無資格者に資格取得を支援することで社員の定着率の向上に取り組む
 ――社会福祉法人いわみ福祉会

大学・企業ヒアリング

島根県浜田市、江津市の2市を活動拠点とする社会福祉法人いわみ福祉会は、障害者・障害児福祉、高齢者福祉事業を展開。中途採用者が多く、介護系の無資格者も多いことから、資格手当の支給や資格取得にかかる経費を助成するなど資格取得支援に力を入れている。資格取得自体に定着率を高める効果がみられることから、さらにキャリアパスの「見える化」でも離職低下の効果も期待している。

島根県浜田市、江津市を中心に障害者・児福祉、高齢者福祉事業を展開

いわみ福祉会は、1973年、障害のある子どもたちの親が中心となり、島根県浜田市金城町に設立された(設立当初の母体は、「手をつなぐ育成会(親の会)」)。その後の主な沿革として、1974年には、知的障害者更生施設「桑の木園」を設立(現:障害者支援施設)。1999年には、養護老人ホーム「清江園」(現:「ミレ青山」)の経営を開始し、事業領域を介護事業にも拡大。2006年、知的障害児施設「こくぶ学園」の経営を開始している(現・障害児入所施設)。そのほか、同会は、障害者福祉のなかでも就労支援事業に力を入れており、福祉的就労の場として、パンの店「プチマタン」、ケーキ洋菓子店「トルティーノ」、イタリアンレストラン「森のレストラン」などの店舗も運営している。主な活動地域は、島根県浜田市、江津市の2市。拠点数は約20カ所に及ぶ。

運営する事業領域は大きく分けて、障害者福祉(障害者支援施設、生活介護、就労継続支援等)、障害児福祉(障害児入所施設、放課後等デイサービス等)、高齢者福祉(養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイサービス等)――の3種。

障害者就労継続支援にも注力し、職業指導員がパンの店を通じて障害者に就労支援

同会の従業員数は、正社員204人、非正社員263人の計467人(2024年4月時点)。男女比は、男性33%、女性67%で女性のほうが多い。正社員の平均年齢は45.7歳、平均勤続年数12.3年。正社員の年齢分布では40代、50代が多くを占め、若年層ではとくに20代が少ない。管理職(課長以上)の女性割合は13.0%、監督職(係長等)以上の女性割合は31.7%となっている。従業員に占める非正社員の割合は56.3%。非正社員の割合がやや高いが、これはグループホームの世話人として、食事の提供業務に就く短時間勤務の社員(主に60歳以上の女性)の比率が高いことなどによる。

採用における新卒・中途の別については、2024年度の正社員採用実績では、新卒1人、中途4人となっている。過去5年でみると、新卒採用比率は約3割であり、中途採用中心の採用をしている。具体的には、ほぼ毎年、新卒採用をしているが、採用実績がある場合、1~2人の採用となっている。対して、中途採用は毎年4人ほど採用している。一方、非正社員の採用について過去5年でみると、毎年40人前後を安定的に採用している。離職率(年度当初在籍者に占める年度内離職者の割合)については、2024年度で正社員が4.4%と低く、非正社員の離職率も13.3%である。

主な職種としては、障害者・障害児福祉では、管理者、障害者支援職(生活支援員、職業支援員)、障害児支援職(保育士、児童指導員)、相談支援専門員、世話人などがある。高齢者福祉では、支援員、介護職員、生活相談員、ケアマネージャーなどがいる。そのほか共通的職種には、看護職員、栄養士、調理員、事務員などがある。

例えば、障害者支援施設「桑の木園」の場合、生活支援員(障害者支援職)の仕事内容は、障害者の食事、入浴、トイレ、移動などの生活全般にわたる支援・指導などがある。また、障害児入所施設「こくぶ学園」の場合、保育士・児童指導員(障害児支援職)の仕事内容は、入所する知的障害・発達障害のある児童等(幼児~18歳)への生活支援業務や、起床、食事、登下校時の送迎、入浴、就寝時の見守りなど。障害者就労継続支援事業を行うパンの店「プチマタン」の場合は、パンの生産や販売を利用者とともに行う中で、働くことの意義や就労に必要なさまざまな支援を行うのが、職業指導員(障害者支援職)の仕事内容となっている。。

社員の資格取得を促進し、定着につなげる

社員の働く意識について尋ねたところ、自己成長に関する意欲がみられるという。同会は中途採用中心であり、採用者には他業界出身が多く、介護系の資格を持たずに就職する者がほとんど。特別養護老人ホーム「ミレ岡見」で施設長を務める大石寿氏は、無資格で入職する者について、「就職後5年程度は、わからない中で無我夢中で働く者がほとんどだが、現場では専門職の知識や資格が次第に必要とされることから、資格取得に意欲を示す者が多い」と話す。

施設運営では有資格者の配置基準も法定されていることから、人材確保の面からも、資格取得支援は欠かせない。具体的な資格としては、高齢者福祉では介護福祉士、障害者福祉では精神保健福祉士などがある。例えば、介護福祉士の場合、資格取得には現場経験3年以上が必要だ。また、障害者福祉では、現場経験を積んだうえで、生活支援員や職業指導員から相談支援専門員、サービス管理責任者などへ、経験年数に応じて資格取得のステップを踏んでいくキャリアもみられる。

具体的な資格取得の支援制度としては、資格取得に要した費用の半額を上限とする助成制度がある。資格取得後についても、資格手当(毎月)を支給する。例えば、介護福祉士の場合、月額5,000円の資格手当がつく。そのほかにも、資格取得のために、職場で勉強会も設けている。養護老人ホーム「ミレ青山」で施設長を務める桑原文寿氏は、資格取得の現状を次のように語った。

「最近は、介護福祉士の養成校等を出た方などの入職はほとんどなく、中途採用で、ほかの仕事をしてきた人が介護の現場に飛び込んでくることが多い。そういう方は、働きながら資格を取るケースのほうが多い。資格取得への支援を法人として充実させている。ほとんどの方にチャレンジしていただくよう促していて、取得者も多い。高齢者福祉での介護事業の場合、介護社員の7割程度が介護福祉士の資格を有している」

キャリアパスを「見える化」することでも定着率の向上へ

資格取得によりスキルを高めることは、定着率の向上にも役立っているようだ。「やはり現場で活躍している支援員、介護職員をみると、専門性が高まるにつれて、仕事を続けていこうという姿勢が高まっている、と感じる」(大石氏)という。

同会では、多くの社会福祉法人と同様にキャリアパスを社員と共有し、さまざまな目標や働き方をもって長く勤めたいという気持ちを高められるよう試行錯誤している。法人本部事務局の岡本秀彦氏は、次のように説明した。

「キャリアパスに関するキャリアラダーのようなものを作って、共有している。例えば一般職は、副主任、主任。監督職では係長、課長補佐。その後は、管理職(初級、中級、上級)という形で職位と役職の階段があり、面談等を通じてキャリアパスをそれぞれでのぼっていくというイメージ」

また、同会の特徴として、高齢者福祉、障害者・障害児福祉など、幅広い事業領域を展開していることがある。業務の広がりがあり、人事異動を通じて、キャリア展開の刺激を与えている。法人事務局の森脇亮祐氏は、次のように語る。

「事業領域が広いので、いろんなキャリアパスが想定できることが大きい。新卒採用は、経験も浅いので、本人の希望といっても、よくわからない中での選択であることも多い。法人内を異動することで、障害者福祉や高齢者福祉のそれぞれの良さに気づくこともある。異動は本人が希望するケースもあれば、法人のほうで期待して異動してもらうケースもある。とくに新卒にはキャリアパスをこちらから示すことも必要であると考えている。資格は重要であるが、障害福祉分野でも高齢者福祉分野でも、資格がなくても活躍できる仕事はある。働きながら資格を取ってキャリアアップしていきたいと思える土壌が必要であると考えている」

若年層を中心にワーク・ライフ・バランス重視の傾向

社員の意識では、とくに若年層において、プライベート重視や、家庭の時間の充実に関するニーズは強いという。同会としても、社員のワーク・ライフ・バランス重視に応えられるよう、職場環境の整備に取り組んでいる。具体的には、産前産後休暇、育児休暇、介護休暇、子の看護休暇はすべて有給で制度化している。同会の産休・育休取得率は100%だ。

また、コロナウイルスは沈静化しているものの、同会では、職場内での蔓延を防止するため、コロナ休暇(有給)を維持している。「家族の罹患を防ぐためにも、有給で休暇を取れるようにして、子育て世代が休みやすい環境をつくっている」(岡本氏)という。そのほか、年間休日は110日だが、それに加え、バースデー休暇(有給)も設けている。年次有給休暇は、入社初日から20日付与としている。

今後の課題は、新卒採用による若年層の確保と男性社員の定着

今後の課題としては、年齢構成で若年層が少ないことから、若い世代の確保に力点を置いている。そのためには新卒採用の強化が欠かせない。中途採用では20代の求職者がほとんどいないためだ。一方、最近の試みとして、人材確保では、外国人採用(特定技能)にも取り組んでいる。採用のしやすさから外国人採用は有力であり、採用者の質も高いという。

また、同会はそもそも離職率が高いほうではないが、離職の抑制も課題としている。離職理由には、給与の低さがあるという。とくに子育て世代は、給与面から他産業に転職する者がみられる。「お子さんが生まれると、とくに男性は、もっと稼がないと、ということになる。例えば、この地域には大手の工場が少なからずあるが、そういったところが募集を開始したときに一気に転職していく傾向はみられる。何が違うかと言えば給与面。女性が中心の職場なので、離職率という意味では高くはないが、男性が定着するためには、給与面の改善が必要と感じる」(森脇氏)という。

そのほか、新たなテクノロジーの活用について、ICTの導入にも課題はある。同会は、介護記録などの支援ソフトを導入し、その効果的な活用に向けてさまざま取り組みを始めているが、社員のすべてが有効に活用できている状態にはないという。「ICT関係は導入したいと思っているが、やはり得意ではない人のほうが多い。職場内で普及する手段として、今いるスタッフが勉強するのが早いのか、それとも専門の人を採用したほうが早いのか、考えていかないといけない」(桑原氏)と語った。

(奥田栄二、郡司正人)

法人プロフィール

  • 社会福祉法人 いわみ福祉会
  • 所在地:島根県浜田市金城町七条ハ559番地2
  • 理事長:室崎 富恵
  • 事業内容:障害児・障害者・高齢者を対象とした福祉事業
  • 従業員数:約467人(正社員204人、非正社員263人)(2024年4月時点)

(ヒアリング実施日:2025年3月18日)