研究報告
継続雇用等をめぐる高齢者雇用の現状と課題:
第40回労働政策フォーラム

高齢者の本格的活用に向けて
(2009年8月26日)

JILPT統括研究員 藤井 宏一//労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

JILPT統括研究員  藤井 宏一

本日は「継続雇用等をめぐる高齢者雇用の現状と課題」をテーマに、調査結果の概要とそれに基づく分析結果を簡単にご紹介させていただく。労働政策研究・研修機構では2008年の8月から9月にかけて、「高齢者の雇用・採用に関する調査」というアンケート調査を実施した。全国の常用雇用50人以上の民営企業15,000社に配布して、そのうち3,867社から回答があった。結果的に中小企業、非製造業からの回答が多かった[注1]

まず、60歳到達後の正社員の雇用の確保について聞いた結果を見ていただきたい。定年年齢(もっとも多い年齢)をみると60歳としているところが最も多く、86.1%を占めている(図1)。

継続雇用制度についてみると大部分が65歳を上限年齢としているが、一方で上限年齢を定めていない企業も約2割あった。

図1 定年年齢(最も多い年齢)(定年のある企業:調査企業の94.8%)(n=3665)

研究報告:図1 定年年齢(最も多い年齢)(定年のある企業:調査企業の94.8%(n=3665))/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

対象者の選択で7割の企業が何らかの基準を設置

継続雇用の実態をもう少し詳しく見てみたい。継続雇用制度の対象者について聞いたところ、「希望者全員」としている企業が約3割、「希望者のうち、継続雇用制度対象者の基準に適合するもの」は約7割という結果となった(図2)。では、具体的にどのような基準で対象者を選んでいるかというと(複数回答)、「働く意思・意欲があること」(90.2%)、「健康上支障がないこと」(91.1%)といった条件をつけている企業が非常に多い。それ以外には出勤率や勤務態度、会社が提示する職務内容に合意できること、一定の業績評価があることといったものを基準にしている企業が多く見られる(図3)。

図2 継続雇用制度の対象者(継続雇用制度のある企業)(n=3506)

図2 継続雇用制度の対象者(継続雇用制度のある企業(n=3506))/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図3 継続雇用制度の対象者の基準(複数回答)
(対象者について基準に適合する者とする企業)(n=2460)

図3 継続雇用制度の対象者の基準(複数回答) (対象者について基準に適合する者とする企業)(n=2460)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

次に継続雇用時の就業形態を見ると「嘱託・契約社員」がもっとも多く、次いで「正社員」、「パート・アルバイト」の順になっている(図4)。継続雇用制度が普及していくなかで、実際どのくらいの人が制度の活用を希望しているかを聞いたところ、全員希望している企業は4分の1程度。9割以上が希望している企業は2割弱ある。一方でまだ定年到達者がいない企業も16.3%あった。

図4 継続雇用時の雇用・就業形態(継続雇用制度のある企業)(n=3506)

研究報告:図4 継続雇用時の雇用・就業形態(継続雇用制度のある企業)(n=3506)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

継続雇用の希望を出した正社員のうち、実際に雇用される人の割合を聞いたところ、「全員」と答えた企業が45.8%、「90%~100%未満」が16.7%となった。この設問でも「定年到達者がいない」と答えた企業が16%あった。

60歳到達前社員を対象とした制度実施はわずか

継続雇用の関係で、60歳到達前にどのような制度を用意しているか聞いた。60歳到達前の正社員を対象に60歳以降の働き方や生活設計に関するセミナーを行っている企業は14.4%だった。60歳以降の雇用を円滑に進めるための研修制度を実施しているのはわずか4.8%でほとんどの企業で行われていないのが実態だ。60歳到達前の正社員の転籍制度を導入している企業も1.6%と非常に少ない。

図5 昨年60歳を迎えた正社員のうち
60歳以降も引き続き雇用された割合(n=3867)

研究報告:図5 昨年60歳を迎えた正社員のうち60歳以降も引き続き雇用された割合(n=3867)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

50歳以上の正社員を対象とした取り組みの実施の有無について聞いた。常設の早期退職優遇制度を実施しているのは4.7%だが、転職支援や独立開業支援の取り組みを行っている企業は1%にも満たない状況だった。セミナーや説明会を開催している場合、その内容を聞いたところ(複数回答)、「雇用形態」(79.9%)、「雇用契約期間」(76.7%)、「賃金水準に関するもの」(80.3%)を中心に行っている。また、雇用を円滑に進めるための研修制度を実施している企業にその目的を聞いたところ(複数回答)、「継続して雇用された際の基本的な心構えに関するもの」が8割ぐらいで、仕事の変更やスキルに関するものはあまりなかった。

60歳を迎えた正社員のうち、60歳以降も引き続き雇用された人の割合を聞いたのが図5だ。「全員」と答えた企業は34.0%だった。9割以上を雇用したと答えたのが13.2%。ここでもまだ定年到達者がいないという企業が25.7%あった。60歳を迎えた社員を引き続き雇用する割合を3年前と比較したところ、「増加した」と答えた企業は3分の1程度で6割は「変わらない」と答えている。

60歳を迎えた正社員を引き続き雇用する割合を3年前より増やした会社にその理由を尋ねると答えは大きく二つに分かれる。一つは継続雇用を希望する人が増えたため、もう一つが高年齢者雇用安定法の改正に対応したためだ。

60歳以降の雇用の状況をみたが、そもそも60歳までの雇用がどの程度保障されているかをみるため、10年前に50歳を迎えた正社員のうち、60歳まで勤務している人の割合を聞いた結果が図6だ。「100%」と回答した企業は28.2%、「90%~100%未満」は23.3%となっている。合わせると半数の企業で9割以上の雇用が確保されたことになる。

図6 10年前に50歳を迎えた正社員のうち60歳まで勤続している割合(n=3867)

研究報告:図6 10年前に50歳を迎えた正社員のうち60歳まで勤続している割合(n=3867)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

60代前半の継続雇用者の大半がフルタイム

60代前半の継続雇用者の就業状況や処遇についても調べた。まず、勤務形態をみると、フルタイム勤務が非常に多く、7割を超えている(図7)。ただ、60歳代前半の継続雇用でも定年到達前のケースと定年到達後に継続雇用制度によって雇用されているケースとでは、後者のほうが「フルタイム勤務の4分の3程度」という回答の割合が増えている。

図7 60代前半の継続雇用者の週所定労働時間(n=3867)

研究報告:図7 60代前半の継続雇用者の週所定労働時間(n=3867)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図8 賃金水準決定の際に最も重視している点(n=3867)

研究報告:図8 賃金水準決定の際に最も重視している点(n=3867)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

なぜフルタイム以外の就業時間設定を行っていないのか理由を尋ねたところ(複数回答)、もっとも多い回答が「高齢者の積極的活用の趣旨からフルタイムが一番ふさわしいと考えるから」で5割を超えた。他には4割弱の企業が「業務の遂行が難しくなるから」と回答している。実際、60代前半の継続雇用者の勤務形態という切り口でみると、「正社員でフルタイム勤務」、「正社員以外でフルタイム勤務」と回答した企業が多い。

60代前半の継続雇用者の賃金水準決定の際にもっとも重視している点をきいたところ、「業界他社の状況」や「担当する職務の市場賃金・相場」、「60歳到達時の賃金水準」で決めている企業が多いことがわかった。定年到達前の従業員の場合は、「業界他社の水準」や「担当する職務の市場賃金・相場」で決めているところが多いが、定年後、継続雇用制度により雇用されている従業員の場合は「60歳到達時の賃金」を重視する傾向があるほか、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付の受給状況も考慮して決められている(図8)。

継続雇用制度のフルタイム従業員の賃金水準は75%未満が多い

もっとも多い60代前半、フルタイム勤務の継続雇用者について、60歳直前の賃金水準を100とした場合、61歳になったときにどの程度賃金の変動があったかを最高水準、平均給与水準、最低水準についてそれぞれ聞いた。定年到達前の従業員の場合、61歳になっても「100%」、あるいは「75%から100%未満」の水準を維持している企業が比較的多いが、平均的水準や最低水準では「50%から75%未満」も割と多くみられる(図9)。これに対し、定年到達後、継続雇用制度により雇用されている従業員の場合は、「50%から75%未満」がもっとも多く、最低水準などでは「50%未満」と回答した企業も若干ある(図10)。

図9 60代前半フルタイム継続雇用者の
61歳時点の賃金水準
(60歳直前時点=100)

研究報告:図9 60代前半フルタイム継続雇用者の61歳時点の賃金水準(60歳直前時点=100)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

図10 60代前半フルタイム継続雇用
定年到達前従業員の61歳時点の賃金水準
(60歳直前時点=100)

研究報告:図10 60代前半フルタイム継続雇用定年到達前従業員の61歳時点の賃金水準(60歳直前時点=100)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

60代前半のフルタイム継続雇用者の平均的な年収は400万円代前半程度で、その内訳をみると賃金・賞与が8割くらい、他には在職老齢年金や高年齢雇用継続給付がおのおの1割弱というところだ。

60代前半の継続雇用者の配置について、勤務場所は、「60歳ごろと同じ事業所で、同じ部署」、仕事内容も「通常、60歳ごろの仕事内容を継続」という回答した企業がそれぞれ8割前後を占めている。60代前半の継続雇用者を配置する際にどのような点に配慮しているか聞いたところ(複数回答)、「慣れている仕事に継続して配置すること」(74.1%)、「本人の希望」(53.0%)という回答が多かった。

60代前半の継続雇用者を対象に研修を実施しているか聞いたが、9割の企業は「実施していない」と回答し、「実施している」ところはわずか2.8%に過ぎなかった。この2.8%の企業に対し、研修の内容を聞いたところ、「技能や知識の陳腐化を防ぐため」という理由がもっとも多かった。

仕事の確保や処遇の決定が課題に

60代後半を含めて高齢者雇用の課題と今後の取り組みについても聞いた。まず、高齢者雇用の確保のための課題について聞いたところ(複数回答)、「高齢社員の担当する仕事を自社内に確保するのが難しい」(27.2%)、「管理職社員の扱いが難しい」(25.4%)、「定年後も雇用し続けている従業員の処遇の決定が難しい」(20.8%)という回答が多いが、一方で、「特に課題はない」とする企業も3割ほど見られた(図11)。

図11 高齢者雇用確保の課題(複数回答)(n=3867)

研究報告:図11 高齢者雇用確保の課題(複数回答)(n=3867)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

在職老齢年金や高年齢雇用継続給付といった公的給付の受給者の有無を聞いた設問では、半数の企業で「いる」と答えた。こうした公的給付の支給額が変更された場合の対応について聞いたところ、特段「賃金は変更しない」と答えた企業が半数だった。一方で「わからない」との回答も3分の1程度もあり、こういった問題について十分に検討されていない実情がうかがわれる。

65歳より先の雇用確保措置については6割が「未検討」

65歳より先の雇用確保措置の実施・検討状況についても聞いた(図12)。「すでに実施している」という企業が4分の1程度、「実施していないが、検討している」企業が1割程度だ。6割の企業は実施も検討もしていない状況にある。現在、検討中の企業にどういうかたちで対応するか聞いたところ(複数回答)、一番多かった回答が「企業の実情に応じて働くことができる何らかの仕組み」(49.6%)で、次いで「継続雇用制度の上限年齢の引き上げ」(21.0%)だった。すでに実施している企業や検討している企業を対象に65歳より先の雇用確保措置が必要な理由を聞いたところ、「会社にとって戦力となる高齢者を積極的に活用する必要があるから」「高齢者でも十分に働くことができるから」といった回答が多かった。逆に言うと有能な高齢者がいるので、すでに戦力として活用しているということが言えるのではないか。

図12 65歳より先の雇用確保措置が必要だと考える理由(複数回答)

研究報告:図12 65歳より先の雇用確保措置が必要だと考える理由(複数回答)/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

65歳より先の雇用確保を実施するにあたり、今後必要な取り組みあるいはすでに実施している取り組みを聞いたところ、「継続雇用者の処遇改訂」「新たな勤務シフトの導入」が多かったが、すでに実施している企業には「必要な取り組みはない」と答えた企業が31.8%あった(図13)。

図13 65歳より先の雇用確保措置を実施する場合に必要になると思われる取組み、
あるいはすでに実施している取組み

研究報告:図13 65歳より先の雇用確保措置を実施する場合に必要になると思われる取組み、あるいはすでに実施している取組み/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

65歳より先の雇用確保措置を検討していない企業にその理由を尋ねたところ、「65歳までの対応で精一杯であり、65歳より先の雇用は差し迫った課題でないと考えるから」という回答がもっとも多く48.5%だった。他には「個々の従業員の体力や能力に差があり一律雇用・処遇するのは難しいから」(38.9%)、「65歳以降の労働者は健康・体力面での不安が増すから」(30.5%)といった回答も目立った。

最後にこのアンケート調査結果の分析結果をいくつかご紹介させていただきたい。定年年齢や継続雇用の上限年齢を延長している企業は、年功的処遇を弱める方向で賃金制度の改定に取り組んでいる企業が多い。ただ、高齢者の生活面やモラール面を考慮せずに、賃金カーブを下げすぎるとマイナスの影響が出てくる可能性があるので、制度設計は注意深く行う必要があるだろう。

60歳到達前に働き方や生活に関するセミナーなどを行っている会社では60歳以上比率が高い。そういう意味では60歳以前からの働き方をきちんと考えている企業はそれなりに効果を出しているのではないだろうか。

65歳より先の雇用確保を行っている企業は、定年や継続雇用制度よりもむしろ、企業の実情に応じて柔軟に対応しているケースが多いということがうかがわれた。

〔注〕

1.回答企業には50人未満の企業も含まれている。その理由として調査会社で企業情報データベースが対象企業を選定後、該当企業で従業員数の減少等が生じたことが考えられる。