パネリストからの報告:第40回労働政策フォーラム
高齢者の本格的活用に向けて
(2009年8月26日)

パネリストからの報告では、熊谷毅・厚生労働省高齢・障害者雇用対策部長が、政府が実施している高齢者雇用対策について紹介した後、長谷川裕子・前・日本労働組合総連合会総合労働局長が、連合の高齢者雇用についての考え方を、また、遠藤和夫・日本経済団体連合会労働政策本部主幹が経営側の立場から高齢者雇用の取り組みの現状を報告。そのうえで、ディスカッションでは就業から60歳まで、60歳前半、65歳以降の雇用のあり方を中心に、行政、経営者、労働者の観点から議論を行った。

パネリストからの報告/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

出席者

熊谷 毅
厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部長
長谷川 裕子
前・日本労働組合総連合会 総合労働局長
遠藤 和夫
日本経済団体連合会 労働政策本部主幹

コーディネーター

清家 篤
慶應義塾長

高齢者雇用対策

厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部長 熊谷 毅

労働力人口の見通し

パネリストからの報告:厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部長 熊谷 毅/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

熊谷 毅

私からは高年齢者をめぐる実態、現状、それから政府の進めている雇用対策について説明させていただく。日本では他の国で類を見ないほど急速に少子高齢化が進んでいる。これに伴って、労働力人口も高齢化している。推計では、現在働いている方々の性・年齢別の働き方が現状のまま推移した場合、2017年には約440万人減少して、6,217万人になる。さらに2030年には約1,070万人減少して、5,584万人になる見込みだ。

しかし、条件さえ整えば、働くことを希望される方や社会で活躍できる方はたくさんいる。推計では、若者への就業支援を行うことにより、2017年には約90万人の労働力人口が増加する。主に女性を対象に、仕事と家庭の両立支援を行うことで約160万人増加が見込める。さらに三本目の柱として、高年齢者の方々が活躍しやすい環境をつくることによって約90万人増が期待できる。これら三本の対策により、若者、女性、高年齢者の労働市場への参加が進めば、2017年には合わせて340万人ほど働く方が増えて、全体としては現在と大きく変わらない100万人減、6,500万人台の労働力供給が確保できるのではないかと思っている。さらに2030年についてもいろいろな対策を講じることで600万人ほど労働力人口を増やせるだろう。

年齢階級別の就業率の推移

次に図1を見ていただきたい。これは2003年以降の年齢階級別の就業率の推移を表したものだ。直近の2008年の就業率、つまり、仕事をしている方の割合だが、年齢計で57.8%ある。「60歳~64歳」層は57.2%なので、この数字にかなり近づいていることがご理解いただけると思う。60代前半の方々について、この数字は1980年代後半には、全体と比べて10ポイント程度就業率が低かったが、これが同じになるところまで近づいてきている。男性のところだけみると2007年時点は70.8%で、すでに総数の70.3%を上回っている。ひょっとすると、近いうちに男女計でも総数に追いつく、あるいは上回るかもしれないところまで進んでいる状況だ。

図1 年齢階級別・男女計就業率推移

パネリストからの報告:(熊谷 毅)図1 年齢階級別・男女計就業率推移/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

2006年から2007年にかけて、「60歳~64歳」層の就業率が3ポイント近くも増えている。これは2004年に行われた高年齢者雇用安定法の改正で、公的年金の支給開始年齢の引き上げに合わせて、2006年から雇用確保措置の仕組みが導入された影響が大きいのではないかと思われる。今後も年金の支給開始年齢、継続雇用確保措置の上限年齢がさらに引き上げられることから、就業率はさらに増加していくことが予想される。厚生労働省としてはそのための環境整備を一生懸命進めていかなければと考えている。

高年齢者雇用対策の体系

図2は政府で行っている高年齢者雇用対策の体系を示したもので大きく三つの柱からなっている。一本目の柱として、高年齢者の方が長年にわたって培った経験、知識あるいは技能をなるべく同じ企業の中で活かしていただくために、「60歳代の雇用確保」を掲げている。目標としては2010年度末までに希望者全員が65歳まで働ける企業等の割合を50%まで高める予定だ。そのための具体的な取り組みとして、65歳までの段階的な定年引き上げ、継続雇用制度の導入などを企業にお願いしているところだ。さらには、2012年になると団塊の世代も65歳に到達するが、そういう方々が働くことを希望する場合には何らかのかたちで働けるよう「70歳まで働ける企業」の普及促進にも努めている。

図2 高年齢者雇用対策施策体系

パネリストからの報告:(熊谷 毅)図2 高年齢者雇用対策施策体系/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

二本目の柱は「中高年齢者の再就職促進」だ。培った経験、技能を活かすためには同一企業で働き続けるのが一番いいのではないかと思っているが、中には労働市場に出ることを余儀なくされる方もいるだろうし、これまでと違った仕事をしたいという方もいるだろう。これまで、わが国の場合、いったん企業の外に出ると再就職が難しいことから、平成19年10月から募集・採用における年齢制限を禁止した。従来はハローワークで受け付けている求人に年齢制限がかかり、高年齢者については全体の半分、あるいは3分の1くらいの仕事しかなかった。しかし、年齢制限の禁止により、数字の上ではどの年代層もほぼ変わらなくなってきている。ただ、この点については実態を十分に把握したうえでさらにいろいろな対策を考えなければならない。

三本目の柱は「多様な就業・社会参加の促進」だ。60歳代以降、年齢が上がるにつれ、健康や体力などの点で個人差が大きくなると同時に就業ニーズも多様化してくる。そういった意味では、企業に勤務しながらフルタイムで働くという働き方だけでなく、いろいろなかたちでの就業の機会を確保することが望ましい。そのため、シルバー人材センター事業等を活用し、多様な就業機会の確保を推進しているところだ。

63歳までの雇用確保措置は9割超

現在、公的年金の定額部分の支給開始年齢は63歳となっており、そこまでの雇用確保措置を義務付けている。51人以上の全企業の中で同措置を実施済みの企業の割合は96.2%となっている。中小企業についても95%を超えており、かなりの定着が見られる。また、上限年齢も平成25年4月1日までに段階的に引き上げられるが、各企業の取り組みの実態として、すでに8割の企業で65歳以上の雇用確保措置を導入している状況だ。雇用確保措置の内容をみると、継続雇用制度の導入が85.4%と大半を占めている。一方、定年年齢の引き上げ措置を講じた企業は12.5%にとどまっている。

最後に一点、昨年秋以降の景気後退に伴う雇用情勢の悪化が高年齢者雇用にどのような影響を与えるかについてお話したい。雇用情勢が悪化すると真っ先に影響を受けるのは高年齢者である可能性が高いため、都道府県労働局では全国各地のハローワークを通じて情報収集を行っている。しかし、今年4月から6月の状況を見るかぎり、全体として高齢者に対するしわよせは見られないようだ。新規求職者は増加しているが、他の年齢層に比べ増加の度合いはやや緩やかだ。就職率も全体的に下がっているがその中で60歳から64歳層の減少幅はやや小さい。そのような中で、先ほどご説明した就業率も60歳から64歳層は横ばいないし、微減という状況だ。5月、6月の原数値だけ見ると年齢全体の就業率をやや上回っている。

高年齢者雇用確保措置の実施状況もいくつかの企業あるいは労働者の方から、措置の対象となる方の雇い止めをしたい、あるいは契約更新をしないといった相談がいくつか寄せられている。だが、全体としては制度の凍結や年齢の引き下げといった厳しい対応はほとんど見られない。先ほど申し上げたような内容の相談についてもまだ大きく広がっているという状況には至っていない。したがって、足元の高年齢者雇用の状況だけを見ると、当初私どもが心配していたようなことはなく、高年齢者雇用についてそれぞれの企業でしっかり取り組んでいただいている状況ではないかと考えている。

高齢者雇用についての考え方

前・日本労働組合総連合会 総合労働局長 長谷川 裕子

パネリストからの報告:前・日本労働組合総連合会 総合労働局長 長谷川 裕子/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

長谷川 裕子

私からは高年齢者雇用について、連合の考え方を報告したい。2006年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、事業主には65歳までの雇用確保措置の導入が義務づけられた。

改正法が施行され、3年が経過した現在でも個別労使で高齢者雇用の取り組みを進めているが、私どもはそのなかでいろいろな問題や課題があると認識している。連合も高齢者雇用についてアンケート調査やヒアリングを行った。先ほどJILPTからもアンケート調査の結果が報告されているが、大体どの調査も同じような傾向が出るのではないか。

2013年に向け改めて検討が必要

2013年には厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢部分が引き上げられることが決まっており、これを契機に改めて高齢者雇用のあり方を検討する必要があるのではないかと考えている。今日の報告では、われわれ、労働組合の取り組み事例にふれながら、働く者の視点から高齢者雇用の実態と問題点を踏まえつつ、これからの方向性と課題を明らかにしていきたい。

連合では、現状の高年齢者雇用の問題点について、いくつかの単組にヒアリングを実施した。その結果浮かび上がった問題を製造業、非製造業に分けて、ご紹介する。

製造業では賃金水準が問題に

まず、製造業では、賃金について「定年前と同じ仕事をしていながら賃金水準が定年前の50%でいいのか。継続雇用を希望しない理由として、賃金減額が大きいと考えられる」という声が聞かれた。この意見は、厚生労働省との意見交換会の中で私が述べたこととまったく同じだ。賃金の減額は制度導入当初はさほど問題ではなかったが、改正法施行後3年が経過した現在、不満というかたちではっきりと表れてきた。また、「2013年から年金の報酬比例部分がなくなると50%水準のままでは支障が出てくるのではないか。この問題をどう考えるのか」という意見も出された。

ある製造業の企業では組織再編がひんぱんに行われた結果、従業員のほとんどがホワイトカラー系の労働者となった。企業側はそのほとんどを代替可能な要員と考えており、そんな中で「高齢者を積極的に雇用したいと思っているかは疑問だ」というシビアな意見もあった。他には「働き方や職務に応じて賃金水準が設定されているが、適切に職務が与えられているのか運用面を注視していく必要がある」という意見もあり、賃金に対しては各組合ともいろいろな問題意識を持っていることが明らかになった。

労働時間については、製造業から隔日勤務や短時間勤務の導入を望む声はあるが、会社との協議が整っていないという意見が出された。また、生産計画に基づいて要員管理を行っているので、ハーフタイム勤務などの希望に対応すると管理が複雑になる、という問題はほとんどの製造業の現場から指摘されている。

仕事の内容に関する意見では、人手が不足しがちな現場では、何も知らない新人が入ってくるよりは、仕事内容や職場環境を熟知している高齢者のほうが安心感があるという声が聞かれた。しかし、「雑務のフォローなど現役世代の仕事を補完するような業務が多く、第一線の現場で働くような機会は限定されている。継続雇用をする際、なるべく、これまでの経験を活かして、同じ職場で働いてもらえるよう努めているが、それにも限界があるのではないか」という意見もあった。今後、定年到達者が増えるなかで、希望者全員の働く場をどう確保していくかは大きな課題だ。

現場作業の場合、作業環境が体力的に厳しいこともあり、働きたくても再雇用を希望しない人もいる。企業側も労使交渉を経て、高齢者に優しい作業環境整備への取り組みを進めているが、今後定年退職者が増えるなか、そのスピードアップが課題となっている。

働き方は現役世代との調整も必要

また、定年を迎える当事者だけでなく、高齢者を受け入れる側も含めて職場全体の問題ととらえて対応する必要がある。高齢者がどんなかたちで仕事や職場での働き方を受け止めているかという点について、現役世代との間で調整が必要ではないか。これは個人的な意見だが、たとえば60歳でやめると思っていた人があと3年も職場にいるとなったとき、若手がそれをどのように受け止めるのか、また、そこで現役世代と高齢者との間の関係をどのようにつくっていくのかということも考えていく必要がある。

継続雇用の対象者の選定は、本来、基準を設けずに希望者全員を対象とする制度が望ましいが、そのことについて労使間で協議が整っていないのが現状だ。実態として、職場に過半数組合があるときは過半数組合、過半数組合がないときは労働者の過半数を代表する者との協議を経て、基準を決めることになっている。これは結局は何らかの選定基準を設けることになり、ふるいにかけられる人もでてくる。

サービス業では柔軟な制度設計に

次に非製造業の職場からのヒアリング結果を報告する。こちらは製造業とは若干異なる様相を呈している。C労組では一気に65歳まで定年を延長したが、それに伴うコストをどうやって捻出するか労使で非常に苦労したそうだ。保養所を廃止したり、福利厚生費や家族手当などすべてのコストを見直すことで対応したということだ。今後、65歳までの雇用確保を考える際、この労働組合の取り組みは参考になるのではないか。

D労組では、賃金について、たとえばフルタイムの場合、月額30万円といったように一律の水準となっている。組合では大卒初任給の基準内賃金を下回らないことを基本に要求してきたが、今後、賃金水準をどのように設定するかが今後の課題ということだ。

労働時間については、サービス業ではフルタイム労働者やパートタイマー、再雇用者などが混在しており、勤務シフトの組み方で苦労しているという報告がある。また、D労組では再雇用者も原則、フルタイムで働いているが、短日勤務の要望もあったことから、面談を行ったうえで、これを認めることを労使協定に盛り込んだ。サービス業の場合、製造業よりも比較的柔軟な制度設計ができるようだ。

D労組によれば、再雇用者は店舗での接客業務を中心に担当することになるが、これまでの経験やスキルを比較的活かしやすいため、いきいきと働いている人が多いそうだ。また、C労組からも顧客に対するサービスや商品知識など、これまでのキャリアを通じて蓄積されたものを活かすことができるため、これまでのキャリアの長さがプラスになるといった意見があった。

再雇用対象者については、組合側は基準を設けず希望者全員を再雇用することを要求してきたが、実際はなんらかの基準を設けるかたちで労使協定を締結している。

以上、見てきたとおり、製造業と非製造業では、抱えている課題が若干違っていることがおわかりいただけたのではないだろうか。

必要な早期の制度策定

労働者の立場で問題点を整理させていただく。高年齢者の雇用を確保する方法として、継続雇用、定年延長、年齢の上限を設けないエージレスといった方法が考えられる。継続雇用の場合、賃金体系や退職金制度の見直しは意外に小さく済む。一方、定年延長を行うと、おそらく賃金体系の見直しは必ず必要になってくる。だが、エージレスほどではないだろう。エージレスを取り入れた場合、これらは大きく見直す必要があるのではないか。労働組合としては、賃金体系は見直したくないというのが正直なところだろう。企業側にとっては、人件費増額の問題は、見直し方によっていろいろなケースがありうるのではないかと思っている。いずれにせよ、制度策定を早期に進めることが必要ではないかと考えている。

職場環境の改善や健康管理の促進については、先ほどご紹介したように製造業で強く要望があがっている。

要員管理の煩雑さの問題では、非正規労働者の雇用の拡大に伴い、人員配置の見直しの検討が必要だ。定年延長をしたときにはその後の働き方の検討をしなければならない。今まで申し上げてきたように働き方の検討や賃金、退職金の見直しはどうしても議論の俎上に載ってくるので、これに対して労働組合がどのような対応をしていくかは今後の大きな課題になるのではないかと思っている。

継続雇用の場合、現状では選別基準が設けられており、この問題は解決しなければならない。エージレス雇用を行っている場合は、よく言われているように解雇の問題が浮上してくるため、労働組合としてこれに対応していく必要がある。また、エージレスの場合、年金制度における繰り上げ支給の減額問題などに対応した制度の見直しも必要ではないだろうか。

2013年には厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられるが、それまでに職場環境の問題をどのように改善していくかが労使の取り組みの中で求められている。また、問題点に対する方向性を打ち出し、労使としてどのように向き合っていくかが今後の課題ではないかと思う。

高年齢者雇用の取り組みの現状

日本経済団体連合会 労働政策本部主幹 遠藤 和夫

高年齢者雇用確保措置の状況

パネリストからの報告:日本経済団体連合会 労働政策本部主幹 遠藤 和夫/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

遠藤 和夫

私からは会員企業向けに行ったアンケートの調査結果(「高齢者雇用の促進に向けた取組みと今後の課題」2008年11月)を報告させていただきたい。また、後半ではヒアリングの内容についてもふれてみたい。その中で、高齢者雇用が抱えている諸課題をご来場の皆様方と考えていきたいと思う。

図1 改正高年齢者雇用安定法への対応

(遠藤和夫)図1 改正高年齢者雇用安定法への対応/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図1は高年齢者雇用確保措置の実施状況である。他の報告者の調査結果と比べて、私どもの調査では数字が高くなっており、実に98.4%の企業が継続雇用制度の導入により高齢者の雇用確保を行っていることが明らかとなっている。一方で定年の引き上げ、あるいは定年の廃止による対応は双方を合わせても1.4%にとどまっている。

継続雇用制度による対応を企業が選択する理由を聞いた結果が図2である。いったん定年により退職することになるため、「個別の事情に応じて仕事を提供し、労働条件の決定ができる」という回答が約7割(69.6%)、また、「定年以降の継続勤務を希望しない従業員の意思を尊重できる」という回答についても56.5%と過半数を占めている。

図2 継続雇用制度の導入を選択した理由(複数回答)

(遠藤和夫)図2 継続雇用制度の導入を選択した理由(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

継続雇用制度の具体的内容

図3 継続雇用制度の上限年齢

(遠藤和夫)図3 継続雇用制度の上限年齢/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図3は継続雇用制度の上限年齢を聞いた結果である。雇用確保措置の上限年齢を65歳にしている企業はすでに約7割(68.2%)に達しているが、まだ段階的に対応している企業が相当数あることも十分認識しておく必要がある。次に、継続雇用制度適用後の具体的な就業形態を聞いた結果が図4である。先ほどお話があったように労働者側からは柔軟な就業形態を望む声があがっている。しかし、例えばライン作業などを考慮すると、なかなか要望に応えられないという事情もあり、81.7%の企業で「定年前と同じ勤務日数、勤務時間」と答えている。

図4 継続雇用制度適用後の就業形態(複数回答)

(遠藤和夫)図4 継続雇用制度適用後の就業形態(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告


図5 継続雇用制度を希望した者の割合

(遠藤和夫)図5 継続雇用制度を希望した者の割合/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

各企業において継続雇用制度を希望した者の割合を聞いたところ、「90%以上」と答えた企業の割合は22.6%にとどまっている(図5)。 この結果は、60歳以降の柔軟な働き方が必ずしもできないことが影響しているともいえるが、定年到達後、継続して働くことを希望しないで多様なライフスタイルを求める労働者像についてもうかがいしることができるといえるのではないか。

再雇用における対象者の選定基準については「希望者全員」と回答した企業が15.6%であるのに対し、一定の基準を設けている企業は84.2%と大多数を占めている(図6)。基準としては、健康状態や勤務成績などを考慮している企業が多いと聞いている。ただ一方で、ヒアリングによりわかったことであるが、「一定の基準は設けているが、希望すれば全員が継続雇用されている」という実態が少なからずあることも補足しておきたい。

図6 継続雇用制度の対象者

(遠藤和夫)図6 継続雇用制度の対象者/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

再雇用時の処遇水準

再雇用時の賃金設定についても聞いている。処遇決定に際して配慮した点としては、「継続雇用制度適用後の職務内容・仕事量」が63.7%、「60歳までの賃金水準」が41.6%となっている(図7)。賃金の設定については、大きな課題を抱えていると認識している。実際のところ、図8のとおり、在職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金両方の受給を前提として賃金を設定している企業が48.3%あり、どちらか一方の受給を前提としている企業も相当数あるのが現状である。つまり、公的給付を考慮して処遇設計を行っている企業の割合は7割を超えていることになる。

図7 継続雇用制度の処遇決定時に配慮した点(複数回答)

(遠藤和夫)図7 継続雇用制度の処遇決定時に配慮した点(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図8 在職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金の受給について

(遠藤和夫)図8 在職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金の受給について/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

アンケート調査では、65歳までの雇用確保に向けてさらなる課題についても聞いている。継続雇用制度の適用前後における職務内容の変化の有無については「職務内容は同じだが仕事量と責任の負担を軽減した」とする回答が43.1%ともっとも多かった(図9)。高齢者も働く意欲・能力は当然あるのだが、若年者に比べると個人差が大きく、体力や健康状態も勘案すると、作業改善を図るなど、職務の再設計を行ったり、また、能力開発や安全衛生上の対応を行ったりすることも必要となっている。定年到達者の数そのものが増加していること、さらには定年到達者のニーズが多様化していく中で、今後、企業あるいは企業グループ内でどのように職域を拡げて職務を確保していくのかが大きな課題となっている。同時に、高齢者の方々が働き続ける中で組織全体の活性化を図りつつ、どのようにパフォーマンスを高めていくのかという点についても課題として指摘されている。

図9 継続雇用制度適用前後の職務内容(複数回答)

(遠藤和夫)図9 継続雇用制度適用前後の職務内容(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

65歳以降の雇用確保への課題

65歳以降の雇用確保についても聞いている。60歳定年制のあり方については、「維持すべき」という回答が76.1%を占めている(図10)。一方、「定年年齢を引き上げるべきだ」とする回答は20.8%となっており、その内訳をみると、引き上げるべき定年年齢は65歳と答えた企業が88.4%となっている。

図10 60歳定年についてどう考えるか

(遠藤和夫)図10 60歳定年についてどう考えるか/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

65歳以降の雇用確保への課題については、「健康面で支障がない限り、65歳以降も働く意欲・能力のあるものは積極的に雇用していきたい」と回答した企業が24.4%である。しかし、「法律などで義務づけるのではなく、各企業が実情に応じて可能な限り取り組んでいくべきである」と回答した企業がもっとも多くて42.3%を占めている(図11)。また、「高齢者は健康面や能力、意欲面での個人差が大きいため、積極的に取り組むには難しい面もある」という率直な回答を寄せた企業が30.2%もあった。

図11 65歳以降の雇用(70歳まで働ける企業)についての各社の考え(複数回答)

(遠藤和夫)図11 65歳以降の雇用(70歳まで働ける企業)についての各社の考え(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

ヒアリング調査に基づく課題

ヒアリング調査の結果も簡単にご紹介しておきたい。多くの企業で継続雇用制度を導入しているので、資料では、再雇用制度の場合の評価と課題について整理している。定年後も知識や経験を引き続き活用できることのメリットなどを評価する一方で、課題も指摘されている。職域の拡大やマッチングなど職務設計上の課題が多くあがっている。処遇面では「現行の公的給付の仕組みでは、報酬を増やしたとしても公的給付が減少してしまい、トータルの手取額はほとんど増えない。その中で個々の労働者のモチベーションをどう維持していくのか」という制度上の課題もある。他には、加齢とともに能力が低下することを踏まえた安全面への対応、組織そのものの活性化への対応、高齢者が引き続き雇用されることで人材の新陳代謝の遅れにつながることへの懸念などが指摘されている。また、「辞める時期が人によりまちまちで予想が難しいために、採用計画が立てにくい」、「事務系では退職者の職域を確保しなければならないので、新卒採用の抑制を行うなどの影響が予想される」といった声もあった。

高齢者雇用の施策は大変重要であると認識しているものの、高齢者以外の方々、とりわけ若年者雇用については、他の年齢層よりも失業率が高く、一向に改善がみられないといった問題も抱えている。企業としては、労務構成のバランスを考えながら、生産性を維持、向上させながら、競争力を確保することに取り組んでおり、そういった中で高齢者雇用を考えていきたい。