問題提起1:自立困難な若者の研究動向
若者問題への接近 ~誰が自立の困難に直面しているのか~
第39回労働政策フォーラム (2009年6月6日)

問題提起(1) 自立困難な若者の研究動向

太郎丸 博 京都大学大学院文学研究科准教授

私の専門は社会階層論です。世の中には、いろいろな仕事を持った方がおられるわけですが、私はそういう方々の職業間の不平等を中心に研究しており、最近は特に若者で非正規雇用に就いている人たちを中心に研究してきました。今日はまず、自分が研究してきたことの周辺を中心に、基礎的な事実についてお話しさせていただきたいと思っています。

今日のテーマは、自立が困難だということです。「自立」という言葉で私が思い出すのは、学生時代、脳性麻痺の障害者の自立支援運動にボランティアで関わっていたことです。かなり重度の障害を持っておられる方、車いすじゃないと活動できなくて言語障害もひどいのでコミュニケーションもなかなか大変だ、というような人たちと学生時代はずっと関わっていました。そんな彼らが「自立する」というときは、健常者と同様に働き、同じようにお金を稼ぐといった意味ではありません。例えば、自己決定ができるようになることが大事だとか、もっと拡大解釈した意味で「自立」を考えていた記憶があります。

ただし、意味が拡散してしまうとコミュニケーションがうまくいかないので、今日の私の話は、経済的な自立の問題に限定したいと思います。自己決定ができるためにも、ある程度、経済的な基盤が必要になります。本人が稼ぐのか、あるいは何らかの給付が得られるのかという問題はありますが、いずれにしても経済面を中心に「自立」を考えていきたいと思っています。

自立困難の3タイプとは

「自立が困難だ」という場合、大雑把に考えて3つのタイプが考えられます。1つは、心身に病気や障害があって自立が困難である場合。2つ目に、引きこもりとか社会に馴染めないケース。この人たちは「病気ではないか?」と言われる場合もありますし、そうではないと言われる場合もあります。いずれにせよグレーゾーンですが、そういった人たちが最近、社会的に注目されています。3番目は、特に病気や障害があるわけではなく、本人に働く意欲もあるのだけど、能力や意欲を発揮する場が社会の中に十分にないタイプの人々です。1番目のタイプもかなり深刻な問題ではあるのですが、今日は2番目と3番目のタイプに限定してお話しします。

難しい女性の「自立」

この問題で難しいのは女性の「自立」です。いわゆる非正規雇用で働いている人の多くが女性ですが、こういう話題になると必ずといっていいほど、「女性は結婚すればいいじゃないか。専業主婦になるのだし」と言われます。「女性に経済的な自立なんて要らないでしょう」と言われることもあります。この問題はなかなか難しく、単一の回答はありませんが、一応、私は「女性にも経済的な自立は必要だ」という前提でお話しします。

その理由は、みんなが結婚するとは限らないからです。統計的に見ても独身女性の数はどんどん増えています。また、仮に結婚したとしても、夫が将来、安定した収入を得られるような世帯を形成できる保証はどんどん小さくなっています。さらに、経済的に不安定な地位の女性の方が結婚しにくいといった研究結果も幾つか出されています。つまり、パートやアルバイト、派遣社員などの雇用形態で働く女性は、正社員の女性に比べて結婚が遅れる傾向があることが複数の研究によって明らかにされています。

ただ、これは直感的には非常に不思議な気もします。単純に考えれば、非正規雇用で経済的に不安定な女性は、結婚したがるのではないか?と思うからです。今は腰かけ的な仕事をしているけれど、経済的に安定した男性と結婚して安定した生活を得ようとするはずだと短絡的に考えてしまうのですが、実際には必ずしもそうなっていません。

何でこういうことが起きるのかはまだよくわかっていません。大阪大学の学生に「何でこうなるのだろう?」と聞いてみたところ、「それは多分、経済的に安定した正社員の男性と非正社員の女性は、プライベートな空間で接する機会があまりないからではないですか」と言っていました。つまり、正社員の人は残業が多くて遅くまで働いているけれど、非正社員の人はそうでもないから、仕事場では関わっていても生活時間帯が結構違う、といった話です。もちろんこれは仮説に過ぎず、本当のところ、どういった理由なのかよくわかりません。それでも「結婚すればすべての問題が解決するということはどうもなさそうだ」というのが最近の私の考えです。

非正規雇用と若者の自立

雇用形態と自立の関係について、もう少し考えてみると、「非正規雇用だから自立できない」とか「正規雇用に就いたから自立できる」というほど単純ではないことがわかります。正規雇用でもかなり賃金が低い職場があれば、非正規雇用であっても将来のステップアップが約束されているような仕事もあります。最も極端なケースは、病院の研修医です。彼らは雇用期間が定まっていますが、将来お医者さんになることがわかっている人たち。雇用形態はどちらかといえば非正規雇用になりますが、「じゃあ、彼らは不安定なのか?」と言われると「そうでもない」となります。一方、正規雇用であっても、会社が傾けば失業してしまうので、非正規雇用が不安定で正規雇用が安定しているとは言い切れない。とはいえ、平均的に言えば、非正規雇用の方が低賃金で不安定で自立困難だということは間違いありません。

非正規雇用はブリッジかトラップか

こういう問題を考えるときには、移動率がポイントになります。仮に非正規雇用に就いても、ある程度、スキルを蓄積して能力を磨けば正規雇用に移動して安定した生活を送れるようになることが好ましいわけです。ただ、残念ながら、今のところそういう兆候は見られていません。

欧米の研究では、非正規雇用の問題を考えるときに「ブリッジ・オア・トラップ」という言葉をよく聞きます。

「ブリッジ」というのは、失業している人が働きたいと思うときに、非正規雇用の仕事がより安定した仕事へのかけ橋、ステップになるということ。「トラップ」とは、1回そこに落ち込んでしまったら抜け出られなくなってしまうようなわなのことです。つまり、ヨーロッパでは「非正規雇用はブリッジなのか、それともトラップなのか」という議論が盛んにされているのです。とはいえ、ヨーロッパでもまだそれほど研究成果が出ていないので、はっきりしたことは言えませんが、今のところはやはりトラップとしての側面の方がやや強いと言われています。

ただし、「ブリッジ」として機能するケースも確実にあります。例えば、引きこもっていた人がいきなりフルタイムで会社員になれるのかと考えた時、それは無理でしょうし、社会に慣れていくためには非正規雇用のワンステップが必要になるでしょう。これらの議論はヨーロッパの話であり、日本ではまだあまり研究がありません。

なぜ自立が問題になるのか

自立の話をすると気になるのが「どうして、自立しなければいけないのか」という疑問です。さきほど、女性の話をしましたが、「主婦は経済的に自立すべきか?」などと考え出すと、難しい問題がいろいろあります。それでも、少なくとも自立できるような力を持っておくことは大事だろうと思うのです。

また、若いうちは、親が援助してくれる場合もありますから、そういった人はまだ大丈夫なのでしょうが、そういった人たちだって年齢を重ねてくればだんだん援助してもらえなくなりますので、やはり問題があります。

よく言われることですが、社会保障上のリスクも抱えています。やはり働ける人には働いてもらい、年金や健康保険の保険料をちゃんと払ってもらわなくては困ります。

もう1つの問題は結婚です。したくない人はしなければいいのですが、問題はしたくてもできないということです。男性が中高年で独身でいると死亡リスクが高まるそうですが、いずれにせよ男女ともに経済的な自立は非常に重要なことだと思うのです。

自立できないのは自己責任か

「自立できないのは本人が悪いのではないか」という議論がよく出てきます。冒頭、宮本先生もおっしゃっていましたが、本人の意識の問題だと言われることもよくあります。ただし、社会科学系の論文はほぼすべて、社会の側の影響だという論調です。非正規雇用に就いている若者と、正規雇用に就いている若者で労働に関する意識を比較する研究もありますが、ほとんど違いが見出されていません。労働力の需要と供給のバランスに関する研究も幾つかありますが、概ね雇い主側の要因によって非正規雇用が増えているといった内容で、自己責任論には社会科学的な根拠はあまり存在していません。

こういった背景のなかでは、「社会の側がどう悪いのか」を考えなければいけません。まず、社会がどのように変化したから今のような状況が起きているのか。そして、国際比較をする際には、日本と例えばスウェーデンとかアメリカでは若者の置かれている状況が大分違いますが、そのときに福祉とか教育制度が若者の自立にどう影響するのかが関心の的になるわけです。

「ひきこもり」とは?

まず、世の中がどう変わってきたのかということから話したいと思います。いわゆる「ひきこもり」について紹介したいと思います。一般的に「ひきこもり」とは、若いうちに始まるようなケースを指します。50代、60代になって「ひきこもり」になる方もいるのですが、ここでの「ひきこもり」は若いうちに始まっているケースで、うつとか統合失調症などといった病気が原因ではないタイプです。もちろんうつや統合失調症が原因で家の中にひきこもる人もいますが、そういう人は外して考えています。なおかつ、家族以外とのコミュニケーションが極端に困難な人。これは、家族とのコミュニケーションも難しいのですが、家族とは関わらざるを得ないので関わっているという意味です。

すなわち、(1) 若いうちにはじまり、(2) 精神的な病が原因ではなく、(3) 家族以外とのコミュニケーションが極端に困難――な状況がかなり長期に渡り、続いているような人たちを「ひきこもり」と呼んでいます。不登校とか学校は卒業したけれど、その後、仕事もしていないし求職もしていない、いわゆるニートの一部も「ひきこもり」と考えられています。

「ひきこもり」の特徴は

「ひきこもり」に対しては、いろいろな社会的イメージがありますが、研究者の報告によると、結構家の外に出られる人も多いとされています。「それは、ひきこもりじゃないでしょう」と言われそうですが、外出できても他人と話ができるわけではありません。例えば、外に出かけて公園に行ってベンチにずっと座っている。つまり、家の中にいるのはしんどいから外に出かけるけど、友達と会って遊べるのかというと、それはできないのです。コンビニに行ってちょっと買い物をしたり、レンタルビデオ屋さんに行ってDVDを借りたりする程度であればできる人はかなりの割合でいますが、それを超えて誰かとパーソナルなコミュニケーションを取るとなるとしんどいという人が多いです。

「ひきこもり」は男性が8割とも6割とも言われます。彼らはひきこもっているので正確な数字はよくわからない。でも、恐らくは男性の方がかなり多いのではないかと言われています。結構、まじめな性格で、よく「インターネット中毒になってしまったような、いわゆるオタクが多いのではないか」というふうなことも言われますが、そういったことはないとも言われています。

一部の文化人や知識人で、「ひきこもり結構。どんどんひきこもりなさい」というようなことをおっしゃる方もいます。若い頃、自分の内にこもって研究している人もいて、それがプラスになるというのです。しかし、そのような生産的な活動をしている人は実際は少なく、ひきこもっている本人にとっては非常に苦しい状況だと言われています。

対抗文化の喪失が「ひきこもり」の社会的原因?

「ひきこもり」の社会的原因は何か。これもよくわからないのですが、一説では非常にまじめで社会に対する過剰な同調が原因になっているのではないか、という話が出されています。学校や勤め先の要求を十分に果たせないことが嫌で、そういう自分が許せないわけです。

また、私たちは、対抗文化が失われつつあることが原因の1つではないかと考えています。今も昔も、「いい学校に行き、いい会社に入って、幸せな家庭を築いてお金持ちになって…」ということがメイン・ストリームの価値観であることに変わりはないのですが、以前はそれとは違った人間の生き方がありました。「一般的・世俗的な価値観を追求するというのはだめだ」といった価値観が周辺的に存在していたのです。そういったものを「対抗文化」と呼んでいて、これが80年代から90年代にかけて急速に失われていったと思います。

私が学生時代は、まだ非行少年がいたり左翼の社会運動とか学校が教養主義であったりしました。私はちゃんと働けないから大学の先生になりましたが、教養主義とはそういうことです。人間性の完成というか知識や教養を磨いていくことが人生の目的であって、金儲けじゃないという対抗的な価値観に、私は大分救われていたという感覚があります。このような対抗文化の喪失が、メイン・ストリームの価値観への過剰な同調を生み、そのことが「ひきこもり」増加の背景となっているのではないか、ということです。ですが、これはまだ仮説の段階で、はっきりした根拠があるわけではありません。

図1 完全失業率(%)の推移

失業率と非正規雇用率の推移

次に、働く気があるけれども働けない人の話をします。日本の失業率は長期的に上昇していますが、これはOECDに加盟しているような先進国ではほぼ共通の特徴です。

図1は完全失業率の推移です。一番上の線は15~19歳。失業率は若ければ若いほど高い傾向にあり、若い人の方が振れ幅が大きくなります。

非正規雇用率の推移('85-'08)

図2は非正規雇用率の推移を男女別にみたものです。これをみると、非正規雇用は女性と男性で全然違います。失業率はかなり似ていますが、女性の方が結婚してパートタイマーなどの非正規雇用になる人が増えるため、年齢が上がるごとに非正規比率も上がります。逆に男性は若い人ほど非正規比率が高くなります。

このデータは、1985年から2008年までの推移ですが、大体右肩上がりのトレンドになっています。よく「景気が回復したら非正規雇用は減るのではないか」と言われますが、この図からそういう雰囲気は読み取れません。

景気循環の効果と構造変化の側面

こうした長期的な変化の中で我々が考えなければいけないことの1つは、景気の循環に応じて変化する側面があるということです。景気がよくなれば失業率は下がります。もう1つは、景気とは関係なく、社会の仕組みとか構造が大きな基本的なところで変化してきていて、そのために失業とか非正規雇用が増えている変化です。この2タイプの変化を、分けて考える必要があります。

景気循環の効果があることは昔からよく知られています。失業率は景気の指標のようなものだから、当然そうなるわけです。非正規雇用に関しては、普通は2003~07年ぐらいまでの日本の景気拡大期にも日本企業がやってきたように、景気がよくなって人手不足になったら、非正規雇用を増やして対応し、景気が悪くなったらその人たちを切るということです。

もう1つ、構造的な変化の側面があります。日本では、1980年代半ばぐらいまでは、工業関係の企業で働いている人の数が増え続けていました。この動きは、80年代半ばぐらいで頭打ちになり、今は生産現場で働く人の数はどんどん減りました。その代わり、いわゆる第3次産業に従事する人がどんどん増えています。こういう状態を「脱工業化」とか「サービス経済化」と言います。

「サービス経済化」すると接客業が増えるので、お客さんがたくさん来るときだけ働く人が必要になり、パート労働への需要が増えると言われています。また、国際競争が激しくなってコストダウンする必要も生じ、人件費の抑制が叫ばれることにもなります。90年代半ば以降の非正規雇用の増加の主因は、人件費抑制のために正規を非正規で代替したことだろうと言われています。

雇用保護と失業率の関係

社会制度の問題は非常に悩ましい。非正規雇用が解雇されやすいのであれば、首切りを規制したらいいと言われます。確かに雇用保護も大事ですが、それが強過ぎると雇い主は最初から雇うのを控える傾向が出てきます。雇った結果、期待したほど優秀ではなかったような場合に解雇しにくいからです。それなら、「新たに雇うのは控えて、いま働いている人に頑張って残業してもらおう」という考えになりやすいのです。

実際、雇用保護が強い国では、失業率が若干高目になる傾向があると言われています。職を得た人はある程度保護される。日本で言えば、正社員はある程度保護されますが、非正規雇用に就いていたり仕事を持っていない人たちにとっては、逆に職を得にくくなります。人の移動もあまり起きなくなる。こういう場合、どうやって雇い控えを減らしたらいいかが重要な政策課題になります。

人的資本のシグナルを強化する

そのための1つの方策として一般的に言われているのが、シグナルを強化することです。人的資本は、その人の能力とか生産性、エンプロイアビリティーなどいろいろな表現で言われていますが、実際にはよく見えないものです。働かせてみて初めてわかるような部分が結構多い。企業の人事や採用の担当者たちは、頑張ってそれを見抜くようにしていますがなかなか難しいのが現実です。

ならば、人的資本の強さ・大きさを示すシグナルがあればいいとなり、例えば学歴とか資格、これまでの仕事の実績といったものが参考にされているわけです。雇い控えを減らすためには、雇い主があらかじめ、「この人は優秀だ。雇っても大丈夫だ」とわかっていれば雇い控えする必要がなくなるので効果的です。このシグナルの精度を上げることが、雇い控えを減らすための1つの方法として考えられます。

教育制度と職場への移行

教育制度については、特にドイツの「デュアル・システム」が優秀だということがいろいろな研究で言われています。ドイツの職業高校あたりでは、週の半分は学校に行って勉強し、残りの半分は職場に行っていろいろな仕事をオン・ザ・ジョブトレーニングで習います。それが「デュアル・システム」と言われるものです。ドイツでは、この取り組みが比較的スムーズに行われていて、高く評価されています。

単純に考えれば、職業教育に力を入れて評価を標準化すれば移行がスムーズになるのかも知れません。ドイツでは、高校を卒業するときに全国統一の卒業試験のようなものが存在していて、それをパスしないと高校を卒業できません。一方、日本は各高校の判断で卒業させているので、高校を卒業したことの意味が人によってかなり違うわけです。

言い換えれば、学校の先生の温情で何とか卒業できた人と、非常に優秀な成績で卒業した人の区別が、日本ではややつきにくい。それに比べて、全国統一模試のようなものに合格していれば比較的安心という話です。とはいえ、ヨーロッパの制度を日本でそのまま導入しても、果たしてうまくいくか?という問題が残るので、この点についてはもっと検討が必要でしょう。

福祉レジームの3タイプ

少し前に福祉社会学で盛んに議論されていたことですが、社会が福祉をするときにいろいろなタイプの福祉の仕方があると言われています。それを「福祉レジーム」といい、欧米についての研究では3種類のタイプに分類されています。

1つは「自由主義レジーム」と言われるタイプで、アメリカやイギリスが典型的です。政府が福祉をするのは最低限に留めて、どうしても餓死しそうな人たちだけに仕方なくお金を出すという考え方です。そうでない人は、自前で健康保険や年金を買ってもらうようなタイプです。

2つ目は、「保守主義レジーム」です。これは、政府が比較的頑張って福祉をやるのですが、職種によってその保障の程度がかなり違うタイプです。日本もこのタイプによく似ています。例えば、年金をみても、国民年金があって厚生年金があっていろいろな共済組合があってと、年金システムが幾つかのタイプにわかれています。当然、お金があるところとないところが出てきて、その間の不平等が大きくなります。それから、「保守主義レジーム」は家族主義的なところがあり、家族の役割が総体的に強いとも言われています。

3つ目が北欧に代表される「社会民主主義レジーム」です。よくスウェーデンやオランダが例示されますが、こういった国々では、税金が高い分、非常に充実した福祉がなされていて、失業保険とかも充実しています。生活保護のように、「お金がなくてかわいそうだからあげる」ではなく、誰もがそういったことを感じずに給付が得られる仕組みです。

なお、福祉レジームは、南欧型と東アジア型を分けて論じることもあります。日本も南欧と凄くよく似ていて、家族の役割がものすごく大きいので、ほかの欧米とはかなり異なったタイプの福祉のあり方であるとよく言われています。

今後の課題

今後の研究課題として言われているのは、非正規雇用から正規雇用への移動をどうやって容易にしていくのかが、まず直近の課題としてあります。もう1つは「ひきこもり」の予防と対処。どうしたらいいのか、まだよくわかっていないことが多い問題です。3つ目は「フレキシキュリティ」で、これはフレックスとセキュリティーをくっつけた造語です。つまり、雇用は柔軟にして必要なところに人をどんどん配備したいのだけれど、同時にセキュリティーも必要だということです。この2つをどうやって両立させるのかが、大きな課題になってくると言われています。

プロフィール

たろうまる・ひろし/1995年大阪大学人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。93年~95年日本学術振興会・特別研究員。95年~97年大阪大学人間科学部助手。97年~2003年光華女子大学文学部講師、人間関係学部助教授。03年~09年大阪大学人間科学研究科准教授。09年4月より現職。日本学術会議特任連携会員。最近の著作に「社会階層論と若年非正規雇用」『講座社会学13階層』直井優・藤田英典編 所収(2008年、東京大学出版会)、『フリーターとニートの社会学』(2006年、世界思想社)などがある。