キャリア・社会連携支援センターでキャリア教育を強化
 ――東北大学

大学・企業ヒアリング

旧帝国大学の1つで宮城県に立地する東北大学では、キャリア教育を重視し、キャリア支援プログラムも充実させている。キャリア教育のカリキュラムは通年で実施され、企業説明会やインターンシップを強化。最近では、低学年(1年次)からの参加も可能としている。コロナ禍を経て、学生の就職活動では、キャリア意識が高い活動層と、希薄な層の二極化が進んでいる。ネット社会の進展により、就職情報を自力で入手できる環境となっているが、学生が情報の真偽を正しく選別できるかが課題となっている。

キャリア教育・支援の多様化

東北大学は、宮城県仙台市にある国立の総合大学。入学者の出身割合では関東出身者が最も高く、東北出身者の割合は3割強となっている。県外出身者の割合が高いことから、もともと県内就職は多くない。学部生の進路では、理工学系の学部出身者の8割強は大学院へ進学する。一方、文系学部出身者は学部卒業後、ほとんどが就職の道を選ぶ。

就職先の特徴としては、県内就職では公務員や独立行政法人の志望者が多く、県外出身者でも、Uターンでの地元の公務員志望の割合が高いことがあげられる。民間企業への就職では、工学部系の学部生、大学院生では、首都圏のメーカーに就職する者が多く、近年では、IT企業への就職も増加傾向にある。県内の民間企業について言うと、地元の金融機関やマスコミ等に就職する割合が高い。

同大学のキャリア・社会連携支援センターでは、学生の進路選択支援や、企業・団体に関する情報収集などとともに、企業研究・業界研究のための複数のイベントを通じて、学生と企業・団体との関係構築を行う年間を通したプログラムを実施している。具体的には、①キャリア教育科目の授業②オンデマンドセミナー(自己分析、企業・業界研究、面接対策等)③フェア(企業・団体合同説明会やインターンシップ等のイベント「企業Day」)④ワークショップ⑤個別相談――の5つのキャリア支援プログラムを設けている。

これらのプログラムは、以前は、3年次に企業・団体と接する機会を設けていたが、近年では、企業研究やインターンシップ参加も含め、低学年(1年次)でも参加できるメニューとなっている。例えば、同センターでは、夏・秋・冬の時期に実施するイベントとして「企業Day」がある。そこでは企業・団体合同説明会やインターンシップの紹介が行われる。最も早い夏の企業Dayが5月末~6月に開催されるが、これについても、1年次から参加可能だ。冬の企業Dayは、就職活動の選考時期にあたる3年生中心であるものの、2年生の参加もみられる。プログラム参加が早期化している点について、同センター講師で、進路指導・キャリア相談に携わる門間由記子氏は、次のように語る。

「以前は、3年生からのインターンシップ参加だったが、近年、キャリア実習やオープン・カンパニー(大学のキャリアセンターが実施するイベントや説明会)で、低学年から参加できるメニューが増えてきた。企業のほうも、そのようなメニューを低学年にも紹介したいというニーズがあり、1年生からイベントに参加できるように設定している」

コロナ禍を経て、リモートワークに対する学生の意識が高まる

コロナ禍を境に学生の就職に対する意識も変わっている。コロナ期以降、「リモートワークが当たり前」と考える学生は増えており、副業や自分のスキルを磨いていけるかを重視するようにもなっている。とくに学生時代をアクティブに活動した層ほどオンラインコミュニティに親和的で、オンラインの良さも理解している者ほど、職場のリモート環境の充実を求める傾向にある。その一方で、つながりを求める学生も一定層を占めている。

コロナ期に入学した学生の中には、大学生活を通じて、人とのつながりを築けなかった学生もいる。そのような層では、会社に入ってからもつながりがない状態で働くことに不安を抱く傾向にあるという。門間氏は、リモートワークに親和的な層とつながりを求める層について次のように説明した。

「リモートが快適だと思う学生がいる一方で、今度こそはつながりがあるところがいい、教育体制や福利厚生がしっかりしているところがいいという学生もいる。リモートワーク等の柔軟な働き方を求める学生がいる一方で、伝統的な日本企業を求める学生もおり、このあたりでの振れ幅がすごく大きくなったな、という印象がある」

学生側はワーク・ライフ・バランスやスキルアップを重視

就職活動での企業選びでは、学生側はワーク・ライフ・バランスやスキルアップを重視する傾向が強くなっている。企業説明会でも、リモートワーク等の柔軟な働き方や、年休がどのくらい取得できるか、研修制度がしっかりしているかなどの質問が出ることが多い。また、最近の傾向として、給料の額についての質問も増えているという。ジョブ型人事の企業に注目する学生もいる。ジョブ型で採用されたほうが、初任地がわかり、キャリア・パスも明確になるとの期待がある。専門職で就職したほうが安定的なキャリアを積めるのではないか、と感じているようだ。

一方、企業側の説明にも変化が見える。例えば、育児休業制度について、以前であれば制度があることのみを紹介していたものが、近年では具体的な取得率を数字で示すことが増えた。育児休業制度があることは当然で、実際にどの程度取得できているか、男性の育児休業取得率の高さはどのくらいかなど、具体的な運用実態に焦点が移っている。

また、給与面についても、同一業界内での給与の高さや、初任給の額、30代での給与額などを具体的に説明する企業も出始めている。実収入と関連する福利厚生について説明することも増えている。「給料面は、以前はそこまで触れていなかったような気がするが、今では、企業側からむしろ積極的に発信している」(門間氏)という。

就職活動はキャリア意識があり積極的に活動する層と希薄な層の二極化に

就職活動(就活)では、キャリア意識があり積極的に活動する層とキャリア意識が希薄で積極的に動かない層の二極化が進んでいる。とくにコロナ期で人とのつながりが持てず、キャリア教育にも積極的に関われなかった者では、就活の3年次に差し掛かり悩みを抱く層が増えているという。門間氏は二極化の内実を次のように説明した。

「以前よりも学生の二極化が進んでいる。今後のキャリア・パスを明確に考えている自立した学生がいる一方で、何をしたらいいかわからないという層もおり、その差が以前よりも激しい。学生時代から自分で積極的に社会に関わっていかないと学べなくなったのではないかと感じることがある。コロナ禍で入学した学生のなかには、学生時代、もっとできることがあったはずなのに何もできていない、というマイナス思考がある者もいる。さらに、キャリア教育が低学年から始まり、学生生活を充実させている友人が周囲にいるだけに、高学年(3年生)になっても何もしていない、卒業後に何をしたいか全然考えられない、どこから手をつけたらよいかわからない、という悩みは以前よりも増えていると思う。とはいえ、まだ3年生なのだから、いくらでもできることがあるはずなのに、『もう終わりです』みたいな感じになっている」

その一方で、キャリア意識が高く、早期に就活に取り組む活動的な層にも課題はある。このような層では、インターネットやSNSを使い、自力で企業情報を収集し、就活を進めていく傾向にあるが、「ネット等で得られた情報の正しさは別問題であるのに、情報の正しさよりも情報が取れること自体に目がいってしまう。情報が取れるから、わざわざ大学のキャリア支援センターに行かなくてもよいと思う学生も増えている」という。

情報過多のネット社会で正しい情報を学生が選別できていないことが課題

また、「就職支援サークル」に入ることで、独自に就活を進める者もいる。就職支援サークルとは、大学生が就職活動をサポートするために活動するサークルのこと。通常、内定を終えた先輩が後輩の相談に乗り、エントリーシート対策講座や面接ノウハウ等の指南を行う。OBによる企業説明会を催したり、インターンシップの機会を提供することもある。このようなサークル参加者も大学のキャリア支援センターを利用しない傾向にあるが、なかには、サークルで得られた情報の真偽に不安を感じ、同センターに相談に来る者もいるという。門間氏は、「情報が以前よりも増えていて、正しい情報を学生が選別できないことが1番の課題」だという。

サークル内でも内定を取れる者と取れない者の格差はあり、就活がスムーズに進まない学生のなかには不安を抱く者もいる。先輩の指導の熱も高まり、その雰囲気にのまれて企業説明会やインターンシップを多数受け続け、安易に就職を決めてしまうケースもある。この点で、サークルは早期化を煽ってしまう性質がある。

就職相談では、多数の企業に応募しても内定が取れない学生からの悩みの相談を受けることがよくあるという。門間氏は、「最終的に入社できるのは1社なのだから、盲目的に受け続けて意に沿わぬ企業に就職するよりも、そもそも行きたい企業とは何なのかを考えたほうがよい」と、アドバイスする。その一方で、学生が抱く不安についても次のように付け加えた。

「今の学生は、取り残されたらどうしよう、1回失敗してしまったら終わりという意識がある。しかし、就職活動はゴールではなく、働くことへのスタート地点。就職活動で落ちこぼれることに不安を抱き、なぜ落とされるのか、何が正解なのかと悩んでしまい、次に踏み出せない学生もいるが、まずはスタート地点に立てるように、失敗から学び、次に活かすことが重要」

門間氏は、就活の時期が早期化していることについても、「大学としては、早期化を促すつもりはなく、今でも銀行やメーカーなどルールどおりに採用活動を進めている企業もある。自分が志望する業界の動きを見定めつつ進めていきましょうと、学生にアドバイスしている」と語った。

職場と私生活のバランスが取れないことが離職につながりやすい

学生の転職に対する意識に変化はみられるのだろうか。門間氏は、会社に入社してから転職をすることについて、学生は当たり前だと思っている節があるという。

「就職相談では、学生から『転職の際には』などの話が出ることもある。安定は求めるけれども、生涯勤めたいという意識は希薄になっているのではないか。(東北大学の)学生の特徴として、親の目からみても安心というところで、公務員志向、大企業志向が高いのは変わらないが、その職場環境が快適であれば働き続けたいけれども、もしも快適ではなかった場合はどうしようかというところで不安を抱くようになっている」

就職後の早期(3年以内)の離職状況について、大学としては就職後の状況をデータとして把握はしていないとしつつも、卒後の学生からの相談を受けた経験から、以前よりも転職傾向は高くなっているのではないかとして、「転職エージェントの普及もあるのかもしれないが、入社してから理想とするキャリアとギャップがある場合に離職につながりやすい。ただし、希望する会社であっても、『とりあえず3年は働いてみる』という傾向は以前からみられた」と話す。就職相談の印象では、「就活時に希望する会社であっても、やりたい仕事がやれるとは限らないとは学生は思っていて、そこで10年頑張るみたいな感じではない。頑張ってみて、自分がやりたい方向と違ったら転職は考える、と話す者が多い」という。

転職活動の理由としては、以前であれば自分が思っていた仕事の内容と違うことがあげられていたが、最近は、ワーク・ライフ・バランスが取れないことをあげることが多いという。資格の勉強がしたいのでリセットしたいという理由もある。「入った業界や業種と自分がやりたいことが大きくずれているから転職する、という話はあまり聞かなくなった。現在の職場と自分の生活とのバランスで見ている学生が増えている」(門間氏)と語った。

(奥田栄二、郡司正人)

組織プロフィール

  • 東北大学
  • 総長:冨永 悌二
  • キャンパス:片平キャンパス、川内キャンパス、青葉山キャンパス、星陵キャンパス
  • 学生数:1万7,975人(学部・大学院の合計) ※2025年5月1日現在
  • 学部等:10学部、15研究科、法科大学院などの専門職大学院、金属材料研究所などの附置研究所

(ヒアリング実施日:2025年3月4日)