JILPTリサーチアイ 第26回
若者支援、この15年を振り返る

人材育成部門 主任研究員 堀 有喜衣

2018年1月22日(月曜)掲載

2003年の若者自立・挑戦プランから約15年が経過した。当機構では日本労働研究機構時代から若者の学校から職業への移行についての研究を積み重ねてきており、若年者雇用に関する研究の蓄積は実に30年に及ぶ。とりわけ90年代半ば以降に学校から職業への移行が不安定化して以降、実証的な研究に基づき政策的な支援の必要性を継続的に訴えてきた。

若者の雇用が社会的に問題だと認識されるにはそれなりの時間を要したが、15年がたった今日、若者雇用促進法により法的裏づけを得て、若者支援の必要性については一定の社会的認識を獲得したかのように見える。また新規学卒者の就職はバブル期以来の好調を維持しており、若者が学校から職業に安定して移行できるという観点から見れば大きな問題はなくなったものと受け止められているようだ。たしかに現状においてはマクロから見る量的指標は相当に安定している。しかし現状から一歩引いてあらためて見てみると、当機構が2001年から5年ごとに実施している「若者のワークスタイル調査」からはいくつかの「質的」な課題が見えてくる。

第一に、若者の高学歴化による若年労働力構成の変化である。一般に供給側の高学歴化と需要側のニーズがぴったり合うことは稀であり、1960年代に中卒者から高卒者に供給が変化した際には、企業は大きな人事管理の変更を余儀なくされた。2000年代前半の不況期は大卒未就職者が多く生まれたが、その後さらに高学歴化した若年労働力を労働市場に順調に吸収することが今後も可能であり続けるのかまだ分かっていない。

第二に、フリーターから正社員への移行が景気が良いにもかかわらずあまり進んでいないことである。フリーター経験率は下降しているのだが、フリーターから正社員への離脱率はそれほど高まっていない。この要因の解釈はいくつか考えられるのだが、就職が改善する中でフリーターになる若者層においては課題が大きい者の占める割合が高いであろうこと、また高学歴化に伴ってフリーターになる理由が変化していることなどが考えられる。

第三に、早期離職の理由の変化である。若い時期は一般に試行錯誤の時期であり、離職率も高いのが普通であるが、近年では早期離職率は減少している。しかし早期離職の理由として、かつて若者の早期離職の主流であった仕事と自分のマッチングよりも労働条件を挙げる割合が高まっている。就職状況の改善によりマッチングが良くなったために相対的に労働条件が挙げられるようになっているのか、あるいは若者の労働条件が悪化しているのか、「ワークスタイル調査」だけで確かめることはできないのだが、さらなる調査分析が必要である。

第四に、かつて若者であった「就職氷河期世代」が中高年になり、もはや若者とは呼べなくなったことである。しかしかつての中高年のように職業経験がありながら何らかの理由で安定した仕事を得られていないのではなく、経験をつめないまま年齢を重ねてしまった、量的にけして少なくないかつての若者層に対する支援はどのようにありうるのか。若者世代への支援の延長上にあるのか、あるいは中高年向けの支援となるのか、議論が必要なのはこれからである。

第五に、非正規シングル女性については結婚によって問題は解消するとみなされてきたが、結婚しない男女が増加し、年齢を重ねて正社員への転換が難しくなるという文脈の元で、非正規シングル女性の経済的自立の問題が浮上しつつある。シングルの非正規女性への支援についてどのように考えていくのか、今後の一つの重要なイシューとなるであろう。

2003年の若者自立・挑戦プラン策定の際には、若者支援に対する熱気に満ちた期待があった。あれから15年経ち、若者に対する政策的な支援が成熟する中で、我々はこの15年間で何を達成し、何を置き去りにしてきたのだろうか。景気の良い今こそ、原点に立ち戻り、あらためて検討してみることが必要である。