学生からの個別相談を強化することで就職活動の悩みに対応
――神奈川大学
大学・企業ヒアリング
首都圏にキャンパスを構える神奈川大学では、各学年に合わせた就職ガイダンスや、大学のキャリアセンターが実施する企業参加型のイベントや説明会等を実施している。企業の採用選考が早期化している現状に対応し、インターンシップへの早期参加を希望する学生に対して積極的に支援している。SNSなど多様な就職活動情報の氾濫の中で、就職活動の早期化によって悩みを抱く学生も増えているため、個別面談によるサポートを強化している。
首都圏での就職希望者が増加傾向、特にIT企業への就職比率が高まる
神奈川大学は、文系、理系合わせて11学部を有する総合大学。横浜エリアに「横浜(白楽)」と「みなとみらい」の2キャンパスを展開しており、学生の男女比は男性7割、女性3割になっている。1学年あたりの学生数は約4,500人。これを出身地別にみると、神奈川県出身者が約5割、東京出身者が約1割、それ以外の地域出身者が約4割を占めている。
年間の卒業生のうち、毎年約85%の学生が就職し、約5%の学生が進学している。2024年度卒業生における就職者は3,268人で、就職先の地域をみると、2015年度に30%を超えていたUターン率(地元就業率)が年々減少傾向にあり、2024年度は20.0%となっている。東京都・神奈川県での就職を希望する学生は多く、2024年度の就職者では、東京都が本社の企業への就職が55.9%、神奈川県が本社の企業への就職が23.2%となっている。
業種別の就職者状況では、「サービス業」が26.4%と最も多く、次いで「卸・小売業」が17.8%、「情報サービス業・調査業」が16.7%、「製造業」が9.6%、「金融・保険業」が7.4%、「公務員」が6.0%などとなっている。
最近の特徴として、IT企業への就職希望者が増えている。実際に、以前は金融機関に就職割合が高かった経済学部出身でも、近年はIT企業への就職割合が高まっている。勤務地が首都圏に集中しているIT企業に就職することで、首都圏の勤務割合も高まっている。コロナ禍で、IT企業が大きく成長したことや、企業側が人手不足を背景に文系学生の採用を積極的に行い、理工系以外の学生にも採用対象を広げていることが背景にある。IT未経験者に対しても、企業は、プログラマー、システムエンジニアとして社内で教育・育成する傾向もあると言われている。
採用直結型のインターンシップの増加と企業の採用活動も早期化
神奈川大学の就職支援のスケジュールでは、毎年、3月から4月にかけて、各学年を対象とした、就職ガイダンス、オリエンテーションを実施している。1年次(入学時)はキャリア教育をふまえた大学生活の指導、2年次は就職準備期間、3年次は就職活動本番と位置づけられている。4年次(4月)には、未内定の学生を対象とした内定取得支援を行っている。
インターンシップについては、3年次の場合、5月から6月に申し込みを受け付け、夏休みに入る前に、インターンシップに向けた業界研究、エントリーや選考に向けた対策を行い、夏休み期間中にインターンシップに参加という流れになっている。
しかし近年、採用に直結するインターンシップを導入する企業が増え、それに伴い採用活動の早期化が進んでいる。そのため、大学3年次の夏に実施されるインターンシップやオープン・カンパニーへの参加が、就職活動の第一歩となりつつある。就職活動への意識の高い学生は低年次から参加を希望しており、神奈川大学では最終的に約7割の学生が、採用選考が本格化する前に企業と接する機会を持っている。就職支援部事務部長(ヒアリング当時)の旭馨氏は、採用選考の早期化の現状を次のように述べている。
「就職に直結するインターンシップを導入する企業が増えている。これまでのスケジュールでは、3年次の3月から就職活動を開始していたが、近年は多くの企業が、早期選考で採用活動を早めている。以前は4年次以降に内定が出るのが一般的だったが、今では、3月前からも内々定を出す企業も見受けられる。さらに、複数の内定を持つ学生もいるため、企業は内定辞退を防ぐために内定者フォローも強化している。企業によっては、内定後も、月に1回、2カ月に1回など面談日を設けたり、内定者同士の懇親会を企画したりするなど、手厚いアフターフォローを行っている現状がある」
就職活動の早期化:学生に生じる焦りや悩み
企業の採用活動が早期化するにつれて、学生側の就職活動の時期も早まっている。しかし、学生のキャリア意識には大きな差がみられる。キャリア意識の高い学生ほど、インターンシップに早期に参加する傾向にある一方で、インターンシップの参加を考えていない学生も一定数存在する。就職支援部就職課長補佐の小杉洋平氏は、就職活動の早期化を次のように語った。
「例年2月に、就活本番に向けて業界研究のイベントを開催する。その対象は主に4年生に進級する直前の3年生。今年の参加実績では、全体の参加者のうち3年生の参加は6割程度で、残りの4割は1、2年生だった。ということは、もう2年生の3月、つまり3年生になる前から就活に関する意識が高まっている学生がいるということ。1、2年生も、本来であれば3年生向けの講座に出席するぐらいなので、意識の高い学生の動き出しは早い。その要因には、就活に対する焦りがあるのではないか。もう1、2年生のうちから動かないといけないのではないか、3年次のインターンシップに参加できなかったら、就職できないのではないかと。本来であればそこまで意識しなくてもいいような焦りを持っている学生が年々増えてしまっている」
例えば、業界研究等の就職講座では、前期講座の学生の参加は比較的集まりやすいが、後期では参加人数は低下傾向にある。後期は、早期選考が始まっている時期にあたるが、すでに選考に進んでいる学生は就職課のガイダンスではなく、個別相談を活用する。そのため、相談件数自体は右肩上がりにあるという。
大学の講座利用の低下と個別相談の増加傾向については、SNS等の多様な就職活動情報の氾濫が影響を与えている。「さまざまな就職情報があふれており、外部のサービスを利用している学生も増えてきているため、本学の講座の利用が減っている。その反面、個別相談を利用する学生は増えている」(旭氏)。就職支援部就職課長の河原明弘氏は、「大学(就職課)の講座は、同種の内容が就職情報サイトでも見られるが、個別相談は引き続き大学でしかできない部分でもあるので、個の支援を希望する学生は、大学のほうを頼っている傾向もあるのではないか」と付け加えた。
インターネットの普及がもたらす採用行動と学生の就職活動の変化
この20年間で、企業の採用手法も大きく変化している。インターネットの普及により、求人情報サイトやSNSを活用した採用活動が一般化した。また、オンライン面接やAIを活用した選考プロセスの導入など、テクノロジーを活用した採用手法も増加傾向にある。2020年以降のコロナ禍で、大学の授業がすべてオンラインになったことで、学生はオンラインに慣れてしまったという。大学の就職セミナーでも、オンラインで参加する学生も多く、オンラインによる個別相談も増えている。
就職活動情報の氾濫の中、大学を経由せずに単独で就職活動をしている学生も増加している。従来であれば、大学(就職課)が求人情報を学生に提供し、企業説明会などを通じてマッチングをするという方法が主流だったが、近年、就職課を利用する学生や、イベントに参加する学生は減少傾向にある。そのため、就職課にある求人情報を就職に結びつけられないという課題も抱えているという。
就活スケジュールの多様化も、大学の就職支援の課題だ。小杉氏は、従来であれば各学年に応じた就職支援のイベントの時期を設定できたものが、就職活動時期の早期化と学生のキャリア意識の格差によって設定しづらくなっていることについて、次のように述べている。
「今までであれば、3月に学内の合同企業説明会を開催すれば数百人規模で学生が来ていたが、3月だとすでに就活が終わっている学生もいる。どの時期に就職支援のイベントをやればよいかの正解がない。今や、学生が就職活動を揃って行うような時期がなくなったのではないかとさえ思うことがある。学生の企業の選び方が多様化している。個の支援を求めている学生が増えてきているというのが、個別面談を通じて得た実感だ」
ワーク・ライフ・バランスへ:学生の意識変化
過去20年間で、学生の働く意識は大きく変化している。20年前、学生は安定した収入や終身雇用を重視する傾向が強かったが、10年前から5年前にかけて、共働き世帯の増加やライフスタイルの多様化に伴い、ワーク・ライフ・バランスを重視する学生が増加している。現在では柔軟な働き方やプライベートの充実を求める声がさらに高まっている。
以前は、昇進や高収入を目指す上昇志向が一般的であったが、近年では、自己実現や社会貢献を重視する学生も増えている。上昇志向の強い学生は大手優良企業を志望し、ワーク・ライフ・バランスを重視する学生は福利厚生が充実した企業を選ぶなど、志望する企業選びの基準は多様化しているという。
学生側の意識変化に呼応するように、企業側の就職説明でのアピールポイントにも変化がみられる。以前は、企業側は仕事のやりがいや社会的インパクトを強調していたが、近年では、フレックスタイム制やリモートワークの導入など、働きやすさを学生にアピールするようになった。また、勤務地希望への配慮を求める学生が多いことから、企業側も、従来の全国転勤を前提とした総合職採用ではなく、特定地域での勤務を保証する「エリア採用」をアピールする動きもみられる。転勤を敬遠する学生が増え、地域に根ざしたキャリアを志向する傾向が強まる中で、企業も柔軟な採用形態を模索している、と分析している。
さらに、企業側は女子学生の採用にも積極的になっている。企業は、女性が働きやすい環境を整えるために、「えるぼし」や「くるみん」の認定取得を進めており、これらの認定を取得することで、多様な人材を確保し、女性が長く働きやすい職場環境を整えていることをアピールしている。河原氏は、「これらの認定は、女子学生だけでなく、男子学生から見ても、女性・子育てに優しいこと自体が、働きやすさを示すことから、評価が高くなる」と指摘した。
学生の自己成長・キャリア意識の高まりが、学生の悩みや焦りを生む
近年、学生の就職先選定の意識では、自己成長やキャリア形成の重視傾向が強まっている。その背景には就職活動の早期化やインターンシップの重要性の高まりがある。企業側が低年次からのインターンシップやキャリアイベントを充実させていることに加え、オンラインを活用した情報収集が容易になったことで、学生も早い段階から自身のキャリアについて考える機会が増えるようになった。SNSや動画配信サービスを通じて、社会で活躍するロールモデルの情報を得る機会が増えたことも、学生のキャリア意識を高める要因になっている。
一方で、こうした早期のキャリア意識の高まりが、逆に学生の悩みや焦りも生んでいる。学生の悩みとしては、自身のキャリアの方向性の不明確さや、企業とのマッチングに対する不安が挙げられる。特に、自己分析や企業研究の不足から生じる迷いが多く見受けられる。インターンシップが早期選考につながっていると考えつつも、就職活動での自己理解や業界・企業研究が進んでいないことから、エントリー段階で躊躇してしまう学生もいる。自己成長を求める一方で、「正解のキャリア」を模索しすぎてしまい、選択に迷いや不安を感じる学生も少なくない、と分析している。
さらに、旭氏は、2000年代以降の学校におけるキャリア教育の進展のなかで、キャリア意識が二極化し、特に意識の低い学生への支援が重要になっていることも強調した。
「小学校からの職場・職業体験や、高校でのキャリア教育など、子どもの頃から職業を考える機会が増えた。キャリア意識の二極化のなかで、キャリア意識が低い学生は、そもそも何をしたらよいか分からないという悩みを抱えている。大学の個別相談では、一人ひとり得意なこと、これまで自身が経験してきた内容を掘り下げていく中で、進みたい方向やキャリアを見つけられるようなアドバイスが重要になっている」
学生のキャリア希望と企業側の要望のミスマッチが離職につながる可能性
大学卒業後の離職については直接把握できていないとしつつも、旭氏は、次のように語った。
「昨今の転職市場の活況により、新卒学生が転職を前提に就職活動する傾向がある。以前は、『就社』という意識で、転職せずに、その会社に勤め続けるつもりで就職をしていたが、今の学生は最初から転職を視野に入れて企業を選んでいる。だからこそ、教育制度がしっかりしている企業を選んでいるのではないか」
離職につながる要因としては、学生が求める柔軟な働き方やワーク・ライフ・バランスと、企業側の期待する労働時間や働き方との間にギャップが生じることがあり、採用後の早期離職のリスクが高まる可能性があるという。また、企業側は全国や海外に拠点があり、多様な経験が積めることをアピールしても、学生側は地元志向が強く、転勤や海外勤務を避ける傾向もみられる。このミスマッチも、入社後の定着率やキャリア形成に影響を与える要因としている。
企業と学生のミスマッチやキャリア観の変化により、早期離職の傾向もみられる。特に、就職活動が対面からオンライン中心に移行したことで、実際に会って話をする機会が減り、企業側が学生の雰囲気を感じ取ることや、学生側が企業の職場環境を肌で感じる機会が少なくなった。その結果、互いの理解不足がミスマッチを生み、早期離職につながっているのではないか、という。
さらに、就職活動において、学生の中には内々定を得た企業に強いこだわりを持たず、妥協して就職企業を決定してしまうケースも増えている。加えて、転職エージェントが乱立する現代において、学生の転職に対する心理的ハードルが低くなっていることも、早期離職を後押ししている要因の1つではないか、としている。
(奥田栄二、郡司正人)
組織プロフィール
- 神奈川大学
- 学長:戸田 龍介
- キャンパス:横浜キャンパス、みなとみらいキャンパス
- 学生数:1万9,509人(学部・大学院合計) ※2025年5月1日現在
- 学部等:11学部・8研究科
(ヒアリング実施日:2025年3月24日)
2025年11月号 大学・企業ヒアリングの記事一覧
〔大学〕
- 学生からの個別相談を強化することで就職活動の悩みに対応 ――神奈川大学
- コロナ禍以降、企業の採用活動がオンライン化、遠隔地での面接も容易に ――九州大学
- キャリア・社会連携支援センターでキャリア教育を強化 ――東北大学


