議事録:第6回旧・JIL労働政策フォーラム
ヨーロッパと日本の高齢者雇用
~年齢に関わりなく働ける職場は実現できるか?~
(2002年7月25日) 

目次


講師プロフィール

フィリップ・テーラー(Philip Taylor

ケンブリッジ学際的高齢化研究センター上級研究員(2001年~現在)。ケンブリッジ大学・ダーウィン・カレッジ所属(応用心理学 博士/ 2002年~現在)。日本労働研究機構招聘研究員、総合研究開発機構招聘研究員(2002年~現在)。1989~93年シェフィールド大学社会学研究所研究員。96~2001年オープン・ユニバーシティー、ビジネススクール研究員。
 

フレリヒ・フレリヒス(Frerich Frerich

ドルトムント大学老年学研究所上級研究マネージャー(心理学、社会学 博士)。1991年ドルトムント大学老年学研究所研究員。95年人口構造変化、労働市場および高齢者のための社会政策部門長。99年ドルトムント大学老年学研究所主任研究員。
 

藤村 博之 (ふじむら ひろゆき)

法政大学経営学部教授。JIL特別研究員。
 

木村 邦明 (きむら くにあき)

NEC人事部勤労マネージャー。
 

岩田 克彦(いわた かつひこ)

日本労働研究機構統括研究員。
 

日・英・独の高齢者就業の概要(岩田克彦・日本労働研究機構統括研究員)

 本フォーラムのねらいでございますが、日本の高齢化は急速に進みつつあります。例えば65歳の人口比率でみると、2010年になる前にEU諸国のどの国も追い抜くといったように高齢化が非常に急速に進みます。そして、あわせて考えますのは、公的年金の支給開始年齢の引き上げです。ご承知のように、日本の公的年金は1階部分と2階部分に分かれていますが、1階部分のいわゆる国民全体を対象とした基礎年金の支給開始年齢は、今、60歳から65歳への引き上げ途中であります。男性すべてと女性の公務員は2013年に65歳になり、企業の女性の方は2018年に65歳になります。2階の報酬比例部分につきましても、男性すべてと女性の公務員は2025年に65歳になりますし、民間企業の女性は2030年に65歳になります。特に基礎年金部分が再来年に62歳に引き上がるので、来年の春闘では、改めて高齢者雇用が大きな問題になるのではないかと予想しています。こうしたときに日本とドイツとイギリスの状況を比較することは、非常に有意義な試みと思っています。
 簡単にイギリスとドイツの状況を説明させていただきます。図1(PDF:33KB)に日本と、イギリスと、ドイツと、それとアメリカ、この4カ国の人口ピラミッドを掲げて比較をしています。先ほど65歳人口の比率で日本は西欧諸国を今抜きつつあることを説明しましたが、これを人口ピラミッドでみると、この図のようになります。2000年と2020年と2050年を比較していますが、一番上の2000年時点では各国とも30歳代から50歳代前半の比率が最も高くなっています。そして、この比率が高くなっているところがだんだん上のほうに上がってくるわけであります。そして、日本とドイツが特に若年層の比率の減少を伴っているので、人口の高齢化がより深刻だろうと思います。
 それから、図2(PDF:17KB)を見てください。これは、いわゆるサポート率を出しています。分母に高齢扶養世代人口をとりまして、分子に勤労世代人口をとった数字であります。すなわち、高齢者1人を何人の勤労者で支えるかという比率です。勤労世代か高齢扶養世代かを、60歳で分けるか、65歳で分けるか、70歳で分けるかで、それぞれについて4カ国のグラフをつくってあります。これをみるとわかりますように、各国ともより長く働かなければならない状況です。特に日本の場合は顕著でありまして、例えば、2050年の予測を見ますと、高齢扶養人口を70歳以上としても、約2人の勤労者で1人の高齢者を支えなければならないといった数字になっています。これをみましても、ドイツの数字が日本に近いと思います。
 それから、最後に図3(PDF:17KB)であります。これは年齢別の引退率と労働力率、そして男性の就業状態を比べたものです。ここで引退率とは、その年齢まで働いていた者がその年齢での中で引退する割合です。この一番上の図は50歳以降の男性の引退率をグラフにしたものです。そして、ヨーロッパの場合、特に、早期引退とか、企業年金とか、失業保険とか、年金の支給開始年齢で引退というケースが出てきますので、それぞれどこで引退するかを掲げています。下の図は、就業者、失業者、障害者、引退者の割合であります。
 これらの図から、ドイツについては、引退率が高まる時期、つまり多くの者が引退する時期は2度あることがわかります。イギリスについても、引退率が高まる時期は通常の年金支給開始年齢にほぼ対応しています。一方、日本の場合は、アメリカも大体そうですが、引退率が急激に上昇する時期とか、就業者の割合が急激に減少する時期は、あまりはっきりしていないわけです。ですから、両国の高齢男性は比較的緩やかな引退プロセスにあるということが言えます。西欧諸国では高齢者の早期引退が大きな問題となっていまして、その傾向を今、何とか変えたいと懸命になっています。日本の場合は、こうした緩やかな引退が数字的には実現しているわけです。ただ、就業条件、例えば定年年齢とか、そういうところで大きく変わること、それが問題になるわけです。それと同時に、年金支給開始年齢の引き上げにどのような対応をするかといったことが大きな課題となっていると思います。
 もう一度最終的に要約いたしますと、ドイツの場合は早期に引退する人がとても多く、それを今、懸命になって変えようとしている。日本と同じような高齢化が非常に急速に進んでいるといったことを背景にしているのではないかと思います。イギリスの場合は、アメリカと同じようにできるだけ規制を少なくしようとしている国でありますけれども、アメリカのように放任ではなくて、最近いろいろな工夫をしている、とてもおもしろい国と思っています。そうしたことで、日本とこうした国を比較することは非常におもしろいのではないかということです。
 本日のパネリストでありますイギリスとドイツの2人は、こうした高齢者の分野の実情に非常に詳しい方です。藤村先生も日本の高齢者問題の権威です。そして、NECも3つの雇用延長制度といったようなことで、日本の企業では一つの典型的な取り組みをしている企業ではないかと思います。こうした4人の方と会場の方で、できるだけ活発な議論をしたいと思います。
 では、テーラー先生からお願いいたします。

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英国の高齢者雇用政策
(フィリップ・テーラー・イギリス・ケンブリッジ大学上級研究員)

年齢差別の解消に向けた政府の啓発活動

 イギリスの高齢労働者に対する公共政策について、過去の経緯だけではなくて、あるべき姿について話したいと思います。これは私が多くの国でこれまで研究をしてきた成果です。まず、簡単にイギリスの現状について説明します。そして、その後に、あるべき姿について話します。
 さて、イギリスをドイツ、オランダ、フランスも含む欧州諸国を比べますと、1970年代、80年代は、これらの国ほど早期退職制度はイギリスでは導入されませんでした。しかしながら、高齢労働者の労働力率はこの25年間顕著に減少しました。これは強調しておかなければなりませんが、ほかの多くの欧州諸国に関しては現在、労働力率が大分上向きになっている一方で、日本では安定したレベルです。この10年間、いろいろな政党、保守党政権も労働党政権も高齢労働者を対象にした公共政策を次々に打ち出しましたので、これについて少し話します。
 年齢差別について少し話したいと思います。長年にわたり多くの研究が行われ、労働市場で年齢差別の問題こそ対処することが必要なものだということがわかりました。保守党政権においても、労働党政権においても、90年代、この分野の政策を打ち出しました。保守党政権も、労働党政権も、年齢差別に対して法律で対処することには強く反対して、10年以上にわたり一貫して、法律化を否定しました。その代わり、どういうやり方をとったかと言いますと、自主的な形で対処するよう使用者を説得したのでした。
 そのために政府の教育キャンペーンが2つ行われました。やがて労働党政権となってから、雇用における年齢の多様性に関する行動規範をつくりました。これは基本的に英国政府が見出した英国企業の中からいわゆるグッド・プラクティス(Good Practice:模範的な実践)と呼ばれるもの事例を提示しています。それには、「企業が何をなすべきか」が書かれています。政府は、行動規範をイギリス全土にたくさん配布しまして、マスコミも非常に高い評価で報道したのであります。キャンペーンでありましたけれども、非常によく設計された評価を行いましたところ、使用者側の行動にキャンペーンの効果はまったく認められませんでした。実際、使用者の行動は改善するどころか悪くなってしまったようでした。
 さて、EUの雇用における平等待遇に関する指令が導入されまして、イギリスを含むすべてのEU加盟国は、この指令のもとで法律を導入し、雇用における年齢差別を禁止せざるを得なくなりました。英国の政府も専門家委員会を召集して、この法律の範囲と内容について検討を依頼しました。その委員会は現在検討を続けております。2006年までにこの法律が施行されます。おそらく2006年以前でしょうが、政府はなるべく長く待ってから導入しようと考えていると思います。
 英国政府は、また人口の高齢化に対応するためにある種の戦略的な、統合的に対処するため、いろいろな省庁の閣僚で構成されている高齢問題に関する閣僚グループをつくりました。各省庁のこの問題に対する行動を調整するのが目的です。
 もう1つ、ごく最近のことですが、政府は、公共職業安定機関(Job Centre)における求人で年齢制限を禁止しました。98年には、高齢者の労働市場での立場が変化しているかどうかを明らかにすることを目的として、英国政府は労働市場での高齢者の状況を示す主要指標を公表することを約束しました。2000年以来、英国政府は模範的な実践を行い、行動規範を持っているという会社を表彰する「採用における年齢多様性に関する優秀賞」を設けています。そして、経済界やテレビ、ラジオなどメディアの注目を集め、年齢に関する意識を高めるキャンペーンを行うことは、政府にとって大変重要なものになりました。

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ニューディール50プラス

 英国のニューディール50プラスと命名されたプログラム(制度)についてお話をしたいと思います。ニューディール制度にはいろいろ種類がありますけれども、ニューディール50プラスというのは、50歳以上の労働者に対するニューディール・プログラムであります。主な目的は、高齢労働者が労働市場でより効果的に競争できるようにすることです。失業者だけでなく、6カ月以上仕事についていない人は誰でも対象となります。このプログラムへの参加は自主的な判断に任されます。個々の参加者は求職の指導や面接のための旅費の支給など実践的なサポートをその人についている公共職業安定所のアドバイザーから受けることができます。それからまた、仕事についたとき労働者は賃金に加え、雇用クレジット(注:週あたりフルタイム労働者は60ポンド、パートタイムは40ポンド支給される。)というのがあります。雇用クレジットは、彼らが何らかの雇用をどこかで得ることができるようにという目的のものです。それから、あまり多額ではありませんけれども、職業訓練の助成金(注:雇用クレジットを受け取っている人が仕事に関連する訓練を受けるときに1,500ポンドまで支給される。)も支給されることになっています。ニューディール50プラスは、大変効果的だったと思います。
 プログラムに参加する人はほとんど男性で、過半数はフルタイムの仕事に就きました。そして、評価の結果、高齢労働者の間で最も人気があったのは雇用クレジットでした。これは別に驚くべきことではないでしょう。しかしながら、もう一つ重要なことは、調査の対象となった人たちのほとんどは、雇用クレジットがなくても「いずれ仕事についただろう」と答えています。この分野に公的政策を導入するときのよい教訓になったのではないかと思います。
 もう1つ学んだ重要なことは、このシステムが最も効果的であったのは55歳未満の人たちに対してだということです。ニューディール50プラスに参加した人で55歳を超えている人はわずかですが、最も仕事を見つけるのが困難なのは55歳を超えている人です。そしてまた、訓練プログラムは参加者からそれほど役に立つとは思われていません。
 もうイギリス政府が実施しているのは、たくさんの情報をホームページで提供することです。まず、「エイジ・ポジティブ(Age Positive http://www.agepositive.gov.uk/新しいウィンドウ  )」というウェブサイトがあります。これは、主に使用者側に向けて、例えば高齢労働者雇用に関するグット・プラクティス(模範的な実践の事例)とか、政府が定めた行動規範も紹介されています。2つ目は、「セカンド・チャンス(The Second Chance http://www.dfee.gov.uk.secondchances/contents.html 現在、提供を中止している模様)」ウェブサイトというのでありまして、これは学習とか訓練活動について高齢労働者を対象としてアドバイスやガイダンスを与えるのが目的です。

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年金改革

 社会保障の年金改革が行われました。この分野の政策の改定は段階的であって、断片的であって、時間がかかります。年金受給者の所得に応じた年金額の減額制度がありましたが、日本でも制度改正があったようですけれども、イギリスでは1989年に廃止しました。しかしこの廃止が高齢者の就業に与えた影響は、あまり大きくないと思います。もう1つの変更として、女性の年金受給年齢を男性と同じになるように引き上げることです。これは時間をかけて、ゆっくりと実施されることになります。最後に、イギリス政府は、引退に対する選択をもっと弾力的にしようと考えています。これらの選択方策についても長い間研究していましたが、まだまだ具体的な提案は出されていません。

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英国の公共政策はどうあるべきか

(1)政策の効率性に留意し、統合的な政策を展開

 以上、大変に簡単に、急いで英国の公共政策について話しましたが、それを一歩先に進めまして、公共政策がこの分野でどうあるべきか、どういうことを考えるべきか、ということについて主要な柱について話します。
 最初に考えるべきことは、高齢者の雇用には資源が必要だということです。積極的な雇用政策は負担を伴うものであり、コスト中立的ではありません。雇用される高齢者を増やし、税収も大きく増やし、そして社会保障の給付を少なくするかもしれませんけれども、これらはただで実現するものではなくて、かなり高くつくものだと思います。使用者側は高齢者の訓練や高齢者のニーズにより適合するように職場を再設計するためにお金をかけることに前向きではないでしょう。この種の公共政策を立案するときは、大変お金のかかるということを忘れてはいけません。
 もう1つ考えるべきことは、公共政策の統合化です。例えば、フィンランドは、既にその道を進み始めています。イギリスは、戦略的に政策を協力して実施することについて少し前進しました。どの国でも省庁間の協力をさらに進めることが必要だと思います。高齢の問題は1つの省庁、例えば労働省だけの問題ではない、すべての省庁が一緒になって取り組むことです。すべての政府は、高齢者の問題を政策の柱とすべきです。

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(2)年齢の枠組みをはずす


 これは論議を呼ぶことになるかもしれません。政策をつくる人たちは、いわゆる「高齢」労働者のためのプログラム作りに力を入れすぎていると私は思っています。誰が高齢労働者なのでしょうか。どの年齢からあなたは高齢労働者になるのでしょうか。だれも知らないのではないかというのが私の考えです。高齢労働者という言葉自身が恣意的に使われています。労働市場に年齢の障壁があるにしても、ある年齢で線を引いて高齢者と決めつけることは、あまりにも単純化していて、逆説的だと思います。政策決定者は自分たちで年齢の障壁がある政策を導入しています。これでは効果がないでしょう。人生全体や人生の終わりの方を不利にしてしまう要因に我々はもっと注意を払うべきではないかと思います。
 また、特定の年齢層を対象としたプログラムは高齢労働者に烙印を押すことになります。それだけではなく、年齢に対する障壁を制度化してしまう危険があります。年齢の障壁のない雇用の実現とはかけ離れています。多くの国で年齢に対する障壁をさらに制度化してしまっているのかもしれません。私が多くの国でみてきたことに基づいて公共政策に関して言うなら、実際は年齢にかかわりなく働ける環境の実現とは反対の方に向かっているのかもしれません。

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(3)高齢者に実践的なサービスを提供する


 また、これも私の考えですけれども、政府だけが努力すればよいのではありません。政府の政策はたくさんみますが、使用者団体や労働組合のものはあまりありません。また、働いていない高齢の労働者にはなかなか手が届かないので、彼らを対象としたすべてのプログラムは、手を差し延べる形で地域社会のなかで実施されるべきです。高齢労働者に遠いところで行われている活動に参加することを求めるプログラムをみかけます。これらの活動の多くが、主に若い人を対象にしているコミュニティカレッジで行われています。そんなやり方ではうまくいかないでしょう。自分から高齢労働者のほうに出かけて行ってサービスを提供することが必要なのです。
 また、企業の側に関しては、多くの国で政府が推奨する模範的な慣行があります。私は企業のいわゆる優良事例(ベスト・プラクティス)を見出す政府プロジェクトに数回参加しました。私がいろいろな企業とかかわった経験によると、企業はこれらの政府が推奨する模範的な慣行にそれほど価値があると考えていません。企業は外からの指示や解決策を求めているわけではなく、企業は専門家に直接、自分たちのところに来てもらい、話し合い、自分たちのニーズに耳を傾けてもらうことを望んでいます。ノルウェーやフィンランドなどの経験によると、このようなやり方の方が政府の定めた行動規範よりはるかに効果があります。政府の行動規範は信頼できないものなのに企業にどうすべきかを示している。企業はそんなものに耳をかさないでしょう。このようなやり方は適切ではありません。

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(4)高齢者の多様性に配慮する


  また、政策には細かい配慮が必要です。高齢労働者を均質なグループのように扱われることがよくあります。しかし、高齢者には、女性、障害のある人、いろいろな社会経済的なグループから来た人たちもいる、職業経験も業種もさまざまです。しかし、これらの多様性を少しも考えないで政策決定がされています。ここでも政府の省庁が一緒になってかかわることが必要だと思います。高齢労働者といっても男性も女性もいるということで、多様性を無視して、単純に高齢労働者のための政策を導入するだけでは十分ではありません。
 先ほどの話に戻りますけれども、いろいろな産業グループや使用者の個々のニーズに配慮することが必要であります。例えば、経済団体や労働組合と協力して取り組むことが必要であります。そうすれば、この分野の政策立案は、政府主導で決めるよりもはるかにうまくいきます。労働組合や経済団体から出てきたものなのでより一層信頼されます。残念ながら私がみてきた国々では、このような取り組みがほとんど行われていません。例外的にフィンランドはある程度やっていますけれども少しです。
 また、高齢労働者に対する政策は弾力的で、選択肢がなければいけないと思います。例えば、年金改革を行って働く生活を延長しようとしても、経済的に豊かな人はさっさと引退してしまい、経済的に貧しい人は働かざるを得ないということになります。60歳代や70歳代の人で働くという選択肢がない人たち、そういう人もたくさんいますから、この人たちに対しては適切なセーフティーネットが必要です。すべての高齢者の引退を遅らせることを想定するのは現実的ではありません。

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(5)予防的な措置


 人々が高齢者になっていろいろ不利益を被らないために予防措置が必要です。例えば、使用者に仕事の再設計を促すための補助金を考えてはどうでしょうか。人間工学的に改善することによって職場をもっと健康にする、そうすれば、もっと長く職業生活を続けることができるでしょう。中小企業に注目する必要があります。中小企業では、高齢労働者のための政策なんて全く役に立ちません。中小企業を相手にするときは第一歩から始めなくてはならないでしょう。中小企業は普通、まともな人事管理制度をもっていないので、まず、中小企業が適切な人事管理制度をつくることを支援することから始めなければなりません。また、労働市場の弾力性を高めることも1つの選択肢でありましょう。そうすれば、高齢労働者たちがそれほどきつくない仕事につくことができるでしょう。

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(6)政策評価の重要性


 最後に2つほど申し上げたい点があります。
 高齢労働者に対する政策の評価が重要です。イギリスでもフィンランドでも評価を少し行いました。しかし、往々にして公共政策が高齢労働者に対して実施された効果はわからないものです。データもないか、あってもわずかです。ですから、これらの施策がどのような効果をもたらしているかもっときちんと評価する必要があります。本当に高齢労働者の雇用の展望を開くことができたかどうか調べることが必要だと思います。例えば、イギリスでは、「政策がなくたって仕事についたよ」という結果が出ているわけですから、もっと評価をしていくことが必要です。私がみてきた国のほとんどでは、この分野の公共政策の評価を実施していないか、実施していてもほんの少しです。我々は、公共政策がうまくいったかどうか、わからないことがほとんどです。

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(7)政府は明確でゆるぎないメッセージを


 もう1つ大事な点があります。それは政府からのメッセージに関するものです。政府は高齢者の就業問題を常に長期的視野に立ち、終始一貫して、肯定的にみていくべきです。国民は年金、引退、キャリアに関して政府のゆるぎないメッセージを必要としています。日本を含むすべての国ではっきりした引退年齢がだんだんなくなってきています。ということは、高齢労働者たちが自分のキャリアを管理する、そして、引退、年金内容を自分でプラニングすることができるように支援することが求められています。高齢者への支援は必要欠くべからざるものだと思います。でも、それが可能になるには、政府が、社会保障の提供であるとか年金政策について、明確で、そして矛盾のない政策をとることが必要だと思います。

【岩田】エージフリー(注:年齢にかかわりなく生活(就労)できる経済社会の状況)の重要性、それから高齢者の多様性を強調されたというのが非常に印象的だと思います。

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独における失業者の労働市場への再統合
(フレリヒ・フレリヒス・ドイツ・ドルトムント大学上級研究マネージャー)

引退年齢の引き上げ

 私は、ドイツにおける高齢失業者の現状と労働市場に再統合される様子に重点を置いて説明します。
 はじめに、よく知られていることかもしれませんが、年金改革について話します。90年代の初頭からドイツ政府は、引退年齢を一般的に65歳に引き上げること、そして特定の種類の年金について支給開始年齢を引き上げることをきめました。一例をあげると、失業を理由とした早期退職に支給される年金の支給開始年齢も60歳から65歳へと引き上げられました。これらの措置は主に年金保険基金の財政を安定させることと、もう1つ、人口構成の変化を背景として、できるだけ長く働くことを促進することを目的として実施されました。
 引退年齢の引上げに際し、高齢者の中にもいろいろな違いがあることを考慮せず、また、雇用機会を増やすことや、労働条件を改善することもしなければ、既に労働市場の中で心もとない立場に置かれている高齢失業者の状況を悪化させることになるかもしれません。

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高齢者失業の状況


 こういった背景や、こうした状況に直結する社会的なリスク、そして課題を評価するため、次にドイツの高齢失業者の状況について概略を説明します。その中で、ドイツ政府や他のドイツにある機関は実際にどのような積極的な労働政策をとっているかを話して、結論を述べ、そして高齢者に向けた公共政策を改善するための提言をします。
 ドイツの高齢失業者の状況には以下のような特徴があります。過去10年間を見てみますと(図4)(PDF:12KB)、高齢者の失業は絶対数でも相対的にも増えました。92年から2001年までの失業の状況をみると、「45歳から54歳」と「55歳から64歳」の2つの年齢層で失業が増えています。例外として、55歳から64歳は2000年から2001年にかけて減っています。それ以外のところでは失業率が急激に上昇しています。
 年齢別に失業率をみると(図5)(PDF:9KB)、年齢が増えるにつれまして失業率も上昇すると言えます。例えば、2001年の「55歳から64歳」の失業率は18.5%で、これに対して、「35歳から39歳」では10.3%です。このように高齢者の場合、若い人に比べて失業のリスクがはるかに高くなっています。
 それから、もう1つの高齢者の失業リスクを説明します。年齢別にみた1年以上の長期的な失業者の比率であります(図6)(PDF:9KB)。1年以上の失業者であります。年齢が高くなるにつれ長期失業者の比率が高まっています。具体的な例をみると、21歳以下の長期的な失業者の割合はほとんどゼロです。これに対しまして「55歳から59歳」や「60歳から64歳」では長期失業者の比率は60%近くになっています。
 では、なぜこのように高齢者が失業するのでしょうか。主な要因を3つあげなければいけないと思っております。高齢者に長期的な失業者の割合が高いことに関して、最も特徴的な理由のひとつは、身体的な障害がある者の割合が若年者に比べ高いことです。2001年のドイツにおける身体障害を持つ人の割合を年齢別にみると(図7)(PDF:9KB)、「20歳以下」では10%を切っています。これに対しまして、「45歳から49歳」では、この比率が30から35%です。言うまでもなく、再就職にはこれが大きなハンディであり、失業が長く続くリスクの主因のひとつであります。
 さらに、失業が長期化するもう1つの要因は、使用者側(企業)が求める技術・技能と高齢労働者が身につけている技術や技能に開きがあることです。使用者側が求める技能を持っていないことは再就職の大きな妨げとなります。ドイツの使用者が高齢労働者の訓練に消極的であることも高齢者が適切な技能を持たない原因のひとつです。例えば、35歳から49歳の労働者の36%が職業訓練を受けています。50歳以上の労働者では20%しか職業訓練に参加しておりません。高齢者が前の会社で十分職業訓練を受けたとしても、そこで身につけた技能があまりにもその企業に特殊なものであることが多く、そうであるとほかの会社に再就職するためのきちんとした基礎にはなりません。
 それから、高齢者の失業が長く続く3番目の要因は、ドイツの雇用危機の結果、企業側は人を雇うときに厳しい基準を適用していることです。そして、それぞれの求人で、求職者に求める技能水準が高まり、今でも要求水準が上がっています。その結果、高齢労働者の場合には、例えば、以前に失業の記録があったり、あるいはキャリアのギャップがあったりする場合には、ほとんど新しい仕事につける可能性はほとんどありません。実際に雇用のときに、それが暗黙の年齢制限になっています。

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4つの取り組み

以上、ドイツにおける高齢者の失業リスクを簡単に申し述べました。現在の状況は非常に厳しい状況です。では、政府、事業主側、労組は、これに対して何をしているのかということで、労働力率を高め、そして高齢者の失業率を減らすための取り組みについて話します。すべての政策について話すわけではありません。また、例えば、賃金の補てんや、職業訓練制度など従来型の措置についても説明しません。むしろ私は皆様方や日本の公共政策担当者にとっても関心があると思います4つの具体的な政策について説明したいと思います。まず、最初にこの4つが何かをお話した後で、一つ一つについて詳しく説明したいと思います。
 (1)最初に説明する政策は、仕事・職業訓練・競争力のための同盟や最近成立した雇用活性化法(注:社内訓練、雇用創出に関する法律)に合わせた、社会保障規約の改正についてです。(2)そして、連邦雇用庁が導入した「50歳以上、やればできる」というキャンペーンについて検討します。(3)もう1つの政策は、高齢失業者を人材派遣業者により労働市場に再統合していくものです。(4)最後に、セカンドキャリアという取り組みです。これはドイツのひとつの州で高齢者を再就職させるために共同して取り組んでいるものです。

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仕事・訓練・競争力のための同盟


 最初の政策であります仕事・職業訓練・競争力のための同盟と雇用活性化法、そしてこれらの進展に関連した改善点について説明します。ドイツの連邦政府は、仕事、職業訓練、競争力にかかわる同盟と呼ばれるものをつくりました。政府、労組、そして使用者側の団体の代表が参加して、連邦レベルでこれを推し進めています。2001年3月に高齢労働者の雇用状況を改善するための特別プログラムに政労使が合意しました。これは、高齢労働者に向けた公共政策の枠組みの転換でもありました。初めて政府とそしてソーシャルパートナーたち(労使)が共同して早期退職政策に背を向け、高齢者の失業を防止するとともに高齢失業者の労働市場への再統合(再就職)を図ることに集中することになりました。
 詳細に入りますと、共同で出された宣言には、企業や労働者に生涯教育の重要性をもっと意識させること、企業の自主的な取り組みや労使交渉により特に高齢労働者への職業訓練を促進すること、金銭での奨励措置を設け、中小企業の50歳以上の労働者の訓練を行うこと、さらには、賃金を補てんする補助金の受給資格を55歳以上から50歳以上へと引き下げることが盛り込まれました。
 このなかで、特に真新しくて関心を引くのは、55歳以上の高齢者を対象とした職業訓練の促進策です。初めて会社内の高齢者向けの職業訓練に対しまして連邦政府から補助金が出ることになりました。具体的にいうと、この制度が対象としている高齢者が従業員1,000人未満の中小企業に雇われ、訓練期間中もその企業から給料が出るときは、連邦雇用庁がこの対象労働者の職業訓練に補助金を支給します。対象となる訓練は企業の外部で行われるものでかつ、職場で行われる限定的な再教育の枠組みを超えているものに限定されています。この政策は高齢者の労働市場を改善し、高齢者の技能を向上させることを目的としています。それに加えて、雇用庁は、会社からの解雇の危険性があって、職業訓練を受けている労働者に対しても賃金補助金を出すことになりました。これら2つの制度は2005年12月までに終了することになっております。その後どうするかはまだ決まっていません。これらは非常に新しい措置で、今年の年初に始まったので、実際にどの程度効果的か評価はまだ出ていません。補助金により、企業が高齢労働者の訓練に関心を持ったかどうか、1年後にみてみたいと思います。

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「50歳以上、やればできる」キャンペーン


 2つ目の措置、労働市場での高齢失業者の状況を改善するためドイツで導入された「50歳以上、やればできる」というキャンペーンです。2000年に連邦雇用庁が長期キャンペーン「50歳以上、やればできる」を開始しました。このキャンペーンのねらいは、技能をもっている高齢失業者を地域雇用庁の既存の再就職支援の枠組みに取り込むことにより、労働市場への再統合(再就職)を促進することです。
 連邦雇用庁が出しました行政命令によりますと、当初の具体的な目標は、高齢労働者に対する使用者側の態度を変えて、年齢の障壁を下げていくということ、そして高齢失業者のやる気を起こさせ、能力を高め新たな仕事に応募させること、職業あっせんの取り組みを改善することです。
 キャンペーンの対象者は、50歳から55歳までの高齢失業者で、深刻な技能不足はなく、所定の職業に関して技能のある労働者で、労働市場へ再統合されていくための意欲があり、そして、なるべくなら短期的な失業者です。
 このように高齢労働者のなかでも有利な立場にある人たちに向けた施策としていることについて連邦雇用庁は、次のように説明しています。高齢労働者を労働市場で再統合するには障壁や課題がある、これらに立ち向かい、使用者側の一般的な態度を変え、さらには説得力のある職業あっせんを達成するためには、高齢失業者のなかでもより職につきやすい人たちから取りかかるのが、最も適切な方法とみられる。この取り組みは職業紹介、賃金補助金、職業訓練に関する既存の規約である社会保障規約IIIに基づいています。このキャンペーンのための特別な金銭的助成措置はありません。
 詳細に入りますと、以下のような特別な措置がとられています。(1)高齢の求職者のためにインターネットを使ったジョブプール(求人情報コーナー)を設置すること、(2)高齢失業者に対して個人面談による職業適性分析(ジョブ・プロファイル)を行うこと、(3)高齢失業者に的を絞った職業紹介の各種取り組みと、それに組み合わせた賃金補助金や職業訓練制度、(4)高齢者の雇用をテーマにしていわゆる「労働市場に関する話し合い」を使用者側と行うこと、それから、(5)高齢の従業員と使用者側の出会いの場の設置(ジョブフェア)、それから、(6)企業に高齢労働者の持っている潜在的可能性や高齢者を雇うことの利点を周知するためにマスコミへの発表、宣伝冊子、リーフレットの作成を行うこと、です。
 連邦雇用庁は、このキャンペーンについて、これまでのところ総合的な評価を実施していないので、成功したのかどうかまだ評価できません。最初の暫定的な評価がノルトライン・ヴェストファーレン州の雇用庁で行われ、その結果によりますと、高齢失業者は、さらに既存の訓練体制の措置の中に組み込まれて、そして、地域の職業安定所は高齢失業者に向けた訓練の措置を設けました。それから、地域の職業安定所の3分の1が高齢の失業者のためにジョブプールを設置し、それから、高齢失業者に対する職業紹介は失業率が低い地域と、それから、金属製品や電気関係の機械製造業が主流であるような地域でうまくいっています。キャンペーン前には地域の職業安定所は高齢失業者にあまり職業紹介をしたがらないのが一般的でしたが、これも改善していると見られます。
 そして、実際に高齢失業者を労働市場に再統合していくことに関して、このキャンペーンの対象範囲は最初から限定されていたということを忘れてはいけません。このキャンペーンは技能のある短期的な高齢失業者で、年齢的には50歳から55歳の人たちを対象としています。しかしながら、このキャンペーンは、総合的で、より積極的な労働市場政策を実施するための一つの礎石とすることができます。

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人材派遣による対策


 3つ目に、最近、ドイツのひとつの州で導入された高齢失業者の対策について説明します。これは、高齢失業者を人材派遣会社により再統合しようというものであります。2001年、ノルトライン・ヴェストファーレン州で、高齢失業者を人材派遣会社で雇用することによって統合していこうという事業を開始しました。そして、州の労働省、州の雇用庁、それから人材派遣の10大企業が、ドイツの中で50歳から55歳の高齢者で失業している期間が12カ月を超えていない者を対象にしたプログラムに関して合意しました。
 具体的には以下のような手順で実施しました。まず、この対象の条件にあてはまる高齢失業者一人一人に、こういうプログラムがあるということを通知します。そして、対象者一人一人に対しましてその人の技能、職業経験、健康状態、運動能力が書かれている職業適性分析(ジョブプロフィール)を作成します。そして、技能が足りない者に関しましては、人材派遣会社が必要な訓練を行います。それから、高齢失業者に人材派遣業者に雇われることの長所、短所を周知するため、それぞれの地域で人材派遣フェアと呼ばれる事業が行われています。
 プログラムの全体的な目標は、高齢失業者や人材派遣業に対する偏見を打破することです。具体的な目標は、約1万5千人の高齢失業者、2001年では対象の条件にあてはまる人の3分の1に相当しますが、を再就職させることです。雇用していくということであります。
 最近、このプロジェクトの系統だった評価が始まりましたが、結果はまだ出ていません。ただし、暫定的な評価によると、この取り組みは、現在の労働市場の中で、期待されていたほどうまくいっているとは言えません。人材派遣会社での雇用は確保できたとしても、実際の企業は若い人を雇う傾向があります。

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セカンドキャリア・プログラム


 最後に説明する取り組みは、高齢失業者の再就職の見通しを改善するために導入されたもので、これはセカンドキャリアと呼ばれています。チューリンゲン州での高齢労働者の再就職を促進しようとする取り組みです。これは、チューリンゲン州、チューリンゲン州の商工会議所、職工組合、経済省、そして連邦雇用庁の合同の取り組みで、2001年に開始しました。ねらいとしましては、高齢の失業者で技術や科学の知識・経験がある教育のある人たちを再訓練することによって、現在のIT部門での労働力不足を緩和しようというものでありました。
 このプログラムの主な特徴は、以下のとおりです。このプログラムは、会社が職業安定所に技能労働者の求人を申請するところから始まります。そして、最初の3週間で、この申請に基づき就職候補者の職業能力を評価し、職業訓練計画を策定します。プログラムの主体となるのは最長で6カ月の訓練期間です。第一段階の職業訓練は、求職者が雇用される前に職業訓練機関で行い、費用は社会保障規約に基づき全額公的資金から支出されます。そして、第二段階の訓練は就職先の企業で実施されます。この訓練の費用は、EUの公的資金と連邦政府が最大80%負担し、残りはその企業が負担します。
 当初、このプログラムは極めて成功し、約60%の就職率を達成することができました。しかし、最初成功した後、就職率は低下しました。以下のような要因が指摘されました。第一に、IT不況でITの専門家を求める求人が全般的になくなってしまい、そして、高齢の技能労働者がその影響をもろにかぶったということです。第二に、それ以上に、職業安定機関が状況の変化に柔軟に対応できなかったことや地域間で協力して需給関係の調整にあたらなかったことです。第三に、広報活動が不十分で、また、制度が複雑過ぎて個々の企業が理解できなかったとみられています。しかしながら、可能なところは改善され、参加者の増加が期待されています。
 他方、もしこういったプログラムが機能するにしても、特定の対象集団、この場合では高齢の教育のある失業者、を対象としているということに留意しなければなりません。そして、その場合の職業訓練のやり方は、極めて革新的で、柔軟でなければならないということを強調しておくべきでしょう。企業ベースの職業訓練であり、訓練参加者の選定では企業と密接に接触しますから、企業のニーズに合った職業訓練となります。したがって、失業者の再就職の可能性も高まってきます。雇用庁が支出している通常のトレーニング制度では必ずしもこのようになっておりません。この問題が、連邦政府の雇用庁に認識されたのは最近のことであります。そして、モデルプロジェクトの形での改善が発表されました。

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結論と提言


 第一に、高齢失業者を対象とした労働市場政策はあまり進んでいるとは言えません。早期退職政策が長く続いたので、特に高齢失業者を再統合するための統合的な積極的政策手段はまだ十分発達していません。しかしながら、1990年代末の状況と比べてみますと高齢失業者に向けた戦略や対策の策定など若干の改善がみられます。第二に、一定の措置がとられているとしても、それらは、より恵まれていて就職が簡単な高齢失業者を主な対象としています。例えば、所得、技能が低い高齢失業者、こういったリスクグループは、前述の対策では十分に配慮されていません。
 こういった状況を踏まえ、次のような改善を提案します。
 再就職と再統合に関しては、まず、政府のレベルでありますけれども、高齢者の雇用政策では、失業の防止に重点を置かなければいけないと思います。したがって、雇用プログラムはこれまでよりも、もっと企業との関係を強化しなければいけません。さらに、どうしても解雇が避けられないときは、高齢労働者をいわゆるアウトプレースメント機関(再就職あっせん機関)に異動させるべきです。対象者が法的に失業者として登録されるのを待たず、この機関は、対象者が再就職できるようすぐに積極的な職業紹介にとりかかるべきです。これらの一般的な政策だけではなく、もっと不利な立場にある人たち、すなわち技能が低く、所得も低く、そして健康に問題のある高齢失業者に焦点を当てることも必要でありましょう。
 また、職業訓練を提供することは必須であります。高齢失業者が訓練を受けることによって、技能を維持し、高めることは、単に再就職のためだけに必要なのではなく、技能が劣化することを防ぐと同時に高齢労働者の技能レベルを全体的に向上させることにも役立ちます。したがって、職場における訓練プログラムをもっと導入すべきでしょう。また、訓練を労働時間に組み込み、訓練を継続的に実施することが必要であります。それだけではなく、高齢労働者に効果的な訓練コースを設計することが必要であります。
 政府レベルでの高齢労働者の職業訓練に対する援助は、対象を絞った支援措置やカウンセリングを通じて、革新的で模範的な対応をしていて、財政面で適切な取り組みをしている企業に対して行うことが必要でしょう。
 最後の結論です。各措置を組織的に組み合わせていくことが必要だと思います。すなわち、職業紹介、職業訓練と労働時間の調整、予防的な健康管理、キャリアプランニングの統合的な実施が求められていて、これは企業レベル、また公共政策のレベルで達成可能です。高齢労働者の職業訓練と職業紹介制度に焦点を当て過ぎると、高齢者や他の不利な立場にある労働者への差別が強まる可能性があると思います。したがって、最善の戦略は予防だと思います。しかし、現状は深刻なので、高齢労働者を特に対象とした再訓練と再就職プログラムを設けることが必要です。
 最後になりますけれども、長期失業者、深刻な健康問題のある人、障害のある人、過酷な労働環境で働く人、期間労働者など一定のリスクグループに属する高齢労働者のために社会的に受け入れられる早期退職ができる道筋を残すべきでしょう。

【岩田】 ドイツは欧州でも有数の幅広い政策をとっている国であります。フレリヒスさんはドルトムント大学の老年学研究所におられますが、ここは高齢者問題では非常に有名な機関であります。昨年11月には私ども日本労働研究機構がワークショップ・シンポジウムを開きましたが、そこでドルトムント大学のネゲレ先生を招待しました。このワークショップ・シンポジウムにつきましては、JILのホームページに掲載されています(/jil/seika/ws_index.htm)。 ここで、藤村先生に、お2人の話を整理していただきます。

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コメント(藤村博之・法政大学経営学部教授)


 

抱える問題は日本と似ている

 ドイツとイギリスの専門家から、それぞれの国の問題についてお話をうかがいました。非常にいろいろなお話でしたので、全部についてコメントすることはできませんが、それぞれ3点ずつコメントしたいと思います。
 まず、全般的な感想ですが、「やはり抱える問題は日本と似ているな」ということを感じました。例えば、ドイツでは高齢者の失業者がいて、そういう人たちはなかなか再就職先が見つからない。これは日本も同じですね。それから、イギリスでエイジフリーといったことを法律で決めるかどうか議論をしたとき、「法律で決めることは必ずしも適切ではないのではないか」という考えが主流を占めた。しかし、EUで決まったものだから、そうせざるを得ないというお話がありました。日本でも「どのようにエイジフリーにしていくのか」という議論があり、さまざまな方がいろいろな提言をされていますけれども、やはり法律というところには、なかなかいかない。そういった日本との共通性、あるいは日本とは少し違うということも出てまいりました。そこで私の感じたところをお話しします。
 まず、イギリスについてのテーラーさんのお話について、3点ほどコメントしたいと思います。まず、第1点は、「エイジフリーをどう実現するか」という、その方策についてです。2番目の点は、「高齢化していく社会の中で、いかに高齢者が働きやすいような仕組みをつくっていくのか」という点です。それから3番目は、「高齢者というのは多様であり、その多様性を認識した上で、企業なり、あるいは政府は対応していかなければならない」ということです。

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エイジフリーをどう実現するか


 まず、第1番目の「エイジフリーをどういうふうに実現していくのか」という点です。イギリスでは、いわゆる法律でやるのではなく、教育に力を入れ、いわゆるグッドプラクティスと呼ばれるよい事例をたくさんみんなに知らせていく。「こういうふうにして皆さんやりましょう」という行動規範を政府がつくり、それを企業に宣伝し、あるいはマスコミに載せ、「こうしていくのが社会全体にとっていいのだ」という雰囲気をつくり上げていく。そういう方法をとられたというお話がありました。保守党も労働党も「法律で決めるのではなく」という議論をしていたのは、非常におもしろい点だと思います。そういうふうに、いかに社会の中でこの問題に理解を示す人を増やしていくのかということですね。
 理解を示す人を増やすためには、法律によって強制的に、「法律で決まったからやるんだ」という方法と、イギリスでとられたように、「いい事例がたくさんありますよ」、「これにならってみんなやりましょうよ」という教育的なやり方と大きく2つあって、日本にこれを当てはめる場合、どちらがより適切かという議論になるかと思います。日本では往々にして「法律で決めたほうがすっきりしていい」ということを企業の方がおっしゃいます。いわゆるグッドプラクティスをいくら宣伝しても、結局はそんなに普及しない。むしろ法律で決めたほうが、みんな「仕方がないからやろう」というふうになってしまう。日本社会の中でこの問題をどう解決していくのか。行動の起こし方と言いますか、そういうものを考える上で、テーラーさんのお話は非常に参考になったと思います。

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社会全体の問題として認識を


 それから2番目ですが、「高齢化が進んでいく中で、いかに社会全体が幸せな方向に行くのか」いうことがポイントになります。これはまさに社会のあり方を決める部分ですね。先ほどテーラーさんは、「エイジイシュー(高齢化の問題)は雇用省、あるいは労働省といった一部の省庁の問題ではなくて、政府全体の問題だ」という認識を述べられました。日本の政府の中でも、ともすれば厚生労働省だけやっていればいいという、そんな形になりますが、実は、高齢者が安心して自分の能力を発揮できるような社会というのは1つの省だけの話ではなくて、やはり日本でも全部の省庁がかかわる問題だと思います。
 あるいは、単に政府だけの問題ではなくて、企業の中で高齢者をどう位置づけるのかという点もとても大事になってきます。日本の中で60歳定年が普通になってきて、60歳以降の雇用をどうするかというときに、いわゆる再雇用という形で、いったん60歳で退職して、それから非常に低い労働条件で雇用の場を提供する方式がとられています。仮にエイジフリーという状態に日本を持っていくとすれば、これまで日本の企業が持ってきた賃金制度、人事制度というのを根本的に見直す必要が出てくる。つまり、労働組合が要求してきた生活給、標準生計費に基づいた賃金制度、賃金体系を相当変えていかないと、エイジフリーというのは実現できません。
 そうしますと、実は、これは単に50代後半、60代の人たちだけの問題ではなくて、若い人、20代からの問題になってまいります。ですから、60歳以上をどうするかとか、あるいは55歳以上をどうするかという、そこだけに注目するのではなくて、日本社会全体の中で、若い層と中堅、それと高齢者がどういう分担をしてこの社会を支えていくのか。そういった根本的な議論が必要になってくると思いました。

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高齢者は多様


 それから3番目ですが、テーラーさんは「高齢者というのは一様ではなく多様であり、多様な高齢者にどれだけ合わせることができるかということが、この問題を解決していく近道になる」というふうにおっしゃったと思います。 日本でも「高齢者になると労働能力が衰えて大した仕事はできなくなり、その結果、賃金も下がり、雇用の場も非常に狭まってくる」という議論がなされます。しかし、一人一人の高齢者を見ていきますと、元気な方もたくさんいらっしゃいますよね。20代顔負けのような、そういう元気な活動をして、しかも成果を上げている方もたくさんいらっしゃいます。「60歳以上になったらみんな一緒」としてしまうと、結局、雇用の場は非常に限られてしまう。どういうものをグッドプラクティスと呼ぶかというのも、実は非常に大きな問題ですけれども、元気に第一線で働いている高齢者についてしっかり研究して、なぜ彼らがそういう能力を維持できているのか、そういうことの共通性が出てくれば、それをみんなに普及していけばいいと思うのです。
 私はそういう元気な方々に何人もお会いしましたが、みなさんやはり20代からいい仕事をしていらっしゃいます。60代で輝いている方は、50代でいい仕事をしている。50代でいい仕事をするためには、40代、30代、20代というように、結局は「若いときからどういう仕事の仕方をしてきたか」というところにかかわってくるわけです。そう考えますと、先ほど2番目の問題に関連して申し上げましたように、実は高齢者問題というのは日本社会全体の問題であるというところにもつながっていくように思います。

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日独で異なる高齢者の就労意欲


 次に、フレリヒスさんがお話しになったドイツの報告について、これも3点申し上げたいと思います。
 まず、第1番目は、日本とドイツの違いですね。ドイツは早期に年金を受け取れるような仕組みを若年層の雇用対策のために入れました。その結果、50代後半の人が多く年金生活に入っていきました。ですから、60代前半で働いている男性は31%です。非常に低いですね。日本では、60代前半の労働力率を見ますと72.6%になります。日本では、「何歳までも働きたい」という考えを持つ人が非常に多い。逆に、ドイツの場合は、「できるだけ早く引退したい」とみなさん考えている。
 ドイツでは「高齢者の労働力率を上げよう」という政策をやっているわけですが、単に雇用の場がないというだけではなく、働く側の意識の問題というのがあるそうです。つまり、「できるだけ早くやめたい」と思っている人たちに「働いてください」と言っても、なかなか受けてくれない。日本でその問題はないわけです。みんな働きたいと思っている。ですから、ドイツはある意味で2つの問題をクリアしなければいけないけれども、日本は既に1つの問題はクリアできている。もう1つの問題、つまり雇用の場をどう確保するかというところにエネルギーを集中していけば、日本の高齢者の雇用問題は解決できると思います。とはいっても、事はそう簡単ではありませんが。

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経営者の理解が最大のポイント


 2番目の点は、むしろドイツと日本の共通性です。報告を聞いていて思ったんですけれども、高齢者に対する見方というのが日本とドイツは非常に似ている。つまり、高齢になると能力が衰え、やってもらう仕事がなくなる。だからそういう人は雇いたくない。仮に雇ったとしても、できるだけ早くやめてほしいと考えてしまう。結局、高齢者が失業してしまうと、次の仕事は非常に見つけにくい。
 次の仕事を見つけるために、「50プラス」とか、「セカンド・キャリア」という政策がとられているわけですけれども、ここで私たちが考えなくてはいけないのは、「経営者の頭の中をどう変えるか」ということです。つまり、経営者たちは高齢者について、「労働力としては魅力的ではない」と思い込んでしまっている。その思い込んでいる状態から、「そうじゃない」、「実は高齢者にもいろいろやってもらうことがある」、「彼らの能力は高い」というようにどう理解してもらうかですね。 これは先ほど申し上げました「人によって違うんだ」というところとも関係してきます。
 そういう事例をうまく経営者にわかってもらう。日本でも高齢者雇用を進めていく場合、早く進めるポイントとして一番大事なのは、「経営者をその気にさせる」ということです。「確かにこの問題は大事だからやるんだ」、「企業の方針だ」となっていけば、人事担当者もやりやすい。そうでないと、結局のらりくらり経営者の顔色を見ながら、できる範囲でしか高齢者雇用の対策ができない。経営者の決断というのは非常に大事な点だと思いました。

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再就職の2つの障害


 3番目の点ですが、日本で50代になって失業する。そうしますと、会社都合の場合、今は330日失業手当が出ます。しかし、その後仕事がすぐ見つかるかというと、なかなか見つからない。それは2つの意味で非常に難しい。1つは、その人が持っている能力を活かせる場があまりない。もう1つは、その人が今まで稼いできた賃金と、次の仕事で稼げる賃金の差とが非常に大きい。そうすると、この2つの問題を超えられるかどうかというのが、特に50代の失業者の再就職がうまくいくかどうかという点になるかと思います。
 1番目の点を超える方策として、ドイツでも職業訓練を盛んにやっているわけですが、いわゆる職業訓練というものの前に、「自分の能力を表現する訓練」をやったらいいのではないかと思っています。法政大学では厚生労働省からの委託で失業者の訓練をしています。そこで一番感じますのは、みなさん自分の能力を表現する方法をご存じでないということです。
 例えば、自分は今まで製造業でずっと働いてきた。だから製造業で培ってきた能力を活かせる場所を探したい。これでは雇用の場は非常に狭まってしまいます。と言うのは、今、製造業で雇用は減っているわけですから。そうではなく、その人が例えば課長をやってきたとします。課長をやるということは20人ぐらいの職場をまとめていたわけですから、そのマネジャーとしての能力を売るというふうにすれば、実は、ベンチャービジネスとか、中小企業でそういう力を持った人がほしいというところはたくさんあります。そういう自分の能力を違う分野で活かせるように変えていくことを私は「翻訳する力」と言っていますが、新しい状況に合わせて翻訳する力を教えることが重要です。どこかでちゃんとトレーニングすれば、実は相当いけるのではないかと思います。
 ただ、1番目の障害がクリアできたとしても、2番目の収入の問題があるんですね。ここはある種の説得しかありません。私は法政大学で訓練している失業者の方々にこう言います。「最初は年収400万円かもしれません。しかし、あなたが頑張ってこの会社をよくしていけば、年収が600万円になり、800万円になり、場合によってはストックオプションという形で何千万円に化けるかもしれませんよ。そういう将来を見ながら働きませんか」という言い方です。ちょっと洗脳する感じでやっておりますが、やはり日本でもドイツでも、50代で仕事を見つけるのは非常に難しいというのがわかりました。ただ、難しいながらも、うまくやっている人がいますので、その例をドイツから学び、あるいは日本の例をドイツにも提示して、お互いの国で、もちろんイギリスにも提示して、一緒によい社会をつくっていくための方策ができたらと思います。

【岩田】 木村さん、何か感想なりコメントはございませんか。

【木村】 お話を聞いてきて感じましたのは、日本の場合は、今、50歳代の失業の問題と60歳以降の雇用延長という問題が、全く別の次元で話がされているなということです。それに対してヨーロッパのほうでは、50代以降の雇用の問題ということで、トータルで話がなされているなという点が1つ。
 もう1つは省庁間の協力の話です。私どもでもいろいろ雇用延長の制度について検討してきたわけですが、至るところで規制にぶつかりまして、「日本の政府は、ほんとうは雇用延長したくないのではないか」というぐらいのところがございますので、このあたりを感じました。

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NECにおける雇用延長の取り組み (木村邦明・NEC人事部勤労マネジャー)

制度導入の背景


 私のほうからは、NECにおける雇用延長の取り組みということで、ご説明をさせていただきます。
 NECでは、2000年10月から雇用延長の取り組みを開始しました。その背景といたしましては、急速な高齢化による国民負担率の上昇、それから厚生年金支給開始年齢の引き上げ、近い将来の若年労働力不足による高齢者活用の期待といった社会的な要請に対して、社会的な責任を果たすという一方で、NECグループにおける要員の効率化を図る観点から、雇用延長への取り組みを決意したということでございます。
 ただし、具体的な制度の設計に当たりましては、これはNECの特性かもしれませんけれども、メーカーといいながら社員の95%が間接の業務に従事している。それから、NECの事業場が京浜地区に集中しておりまして、その中に雇用延長の基盤となるような生産関係の施設がほとんどないというような事情がございます。そういったことを前提に、最大限の職域開拓を図る。それから雇用延長の機会を提供していくということで、2点のスキームを設定いたしております。
 
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制度の概要

(1)全体像

 雇用延長業務につきましては、すべての対象者一般に公開される求人票の形で募集を行います。  それに対して、希望者は求人内容を確認し、みずから応募するという形式をとっております。  一方、社内の求人側の選択肢を拡大しまして、職域の開拓を図るということで、  「個別契約コース」、それから「年齢選択コース」という2つのコースを設定いたしました。  さらに、最終的には雇用延長の場を社外に求める「セカンドキャリアコース」という3つのコース編成で、  雇用延長を行うことにしております(図8)。
 さらに、昨今の厳しい事業環境の中で雇用延長の取り組みを図っていくということでございます。雇用延長の条件として、雇用延長期間の労働条件、賃金というのがメーンになりますが、これを「外部労働力に対して競争力を持つ水準」に設定するということをしております。これによりまして、新規要員の投入抑制、それに伴う人件費削減、それから外注、派遣、アウトソーシングですね。この代替による費用削減というのをあわせてねらおうということで、雇用延長の取り組みを行っております。

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(2)適用対象


 具体的な雇用延長制度の概要ですけれども、まず適用の対象ですが、基本的には「NECの社員で60歳以降の勤務を希望する者」です。ただし、「NECグループ内で提示される雇用延長を前提とした業務内容、要員数に対して、希望者の意欲、能力、知識、スキル等の適性を考慮し決定する」としています。要は、求人票に仕事の内容、労働条件が全部書いてあり、それに対してだれが応募してもかまわない。ただし、両者の合意があって初めて雇用契約が成立する。要するに選考を行うということをここで明記しております。

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(3)制度開始時期と延長期間


 次に、適用の開始と延長期間でございます。これは基本的には、厚生年金の支給開始年齢に合わせて徐々に雇用延長年齢を引き上げていき、最終的には2013年に65歳まで延長する仕組みでございます。

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(4)3つのコース


 それでは、具体的な雇用延長の形態ですが、先ほどお話ししました3つのコースを設定しています。「個別契約コース」は簡単に言いますと、60歳までは普通の社員として勤務し、社内に公開されている求人票によって60歳以降の雇用延長をしていくコースです。次は「年齢選択コース」ですが、これは50代後半から、やはり求人票に基づいて雇用延長コースに入ります。50代で通常の社員より多少賃金を下げ、その下げた期間分、60歳以降の雇用延長を図ろうというコースです。
 それから、3つ目が「セカンドキャリアコース」です。基本的には50歳以上で応募が可能としていますが、NECに対して社外から寄せられるいろいろな求人があり、これを同じように求人票の形で社内に公開いたします。それに応募して合格した場合には、NECのほうは退職してそちらのコースに行っていただきます。ただし、それにNECとして一定の支援をする、退職金に上増しをつけるという仕組みです。

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(5)個別契約コース


 少し細かくご説明していきたいと思います。まず個別契約コースですが、60歳までは普通の社員として勤務し、その時点でいったん定年退職をしていただきます。その後、NECグループ各社において提示される延長対象業務、その業務の労働条件に対して、本人の希望、それから適性を考慮して個別に延長を図っていく。基本的には、雇用契約期間は1年の期間を定めた契約で、62歳以降につきましては、その契約の更新という形で進めていきます。
 賃金水準につきましては、「その業務にふさわしい外部労働力に対して競争力を持つ水準」を個別に、業務ごとに設定しております。一番安い賃金が設定されている業務では、年収180万円ぐらいからあります。一方で、高年齢者雇用継続給付金、これは非常にありがたい仕組みですけれども、そういう制度を利用することによって業務に就いていただこうというコースです。

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(6)年齢選択コース


 次に年齢選択コースですが、これはNECの社内的な仕組みの問題もありますが、56歳以降、本人の選択によって雇用延長コースに入っていただく。当然、入るときには、求人票の条件に対して、求人側と応募する側とが合意をしなければいけません。その延長コースに入った期間に相応する分、例えば56歳で選択した場合には、定年まで4年間ありますので、60歳以降4年間、延長雇用するということでございます。
 賃金水準につきましては、選択時期から60歳に至る期間、選択時月収の70%に引き下げます。賞与につきましては、一般社員と同様の賞与を支給しますので、大体年収ベースでいきますと80%ぐらいの水準が支給されることになっております。 それから、この仕組みの場合でも、「60歳で定年退職」ということは普通の社員と同じようにしていただきます。それ以降、期間を定めた雇用契約を新たに結ぶわけですが、60歳以降については選択時月収の50%、賞与については基本的には「なし」という形で設定しておりまして、年収ベースで選択時点の約40%の水準です。これにつきましても、ご本人の選択したときの月収が基本になっています。こちらのコースは、あまり月収の高い人は応募できないという問題がありまして、実際のところ、なかなか求人側のほうでも、かなりの長い期間の雇用を約束しなくてはいけないということで、求人も少なければ応募も少ないという実態がございます。

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(7)セカンドキャリアコース


 次に、3番目のセカンドキャリアコースですが、これは、先ほどご説明しましたように、NECに寄せられた社外からの求人情報、これを求人票という形で社内に公開して、希望者がみずから選択して、「セカンドキャリア準備支援金制度」というのを利用して社外への転身を図るコースです。一応、60歳以降の雇用が可能であるという求人を集めまして、それを社内に公開しているということでございます。
 どうしてこういうコースを入れたのか。実は、NECは雇用延長制度に先立ちまして、「セカンドキャリア支援制度」というのを取り入れたわけですけれども、ほんとうに60歳以降の就業というのを考えるときに、60歳で定年退職してから考えてもなかなか見つからないんです。ほんとうに60歳以降働こうと思ったら、50代で転身するほうがはるかに確率は高くなる。そういうことを知ってもらいたいがためにNECは60歳以降の雇用情勢だとか、それに向けて個人としてどうしたらいいのかというような教育をいろいろしまして、セカンドキャリア支援制度という形で展開していたわけです。そういった仕組みを今回の雇用延長制度の導入に伴いまして、くくり出して、3つ目のコースとして加えたということでございます。
 当然のことながら50代の雇用情勢というのはよくありませんで、NECの50歳代でもらっている月収に対して、当然、転職すると賃金水準は下がってしまう。ただし、60歳以降の雇用延長も可能だということですけれども、やはり一時的にでも下がるのはかなり厳しいものがございますので、これにつきましては支援金という形で、通常の定年退職金に加え、例えば50歳でこのコースを選んで退職される場合には、24カ月相当の月収を退職金に付加するようなことをしております。
 NECのセカンドキャリア支援制度は、雇用延長制度の2年ぐらい前に導入しているわけですけれども、今まで約400人以上の方がこの制度を利用し、第二の人生を始められています。これだけいるから雇用延長においてもセカンドキャリアコースはいけるのではないかと思ったのですが、社内に掲示される求人に魅力がないのかどうかよくわかりませんが、自分で見つけてきて行ってしまうほうが多いという状況です。
 今まで独立・自営やNECグループ外への再就職というような形で400名強の方がこの制度を利用されたわけですが、具体的には、農業を始められるとか、飲食店を経営する、園芸関係をするとか、整体師として開業するというような形で皆さん転身されています。
 もう1つ、セカンドキャリア支援制度の意義についてですが、私どもはメーカーですけれども、日本の産業構造上、恐らく日本の製造業はもっとどんどん割合が減っていくだろうと考えておりまして、そのメーカーの中で雇用延長をやり切ろうというのは到底無理な話だという前提があります。そこで、NECグループ外にも目を向けていただき、サービス業などにも結構行かれているというようなことでございます。 今、日本の製造業の就業人口は全体の約20%ぐらいなんです。これは20年前のアメリカとほぼ同じ就業人口の割合になっております。サービス業が六十数%ですけれども、これも20年前のアメリカとほぼ同じぐらいの数字です。現在のアメリカの製造業は約13%、サービス業は80%ということですので、恐らく日本は今後、そちらに向かってどんどん動いていくだろうということを少し視野に入れながら、この3番目のコースを雇用延長のコースに入れているということでございます。

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(8)相談室の設置


 それから、これらのコースを設定する以外に、相談窓口というのを設定しております。これは、制度の概要や申請手続はもちろんのこと、退職金や年金、年金のことなんか、なかなか社員にはわからないんですね。それから、実際に例えば、やめた場合に失業保険は幾らもらえるとか、どういう手続をしたらいいのかというようなことも含めて、相談を受け付ける窓口を設定いたしました。
 これが主な雇用延長の3つのコースですけれども、実際には、このコース以外に、非常に高い専門能力や知識を有している社員の方につきましては、逆に会社側からオファーをして雇用延長に入っていただくという制度もございます。これにつきましても、一応60歳で定年退職、その後、個別に条件を設定しながら会社側からオファーをすることで進めております。

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今後の課題


 以上が制度の概要ですけれども、今後の課題について、きょうは少し本音でお話ししてみたいと思います。私どもは、雇用延長の取り組みに当たりまして、制度を検討したわけですけれども、60歳以降の雇用問題は考えれば考えるほど、現在の日本全体における雇用問題そのものだというのがよくわかってまいります。 先ほどの藤村先生のお話にもありましたように、日本ではこれまで、新入社員から定年退職まで、その社員が世帯主として一家を養うことを前提とした生計費賃金というのを基本に、処遇を行ってきたという背景がある。昨今、成果主義、成果主義と言っているけれども、まだ生計費賃金の仕組みからは完全に抜け出せていないのではないか。日本の高齢者雇用において、この生計費賃金の考え方がやはり一番大きな障害になっている。定年退職時点の賃金と本人がその時点でやっている仕事、そして、そこから発揮されるパフォーマンスの間にギャップがある。雇用延長を図ろうとする場合に、この関係をいったん打ち切らないと、なかなか雇用延長はできない。そこで、多くの企業では60歳時点で一度、定年退職という形で雇用関係を打ち切り、それ以降は新たな雇用関係、雇用契約を確立していく。そういう形でしかなかなか雇用延長ができないということです。あわせて申し上げますと、生計費賃金から脱却しなければ、当然のことながら定年延長というようなことはあり得ないのではないだろうかという気持ちでおります。  それから、もう1つ、テーラーさんとフレリヒスさんのお話にありましたように、EUの国々では、政労使の代表者による話し合いで、総合的な取り組みが進められているということが見受けられると思っています。一方、日本では、確かに政労使で話し合いはあるものの、なかなか具体的で明確な方針というのは出されない。日本の場合、企業内組合が非常に大きな役割を担っておりますので、個別労使が中心となって雇用延長の取り組みを政策に先行して行っていくというような風土があると思っております。NECでも、企業内組合との話し合いで今回の制度を導入したわけですが、これからの日本において本格的な高齢者雇用、雇用延長を行っていこうとするならば、企業内の取り組みには限界がある。抜本的な解決にはとても結びつかないというふうに考えております。
 先ほど、藤村先生からお話がありましたように、賃金の考え方も含めて、日本における雇用や処遇全体の今後の方向性、あるいは税制を含めた行政の取り組み、そういったものが総合的に行われなければ、日本における高齢者雇用の問題は解決されない、あるいは道が開けないだろうということを最後に感想として述べまして、私の発表とさせていただきます。
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討 論

 【岩田】 それでは、藤村教授のコメント、木村さんのプレゼンテーションを踏まえまして、テーラーさん、フレリヒスさんからそれぞれコメントをいただければ幸いです。
 

法律による規制は解決策の一部

【テーラー】 藤村先生に対しては2つほどのコメントをさせていただき、木村さんには2つほどの質問をしてよろしいでしょうか。大変興味深い発表でした。
 まず、藤村先生に対してのコメントから始めます。大変おもしろいコメントでした。私の発表できちんと伝わらなかったことがあるかもしれませんけれども、私は国の教育キャンペーンに対しては懐疑的でありますし、年齢差別反対法に対しても私は相当疑問を持っています。オーストラリアとか、フィンランドとか、アメリカでも、やはり年齢差別反対法がいろいろな形態で導入されていますが、あまり高齢者の雇用に影響はなかったということです。
 アメリカがその一番よい例ではないでしょうか。雇用における年齢差別禁止法というのは1967年以来あるのに、高齢労働者に対して少し影響があったようですが、どのような影響があったか誰もよくわかりません。いずれにしても限定的なものです。フィンランドとオーストラリアでは、その法律が企業の行動を変えることに失敗したことは明らかです。影響があったとするなら、それは水面下で年齢差別が行われるようになったことです。すくなくとも以前は年齢差別が目に見えました。求人広告に明らかに年齢制限がみられました。しかし、現在、これらの国で何が起こったかと言いますと、年齢差別は目の前では消えたかもしれませんけれども、隠れた差別、間接的な差別はなくなっていません。
 オーストラリアやアメリカなどでは定年退職制度をなくしましたので、それぞれの国で退職年齢を書くことはできなくなっているわけです。私が話を聞いた専門家によると、定年がなくなったことは高齢労働者の労働力率に何も影響しなかったということです。他の要因が働いて、高齢者を職場から追い出しているのです。ですから、いろいろな選択肢を検討するときには、これらを懐疑的な目でみることが大切です。法律というのは魅力的に聞こえますが、一般的に言って、年齢差別に反対する法律が解決策であると考えてはいけません。大きなパッケージの中の一部でしかありません。法律には法律の弱点があり、解決策の一部でしかないということを忘れてはいけないと思います。
 個々の企業であるとか、使用者団体、また地域の労働組合と協力して、この問題について地域レベルで働きかけることが必要だと言うことをもう一度強調したいと思います。全国的な教育キャンペーンをイギリスでもドイツでもやりましたけれども、効果には疑問をもっています。政府がやるべきことは、地域レベルの活動にもっと時間とお金を投資することだと思っています。具体的には、フィンランドでもやられていましたけれども、個々の企業と協力し、その企業固有のニーズは何かを見つけることが必要です。全国的な大キャンペーンは効果がないと思います。と言いますのは、企業と直接話さないし、企業は理解しないし、協力しないわけです。

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なぜ、定年延長しないのか

【テーラー】 次に、木村さんの発表に対してですが、2つほど木村さんに質問させていただきたいと思います。
 政府は65歳まで引退年齢を遅らせたいと考えておられるようですけれども、日本の企業でみられる再雇用制度はあくまでも移行期としてのものなのでしょうか。60歳以上の高齢労働者のなかで正規労働者の比率を高めるなど他の形態に移行していくのでしょうか。それとも、これが最終的な姿で、将来的にも60歳を超えると高齢労働者は常に非正規労働者に転換するのでしょうか。あくまでもこれは移行期のやり方なのか、それとも、最終的な姿なのでしょうか。
 もう1つ、答えはわかっていますけれども、質問させていただきたいと思います。なぜ65歳まで定年を上げないのですか。これは先ほどの発表の中ではふれなかったと思いますけれども、なぜ60歳で再雇用する制度にした背景にある目的は何でしょうか。

【木村】 2点ご質問をいただきましたけれども、基本的には共通した内容になっていると思います。日本においてはこれまで、55歳から60歳に向かっての定年延長がずっと行われてきたわけです。企業としては当然、社外に出ていった部分も含めて雇用を維持・確保しなくてはいけないということで、それには大きな負担が伴ったはずです。けれども、それをなし得たのは恐らく日本の高度成長というのがあったからであり、それで60歳までの定年延長ができてきたのではないかと思っております。しかし、現在の日本において、現状の雇用条件、雇用慣行のまま定年延長するというのは、日本の企業の体力からして可能性としては非常に低いものがあるのではないでしょうか。
 それから、60歳以降の働き方が正規か非正規かというようなお話もありました。先ほども申し上げましたように、現状のような日本の雇用処遇の慣行を維持したままでは、正規の雇用にはなかなか結びついていかない。先ほど藤村先生が「20歳代も含めた」とおっしゃいましたけれども、まさしく日本全体の雇用処遇のあり方を抜本的に見直さないと、60歳以降の正規社員としての雇用延長というのはなかなか難しいのではないかと思います。

【岩田】 次に、フレリヒスさん、コメントをお願いいたします。

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60歳を超えると価値がなくなるのか

【フレリヒス】 まず木村さんがおっしゃったことに関してコメントしたいと思います。高齢者に60歳以降も雇用機会を提供するために、とても洗練された制度、あるいは措置を導入しているということでした。一見すると、なかなか革新的で、我々もドイツで採用したいぐらいの気持ちです。しかし、よくみると、こういった措置を導入したのは、年功賃金の弊害があったからで、新たな雇用機会を提供しますけれど、60歳以降の賃金水準は低めです。これはとても奇妙な感じがいたします。59歳まで高い賃金をもらうことができて、60歳を過ぎると「高い賃金を受け取るだけの価値がない」と言われるなんておかしな話です。NECのことを申し上げているわけではありませんけれども、日本の企業はシステムに内在していたわなにかかってしまっているようにみえます。
 業績ベースの給料を導入することが難しいのなら、年功賃金の年齢による賃金の上昇分を抑制してはどうでしょうか。そうすることによって、60歳以降は低賃金で我慢しなければならなかったり、転職を余儀なくされたりすることを避けることができるのではないでしょうか。59歳から60歳になったからといって、急に生産性が下がるわけでもないのですから。
 それから、もう1つは、ドイツにおきまして、「高齢者はどこまで仕事ができるか」ということについて徹底した議論をしたことがあります。例えば、ストレスのたまるような仕事もあるでしょうし、新しい任務をこなさなければならない仕事もあります。日本では、国民の間での議論が不足しているのではないでしょうか。高齢者の職業能力はどのように形成されるのでしょうか。それを向上するのに課題はあるのでしょうか。労働条件はどうなっているのでしょうか。例えば、高齢労働者が65歳どころか70歳でも仕事ができるような環境を提供、開発していくことができるのではないでしょうか。賃金システム、あるいは雇用条件を60歳で変えるということで非常に洗練された議論をしている一方で、労働条件や仕事能力に関する議論が抜けています。これは、欧州の状況からみますと随分違います。

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高齢者の訓練に必要な2つの側面

【フレリヒス】 次に、藤村先生がおっしゃったことについてですが、私が申し上げたいのは主に1つの点であります。先生は、高齢者の職業訓練については、まずその人の経験に着目し、その経験をできるだけほかの会社にも適用できるようにしていくべきだ、そうすることで既に身に付けたことが活かせるようにしていくべきだとおっしゃいましたけれども、これは部分的に正しいと思います。非常にいいやり方ですね。ドイツではそれを実施するモデルプロジェクトがあります。若い労働者と高齢の労働者が世代間でいろんな経験や知識を交換することは非常に失業者にとっても、既に雇用されている高齢労働者にとっても役に立つでしょう。ただ、その一方で、それだけでは不十分でありまして、2つの問題について考えていかなければいけません。
 1点目の問題というのは、仕事によっては、1つの特定の業務だけしかしないということがあり、このような仕事に就いている多くの労働者、特に高齢労働者の多くは経験を身につけることができません。一日中同じことをやっているわけであります。これではあまり大した経験にはなりません。いったんその仕事を失うと、他の仕事に就くには、新たな仕事のための訓練を受けなければいけません。これが1つの問題点であります。
 それから、もう1つの問題点でありますけれども、ある人が製造業で経験を積み重ねることができたとしても、その会社が倒産し、そしてサービス業に転職しなくてはいけないときに、この人はサービス業に必要な技術を身につけていないのではないでしょうか。このように、ある高齢労働者がひとつの部門から他の部門に移動するためには、きちんとした訓練が不可欠です。したがって、我々は2つの戦略、すなわち、経験を活かす、そして高齢労働者を新しい業務に向けて訓練する、が必要だと思っております。

【岩田】 問題提起がありました。まず、木村さん、仕事能力、労働条件の改善についての議論も大事ではないかということについて、お願いいたします。

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雇用延長での労働条件は、仕事にふさわしい水準で設定

【木村】 まさしくそのとおりだと思いますけれども、60歳以降の雇用延長で労働条件がかなり下がるという指摘について、現実、私どもの制度はそのような仕組みになっております。今のNECの雇用延長の仕組みの前提としましては、60歳以降は基本的には違う仕事をするということがひとつあります。そのために求人票をいろいろなところからかき集めてきて、その仕事にふさわしい賃金、「その仕事を外に頼むよりも高齢者を雇えば安くできますよ」というような水準を設定して進めているという、背に腹をかえられない事情がありますので、どうしてもそこのところは下がる。ただ、トラップ(わな)でないというのは、本人が納得してそれに応募するという仕組みですので、そのあたりは両者の合意のもとでというところでございます。
 それから、仕事能力の向上、60歳以降の雇用を自分で確保していくために、仕事能力を向上しなくてはいけないということについてです。私どもも社員に対してそういうことを常日ごろからいろいろなところで言っておりまして、セカンドキャリア支援制度のほうでもこうしたセミナーを開催しております。要するに「60歳になってからでは遅い」、「40代からいろいろ準備を進めていかなきゃいけない」と。何かをやるためには、それなりの能力なり、知識なり、資格なりが必要ですよと。そういうのを意識してやってくださいと。
 ただ、これは会社がやらせるものではないのではないか。あくまで個人が、自分の生活、自分のライフステージをどう考えるかに合わせて、自分でやるべきものであろうと思っています。会社として60歳以降の雇用延長のために特別な教育や、専門的な教育は実施していないのが実情です。社内の求人のほうでも、「この仕事をやるにはこういう能力、知識が必要ですよ」というのを必ず明示してありまして、将来そういう仕事で雇用延長をやっていきたいならば、早いうちからそういう能力をつけてくださいというメッセージも、一応、会社のほうから出している状況です。

【岩田】 藤村先生のほうからも一言お願いします。

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高齢者に対する偏見は非常に大きい

【藤村】 テーラーさんがおっしゃった「法律ではだめだよ」というのは、確かにそうだと思っています。今、日本の社会で一番大事なことは、特に大企業で高齢者を使ってもらうことだと思います。高齢者に対する偏見がやっぱりありますね。高齢になったら新しい技術には適応できない、対応できないというような。しかし、70歳、80歳を超えてコンピューターのワープロソフトを使いこなす、そういう方はたくさんいらっしゃいます。どうも日本の企業は、高齢者に対する偏見が非常に大きいのではないか。
 ですから、仮に賃金が下がっても、確かに「そんなに安く働かせていいのか」というのはあるけれども、いろいろな形で、とりあえず使ってもらえば「高齢者でも案外いけるじゃないか」というのがみんなわかってくる。そうすると、これだけの働きをしてくれる人に、例えばNECのように年間180万円では少な過ぎるねというふうにみんなが思い始め、「じゃあ、300万円出そう」とか、「400万円出そう」という話になっていけばいいと思うのです。ですから、まずはそういう実際に働く人を増やしていくことが一番大事だと思っています。

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質疑応答

【質問者1】 若年層と高齢者が均等に競争できるような社会が来るのかどうかについてうかがいます。例えば、先ほどのNECの180万円の年収ですね。これは若年層の年収としては妥当だと思います。そういう意味では競争力のある賃金水準ではないかと思っていますけれども、そういう点で、ほんとうに競争できるのかどうか。そういうものから人事評価が今後どういうふうに変えられていくのか。年齢要素は排除され、能力的なものでほんとうに見ていけるのかどうか。評価項目といいますか、こういう問題につきまして、先生方はどういうふうに考えていらっしゃるのでしょうか。

【質問者2】 テーラーさんは、高齢者の問題、あるいは高齢者雇用の問題を労働省、社会保障省だけの問題としないで、政府全体の取り組みの中心に据えるべきだという発言をされたと思います。私もその趣旨には賛成するのですが、いま非常に厳しいグローバル化の波にさらされているときに、例えば、経済政策や競争力という観点から、日本産業の競争力を強めたいという政策を発動するとします。そして、高齢者問題や高齢者雇用の問題を政策の中に取り込めという指示が出たとき、それは一体どういう政策になってくるのか。つまり、競争力を高めるという政策の観点からすれば、高齢者問題に取り組むということは一体どういうふうな意味があるのかということに関してご質問します。

【質問者3】 私は雇用における年齢差別撤廃運動をしております。先生方の話を聞いておりまして一番印象に残ったのは「高齢者」という言葉です。一体この高齢者というのは何歳からということが一番気になりました。 聞いておりますところでは、イギリスやドイツでは大体50歳以上を想定しているのかなと。日本においては60歳以上の方を想定しているのではないかと思いますけれども、その辺のことをはっきりしていただきたい。日本には「中高年」という言葉がありますけれども、それと、高齢者と言った場合、どの辺がリンクしているのか。多分、私が思うには、40代、50代の場合と60代、70代の場合では、非常にシチュエーションが違ってくる。これをごっちゃにして論じていると非常にわかりにくくなってしまう。こういった問題はなるべく40代、50代、60代、70代、そういうふうに分けて論じていただければと思います。
 それから質問ですけれども、ドイツの場合、高齢者が長期失業をする理由として、身体的に障害を持つ者の割合が多い、それからスキルのギャップがあるということを先生は言われましたが、ドイツにおいて、募集、採用における年齢制限が高齢者の長期失業の理由になっているということがあるのかどうか。  それから、ちょっと意地悪い質問ですけれども、NECの方にお聞きしたいのは、募集、採用においてNECでは年齢制限をしているのかどうか。あるいは、今後どういうふうな取り組みを募集、採用でしていくのかということをお聞きしたいと思います。

【岩田】 それでは、まず、藤村先生から、年齢よりも能力を評価する社会を日本でどうやってつくっていくのかについて、お話をお願いします。テーラー先生とフレリヒスさんには、グローバル社会の中で高齢者の雇用を進めるといったことがほんとうにできるのかどうか。さらに、フレリヒスさんには、ドイツでの高齢者の長期失業理由として求人の年齢制限の問題があるのかどうかといったこと。最後に木村さんから、今の年齢制限の面についてお願いします。

【藤村】 若年層と高齢者の競争になるのかどうかというところですが、私は、そういうふうになると思っています。実は、去年の今ごろでしたか、アンケート調査をやりまして、企業の人事担当者に対して、「同じ金額で、月20万円で雇えるとしたら、若年層がよいか、それとも、おたくの会社で経験を積んだ60歳代の人がよいか」という質問をしました。そうしたら、7割の会社は「若年層がよい」と答えました。「なぜそれがいいんですか」というふうに理由を聞いたところ、一番多かったのは、「組織の活性化のために効果がある」という項目でした。60歳までその会社で勤めたという方は、経験はあるわけです。しかも20万円という、わりと会社にとって有利な金額で雇える。しかし、「若年層のほうがいい」という結果が出てくるのは、やはりこれはある種の、先ほど来、出ています「年齢に対する偏見」とか、「年齢に対する差別」があるからなのかなと思いました。
 では、年齢の項目というのを企業の人事管理の中でどう位置づけるかということですが、日本の会社は、35歳、40歳ぐらいまでは少し年齢を気にしていると思います。ただ、それ以降はあまり年齢を気にしないのではないか。20歳ぐらいで入社して、10年から15年ぐらいはわりと勤続年数を気にしながら社内での昇進、配置を考えていくけれども、30代半ばを過ぎると、あまりもう後は考えなくなる。それをもっと引き下げるのかどうか。早期選抜うんぬんという議論がありますね。そこは、もう少し選抜の年齢が早くなり、30代の前半ぐらいになってくるだろう。では、20代から年齢を関係なしにするかというと、それはちょっと考えにくいなという感じを持っております。

【岩田】 「高齢者雇用を重視すると、若年者の職が減り、賃金が安くなるという議論がありますが、若年雇用への影響はどう考えていますか」という質問が休み時間にあったのですが、それについてはどうお考えでしょうか。

【藤村】 「高齢者がのさばると若年層の雇用の場がなくなり、今でも10%を超えるぐらいの若年失業率がもっと高くなるのではないか」、「ヨーロッパが20年前に経験した道を今の日本も歩んでいるのではないか」という意見がありますね。私もそういう懸念は十分持っています。ただ、若年層の仕事がほんとうにないのかというと、仕事があるのに、選んでいる(えり好み)から失業率が高いのではないかと思います。例えば、ドイツでも、募集をしてもドイツ人が行かない仕事ってたくさんありますよね。そこには外国人が入ってくるというふうになってきた。日本の場合も外国人が事実上たくさん入っていますので、むしろ外国人と若年労働者の間の競争で賃金が下がっていくという、そっちのストーリーのほうが強いのかなという気がしております。

【テーラー】 3人の質問者に対して簡単にお答えしたいと思います。 最初の質問者の質問についてですが、年功序列制を議論するときに、「やはり業績ベースの賃金制度に移らなくてはいけない」ということが言われます。しかし、特に米国での多くの研究例があきらかに示すところによると、業績で管理するシステムというのは、年齢差別的に使われることがしばしばです。業績評価をする管理者は年齢に基づいて差別していることがよくあります。業績の代理指標として年齢を使っていることが多いのです。管理する側は非常に忙しく、限られた時間の中でやらなくてはいけないことがたくさんある。そこで、年齢を、業績評価制度での業績の代理指標として使いがちなのです。したがって、「業績ベースへの移行」ということが言われますけれども、注意しなければいけません。業績に基づいて管理をするシステムは、実際には年齢差別的に運用されていることが多いことに留意する必要があります。私は日本に来てから実際に何人かの管理職の人たちと話をしました。木村さんも同じ意見かどうかわかりませんけれども、実際に日本の会社で業績を評価するときに、年齢による差別が行われていることがよくあるということでした。
 それから、競争力の話は大変重要だと思います。私は、高齢者を雇うことは競争力の強化につながると固く信じています。今は、高齢者の知恵や技能をむだにしてしまうことがよくあります。かれらの経験や技能といったものが消え去っていることは、悲劇だと思っています。皮肉なことに、早期退職制度を実行した英国の企業の多くは、労働者がいなくなってはじめて、その技能がいかに大切であったかということに気が付きました。多くの場合、企業は、いったん退職した人を、給料を増やしてもう一回雇い直さざるをえませんでした。企業は、やめた人たちがそれほどまでに技能、経験、知識があるということがわかっていなかったのです。だから、もう一度会社に戻ってもらうために、さらに給料を上乗せしなければいけなかった。このようなことをもっとたくさんの企業に認識してもらえないことは残念です。
 米国の例をフィンランドと比較すると面白いでしょう。今は少し違うかもしれませんけれども、最近まで、米国の大企業の多くは、インドなどの発展途上国から才能のある若い人たちを雇えるように移民法を緩和せよと強い圧力を政府にかけていました。アメリカの企業は、「若い労働者を外国から連れてこられるようにしてくれ」と政府に対して強力なロビー活動をしていました。日本ではこの問題についいてどういう見方があるかよくわかりませんが、移民の数が少ないフィンランドでは、できるだけ長く高齢者に働き続けてもらうことは戦略的に非常に重要視されています。
 最後に、「だれが高齢者か」を定義することはとても難しいと思います。30歳でもITの業界では高齢労働者になるかもしれません。私には逆説的に思えますが、年齢差別の話をしているわけですが、多くの国の多くの高齢者対策制度に年齢差別があります。これらの制度の対象になるのに年齢制限があるのです。これは皮肉で逆説的なことだと思います。

【岩田】 テーラーさんの観点からは、イギリスで好事例、グッドプラクティスの職場というのは、いわゆる年齢の差別のない、もしくは高齢者、若年者がみな同じような割合で、あまり差別なく、いわゆる「エイジ・ダイバーシティー」(年齢の多様性)の構成をとっている職場だという理解でよろしいでしょうか。

【テーラー】 イギリスでも、議論はもちろん高齢労働者から、年齢の多様性と呼ばれている方向に向かっています。すなわち、「人間の一生から雇用を見る」という形が増えていると思います。欧州委員会のステートメントや多くの有識者のコメントをみても、高齢労働者ではなく年齢多様性という言葉が出てきます。では、グッドプラクティスは何かと言うと、よくわかりません。私はこの分野について随分長い間研究しており、いわゆるグッドプラクティスを見てまいりました。しかし、実際に中を深く見てみますと、表面とは違うことがよくあるということがわかりました。

【フレリヒス】 私からもテーラーさんと同じように、3人の質問全部に答えさせていただきたいと思います。  最初は年齢に関係する賃金制度についてです。私もテーラーさんの意見に賛成です。成果主義賃金も年齢差別を生み出す危険があると思います。例えば、ある労働者が30年間非常に厳しい労働条件で働いていて、しかも成果主義で賃金を得ていたとします。この人はもはや仕事ができない状態になっているかもしれません。でも、労働条件は彼の責任ではない。それしか機会がなかったかもしれないのです。
 ドイツでは、幾つかの経済セクターで、労働協約の中に賃金レベルをずっと維持しようということが打ち出されています。これは日本のいくつかの会社の状況と反対ですが、55歳以降でも賃金レベルを維持しようというものであります。労働者が要求されている成果をあげられなくともそれまでの賃金水準を維持します。というのも、労働者は与えられた労働条件で働かなくてはならなかったからです。私は、今より成果主義の色彩を強める方が良いと思いますが、年齢差別を防止するためには、そのための方策が必要です。
 ドイツの企業において年功序列賃金制度を導入している理由は、長い間その社員を雇っていたいからです。訓練をした従業員がほかの高い賃金を出す会社に行ってしまうのを避けたいのです。それで、企業は、年功序列型の賃金システムを導入しています。だから年功型賃金は少なくとも高齢労働者の職業人生の最後にとんでもないものだということになるべきではないでしょう。
 競争力に関してですが、もちろん高齢労働者は経験を蓄積しているでしょう。その一方で、労働条件によっては技能も経験も劣化してしまいます。例えば、大学で学生として学んだことが、企業で活用されないでいれば、その人が10年後、20年後に学んだことを使おうとしても使えないということもあるでしょう。活用されれば、学習に対して年齢関連の差別はなくなるはずだと思います。50歳だって、60歳だって、研究結果が示すように若い人と同じように学習できるはずです。一生それをやっていれば、技能を高めることができる。それに対して、きちんとした訓練機会を会社が与えることが必要です。その場合、競争力に関して問題はないというのが答えです。
 それから、ドイツ企業の年齢制限が長期失業に寄与しているのではないかという質問がありました。確かに年齢制限はあります。日本のようにはっきりと明示されているものではないかもしれませんが、日本では求人広告に年齢制限を出すことが普通であるようです。ドイツでもそうすることがありますが、日本ほどたくさんはみられません。けれども、暗黙的な年齢制限というのがあります。
 年齢制限というのは経済セクターによって違っています。例えばIT産業の分野では、必要とされる技能の関係で、35歳、または40歳の人が再雇用されることはかなり難しい。ところが、自動車を売っているような会社はどうか。好んで50歳、55歳の高齢者を再雇用しています。それは、お客さんに関係している仕事だからであり、高齢者はお客さんへの対応の仕方をよく知っているからです。ここでの年齢制限はそれほど厳しくありません。このように、年齢の定義や年齢制限は労働条件やその企業の求めるものによって違います。ですから、ご質問に回答するには、状況によっていろいろ分けて考えてみる必要があります。

【岩田】 フレリヒスさん、もしくはドイツの見地からして、高齢者雇用でのグッドプラクティスとはどういうものか簡単にお話しいただけますか。

【フレリヒス】 ベストプラクティスというのは、年齢が全く問題にならないことだと思います。すなわち、従業員が一生を通じて、30歳だけではなく、35歳でも、40歳になっても、45歳になっても訓練を受け続ければ、年齢は全く問題にならないでしょう。また、ある企業が採用するときに、30歳でも51歳でも年齢にかかわらず、その技能のみをみて採用し、そして、ある年齢で技能不足を防止するための措置を講じる。そのような行動が、グッドプラクティスの特徴だと思います。

【木村】 募集、採用のご質問にお答えする前に、ちょっと誤解を解いておきたいというのがあります。先ほど180万円という数字を言ったら、そればかりが注目されているようでございますけれども、これは雇用延長の求人の中で一番安いところでありまして、例えば、一番軽い軽作業だとか事務職みたいなところがその水準です。例えば特許事務といった仕事になってくると、350万円とか、400万円とか、あるいは貿易業務ですと、500万円ですね。まして会社側からオファーするような場合は700万円、800万円という数字が出ています。あくまでそういうものであるということで、ぜひご認識を改めていただきたいというのがまず1つでございます。
 次に、募集、採用の年齢制限でございますけれども、これは一般の募集、採用ということでよろしいでしょうか。一般の中途採用につきましては、現在、採用抑制というのをしておりまして、採用の中心というのは、実は、新規学卒者がすべてです。それしか採用していないのが年齢差別だと言えば、そういう話になってしまうのかもしれません。中途採用的な採用は、どちらかというと、一般的な公募というよりも、ある特殊な技術を持った人をハンティングするという感じでの採用です。ですから、その意味で言いますと、今、問題になっているような年齢制限をつけての一般的な採用、公募、そういう形は行われていないというお答えになると思います。
 社内的な処遇制度につきましても、今後は一切年齢とは関係ない、定年はありますけれども、そういうことでいろんな賃金制度、処遇制度を組み立ててきております。その意味でも年齢というのは、これからはどんどん制限が解除されてくるのではないかと思っています。

【質問者3】 一般的ではないですけれども、やはり新卒採用も厳密に言えば差別に当たる、そう言うほうが好ましいのではないかと思います。ですから、その辺もぜひ、NECだけではなく、大企業はほとんどそうですから、どこがいいとか悪いとかとは別に、やはり「能力のある人、やる気がある人、体力がある人は年齢に関係なくだれでも採ろう」という姿勢を企業側にとっていただく。「募集の時点で切るのではなく、面接も受けさせてみて、その人を判断して採ってほしい」というのが私どもの考え方です。そういうふうにぜひお願いしたい。

【岩田】 それでは最後に、それぞれの先生方から簡単にコメントをいただき、きょうのフォーラムを終わりにしたいと思います。

【藤村】 高齢者、特に60歳代前半の雇用の場をどう確保するかというところで、各社いろんな知恵を絞っていらっしゃいます。今までいろんな会社を見てきましたが、300人未満の会社はわりとうまくやっています。それは若年層が採れないからです。そういうところの経験が大企業に役に立つと思います。ですから、「日本で何をグッドプラクティスと言うか」ということですが、案外そういう小さい会社によいアイデアがあると思っています。その辺をこれから勉強していきたいと思います。

【テーラー】 藤村先生がおっしゃったことと関係しますが、私が訪問した小企業には基本的な人的資源管理の技能がありませんでした。これらの企業には人的資源の管理技術が存在していないのです。ですから、このような企業を訪問して高齢者の話、あるいは年齢的な多様性の話をすることから始めるのは間違いだと思いました。多くの中小企業はほんとうに、まずしっかりした人的資源管理制度を構築するところから始める必要があると思います。そして、その後、年齢の問題を議論すべきだと思います。人的資源管理の枠組みがないと、小企業ではこの問題を理解できないと思います。したがって、まず一歩下がって、ほんとうの基本から小企業の場合は始めるべきだと思っております。

【フレリヒス】 2つほど申し上げたいことがございます。いろいろな問題を年齢に関連付けていますけれども、これらは実際には年齢関係の問題ではありませんで、枠組みとなる条件に関連する問題なのです。つまり労働条件、賃金、税金の問題かもしれません。したがって、年齢の問題を議論する前に、常にどのような枠組みの下で年齢の問題が起きているのかということを考えるべきです。年齢だけに焦点を当てるのではなくて、どの枠組みが問題の原因となっているのかを頭に置いておくべきです。原因となっている枠組みを調べることはとても重要だと思います。  2つ目に申し上げたいことも、年齢に焦点を当てることにも関係します。年齢をいろいろ分けて考える必要があります。例えば55歳以上に焦点をあてるとかいうのではいけません。産業部門や環境により、それぞれ年齢の意味合いが変わってきます。だから、我々は視野を広げ、ライフコースの視点から考えることも必要です。これらのことは重要ですから、年齢に関連する問題を考える際に心にとめておいてください。

【木村】 説明の中でも申し上げてきましたように、高齢者雇用というのを本格的に日本で展開していくためには、抜本的な日本の雇用処遇の問題を考えていかなくてはいけません。新卒採用を中心とした日本の雇用関係の始まりというのが、恐らくそういったことの第1点でもあろうかと思っております。一企業の中ではなかなか解決できない問題が多く、悩ましいところはありますが、当面は地道な努力をしていくしかないのかなというような観点で見ております。

(文責:事務局)

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