によって確保しようとすると、絶えず移民を入れなければならないということに、論理的な結論としてはなります。
 それから、これも当たり前のことですけれども、移民も高齢化します。西欧においては、移民第一世代の高齢化問題が現在起こっています。ですから結局のところ、移民によって人口を補うことが、果たしてできるのでしょうか。それは否定する理由にはなりませんけれども、やはり出生率を上げる社会内在的なメカニズムがないと、入った移民すらも出生率が下がってしまいます。
 私は、人口問題の専門家ではないのでわかりませんけれども、ただ、同じような状況に置かれている、例えばフランスの話を聞いてみますと、出生率が1.6とか1.7まで上がっているということは聞いています。ということは、そこまで上げることは、内在的にできることなのではないかと思います。
 

「移民」か「フレキシブルな労働力」か

 それからもう一つ、これも原理的な点で重要なことだと思いますけれども、必要とされているのは「移民」なのか、それとも需要の変動に対処するための「フレキシブルな労働力」なのかということです。アメリカに入ったIT技術者たちは、いわゆるH-1Bビザ(短期滞在ピザ、最長で6年)で入ってきていますが、定住化する人たちもいます。それから、日系人の人たちも、業務請負業者による間接雇用です。また、研修生・技能実習生で1年ないし数年働いている人たちも、就労と言えるかどうかわかりませんが短期的な就労です。
 ですからここでは、外国人労働者云々ということよりも、フレキシブルな労働力ということが、より重要な問題になっているのではないかということです。現在、こういう不況下にありますけれども、本国人、つまり日本人の労働者自体が、派遣とかアルバイトとか、さまざまな形で不安定労働化しています。ましてや外国人労働力もその傾向にあるということです。そういうことが問題なのではないかということです。
 

知識・技術をもった労働者

 外国人労働者を3つほどに分けてお話ししたいと思います。最初は知識とか技術を持った人たちのことです。アメリカでこの問題が非常に大きな問題になっています。必要があればアメリカのことについても後で議論したいと思っています。
 ただ、1つだけポイントとして挙げておきたいのは、アメリカのIT産業も重要ですけれども、その中にはインド人が多いわけで、いわゆるエスニックな企業家、つまりアメリカに定住したインド系移民の人たちが非常に大きな役割を果たしています。こういった人たちが一種の媒介的な役割を果たしているということです。
 日本の場合、こういったレベルに属する外国人は、それほど多くないのですが、事実上留学生の就職という形で増えている。これも考えようによっては、予期せざる結果ではないかと私は思っています。この場合、外国人といっても、現在のところ大きな問題はほとんどないと考えてよいと思います。ただ問題なのは、やはり日本語の壁ということと、日本で生活し続けるかどうかという問題だろうと思います。
 ドイツも、インド人のIT技術者を大量に受け入れようとしていますけれども、それほど多くないと聞いています。むしろ相対的に多いのは旧ソ連とか東ヨーロッパからの技術者だと言われています。おそらく言語的な問題、文化的な問題があるのだろうと思います。だから日本の場合、中国人留学生に代表される、日本での就職者とか、あるいは日本で企業を興す人たちとか、そういった人たちが1つの媒介的な役割を果たすのかなと思っています。
 それから、日本の場合にはIT技術者の需要が大きいですから、今のところ問題はないし、むしろ必要だと私も思っていますけれども、アメリカなどの例を見ますと、この業界においてもある限度を超えると本国人労働者との競合はあり得ると思います。しばしば、インド人技術者とアメリカ人のマイノリティーとの対立とか、そういったことが議論されているようです。
 それから、この業界も当然ながら、不況と全く無縁とは言い切れないということです。そういう意味で、無尽蔵に必要であるかどうかということについては、私は留保したいと思います。2000年に入ってからだと思いますけれども、アメリカにH-1Bビザで入った人たちにおいてもレイオフが起こっているという話を聞いたことがあります。この人たちは新中間層に属する外国人と言っていいと思います。いわゆる永住化が起こる一方でその人たち自身が非常に国境を超えた性格、トランスナショナルな性格を持っているということです。ですから、日本の出入国管理自体も一国的ではなくて、トランスナショナルな視野を持つ必要があると思います。例えば、カナダもポイントシステムによってたくさんのIT技術者が入っていますけれども、カナダからアメリカへ流出する人たちが非常に多いと聞いています。
 

「日系人」のレベル

企業城下町に需要が多い

 次に、いわゆる現在の「日系人」のレベルで起こっていることについて、ちょっとお話ししたいと思います。このレベルは、自動車とか電子部品の業界、一次下請等々ですけれども、地方の企業城下町が多いというのは、皆さん、ご承知のとおりだと思います。この領域が外国人需要の一つの中心だろうと思います。これは報告書でも指摘されていますけれども、現在、日系人に限定されています。ですから、もし政策が変わった場合に労働市場は拡大し、賃金も下がるだろうと思います。結局、外国人の就労が増加し、日系人の総体は、事実上、減っていくだろうと私は思っています。日系人で日本で働き続けたい人は、より安い業界へ拡散していくと思います。その一方で、日系人の日本への定住が増えるでしょう。これは、報告書に書いてあることと同じです。
 それから、中村先生も指摘されましたけれども、日系人という人たちは、特殊な存在です。つまり、就業上、滞在上の制限はないということです。失業しても、帰国しない例も多いということです。あるいは、公共住宅への入居も可能であるということです。家族での来日も可能であるということです。そういう点で、将来の外国人労働者の場合と同じではないということは、一応念頭に置いたほうがいいかもしれません。
 

フレキシブルな労働力を提供するシステム

 日系人を相手にした業務請負業者、いわゆる人材派遣業がこの10年、非常に拡大してきたわけです。この業界は、フレキシブルな労働力を提供するシステムをつくり上げてきたと私は理解しています。この業界は間接雇用です。ですから、仮に正規の外国人受け入れが今後は起こったとしても、このシステム自体は変わらないだろうと私は思います。つまり、直接雇用ではなくて、間接雇用で拡大していくだけだろうと思っています。これはいい悪いという問題とは別の問題です。
 それから、これは長期的な600万人云々という話ではなく、最近のことですけれども、ある社会学者がトヨタ自動車等がある豊田市周辺で行った調査(丹野清人「グローバリゼーション下の産業再編と地域労働市場」『大原社会問題研究所雑誌』№528、2002.12月)を引用しますと、外国人(日系人)雇用をやめた企業が実は非常に多いという調査結果が出ています。外国人労働者に替えて、日本人労働者、つまり女性、高齢者を使用するケースが増えています。これは短期的なことですけれども、そもそも、それほど多くの外国人需要が常に想定できるのだろうかということをこの調査を目にして感じます。ですから日本人、外国人という区分と同時に正規社員とフレキシブルな労働力という区分のほうが、事実上、より重要になっているのではないかと思います。
 

集住現象と文化摩擦

 それから、この日系人の領域においては、これもよく指摘されることですけれども、雇用主側から、あるいは外国人労働者側から、新しい制度になった場合に雇用期間延長の要求が出てくる可能性は非常に高いということです。そうすると居住が長引くということです。権利が発生する。家族呼び寄せといった事態が起こる可能性が非常に高いということです。それから先ほど言いましたように、第二世代を抱えるということになると思います。第二世代というのは、先ほども言いましたように第一世代とは基本的に違います。価値観も違うし、労働への姿勢も基本的に違うということです。ですから極端な言い方をすれば、第二世代は既に本国人であるというふうに私は理解しています。
 この日系人の業界では外国人の居住問題、後で浜松のお話が出てくると思いますけれども、居住問題、それから保険の問題、あるいは雇用の問題、業務請負業者の問題ですね。そういった問題は現在と同様に、将来においても続くだろうと私は見ています。こういった外国人を多数抱える都市が集まって、外国人集住都市会議(http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/dl/tp0711-1h.pdf(PDF:8.6KB)新しいウィンドウ 参照)というものを開き、国にいろいろな要望をしました。私もそれを傍聴させていただきました。こういった都市においては、外国人の比重はさらに高まるだろうと思います。現在、3%から、5?6%というところが多いと思いますけれども、仮に数百万人というようなことになりますと、全国一律に広がっていくわけではなくて、こういった都市を中心にして広がっていくということです。浜松とか豊田とか豊橋とか、そういったところで、おそらく人口の1割、あるいは2割といった状況になるのではないかと思います。そのようなところでは、現在、経験されている外国人の集住現象とか、いわゆる文化摩擦といったものは続くだろうと思っています。日系人労働者には保険の未加入問題が多いですけれども、こういう問題も継続するだろうと思っています。
 今日、これはたかだか数十万人の問題ですけれども、このような問題を解決しないで、将来の受け入れにおいて解決できるとは、私にはとても思えないということです。だから受け入れるなと言っているわけではなく、こうしたことをきちんと解決して今後の受け入れを図ってほしいと言っているわけです。
 

「研修生」、「技能実習生」のレベル

 2番目に、「研修生」とか「技能実習生」のレベルで起こっていることについてお話しします。これは日本人労働者が集まらない分野というだけではなくて、日系人も集まらない分野ということです。これが第二の外国人需要の中心です。さっきお話しした浜松とか豊田には、こういった人たちは、多分それほど多くないだろうと思います。
 「研修生」とか「技能実習生」の制度によって賃金は人為的に抑えられていますから、仮に受け入れが始まれば賃金は上がるでしょう。最低賃金制度は守らなければならないということがあるからです。ですから逆に言うと、研修生等を利用している業界は、賃金が上昇して危機に陥る可能性が高いだろうと私は思います。
 「研修生」と「技能実習生」については、多分、ここにいらっしゃる人はほとんど熟知されていると思いますから説明しませんけれども、両者の間には(金額で)大体四、五万円ぐらいの差があると言われています。「研修生」は雇えても、「技能実習生」は雇えない業界では、正規の外国人就労の恩恵は、事実上得られにくいでしょう。「技能実習生」を雇っている業界は受け入れが始まれば正規の外国人雇用を望むだろうと思います。そういうことで、これは報告書でも指摘しておりますけれども、「研修生」は文字どおりの研修生になるだろう。それから、「技能実習生」は外国人雇用によって置きかえられるだろうと思います。
 ただ、正規の外国人になると、明らかにこれは就労ということになります。ですから中間搾取等々が困難になります。現在の状況では業者とかブローカーなどを経由した非常にあいまいな仕組みが存在します。このような仕組みがどうなるのだろうか。あるいは最低賃金とか社会保障のミニマムは、ほんとうに守られるのだろうかということを私は危惧します。
 

「非合法就労者」のレベル

 最後に、いわゆる不法就労、あるいは「非合法就労者」のレベルについてお話しします。この市場は依然として残るだろうと私は思います。現在、「研修生」とか「技能実習生」に支払われる金額というのは非常に低いものですから、いわゆる不法就労者と接触して、そんなに高いところならば、そっちのほうがいいやということで多数の失踪者が出ています。正規の受け入れになっても状況は同じことだろうと思います。つまり、失踪が出るだろうということです。もし、現在の「非合法的就労者」の業界の賃金が相対的に高いのであれば、先ほど挙げました「研修生」とか「技能実習生」の業界では、外国人雇用をコントロールすることが、事実上、非常に難しくなるでしょう。また労働市場は破綻していくだろうと思います。そのような予想が立ちます。
 もう一つ、「研修生」とか「技能実習生」の場合、この失踪を防ぐために住居上の管理とか、監視が非常に厳しいというふうに聞いています。こうした規制がないと失踪を防止できないということがあると思いますけれども、一体、こういうものは正規の受け入れになったらどうなるのでしょうか。
 

その他の問題

 最後に、そういう細かい問題ではなくて、もう少し大きな問題を二、三お話しします。1つは、このフォーラムはJILの主催ですけれども、こういった問題は経済人、あるいは労働関係者が注目するのは当然のことなのですが、労働を中心にしか見ていないということが、基本的な印象です。その労働以外の分野の問題というのも、実は既に起こっています。その既成の問題について、十分フォローしていないと私は思います。報告書を読んでもそういう感を強くしました。
 それから、外国人労働者政策というのは、先ほどの中村先生のお話にもありましたけれど、予想できない部分が非常に大きい。やるなと言っているわけではないですけれど、そういった予想外の部分が大きいというままで済ませているのではなくて、もう一歩踏み込むことが必要だろうと思います。報告書を見ても、こういった点について、十分考慮しているとは私には思えませんでした。西欧の外国人の定住化というものは意図せざる結果として起こったということです。あるいは90年の入管法を契機として、日系人が、最初、少なかったですけれども、一挙に数十万になった。これも意図せざる結果だろうと思います。
 それから、これは社会学からの知見なのですが、社会学の中で移住システムという考え方があります。これはどういうことかというと、一たん公式の人の移動の流れができてしまうと、それはいわば自己運動するということです。つまり、一たんでき上がったルートに沿って、国境を越えた移動が定住化する。それから、その移動を前提として、生涯を考えよう、生活を考えよう、あるいは自分の仕事を考えようとする人たちが非常に増えてきます。つまり、移動のルート、生活世界の拡大が起こってくるということです。それが国境を越えて起こってくるということです。それを覆すことは非常に難しいことです。つまり政策上の都合で、人の移動の流れを切ったり開いたりすることは、事実上、非常に難しいということです。これは先ほど、定住化が意図せざる結果で起こったと言いましたけれども、一たん入った人たちが定住化するだけではなくて合法、非合法、あらゆる手段をとって入り続けるということです。この点については覚悟すべきだろうと思います。
 

問題への取り組みは今後への試金石

 それからもう一つは、居住とか、保険とか、雇用とか、子供の教育とか、集住とか、こういった問題についてですけれども、先ほども言いましたけれども、外国人集住都市会議の取り組みは今後への試金石だと言っていいと思います。これは報告書も指摘していることです。こうした問題に対する正しい対応を行わないで、これが将来解決できるとはとても思えません。
 これらの問題に関して私は、厚生労働省も含めて、行政の取り組みがあまり熱心ではないと思います。社会的コストの問題というのは、将来起こる問題というよりは、現実に起こっている問題であると思います。また、先ほど言いましたけれど、第二世代に至れば、本国人の労働者と同様な労働市場に属します。つまり競合するということです。社会的コストについても本国人と同様になるということです。もはや外国人ではないということです。
 

行政の不整合を是正することが課題

 それから、こういった日系人の多い地方都市では、国際課とか国際交流協会といったところを中心にして、外国人子弟の教育とか住民登録とか保険等々の問題が検討されています。国に対しても申し入れがなされています。これは、ある意味では問題解決のためのモデルを提供している事態だと私は思います。国も知らぬ存ぜぬを決め込むのではなくて、援助しながら取り組むべきでしょう。外国人集住都市会議というのは、そういう意味では、将来の実験をしているのだろうと私は思います。東京会議が11月に開かれました。そこでの関係省庁の発言はほとんどネガティブなもので、私は非常に失望しました。少なくとも現在の段階では、こういった取り組みに対して、国の側に積極的に応える動きはまだ起こっていないと私は思いました。
 国として、どのくらいの規模になるかわかりませんけれども、受け入れということを考えるとしたら、少なくても各省庁における取り組みの不整合を是正する必要があります。厚生労働省、あるいは文部科学省、外務省、法務省等々、てんでんばらばらです。こうした状況で解決できるはずがないし、むしろその不整合自体が問題をつくり上げていると思います。ですから、政策の調整が必要であるということ。それから、さらに、こういった問題についての新しい部署を創設する必要があるということです。政策だけじゃなくて、部署としても新しいものをつくり上げて、そういう段階を経て始めて組織立った外国人の受け入れということができるのではないかと私は思っています。
 かなりネガティブなことばかり申し上げましたけれども、私自身は外国人労働者の受け入れに対して、もちろん基本的に反対ではありません。ただし、そのためには考えるべきことがあまりにも多いのではないかということを提起したかったわけです。特に、重要なのは、いわゆる3K労働の分野です。
 

最低賃金の確保と身分保障

 私自身の基本的な見解を最後に1つだけ述べさせていただきたいと思いますけれども、外国人労働者を受け入れたとしても、その場合には最低賃金を守ることが必要です。
 それから健康、あるいは保険、こういったことについて、いわゆる3K労働であろうとも、単純労働であろうと、なかろうと、保障することが必要です。それから、いわゆる労働組織、労働組合等々による身分の保障が必要です。さらに言えば、この分野において法律をつくって受け入れるわけですけれども、その法律の実効性を高める必要があります。
 このいずれをとってもみても、現在、何も守られていないと私は思います。例えば、研修生とか技能実習生で働いている人たちは労働者でないと言ってしまえば、それまでですけれども、すべてとは言いませんが、その多くに対し最低賃金を守っているとは言えません。また、業務請負業者から間接雇用で雇われている日系人の多くは、自分たちの意図もありますけれども、保険に入っていないという人たちが非常に多いわけです。あるいは、外国人労働者の救済のために動いているのは、いわゆる地域ユニオンといったものです。つまり、そういった労働者の連帯といったところが非常に欠けている業域で起こっているということです。
 それから、業務請負業者もこれは不法だと思います。今度、法律が変わるという話を聞きましたけれども、事実上、不法だと言われています。あるいは研修生が失踪すると、つまり、表と裏が非常に違う現状があるわけですけれども、法律自体がそういった表と裏を使い分けているという状況があるわけです。こういったことが、100万人、200万人と外国人を受け入れた状況で、果たして、うまく機能するのだろうか。こういうことこそ、考えなければならない問題ではないかと思います。
 
【齋藤】 それでは次に、ハローワーク浜松の橋本所長にお願いします。皆さん、ご承知のように、浜松は群馬県の太田と並んで、数多くの外国人が定住しておる地域としてとても有名なところであります。第一線でいろいろと取り組んでおられる経験も踏まえながら、お話をいただければと思います。

 


目次へ

コメント(ハローワーク浜松所長 橋本哲英)


 

ものづくりの町ハローワーク浜松管内の受け入れ状況

 本日のテーマの外国人の労働者の受け入れをどうするかという直接のコメントにはならないかもしれませんが、私ども、ハローワークにおきます主に取り組みの状況と管内の状況につきまして、ご報告をしたいと思います。
 私どものハローワークの浜松管内ですが、実は、県の一番西部に位置しまして、浜松市、浜北市、湖西市、それから浜名郡、それから引佐町、3市6町を管轄しております。平成14年の10月の統計ですが、管内人口が82万6,511人です。静岡県内で一番人口が多いのが浜松市で、59万7,000人ぐらいです。ちなみに県庁所在地の静岡市は46万8,000人ぐらいです。
 私どもの管内の主要産業は自動車、楽器、織物で、この大きな3つの産業を中心にして物づくりの町として発展してきました。また近年、私どもは、光技術、あるいは電子工学技術などの先端技術産業などによりまして、国内はもとより、今や世界的に高い評価を受けるという産業が育ってきました。私どもの管内には、今回ノーベル物理学賞を受賞された小柴先生の研究で、ニュートリノの観測装置の開発に大きな貢献をいたしました、浜松ホトニックスという会社がありますが、これらを中心にして、今現在、産学の共同研究がいろいろな形で進んでいまして、今後、ベンチャー企業をはじめとする雇用創出が大いに期待されるというところが私どもの管内の様子です。
 それから雇用失業情勢につきましては、これは私どももずっと水面下に入っていまして、最新の数字では、10月の有効求人倍率が0.84です。ずっと水面下に入っているという状況です。これにつきましては、とにかく厳しいという一言で進めさせていただきたいと思います。
 私どもの管内の外国人の登録者の関係につきまして、数字上で説明しますと、外国人の登録者ですが、入管法の改正前の平成元年の12月を見てみますと大体5,200人ぐらいでした。それから改正後の平成2年の12月で見てみますと9,000人余で倍増しています。それから平成4年になりますと、1万5,000人ということで、どんどんふえ続けています。そういう中で、バブル崩壊後の不況が来たわけですが、平成5年、あるいは6年につきましては、登録者は減少いたしました。
 私どもでは、増加傾向に歯どめがかかったかなというような思いをしていたわけですが、平成7年度以降、再び増加に転じてきているわけです。そして、平成10年頃から請負事業所等で働く外国人労働者の方たちが多数解雇されるというような状況で、非常に雇用環境が悪化したわけです。しかしながら、減少はせず、増え続けました。
 この一番新しい数字ですが、平成14年の10月末で、私どもの管内の外国人登録者が2万7,326人という数字になっているわけです。外国人の方たちの職業相談を、実際に数字上で見てみますと、新規に申し込みに来た人たちの部分ですが、平成8年から平成12年度ぐらいまでは、月平均大体50人くらいでした。それが平成13年度に一気に増えまして、月平均114人ということで倍増しました。しかしながら、14年度に入りまして、4月から10月までを平均しますと57人で、減少しているという状況です。
 新しく仕事を求めている人たちの男女別の構成比ですが、大体男子が60%、13年度で見てみますと60.3%という数字になっています。国籍別では、やはりブラジルが圧倒的に多く58.2%、それからペルーが26.3%、その他が15.5%というような状況になっています。
 それから年齢別の構成の状況ですが、13年度の新規求職者全体をみますと、20歳以下の方が37.4%ぐらいです。それから、21歳から30歳までが32.9%です。31歳から40歳までは19.0%、それからそれ以上の方が10.7%ということで、30代以下の方が70.3%ぐらいを占めています。これが今現在私どもの取り扱いの数字です。
 

外国人対象の求人は少ない

 それから、求職者に対します職業相談ですが、私どもの平成8年度の月平均を見てみますと、月大体78人ぐらいが職業相談に入ってきているわけですが、平成13年度には283人が月平均で、大幅に増加しているわけです。これも、実は平成14年度に入りましてから少し落ちまして、165名というような状況です。私どもが実際に窓口で対応する相談件数は大幅に増加しているわけですが、紹介就職は、今の雇用・失業情勢を反映いたしまして、なかなか伸びてこないというのが実態で、大変苦労しています。それから、私どもが求人をいただく中では、外国人を対象にした求人というのはほとんど出てきません。一般の求人の中で、一応対応しているというような形にしています。
 それでは、企業のほうはどうなっているのかというと、私どもは外国人を雇っている事業所から、外国人の雇用状況報告をいただいており、13年度の結果をみますと、12年度と比べまして、雇用をしている事業所が10.2%ぐらい増加しています。また、雇用されている人も12.2%ぐらい増加しています。それから、雇用されている人たちの産業ですが、これは製造業が圧倒的に多く、82.3%です。その製造業では、輸送用機械がほぼ半分で、51%を占めているというような状況です。先ほど先生方からのお話がありましたように、私どもは、まだまだこの管内では、外国人の方たちが減少していくということではなかろうというようにとらえているところです。
 なお、職種でみますと、生産工程の作業で働いている人たちが大体88%ぐらいの率です。大部分はこの生産工程の作業です。それから、次いで運搬労務の作業というのが5.1%くらい。それから、専門技術職については2.5%という数字でした。 
 

言葉の問題が大きい

 私どもが窓口で職業紹介をしていますと、直接、企業のサイド、あるいは求職者サイドからいろいろ話が聞けるわけです。マッチングする際に一番問題になっていますのは、やはり言葉の問題です。単純作業でありましても、段取りだとか、あるいは指示等に対して的確にできるかどうかというのは、これは非常に重要です。そこの部分がどうもできない。それから、長期、5年ぐらい滞在していても、日本語をまだ覚えてこないという人たちがいます。この人たちはグループで仕事をやっている、あるいはグループで住んでいるということになりますと、ふだん直接日本人と会う機会もないし、日本語の必要性も特に当面はありません。こういう人たちが働いているときはいいのですが、いざ仕事をやめてハローワークにきたとき、非常に私どもが苦労します。長い期間働いていますから、何とか対応できるのかなと思っていますと、なかなか実際には仕事が理解できない。というようなことで、言葉の問題というのが、私どもが職業紹介をしている中では、一番の大きな問題になるというふうにとらえております。
 

定住化に伴う問題

 昔は出稼ぎ的に、一時的に来て帰るということを前提にしている方が多かったのですが、最近はそうではなくて、少し長く、定住化するような傾向が若干出てきました。過去には保険などは手取りが減るからかけないでほしいというような要望が非常に強かったのですが、最近は逆に、正社員で賞与が出るところ、それから保険も全部加入できるところというように、具体的な希望を出してくるケースが非常に多くなってきました。少しずつこのように、求職者の動向も変わってきているととらえています。
 それから、住宅の問題だとか、労働習慣の問題、その他いろいろな問題が生じています。それともう一つハローワークでは、職業相談だけやっているわけではありません。半分ぐらいは生活相談というような、いろいろな違う分野での相談です。先ほど言ったように、定住化、あるいは家族の滞在型が増加しますと、日本で生まれる子供さんがいる。そうすると保育園の問題、あるいは教育の問題、こういった部分が非常に大きな問題となってきていると、私どもは感じています。まだまだいろいろな問題があります。
 私どもが直接本人たちの言葉を聞いている中で、非常に突拍子もないような発言が結構多いということを一、二ご紹介させていただきます。まず、求職者サイドからの部分です。これは失業して安定所へ出てきたときのコメントですが、「何ヵ月も仕事につけなくて困っている。日本人は外国人を助ける義務があるのではないか。日本の企業が外国人を日本に連れてきて働かせてもうけているのだから、再就職は国が責任を持ってやるべきではないか。安定所が何とかしろ。」というような、非常に切羽詰まったような意見もあります。
 それから企業サイドでは、「僕のところの外国人の方たちは、ほとんど日系人で、まじめに仕事をしている。そして残業も嫌がらずにやるので、日本人よりも雇用しやすいよ。」というようなコメントもありますし、また逆に、「たくさん日本人が失業しているのにもかかわらず、どうして外国人を雇用するんだ。」という企業の意見もあります。
 

具体的な取り組み

外国人問題のセミナーは参加率が高い

 いろいろな形でこれから問題整理がされていくと思います。これからの受け入れの諸課題に対する問題が提示されてきて、そういったものを、私どもの窓口の現実的な問題としてとらえて整理し、情報発信をしていかなければならないと私どもは考えていまして、いろいろな対策を具体的に打っているわけです。
 まず私どもの、6月の外国人労働者問題啓発月間を中心としました事業展開では、適正な就労形態の確立、あるいは適正な雇用管理の確保を図るということが大前提です。企業の皆さん方にお願いしていかなければならない部分ですから、このような外国人の労働問題講演会、あるいはセミナーを開催しています。実は今セミナーを開催しますと、一番参加率がよいのがこの種のセミナーです。私どもは高齢、あるいは若年者問題のセミナーもやっていますが、企業が特に関心を持っているこの外国人問題が一番参加率が高いです。
 

サービスコーナーの設置

 それから、私どもは外国人雇用サービスコーナーというものを設置していまして、これを使った職業相談、あるいは紹介の充実も非常に大きなテーマです。今、厚生労働省のほうへいろんな部分でお願いをしているわけですが、体制づくりとして、ここを充実させて、いろいろな形で問題に対応できるような窓口にしたいなというようなことを考えているところです。
 

いろいろな角度から検討を

 次に、私どもの関係機関とか関係団体との連携について二、三触れさせていただきたいと思います。先ほど外国人集住都市会議が開催されたという話がありました。私ども浜松市がいろいろな提言をし、あるいは問題提起をする中で、やはりこの外国人の就労問題というのは非常に身近にとらえられています。実は13年の10月に、集住都市会議の第1回目が開催されました。そのときに浜松宣言及び提言が出され、それを踏まえまして、外国人の就労に関する様々な問題、実態をいろいろな形で議論していく場を設けようということで、浜松市がこの8月に、外国人の就労関係研究会を設置しました。これは関係行政機関、もちろん入管、それから社労士、監督署、安定所、県、あるいは警察、消防団体、交流会等も入りまして構成されていて、いろいろな角度から外国人の問題を検討して、そして対応していこうというようなことが提案されまして、第2回目は近々開催される予定です。
 それからもう1点、浜松市のことについて少し紹介させていただきますと、実は浜松市には人権啓発推進協議会というのが設置されています。いろいろな人権問題の検討をやっていて、私も構成委員として、参加しています。実は去年、外国人の人権問題についてのテーマで、協議会で、失業した人をモデルにして、啓発ビデオをつくっています。それから、平成12年度にハローワーク、あるいは国際交流協会、それから産業雇用安定センターが主催いたしまして、日系人労働者のための研修会を開きました。これは日曜日にいろいろな人たちに来ていただきまして、日本語の講演会、それから法律、税金等に関する研修会、個別の相談会を実施していました。
 日本語講習会では教材を無料に配付しまして、いろいろな主立った日本語の解説をしたりしました。それから、研修会では法律などの説明、あるいはビデオを使った形でやっています。個別相談では雇用の問題も扱っていたのですが、雇用の問題というよりも住宅だとか保健だとか保育だとか、いろいろな角度からの相談が多くありました。そういう中で、日本の習慣だとか職場環境への理解を深めてもらわないと、どうしても就職問題はうまくいかないわけで、そういったものを主に私どもは対策を打っているというのが実態です。
 しかしながら、私どもが現場で感じますのは、今の受け入れの中でいろいろな問題が起こっています。それを一つ一ついろんな形で議論し、そして解決に向けてやっていく、集住会議が試金石だというようなお話を先生のほうからいただきましたが、私も同感です。いろいろな形で現状を、まずしっかり見つめていくという対策が必要ではなかろうかという考えのもとに、私どもは、行政運営に努めているということで、ご報告にかえさせていただきます。
 
【齋藤】  それでは、次に勝田さんに報告をお願いします。
 

目次へ

コメント( 厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長 勝田智明)

 外国人雇用対策課の業務を中心に、厚生労働省のやっている対策と、今後の受け入れ方針についてお話ししたいと思います。また、その中で若干、中村先生と梶田先生がおっしゃられたことについても、すこし気になったことに触れてみたいと思います。
まず厚生労働省でやっていることの1つは、「外国人労働者受け入れについてどうすべきかを検討する」という大きな仕事です。これを外国人雇用対策課で今やっていまして、実は外国人雇用問題研究会も、外国人雇用対策課で事務局を務めました。
 それからもう一つは、「外国人労働者を雇用するに当たって、その雇用のお手伝いですとか、雇っている側の指導ですとか、そういったいわば外国人労働者を受け入れて、雇用に伴い発生する社会的コストの部分に対する対応」だと思っていただければいいかと思います。
 

国民的なコンセンサスづくりを

 受け入れ方針をどうするかということについて言えば、もう皆さんご承知のとおり、専門的、技術的な方は受け入れるけれども、いわゆる単純労働者は慎重にというのが、これまでずっと私どもがとってきた方針です。それは今後情勢によって変わるかもしれない。そのための出発点というのが、この研究会の検討でした。今後どうするかについて、私どもは国民的な議論にしたいと思っています。そういう意味で、今日のような機会は非常に歓迎していまして、今後これも含めましていろいろな議論が巻き起こることを願っています。
 ただ、その場合の視点とか問題点などについては研究会報告の中に述べてあるとおりです。中村先生から、この6点の問題点とされているものはほんとうに存在するのかというお話もありましたが、ここでは一々申しませんが、私は大なり小なりあり得るだろうと思っています。ただ、それが量と質の問題によってコストがどこまで大きくなるのかならないのか、それを回避できるのかといった問題はあろうかと思います。その場合のメリットとデメリットを冷静に議論していって、国民的なコンセンサスをつくる必要があります。
 

まず日本の目指す国の姿の議論を

 ただその中で1つ気になっていますのは、これは先に受け入れの方向とも関係してしまうのですが、私ども日本は一体どういう形の国を目指すのだろうかということです。別にイデオロギー的な意味ではありません。といいますのは、日本人の数が減って、労働者の数も減る。そのときにGDPもそれに応じて減るかもしれません。そのときに労働者の数を維持して、日本のGDPは全体としての大きさを維持しなくてはいけないのか、あるいは数は減っても一人一人が豊かな生活を送れるような、一人当たりの国民所得が多い国になればいいのか。そういったことについての議論は、まだ尽くされていないのではないかと思います。そういったイメージについての議論をした上でないと、どういう国に持っていこう、どういう産業構造に持っていこうといった議論は難しいのではないかと思います。
 

入国してから職探しという場合も

 今の政府の対策について若干述べさせていただきますと、実は最初にやっていますのは、まず外国人の方が、今どれぐらい働いているかを、毎年把握しています。これは、毎年6月1日に企業に報告をお願いして集計しています。
 それから2つ目は、社会的コストの中で一番のコストは、入ってきている外国人の方々の問題です。入ってきている外国人の方々は、入ってきた時点で仕事が決まっている方もいますが、中には決まっていない人もいます。日系人のように仕事が決まらないで入ってくる方や、留学生として来てアルバイトをする、あるいは留学を終わったので仕事をしたいといったような形で仕事を探される方、あるいは仕事が決まっていて入ってきたんだけれども、不都合があって会社をやめることになった、あるいはリストラで解雇されたという方を含めて、職を探される外国人の方に仕事を世話するということがあります。

専門的・技術的就職では企業の求める水準が高い

 日本語をしゃべれれば基本的には問題はありませんが、日本語をしゃべれない方も多いので、全国約600ヵ所ありますハローワークのうち、81ヵ所に通訳を置いています。橋本所長のいらっしゃいます浜松市もその一つです。それから、先ほど来話が出ています人文ですとか、国際ですとか、技術ですとか、あるいは留学生の方が卒業後に就職するといったような専門的、技術的な方の就職をお手伝いする専門のハローワークを、東京と大阪に外国人雇用サービスセンターという形で設けています。外国人の留学生の方の就職問題はなかなか難しいです。日本語の問題というのもありますけれども、企業が外国人に求める技術と国際的な知識というのはなかなか高いです。
 

日系人の相談サービスはよろず相談窓口に

 先ほど来、日系人の問題が出ています。日系人につきましていろいろなご相談に乗ったりするために、東京と愛知の日系人雇用サービスセンターを含めますニッケイズ(NIKKEIS)といったような組織で、相談サービスを全国7カ所でやっています。これは主に産業雇用安定センターという、私どもの関係の財団法人に委託して行っており、ここで日系人の方々、ポルトガル語、スペイン語でのご相談に乗っています。ただこれは職業生活上の相談だけでなく、現実にはよろず相談的な窓口になっています。
 労働関係の相談は、最近、特にここ1年ほど不況の影響で割合増えたのですが、実は労働以外の問題で変わった相談でいうと、交通事故の相談があります。これは交通事故に遭ってしまった、あるいは起こしてしまったというような相談とか、あるいは、家族で一緒に連れてきたおばあちゃんを、どこか老人ホームに入れたいのだがといったような相談とか、もうありとあらゆる相談が、ニッケイズや私どものハローワークのほうに持ち込まれている。そういった点で、先ほど高齢化に伴う社会的コストは今後絶対出ますよという話が出ましたけれども、実はもう家族呼び寄せといいますか、家族と一緒にお見えになっている方のところでは、一部既に出てきている。
 

雇う側への指導

 それから、今度は雇われる側の話だけではなく、雇う側の事業主に対する指導の話があります。先ほども所長のほうから、外国人を雇う企業を中心として集めて、その問題に関するセミナーを開いていますといったお話が出ましたが、それを含めまして、ちゃんと最低賃金法を含めた労働条件、労働基準法を守っていますかとか、あるいは雇用管理に当たってはこうですとか、さらにもう一つ大問題を言えば、不法就労させないようにしてくださいねといった指導をしている。
 それから、最後にいわば不法就労の防止ということで、これは私どもだけではなく関係の省庁、警察庁ですとか法務省ですとか、こういったところと連携をとってやっていますが、実にいろいろな問題が起こっていると思っています。では、今後どうするのか。先ほど少し、日本がどういうふうな国を目指すのかといったような話をしましたけれども、実はこの問題の中の1つはまさに日本人、日本が何を目指していくのかということに非常にかかわっていると思います。先ほど産業構造とか、労働はどうするのかという話が出ましたけれども、もう一つは、日本人自身が、一体労働の世界においてどういう働き方を選択していくのかということがあると思います。
 先ほど来、絶対3Kの職場はなくならないんだとか、外国人が3Kの職場につくというお話も出ています。確かに日系人の場合、あるいは不法就労の方の場合はそうですけれども、諸外国で見た場合に、3Kの一番典型的な職場は、多くの場合建設業です。ところが日本で見た場合には、建設業における外国人は、一時期非常に多かったのですが、最近ではずっと減ってきて、日本人の就労のほうがほとんどです。しかもどちらかといいますと、建設業は今縮小ぎみですから、日本人で建設業に就業・就職したいという人は多いですけれども、外国人を雇おうという事業主、会社、企業側のニーズはそうでもない。
 あるいは介護はどうでしょう。一部には3K労働だという声と3K労働ではないという声といろいろありますけれども、介護の需要は、厚生労働省の試算によると、毎年約10万人ぐらい新たに必要になります。これに対して実は、介護をできるホームヘルパーさんですとか、介護福祉士といったような研修を受けて、その資格を取られる方は毎年30万人以上出ているというのが実態です。この仕事は確かにきつい面もあろうかと思いますけれども、必ずしも日本人がやりたがってないわけではない。そうしますと、社会的意識の問題はあろうかと思いますけれども、労働条件ですとか、日本人のいろいろな意識の問題といったものと、どの仕事を日本人で埋めていくのかといった問題は切り離せない。3Kの仕事だから安易に外国人にということでも無いと思います。
 そういう意味では、我々自身、日本人自身がどういう産業構造にして、どの仕事を日本人がやっていくのか、どの部分が足りないから外国人にということになるのかどうか。ただ足りないからということになった場合でも、外国人を入れて社会的なコストが見合うのかどうか。今交通事故の話を出しました。慣れないので交通事故も多いのですが、中には日本の事情をよく知らないので任意保険に入っていないというような方も、外国人で運転される方には多くいます。
 それから、逆にいいますと、先ほど若い第二世代の話が出ましたけれども、第二世代の子供たちが、教育の年齢を終わって、普通でしたら働く年齢になってうまくいかなければ、いろいろな社会的な摩擦、正直いいますと非行の問題とかそういったものも出てくるかもしれません。現実に出てきていると聞いています。このような問題もあります。
 集住都市会議の施策提起に中央省庁は熱心ではないのではないか。若干耳が痛い部分もありますが、中央省庁の一員としては、まず中央省庁のうち、かなりの省庁は今熱心に耳を傾けながら、次の一手として何を打つべきかを考えているところが多いのだろうと思います。若干スローだと言われる批判は覚悟の上ですが、そういった意味で社会的なコスト、あるいは摩擦に関する解消を、今まさに日系人については、やり始めているところです。
 

社会的コストと国内労働力との競合

 さて、最近の議論では、先ほど日本経団連も含めて、人口減少だから、あるいは産業構造が転換するからといったお話が出ましたけれども、今申しましたように、日本人がこれからどうするのか、日本人がどういうふうに働いていくのかということを決めて、さらに社会コストを決めてから見極めるべきであると思います。
 社会コストの問題について言えば、先ほど日本経団連の奥田会長のお話の中で、税金と社会保険料を負担してもらってというお話がございましたけれども、外国人の皆さんに対する住民サービスコスト、行政コストは高いです。いろいろな前提がありますけれども、安い賃金の方がいて、通常に消費税と税金、社会保険料を払っても、多分赤字になると思います。これは実は、私どものほうで数年前と、それから今年出された研究で、あまりにも単純化し過ぎた前提を置いてのことでありますけれども、ほとんどの場合赤字になるという計算が出ています。ただこれは、低賃金の労働者の方を前提にしていますので、ここでもまた質の問題が再び繰り返されることになります。
 周辺諸国、東南アジアも、中国もそうですが、日本に外国人労働者を受け入れてほしいという圧力は強いです。ただ、ヨーロッパも含めて、無条件にほかの周囲の国から外国人の労働者を受け入れている国はありませんし、それから、受け入れる場合でも、量と質のコントロールがいろいろなふうに行われています。
 例えば、イギリスの例で申しますと、ついこの間まで、IT労働者については無条件で、基本的に入れてあげましょうというのが、イギリスの入国上の政策でした。ところがIT産業の労働者は、今や余りつつある。国内、あるいはEU内で調達できる、充足できるということになったものですから、イギリスは方針を変えました。IT産業の労働者であっても、外国人を入れるときには、イギリス国内、またはEU域内で、そういう職種の求人ができないということを事業主がきちんと示さない限りは、外国人を入れないよという方針に転換しました。
 実は、日本の政策で、専門的、技術的な方については、その分野を満たせば、数が多くなっても、日本人と競合があっても入れないという方向になっていません。そういう意味では、専門的、技術的な方については、日本のほうが、実は制度的に緩い形になっているのです。果たして今後それでいいのかどうか。あるいは、今、専門的技術に入っていないけれども、日本人との競合とか、いろいろな問題を考えて入れるべき分野があるのか。それは日本がどういう姿を目指すのかというもとの話に戻ってきてしまうわけです。
 

目次へ

討論

【齋藤】 それでは、これからパネリストの間で少し議論をさせていただきたいと思います。中村先生の話を受けての梶田先生のお話には、大変重要な示唆があるのではないかと感じました。
 私の理解が間違っていると申しわけないのですが、現在、約70万の外国人就労者が日本にいて、その間にいろいろな矛盾点、問題点が発生してきている。こういう問題点、矛盾点を正確に把握して、対応策を考えた上で、外国人労働者問題を今後考えるべきではないか。要約すればそういうことではないかと思いました。
確かに、現在、就労している外国人労働者の間にどういう問題点があるのかといったことが、議論として抜けているのではないか。あるいは、外国の制度についてはいろいろ書いてありますが、制度のことだけではなく、その制度の運用によって諸外国ではどういう問題点が生じているかといったことの指摘や問題点の列挙があれば、報告が非常に迫力あるものになったのではないかと私も感じました。
 それをやろうとするのは大変なことではありますが、物の考え方の視点として少し議論したらいいのではないかと思います。中村先生、いかがですか。
 

報告書の意図は「議論の材料の提示」

【中村】 勝田さんが言われたように、「日本が今後どういう形をとるか」、「どのような姿をよしとするか」ということは非常に大事な点です。ですから当然、それを前提としての話になります。
 縮小均衡する。つまり経済規模は小さくなってもいいから、一人当たり所得を増やす。そういう世界を目指すのも当然一つの選択です。一方で、やはりそれなりの存在意義が日本経済にはあるのだから、一定以上の規模は常に確保していかなければいけないという議論もあるわけです。ですから、どのような10年後、20年後を目指すのか。それによって、「現状では何をすべきか」が決まってくる。我々が議論する場合には将来の姿、あり得るべき姿を考えなければいけない。そのことに対しては全く同意いたします。
 ただ、そのためにこそ、今議論しなければいけないのです。10年後、20年後どういう姿を目指すかというときには、人という話が絡んできます。だからこそ、我々は慎重に、できるだけたくさんの材料をもとに議論をしなければならない。報告書も基本的にはそういう意図で書かれています。現状に対する問題点とか、受け入れに対する是非、そういう価値観はとにかく除いておく。議論するための材料をできるだけ客観的に提供する。そのことによって、できるだけ多くの皆さんが参加した形で議論し、外国人労働者をどうするか検討していくための材料にしたいということなのです。「今ここでこうすべきだ」とか、「現状、こういう問題がある」となると、何らかの価値観を持った報告書になってしまう。外国人労働の議論は非常に長期的な話です。そういう意味でもできるだけ客観的に、慎重に議論していただきたい。そのためには、とにかく材料を出すということで、今回の報告書ができ上がっています。
 梶田先生などから、「現状に対する認識が欠けているのではないか」、あるいは、「現状への対策こそが、次を考えるときの大前提になるのではないか」というお話がありました。確かに、現状から学ぶことは非常に多いと思います。外国人労働者が入ってきたときに、日本の現在の労働市場にどういう影響を及ぼすのか、あるいは、どういう問題点が生じるのかということは、基本的に経験から学ぶしかないわけです。そういう意味で現状認識はとても大切ですが、一方では、「現状がどういう枠組みからつくられているのか」という問題があります。日系人をどういう範疇で考えるかは別として、それは外国人労働者を単純労働では受け入れないという政策の目的と現状が、かなり乖離した状態にあるという問題であるわけです。「現状を把握して、それを将来にどう生かすか」というときに、「現状ではこういう問題があるから、とにかくそれを解決しなければ次に行けない」という話ではないと思います。つまり、新たな制度、新たなルールをつくろうと言っているわけです。あまり足元に重きを置いた議論をしてしまうと、「将来あるべき姿にどう対応するか」と考えるときに、逆に足かせになってしまう。
 現状分析は非常に大事です。それに対する解決策を考えることも非常に大事です。それを承知の上で、あえてそういうところにはできるだけ触れないようにしたというのが、この報告書の意図といいますか、目的に沿った書き方だと我々は判断いたしました。
 

現状を直視する中で将来が透けて見える

【梶田】 論点はたくさんありますが。今のお話について一言言わせていただくと、「現状の問題を解決しないと、新たな受け入れはすべきではない」と言っているわけではありません。現状の問題を直視する中で、受け入れの具体的な仕方とか、どんな対応を考えなくてはいけないかが、おのずとわかってくる。そして現状の中から将来が透けて見えるのではないかということです。だから、私が申し上げたことは、中村先生がおっしゃったことと、基本的に矛盾はしないと思います。対峙する意見として言っているわけではなくて、「より地についた議論にするためには、こういった側面からの議論が必要だ」ということを言っているわけです。
 それからもう一つ、ヨーロッパの国々は移民国ではありませんから、戦後、壮大な実験をやったわけです。つまり1,000万人ぐらいの外国人、あるいは移民を受け入れた。その結果としてさまざまなことが起こって、法律が変わり、外国人排斥を主張する政党が支持を伸ばし、はては大統領候補にまでなった。あるいは、そういう政党が政権についた国が幾つもある。イタリアもそうですし、オーストリア、オランダもそうだと思います。そんな現状があります。
 「中立的なことをまず議論して」ということは、手続的にはよくわかります。しかし、それだけでこういう問題を考えるというのは、非常にナイーブだなという感じがします。
 

日系人にとっても定住は「意図せざる結果」

【勝田】 報告書については中村先生のおっしゃったとおりです。「将来を見据えるために、現実で起こっていることにはあまりとらわれない」というのは、事務局としてもまさにそのとおりと考えていました。
 梶田先生の「現状を直視すれば」というお話についてですが、今来ている日系人の人たちの定住ないし日本にいようとする思考と、今後もし新たに外国人の単純労働者を受け入れた場合に来るだろうアジアの人たちの定住ないし日本への来方の思考とは、若干違うと  思います。そうすると、それによる問題の起こり方も違うだろう。そういう意味で、現在の日系人の問題を解決すれば将来の問題も解決できるかというと、若干また違う問題が起こってくるのだろうと思います。
 梶田先生は「政府の意図せざることが起こった」とおっしゃいましたけれども、それは日系人自身も、意図せざる結果だったのだろうと思います。というのは、日本で二、三年、「金さえつくれば帰るので、1人で出稼ぎでもいい」と思って来た人たちが、なかなか二、三年では金が稼げないものですから、だんだんと長くいるようになる。長くいるようになれば、家族も呼ぶようになり、そうなると余計に金がかかるものだから、いる期間がまた長くなる。そういった形で、定住化が進んでいる。しかも二世といいますか、そこで第二世代が育ち始めていますから、彼らが本国ブラジルやペルーとの関係でも違う行動に出るというように、意図しない事態がいろいろ起こっているのが現実ではないかと思っています。

【齋藤】 研究会報告では、いろいろな論点が提示され、その際に考えるべき視点が指摘されているわけですけれども、今提示した点以外に議論する前提といいますか、この問題を考える視点というのはあり得るのでしょうか。
 

3つの追加的論点

【梶田】 追加的な論点として、言葉や文化の問題はやはり避けられないだろうと思います。よくインドからIT技術者を入れればいいのではないかという議論があるわけですけれども、言葉の問題があり、例えばシステムエンジニアだったら、業務を実際にそういった記号というか、プログラムに移していく作業が必要です。それは日本語の問題とも無関係ではないだろうと思います。そういう意味で、留学生はある程度有利かなと思います。IT技術者だけでなく、看護で働く人であっても、あるいは、いわゆる単純労働の人であっても、先ほど「日本語がわからないと話にならない」という浜松の話がありましたが、外国人を実際に受け入れる場合に、言葉の問題と無関係に議論することは難しいだろうと思います。
 それから、これは関西大学の井口教授などもおっしゃっていることですが、EUでは地域統合を、アメリカでもNAFTA(北米自由貿易協定)というのをやっています。グローバル時代とはよく言われることですが、国家のレベルから一挙にグローバルなレベルへというのは非常に飛躍があるわけです。そこでセーフティーネットのようなものとして地域が考えられている。EUとはそういうものだと私は理解しています。そこでFTAというか、自由貿易協定が現在考えられている。ところが日本は、ほとんど丸裸の状況に置かれているわけで、経済的、技術的な面で、アジア、あるいは東アジアとの連携みたいなものが今後考えられていくのだろうと思います。外国人や移民受け入れの問題も、そういった文脈で考えることができるのではないでしょうか。
 もう一つの論点は、今は「どこの国から」という問題がありますが、これからは「どのような機関を介して来てもらうか」が非常に重要な問題になることだろうと思います。今までのいろいろなケースを見てみますと、大体3つぐらいあります。
一つは、戦後の西欧諸国、ドイツなどでやったことですが、国家主導型というものです。国家が責任を持つ。しかし、これは破綻したわけです。
 もう一つは、日系人の受け入れのようなものです。厚生労働省でも一生懸命なさっていますが、実際問題として、日系人がやってくるのはブローカーを通してです。ブラジルのブローカー、それから日本の業務請負業者を通して9割以上の人たちが職についている現実があります。そういういわばブローカー媒介型というものです。
 3番目は、そういったものを一切介さないで、家族や親族といった人的ネットワークの中で動くということです。メキシコ人がアメリカに数百万人といわれていますけれども、そういった移動、あるいはフィリピンから日本への移動などでも考えられると思います。
実際に日系人の場合はどうか、研修生や技能実習生の場合にはどうか、いろいろ違いがあるわけですけれども、それぞれについて、現在の受け入れの仕組みがどのように変わるのか、あるいは変わらないのかということについては、議論する必要があるかと思います。

【橋本】 将来の受け入れ環境をどうするかということについては、議論が必要な部分だと思っています。ただ、行政としましては、現実に第一線の窓口で深刻な問題も起こってきているわけですので、そういう部分では、直接その場で答えを出して返さなければならない。「将来的にどうするか」という部分と、「現実的にどうするか」という部分とは分けて議論する部分であろうと思っていますし、ここのところは早急に検討しなくてはいけません。「社会的なコストをどうするかという問題は先送りする」という話になってまいりますと、いつまでたっても解決しないと思うわけです。コストの問題は、将来に向けても、現状におきましても、当然、共通の問題ではないかと感じております。
 

ブローカーを介した来日は減少

【勝田】 梶田先生のお話に若干コメントします。地域統合の話が出ましたが、確かにEUではEU域内について人の移動が基本的に自由になっています。これは、EU内各国間の経済的格差が小さいことが、大きな要因だと思います。ではNAFTAのほうは人の移動が自由かというと、実はアメリカ、カナダ間の移動については、専門的・技術的職業に近いものであれば数に限りなく、いわば日本の専門的・技術的な人の受け入れと同じような形で入国をオーケーしましょうという形になっています。
 しかし、アメリカ、メキシコ間について言えば、今までは専門的・技術的な人についても一定の数による制限を課していました。最近、アメリカでは制限を廃止する方向に動いています。これはメキシコの経済水準が上がったことが大きな要因ではないかと思っています。
 ですから、日本が東アジア、あるいは東南アジアと地域的な統合を強めていく場合でも、東アジア、あるいは東南アジアの国々との経済の格差ですとか、いろんな問題が絡んでくるだろうと思います。
 それから、梶田先生がおっしゃった「日系人がブローカーを通して来た」ということですが、確かに初期のころ、10年ぐらい前はブローカーを通してきたのがほとんどでした。しかし、最近では「家族、親族に電話をかけて」というタイプのほうが増えてきていると思います。我々はよく「アミーゴを通して」という言い方をしていますが、そういう方が多くなっているのではないかと思います。
 

派遣法改正の影響

【梶田】 「ブローカーを通して」という形態が「家族、親族を通して」という形に移行しているのはそのとおりです。この5?6年ぐらいの変化だと思いますけれども、基本的にブローカーを通さず本人の意思で、あるいは家族を通してというものが非常に増えています。
 地域統合については一つのヒントとして申し上げただけでありまして、日本と東アジアの状況がEUや北米と同じであると言っているわけではありません。将来、外国人受け入れを考えるならば、準備作業としてそういうことを考えることも必要なのではないかということで言いました。直接それができると思っているわけではもちろんありません。メキシコとアメリカの場合には非常に長大な国境が存在していますから、人の移動は完全にストップさせているにもかかわらず、人が移動しているのが現実です。
 それから、厚生労働省に質問したいことがあります。新聞報道によりますと、来年、人材派遣の範囲が拡大し、製造業でも派遣が可能になるという話です。今でも「業務請負業者を通した間接雇用は非常に問題がある」と多くの人たちが言っていますけれども、そういう業務請負業が人材派遣に完全に変わるのか、あるいは変わらないのか。そういったことについて、厚生労働省ではどのようにお考えなのか聞かせていただけますか。

【勝田】 直接の担当課長ではありませんので若干限界があると思いますが、私のほうからお話します。この問題については現在、審議会の場において検討されているところで、まだ結論は出ていないと承知しています。では、もし認められた場合、どうなるか。ここからは半分以上個人的な見解だと思って聞いていただきたいと思いますが、外国人担当の課長として考えた場合、現在、日系人の方々が、いわゆる業務請負、構内での下請けといった形で、ほかの企業に入って仕事をしているケースが多くあります。そこで個々の労働者が親会社といいますか、そこの事業所の人間から指示を受けるようなことになりますと、派遣法に違反する可能性が高いと思っています。では、ほかの企業の構内に入って働く構内下請けの形態を全部なくせるかというと、決してなくせるものではないと思います。歴史的に見れば、ほかの企業の構内に入って作業する下請け業者はずっと前から日本人を使っていた。現実に今でも、構内下請けに入っている業者さんは必ずしも日系人や外国人だけで充てられているわけではなくて、日本人の方も働いている企業がたくさんあると承知しています。
 もし派遣法が適用されたらどうなるか考えた場合ですが、違法行為を避けるために派遣の業者としての許可を受けてくれれば、実は私どもからすると悩みが一つ減るのではないかと思います。それは、派遣法の適用を受けた許可業者になりますと、社会保険関係の法令違反に対する遵守の関係が非常に厳しくなりますので、社会保険の適用等における問題が少しでも少なくなるのではないかというのが一つです。
 それから、安全衛生に関する派遣先事業主、この場合には工場を運営している大企業のほうになりますけれども、ここの責任が出てきますので、この面でも働く人たちが守られる要素が増えるのではないかと思います。
 雇用全体のいわば非典型化という問題、日本人のことも考えたら非常に難しい問題があるとは思いますけれども、外国人の方に限ってみれば、私はどちらかというとプラスの側面が多いのではないかと思っています。
 

日系人をどう位置付けるか

【中村】 勝田さんに教えていただきたいことがあります。外国人労働者の話をしても、基本的には日系人の話がほとんどです。我々も議論したときに「日系人を外国人労働者とどう関連づけて考えたらいいのか」というのがなかなかわからなかった部分です。現状の日系人の方々の行動、置かれた環境から外国人労働者について何が学べるのか、あるいは何が学べないのかということについて、どうお考えになっているのでしょうか。
 もう1点は、今後の外国人労働者の導入を考えた場合に、日系人をどう組み込むのか。あるいは組み込むべきではないのか。その辺に対してお考えがあったらぜひお聞かせ願いたいのですが。

【勝田】 難しい問題がいろいろありますが、ある国が自分の国の人間を祖先に持つ人間、日本でいえば日系人、イギリスでいえば、例えばイギリスからオーストラリアへ移住した人たちの子孫に対してどういう地位を与えるかといったことには、いろいろな問題があります。ドイツでは、ドイツ人の子孫はいつまでたってもドイツに来られるという法律をつくっていましたが、最近、それを変えたはずです。7代前までといった制限になったのではないかと思います。そういう形で自分の国の人間を祖先とする外国人に対して一定の特別の地位を与えるのはごくごく一般的なことですので、外国人労働者の問題はどうするかということとは別にして、今の日系人の地位は世界標準で見れば一般的な形だろうと思っています。
 「日系人から外国人労働者問題について何を学べるか」という問題についてお答えします。実は90年の入管法改正の前までに来ていた日系人の方は大体一世、二世の方です。一世、二世の方は、日本語がほとんどできる。日本の文化・習慣を知っている。日本人のお父さん、お母さんの家庭のもとで日本の文化・習慣のもとで育った。私は「日本人よりも日本人らしい人たち」と思ったのですけれども、この人たちが来て日本で働いている分には、日本のコミュニティーとの間の文化摩擦とか、言葉の問題はほとんど起こりようがなかったわけです。
 ところが、今来ていらっしゃる日系人の方はほとんど三世、あるいは若い方で来ている方はそのお子さんの四世です。かなりの方は、日本語にはもちろん問題がありますし、文化的に見ても日本の文化ではなく、どっぷりとブラジルの文化でポルトガル語、あるいはペルーの方であればスペイン語という方々なのです。そういう日本と文化、宗教、習慣、食生活といったものが違う方のコミュニティーないしそういった隣人を持つという点では、今後、ほかのタイプの外国人の方を受け入れていく上でも参考になる面が多いだろうと考えます。
 「ほかの外国人と比べてどうか」ということですが、実はきょうのほとんどの議論は日系人に集中しています。専門的・技術的な方々、例えばコンピューターの技術者ですとか、英会話学校の先生、そういった方々とは全く別の問題なのです。特に専門的・技術的な方々ですと自分たち自身の経済的な余裕もありますし、必ずしもまとまって住んでいるわけではありません。また、日系人の方が学歴が低いというわけではありませんが、総体的にはレベルも高いし、学歴も高い。そういった方々と社会との摩擦はまた別のあり方で起こります。
 日系人の方から学べる異文化との接触という面は、もしかすると今後、専門技術を持つ外国人労働者を大量に受け入れるときの経験としては役に立つかもしれません。ただ、違うかもしれないのは、今の日系人の方々はほとんど、「いずれはブラジルへ帰る」、「ペルーへ帰る」というように出稼ぎに来る意図でお見えになっています。今後、もし外国人労働者を受け入れたときに、その人たちがそういう意識なのか、あるいは日本に生活の本拠を持ちたいという形でおいでになるのか。その出口の意図の問題はなかなかわからないのではないかと思います。
 

日系人の特殊性

【梶田】 今のお話には私もほとんど同意見ですが、コンピューターとかIT技術をもつ方々、あるいは日本の大学、大学院を卒業して就職しておられる中国人や韓国人、いろいろな方々がいます。そういった人たちの文化をいわゆるエスニックなというか、ナショナルな文化と「近代的、新中間層的な生活様式を身につけているかどうか」という2つに分けて考えますと、後者の場合にはほとんど我々と変わりがないのです。もう見分けもつかないし、そういう点での文化摩擦はほとんどないだろうと思います。ですから、例えば中国から入ってきている人たちにもいろいろな種類がありますけれども、いわゆる密航といった形で入ってきている人と、正規の留学を通して入ってきている人とでは基本的に全然違う問題になるのだろうと思います。
 それから、日系人の場合は、実は非常に複雑な問題があります。勝田さんがおっしゃったことに大体賛成ですが、日系人の特殊性というものは一応踏まえておかなければいけないだろうと思います。
 日系人は、「法的には日本人だけれども、社会学的には外国人」という特徴があると思います。ですから、研究者によっては、日系人という言葉を使わない人たちが非常に多い。単にブラジル人とか、ペルー人という言葉を社会学的現実から使うべきだという人たちのほうが最近増えていると思います。
 そういう意味では、文化摩擦とか他文化との共存という点からいうと、私も勝田さんと同じように、将来を考える場合の一つの実験台になり得ると思います。ただ、非常に違う点があります。さきほど私は「第一世代と第二世代は基本的に分けて考えるべきだ」と申しましたけれども、日系人の人たちは入国、就労等々に制限がありませんから、基本的にはリピーターという形をとっているわけです。行ったり来たり、その期間が「バブル経済のころよりは入るお金が少なくなって、倍ぐらい時間がかかる」というのはそのとおりだと思いますけれども、私の見解としては、いわゆる定住化が基本的に起こっているとは思っていません。
 それは本人たちの意思でもあるし、日本の業界の意思でもありますけれども、業務請負業者を通した間接雇用という形になっていて、もちろん首を切られれば住居がなくなりますから、国に帰らなくてはいけないことになるわけです。それを回避するために、集合住宅に入ったりとか、自分で市営住宅を借りたりとか、そういう形で一種のセーフティーネットをはっているという感じはします。それは確かに定住化への一歩前進だと思います。そういった間接雇用から直接雇用に変われば、あるいは日本で家を買うとか、そういう段階に入れば、これは完全に定住化だと私は思います。けれども、大勢はそういう方向にはまだ向かっていないのではないかと思います。
 もう一つの点は世代の問題で、一世、二世、三世までは定住ビザとか、日本人の親族等というビザで入ることが可能です。その限りにおいて、行ったり来たりという形をとっていますが、そのお子さんは、将来の目標が定まらない状況の一種の犠牲者だという感じがします。本国に帰るにしろ、あるいはホスト社会の中で定住化するにしろ、一つの方向が定まればそこの中で生きていかなくてはならないわけですから、当然、子供に対して投資をするということが起こってくると思います。エスニックグループによって成功、不成功の度合いは違うと思いますけれども、基本的にそうなると思います。三世、四世の人たちの場合はそういう状況があります。日本で将来を送るのか、それともブラジルに帰るのかということが親の意思としてはっきりしないところがあり、ある種の悲劇が起こっている。ただ、親の意思がどうであろうとも、子供は日本の学校、日本の社会で過ごしているわけですから、その社会以外に具体的な社会はもうない。そういうわけで、やはり社会学的に日本人になりつつあると私は思います。
 それから、法的な地位が移動を可能にしていることを考えると、確かに日系人は特殊な存在だと思います。ある都市に集中していることからして、ブラジル人が生活できるエスニックなインフラストラクチャーみたいなものがかなりでき上がっています。それが結局、日本語を勉強しなくても生活できるような状況を可能にしている。このことは確かに外国人一般とは違うことだろうと思います。そういう意味では、非合法的な形で存在している外国人のほうがより近い存在というか、考えるべき存在という側面が確かにある。
皮肉なことに、そういった、いわゆる不法な形で居住している人たちの場合は、不法であるがゆえに非常に脆弱なわけです。周りの人たちともうまくやっていかなくてはいけないし、非常に弱い立場にある。このため、日系人の人たちよりも日本語がうまいということも、経験的にかなり言えるのではないかと思います。そういうところから、例えば在住特別許可といった要求が出てきたりとか、支援団体との関係が非常に強くなったりということがあります。
確かに日系人は外国人一般ではないと思います。しかし、世代の継承とか、文化が変わりにくいことがかえって将来の問題を考えやすくする点もあり、なかなか複雑なところです。

【中村】 ますます日系人を今後どういう枠組みで考えたらいいかわからなくなってきたのですが、基本的には「日系人は外国人労働者とは別物である」と考えたほうがよく、つまり我々としては「与件として考えなさい」という了解でよろしいのでしょうか。それともやはり外国人労働者の中で考えるべきなのか。いや、そもそもよくわからないから、ほうっておこうというような考え方もあるとは思いますが、どういうふうに考えたらよいのでしょうか。

【梶田】 日系人の人たちの行動様式は日本における法的地位に規定されていると思います。ですから、法的地位が違うために、外国人労働者一般とは違った行動様式をとっていると思います。しかし、実態そのものは外国人だと思います。

【勝田】 外国人労働者を受け入れるべきかどうかという議論の枠で、日系人の問題を議論すべきではないだろうと考えます。例えば外国人労働者を受け入れるかどうかで、今いる日系人の三世の地位を左右するような問題ではない。日系人の問題で考えるべき対象の部分は、いわば日本人、日本の拡大コミュニティーの問題としてどうするかということではないでしょうか。そういう意味で、外国人労働者受け入れ政策の対象として是非を検討する問題ではありませんが、一方で入ってきてしまっている人たちの社会的統合の施策の対象としては、まさに外国人労働者の一種としたほうがよいと思います。
 

目次へ

質疑応答

【質問者1】 私どもの財団はインドネシアを中心に、平成5年から約1万8,000人の研修生を受け入れております。受け入れている企業が現在1,300社ほどございますが、約8割は資本金が3,000万円以下の中小零細企業です。私も幾つか会員のところを回ってみていますが、いわゆる3K産業といいますか、金型ですとか、プレス、建設の型枠といった現場の労働者として技能研修を受けているわけです。会社の社長さんのお話を聞きますと、例えば社長さんがいて、奥様が専務、それから日本人の中高年者の方が二、三人、そして10台のプレスを私どもの研修生7人で動かしている。彼らがいなくなったら、翌日から生産がストップしてしまう。そういう企業もたくさん会員の方々にはおられるわけですが、やはり日本が物づくりの社会として今後生きていくためには、そういう方々の存在は決して、どんなに産業が高度化してもおそらくなくならないだろうと私は思っております。
 先ほど賃金の問題がありました。当然1年目は研修生ですから、8万円の研修手当しか出せないのですが、2年目、3年目は最低賃金を守って給与を企業にお払いいただいているわけです。そういう3年という限られた期間ですので、例えば、ベトナム(の研修生)は非常に失踪が多いそうです。私はその理由の半分以上が、もっとお金を稼ぎたいということによるものだと思います。国に帰っても仕事がなかなかない。非常に高失業率で、若年労働者が就職できない。そういう現実の中で、日本にいてできるだけお金を稼いで帰りたい。これが失踪の最大の理由ではないかと思います。
 これは私どもの例えばインドネシアの研修生でも決してゼロではありません。分母が大きいのでパーセンテージは低いのですが、やはり相当出ていて、その半分は同じ理由です。そういう中では、一体この(研修)制度自体がどういう意味を今後持っていくのだろうか。日本でもう少しお金を稼ぎたい、あるいはできれば定着、定住したいという人たちがいる現実について今後どう考えていったらいいのか。
制度ができて10年ですが、今、非常に大きな曲がり角に来ているのではないかと考えておりますので、何かご意見がございましたら、お伺いしたいと思います。

【勝田】 中小企業が日本で生産を続けるか、海外に移転するかというのはほぼ二者択一だといわれています。何で二者択一かというと、社長さんしか技術で現場を管理できる人がいないので、日本でやるのか、あとは海外に出かけていってやるのか、どちらかしかない。両方を運営しようとすると技術的にできないのが現実だろうと思います。ですから、中小企業の中には、日本国内の工場を畳んで中国、あるいはタイに行かれて、その現場で生産している方がたくさんいらっしゃる。そして日本国内の営業拠点には奥様か事務方の営業担当が二、三人残られているという企業は、たくさんあるのだと承知しています。
 一方で、そういう企業が日本国内で今後どれだけ残っていけるのかという問題があると思います。実際の話をしますと、土地の値段が高い。ほかのものも高い。日本に来て技能研修をやっている方は、8万円だって中国の賃金の何倍、インドネシアの賃金の何倍という形で、どう考えてもお金の面で経済的に国際競争力を持ち続けられる体制にはなっていないと思います。今、技能研修、技能実習でその労働力を当てにして企業をもたせているとしても、ある意味で過渡的なものにすぎないのではないか。
 技能実習、技能研修は基本的に技術移転の政策であるというのは、ある意味で建前ですけれども、技能を持った者が各国に帰っていくということは、中小企業の方々が逆に現地へ行くチャンスといいますか、当てにできる労働力が現地で増えているということでもあります。「物づくりのために、どこまでどれだけ必要か」という判断を、あるときしなくてはならなくなるかもしれませんが、今では、日本と近隣諸国との産業移転や産業の分業を円滑にしていく上で、この制度は大きく機能を果たしているのではないかと考えています。
 
【質問者2】 人材派遣法改正のことについて出ましたが、外国人の関係と離れてしまいますけれども、製造業の部分が改正された場合に、今の請負業の形態はどうなってしまうのか。すべて派遣業になってしまうのか。その辺はどのようなお考えなのかお聞きしたいのですが。

【勝田】 私が思うには、労働者派遣法が制定されたとき、それ以前に、例えば建物の中で掃除をしていた方とか、いろいろなタイプの請負でやられていた方がいらっしゃいました。その中には、後で派遣法の適用によって派遣になった部分もありますし、請負になった部分もあります。企業は派遣業者の許可を取ったけれども、「この部分は派遣」、「この部分は請負」というように両方の形が存続しました。きっと業務請負に関しても、「うちはこの部分は派遣先として口を出さない。やり方は任せるから、おまえのところで請負でやってくれ」というタイプの企業と、「うちは口を出したいから、ここは派遣にしましょう」というタイプと両方に分かれてくるだろうと思います。行政側からいえば「請負の形をとって潜りで派遣にはしないでくださいね」という指導をしていくことになるだろうと思います。

【梶田】 業務請負業者の組合の方にインタビューしたことがありまして、その方の意見を参考に私の意見を言わせていただきますと、多分業務請負業者の中にもいろいろあると思います。したがって、派遣が可能になることによって、正式の人材派遣に移りたいという企業も多いと思うのです。そうした場合にはそのようになると思います。
 しかし、その場合、保険などいろいろな面で厳しくなり、マイナスもある。そうすると経済的に成り立たなくなってしまう人たちもあると思います。そうした場合には、多少灰色であっても、業務請負業でやっていくしかない人たちもいると思います。あるいは1つの会社の中に2つの会社をつくることも十分考えられると思います。
 
【質問者3】 勝田さんに伺いたいのですが、不法就労の人たちは日本経済の一端を事実上担っていると思います。しかし、どの国でもそういった方々がいるという問題はあると思いますが、国民財産を脅かすような人たちが一部いるわけですね。日本人の中にもそういった人たちはいますけれども、以前はなかったような凶悪な犯罪をするような人たちが出てきた。それを不法就労の人たちがやっているかどうかわかりませんが、入管などで毅然としたところがどうも日本にはない。外国に対する毅然としたところがなく、責任をあいまいにするところがどうも見え隠れするのですが、その辺はどうお考えでしょうか。

【勝田】 不法就労の問題をなおざりにしているわけではありません。私ども(厚生労働省)と法務省、警察庁との間で連絡会議をつくり、不法就労の防止に努めています。企業サイドに対して不法就労の方を使わないように働きかける、周知徹底をするといった対応をとっているところです。
 それで不法就労がなくなっているかというと、まだ二十数万人いるわけではありますが、ここ最近の数年間についていえば、不法就労は少しずつですけれども、着実に減ってきているのが現実だろうと思います。不法就労でやっていていいとか、そういうことを思っているわけではなくて、不法就労をなくすのが大前提ではあると思います。しかし、行政上の体制などで、全部を全部取り締まることはなかなか難しいですし、草の根を分けても探すんだというわけにもいきません。完全にはなくせていないのが現実だと思いますけれども、なくすという方向であるということについて、私どもの方針は変わっていません。

【梶田】 いわゆる不法就労自体が非常にあいまいな概念だと思います。ヨーロッパなどでもこういったことが非常に大きな問題になっています。一つの提案としては、不法就労という実態自体を一つのステレオタイプで決めつけない。これはいい人だとか、あるいは悪い人だとか決めつけない。不法就労の存在それ自体が非常に重要な調査の対象であり、解明の対象だと思います。それ自体が一様ではないと思います。私の想像ですが、多くの人たちは、先ほど研修生についての発言がありましたけれども、通常の形で働いていらっしゃる。そういういわゆる不法就労が存在しなければやっていけないような町がいっぱいあるわけです。そして移転できないものだっていっぱいあります。農林漁業はまず移転できませんし、ブロイラー産業だってそうですし、建築業も移転できません。そういうところもあって、ほんとうにジレンマだと思います。どうしようもない。それを建前でやりくりしているだけの話であり、それが実態だと思います。
 その人たちと、犯罪を起こす人たちとは区別しなくてはいけないと私は思っています。グローバリゼーションによって人の移動、あるいは国境を越えることはいろいろな面で容易になっていますから、各省庁、特に法務省はしっかり対応しなくてはいけません。そういった一部の人たち、日本人も少なくないと思いますけれども、一種の(犯罪の)プロという人たちに対する厳しい対応は必要だと思いますけれども、繰り返しになりますが、やはり不法就労の人たち自体を一緒くたに考えるのは非常に危険だと思います。
 
【質問者4】 外国人集住都市東京会議というのが11月にありまして、国の省庁の方々のお答えを聞いたのですが、消極的だなという感じがしました。先ほど勝田課長から、「決してそうではなくて、今検討しているところである」というコメントがあったと思います。今回こうしたシンポジウムが開かれたということ自体が一つの姿勢のあらわれではないかと思いますが、今後どういったスケジュールでこの問題の解決策を探っていこうとされているのかお聞きします。
 それから、たしか今週、外務省の海外交流審議会で、在日外国人の問題、日系人の問題を議論することになっていると思います。どうも厚生労働省は厚生労働省、外務省は外務省、法務省は法務省、あと、文部科学省では先週、理科系大学で外国人の教育問題についてシンポジウムをやっていたのですが、ばらばらな感じがします。その点についてはいかがお考えでしょうか。

【勝田】 この問題に関係する省庁の連絡会議というのは確かにありまして、そこの場でいろいろと情報交換していますが、なかなか難しい問題が多いです。一遍に解決できない。
例えば私ども厚生労働省で一番大きく問題になっていますのは、医療保険関係の問題だと承知しています。文部科学省では、ブラジル人、ペルー人子弟に対する義務教育の問題が中心です。ほかの省でいえば外国人登録の問題であったりします。集住都市会議で出されなかった問題でも日系人が絡んでいる問題はたくさんあります。それぞれの問題の性質によって、どういう形で解決できるかが全く違ってくるわけです。
私ども厚生労働省の中で先ほど来、間接雇用の問題が出てきていますけれども、間接雇用との対応で言えば派遣法との関係が出てきます。では、派遣法をどうするか、派遣法をいつ改正できるかという話になってくると、全く別の視点から大きな問題になってくるので、そのタイムスケジュールでしか改正はできません。
 では、年金の問題はどうか。年金の問題も年金法で、日本人の年金制度のあり方と一緒でないと、議論は起こりようがないのです。一方、適用に関する行政指導を強化するといったことでは遠からず始められるものもあるでしょうし、予算が必要なものについては、予算の措置ができてからというものもあるかと思います。外国人だけで制度ができているものならいいのですが、一般の日本人との関係で制度ができているものについては、そちらとの関係も整理しなくてはいけませんので、その進み方は一様ではないだろうと思います。 
ただ、関係省庁間の連携といいますか、情報交換のようなものは、以前に比べれば、ここのところ随分とよくなってきたというのが私の感想です。

【齋藤】 この問題を考えるに当たっては、さまざまな論点があり、それぞれの問題を解決し、答えを出すためにはいろいろなアプローチの仕方、あるいは考え方があるのだろうと思います。そういう意味で、今回のフォーラムを一つの契機にしまして、多くの場で議論が起これば幸いです。
 
 

(文責・編集部)

目次へ
GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。