はじめに
宮本みち子 放送大学教養学部教授:第39回労働政策フォーラム

若者問題への接近~誰が自立の困難に直面しているのか~
(2009年6月6日)

6月6日(土)にJILPTと日本学術会議の共同フォーラムとして開催された労働政策フォーラムでは、就職支援や職業教育といった労働の側面だけでなく、福祉、貧困などの社会的な側面を含めた自立困難な若年者の実態、求められる包括的支援策などを議論した。

若者問題への接近

2000年代に入り、若年問題に関してはいろいろなところで多くの議論や動きがありました。そうした動きをふまえて、本日は労働政策研究・研修機構と日本学術会議の2団体が共催でフォーラムを開き、「困難を抱える若者は誰か」にフォーカスを当てて議論することになりました。

かつては学校、会社、家族という3つの機関によってスムーズに大人になることができるレールがあったものが、2000年代には、そのレールがほとんど機能しなくなっています。とりわけ、一群の若者たちが大変大きな困難に直面して、自立の課題を果たせない状態にあります。この若者たちに対する実態分析と社会政策、研究方法の角度から議論をしたいと思います。

二極化する社会への異なる対応

特に重要だと思っている点として、本日の報告者の一人である日本女子大学の岩田正美先生の言葉を借りて考えてみます。日本は二極化する社会になりつつあって、その二極化社会を岩田先生は砂時計に例えて表現されています。上下に2つのこぶがあり、中間層が細っていく二極化の姿、しかも上の砂がさらさらと下へ落ちていくような状態を「二極化する社会」と表現されているわけです。

二極化する社会に対する危惧の仕方は、国や社会によって違いがあると言われます。1つは、崩れていく中流に焦点を当てて、その脆弱性とか不安について議論しようとする流れ。もう1つは、下の方に落ちていわばバスに閉じ込められ、そこから出入りする動きがなくなっている現象を問題にする流れです。どちらに焦点を当てて議論するかによって政策の考え方が変わってくると言われます。欧米諸国の場合には蓄積される貧困に焦点を当てる傾向が強いのに対し、日本の場合は専ら中流の不安に焦点を当てることが多く、中流生活から脱落していく不安に親世代も当事者である子供世代も関心を寄せているとの整理がされています。これは若者の問題を議論するうえで、なかなか有効な整理の仕方だと感じており、それを引用させていただきました。

隠されやすい若者の問題

また、本日の議論で一番重要なのは、若者の困難とか貧困の問題は、それ以外のとりわけ大人や高齢者層と比べて隠されやすい性格を持っていることを確認する必要があるということです。90年代まではフリーターが急増しても、専らそれを若者の労働観の変化として捉えることが多く、ニート問題に至っては、豊かな社会の中の怠け者現象だという議論が広く行われました。

これは、最近まで根深くある認識です。大人になるレールがきちんとしていた時代の中流幻想が広く行き渡っているために、この中流幻想を前提に、仕事が豊かにあった時代の若者たちをモデルにして、今の若者の問題を議論するので、構造的な問題になかなか思い至らないのではないかと思います。

そこで、本日は「誰が困難にあるのか」を、単に景気変動といった流れではなく、もっと長期的な構造変化の中の問題だと捉えて、とりわけ貧困あるいは社会への帰属が危うい状態にある若者たち、これを近年EUが使っている用語である「社会から排除される人々」あるいは「社会から排除される若者たち」といった捉え方も用いながら若者問題の対象を明確にし、その解決のために一体どうしたらいいのかを議論していきたいと思っています。