コロナ禍以降、企業の採用活動がオンライン化、遠隔地での面接も容易に
――九州大学
大学・企業ヒアリング
九州大学の就職先の特徴は、県外就職のなかでも関東地区(本社)の就職割合が高いこと。コロナ禍を経て、企業の採用活動ではオンラインの活用が増えている。学生も就職活動でのリモート環境に適応しており、遠隔地での面接等でその利便性は高い。学生数の減少と売り手市場によって企業の採用活動は活発化している。企業各社での説明会の回数は増加し、就職直結型のインターンシップも増え、就職活動の早期化現象が起きている。
就職先では関東地区が5割超を占め、九州地区(地元)は3割
九州大学は、福岡県福岡市に本部を置く国立大学。東京、京都、東北帝国大学に次ぐ4番目の帝国大学として1911年に創立された。現在、約1万9,000人の学生と約6,000人の教職員が在籍している。学生の男女比は男性7対女性3で、男性の比率が高い。学部生の進路では、理系の学部出身者の7割は大学院へ進学する。一方、文系学部出身者は学部卒業後、その多くが就職する。
2023年度での学部生(医学・歯学・薬学部除く)の就職先(本社所在地)の特徴は、関東地区が5割超を占め、九州地区が3割、その他が2割弱となっている。地元就職は3割程度であり、県外就職の割合が高く、なかでも関東地区の割合が高い。地元就職の就職先の特徴としては、公務員や電力会社、鉄道、銀行等が多い。
同大学のキャリア・就職支援スケジュールでは、低年次対象で4~5月にキャリアガイダンスを実施し、主に学部3年、修士1年を対象に、4~5月に就活キックオフガイダンスも行っている。全学年を対象とする就職支援のカリキュラムは年間を通じて組まれている。主な流れとしては、前期(4~9月)において、4~6月に業界・企業研究セミナーを開催。同時期にインターンシップ対策講座も設けられている。インターンシップは、5~6月に申し込みを受け付け、8~9月の夏休みに参加する。後期(10月~翌3月)においても、10月~翌年2月にかけて業界・企業研究セミナーを開催。インターンシップは、11~12月に申し込みを受け付け、翌年1~2月に参加する。
コロナ禍を機にオンライン化が進展、企業説明、面接選考でもリモート化が進む
コロナウイルスの蔓延によって、企業の採用活動、学生の就職活動の動きは大きく変わった。まず、コロナ禍において、大学の授業自体がオンライン主体となった。今の大学生は、子どものころからリモート環境に慣れており、その変化を違和感なく受け入れている。「オンラインが当たり前の時代」となるなかで、企業の採用活動にも変化がみられた。同大学でキャリア・就職支援に携わる今城尚哉氏(学務部キャリア・奨学支援課課長補佐)は、次のように語る。
「コロナ禍以降、就職活動の早期化が起きた。以前の九州大学の合同企業説明会は、毎年3月1日から数日間、年1回の対面実施が通例で、1日あたり企業70社程度に対し学生が1,000人ぐらい集まるイメージだった。オンラインが当たり前となるなかで、各社での企業説明会の回数が増えた。企業としては、今まで大学でしか出会えなかった学生に、オンラインでの説明会ができるようになったためだ。そこに学生も直接参加する。すると、どんどん早期化が促されていったのが今の状況」
採用活動がオンライン化されることで、遠隔での就職活動が容易となった面も大きい。とくに九州大学の場合、東京に所在する企業への就職活動では旅費等のコスト面で負担が大きかった。近年では最終面接までオンラインで終わる企業もあることから、地方の大学にとってオンライン化はメリットがある。コロナ蔓延直後は、リモート面接で学生もどこを見ればいいか困るなど戸惑う面もあったが、近年では、十分に慣れているという。
売り手市場、学生数の減少のなかで、企業側もワーク・ライフ・バランス重視をアピール
この20年間での学生の意識の変化として、ワーク・ライフ・バランス重視の傾向がみられるという。とくにコロナ禍以降、リモートが当たり前となるなかで、学生側からすると、リモートで働けるということも企業選びの条件の1つになっているようだ。一方、企業側も、企業説明会のなかで、リモートができることを強調することが増えている。
企業説明会では、ワーク・ライフ・バランスや、年休の取得のしやすさ、育児休業の取得率の高さについて触れることも多くなっている。学生側もワーク・ライフ・バランスにかかわる企業の制度について質問することが増えた。「昔は、福利厚生について、学生から質問しにくかったところがあるが、今は、そんな感じは受けない」(今城氏)という。
学生の自己成長やキャリア、能力開発に対する意識で変化がみられるか尋ねたところ、九州大学では、もともと自己成長に関する学生の意識は高く、「専門を生かすことは、とくに理系、工学部などの学生にとっては当然であり、昔から変わらない」という。IT企業のなかには、文系の学生でも、採用後に社内教育をすることをアピールすることも増えているが、これも、昔からみられたことで、近年の変化とはいえない、とのことだった。
ただし、企業説明会では、学生が希望する業務内容について紹介するケースは増えているという。企業側は、学生の希望に合致する業務に力点を据えて説明している傾向はあるようだ。その背景として、「売り手市場であること、人口減少で学生数が少ないこと」により、企業の採用環境の厳しさが増していることがある。今城氏は企業の採用活動を次のように説明した。
「今は、企業の採用活動は大変。売り手市場のなかで、学生が減っている。採用活動もみんなどんどんと前倒しにしていった結果、年中、採用活動をしなくてはならなくなっている。今の学生の就職活動の流れで特徴的なのは、ほとんどが夏のインターンシップに行っているということ。そのため、学生が動き始めるのは3年生の4月~5月ぐらいの時期が多い。その間に学生は企業研究を行う。それにあわせて企業側も説明会を開く。また、実際の選考は翌年の4年生の4月~5月に実施することもある。そうすると、採用活動を1年中やらなければならなくなり、新入社員の研修も考えると、企業の担当者は、同時に3学年の対応をしなければならない」
インターンシップを通しての就活は常識に
今や、学生が就職活動で力を入れる時期は、3年次の4~9月で、秋以降に落ち着くイメージ。就職活動ではインターンシップの重要性が増している。「インターンシップを通しての就活は常識になっている」という。
通常、インターンシップは、春(4~6月)にエントリーする。その間、学生は、企業説明会で企業情報を入手し、インターンシップ参加のための面接も受け、夏休み(8~9月頃)にインターンシップに参加する。企業によっては、グループワーク等を盛り込み、そのなかで「特別枠」を設けて選考を兼ねるものもある。インターンシップの特別枠とは、通常の応募ルートとは別に、企業が特定の学生グループに対して設けた、選考や採用後のキャリアを有利に進められる可能性のある枠のこと。
企業側からみれば、インターンシップによって採用対象の母集団が形成され、優秀な学生を一定程度見つけることができる。「企業はインターンシップで来た学生を囲い込みたいと考えており、インターンシップの中で優秀な学生に声をかけ、早期選考をする。早ければ、3年生の秋に内々定が出る。理系学生のほうが先に内々定を得る場合が多いが、内々定以外の学生に3月以降に選考を始める。本来、選考開始時期は6月1日からの申し合わせがあり、3月でも早いが、6月頃にはだいたい内々定が出ている状態。早期化は確実に起きているという認識を持っている」という。
企業の採用活動は、企業説明会やインターンシップにとどまらない。企業は学生を囲い込むため、内々定を出すが、内々定が増えるほど、内定拒否も生じうる。そこで、企業は、リクルーター(企業の採用活動の担当者。出身校OBの若手社員等)が内々定を出した学生に接する機会を増やしている。リクルーターは、学生の就職活動をサポートすることもある。具体的には、自社の面接を受ける際に、面接での答え方を指南するなど、面接の練習に付き添う。リクルーターが学生と接する時間が長くなるほど、内々定を断ることも少なくなる。いわば、リクルーターと学生が一緒に成長する雰囲気を醸成することで、学生が会社に残る意思を固めてもらうことを期待している。
人手不足、転職環境の有利さにより離職が生じやすい状況が進行
就職状況がよくなることで就職活動や学業の関係を尋ねたところ、次のような回答を得た。
「就職活動の実態については、長期化というよりも早期化とみたほうがよいと思っている。学生はこれまでは、夏のインターンシップを終えた秋以降も企業研究を熱心に続けていたが、今は、逆にそこまでしなくなっている。学業については、例えば、早期に内々定を得るような学生、いわゆる『情報感度が高い』と自分たちで言っている学生は、外に目が向いている。大学の勉強というより、就職活動で就活仲間をつくるとか。卒業後を見据えて、社会とのつながりに時間をかけたりしている」
また、学生がどのくらい希望する企業に就職できているかについては、売り手市場なので就職率自体は上がっているとしつつも、「就職先が希望に沿っているかについての回答は難しいが、就職活動を通して、就職した企業が希望に合致した企業に変わっていく学生も多いのではないか。就職活動をしていきながら学生も変化する。この点は、昔も今も変わらない」という。
一方、就職活動での学生の悩みで感じていることについては、「内々定の数が増えているためだが、内々定をどうやって断ったらいいかという相談は増えているように思う」と答えた。
学生の転職に対する意識の変化についても尋ねたが、今城氏は、卒後のことは大学では把握できていないとしつつ、一般論として、自分のステップアップや、キャリアの見通しとの相違で辞める学生は増えているかもしれないという。その背景として、人材紹介会社の宣伝などもあり、「転職をして、簡単にキャリアアップができると思っている人が増えているのではないか」と語った。
(奥田栄二、郡司正人)
組織プロフィール
- 九州大学
- 総長:石橋 達朗
- キャンパス:伊都キャンパス、病院キャンパス、筑紫キャンパス、大橋キャンパスなど
- 学生数:1万8,813人(大学・大学院合計) ※2025年5月1日現在
- 学部等:12学部・20学府
(ヒアリング実施日:2025年2月18日)
2025年11月号 大学・企業ヒアリングの記事一覧
〔大学〕
- 学生からの個別相談を強化することで就職活動の悩みに対応 ――神奈川大学
- コロナ禍以降、企業の採用活動がオンライン化、遠隔地での面接も容易に ――九州大学
- キャリア・社会連携支援センターでキャリア教育を強化 ――東北大学


